とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part08

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第3章 ①シスターと天草式


第六学区のアミューズメント施設での激闘が終わってから一週間、あれほどの騒ぎがマスコミなどで取り立たされることはなかった。
被害者が一人もいなかったこともあるかもしれないが、それにしたって全く情報が出てこないのはおかしい。
やはり学園都市の上層部が情報規制を敷いたことに間違いはなさそうだった。
だが上条と美琴にとってそのことが特に害があるわけではないので
無事に退院した上条は恋人でパートナーである美琴と共に平穏で幸せな時を過ごしていた。
そしてこの日も上条は美琴と一緒に夕飯の買出しに出掛け、上条の寮に戻るところだった。
しかし二人の平穏な時間は長く続くことはないらしい。

「ねえ、当麻…」

「…いいのか、関わったら十中八九碌な目に遭わないぞ」

「でも当麻は手を差し伸べたいと思ってるんでしょ。
 大丈夫、私はそんな当麻のことを愛してるんだから…」

「美琴…」

完全に二人の世界に入ってる上条と美琴だが、二人の先には真っ黒な修道服に身を包んだ女性が辺りをキョロキョロと見渡している。
宗教関係者…上条と美琴が共通で知っているのは銀髪のシスターと赤髪の神父だけだが、二人とも所謂裏の世界に通じる人間だった。
そのせいか二人、特に上条にとって宗教関係者は鬼門であり自分から関わるのには少し勇気がいる人間である。
それは完全に上条の偏見なのだが、恋人である美琴が傍にいる状況なのでどうしても慎重にならざるを得ない。
しかし前方にいるシスターが纏っている気配は特に邪なもの感じさせない、何というか本当に神職者を思わせるものだった。

「ハ、ハロー」

「あら日本人のようにお見受けしますが、英語で話したほうがよろしいのでしょうか?」

「の、ノー!!」

思わず片言の英語で返事をしてしまう上条だったが、明らかな外人であるシスターが日本語を喋れることに安心する。
何故か上条に関わりがある外人は日本語が話せる者ばかりなのだが、上条にとってそれに越したことはない。

「あの困ってるように見えたんですけど、何かあったんですか?」

「やはり日本語のほうがよろしいんですね?」

「あっ、はい」

「しかし学園都市というのは凄いところでございますね。
 街中を自動で掃除する機械が徘徊しているなんて」

「外から来たなら珍しく感じるかもしれないですね」

「ええ、実は少々立て込んだ事情に巻き込まれておりまして…」

少し前の質問に答えるシスターの会話の独特のテンポに戸惑いながらも、
上条はやはり何かにシスターが巻き込まれていることに少し辟易としながらも詳しい事情を聞こうとする。

「何かあったなら話してもらえませんか?
 力になれるかもしれないですから…」

「やはり学園都市の技術は進んでいるのでございますね」

「だー、何だこのシスター!?
 会話のリズムが掴みづれー!!」

「と、当麻、落ち着いて!!」

今まで何となくシスターが放つ雰囲気に敬語を使っていた上条だったが、シスターの会話のリズムに頭が混乱し始める。

「実は私、追われているのでございます」

その言葉に上条と美琴の緊張感が高まる。
そして宗教関係者の人間を追っていると聞くと、何となくだが思い当たる節は一つしかなかった。

「追われてるって、もしかして魔術師にか?」

「魔術師のことをご存知なのですか?」

やっと会話が追いついたシスターの表情を見据えて上条は答えた。

「少しばかり縁があってな。
 それよりも魔術師に追われて学園都市に来たなら、まあ回答としては間違いじゃない。
 だけど思っているよりも学園都市の警備はザルだ。
 何か当てはあるのか?」

