とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある少女と堕ちた少年




第2章 戸惑いと安らぎ


大覇星祭四日目、上条は友人であり同僚でもある金髪にサングラスを掛けた陰陽師…土御門元春と人混みの中を歩いていた。
大覇星祭初日に起こった魔術師との激闘を終え、二人は所々に包帯を巻いている。

「いやー、大怪我を負っての大覇星祭の競技は中々体に堪えるんだにゃー」

「同感、正直あのクラスにはもう少し人を労わる気持ちがあってもいいと思う」

「まあ大覇星祭に怪我は付きもんだから、大したことないと思われてるぜよ」

確かに周りを見渡すと上条たちほどではないにせよ、怪我をしている学園都市の生徒をちらほら見かける。
ましてや大覇星祭は超能力を使った体育祭だ、
普通の体育祭ですら怪我をすることがあるのに大覇星祭を完全に無傷で過ごすというのは実は至難の業なのかもしれない。

「まあそんなことより仕事の話ですたい」

「…また魔術師か?」

「いや、今日は取り敢えず先日の事件の事後報告だにゃー。
 オリアナとリドヴィアのイギリス清教への引渡しが無事に終わった。
 これからは尋問という名の拷問が始まるだろうな」

「…」

「カミやん、いい加減に割り切れ。
 少なくてもアイツらは敵だったんだ、一々気に掛けてたら身が持たないぞ。
 カミやんのそういう所は嫌いじゃないが、その甘さはいつか自分の身を滅ぼしかねない。
 俺もカミやんも守るべきものがある以上、本当に大切なものを見誤るな」

「…分かってるさ。
 でも割り切ることはしても自分がしたことの結果から目を逸らすようなことはしたくないんだ。
 悪いな、心配して言ってくれてるのに」

「カミやんがみたいな人間がこっち側に来ちまったのは正直悲しいぜよ」

土御門は上条に対しての罪悪感に苛まされていた。。
土御門は知っている、本当は上条が実験を止めたことすら統括理事長…アレイスター=クロウリーのプラン通りだったことを。
しかし何も知らない上条を利用するために敢えてそのことは伏せられている。
土御門は友人である上条を騙しているのが心苦しかった。
だが美琴の廃棄が濃厚というのはあの個体が完成している以上、事実に他ならなかった。
事実を知ったところで上条が暗部に落ちたのは時間の問題だったのかもしれない。
少なくても土御門はそう割り切っていた。
土御門が守るべきは上条ではなく大切な義妹なのだから…
自分の生き方はずっと前から自分の魔法名…背中刺す刃に則ってきた。
そしてそれはこれからも変わらない、それが土御門元春という男の生き様だった。

「まあ大覇星祭中の魔術師の侵入はもうないと思って間違いないんだにゃー。
 今日を合わせて残り四日間、学生らしく楽しむぜよ」

「そうだな」

「それより今日はあの可愛らしい小さい義妹はいないのかにゃー?」

「打ち止めは御坂と一緒にいるよ。
 他の妹達と違って一緒にいても違和感はないし、御坂も随分と可愛がってるみたいだから」

「カミやんも美少女姉妹丼とは中々やるんだにゃー」

「お前と一緒にすんな。
 打ち止めはまだ生まれたばかりだし、御坂だってまだ中学生だぞ」

「ロリは最高なんだにゃー!!」

「はいはい、そうですね」

「…カミやんが冷たい」

「そりゃロリ最高なんて人のいる往来で叫ぶ奴には優しく出来ねえよ。
 …周りを見てみろ」

土御門が辺りを見渡すと生ごみを見るかのように自分を見つめている人々の姿があった。

「これはこれで被虐心を燻る何かが…」

「っていうかスパイがそんな目立っていいのか?」

「逆にコソコソしてるほうが怪しまれる、スパイの鉄則ですたい」

「わざわざ目立つ必要はねえだろ」

上条はそう言うと土御門とは別の方向に進み始める。

「カミやん、どこ行くんだにゃー!?」

「御坂と打ち止めの二人と約束があるんだよ」

「やっぱり姉妹丼…」

尚もしつこく言ってくる多角スパイのことを殴り飛ばすと上条は約束した場所へと向かうのだった。



「ヒーローさん!!」

待ち合わせ場所に上条が向かうと打ち止めが駆け寄り飛びついてきた。
そして打ち止めの後に続くように美琴も上条の傍に寄ってくる。

「サンキューな、打ち止めを預かってくれて」

「ううん、私の可愛い妹の一人だもの。
 本当は私が一緒に暮らしたいんだけど、流石に常盤台に事情を説明するわけにはいかないし…
 こちららこそ、いつも打ち止めと一緒にいてくれてありがとう」

「気にするなって、打ち止めは俺にとっても妹みたいなもんだしな」

すると打ち止めは嬉しそうに上条に一つのぬいぐるみを突き出した。

「お姉さまに買って貰ったのってミサカはミサカは頬を緩ませてヒーローさんに自慢してみたり」

打ち止めが持っているのは名前は分からないが確か三匹いるカエルのキャラクターの内の一体だった。
嬉しそうにしている打ち止めの頭を撫でながら美琴に向かって再び礼を言う。

