とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

761

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

とある最高の五月二日【バースデー】




「5月2日は何の日?」と聞かれてたら、あなたは何と答えるだろうか。
大抵の人は、「ゴールデンウィークの前の日」と答えるだろう。
何しろその日は、特にこれといった行事やイベントのない、いわゆる『平日』なのだから。

故に『何とか』進級し、晴れて高校2年生となった上条当麻も、
目の前の中学2年生、佐天涙子から出された同じ問いに、頭を捻っていた。

「あーっと確か…交通(こう=5 つう=2)広告の日だったっけか?」
「……あってるけど、違います」
「じゃあ……レオナルド・ダ・ヴィンチが亡くなった日?」
「それもあってますけど、違います!」
「あっ! 分かった! ホグワーツ防衛隊の最後の戦いが―――」
「だから違いますってばっ!! いや、それも勿論そうなんですけど!
 もっと大切な日があるじゃないですか!!!」
「そう言われましてもですね……」

さっきからこの調子だ。あっているけど違うとは一体何ぞやである。
上条も観念して、大人しく白旗を上げる。
この手のクイズは、何の取っ掛かりも無ければ永遠に当たる事はないのだ。

「降参降参。で、結局何の日な訳でせうか?」

あっさりと降参する上条に、佐天は頭に怒りマークを出しながら答える。

「もう!! 御坂さんの誕生日ですよ! 何で思い出せないんですかっ!」
「えっ!? あっ、そうなのか? いや、思い出せないも何も、そもそも知らなかったんですが……」
「はい!? えっ…じゃあ、御坂さんから何も聞いてないんですか!?」
「ああ。美琴とはそういう話した事なかったし」

佐天はがっくりと肩を落とした。
「何やっとんじゃ御坂さん【あのひと】は!」、と。

「ま、まぁ知らなかったんなら仕方ないですね。けど、たった今上条さんは知っちゃった訳なんですから、
 何かプレゼント的な物を買った方がいいんじゃないですか?」
「まぁ…そりゃそうだな。美琴にはかなり世話になったし……」

そう。上条は美琴に大きな『借り』があるのだ。
先程、上条は『何とか』進級したと説明したが、これは美琴の協力があってこそだったのだ。
唯でさえ上条の成績は下から数えた方が早い。にも関わらず、無断欠席で出席日数も足りない。
必然的に、補習に費やす時間も足りなかったのである。
だが担任の小萌先生は、それでも生徒を見捨てるようなマネはしない。
愛する教え子を、見す見す留年などさせたくはなかったのだ。
そこで考えた上条への救済措置【あいのムチ】が、ありえない程の量の宿題だった。
春休みが終わるまでに完了させれば、ギリギリ進級できると小萌先生に言われたのだが、
正直、終わらせられる未来【ビジョン】が全く見えない状態だった。
そこで上条は、「宿題を手伝ってくれ」と美琴に泣きついた【ヘルプした】訳だ。
相手が超名門中学のお嬢様と言えど、年下に勉強を教わるのは我ながらどうかとも思ったらしいが、
プライド<<<<<越えられない壁<<<<<進級なのだから仕方ない。
そもそも留年なんかしたら、プライドもクソもないだろう。

とまぁ、そういった経緯があった訳で、
上条自身も「今度ちゃんとお礼しなくちゃな」と思っていた所だったりする。
そんな矢先の誕生日【ろうほう】だ。渡りに船とはこの事である。

「じゃあプレゼント買いに行くから、佐天もついてきてくれないか?」
「へっ? あたしもですか?」
「一応、女子の意見も聞きたいし。ほら変な物渡して、微妙な空気になったら嫌だろ?」
「う~ん……上条さんからのプレゼントだったら、何を渡されても喜ぶと思いますけどね……
 まっ、いいか。あたしもお店とか見て回るの好きですし」
「そういや、佐天はもうプレゼント買ったのか?」
「あっ、はい。あたしはもう―――」

そんな会話をしながら、上条と佐天は一緒に駅へと歩き出す。
そしてそんな二人の姿を、偶然見てしまった人物が一人。

「……あ…あの馬鹿…と……佐天…さん…? えっえっ…? な、な、何…で…?」

面倒な事が起こりそうである。



ここは第13学区にある大型ファンシーショップ。
さすが幼稚園や小学校の多い学区だけあって、お子様向けのグッズは種類が豊富だ。
そんな場所に、場違いな大人が三名入店している。
上条と佐天、それとその二名の様子が気になり、こっそり後を追ってきた謎の人物(仮)だ。
上条と佐天の二人は、美琴の趣味に合わせてこの店を選んだ訳だが、
正直、かなり恥ずかしい思いをしていた。

「いやーまぁ、何つーか……俺今、すっげぇ帰りたい。それも全力で」
「まままま! お気持ちは分かりますが、ここは御坂さんの為なんですから。
 プレゼントを買うまでは【もうちょっとだけ】頑張りましょうよ」

