とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

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第3章 ②本質が呼ぶ戦いと残された謎


「…これは拙いぞ」

「どうしたのよな?」

「オルソラと建宮が指名手配された」

「俺とオルソラ嬢が指名手配ってどういうこと…って何で俺の名前を!?」

上条は訳が分からないといった様子の男…建宮に携帯に送られてきたメールを見せる。

「確かにこれは俺の名前と顔写真…
 何時の間に!?」

「…なあ建宮、言いたくはないが」

「…分かってるのよな。
 俺達の仲間から裏切りものが出ることはない。
 となると考えられるのは拷問か何かで…」

建宮の言葉に美琴とオルソラは顔を蒼くする。

「どうする?
 こうなった以上、学園都市から出ることはおろか学園都市内を移動することすらままならないぞ」

「それについては考えがある。
 俺達天草式は隠密性に秀でた魔術師だ。
 俺とオルソラ嬢は秘伝の偽装魔術を用いて脱出する。
 お前さん達はこれ以上関わり合いにならないほうがいいのよな。
 協力を申し出てくれたことに感謝する」

「他の天草式の連中はどうするんだよ!?」

「天草式も十字教の一派である以上、恐らく…すぐに殺されるということはないはずだ」

「すぐにってことは、いつかは…」

美琴は顔を蒼くしたまま俯く。

「建宮さん、私のことはいいから天草式の皆さんを…」

「いい加減にしろ!!」

オルソラの言葉に建宮は苛立ちを隠せぬまま叫んだ。

「…オルソラ嬢に罪がないことは分かってる。
 だが俺の仲間の覚悟を侮辱することだけは許さんのよな。
 オルソラ嬢を救うために戦ったアイツらの覚悟を無駄にするな!!」

「建宮、天草式とローマ正教の部隊はここからどの方角で戦ったんだ?」

「学園都市から見て真っ直ぐ北東の方角よな。
 だけどそれが…」

「…いや、少し気になっただけだ。
 建宮、何としてもオルソラを逃がしてやれよ」

「あ、ああ」

「それと美琴、俺はこれから少し一方通行と会う約束があるから。
 部屋はこんな状態だし、悪いけど何処かホテルか何かで休んでてくれ。
 一方通行との約束が終わったら連絡するから…」

「…分かった」

「建宮、包囲網が敷かれる前に出来るだけ早く脱出したほうがいい。
 あとこれはイギリス清教の俺の知り合いの番号だ。
 何かあったら使ってくれ」

「本当に世話になった。
 いつか窓ガラスを弁償しに戻るのよな」

建宮とオルソラは上条に深く頭を下げると上条の部屋を出て行った。
そして二人に続いて出ていこうとする上条の手を美琴が繋ぎとめる。

「美琴?」

「…嘘が下手にも程があるでしょ。
 私が当麻だけで危険な場所に行かせると思う?」

「…今回だけは駄目だ」

「どうして!?」

「この間の魔術師との戦闘は自衛っていう言い訳が立つ。
 でも今回の件に関しては学園都市と協定を結んでるローマ正教を相手に戦うことになる。
 無能力者の俺なら正体がバレる可能性が少ないが、美琴は学園都市でも有名な超能力者だ。
 イマイチ科学とか魔術とかのバランス関係は分からないけど、美琴が手を出すと多分拙いことになる」

「でも、当麻一人を危険なところに向かわせる訳には…」

「建宮が言っていた通りなら天草式はまだ生きてる可能性が高いはずだ。
 別に戦うわけじゃなくて、天草式を解放することだけに集中する。
 天草式を解放することさえ出来たら、後は混乱に乗じて逃げ出すだけだ」

「だったら私も能力を使わないで…」

「美琴、分かってくれ。
 美琴は超能力がある以外は普通の女の子なんだ。
 危険があると分かってる場所に普通の女の子を連れていくわけにはいかないだろ?」

「…」

「大丈夫、そもそもローマ正教の部隊と遭遇できる可能性だって低いんだ。
 別に俺は全能なわけじゃないんだ、もし無理なようなら諦めるよ」

しかし美琴の体はカタカタと振るえ、その目には涙が浮かんでいる。
上条はそんな美琴を抱き寄せるとその唇に自分の唇を重ねる。

「俺は必ず帰ってくる、美琴を一人残して死ぬことだけは絶対にしない。
 だから俺の帰りを待っててくれ」

これは我侭だということを上条も分かっている。
本当に美琴のことが大事なら放っておくという選択肢もあるのだ。
しかし上条当麻の中に眠る本質がそれを許さない。
そして上条のことを誰よりも深く理解する美琴もそのことを分かっていた。
だから美琴は上条の背中を見送る。
上条が帰ってきたら思い切り文句を言い、そして愛し合うために…
美琴は普段祈ることのない神様に上条の無事を願うのだった。



