とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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不幸を背負って



(なんでだよ。なんでこうなるんだよ)

ツンツン頭の少年、上条当麻は病院にいた。
いつもの病院の、いつもの病室。
見慣れた(というのもどうかと思うが)場所だった。
だがしかし、上条当麻はベッドに寝ているわけではない。
お見舞いに来た人が使う椅子に座っていた。
なぜなら、珍しく(というのもどうかと思うが)彼は入院をしていなかった。
では、なぜここに居るのかというと。

「……御坂」

上条がポツリと呟く。
その顔は悲痛に歪んでいた。
上条は、お見舞いに来ていた。
ベッドに横たわる、御坂美琴の。
上条は美琴を見て、俯く。
奥歯を噛み締めながら。
拳をこれでもかというほどに握りしめながら。

「………御坂、ゴメン。やっぱり俺は―――」

「…それ以上言ったら超電磁砲ぶっ放すわよ」

「ッ!? み、御坂、起きて……!?」

突然言葉を遮って聞こえた言葉に上条は驚きながら身を乗り出す。
美琴はゆっくりと状態を起こして、上条を見る。
何故か上条の様子を伺うような顔をして。

「元気してた?」

「は? お前、何を…」

「げ・ん・き・し・て・た?」

「あ、ああ」

有無を言わさぬ言葉の圧力に素直に従う上条。
だが、質問の意図がわからない。
なんなのか聞こうと口を開く前に美琴が割り込んだ。

「そっか。ならよかったわ」

美琴はそれを聞くと用は済んだとばかりに体勢を横に戻し、背を向けて寝る。
それを見た上条はさらにわけがわからなくなり質問する。

「い、一体なんなんだよ?」

「ん? アンタが元気だったかどうかを聞いただけだけど?」

なんだかそっけない。
その態度に上条はいらついて。本当のことを言う。

「元気なわけねえじゃねえか」

「………」

美琴の反応は、ない。

「お前がこんなことになって、元気でいられるわけねえだろ」

「……うん」

美琴は小さく相槌をする。

「……俺のせいで」

「それは違うわよ」

即答だった。
上条はそれに驚きながらも反論する。

「いや、だって」

「わかってるわよ。自分が怪我した理由なんて」

「ッ! だったら尚更―――」

「わかってて違うって言ってんの。わかりなさい、馬鹿」

意味がわからない。なぜ違うのか。
だって。だってあれは―――
美琴は上条の方を向きながら再び上体を起こす。

「……アンタを不幸にさせるために、その不幸の矛先が私にむいたんでしょ」

「………」

上条は何も言えない。美琴を直視することができない。
その通りだった。
上条が不幸だから。上条を不幸にさせるためだけに。
たったそれだけのために御坂美琴は大怪我をした。
今まで、他人に不幸が降りかかることはなかったのに。
上条当麻は不幸の避雷針だったはずなのに。
上条の不幸は美琴に降りかかっていた。
上条は自身の右手を呪った。
自身の右手に宿る力を呪った。
あわよくば、今ここで右手をもぎとってやりたい。
自身の不幸が他人を傷つけるのなら。
今、ここで―――

「……当麻?」

上条はその言葉に我にかえる。
気づいたら、左手が右手首を思い切り掴んでいた。
美琴はそれを見ると、はあ、と息を吐いて。

「アンタって奴は……馬鹿ね」

そういって、上条を抱き寄せる。
上条の頭は美琴の胸に押し付けられる。

「ぇ? って、ちょ、おい、美琴? 何を」

「いいから黙って抱かれなさい」

上条は慌てていたが、美琴はとりあわない。
少しして。
美琴は上条の耳にやさしく囁く。

「アンタの右手がなかったら、私は困るのよ?」

「……ぇ?」

驚いたが、上条は体勢を変えずに聞き返す。

「アンタの右手がなきゃ、私の漏電を誰が止めるのよ」

「お前……まだ漏電したっけか?」

「するかもしれないじゃない」

長い沈黙。
美琴は、いつでもどんな時でも優しかった。
その優しさは、上条にはどんな不幸でも立ち向かうことのできる力になっていた。
だけど、今はその優しさが痛かった。
今回の不幸は、上条ではどうしようもなかった。
もう二度と、今回と同じ不幸は起こしたくなかった。
だから。
上条は美琴から離れて。

