とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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魔草調合師バルビナ

名前だけは立派である。どんな恐ろしい魔術師かと思われるかも知れないが、その実態はミラノで土産物売りのアルバイトに励む金髪碧眼のそばかすが似合う10代前半の少女である。

10代前半の少女だから恐れる必要がない、と言えないのが魔術師の棲む世界。同じことは学園都市の能力者にも言えること、能力者の最高位レベル5の一席に座す御坂美琴もまだ14才。

ではバルビナもと言うと残念ながら戦闘力を基準にする限り小物。

但し、その交友関係には大覇星祭の初日に学園都市を制圧しようとしたオリアナ、リドヴィアのコンビ。それに魔術結社の首領とも仕事上の付き合いがあるらしい。

そのバルビナが何故、学園都市に居るかと云うと学園都市制圧が目的。魔術師として名を成そうとするのが目的ではない。

同じミラノの教会に所属し口うるさく思いながらも人助けとなったら馬が合ったリドヴィア、そしてリドヴィアとコンビを組んでいたオリアナが目指した学園都市制圧、ローマの名の下に学園都市を軍門に下そうとした。結果は失敗に終わり二人は今、イギリス清教に捕まっている。

その二人の代わり、望みを果たそうと云うのがバルビナの動機であった。

問題は力量的にバルビナが真っ正面から挑んでも無理な話しだった。神の右席さえも撥ね除けている学園都市。

バルビナでは蟷螂の斧にもなりはしない。

ではどうするか?

バルビナは魔術的な物品を学園都市に蔓延させ混乱させてしまおうと方策を立てた。

浅はかと言える。混乱させてその先の展望があるかと云うと、無い。

そのうえ、強力な霊装の類は管理も厳しく、流通も制限されている。混乱させられるだけの代物を学園都市に運び込めやしない。

しかし、バルビナは計画を実行に移し、それは一応の成功を納めていた。商品を選択するバルビナの慧眼ゆえの成功。

そしてバルビナは………………動機を忘れた。

売れるのだ。

噂が噂を呼び、バルビナが扱うマジックアイテムが飛ぶように売れるのだ。

バルビナが用意した魔術的物品は詠唱や儀式を必要としない物、流通の目が厳しく無い、一定の効用は期待できても絶大な効果は発揮しない物となる。

一番の売り上げ商品である恋愛成就のお守りを例に取れば恋が叶う魔術ではなく、恋心が積極的になる作用がある物といった具合。





その程度の効用しかなくても相手に積極的になり、おかげで恋人同士になった例が幾つか生まれた。

それが噂となり、バルビナが扱う品物が売れている。売上が右肩上がりになるにつれバルビナは本来の目的を忘れた、元来の商売人気質から金儲けに走った。

今はミラノで土産物売りしていた数年分を短期間で稼ぎ出しバルビナはウハウハ状態である。

が、そろそろ潮時でもある。

最初の目的通りと言えるのだが、数が出回れば副作用を起こす者も一定数出てくる。

具体的にはやはり魔術と能力者は相性が悪いのか倒れる者、元々ストーカー気質を持っていたのかストーカー行動を取る者。ある程度の数がでてくれば着目される。

統計を取ればわかる。以前の数値より上昇していれば当然その原因を探ろうとする。

そして共通項を探り出す。

バルビナがやっている事がバレる。

土御門はそのバルビナを追いかけていた。

「メンドクサいにゃー」

正直、事が小さい。

天使が堕ちるとか、ローマ正教が侵攻するとか、第三次世界大戦とかに較べると規模が小さい。

放っておいてもさほど問題にならない、ならないが放って置くわけにもいかない。

科学と魔術、両方の領域が曖昧になり、世界のバランスが崩れる始まりになりかねない。

両陣営とも躍起になるほどでもないが、なんとかせねば成らずお鉢が回ってきたのが土御門元春その人。

簡単にケリをつけられると思っていたらドッコイそうは問屋がおろさなかった。

危機察知能力が高いのか逃げられる。姿を見ることもできない。

それもその筈、バルビナはオリアナから逃走術を伝授されてるうえに、土産物売りのアルバイトに出るバルビナを連れ戻そうとするリドヴィアと連日の実戦練習をしている。

一筋縄ではいかない。

土御門が手間取っているうちに上条周辺がきな臭くなってきた。恋とか愛に疎い上条に振り向いて貰いたい女性が実力行使にでてくる可能性が高まっている。告白するぐらいで収まれば良い方、拉致監禁、心中を選択されたら堪らない。

