<新訳・最終章 上条美琴の未来>
俺はインデックスとの誓いの下、美琴を救い出すために速やかに行動する。
携帯の電源が夢の中同様につかなかったため、俺は隣にいる土御門の部屋の携帯を借りることにしたのだが、
――やはりつながらなかった。
携帯の電源が夢の中同様につかなかったため、俺は隣にいる土御門の部屋の携帯を借りることにしたのだが、
――やはりつながらなかった。
「……お前、さては充電してねぇな!」
「そんなことはないぜよ?さっきまで舞花に朝のラブコールしてもらってたしにゃー」
「そんなことはないぜよ?さっきまで舞花に朝のラブコールしてもらってたしにゃー」
…どうやら神様は本気で俺のことが嫌いらしい。
取り敢えず土御門に携帯を返し、すぐさま美琴の元へ急行しようとしたが、
取り敢えず土御門に携帯を返し、すぐさま美琴の元へ急行しようとしたが、
「…待ちな、カミやん。これお前のだろ? そら、持っていけ」
「えっ…うわっとと!」
「えっ…うわっとと!」
土御門の言葉に振り向いた上条は、彼があるものを投げてきたので咄嗟に左手で受け取った。
「ん?……これって」
「見て分からないのか、カミやん。そいつ…指輪だろ?」
「見て分からないのか、カミやん。そいつ…指輪だろ?」
確かに指輪であったが、上条の記憶にはない代物だった。
どうやらこの指輪の送り主は部屋を一つ間違えていたらしく、土御門の方の新聞入れにそっと入れてあったらしい。
どうやらこの指輪の送り主は部屋を一つ間違えていたらしく、土御門の方の新聞入れにそっと入れてあったらしい。
「…どうして俺のだって言えるんだ?」
「その指輪な、ちっと古い友人に尋ねて持ち主を特定してもらったんだにゃー。誰だと思う?」
「…俺の知ってるヤツなのか?」
「その指輪な、ちっと古い友人に尋ねて持ち主を特定してもらったんだにゃー。誰だと思う?」
「…俺の知ってるヤツなのか?」
「レールガン。カミやんが今一番会いたい女の子のもんぜよ」
その言葉を聞いてハッと気付いた。
美琴は俺にある物を渡したいと言って、決戦前に俺をアイツの思い出の場所に呼んだのだ。
結局優柔不断の俺のせいで渡せなかったある物がこの指輪だとしたら…
美琴は俺にある物を渡したいと言って、決戦前に俺をアイツの思い出の場所に呼んだのだ。
結局優柔不断の俺のせいで渡せなかったある物がこの指輪だとしたら…
「って、何でお前がそのことを知ってんだー!」
「話は昨日から全部聞かせてもらったぜよ。
その前の晩まで『御坂、御坂!』って叫んでたからそんなに指輪もらえなかったのが悔しかったのかにゃーってな!
いやーそれにしても、ついにフラグ回収の時が来たんだな。
「話は昨日から全部聞かせてもらったぜよ。
その前の晩まで『御坂、御坂!』って叫んでたからそんなに指輪もらえなかったのが悔しかったのかにゃーってな!
いやーそれにしても、ついにフラグ回収の時が来たんだな。
……ほんとに行くのか?」
土御門もあの決戦の前後で大きく変わってしまった。
魔術を酷使しすぎた彼は、学園都市の普通の学生として生きる表(昼)の顔と、
統括理事長が消えたことで、実質影のトップに君臨している裏(夜)の顔を持つようになり、『必要悪の教会(ネセサリウス)』からは
実質脱退している。それでも、彼は親しい魔術師の頼みならばバックアップを上条に土下座で頼むぐらいの気概を見せる。
そんな重要なポストにいる土御門だからこそ、今の上条にはできる限り最上級の危険地帯に乗り込んで
ほしくないという気持ちが強くあったのだろう。
魔術を酷使しすぎた彼は、学園都市の普通の学生として生きる表(昼)の顔と、
統括理事長が消えたことで、実質影のトップに君臨している裏(夜)の顔を持つようになり、『必要悪の教会(ネセサリウス)』からは
実質脱退している。それでも、彼は親しい魔術師の頼みならばバックアップを上条に土下座で頼むぐらいの気概を見せる。
そんな重要なポストにいる土御門だからこそ、今の上条にはできる限り最上級の危険地帯に乗り込んで
ほしくないという気持ちが強くあったのだろう。
「ああ、俺をずっと待ってるんだアイツは。例え神が相手だろうが…関係ねえ!」
「…カミやん。それは馬鹿なヤツの常套句ぜよ。勇気と無謀は違う。
確かにアイツを倒したことはオレも信じられなかったが、今度は正真正銘の神なんだぜ?」
確かにアイツを倒したことはオレも信じられなかったが、今度は正真正銘の神なんだぜ?」
「お前までオレの行途を阻むつもりかよ、土御門!!!」
土御門の言葉に上条は断固として屈しない。
彼は昨日小萌先生から聞いた話において、統括理事会が容認するしかない立場にあるのは多分土御門の仕業だと思っていた。
闇の世界に些か触れざるを得なかった上条は、以前まで『幻想殺し』の能力を外部へと逃がさないようにするための特殊部隊まで
設けられていたことを知っている。
それほど希少価値の高い能力を持つ上条を手放すためには、裏で何か取引でもあったのだろうと思ったのだ。
彼は昨日小萌先生から聞いた話において、統括理事会が容認するしかない立場にあるのは多分土御門の仕業だと思っていた。
闇の世界に些か触れざるを得なかった上条は、以前まで『幻想殺し』の能力を外部へと逃がさないようにするための特殊部隊まで
設けられていたことを知っている。
それほど希少価値の高い能力を持つ上条を手放すためには、裏で何か取引でもあったのだろうと思ったのだ。
「…忘れたか?オレって実は、――嘘つきなんだぜ?