「他の妹達も可愛いもの好きなんだけど、ラヴリーミトンだけは何故か不評なのよね。
 それに比べて打ち止めは私と好みの趣向が完全に一致してるの。
 打ち止めはきっといいゲコラーになるわ」

「ゲコラーっていうのはよく分からんが、保護者として何となくそれだけは阻止しなきゃいけない気がする」

「何よ、私の趣味にケチつけるつもり?」

「いえいえ、滅相もございません」

「アンタにもいつかゲコ太の素晴らしさを分からせてやるんだから!!」

「はいはい、それよりも何処か行く予定なんだろ?」

「うん、実は会って貰いたい人がいて…」

「会ってもらいたい人?」

「うん、だから一緒に付いてきて」

打ち止めが美琴に並んで手を繋ぐと、上条も二人の後に続いて歩き始める。
上条は前で歩く姉妹を見ながら先ほどの土御門の言葉を思い出していた。
土御門は上条のことを甘いと言った。
そして守るべき者、大切な者を見誤るなと…
上条は暗部に入ると決めた日、美琴と美琴が命を賭して守ろうとした妹達のことを自分の身を犠牲にしてでも守ろうと決意した。
しかし自分の身を犠牲にすることは出来ても、自分以外の誰かを犠牲にする…そこまでは考えが及んでいなかった。
もし自分の手で誰かを殺めなければならない時が来たら、果たして自分に実行することが出来るだろうか?
今まで戦った敵に対して理不尽や憤りを感じたことはあった。
しかし敵にも身の内に秘めた過去や信念があって、上条は敵のことを完全に憎むことが出来なかった。
そして今までは拳だけで相手の信念を砕くことが出来たが、もし相手の信念を折ることが出来なかったら…
上条は無意識に自分が持っているスポーツバッグに目をやる。
そこには万が一の時に使うための鉄の塊が入っている。
すでに相手を倒すためではなく殺すための技術を上条は身につけていた。
使わなければいい、使いたくない…
目の前で仲睦まじく歩く姉妹に危機が訪れた時、自分はその技術を本当に使うことが出来るだろうか?
自分の中途半端な甘さ…偽善によって大切な者を失うことを上条は心の何処かで恐れていた。

「大丈夫?」

上条が物思いに耽っていると目の前に美琴の顔が突然現われ、上条は少し驚いてしまう。

「今のアンタ、凄く辛そうな顔をしてた。
 もしかして何か厄介ごとに巻き込まれてるの?」

「いや、ちょっと考え事をしてただけですよ」

「…私じゃアンタの力になれないの?
 アンタは私達のために命を懸けて戦ってくれた、だから私もアンタが辛い時は傍でアンタのことを支えてあげたい。
 今になってレベル5であることを誇示するつもりはないけれど、せっかく手に入れた力だもん。
 誰かを…アンタを守るために使いたい、守ってもらうだけの一方的な関係は嫌なのよ!!」

偽海原の件も上条は誤魔化していたが、解決してくれたのは上条に違いないだろう。
そして美琴の知らないところで末妹の打ち止めのことも救ってくれていた。
美琴は守って貰うだけの関係を良しとしなかった。
別にプライドが邪魔してるわけではない、対等な関係でなければ上条の傍にはいられない。
美琴の中の何かがそう叫んでいた。



(私はアンタの傍にいたい、だって私はアンタのことが…)

すると上条は美琴の頭に手を置いて言った。

「ありがとうな、でも今は本当に大丈夫だ。
 俺が御坂に望むのは御坂や妹達に自分らしく平和な時間を過ごして貰うことだけだ。
 ただもしかしたら本当に俺が立ち直れないような状況に陥るかもしれない。
 もしそうなったら必ず一番最初に御坂に助けを求めるから、その時はよろしく頼むな」

「約束よ、何かあったら必ず私を頼ってね」

「ああ、約束だ」

上条はそう言うと美琴の頭をクシャクシャと撫でた。
子供扱いされているようだったが不思議と嫌な感じはせず、上条の優しさと温もりを感じるのだった。

「むー、いい雰囲気を壊すようで悪いけどヒーローさんもお姉さまもミサカのことを忘れてるって、
 ミサカはミサカは若干不機嫌になりながらブーたれてみる」

「忘れてないって、後でお菓子買ってやるから機嫌直せよ」

「お菓子程度でミサカを釣ろうなんて片腹痛いとミサカはミサカはヒーローさんのことを嘲笑してみたり」

「じゃあ、どうしたら許してくれるんだよ?」

「うーん、取り敢えず肩車をして欲しいかも」

「はいはい、姫の仰る通りに」

上条は屈みこむと打ち止めを肩に乗せて再び立ち上がる。

「うわー、景色が全然違うかも」

頭の上ではしゃぐ打ち止めを宥めながら上条は美琴と並んで歩き出す。
すると美琴が上条の服の裾を掴んできた。

「御坂さん?」

「な、何よ!?
 逸れないようにしてるだけでしょ、何か文句ある!?」

「いいえ、何も…」

例え何が起ころうとも彼女達だけは守ってみせる。
上条は守るべき者の存在を再確認し、彼女達を守る決意を新たにして前へと進む。
これからも上条の悩みが吹っ切れることはないだろう。
ただ大事な者を見失うことは絶対にない。
三人は美琴が紹介したい人物との待ち合わせ場所まであと僅かの場所まで迫っているのだった。








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