第2章(1)
「なンだァ、今日も超電磁砲の愛妻弁当かよ」
上条が広げた弁当を見て一方通行はからかうように言った。
青髪ピアスは上条の弁当を見てハンカチを銜えながら涙を流し、
土御門は何故か学園都市に侵入した魔術師に向けるような殺気を放っている。
上条は普段この三人と昼食を共にすることが殆どだ。
そして上条は特に意に介した様子も無く嬉しそうに言った。
青髪ピアスは上条の弁当を見てハンカチを銜えながら涙を流し、
土御門は何故か学園都市に侵入した魔術師に向けるような殺気を放っている。
上条は普段この三人と昼食を共にすることが殆どだ。
そして上条は特に意に介した様子も無く嬉しそうに言った。
「いやー、美琴が毎日弁当を作ってくれるお陰で昼休みに飢えることもないし、
おまけに待ち合わせに間に合うように部屋を出るから遅刻することもない。
上条さんとしては大助かりですよ」
おまけに待ち合わせに間に合うように部屋を出るから遅刻することもない。
上条さんとしては大助かりですよ」
上条の話はそこから自然な惚気話へと発展していく。
先日、上条から結婚を前提とした交際を申し込まれた美琴は上機嫌な日々が続いていた。
特に態度などに変化があったわけではないが、付き合いの長い上条には分かる。
そして美琴から昼食の弁当と夕食は毎日作ってあげたいと提案があったのだ。
先日、上条から結婚を前提とした交際を申し込まれた美琴は上機嫌な日々が続いていた。
特に態度などに変化があったわけではないが、付き合いの長い上条には分かる。
そして美琴から昼食の弁当と夕食は毎日作ってあげたいと提案があったのだ。
『な、何よ、将来は朝食も含めて全部作ってあげるんだからいいじゃない!?
それとも私が作った料理が食べられないって言うの?』
それとも私が作った料理が食べられないって言うの?』
と、これまたテンプレ通りの言葉に押し切られた上条は
素直に美琴の厚意を受け取っているのだった。
一緒に並んで学校に登校するなど、前に比べてより恋人らしくなった関係に
上条と美琴は気恥ずかしさを感じながらも充実した日々を送っている。
ちなみに上条の惚気話を聞いた三人は…
素直に美琴の厚意を受け取っているのだった。
一緒に並んで学校に登校するなど、前に比べてより恋人らしくなった関係に
上条と美琴は気恥ずかしさを感じながらも充実した日々を送っている。
ちなみに上条の惚気話を聞いた三人は…
「くっ、これだからリア充は嫌いだ。
男の友情なんて簡単に捨て去っていきやがる」
男の友情なんて簡単に捨て去っていきやがる」
と、青髪ピアスは関西弁を用いるのを忘れ去り、
「俺には舞夏がいるから何も問題はないはずにゃー。
でもこの敗北感は何ぜよ?
教えてくれ、舞夏ーーーー!?」
でもこの敗北感は何ぜよ?
教えてくれ、舞夏ーーーー!?」
と、土御門は奇声を発して、
「あン、何だか妙ォにこのコーヒーは甘く感じやがるなァ?」
と、一方通行は無糖のブラックコーヒーを片手に首を傾げている。
そして一方通行は自分が話を振ったことに責任を感じたのか、
話題を変えるべく自身は初めて参加する大覇星祭について話を始める。
そして一方通行は自分が話を振ったことに責任を感じたのか、
話題を変えるべく自身は初めて参加する大覇星祭について話を始める。
「それよりも大覇星祭ってェのは、毎年こンなに面倒臭ェもンなのか?