そんな二人の様子とは逆に、謎の人物(笑)は目をキラッキラさせていた。
この者にとって、ここは天国に一番近い場所らしい。
思わず、じっくりと店の中を見て周りたくなるような衝動に駆られてくる。
が、すぐにハッと思い直し、頭をブンブンと振る。
今はそれどころじゃないのだから、と。あの馬鹿が佐天さんに手を出さないか見張らないと、と。
べ、べつに気になる訳じゃないんだからねっ!? も、もし…もしもよ!?
二人がつ…つつつ、付き合ってたとしても! わ、わ、私には全然関係ないんだからっ!!!
あ、ああ、あくまでも念の為よ念の為!!!、と。
そんな事を思いながら、謎の人物(美)は二人の監視【ストーキング】を続行する。



上条と佐天が店の中をウロウロと歩いていると、あるコーナーが目に止まり、その場で足も止める。
店の中心部にでかでかと設置【オススメ】してあるそのコーナーは、正に緑一色であった。

「ラブリーミトン、ゲコ太コーナー……」

看板に書かれたその文字を、ボソリと読み上げる上条。

「やっぱ美琴ならコレかねぇ……」

と言いながら上条は物色を始めるが、すかさず佐天が口を挟む。

「いや、それは地雷だと思いますよ。
 相手がコレクションしてる物を選ぶと、すでに相手が持っているって可能性がありますから」
「でも逆に言えば、美琴が持ってないヤツっ買ってったら、100パー喜ばれるって事だろ?」
「それはまぁ…そうですけど」

そう結論づけ、上条は再び物色する。すると、ある物が目に入る。

「ヘアピン…?」

そう、ゲコ太のヘアピンだ。上条はそれを手にとって、佐天に確認をとってみた。

「なぁ、美琴っていつもヘアピンしてっけど、コレはあったっけ?」
「あっ、いえ! それは見た事ないですね」
「んじゃこれで決定な」

意外なほどにアッサリと決まった。

美琴は箱を開けずに棚に飾っておくタイプのコレクターではない。
携帯電話や財布を見れば分かるように、好きな物はガンガン使っていくタイプのコレクターだ。
(とは言っても、絆創膏のような消耗品はさすがにもったいなくて使うのを躊躇ってしまうらしいが)
そんな美琴がこのヘアピンをつけていないという事は、やはり持っていないという事だろう。

上条は早くこの店から出たいからなのか、即断即決でそれをレジへと持って行く。
急いでいた為値段は見ていなかった(「ヘアピンなんてみんな安いだろ」と高を括っていたせいもあり)
ので、レジのお姉さんの「11,800円になります」の一言に、目ん玉が飛び出す程驚いていた。
それでも普段美琴がつけているヘアピンに比べれば、8,200円も安いのだが。



ずっと後ろからつけていた人物は、今までの二人の様子を見て、一つの結論に至った。
二人一緒にお出かけして、二人で仲良く買い物をして、二人で楽しそうにおしゃべりして……
認めたくなくとも、これはもう『アレ』しかない。

(これって…やっぱり…どう…考えても………デ…デー…ト……だよ…ね……)

身体中から力が抜け落ちる。その者はその場で、ただただ呆然と立ち尽くしていた。



そんな事とはつゆ知らず、二人は暢気に会話をしている。

「絶対高いだろ! ヘアピンだぞヘアピン! しかも子供用の!」
「まぁまぁ。店員さんに聞いたら、コレこの店限定だったみたいですし。御坂さんも喜びますよ」
「でもなぁ……ん?」

するとどこからか、「ぐすっ……ひぐっ……えっぐ……」と、泣き声が聞こえてきた。
耳を澄ませ、泣き声のする方に歩いていく。
迷子の女の子でもいるのかな?、と思っていたのだが、
二人はそこで意外すぎる人物を見つけたのだった。

「み、美琴!!?」「み、御坂さん!!?」

何故かそこには、美琴がいた。しかも何故か泣いている。

「あえっ…? ご、ごれ…は……ひぐっ……違゛う…の………お、おめ、おめ゛でどうの涙…だがら゛……
 アンダ…と……佐天゛ざん…が……ぐすっ……付゛ぎ合って…る…なら゛……友゛達゛ど…じで……
 えぐっ……二゛人゛を゛……祝゛福゛…じな゛ぐぢゃ…い゛げ……な゛い゛……がら゛……だがら゛……」

あまりの唐突な出来事に、二人の頭の上で疑問符がグルグルと回る。
まず、何故美琴がここにいるのか。次に、何故泣いているのか。
そして最後に、この子は一体何を訳の分からん事を言っているのか。

