とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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小ネタ 幸せの代価




私の隣には中学二年生の時から追い求め続けてきた愛しい恋人が眠っている。
彼は現在大学三年生、私は大学一年生になったばかりの春…
私が高校一年生の時から付き合い始めて三年、私達は身も心もようやく結ばれた。
付き合い始めても中々手を出そうとしない彼にヤキモキさせられたものだが、
こうやって彼の腕に抱かれていると昔のことを忘れてしまうほど幸せを感じるのだった。
…昔?
そう思った瞬間、私は激しい吐き気に襲われた。
訳が分からない、体調が悪いといった感じもしない。
この体を蝕むような悪寒は明らかに精神面から来るものだった。
私は彼を起こさないように寝室からそっと出て、トイレへと向かう。
そこで胃の中を空にした後も、悪寒と吐き気が止まることはなかった。
そして私の頭の中にはフラッシュバックするかのように、あの時の光景が蘇る。

初めて親しくなった私の大事な妹…
プレゼントした安物の缶バッチを抱きしめるようにして機関車の下敷きになった。
彼女だけでない、他にも私の知らないところでたくさんの妹達が犠牲になっていった。

「ハハッ」

私は自嘲するかのように乾いた笑い声を漏らす。
何が幸せだ、私に幸せになる資格なんてないではないか。
妹達を殺したアイツは言った、私も加害者なのだと…
そうだ、私が軽はずみにしたことによって数多くの命が失われてしまった。
大好きな彼は私のお陰で妹達が生まれてくることが出来たと言った。
でもその言葉はあの実験の側面しか表わしていない。
ただ殺されるためだけに生まれ死んでいった妹達に対しても同じことが言えるだろうか?

私は気分を少しでも落ち着かせるために水を飲みにキッチンに向かった。
するとそこには大好きな彼が待っていた。
しかし今は彼の顔を見たくなかった。
あの時の彼の優しさに嫌悪感を抱いてしまっている自分が憎らしかった。

私が水を飲み終えると彼は少し話したいことがあると言って、私は彼と共にリビングのソファーへと腰を掛ける。
彼は私の体調を心配するように私の顔を覗き込んでいる。

(やめて、私は当麻に心配してもらえるような人間じゃない!!)

私は心の中で叫び声をあげる。
そしてそれを実際に言葉に出せない自分の卑怯さにますます自己嫌悪に陥る。
彼はそんな私の様子を見て、どこか辛そうに口を開いた。



「すまない、俺のせいで美琴をそんな風に追い詰めちまった」

何を言っている?
彼の突然の謝罪の言葉に私は困惑する。
そんな私を他所に彼は言葉を続けた。

「美琴と付き合い始めて初めて気付いたんだ、美琴の笑顔の裏には暗い闇が眠ってるって…
 そしてその闇が美琴が自分の過去を責めることによって生じてるものだって気付くのに時間は掛からなかった。
 その美琴の二面性っていうのかな?
 それを生み出しちまったのは俺の中途半端な偽善だ」

「偽善?」

「俺はあの実験が終わった後、美琴に笑ってもいいって言った。
 でも本当に俺がするべきことは美琴を俺の勝手な独断で許すことじゃなくて、一緒に悩んであげることだったんだ。
 俺の偽善によって美琴は表面上は明るくなっても、心の奥に深い闇を消すことなく抱えることになっちまった。
 本当は少しずつ心の闇を取り払わなきゃいけなかったのに、俺の言葉のせいで…」

彼は苦虫を噛み潰すような表情で言った。
そうか、私は本当に許されたわけじゃ無かったんだ。
彼の言葉には妙な説得力があり、それに彼の言っている恐らく正しかった。
私の抱える闇が幸せの絶頂に達した瞬間、気が緩んだ隙に顔を覗かせたのだろう。

「だからさ、一から俺達の関係をやり直さないか?」

「え?」

最後に彼から出てきた言葉は私にとって酷く残酷なものだった。
しかし私に彼の言葉を拒絶する権利はない。

「…分かった、今までありがとうね。
 明日には荷物をまとめて出て行くから」

「は?」

「は、って当麻から別れようって言い出したんじゃない」

「…美琴は昔から早とちりというか何ていうか。
 今の状態の美琴を俺が放っておけると思ってるのか?」

「じゃあ一からやり直すってどういうことよ!?」

「…俺と美琴の関係は今まで少し歪んでたんだと思う。
 今度はちゃんと美琴と正面から向き合って生きていく。
 だからこれから先、美琴の罪を一生傍で一緒に背負わせてくれないか?」

彼はそう言って私に一つの小さな箱を差し出した。
そこに入っていたのは小さなダイアモンドがあしらわれたリングだった。

「…私は幸せになってもいいのかな?」

「過去の罪を忘れずに、前へ進んで生きていく。
 それが俺達に出来る死んでいった妹達への手向けだと思う」

そうして私と彼の新しい人生がスタートした。
どうすれば死んでいった妹達に本当の意味で報いることが出来るのかは分からない。
それでも私は彼と一緒に前に向かって歩んでいく。







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