正直放課後の準備とか、かったるくて仕方ねェンだが…」
正直放課後の準備とか、かったるくて仕方ねェンだが…」
「まあこんなもんじゃないかにゃー」
土御門が何処か面倒臭そうに言うと上条と青髪ピアスは相槌を打つ。
「まあ中学と高校じゃモチベーションが違うって部分も少なからずあるな。
特にウチのクラスは吹寄が運営委員をやってて張り切ってるっていうのもあるし…」
特にウチのクラスは吹寄が運営委員をやってて張り切ってるっていうのもあるし…」
「でも実際の本番は暑さにやられて、だらけてしまうことが大半やな」
「あー、分かる分かる。
特に開会式なんかは地獄だよな」
特に開会式なんかは地獄だよな」
一方通行は三人の話を聞いて、大覇星祭はやはり面倒臭いものだと偏見を持ってしまう。
吹寄あたりが聞いたら怒りそうな話だが、
どういうわけか仲のいい番外個体と転入してきたばかりの姫神と一緒に席を外している。
そんなこんなで四人の平和な昼休みは過ぎ去っていく。
しかし上条には放課後、思いも寄らぬ『執行部』としての仕事が待っているのだった。
吹寄あたりが聞いたら怒りそうな話だが、
どういうわけか仲のいい番外個体と転入してきたばかりの姫神と一緒に席を外している。
そんなこんなで四人の平和な昼休みは過ぎ去っていく。
しかし上条には放課後、思いも寄らぬ『執行部』としての仕事が待っているのだった。
放課後になり『執行部』の仕事が非番だった上条と美琴は共に夕食の買出しをし、
二人で並んで上条の部屋へと向かっていた。
するとエレベーターから降りた途端に甘ったるい匂いが漂ってきた。
顔をしかめる美琴とは対照的に、上条はその匂いに覚えがあった。
部屋に向かって走り出す上条の後を美琴も追う。
そして上条の部屋にいた人物は思った通りの人間だった。
二人で並んで上条の部屋へと向かっていた。
するとエレベーターから降りた途端に甘ったるい匂いが漂ってきた。
顔をしかめる美琴とは対照的に、上条はその匂いに覚えがあった。
部屋に向かって走り出す上条の後を美琴も追う。
そして上条の部屋にいた人物は思った通りの人間だった。
「ステイル!!」
「やあ、待っていたよ上条当麻」
明らかに訝しげにステイルを見つめている美琴に上条は事情を説明する。
「前にインデックスっていう女の子について話したことがあっただろう?
その時に一緒に戦ったイギリス清教の神父だ」
その時に一緒に戦ったイギリス清教の神父だ」
「…はじめまして、御坂美琴です」
先日のシェリー=クロムウェルの件もあってか、
イギリス清教と聞いても不信感が拭えないのだろう。
美琴の声音にはまだ警戒している様子が滲み出ていた。
それを悟ってかステイルの言葉にはいつもの刺々しさはあまり感じられなかった。
イギリス清教と聞いても不信感が拭えないのだろう。
美琴の声音にはまだ警戒している様子が滲み出ていた。
それを悟ってかステイルの言葉にはいつもの刺々しさはあまり感じられなかった。
「先日のシェリー=クロムウェルの件はすまなかったね。
ただ彼女…いや僕達全体にも色々と問題があるのも事実なんだ。
許してくれとは言わないが、事情を察してもらえると嬉しいよ」
ただ彼女…いや僕達全体にも色々と問題があるのも事実なんだ。
許してくれとは言わないが、事情を察してもらえると嬉しいよ」
「イギリスは今どんな状態なんだ?」
「はっきり言って良い状態とは言い難いね。
本格的な戦闘こそ起こっていないが、各地で魔術師同士の小競り合いが続いている」
本格的な戦闘こそ起こっていないが、各地で魔術師同士の小競り合いが続いている」
「そうか…」
「今日は君達に依頼があって来た。
学園都市の上の人間には既に話をつけてあるから心配しなくていいよ」
学園都市の上の人間には既に話をつけてあるから心配しなくていいよ」
「依頼ですか?」
「そういえば美琴は初めてだったな。
偶にこうやってイギリス清教から直々依頼がくることがあるんだよ」
偶にこうやってイギリス清教から直々依頼がくることがあるんだよ」
「今回はオルソラ=アクィナスという修道女を攫って来て欲しい」
「何者だ?」
「ローマ正教のシスターで何でも『法の書』の解読に成功したらしい」
「…」
上条はステイルの言葉に押し黙る。
美琴はそんな上条の様子を不思議に思うが、上条の代わりにステイルと会話を続ける。
美琴はそんな上条の様子を不思議に思うが、上条の代わりにステイルと会話を続ける。
「『法の書』って何なんですか?」
「僕達の世界で『伝説級の魔術師』と言われる
エドワード=アレクサンダーによって書かれた魔道書だよ。
人間には使えない『天使の術式』が記されているとか、