テメエと同じく、神様にはとことん嫌われてるらしいんだにゃー。
ま、要するにいつも通り、怒りを煽って躍起になってもらうためのオレの常套句ぜよ。
だからカミやん、絶対に死ぬなよ。もし死んでも…骨くらいは拾ってやるからな」
テメエと同じく、神様にはとことん嫌われてるらしいんだにゃー。
ま、要するにいつも通り、怒りを煽って躍起になってもらうためのオレの常套句ぜよ。
だからカミやん、絶対に死ぬなよ。もし死んでも…骨くらいは拾ってやるからな」
そう言った土御門の目は、サングラスを通してもはっきりと見える程に真剣そのものだった。
『背中刺す刃(Fallere825)』という魔法名を持つ彼も、それなりの過去を背負って生きてきたのだろうと上条は思い改める。
そして心の置ける本当の親友に感謝の意を述べて、去っていくつもりだった。
『背中刺す刃(Fallere825)』という魔法名を持つ彼も、それなりの過去を背負って生きてきたのだろうと上条は思い改める。
そして心の置ける本当の親友に感謝の意を述べて、去っていくつもりだった。
…結局そんな雰囲気も、言った本人のせいでぶち壊しになったのだが。
◇ ◇ ◇
上条は約束の場所へと向かっている。
先程指輪を美琴が置いていったと知ったとき、俺にある一つの直感がした。
本来の美琴の性格からして、そんな大事なものを直接アイツが渡さないのは非常におかしい。
本来の美琴の性格からして、そんな大事なものを直接アイツが渡さないのは非常におかしい。
もしかしたらコレはゲコ太ストラップと同じく『ペア』を示す重要なアイテムではないかと…
そして、神様が俺の手に渡るのを阻止していただけに、それ相当な意味を込めていたのだと…
そして、神様が俺の手に渡るのを阻止していただけに、それ相当な意味を込めていたのだと…
(それにしても土御門の野郎…、余計なことしやがって…)
だから、俺は無くさないように右手に指輪をはめておこうとしたら……
―――
――
―
――
―
「いやーそれでな、カミやん。折り入って話があるんだがな?その指輪…もしかしたら魔術的意味合いを持つかもしれないんだにゃー。
『生と死に関する時間を司る魔道書』の原典で、そいつが今仮死状態ってことまでは分かったんだぜぃ。
…つうことで、言いたいことは分かるよな?」
「そんなことしたらお決まりになっちまうだろ!……第一全て終わったら、俺はアイツと清純なお付き合いがしたいんだ!」
「そこだよ、カミやん」
「?」
『生と死に関する時間を司る魔道書』の原典で、そいつが今仮死状態ってことまでは分かったんだぜぃ。
…つうことで、言いたいことは分かるよな?」
「そんなことしたらお決まりになっちまうだろ!……第一全て終わったら、俺はアイツと清純なお付き合いがしたいんだ!」
「そこだよ、カミやん」
「?」
上条は何か土御門の癇に障るようなことを言ったのか、もう一度自分の言ったことを整理してみたが
何一つ変わらない。『普通』の恋愛に対する率直な気持ちだった。
何一つ変わらない。『普通』の恋愛に対する率直な気持ちだった。
「はぁ~。…カミやん!ちょっとこっちに来やがれ!」
・
・
・
場所は階段側から、土御門の部屋に移った。
・
・
場所は階段側から、土御門の部屋に移った。
「なあ、カミやん。恋愛っつうものをお前がどう思っているのか、もっと詳しく話してみろ」
「?俺は恋愛は男女がお互いを強く愛し合ったときに成立するような…ふにゃーっ、とした感じだと思うが、
どうなんd「ちがぁあう!!!」」
「?俺は恋愛は男女がお互いを強く愛し合ったときに成立するような…ふにゃーっ、とした感じだと思うが、
どうなんd「ちがぁあう!!!」」
俺はなぜ怒鳴られたのか、なぜ襟元を掴まれているのか分からずに、土御門の言う言葉に耳を傾けた。
「いいか、カミやん!恋愛っつうものに清く、正しい意味を持たせるのを世界の常識だと思うのは勝手だがな、
それだけが正しいなんて思ってたら大間違いだッ! 青ピを見習え!