上条は部屋を出ると真っ直ぐに学園都市の北東のゲートに向かう。
建宮の話によると天草式とローマ正教の戦いは学園都市の北東で行われたらしい。
学園都市はとても巨大な街なのでわざわざ遠回りをして他のゲートを使うよりも、
そのまま真っ直ぐ北東のゲートに来る可能性が高かった。
しかし上条が北東のゲートに辿りつくと違和感を感じる。
本来警備の人間が多数配置されてるはずのゲートに人の気配が感じられない。
こんなことがある筈がない。
上条の頭の中にはふと協力者と名乗って二人組の謎の人物の姿が思い浮かぶ。
そして上条の考えを肯定するように、ゲート内にアナウンスが流れる。
機械音で学園都市外のある住所がアナウンスされた。
このタイミングで告げられた謎の住所…
罠である可能性は高いが、元々ギャンブルのような確率でローマ正教の部隊に遭遇することを望んでいた上条だ。
この情報に乗らない手はなかった。


「こんな形でオルソラ教会を利用する形になるとは思ってなかったですよ」

まだ11、2歳にしか見えない少女のシスター…アニェーゼ=サンクティスは皮肉げに呟く。

「異教の地とはいえ一つの教会を任せられるほどの人望がある人間が正教の教えに背くようなことをするなんて、
 私からは恵まれた人間が火遊びをしたようにしか見えねえってわけですよ。
 そしてそんな道楽者を助けようとしたアンタらも私からは滑稽な道化にしか見えませんよ」

そう言うアニェーゼの前には数十人の日本人が体を縛られ地面に横たわっている。
そしてその中の一人の少女が吼えるように言った。

「オルソラさんは人にとって害にしかならない、魔道書の原典を消し去る方法を探そうとしただけです。
 それなのに、あなた達ローマ正教は!!」

「まあ確かに法の書はローマ正教でも扱い方が分からない邪魔なもんでしかありません。
 しかしあの女がしたことは結果としてアンタ方を巻き込み犠牲にしただけじゃねえのかって私は思うわけですよ」

アニェーゼはそう言って少女のわき腹を蹴りつける。

「うぐっ!?」

「アンタ達天草式は困っている人なら理由も聞かずに手を差し伸べるのをモットーにしてるんでしたっけ?
 いやいや、同じ十字教に所属する人間として尊敬せずにはいられませんよ。
 でもアンタ等にその教えを説いた聖人の女教皇とやらも助けに来ない。
 一体アンタ等の救いはどこにあるんでしょうかね!!」

アニェーゼに蹴られ続け少女は反論する気力も失い、抵抗することをやめた。
少女は天草式でも人一倍正義感が強い少女だった。
それ故に、他の天草式への見せしめの材料として選ばれた。

「それにしても学園都市はいつになったら私らが学園都市に入るのを許可するんですかね?
 確かに科学と魔術サイドが簡単に折り合いをつけるのが難しいことは分かってるんですが…
 まああの女と天草式の現首領の指名手配はしたみたいですし、間単に逃げられることはねぇんでしょうけどね」

アニェーゼの顔には苛立ちが目立ち始めていた。
もしオルソラに逃げられるようなことがあれば、正教での自分の立場は完全になくなることになる。
そうなればあの頃の生活に逆戻りだ。
それだけは絶対に嫌だとアニューゼは心の中で叫んでいた。
そして天草式の信念もすでに折れかかっていた。
自分達は今まで誰かを救うためだけに戦ってきた、そのことに疑問を持ったことはなかった。
しかし絶望の淵に立たされて、初めて自分達に救いがない状況に疑問を生じた。
このままではアニューゼ部隊と天草式の精神の均衡が崩れ大惨事になろうとしたまさにその時…
ヒーローは遅れてやって来た。



何かが壊れるような音とともに教会の扉が開いた。
教会の内部にいたアニェーゼ部隊の人間達は困惑と混乱に陥る。
教会に張り巡らせていた結界はアエギディウスの加護と呼ばれる個人で敗れるよな代物ではない。
しかし教会の扉に立つ人間は正真正銘一人しかいない。
扉に立つ少年が何をしに来たのか、その理由ですら彼女達は理解することが出来なかった。

上条が告げられた住所を頼りにやって来た場所はまだ建造途中の教会だった。
そして上条が教会の扉に触れると何か異能を打ち消す感覚が右手に伝わった。
情報が正しかったことを確信すると、上条は教会の中に足を踏み入れる。
そこには200人を超える修道服を着たシスターと、恐らく日本人だと思われる数十人の人間が縛られ横になっていた。
上条は呆けているいるシスター達を余所目に冷静に状況を分析する。
何となくだが大勢のシスター達は一人の幼いシスターを囲むように立っているように見える。
恐らくそのシスターがこの部隊を纏め上げるリーダーなのだろう。
上条がこの状況を打破するためにしなければならないのは、決して倒れずに敵のリーダーを一撃で倒すことだった。

