シクシクと心の中だけで泣いている上条、目の前には山盛りのご飯とおかずが並んでいるが、残念ながらそれらは対岸の物。
BGM代わりのつけっぱなしのテレビから聞こえる音が虚しい。
上条の帰りを待っていたのは予想通り、餓鬼であった。餓えた鬼である。慌てて釈明して食事作りに入ろうとするも噛みつかれ、今も頭がヒリヒリしている。
(久々に頭蓋骨を噛み砕かれると思った……)
上条の前にある量からしたら倍以上のご飯をインデックスは嬉しいそうにパクついている、ようやく機嫌も直ってくれたようだった。
「おいしいんだよ、生き返ったんだよ」
「そっか、良かったなインデックス」
(死んでた割りには、すごーく痛かったんですが?)
(死んでた割りには、すごーく痛かったんですが?)
「とうま、どうしたのかな」
「いえ、なんでもないです。明日の献立、どーすっかなーって考えてただけです」
「それなら明日はオムライスがいいんだよ!」
「オムライス?」
「とろっとろの半熟オムライス!」
「あー、明日は卵が安いから。まあ、いっか」
「うわーい」
(でも、とろっとろの半熟か……舞夏に聞くのが一番……あっ御坂でも分かっかな)
作ったことの無いとろっとろの半熟オムライスのリクエスト。
何処からそんな料理の名前が出てきたか、考えるまでもなくテレビから仕入れた情報だろう。
上条はそうあたりをつけるとテレビに何気なく目をやる。
持っていた箸を落とす。
テレビには緊急速報のテロップが流されていた。
目が釘付けになる。
『映画館で爆発?』
「嘘だろ」
キョトンとしているインデックス。
『テロの可能性』
「そんな訳が」
「とうま?」
テレビの音が邪魔だった。
『犠牲者の一人に常盤台中学の』
「あるはずない」
「何があったのかな」
上条の目線を追いインデックスもテレビに気づく、そこに流れる名前に。
『御坂美琴』
「これって……短髪?」
「そんなことがあるはず無い!ホンのさっき会ってたばかりだぞ、明日も会うって約束して連絡を取って待ち合わせをして一緒に特売に行って……それからまた勝負の約束をして……や、約束したんだ、ナンカの間違いだ!御坂が映画館で爆発に巻き込まれるなんて、あるはず無いんだ!」
上条から悲痛な声が迸る。
日常からの暗転に
「とうま、落ち着くんだよ!」
取り乱す上条へとインデックスは声をかける。
「短髪に連絡を取ってみるんだよ!」
上条の顔は青ざめていた。
「えっ、あ。そうだよなそんなはずが、電話をしたら御坂がナニ信じちゃってんのよ、とか言って元気な声が聞こえるんだ」
携帯電話のアドレス帳から美琴の番号を探し出すと上条は震える指でボタンを押す。
「きっと大丈夫なんだよ」
励まそうとするインデックス、だが彼女の顔も不安を覆い隠せ無い、安心させようと笑みを浮かべようとするもどこかぎこちない。
「そ、そうだよな」
電話を耳にあてるが呼び出し音がしない。ツッツッツッツッツッと鳴るばかり、そしてそれさえも途絶える。
上条はリダイヤルをするが同じ結果。繰り返し繰り返し同じことを繰り返しても結果は同じ。電波が届かないとこだとか、電源が入ってないためだとか、そんなアナウンスさえしてくれない。まるで美琴の存在を消されたような感覚に襲われる。
「ねーんだよ、こんなこと……」
「と、とうま……あっ、短髪を知ってる人に連絡を取ってみるといいかも」
不安が押し寄せる。
インデックスの提案に上条は再度、アドレス帳を開こうとするが
「白井に…………なんで俺は白井の連絡先を知らないんだよ」
苦しげな声。
「とうま、しっかりするんだよ」
テロップを見てからまだ数分、しかし上条の様子は血の気を失い、絶望色に染まっていた。青ざめていた顔がそれを通り越して白くなっていく。憔悴しきっていた。
インデックスはこんな上条を見るのは初めてだった。
「そ、そうだよ、とうまは短髪の家を知らないのかな。それか事件現場に行くのがいいかも」
このまま何もせず嘆いていてはいけない、立ち止まっていては上条当麻ではなくなる、その思いでインデックスは上条に行動を促す。
のろのろと体を動かす上条、立ち上がろうとする姿も鉛を背負ったように重い。現実であることを心と身体が受け入れるのを拒否していた、その現れだった。
「御坂」
上条は一言だけ漏らす。
立ち上がり、外を目指す。
インデックスはその後をついていく。
(とうまにとって彼女は特別な人だったんだね)
インデックスは今にも倒れそうな上条への心配で胸が一杯であった。そして一つの終わりを知る。