「え…えっと、御坂さん?
 一応言っときますけど、あたしと上条さんは別に付き合っている訳じゃありませんよ?」
「だがら゛…わ゛だじも゛……………ふぁえ?」

佐天の一言に、美琴は素っ頓狂な返事をする。

「で…でもだって……さっき二人で…買い物…とか……」
「いやだから、買い物に付き合ってもらってただけだっつの。
 ……あ、『付き合ってる』って、そういう意味の『付き合ってる』だったのか?」
「いや、話の流れ的に違うと思いますけど」
「えっ!!? じゃじゃ、じゃあ本当に二人は付き合ってないの!!?」
「「だから、ない(です)って」」

微妙な間が空く。何とも気まずい。

「こ、こほん! だだ、だったら最初からそう言いなさいよね!
 アンタはいっつも紛らわしいんだから!!」
「『言いなさいよね』って! そもそも俺は、お前がここにいるなんて初めて知―――
 っと、そうだよ。何で美琴がここにいるんだ?」
「べ、べべべ別に何でだっていいでしょ!!? た、たまたまよ! たまたま!!」

美琴のその態度を見て、佐天はピコーンと閃く。

「あ~! なっるほど~!
 つまり御坂さんは、あたしと上条さんの事が気になってついてきもがっ!!?」

美琴は慌てて佐天の口を塞いだ。

「? 何か言いかけなかったか?」
「な、ななな何でもないわよね~、佐天さん!?」
「んがんぐっ!」

キョトン顔する上条の気をそらせる為、美琴は話題を変える。

「そ、そういえばアンタが持ってるその袋! な、何が入ってる訳!?」
「ああ、これか」

上条の右手には、可愛くラッピングされた小袋がある。
上条は一瞬だけ悩み、まぁいいかとそれを美琴に差し出した。

「これ、お前のだよ。今度誕生日なんだろ? そのプレゼントって事で」

それはもう無造作だった。サプライズの欠片もなく、しかもまだ誕生日ですらないのにだ。
佐天も思いっきりそうツッコんだ。口は塞がれているから心の中で。
しかし、そんな渡し方にも関わらず、美琴は顔を真っ赤にして、

「え…あ、その……あり…がと………」

と嬉しさ前回で受け取る。もうこの人は、上条が相手ならば何をされてもいいんじゃなかろうか。
佐天も思いっきりそうツッコんだ。口は塞がれているから心の中で。

「あ、あの……開けても…いい…?」
「ああ、いいよ」

美琴はその小袋を、優しく開けていく。(ちなみにこの時両手を使った為、ようやく佐天は解放された)
おそらく、袋もリボンも取っておくつもりなのだろう。
そして中からゲコ太のヘアピンを取り出すと、

「か、かか、可っ愛いいいぃぃぃぃぃ!!!」

テンションがMAXになった。
「上条からのプレゼント」と「自分の持っていないゲコ太グッズ」というダブルの感激で、
何か変なスイッチが押されたらしい。



ともあれ、これだけ喜んでもらえたなら上条としても万々歳だ。
だが、この時上条は、ふとこうも思っていた。

(…あれだけ宿題を手伝ってくれた【せわになった】のに、
 プレゼントを渡すだけで本当にいいのかな……)

そう。冒頭で説明したように、上条が進級できたのは美琴の力が大きい。
物を渡して、「はい、これが感謝の気持ちね」で終わるのは、さすがに如何なものだろうか。
上条は少し考え、考え、そして考え、ある事を閃いた。
しかしそれは、美琴と佐天を固まらせるには、十分過ぎる程の破壊力を持っていたのだった。

「…なぁ、美琴。実はもう一つプレゼントがあるんだ」
「えっ!? ナニナニ!?」
「…え!!?」

一番驚いたのは佐天だった。何しろ彼女は、上条と一緒に買い物をしていたのだ。
しかし、あのヘアピン以外に買った物は無かったはずだ。それは間違いない。
不思議に思う佐天だが、次の瞬間に上条の口から飛び出してきたのは、更なる驚愕の言葉だった。

「 ぶ っ ち ゃ け 俺 自 身 が プ レ ゼ ン ト な ん だ け ど な 」
「「……………?」」

意味が分からず、ただただ目をパチクリとさせる美琴と佐天。

「だから、俺がプレゼントだよ。つまりアレだ。
 いつかの罰ゲームみたいに、好きな時に好きに俺を使えるって事。
 あー…分かりやすく言うと、体を売るっつー感じか?
 とにかく、何でも言う事を聞くって事だよ。……ただし、金のかからない事限定だけど………」

説明すればする程、とんでもない事を口走る上条。
それはつまりどういう意味なのか、自分でも分かっているのだろうか。
美琴も脳が追いついていないらしく、ブツブツと上条の言葉を反復している。
さすがの佐天も赤面したまま固まっていたが、美琴よりも先に硬直が解け、
このチャンスをモノにするべく画策する。