「当てでございますか?
 てっきり学園都市に逃げ込めば安全とばかり思っていたもので…」

「…学園都市に入る許可証は持ってるよな?」

「許可証でございますか?」

「…これは思ったよりも厄介ごとになりそうだ」

「とにかく立ち話もなんだし、部屋で詳しい話を聞きましょう」

「えっと、私はあなた様たちを頼らせていただいてもよろしいんでしょうか?」

「ここで会ったのも何かの縁だしな」

そしてオルソラ=アクィナスと名乗ったシスターと共に上条と美琴は二人の住む寮へと向かうのだった。



夕食の準備を始めた美琴をオルソラも手伝うと言って二人は狭い上条の部屋のキッチンに並んで夕食の仕度をしていた。
美琴がオルソラの料理のスキルに若干の劣等感を覚える中、上条は一人今後どのような行動に出るべきか思案している。
学園都市に入る許可証がないとなると、いずれ学園都市の治安組織の尋問に遭うかもしれない。
そうすればあっという間にオルソラはお縄につくことになる。
魔術師に追われているなら却ってその方が安全なのかもしれないが、
得体のしれない闇を持つ学園都市にオルソラを預ける気にはならなかった。
となると一番確実なのは信用できる外部の人間にオルソラを預けることだった。
しかしながらオルソラを追っている魔術師の正体が分からぬ以上、下手に他の魔術師に連絡を取るのは危険である。
とにかく行動の指針を決めるのはオルソラの話を聞いてからだと上条が考えていると、夕食の準備が終わった。

「いただきます!!」

目の前に並んだ料理を上条は口に運ぶ。
すると上条は少し料理の味に違和感を覚える。

「あれ、味付け変えた?」

「…どうかしたの?」

「いや、今日の料理も滅茶苦茶美味いんだけど…
 何ていうか、いつものほうが安心するっていうか」

「今日の味付けは私がしたのでございますよ」

「ご、ゴメン。
 決して美味しくないというわけじゃなくて、少し違和感を感じただけというか…」

「謝ることはございませんよ。
 それだけ大事な恋人の味付けが恋しいということなのですから。
 フフフ、お若いのに既に夫婦のようでございますね」

オルソラの言葉に美琴は嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
そして上条はやはり自分は美琴がいないと駄目なんだということを、改めて自覚するのだった。
食事を食べ進めながら上条はオルソラに追っている魔術師について改めて質問する。

「大変申し上げにくいのですが、実は私二つの組織に同時に追われているのです」

「二つの組織?」

「私は主に魔道書などの暗号を解読することを生業としているのでございますが、
 先日ある曰くつきの魔道書の暗号を解読することに成功してしまったのでございます。
 その結果、所属していた組織から危険分子として追われる形になってしまい…」

「その所属していた組織がオルソラ追ってる組織の一つってわけか…。
 そしてその組織の名前は?」

「…ローマ正教」

「ローマ正教ですって!?」

オルソラの言葉に美琴が驚いた声をあげる。

「何だ、魔術師の組織なのに知ってるのか?」

「…当麻はもう少し勉強しないとね。
 ローマ正教っていうのは十字教旧教における最大の宗派よ。
 私が知っているのは別に魔術結社とかそういう団体じゃなくて、普通の宗派として有名だからよ」

「仰る通りでございます。
 ローマ正教は世界113ヶ国に教会を持ち、実に20億を数える教徒を従える大組織です」

「ちょっ、20億人ってそんなの逃げ切れるわけ…」

「だから少し頭を使いなさいって。
 もし20億人も魔術師だったら世界の人口の四分の一以上が魔術師ってことになっちゃうわよ。
 その中でも魔術に関わる人間はほんの一握りってことよね?」

美琴はオルソラに確認するように言う。

「そうなのですよ。
 あなた様は随分と聡明な恋人をお持ちなのですね」

地味に美琴に頭が悪いことを指摘された気がして、上条は項垂れながら頷く。

「でもあなた様の心配はある意味、当たっているのでございます。
 いくら一握りといっても教徒の数は20億人。
 私を追ってる部隊の人数も200人を超えていますから」