解読と同時に十字教の時代が終わるとか、色々といわくが尽きない代物でね。
ローマ正教に兵器として利用されると厄介だから、
君達の手でオルソラ=アクィナスを回収してもらいたいんだ。
流石にバチカン図書館にある『法の書』自体はどうしようもないからね」
エドワード=アレクサンダーによって書かれた魔道書だよ。
人間には使えない『天使の術式』が記されているとか、
解読と同時に十字教の時代が終わるとか、色々といわくが尽きない代物でね。
ローマ正教に兵器として利用されると厄介だから、
君達の手でオルソラ=アクィナスを回収してもらいたいんだ。
流石にバチカン図書館にある『法の書』自体はどうしようもないからね」
「オルソラは今何処に?」
今まで口を閉じていた上条が仕事の時の顔つきと口調になってステイルに尋ねた。
「どうやら天草式と呼ばれる魔術師の集団に拉致されて日本にいるらしい。
天草式の目的が僕達と同じローマ正教の戦力の補充の阻止だったらいいけど、
そればかりは話を聞いてみないと何とも言えないからね。
僕達イギリス清教は表立ってローマ正教と対立するわけにはいかないから、
学園都市の対魔術師のエキスパートである君達『執行部』に依頼することになった。
全て任せきりにするのは心苦しいが、よろしく頼むよ」
天草式の目的が僕達と同じローマ正教の戦力の補充の阻止だったらいいけど、
そればかりは話を聞いてみないと何とも言えないからね。
僕達イギリス清教は表立ってローマ正教と対立するわけにはいかないから、
学園都市の対魔術師のエキスパートである君達『執行部』に依頼することになった。
全て任せきりにするのは心苦しいが、よろしく頼むよ」
「…分かった」
上条と美琴は天草式のいると思われる大まかな位置をステイルから聞き、
今後の取り決めを行うと学園都市の外に向かって歩き出すのだった。
今後の取り決めを行うと学園都市の外に向かって歩き出すのだった。
「美琴、天草式っていうのは相当手強いみたいだ。
何せローマ正教の部隊から一人の人間を奪取できるくらいだからな。
俺と違って美琴は対複数の魔術師との戦闘に慣れてない。
今回は基本的に俺を前衛として美琴は後方からの支援に徹するんだ」
何せローマ正教の部隊から一人の人間を奪取できるくらいだからな。
俺と違って美琴は対複数の魔術師との戦闘に慣れてない。
今回は基本的に俺を前衛として美琴は後方からの支援に徹するんだ」
「私だって当麻の隣で戦えるわよ」
「これは『執行部』の上司としての命令だ。
命令を破るなら『執行部』を抜けてもらう、分かったな」
命令を破るなら『執行部』を抜けてもらう、分かったな」
「…分かった」
美琴は何処か不満が残るようだったが渋々といった様子で頷いた。
本当は美琴も分かっていた。
上条は『執行部』の名を出したものの、本当は恋人の自分の身を気遣っていることを…
そして自分がまだ上条の隣で戦うには実力不足だということも…
すると突然、美琴の前髪からバチンと静電気のようなものが飛び出した。
本当は美琴も分かっていた。
上条は『執行部』の名を出したものの、本当は恋人の自分の身を気遣っていることを…
そして自分がまだ上条の隣で戦うには実力不足だということも…
すると突然、美琴の前髪からバチンと静電気のようなものが飛び出した。
「どうやら当たりのようだな」
今のは今のが『人払い』という人間の感覚や認識に影響を及ぼす術式の効果と、
美琴の能力の制御法が競合を起こした結果、軽く美琴の能力が暴走したものだった。
実はこれか魔術師のねぐらを探すのに役立つ。
上条は『幻想殺し』という異能を打ち消す右手を持つため、
例え『人払い』という術式が張り巡らされていても
気付かず通り抜けてしまうことが殆どだった。
その場合、例え魔術師が近くに潜伏していても見逃してしまうことが多い。
しかし美琴と行動を共にすることで、そういった術式にも気付くことが出来るのだった。
美琴の能力の制御法が競合を起こした結果、軽く美琴の能力が暴走したものだった。
実はこれか魔術師のねぐらを探すのに役立つ。
上条は『幻想殺し』という異能を打ち消す右手を持つため、
例え『人払い』という術式が張り巡らされていても
気付かず通り抜けてしまうことが殆どだった。
その場合、例え魔術師が近くに潜伏していても見逃してしまうことが多い。
しかし美琴と行動を共にすることで、そういった術式にも気付くことが出来るのだった。
「話し合いで済めばいいが上手くいかなかった場合、
俺が囮になって敵を引き付けるから、美琴は電磁波のレーダーで敵の動きと
オルソラが囚われていると思われる場所の特定を急いでくれ」
俺が囮になって敵を引き付けるから、美琴は電磁波のレーダーで敵の動きと