時には己の持つ欲望に従い、大切な者を傷つけちまうときがある!
相手がテメエを愛してくれないときも一緒にいたいと思うときもある!」
それだけが正しいなんて思ってたら大間違いだッ! 青ピを見習え!
時には己の持つ欲望に従い、大切な者を傷つけちまうときがある!
相手がテメエを愛してくれないときも一緒にいたいと思うときもある!」
「それはオマエだろ!このシスコンヤロー!!」
「…ああ、そうぜよ。俺は立派なシスコンだ。
だがな、上条当麻!これだけは覚えておけ!
だがな、上条当麻!これだけは覚えておけ!
恋愛は自由だ!
そして、乗り越えた障壁が大きければ大きい程に相手を愛しく思うようになっちまうんだよ!
そこに民族だの宗教だの文化だの、間違っても神なんか関係ねえ!!!
っつう訳でカミやんにはそれを『左手』に……薬指だぜ?」
―
――
―――
――
―――
という感じで何か腑に落ちないまま納得させられた俺は、今美琴が俺に預けたと思われる指輪を、左手薬指にはめている。
偶然指のサイズがぴったりだったのには、何か神様に逆らう、運命めいたものがあるのではないかとさえ思う。
偶然指のサイズがぴったりだったのには、何か神様に逆らう、運命めいたものがあるのではないかとさえ思う。
(記憶失う前でも、測られたことは一度も無かったのにな…)
――それこそが、「エル」の言った『正解の道』だったのだ。幻想殺しでも、それに準ずる特別な力でもなく…。
そして神様は、上条に多くの試練を与えていく。
◇ ◇ ◇
上条は目的地まで後半分の、高層ビルが林立する地点にいる。
「ハァ、ハァ、…ンハァ!」
持ち前の逃げ足や長距離走が得意の上条でも、先程までは高熱で倒れていたのである。
そんな状態の上条に追い討ちをかけるが如く、疲労で足がだんだん動かなくなっていくのである。
まるで針金を巻いて足がガチガチに固められていくような感覚だ。
そんな状態の上条に追い討ちをかけるが如く、疲労で足がだんだん動かなくなっていくのである。
まるで針金を巻いて足がガチガチに固められていくような感覚だ。
(あれは夢だ、全部ただの夢なんだ!…だからきびきび動いてくれ、俺の足!!)
そう言って膝を叩きながらまた走り出そうとすると、突然上条の視界が暗くなった。
何かの影だ。振り返って見てみる。
「おいおいおいおい、嘘だろォォオオオオ!!!!」
――ビルがこちらに傾いてきたのだ。
ドドドドォォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーン!!!
…間一髪で逃げ切った上条。多くの魔術師との戦闘においてその身一つで窮地を切り抜けてきたのだ。
幻想殺しを使わずとも、彼の直感、反射神経、身体能力はとうに人間の限界まで到達していた。
幻想殺しを使わずとも、彼の直感、反射神経、身体能力はとうに人間の限界まで到達していた。
辺り一面を土煙が覆う。
「ゴホ、ゲホ…」
しかしあくまで上条は人間である。
『お天道様が常に見ている』ことからは逃れられない。
『お天道様が常に見ている』ことからは逃れられない。
――そんな人間に対し、神様は情け容赦無く、本気で『殺し(試し)』にかかる。
「ッ!?今度はそっちか、何でもありかよ!!」
今度は上条の真上から、列車サイズにまで飛散した「瓦礫」が自由落下とは思えない速度で降り注ぐ。
ヒュ、ヒュヒュン、……ズガガガァーーーン!!
だがしかし、上条はこれらをかわす、かわす、――かわしていく。
(負けねぇ!!俺はこのぐらいじゃ屈しねぇえぞ!!)