「200人の追跡部隊って、よく逃げ切れたな」

「いえ、私は一旦他の組織に攫われたのでございます。
 そして追跡部隊とその組織が戦闘を行っている隙を見て逃げ出したのでございます」

「何か話が大事になってきた気が…」

「あなたを追っている組織のもう一つがあなたを攫った組織ってことでいいのかしら?」

「はい」

「だけど流石に学園都市の中にそんな大規模な魔術師たちが侵入することは出来ないだろうし、
 取り合えず追手といっても時間を稼ぐことくらいは…」

上条がそう言い掛けた時…

「ところがそうもいかんのよな」

何処からかともなく聞こえてきた声と共に、上条の部屋の窓ガラスが叩き割られた。



上条は咄嗟に飛び散らばったガラスから美琴とオルソラを庇うように二人を押し倒す。
ガラスの破片が上条の頬を少し切ったが、それ以外は美琴にもオルソラにも怪我はなかった。
上条が割れた窓ガラスの方を見るとそこから一人の男が土足で上がりこんでくる。
クワガタのような髪型に赤十字が染め抜かれたぶかぶかのTシャツにだぼだぼのジーンズを履いている。
そして何よりも異様なのは刀身が波状になっている巨大な剣を担いでいる。
上条はガラスの破片が届いていないベッドの上に美琴とオルソラを担ぎあげると二人を庇うように男に向かって対峙する。

「一時的にだが学園都市はローマ正教に対してオルソラ嬢を捕まえるために学園都市内での行動の自由を許可した。
 まだ学園都市には辿り着いていないが、後一時間もしないで追跡部隊がやって来るぞ。
 オルソラ嬢が我々に対して不信感を抱いてるのは承知しているが、グズグズしてる暇はないのよな」

「…そりゃ他所様の部屋の窓ガラスを叩き割って部屋の中に土足の中に進入するような男は信用できないよな」

「時間がないと言ったはずだ。
 それとも名乗れば部屋の中に招きいれてくれたのか?」

「…」

「ウチのもんが命がけでローマ正教の足止めに徹している」

男がそう言った瞬間、オルソラの顔が青褪めたものに変わる。
その心境は誰かの心配をするというよりも自分のした軽はずみな行為を悔いるものだったのだが上条には分からない。

「命がけで戦ってるって、そこまでして魔道書の力が欲しいのかよ!?」

「それは…」

男が何か言いかけた時、オルソラが上条の言葉を否定するように言った。

「違うのです。
 天草式の皆さんは恐らくローマ正教に処刑されるであろう私を救うために
 全ての原因である法の書諸共私のことを攫ってくださったのです」

天草式と法の書という新たな言葉に上条は少し戸惑うが話の流れからして天草式というのが目の前の男が所属する組織、
そして法の書というのが魔道書のことで間違いないだろう。
しかしオルソラの言葉には明らかに矛盾することがある。

「でもだったら何で天草式からも逃げるような真似を?」

美琴に聞かれてオルソラの代わりに男が答える。

「所詮俺達も魔術師ってことなのよな。
 いくら口で助けると言ったって簡単に信じられる人種じゃない。
 それに人を信用できなくなるくらい法の書っていうのは危険な代物なのよな」

「どうしてそこまでしてオルソラのことを助けようとしたんだ?」

「…救われぬ者に救いの手を。
 それが俺達が女教皇様から受け継いだ精神だからな」

何故か聞き覚えがある言葉が上条の胸に突き刺さる。
そして目の前の男が嘘を言っているようにも感じられない。
オルソラとは恐らく特殊な立ち位置からすれ違いを起こしてしまった。

「オルソラ、俺はこの男が信用にたる人物だと思う。
 オルソラはどうするべきだと思う?」

「私は、私は私のために戦ってくれている天草式の方々を助けたい!!」

「だな」

「だなじゃないのよな!?
 それじゃあ本末転倒…」

「救って終わりじゃ駄目なんだ、物語の終わりは誰一人欠けちゃいけない。
 天草式の人間を放っておくことは却下だ。
 それよりもオルソラの身の振り方について、何か頼る当てはあるのか?」

「それは…」

「俺は魔術師の世界にあまり詳しいわけじゃないけど、イギリス清教を頼ることは出来ないのか?」

「なっ、まさかお前さんイギリス清教にパイプがあるのか?」

「パイプってほどじゃないが個人的な知り合いがいるんだ。
 もしかしたら力になってくれるかもしれない」

「お前さん、一体?」

「天草式とローマ正教が戦っている場所に急ぎましょう。
 大覇星祭で警備が甘くなっている今なら、外に出るチャンスが…」

美琴がそう言い掛けた時、上条と美琴の携帯が同時に鳴った。
何事かと思って二人が携帯を見ると、それは学園都市の住民のみに発進される緊急のメールだった。
そしてメールの中身を見て上条と美琴が固まる。
そこにはオルソラと目の前の男…建宮斎字がテロリストとして指名手配されたことを告げる、
二人の写真が添付されたメールだった。







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