オルソラが囚われていると思われる場所の特定を急いでくれ」
「うん!!」
そして上条と美琴の共同任務が幕を開けるのだった。
結果として話し合いは決裂に終わった。
というよりも話し合いに至る前に天草式が襲ってきた。
『人払い』の術式を抜けられたことにより焦りが生じたらしい。
というよりも話し合いに至る前に天草式が襲ってきた。
『人払い』の術式を抜けられたことにより焦りが生じたらしい。
「くっ!?」
しかし上条に攻撃を仕掛けたはいいが、約50人にも上る天草式の戦闘メンバーは
一人しかいない上条相手に苦戦を強いられていた。
天草式は幕府の迫害から逃れつつも十字教を信仰するために仏教や神道で
カモフラージュに『偽装』を重ねた宗派であり多角宗教融合型十字教とも称される。
用いる戦術もまさしく『偽装』で、
本命かと思えばフェイントで、フェイクかと思えば本物の魔術が襲ってくる。
よって天草式の術式を初見、しかも何の知識もなしに見切るのは不可能に近い。
にも拘らず上条は正確に物理攻撃と魔術による攻撃を見抜き、
確実に攻撃を仕掛けダメージを与えてくる。
それは上条の長年に渡る戦闘訓練と幾多に渡る魔術師との戦闘経験が生む技能だった。
一人しかいない上条相手に苦戦を強いられていた。
天草式は幕府の迫害から逃れつつも十字教を信仰するために仏教や神道で
カモフラージュに『偽装』を重ねた宗派であり多角宗教融合型十字教とも称される。
用いる戦術もまさしく『偽装』で、
本命かと思えばフェイントで、フェイクかと思えば本物の魔術が襲ってくる。
よって天草式の術式を初見、しかも何の知識もなしに見切るのは不可能に近い。
にも拘らず上条は正確に物理攻撃と魔術による攻撃を見抜き、
確実に攻撃を仕掛けダメージを与えてくる。
それは上条の長年に渡る戦闘訓練と幾多に渡る魔術師との戦闘経験が生む技能だった。
「全員、下がるのよな!!
ここは俺が引き受けるからオルソラ嬢の護衛に就け!!
敵がこの男一人とは限らないのよな」
ここは俺が引き受けるからオルソラ嬢の護衛に就け!!
敵がこの男一人とは限らないのよな」
恐らく天草式の代表であろうクワガタみたいな髪型をした男が言った。
まだ意識を失っていなかった数人の天草式の少年少女達が走り出す。
上条は心の中で毒づく。
天草式は決して弱くない。
実際に上条も壁を背にして直接相手にする人数を極力抑えて戦っていた。
このレベルの相手が五人以上いたら美琴も苦戦を強いられるに違いない。
上条は走り去った少年少女達の後を追いかけようとしたが、
その前に天草式の首領の男が立ち塞がる。
まだ意識を失っていなかった数人の天草式の少年少女達が走り出す。
上条は心の中で毒づく。
天草式は決して弱くない。
実際に上条も壁を背にして直接相手にする人数を極力抑えて戦っていた。
このレベルの相手が五人以上いたら美琴も苦戦を強いられるに違いない。
上条は走り去った少年少女達の後を追いかけようとしたが、
その前に天草式の首領の男が立ち塞がる。
「まさかこれほどの男が科学側にいるとは思わなかったのよな。
名乗らせて貰おうか、天草式教皇代理の建宮斎字だ」
名乗らせて貰おうか、天草式教皇代理の建宮斎字だ」
「…学園都市『執行部』の上条当麻だ。
話を聞いてくれ!!
俺はオルソラを保護してイギリス清教に匿ってもらおうとしてるだけだ。
別にお前達と争うつもりはない!!」
話を聞いてくれ!!
俺はオルソラを保護してイギリス清教に匿ってもらおうとしてるだけだ。
別にお前達と争うつもりはない!!」
「必要以上に我らを傷つけようとしないお前さんの戦い方を見てれば、
お前さんが信頼に足る人間だということは分かるのよな。
だがイギリス清教を必要以上に信頼するなと女教皇様から言われてるのでな」
お前さんが信頼に足る人間だということは分かるのよな。
だがイギリス清教を必要以上に信頼するなと女教皇様から言われてるのでな」
「…」
上条は建宮の言葉を否定することが出来ない。
上条自身が個人的な知り合いはともかく、イギリス清教のトップを信頼してないからだ。
上条と建宮は互いに睨み合い、相手の出方を模索する。
しかし二人の間に流れていた沈黙を突き破るように、辺りに爆発音が鳴り響いた。
上条自身が個人的な知り合いはともかく、イギリス清教のトップを信頼してないからだ。
上条と建宮は互いに睨み合い、相手の出方を模索する。
しかし二人の間に流れていた沈黙を突き破るように、辺りに爆発音が鳴り響いた。
「何だ!?」
互いに仲間の身を案じた上条と建宮は顔を見合わせると、
共に爆発が起こった場所へと走り出すのだった。
共に爆発が起こった場所へと走り出すのだった。