…実は上条自身知らなかったことで、どうやら酔拳の才能があったらしいのである。
実質異能の力による攻撃の予備動作で瞬時に反応できる能力「前兆の感知」はこれに相当しないのだが、
夢と現実の狭間で「無意識」すらコントロールするようになった今の上条は、まるで酔拳の達人のように
夢想(無双)することができ、辛うじて全弾かわし切ってしまう。
実質異能の力による攻撃の予備動作で瞬時に反応できる能力「前兆の感知」はこれに相当しないのだが、
夢と現実の狭間で「無意識」すらコントロールするようになった今の上条は、まるで酔拳の達人のように
夢想(無双)することができ、辛うじて全弾かわし切ってしまう。
「…………………」
そしてボロボロになりながら、上条は次の試練の前に、無意識の内に、ある気持ち・感情が芽生え始める。
それは奇しくも、不純な恋愛を経験する土御門の台詞に感化されたものであったのかもしれない。
それは奇しくも、不純な恋愛を経験する土御門の台詞に感化されたものであったのかもしれない。
(ひょっとしたら俺、…今までこんなに人を好きになったこと、生まれて初めてかもしれない)
――恋愛は乗り越えた障壁が大きければ大きい程に相手を愛しく思うようになる。
――上条は気付いたのだ。それが本当の、恋の合図であると。
…そして、いつの間にか夜が訪れていた。
彼は最後の試練のために、約束の場所に辿り着く。
上条の目には、肩まで振り上げた腕を、勢い良く前に向かって振り落とそうとする一人の少女が映った。
彼は思わず叫んだ。
上条の目には、肩まで振り上げた腕を、勢い良く前に向かって振り落とそうとする一人の少女が映った。
彼は思わず叫んだ。
「美琴ーーーーーー!!!」
――彼は分かっていたのだ。最後の試練の意味が…
――そこは夜景が綺麗で、彼等二人の思い出の場所であり、…約束の場所。
――――『鉄橋は恋の合図』
◆ ◆ ◆
美琴はこの鉄橋の上で、絶望に立たされていた。
「どうしてアタシの人生って……、結局いつもこうなっちゃうんだろうな……」
しかし、彼女はこれまでとは違っていた。
上条へ、告白断りメールに見せかけたSOSコールを発信したのだ。
以前の美琴ならばそんなことはせず、一人で全て片付けようとしたのだろう。
しかし、彼女は怖かった。本当に怖かったのだ。愛する人が自分から離れていくこと。
『幻想殺し』を愛することが、やっと認めたオカルトに否定され、自分が自分じゃなくなっていく感覚。
だから、彼女は最後の助けを、上条だけに求めた。
上条へ、告白断りメールに見せかけたSOSコールを発信したのだ。
以前の美琴ならばそんなことはせず、一人で全て片付けようとしたのだろう。
しかし、彼女は怖かった。本当に怖かったのだ。愛する人が自分から離れていくこと。
『幻想殺し』を愛することが、やっと認めたオカルトに否定され、自分が自分じゃなくなっていく感覚。
だから、彼女は最後の助けを、上条だけに求めた。
…しかし、結局上条からの連絡はなかった。
メールを見ていないのか、携帯を忘れてきたのか――それともまた『不幸』に巻き込まれているのか…
メールを見ていないのか、携帯を忘れてきたのか――それともまた『不幸』に巻き込まれているのか…
マイナス思考は留まるところを知らない。
昨日は自室にあったぬいぐるみも全部捨てた。
寮監に断って、常磐台中学女子寮を出る手続きも済ませた。
黒子も他のルームメイトを探すよう忠告しておいた。
昨日は自室にあったぬいぐるみも全部捨てた。
寮監に断って、常磐台中学女子寮を出る手続きも済ませた。
黒子も他のルームメイトを探すよう忠告しておいた。
幸福を捨てよう、不幸を撒き散らすのを止めようとしたが、神様はそれを許さなかったと、美琴は決めつけた。
これらが尽く、不幸を彼女に招いたのだ。
これらが尽く、不幸を彼女に招いたのだ。
◇ ◇ ◇
実は月曜日の朝、黒子は怪我などしていなかった。
彼女が入れ替わりで逃げるようにシャワールームに入る前、美琴がまだ出てこない時に
偶然美琴の携帯の着信ランプが点滅していたので、送り主の表示を見ると、昨日交際を認めた上条当麻だったのだ。
そしてこっそり中の内容を見てしまったのである。
彼女が入れ替わりで逃げるようにシャワールームに入る前、美琴がまだ出てこない時に
偶然美琴の携帯の着信ランプが点滅していたので、送り主の表示を見ると、昨日交際を認めた上条当麻だったのだ。
そしてこっそり中の内容を見てしまったのである。
(あの男め、漸く覚悟を決めたのですのね…)
そう思い、今日の襲撃はやめてあげようとしたのだが、どうも学校に到着した美琴の様子がおかしかったのである。
普段一緒に登校する自分より、かなり前に登校したはずなのにテレポートしなかった自分より遅れて学校に着いたのだ。
そう思い、今日の襲撃はやめてあげようとしたのだが、どうも学校に到着した美琴の様子がおかしかったのである。
普段一緒に登校する自分より、かなり前に登校したはずなのにテレポートしなかった自分より遅れて学校に着いたのだ。
――何かとんでもないことが起きる前触れだったのだろう。
帰宅もやけに遅く、また遠回りしていたのだろうと彼女は考えた。
(まさか、まさかお姉さま。あ、あの類人猿に操を差し上げてしまわれたのですかーー!?)