特定して個別対処するにも残念ながら数が多く特定しきれない。

この状況に今日まで上条自身が全く気がついておらず、これまた土御門が世話を焼くしかなかった。

「早く捕まえんと舞夏とラブラブできないにゃー」

バルビナを捕らえても、それで終わりにならないことを知っている土御門は嘆く。



場所は戻ってここはとあるファミレス、少女四人組みによる鯖缶、鮭弁の持ち込みなどに耐えた末にお客様満足度優先になった素晴らしいファミレスである。

そこで上条と美琴は恋人役の演技を始めて以来、最大の危機を迎えていた。

「ちぃーーーすっ、御坂さん」

隣席より声をかけてきたのは美琴の友人、佐天涙子。

「な、ななななななっ、さささささんてんさん」

演技中の美琴からしたら第一位より恐ろしい敵。

(あっ今、噛みましたね御坂さん)

「ヒドいですよぉ、御坂さーん。私、成績悪くても三点なんて取ったこと在りませんからぁ!」

佐天が上条と美琴の席に顔を出しているのは上条の背後から

「あっ、えっそんなつもりじゃ、ごめんなさい佐天さん」

佐天は席に膝を乗せているのか上条の頭の位置より高いところに顔が見える。

「ん?あっ佐天さんか」

上条が背後を見上げるようにし佐天の名前を言った。

「あっ、上条さんもちぃーーーす。先程の話し聞かせて貰いました上条さん大変でしたね、記憶を無くされてたんですか、では気になりますよね、御坂さんとの出逢いがどんなだったか」

「それは」

「佐天さん行儀悪いですよ」

「あっ初春さんまで……なんでここに?」

延長線上にこれまた友人の初春飾利の姿も見える。

「ナンでと言われましてもここはファミレス、夕食時ですよ?初春と二人で食事しに来たに決まってるじゃないですか」

「ああ、そうよね。じゃっ佐天さんに初春さんごゆっくり」

「御坂さん?」

「なっナニかな佐天さん?」

「質問に答えて貰ってませんよ?上条さんと御坂さんの出逢いっ! 上条さんも気になるって言いましたよね」

「いや、佐天さん、俺は言ってないぞ」

「うん? あれ? ア…当麻は佐天さんを知ってたっけ?」
(知ってる限り二人が会ったことは……???)

「おー、今はもう名前で呼び合われてるんですね、良かったですね御坂さん」

「よっ、良かったって」
(わあーっ、わあーっ、わあーっ!)

「その佐天さんとは大覇星祭の借り物競争でお守りを借して貰ったんだ、美琴とは知り合いって聞いてたけど美琴と友達なんだよな」
(だ、大丈夫なのか?このまま演技を続けても)

「上条さんまで名前を呼ばれるんですかっ! これは本当におめでとうございます!」





「にゃ、にゃにを言ってるのかにゃ佐天さんは」
(ぐぎゃーっ!不味い不味い不味いわよ!)
「それで当麻との出逢いの話しでしょ!」
(罠に嵌まるようだけど、話しを変えないと!)

そこで深呼吸を一つ。

沸いていた脳に酸素が送り込まれ、頭が冷めてくる。気持ちが落ち着く。

美琴の前、上条の背後には獲物を狙う佐天の姿。

覚悟を決める。

話しを再開する前に美琴は上条の目を見詰める。

(このまま演技を続けるわよ!)

(いいのか?友達に誤解されることになるんだぞ)

(頼まれたのは私、引き受けたのは私、身に危険が及ぶのはアンタ。アンタを守るために引き受けたのに今更引き下がれますかってのよ!)

