元彼代打
「さっそくですが、以前付き合っていたという証拠を見せてください」
(攻めますね佐天さん)
ファミレスで対峙する二組、先に動いたのは佐天だった。御坂美琴は冷静に対応する。
「アンタ、携帯持ってる?持ってたら出して」
(なるほど、ペア契約の時のストラップか)
「これで問題ないでしょ」
テーブルの上に、ボロボロのゲコ太に寄り添うようにピョン子が置かれる。
「なっ、ばかな」
「落ち着いてください佐天さん」
今度は美琴の顔が驚愕に染まる。
「それは9月上旬に行われていた、携帯のペア契約の際プレゼントされていた物です」
どうでもいいが、そのパソコンはいつ出した。
「この時期はちょうど大覇星祭の後にあたり、白井さんが言っていた罰ゲームうんぬんと時期が一致します。そのため、恥ずかしくて言いだせない携帯番号の交換依頼と、デートのお誘いを罰ゲームという言葉でごまかした可能性が浮上します。そう仮定すると、まだお付き合いしていないとも考えられますよ」
「……初春、それさすがにムリないかな。それでごまかす方は短絡的だし、ごまかされる方も鈍感すぎるよ」
この時、上条は訳がわからんという顔をし、美琴の顔は真っ赤に染まった。
この動揺を見逃さず、初春は追撃に移る。
この動揺を見逃さず、初春は追撃に移る。
「上条さん!!」
「は、はいっ!!」
「どちらが先に告白したんですか」
「そっ、それはもちろん男子であるこの私めが「御坂さん、なんと言って告白されたんですか」っな!!」
佐天の奇襲。自分の言葉なら何とでも言えるが、相手の言葉を想像するのは楽なようで難しい。今後の整合性に大きく関わってしまう。
「え、えーと『御坂美琴と彼女の周りの世界を守る』だったかな?」
「……うわぁ、もはやプロポーズですね」
驚いたのは上条である。
(!! なんで御坂が知ってるんだ?)
それよりも。
(……確かにプロポーズに聞こえなくもない)
上条は自分の恥ずかしい発言を今頃自覚した。こんなに恥ずかしい思いをしたのはトールとの会話以来だった。そんな時に初春から声をかけられる。
「上条さん! 御坂さんはなんと答えたんですか!!」
ポーカーフェイスの裏で初春、佐天は動揺していた。嘘であるはずなのにすぐに「本気」な答えが返ってきたかれである。しかも上条にも心当たりがあったのか、あたふたしていた。だからこそ上条を攻めた。美琴の機転だったのならこっちからぼろが出る。
そう、そのはずだったのに。
そう、そのはずだったのに。
「『アンタと私は、同じ道を進んでいる』だった……と思う」
また、すぐに返された。初春は冷や汗が流れるのを感じ、佐天も動揺を隠せない。
ついでに美琴も動揺した。
(そっそれはハワイの時の!! あの時は必死だったから、今考えると私とんでもないことを言っちゃった!?)