また類人猿に降格。
そう黒子が思ってしまう程に、帰宅後の彼女の顔はどこかすっきりとしていた。いや、吹っ切れていた。
彼女の顔は今まで何通りも見てきた黒子が、そう判断したのだ。まるで別人だったのだろう。
また類人猿に降格。
そう黒子が思ってしまう程に、帰宅後の彼女の顔はどこかすっきりとしていた。いや、吹っ切れていた。
彼女の顔は今まで何通りも見てきた黒子が、そう判断したのだ。まるで別人だったのだろう。
そんな幸せ絶頂のはずの美琴が、突然部屋中にあったぬいぐるみや、隠していた物まで何から何まで処分し始めたのだ。
黒子がこの行動を見過ごすことなどできはしない。だからあまり意識せずに聞いてしまった。
黒子がこの行動を見過ごすことなどできはしない。だからあまり意識せずに聞いてしまった。
「あの、お姉さま…? あの男との件は一体どうなったのですか?」
「…」
「…」
返事が返って来ない。固まってしまった。
まさか、これは類人猿の分際でお姉さまに恥をかかせる行為をしたのではなかろうかとあらぬ妄想を抱く黒子。
まさか、これは類人猿の分際でお姉さまに恥をかかせる行為をしたのではなかろうかとあらぬ妄想を抱く黒子。
「どうして、アンタがそのことを知ってるのよ!」
「ッッ!?」
「ッッ!?」
今度は黒子が固まった。語るに落ちるとは正にこのことだろう。
そして言い逃れはできない。できるはずがない。
美琴がじゃれあいとは到底思えない程の電気、…いや、怒気を孕んでいたのだ。
そして言い逃れはできない。できるはずがない。
美琴がじゃれあいとは到底思えない程の電気、…いや、怒気を孕んでいたのだ。
だから黒子は喋らざるを得なかった。
そして黒子の質問への答えとして、美琴は彼女に上条からの告白を断ったと告げて、部屋を飛び出したのである。
黒子は何とか彼女を止めようとして、取っ組みあいの喧嘩にまで発展した。
風紀委員で、実践的指導を受けた黒子でも、能力なしで美琴にねじ伏せられてしまう。
そして黒子の質問への答えとして、美琴は彼女に上条からの告白を断ったと告げて、部屋を飛び出したのである。
黒子は何とか彼女を止めようとして、取っ組みあいの喧嘩にまで発展した。
風紀委員で、実践的指導を受けた黒子でも、能力なしで美琴にねじ伏せられてしまう。
その後、本当に傷ついた体で深夜の町を、美琴を探して歩いている内にあの男に出会った。
最初は上条に見えない程の泥酔状態で、彼女の目前のゴミ置き場、それもど真ん中で寝ようとしたのだ。
彼の住む学生寮は一度調べたこともあって、何とか彼をそこまで送り届けたところまでは覚えている。
最初は上条に見えない程の泥酔状態で、彼女の目前のゴミ置き場、それもど真ん中で寝ようとしたのだ。
彼の住む学生寮は一度調べたこともあって、何とか彼をそこまで送り届けたところまでは覚えている。
そして運んでいる最中、意識のないはずの彼が確かにこう言っていたのを、黒子は覚えている。
「御坂、待っててくれ!…すぐそっちに行くから!……今度こそ、完璧に救い出せるくらい強くなるから!」
…
夢の中でも、この男は…
そう思っていると、自分がいかに『愛』というものが何なのか、分かっていなかったことを知った。
涙は出ない。むしろ、清清しく思える程だったのだ。
夢の中でも、この男は…
そう思っていると、自分がいかに『愛』というものが何なのか、分かっていなかったことを知った。
涙は出ない。むしろ、清清しく思える程だったのだ。
この男なら、お姉さまを任せられる。
この男なら、自力でお姉さまの元まで辿り着ける。
この男なら、『あの誓い』を忘れはしないだろうと…
この男なら、自力でお姉さまの元まで辿り着ける。
この男なら、『あの誓い』を忘れはしないだろうと…