(すまん美琴)

(良いわよ、あれは事情があって演技していたって誤解を解けば佐天さん達も納得してくれるわ)

(困るのは良かったとかおめでとうございますとか今みたいに言われた時よね……鈍感な当麻は気づかないでしょうけど)

(鈍感って、上条さんは鈍感じゃありませんのことよ?)

(そんな事まで読み取るなぁぁぁ!)

(す、すいませんです、美琴さん)

目で会話すること5秒、意志疎通は終わった。最凶の敵を迎え撃つ。

「じゃっ、話すわよ」

「後で何が残念だったかも話して下さいね」

「ぐっ……いつから居たの?」

「ちょうどその前からですね」

「その時言ってくれれば良かったのに」

「いやぁー、お邪魔しちゃいけない雰囲気だったので」

「そ、そう……」

「ではお願いしますね」

「ああ、うん……あれは6月の半ばだったかな」

「ほう」

「ちょっと繁華街にでていた時にチンピラ数人に絡まれたのよ」

「常盤台の生徒にですか?」

これは初春。

常盤台中学は学外であろうと制服の着用を原則義務づけている。常盤台生は全員がレベル3以上、初春から見ると常盤台生に絡むチンピラなど命知らずに等しい。

「結構いるのよ、被害にあった子は少ないけどお嬢様学校イコール大人しい子と思って絡んでくる輩が」

「そうなんですか」

「で、ソイツらが私を取り囲んで居るところへ」

「上条さんが現れたんですね!」

「まあ、ね」

「うわっ、白馬の王子様みたいです」

気づけば行儀が悪いと言っていた初春まで佐天の横に並び、食い入るように話を聞いている。






美琴は誰に向かってか、ため息をつき、

「白馬の王子ね、だったら良かったわよ」

「えっ?」

「人のことガキだとかガサツだとか見た目お嬢様の反抗期だとか私に向かって言ったのよね」

「うわっ」

「助けに入ってそれですか、上条さん?」

ダラダラと汗が噴き出す上条、さらにその後が予想できるのが怖い。

「と言っても当麻は知り合いのフリして私を連れ出そうとしてたのよ、それを私が誰よアンタ?と言っちゃったもんだから」
(誰もが見て見ぬ振りする中、助けようとしてくれたのは当麻だけ、でもこれ言うと佐天さんに突っ込まれるから言わない)

「それでも、言う事じゃないですよ」

「知り合いのフリって言うのも上条さん、情けないじゃないですか?」

「漫画の主人公じゃないんですから数人を相手なんかできません!とその頃の上条さんは考えたんですよ、きっと……それに」

火の粉がかかる上条、ならばと

「美琴、その後どーしたんだ?話し難そうだったのはどーゆーことかな」

「………………焼いたわ」

「やっぱり」

「うわぁ」

佐天と初春も美琴が過剰なスキンシップをしてくる白井を焼いている姿を見ている、納得であった。

「で、では上条さんも一緒に?」

「それが当麻は全くの無傷」

「無傷!?」

「御坂さんのレベル5の電撃を受けてっ!?」

「そっ。当麻には私の力が効かないのよ」

「凄っ!」

「まあ、私も吃驚して聞いたら無能力者だなんて言うし」

「それで無能力者ですか?」

「そうね、そんな訳あるかっ!と追っかけ回したわね、うん」
(この調子で佐天さんの追求を躱していければ……)

「白井さんが言ってましたね、御坂さんが一晩中追いかけ回している方がいるって白井さんの愚痴を聞かされました」

「一晩中って、そんなに?」

「その辺はまともに相手しなかった当麻が悪い!」

「そ、そーですか上条さんが悪いのですか、なんか記憶を無くす前の俺って哀れだなー」

「ほう、言いますか? あっ、思い出した。本気出していいのか、なんて威しかけてきたこともあったのに」

「ちゅ、中学生の女の子に威し……当時の俺って」

「その後、急に会う機会が減って、その頃に当麻は記憶喪失になってたのね?」





「そーらしい、っていうか何で記憶を失ったかさえ良くわかってねーんだが」
(インデックスに関わるナンか、とはわかってんだがその時の状況を知っているのはステイルぐらい? 改めて聞いてもないしな)