上条はシスター達が呆けている隙をついて教会の中を駆け抜ける。
そしてワンテンポ遅れてアニェーゼは部下のシスター達に命令を下す。

「な、何をやってるんですか!?
 敵襲です、迎撃を開始しやがりなさい!!」

そしてアニェーゼに向かって突進する上条に向かって炎や謎のエネルギーが放たれる。
上条はそれを出来る限り右手で打ち消しながら尚も直進を続ける。
しかしながら全てを打ち消すには至らず大きな衝撃が上条のことを襲う。
だが上条は怯まない。
ただ前へ前へと進み続ける。
そしてアニェーゼまで残り数mといったところで宙を舞う車輪と小袋が上条に向かってきた。
小袋は円を描くように上条の背後に回り上条の後頭部を叩きつけ、車輪は爆発して無数の鋭い破片が上条の体に突き刺さる。
しかし上条は足を止めることをしなかった。
チャンスは一度きり、まだ敵が上条に狙いに気づいてない段階で勝負を決しなければならない。

上条は卑怯な作戦だと思いながらも敵のリーダーを打ち倒して彼女を人質に天草式のメンバーの解放を迫るつもりだった。
とてもヒーローの採る作戦じゃないが、自身をヒーローなどとは全く思ってない上条には関係ない。
戦いにおいて敵の将をまず狙うのは戦術のセオリーである。
上手くいけばこの部隊の戦意を削ぐことも出来る可能性があった。

しかし事はそう簡単には進まない。
上条の狙いに気付いたのかシスター達はアニェーゼを取り囲むように陣形を組む。

(ちっ、このままじゃ…)

上条が目論見が外れてどうするか迷った時、上条の体が不自然に宙に浮いた。
上条の穿いているズボンの金属で出来たボタンが何か見えない力に引っ張られているようだった。

(…サンキューな)

見えない位置から自分をサポートしてくれた恋人に心の中で感謝を述べつつ、上条の宙に浮いた体はアニューゼに向かって直進する。
そして上条の右拳が何が起こっているか理解出来ない様子のアニューゼの顎を打ち抜くのだった。



上条は完全に意識を失ったアニューゼを人質に取り、アニェーゼ部隊に対して天草式を解放するよう迫る。
しかし簡単に取引に応じるわけにもいかず、どうするべきかアニェーゼ部隊は困惑していた。
そんな緊張状態が張り詰める中、突然一人の男の声が教会内に響き渡った。

「いいだろう、俺様の権限で許可する」

教会の入り口から赤を基調とした服を着て髪型はゼミロングである一人の男が、足音を響かせて上条たちのもとに近づいてくる。
上条はシスター達の部隊の一人かと思ったが、シスター達も男を怪しむ様子で見つめていた。
そんなシスター達に男は一枚の紙を見せる。
アルファベットで書かれた内容を上条は理解することが出来なかったが、
シスター達は紙に書かれた内容を確認すると男に道を開けるように両脇にそれた。

「まさか気紛れでやって来た極東でこんなに面白い見世物が見れるとは思わなかった」

男の態度は特に威圧的なものではないのだが、上条は男が自然に纏う底知れぬ冷たい雰囲気に背筋が凍る思いだった。

「それに実に興味深い右手だ。
 俺様の力と合わせればあるいは…」

男は目の前にいる上条を意に介した様子もなく、その場で一人考えに耽っている。
そして何か思いついた様子で言った。

「なあ、学園都市など捨てて俺様と共に来ないか?」

「なっ!?」

「貴様と俺様の力を合わせれば世界を真の意味で救うことが出来る。
 もちろん俺様の権限を使って外にいる貴様の女も保護してやる」

隠れている美琴の存在にも気付いている!?
上条は直感で目の前の男に今の状態では勝てないことを悟っていた。
そして美琴と力を合わせても、決してこの男に届かないことも…
しかしすぐに回答できる問題ではない。
これが旅掛が言っていた反撃のタイミングなのかもしれないが、どうもそうは思えない。
何にしろいずれ学園都市と決別する覚悟があるとはいえ、決断するには時間が必要だった。
そんな上条の心中を察したように男は言った

「確かにすぐに決断できる問題ではあるまい。
 しばし時間を与えるからゆっくりと考えるがいい。
 俺様の誠意として、オルソラ=アクィナスの捕縛命令も撤回させよう。
 それほどオルソラ=アクィナスに価値があるとも思えないからな」

男はそれだけ言い残すと踵を返して、教会の入り口へと戻っていく。
シスター達も男の後に続くように気を失っているアニェーゼ担ぎ上げ教会から出て行った。
後に残された上条は縄で縛られた天草式を解放すると、天草式の面々は上条に向かって諸々に感謝の言葉を述べる。
やがてローマ正教がオルソラから手を引いた知らせを受けた建宮も駆けつけ、オルソラも含めてささやかな宴が開かれた。
宴には影の立役者である美琴も参加した。
天草式の一人の少女が上条に熱い視線を送るのを牽制しながらも、美琴は上条が無事であったことを上条の隣で喜ぶのだった。
しかし学園都市に帰った上条は思ったよりも重症であったことが発覚し、再び入院を余儀なくされるのだった。








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