「お姉さまのこと…お任せしますわよ…上条さん」
そう呟いて、彼女はまた病院のベッドの上で眠りについた。
彼女が夢の中で願ったことは、一体何だったのだろうか…
彼女が夢の中で願ったことは、一体何だったのだろうか…
◇ ◇ ◇
黒子が自分のせいで怪我をしたことで、美琴の闇は一層深くなっていったのだ。
そんな彼女の体は、春とはいえまだ肌寒い時期の寒波によって凍てつくように冷たくなっていた。
そんな彼女の体は、春とはいえまだ肌寒い時期の寒波によって凍てつくように冷たくなっていた。
「いつまで…こんな物してんのかな、本当に子供よね。アタシって」
それは、ブローチのように、紐を通していつも首に懸けていた指輪。
他人にばれないよう、ブレザーの下に隠してあったもの。
他人にばれないよう、ブレザーの下に隠してあったもの。
「こんな物…もう、必要ないわよね。……サヨナラ」
そう言って紐から指輪を右手で強引に引き千切り、この鉄橋の上から投げ捨てようとしたところで声が聞こえた。
その声は、愛しかった人の声に似ていた。だから横に振り向いた。しかし、そんなはずはない。
なぜなら確かに名前でこう叫ばれたのだから。
その声は、愛しかった人の声に似ていた。だから横に振り向いた。しかし、そんなはずはない。
なぜなら確かに名前でこう叫ばれたのだから。
「美琴ーーーーーー!!!」
◆ ◆ ◆
上条は美琴の手を取れる距離まで歩む。
美琴は空いていた左手を手摺りに置いて睨みつけるようにこちらを見つめている。
美琴は空いていた左手を手摺りに置いて睨みつけるようにこちらを見つめている。
「何やってんだよお前」
「…はぁ、何のつもりよ。左手に指輪なんかしちゃって……婚約者(フィアンセ)気取りですかぁ?」
「俺の質問に答えろ!その右手の中にある物は何だよ!」
「ああこれ?…指輪よ。アンタに渡したのと同じね。これから捨てるつもりなのよ?」
「……」
「それにしてもアンタ何で来たのよ?…また不幸にでもなりに来たわけ?
物好きよね~。私知ってるのよ。アンタがどうして学園都市に来たのか」
物好きよね~。私知ってるのよ。アンタがどうして学園都市に来たのか」
「ッ、………」
上条は答えない。ただ目を瞑っている。
知らぬ間に目には涙を浮かべ、足は震え、右手で胸を押さえて言う、美琴の『嘘』に耳を傾けているのだ。
知らぬ間に目には涙を浮かべ、足は震え、右手で胸を押さえて言う、美琴の『嘘』に耳を傾けているのだ。
上条は夢の中で、己の気持ちが美琴の抱く『自分だけの現実』とずれていることを知らずに、――初恋は終わった。
だから、今度は些細な矛盾も見逃さない。そして本当の思いをぶちまける。
もう夢と同じ展開は御免だ!
だから、今度は些細な矛盾も見逃さない。そして本当の思いをぶちまける。
もう夢と同じ展開は御免だ!
「 アンタも大変よね~。『疫病神』扱いされるなんてさ。
…また、あの頃に戻りたいの? それとも…いや…ごめんね。アンタ何も覚えてないのよね。
こんなことばっか話してても、…アンタは引き返そうとしないのよね 」
…また、あの頃に戻りたいの? それとも…いや…ごめんね。アンタ何も覚えてないのよね。
こんなことばっか話してても、…アンタは引き返そうとしないのよね 」
「 ……覚えてるよ。忘れられるわけねえだろ!
俺が初めてオマエと会ったときの記憶も! 俺が初めてオマエを地獄の底から引き摺りあげたことも!
俺がオマエとオマエの周りの世界を守るって約束したことも!
俺が窮地に立たされたとき、オマエが身代わりになったとてもつらい出来事も!
そして、…俺の正真正銘、愛の告白が拒絶されたことも全部! 」
「 …あんなので、アタシの気持ちを上回ったとでも言いたいの? あんな出任せの告白で私の心を掴めるとでも思ってたの?