「それが私が知ってる記憶を無くす前の当麻よ」
(これで話を打ち切って、と)

「へえ、そんな出逢いをしながらも今はお付き合いをされてるんですね?」

「ま、まあね」

答えるしかない美琴。

「お、おう」

それに感動する初春。

「それだと、なかなか紆余曲折があったと思いますが、キッカケは御坂さん?」

まだまだ追求する佐天。

「えっ、キッカケ?」

「御坂さんが上条さんを好きになったキッカケですよ」

たしかに今の話で恋するキッカケにはならない。上条が記憶を無くす前、その頃の上条は美琴にとって気になるヤツという認識。もやもやさせる腹立たしいヤツという認識が先に立っていた。

それが変化したのは暫く逢えないでいた間に起こった絶対能力進化実験。一人実験阻止に暗闘していた美琴の前に上条は現れた。

そして、その頃には既に記憶を失い、始めて会ったに等しかった美琴を含め上条は救っていってしまった。

無茶をして。

自覚したのはずっと後でも美琴は上条に恋したのはこの時。佐天や初春に話せる内容ではない。

演技中というカムフラージュ以前の問題。

どう騙くらかそうか、美琴が考えていると、

「うーん、白井さんが心配してた時期がありましたよね」

「そうそう、私たちも御坂さんに会えなくて」

(まっ、不味い)

「ですが、元のように私たちも御坂さんに会えるようになると……御坂さん、少し変わっていたような?」

ニヤリと笑う佐天、アレは美琴の名誉を重んじ佐天一人の胸の内に秘めていたが、ここで宝刀を抜く。

「上条さん、クッキーは美味しかったですか?」

「へっ、クッキー?……あっ、あー見舞いのクッキーか。旨かったよ、美琴」
(一方通行と戦って入院した時に貰ったクッキーのことだよな)

(ままま、不味い!)
「そ、そう良かったわね」

「さすがは高級店のクッキーだよな」

(ギャーーーっ!不味い、不味いわよ)

「えっ??????…………御坂さん、あの手造りクッキーは?」

出来上がるとすぐに渡しに行ったと佐天は記憶していた。

「手造りクッキー?」

上条の疑問の声。

上条が知らないのは明白。





トンっとテーブルが鳴る。

美琴の額がテーブルの上に落ちていた。

「美琴?」

佐天が自分の部屋を提供し佐天も手伝った手造りクッキー。

「その様子だと上条さん貰ってないんですね?」

渡す相手についてからかうと慌て、粉を撒いていた美琴。美琴の方が年上であるのに可愛く思えた。

間違いなくこの人、上条に渡しに行ったはず。

「あ、ああ」

雑音が消える。

店内の話し声、ざわめきはもう聞こえない。

真実を曝す舞台の幕があがる。

「……渡せなかったのよ」

顔を伏せたまま美琴は言葉を漏らす。

「渡そうとしたのよ」

「えっと、いつ?」

「退院して鉄橋で会ったとき」

「鉄橋って、あーそういや会ったよな」

「ありがとう、と言おうとしたら変な勘違いされて……違うわね、素直になれなくて渡しそびれたの」

「そ、そーだったのか」

「……あのとき、初めて御坂って呼んでくれたの」

「…………それまで名前を呼んだことなかったのか俺は?」

「無い!ビリビリ中学生とか、まともに呼んで貰った覚えは無いわ」

「その失礼なヤツだったんだな俺は」

「変わらないって断言してあげる」

「えっ」

「記憶を無くす前も今もアンタは変わらない、同じ上条当麻よ」

「美琴」

「あのときアンタのことを好きになったのよ」

「美琴、ありがとう」

演技マジックはまだ生きている。











「私たち空気になっちゃったね」

「そうですね、今は空気になっていましょう」



店内では咽び泣きが聞こえる。











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