「御坂、やっぱり俺は」

「3発に増やすわよ」

再び、遮られる。
いつの間にか布団の上にはゲーセンのコインが3つ置かれていた。
いつの間に取り出したんだ。と上条は少し怯える。

「アンタ、まだ言うわけ?」

「……俺は、俺のせいでお前を不幸になんてしたくない。だから」

「5発ね」

いつの間にか5つに増えている。
美琴は一度大きな溜め息を吐く。

「アンタね、私が。この学園都市第3位の超電磁砲がアンタの不幸体質について何も考えないと思った?」

「………ぇ?」

「あの程度の不幸について一切考慮してないと思った?」

「え?」

上条は驚きで全く動けない。
ある一つの考えに辿り着く一歩手前で、思考が止まってしまう。
まさか。いや、そんなはずは。でも、美琴なら―――

「アンタの不幸が私に降りかかる可能性を考えないほど、私は馬鹿じゃないわよ」

「………」

上条は声を出すことができない。

「……あーあ、今回は防げなかったなぁ」

「へ……? い、今、なんて…?」

上条は思わず聞き返していたが、その言葉はしっかりと聞こえていた。
今回は? ということは、つまり……

「お、お前……。ま、まさか……」

美琴はしまったというような顔付きをして。
だけど正直に暴露した。

「そ。前にもあったわよ。2回、だったかな? まあ、そんときはなんとか防げたんだけどねー」

「な、なんで何も言わねえんだよ!!」

上条は思わず怒鳴っていた。
だが、美琴は別段驚いた様子もなく、答える。

「言えば、アンタは心配するでしょ」

「当然だろうが!!」

上条の声は荒げたまま変わらない。
対する美琴の態度も、全く変化がなかった。

「言えば、アンタは自分のせいだと言って、私を不幸にしないように私から離れるでしょ」

「! ………当然だろ。誰が好き好んで好きな人を不幸にさせたがるんだよ」

「だからよ。だから私はアンタに言わなかった。私はアンタと離れたくない。一緒にいたい」

「っだけど!」

「私はね! アンタの不幸体質ごときでアンタへの気持ちが変わっちゃうような女じゃないわよ!!」

突如大声を出されて、上条は驚く。
だが、その驚きよりも、言われた言葉への驚きの方が、強い。

「アンタの不幸を背負ったところでなんの苦痛にもなりゃしないわよ」

「俺は! お前を不幸になんてさせたくねえんだよ!!」

「……それなら、アンタは私から離れちゃダメよ?」

「何、言って……!」

それじゃあ意味がない。と言おうとしたが、美琴の言葉に遮られる。

「私にとって一番の不幸は、アンタと一緒にいられないことなんだから」

上条はその言葉に衝撃を受ける。
そして、気づく。自分はなんて馬鹿なんだと。

「……美琴、ゴメン。俺、お前の気持ち、わかってなかった」

「いいのよ。アンタが鈍感だってことくらい、もうわかりきってるわよ」

「………なんだか、それはそれで悲しいんですが」

「だったら私の気持ちを理解できるようになることね~」

「うっ……。言葉もございません」

上条はいろいろな意味で美琴に完敗した。
だけど、念のため、再び尋ねる。

「…けど、本当にいいんだよな?」

「何度言わせる気よ。アンタは」

「次の不幸じゃ、どうなるかわからないんだぞ?」

「そこは、私の運に賭けることね」

「お前なぁ……。そこで運任せって、ホントにレベル5か?」

「ふふふ。善処はするわよー?」

「あーあ。不安だ……」





そして。





「ラブラブだね? うらやましいよ、ほんとに」

ラストはカエル医者が持っていく。



終。


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