そんなので…そんなので、――どうして好きだなんて言えたのよ! アンタ、全然分かってないじゃない! 」
「 好きだと思ってなきゃ、あんな人通りの多い場所で大っぴらに告白できっかよ! 」
「 ウソよ! 」
「 ウソじゃねえよ! 」
「 信じられないわよっ!そんなの! 」
「 俺を信じてくれよ! 」
「 …ウソだって言ってよ! 」
「 …ウソじゃねぇっつってんだろ!! 」
「 ……… 」
「 御坂、俺はもう覚悟決める準備できてっから……おまえがノーってはっきり言ってくれても構わない!
でも俺は、いつまでもおまえのことを諦めねえからな! 初恋だろうが何だろうが何度玉砕されたって関係ねぇ!
できればこれで決めちまいたい! 俺は最初で最後の恋にしたいんだよ! 」
「 あは、あっはっはははー、…あ~、おっかしー。
……私達まだ子供なのよ? 14歳と16歳なのよ? 最初で最後の恋が、アタシなんかでいいわけ?
どうせ大人になるまでにすぐ飽きるような、冷めちゃうような関係になっちゃうのよ! 」
「 だったら、…ずっと恋をしつづればいいことじゃねえかよ!
どうして俺達の未来をそんな否定的にしか捉えられないんだよ!
魔術と科学が交差する物語はもう終わったんだよ! 神様が出てくるような、神話の世界でもなくなったんだよ!
今日この瞬間から、俺たちの物語が始まるんだぞ!
ちっとばかし長いプロローグで俯いてんじゃねぇよ! 俺はやっと、分かったって言ってんだろ! 」
「 結局これがもし、全部アンタの夢だったらどうするのよ! もっと現実を見てから物事言いなさいよ!
世間の目だってあるのよ! レベル5とレベル0のカップルなのよっ! 今までと全く違う人生を歩むことになるのよっ!! 」
「 …この際はっきり言う。俺はこれが夢の中だろうが関係なく、おまえから離れたいとは微塵も思ってねえ!
考えたくもないんだよ、もし俺以外の男に美琴がいいようされるなんてこと… 」
「 …何アンタ? そんな欲望持ってたわけ? 男にしか興味ないのかって思ったこともあるのよ、アタシ!
アタシだって、アタシだって………当麻と離れたくない!…でももう無理なのよ!
これはアタシ一人が背負えばいいことなのよ! アンタが不幸になるなんて、考えたくもないのよ!」
「 それじゃあの時と全く同じじゃねえかぁッ! 何で直接頼ってくれねえんだよ、助けを呼べねえんだよッ!
何で自分一人で解決しようとすんだよッ! それじゃ記憶を失った俺の二の舞じゃねえかよッ! 」
「 アンタだって、何も変わってないじゃない! 結局アタシのメール、見てないんでしょ?
誰かに頼まれてここまで来たんでしょっ! 本当は人助けの一種ぐらいにしか思ってないんでしょッ!! 」
「 メールぐらいちゃんと見たよッ! あれが、助けを呼ぶものとは思わなかったけど… 」
「 ほら見なさいよ! 結局昨日の告白だって嘘なんでしょッ! アタシのことなんて何とも思ってないんでしょッ!
もう沢山よ! 何もかも、もううんざりなのよ! アンタなんか、…アンタなん「……決まってんだろ」…… 」
「 な、に? 」
「 愛してるに決まってんだろ!!! 」
「 …………… 」
「 どうしてこんだけ言ってて分かんねえんだよ!俺はもうお前しか見えてねえんだよ!
お前と毎日一緒に登下校したい!
お前が作る弁当を毎日食べたい!
お前と毎日一緒に勉強していたい!
…お前が作る味噌汁を毎日飲みたい!
お前と一緒の家に住みたい!
お前と一緒の墓に入りたい!
お前と来世でも一緒になりたい!
お前と、…お前と一緒の、
―――お前と一緒の夢を見ていたい! これが俺の全てだ!! 美琴!!! 」
「 ッッッ~~!!! 」
男上条、ついに覚悟を見せる時が来た。
「美琴、目…閉じてろ」
上条は美琴の目を右手で押さえると、左手で美琴の右手にあったものを強引に奪った。
「な、何すん……え…」
手をどけると、そこには上条が美琴の左手を持ち、その薬指に指輪をはめているのが見えた。
―――ピキ、ピキキ、
そして上条は、指輪をはめ終えるとそのまま美琴を強く抱きしめる。
「―――これが…俺の本気だ! だから美琴! 俺と正式に付き合ってくれぇッ!!!」
―――パキィィン!!!
