第6章 ②ヒーローの敗北
「すまない、これは僕の腕でも繋ぎ止めることは出来ない。
切断するしか道はないだろう」
切断するしか道はないだろう」
冥土帰しから残酷な現実を告げられてから数時間、上条は病院のベッドの上で眠っている。
しかし上条の左肩から先は存在しない。
前方のヴェントに敗北した上条は徹底的に痛めつけられ蹂躙された。
ヴェントの天罰術式によって昏睡した美琴の目が覚めた時には上条はすでに虫の息の状態だった。
奇跡的に一命を取り留めたものの上条の体の損傷は大きく、特に左腕は冥土帰しを以ってしても修復することは不可能だった。
しかし上条もただ敗北したわけではなく、ヴェントの天罰術式の霊装を破壊しヴェント自身を撤退させることに成功していた。
そして上条が眠る病室には三人のレベル5が重苦しい空気を放ちながら集結していた。
その中の一人である美琴は上条の残された右手を握りながら、涙を流して祈るように目を閉じていた。
しかし上条の左肩から先は存在しない。
前方のヴェントに敗北した上条は徹底的に痛めつけられ蹂躙された。
ヴェントの天罰術式によって昏睡した美琴の目が覚めた時には上条はすでに虫の息の状態だった。
奇跡的に一命を取り留めたものの上条の体の損傷は大きく、特に左腕は冥土帰しを以ってしても修復することは不可能だった。
しかし上条もただ敗北したわけではなく、ヴェントの天罰術式の霊装を破壊しヴェント自身を撤退させることに成功していた。
そして上条が眠る病室には三人のレベル5が重苦しい空気を放ちながら集結していた。
その中の一人である美琴は上条の残された右手を握りながら、涙を流して祈るように目を閉じていた。
「私が当麻のことを守れれば…」
悔やむような美琴の呟きに、レベル5の一人…垣根帝督は諭すように言った。
「だから何度も言ったろ、第三位。
あの魔術には上条以外どうやったって抗うことが出来なかった。
いくら悔やんでも結果が変わるわけじゃねえんだぞ」
あの魔術には上条以外どうやったって抗うことが出来なかった。
いくら悔やんでも結果が変わるわけじゃねえんだぞ」
しかし垣根の言葉は美琴に届いた様子はない。
そして残るレベル5の一人…一方通行は何処か怪しむように垣根のことを見据えていた。
そして残るレベル5の一人…一方通行は何処か怪しむように垣根のことを見据えていた。
「てめェ、一体何を知ってやがるンだ?
それに俺のことを屑だと言いながら、どォして助けるよォな真似をしやがった?」
それに俺のことを屑だと言いながら、どォして助けるよォな真似をしやがった?」
猟犬部隊のリーダーである木原数多に敗北した一方通行と打ち止めを救い出したのが垣根だった。
一方通行も相当な重症を負っていたが今は治療を終え、体のあちこちに包帯を巻いているものの歩けないほどではなかった。
一方通行も相当な重症を負っていたが今は治療を終え、体のあちこちに包帯を巻いているものの歩けないほどではなかった。
「第一位、てめえは俺がもっとも嫌悪するタイプの人間の一人だ。
圧倒的な力を持ちながらも、自分より遥かに劣る弱者をてめえの勝手な都合で嬲り殺してきた。
確かに俺にはてめえのような屑を助ける義理なんて全くねえよ」
圧倒的な力を持ちながらも、自分より遥かに劣る弱者をてめえの勝手な都合で嬲り殺してきた。
確かに俺にはてめえのような屑を助ける義理なんて全くねえよ」
「…」
「だが、てめえの隣にいる女の子まで見殺しにしていい理由にはならねえ」
垣根は一方通行の隣に立っている打ち止めを横目で見ながら言った。
「…それに俺は確かにてめえが嫌いだが、てめえが自分を殺して変わろうとしてることも知ってる。
その証拠に木原以外の人間は殺そうと思えば簡単に殺せたはずなのに止めを刺そうとしなかっただろう?
人によっちゃあ甘いって言うのかもしれねえが、以前のてめえから見れば少しは変わったって証拠だろ」
その証拠に木原以外の人間は殺そうと思えば簡単に殺せたはずなのに止めを刺そうとしなかっただろう?
人によっちゃあ甘いって言うのかもしれねえが、以前のてめえから見れば少しは変わったって証拠だろ」
「チッ」
(アレイスターの直属部隊を潰しても何のお咎めもねえし、一体どうなってやがるんだ?