上条が顔を外に向け、御坂はうつむいた。二人の顔が赤いのは言うまでもない。
その間初春、佐天の両者は目だけで会話する。いや、仲いいなお前ら。
その間初春、佐天の両者は目だけで会話する。いや、仲いいなお前ら。
(どうしよう初春このままじゃ……)
(大丈夫です。まだ挽回の余地はあります。質問内容を「言葉」でなく「状況」に変えてください)
人をだますには本当のことを言うことが楽だ。発言のタイミングが違えど言った言葉が本当であれば「半分本当」という曖昧な状況が出来上がる。それを阻止するための一手だ。
「(了解!!)じゃあどこでデートしたんですか御坂さん」
「ひゃい!? は、ハワイとかロシアとか??」
また即答。しかも白井との会話で心当たりがある。だが、
「上条さん、その時の御坂さんの服装を教えてください」
「上条さん、その時の御坂さんの服装を教えてください」
上条に会ったとは限らない。しかも御坂は校則で制服を着なければならない。
「えっ、珍しく制服じゃなかったはずだ、えーと……ロシアでは白い帽子に黒いジャケット、ハワイではピンクのパーカーだったと思うぞ」
そう、その時美琴はその校則を破っている。白井の愚痴からの情報だったが、
(……引っかからなかった)
佐天が音もなく座りこんだ。
「上条さん!! 御坂さん!! 相手のどこを好きになったんですか?」
作戦変更。初春は羞恥心を攻め、動揺を誘う。
上条と美琴は顔を見合わせる。数秒後、意を決したように上条が口を開いた。
上条と美琴は顔を見合わせる。数秒後、意を決したように上条が口を開いた。
「最初は馴れ馴れしいビリビリ野郎と思ってたんだけどな。コイツと一緒にいて楽しいと思えた。コイツの優しさに触れてすごいと思った。コイツの涙を見て守りたいと思った。そして何度も助けてもらって、支えてもらった。いつの間にか御坂が横に立っていた。これが『好き』だという感情なんだと思えたんだ」
しばしの沈黙の後、美琴も口を開いた。
「……私もねムカつくヘンテコ野郎って思ってたんだけど。私を絶望の底から救いあげて、他の人にも手を差し伸べる姿を見て、隣に立ちたいと思った。これが『恋』だというものだって気付いたのは遅かったけど、それを自覚してからは、自分がどんなにつらくても、信念に従うアンタの背中を見送ろうと、思ったの。私の、本当の、気持ち……」
赤くなる両者、青くなる初春。ちなみに空間はピンク色。
(わっ、私が嘘を見抜けなかった??)
初春の芯が折れそうになった。その時、
「……じゃあ、そんなに互いを思いあってたのに、どうして別れたんですか?」
佐天が呟いた。これまでの尋問とは異なる、純粋な疑問であった。
空気が、変わった。
先ほどまでの甘ったるい初春の声のような空気はない。張り詰めた空気。
おそらく、営業妨害だ。
先ほどまでの甘ったるい初春の声のような空気はない。張り詰めた空気。
おそらく、営業妨害だ。
「……振ったのは、オレだ」
上条の表情には苦痛が見える。しかし、それよりひどいのは美琴の表情だった。恐怖、悲嘆、絶望、そのすべてを表した表情は上条の位置からは見えない。沈黙が続く。
(ここはこのまま終わるべきなのかもしれない。……でもっ)
(ここはこのまま終わるべきなのかもしれない。……でもっ)
このままいけば二人の関係を悪化させるかもしれない。余計な事をしたと後悔するかもしれない。でも二人を救いたい。どうするべきか、いままで何度も白井、初春、佐天を救った御坂美琴ならどうするか。佐天は強い光を目に宿し、初春へ視線を移す。初春も同じ表情を浮かべていた。初春の口が動く。
「なぜ、振ったんですか?」
上条の表情が曇る。美琴は、逃げなかった。
「オレは、……不幸だから、オレに本当の大切な人ができたら、オレを不幸にするために、その人が危険な目に会う可能性が、高い。……オレは、一人じゃないと、ダメなんだ」
「オレは、……不幸だから、オレに本当の大切な人ができたら、オレを不幸にするために、その人が危険な目に会う可能性が、高い。……オレは、一人じゃないと、ダメなんだ」
上条は自分の言葉に驚くとともに、納得していた。これが『上条当麻』なんだと。自分の「不幸」で他人を救う。しかし、その人を心の底から大切とは思えない。
「偽善使い(フォックスワード)」
これが、本質。
「偽善使い(フォックスワード)」
これが、本質。
「そんな、ことで……」
声をだしたのは美琴だった。
「……そんなことで私は振られるの? わ、たし、私に、悪い点が無いのに!!!」
「お前がっ!! お前が不幸になるのは、嫌なんだよ!!」
「そんなの、アンタと一緒にいられない不幸なんかに比べて「待ってください」!!」
佐天が静かに言葉を続ける。
「御坂さん。御坂さんも別れることに承諾したんですよね?」
今の流れで、上条の方には納得はできないが理由があった。ならば、こちらは?