上条は、己が気付いた(築いた)本当の『愛』で、美琴が抱いていた幻想、偽りの『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を、
あたかも薄い鍍金の如く剥き取ってしまった。――美琴が崩れ、上条の肩に頭を任せてきた。
あたかも薄い鍍金の如く剥き取ってしまった。――美琴が崩れ、上条の肩に頭を任せてきた。
そして、今度は自分が天に懇願する形で、己の美琴に対する愛を叫ぶ。
――― 神様、俺に……
――― 俺に……
――― 俺に美琴をくださいッ!!!!
………
……
…
……
…
。
。
。
。
。
正気を取り戻した美琴の膝の上で、気持ちよさそうにしばらく寝ていた上条が、ようやく目を覚ます。
その顔に数滴の雫がこぼれ落ちていく。
その顔に数滴の雫がこぼれ落ちていく。
「…美琴、俺、告白の返事……まだ聞いてないぞ」
「ヒッグ、…エグ……アンタ…馬鹿じゃないの? こんなにボロボロになるまで頑張って…本当に死にかけたのよ?
おまけに、アタシの告白のはずだったのに……告白で返してくるし、ああもう散々よ! 二度と御免よ!
これが正真正銘、最初で最後の恋でいいわよ!」
「…ハ、ハハ、俺がボロボロだったなら、お前もポロポロ泣いてんじゃねえか」
「な、泣いてなんかないわよ!」
「ヒッグ、…エグ……アンタ…馬鹿じゃないの? こんなにボロボロになるまで頑張って…本当に死にかけたのよ?
おまけに、アタシの告白のはずだったのに……告白で返してくるし、ああもう散々よ! 二度と御免よ!
これが正真正銘、最初で最後の恋でいいわよ!」
「…ハ、ハハ、俺がボロボロだったなら、お前もポロポロ泣いてんじゃねえか」
「な、泣いてなんかないわよ!」
美琴が新しく築き上げた『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』。
それは「上条を思い、上条と共に夢見ていく『二人だけの現実(ダブルアーツ)』」という、もう二度と崩れない絶対的意識。
二人はこれからも手を取り合って、ずっと一緒に生きていくことだろう。
それは「上条を思い、上条と共に夢見ていく『二人だけの現実(ダブルアーツ)』」という、もう二度と崩れない絶対的意識。
二人はこれからも手を取り合って、ずっと一緒に生きていくことだろう。
…
……
………
……
………
「それでな、美琴」
「何?……当麻?」
「俺は今、初めて幸せってやつがどういうことか、分かった気がする」
「……うん」
「お前はどうなんだ?」
「アタシ? ―――最高に、『幸せ』よ」
―――――ブワーーーーーー…………
その言葉を待っていたかのように、空はどこまでも青く晴れわたり、白い鳥が群れを成して飛んでいく。
まるで天が二人を祝福しているかのように。
まるで天が二人を祝福しているかのように。
・
・
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・
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「……、………、……………!」
(…無線なのか?)
どこかから声が響いてくる。
どこかから声が響いてくる。
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「 ――こちら第7学区放送局!こちら第7学区放送局!
――本日発生しました原因不明の高層ビルの倒潰や瓦礫による生き埋め、路面凍結、大規模な火災、
竜巻と見られる現象、
竜巻と見られる現象、
――これらの災害による死亡者、負傷者はともに0人! 繰り返します! …………………、…………… 」
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…
……
……
幻聴だろうか、こんな奇跡を信じていいのだろうか?
……
…
…
やがて俺達の目の前に、鳥の群れだと思っていたものが、一つの白い紙となってひらひらと舞い降りてきた。
その紙には一言、こう書かれていた。
結婚を許す。
・
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・
・
・
「エエエエェェェェェーーーーーーーーッ!!!」
――とあるカップルの驚きの声は、どこまでも澄み切った青空へと響いていくのであった。
◇ ◇ ◇
その後も色々あった。
小萌先生から、学園都市以外の高校への転入が正式に却下されたという知らせが届いた…留年は免れないが。
退院してから、白井黒子からの強襲もなくなった。
美琴も無事、寮監の計らいで学生寮へと戻ることができた。
俺と美琴がこの後に帰ったところでも、……言わなくても分かるよな?
―― 美琴がこの場所で、上条の左手を取ったときから彼等の長い、恋のプロローグが始まった。
―― それらは全て、神様の些細ないたずらだったのかもしれない。
―― そう思えてしまうのも、無理はなかった。
―― 二人が本当の意味で手を取り合い、これから共に『夢』見ていく幻想は、世界は、
―― こんなにも眩しかったのだから。
― Fin ―