それに科学と魔術の敵対の構図がここまで表面化しちまった以上、
俺や上条たちが目標とする学園都市の上層部を潰す計画も遅れることは必須だろう。
あれ以来あの人との連絡も取れねえし、まあ今は様子見をするしかないんだろうな)
それに科学と魔術の敵対の構図がここまで表面化しちまった以上、
俺や上条たちが目標とする学園都市の上層部を潰す計画も遅れることは必須だろう。
あれ以来あの人との連絡も取れねえし、まあ今は様子見をするしかないんだろうな)
それ以降は一方通行と垣根の会話が続くことはなかった。
そして会話のない病室には上条の心電図の音だけが響いていた。
そして会話のない病室には上条の心電図の音だけが響いていた。
上条が目を覚ましたのは学園都市にヴェントが襲撃してから二日後の10月2日のことだった。
学園都市で起きた事件は謎のテロリストが起こした事件として発表され、
死亡者が出なかったと発表されたことから多くの人間が昏睡に陥った大事件であったものの
9月30日の事件が人々の記憶に深く残ることはないのだった。
上条が目を覚ますと美琴は上条に大まかな事件の顛末を話した。
学園都市で起きた事件は謎のテロリストが起こした事件として発表され、
死亡者が出なかったと発表されたことから多くの人間が昏睡に陥った大事件であったものの
9月30日の事件が人々の記憶に深く残ることはないのだった。
上条が目を覚ますと美琴は上条に大まかな事件の顛末を話した。
「…そうか、特に混乱も起きてないのか」
「…うん」
「でもまだ安心することは出来ないな。
あの敵意を抱いた人間を無条件で昏睡させる霊装は何とか壊せたけど、いつまた襲ってくるか分からねえし」
あの敵意を抱いた人間を無条件で昏睡させる霊装は何とか壊せたけど、いつまた襲ってくるか分からねえし」
「…ねえ、当麻」
「どうした?」
「二人で逃げよう」
「美琴?」
「もう過去のことは全て忘れて二人だけで暮らすの。
科学とか魔術とかそんな危険なことにもう関わる必要はないよ」
科学とか魔術とかそんな危険なことにもう関わる必要はないよ」
「…」
「いつかは子供も出来て、その子供が結婚したら孫も生まれて…
本来の人の幸せってそういうことでしょ?
誰か見知らぬ人のために頑張る必要なんてない、二人の幸せだけ考えようよ」
本来の人の幸せってそういうことでしょ?
誰か見知らぬ人のために頑張る必要なんてない、二人の幸せだけ考えようよ」
「…それもいいかもな」
「でしょ?」
「俺達って都会育ちだし、田舎に行って自然に囲まれて…」
「うん!!」
「確かに俺は少し気張ってたかもしれない。
俺が一番に幸せにしたいのは美琴なんだから…」
俺が一番に幸せにしたいのは美琴なんだから…」
「…当麻」
「…でも、美琴を本当に幸せにするためにも俺は逃げるわけにはいかない」
「え?」
「自分じゃ気付いてないかもしれないけど、美琴って夜に魘されて涙を流してるんだ」
「…」
「それに俺はまだ本当の美琴の心からの笑顔を見たことがない。
そんな状態で逃げても、俺はきっと本当の幸せを美琴に与えることが出来ないと思う。
アイツらが狙ってるのは学園都市だ。
でも学園都市の上層部だけじゃない、学園都市そのものを破壊しようとしている。
そうすれば俺達の大事なものまで壊されちまうかもしれない」
そんな状態で逃げても、俺はきっと本当の幸せを美琴に与えることが出来ないと思う。
アイツらが狙ってるのは学園都市だ。
でも学園都市の上層部だけじゃない、学園都市そのものを破壊しようとしている。
そうすれば俺達の大事なものまで壊されちまうかもしれない」
「…」
「そうしたら美琴は優しいから二度と笑えなくなる。
そして美琴が笑えなくなったら、俺も幸せになることなんて出来ないよ」
そして美琴が笑えなくなったら、俺も幸せになることなんて出来ないよ」
「…当麻」
「だから俺は他の誰のためでもない俺と美琴の幸せのために戦う。
…ごめん、これは俺の我侭だ。
だから美琴は安全な場所で、俺の帰りを…」
…ごめん、これは俺の我侭だ。
だから美琴は安全な場所で、俺の帰りを…」
しかし上条が言い終える前に美琴が上条の口を塞いだ。
「私こそ、ごめんね。
当麻が目の前で死に掛けてたのを見て、自分を見失ってた。
だからそれ以上は言わないで、今度こそ私は当麻の隣で戦って当麻の背中を守るから」
当麻が目の前で死に掛けてたのを見て、自分を見失ってた。
だからそれ以上は言わないで、今度こそ私は当麻の隣で戦って当麻の背中を守るから」
そう言って美琴は上条のことを抱きしめた。
上条も美琴のことを抱きしめ返そうとするが、今になって左腕がないことを痛感する。
上条も美琴のことを抱きしめ返そうとするが、今になって左腕がないことを痛感する。
(でも俺にはまだ右腕がある。
そして例え右腕を失っても戦いようはあるはずだ。
だから俺は逃げない、本当の意味で美琴を幸せにするまでは…)
そして例え右腕を失っても戦いようはあるはずだ。
だから俺は逃げない、本当の意味で美琴を幸せにするまでは…)
上条は残された右腕で左腕の分も心を込めて美琴のことを抱きしめながら誓う。
そんな二人の下に冥土帰しと一人の「人間」が現われる。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える「人間」と対面した時、
二人の反逆者の物語は次のステージへと進む。
科学と魔術の均衡が崩れる時、新たな物語が幕を開けようとしていた。
そんな二人の下に冥土帰しと一人の「人間」が現われる。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える「人間」と対面した時、
二人の反逆者の物語は次のステージへと進む。
科学と魔術の均衡が崩れる時、新たな物語が幕を開けようとしていた。
第一部完