「……コイツの周りには、私がびっくりするほど美人で、強くて、綺麗で、優しい人が大勢いるの。もし、その中にコイツを本当に、大切にして、わ、私なんかよりもコイツを幸せにできる人になら、私は……」
地下街でのメガネをかけた女性、大覇星祭の時のしっかりした女性、上条が泥酔した際に見かけた大和撫子、銭湯でも見かけた清楚な女性、妹達、そして……。
もし、上条が彼女たちの誰かを選ぶならば身を引こうと、そう考えてしまっていることに、美琴は気付いた。いや、気付いていたことを自覚し、言葉にした。
もし、上条が彼女たちの誰かを選ぶならば身を引こうと、そう考えてしまっていることに、美琴は気付いた。いや、気付いていたことを自覚し、言葉にした。
(……こんなの「そんなのお前らしくねえよ」えっ?)
美琴が顔をあげると涙でかすんではいるが、怒気を含んだ上条の顔が見えた。
「そんなのお前らしくねえだろ、オレがそんなこと一言でもいったかよ!!オレの感情なのに、勝手に決め付けて、勝手にあきらめてんじゃねぇ!!」
「だけど、アン、タには、あの子が……」
「それを決めるのはオレだ!! オレは『上条当麻』としてあいつを守ると決めた。でも、『オレ』はオレ以外をお前の隣に立たせたくはねえ!!!」
初春、佐天はこのやり取りを見て満足そうな顔で思った。
(*1)
「お邪魔みたいだし、帰ろ、初春」
「そうですね。それじゃ、早く仲直りしてくださいね」
「「ふぇ」」
二人はそそくさと出て行った。
上条は彼女らが出て行った理由がわからぬほどバカではない。自分と美琴の今後に対し、大きな利益を残した二人を静かに見送る。
上条は彼女らが出て行った理由がわからぬほどバカではない。自分と美琴の今後に対し、大きな利益を残した二人を静かに見送る。
「……」
「……佐天さん、初春さん」
「美琴……」
「お代、私持ちなのね」
「……」
夕日が沈む。
「あーあ、絶対嘘だったのになぁ」
「そうですね、あれはまだ絶対にくっついていません」
「でも、まあいっか」
「少しくらい恩は返せたと思いますし」
「御坂さんを弄るのは、もう少し後の方が面白そうだし」
「私も、甘いものはとうぶんいりません。満腹です」
「ダジャレ? ……見て、綺麗な花だね」
「そうですね」
「初春とおそろい!!」
「え? 今日の髪飾りはこれとは……!! いつの間に!?」
「ファミレスに向かう途中」
「上条さんいたじゃないですか!!!!」
(はて? あの花どっかで見たような)
そんな現実逃避も、横の美琴が声を出し遮られる。
「き、今日はありがとね。助かったわ」
「おう。気にスンナ」
お互い顔をそらし思う。
無理だ。
しばらく無言で歩いたが、ついに別れる時が来る。
無理だ。
しばらく無言で歩いたが、ついに別れる時が来る。
「……じゃあ、私こっちだから、行く「待ってくれ」!!」
最終下校時刻を告げる音が、やけに遠くから聞こえた。
どれくらい経っただろうか。上条が口を開いた。
どれくらい経っただろうか。上条が口を開いた。
「少し遠回りになるけど、あの公園に寄って行かないか? その……どうしてもお前に伝えなくちゃいけない気持ちがあるんだ」
上条は覚悟を決めたようだ。なら、
「私も、アンタに言わないといけない感情を、持ってるの」
美琴も逃げるわけにはいかない。
この後、上条勢力から世界に波紋を広げるほどの事件が起きる。しかし、どんな困難でも彼らなら乗り越えていけるだろう。自分よりも大切な存在が隣にいつもいるのだから。
だが、彼らは気付かない。これが佐天たちからの情報により、変態してしまった怪人や、給料をもらうことを忘れ、食卓が寂しくなったために、最後の力を解放する魔神との戦いの序章に過ぎないということを。