「じゃ、じゃあ御坂さんの誕生日当日に、そのプレゼントを使いましょうよ!!!」
「えでもそのひはみんなでわたしのたんじょびぱあてぃいしてくれるんじゃなかたけ?」

美琴の脳はまだ処理しきれていないのか、変な口調で受け答えする。

「いやいや! その日はあたし急用ができる予定なんで!」
「あそなんだでもほかのみんなは?」
「初春も白井さんも春上さんも枝先さんも固法先輩も婚后さんも湾内さんも泡浮さんもその日は全員
 急用ができるはずですから、大丈夫です!」
「あそなんだきゅうようじゃしかたないわよね」
「はい! 仕方ないです! って訳でして、上条さん、その日は頼みますよ!!」
「ああ、うん。俺は全然構わないよ。『好きな時に好きに俺を』って約束だしな」
「ありがとじゃたんじょびはよろしくね」
「こちらこそ、よろしくな。美琴」

こうして、美琴本人は夢現なまま、誕生日に上条とデートする事が決まってしまった。

この日の夜、冷静になって今日の出来事を思い出した美琴はベッドの上で転げ回り、
白井もお姉様から溢れ出すピンク色のオーラに当てられ、美琴とは違った意味で転げ回った。
勿論その後は、騒いだ二人【みこととしらい】に
寮監からのキツいおしおきが待っていた事は言うまでもない。



そして、運命の誕生日【デート】が始まる-――







とある最高の五月二日【バースデー】 後編




その日、御坂美琴は尋常じゃない程ソワソワしていた。
いや正確には今日だけでなく、ここ数日は足が地についていない様子だったが、本日は特にヒドイ。
まず前日の夜から着ていく服を選び、入念にシャワーを浴び、色々想像して赤くなったり、
布団に入っても一睡もせずに今日の妄想【シミュレーション】をして、
キグルマーを抱き締めて何かの練習をしたり、結局また赤くなったり、
朝を迎えてもまだ妄想は続いていたり、もう一度シャワーを浴びてみたり、
念の為にとっておきの下着をタンスから出したり、やっぱり赤くなってみたり。

そんなお姉様を目の当たりにして、白井は血の涙を流してみたり。

(ぬぅぅううおおおおぉぉぉぉぉ!!!
 一体何なんですの!!? あのお姉様の乙女モードっぷりはああああ!!!
 あんの類人猿! お姉様に何をしやがりましたのおおおおお!!!?)

お姉様がこんな顔をするのは、あの憎き類人猿関連の時だけなのだ。
『何があった』かは分からなくとも、『何かがあった』事は確かである。

(くうぅぅ…! それに今日はせっかくお姉様の15歳の誕生日だというのに、
 何故こんな大切な日に限って風紀委員の臨時会議なんてありますのよ!)

そう。本日、風紀委員第177支部のメンバーは、一日時間が取れないのだ。
表向きは、明日からのゴールデンウィークに備えての臨時会議となっているが、
実は佐天が裏から手を回しており、白井を美琴と上条【ふたりのデート】に近づけさせない為の
罠…もとい作戦だったりする。勿論、初春や固法も協力者だ。
相変わらず、面白イベントにかける佐天さんの情熱と行動力には、毎度舌を巻く思いである。

「それでは…わたくしは風紀委員の仕事がありますので……その……
 お姉様も誕生日だからとあまりハメを外しませんよう」

これからあの類人猿に会うであろうお姉様に『万が一の事』がないように、白井は釘を刺したのだが、

「ハハハハハメを外すって何よ!!! ま、まままだそういうのは早いんだから!!!
 そ、そ、そういうのはもっと関係が進展してからでしょっ!!?
 そ、そりゃ確かに!? 『誕生日プレゼントは俺自身』なんてあの馬鹿は言ってたけど!?
 それはそういう意味じゃないし!? で、ででででも、もしそういう意味も含まれてたとしたら………
 あ、ああ、あんな事とかそんな事とかされちゃったりなんかしちゃったりしてっ!!!?」

そのせいで大量の胃薬を飲んで出かけるハメになった。ついでに鎮静剤も必要かも知れない。


  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


あの馬鹿と約束した時刻の1時間前。
校則違反上等な私服【とっておきのしょうぶふく】を着こなし、
バックンバックンとうるさい自分の心臓を手で抑える。
待ち合わせは第7学区のいつもの公園。美琴は3時間前からここにいる。
つまり、約束の4時間前から待っているのだ。

(だ、だだだ大丈夫!! 脳内作戦【シミュレーション】は完璧!! 不測の事態にも備えられるように、
 128966パターンのデ、デデ…デー……ト……プランを考えたんだから!!
 ていうか、アイツは今日、私のいう事は何でも聞く訳だし!!
 だ、だからアイツの行動は全部私次第な訳で、つまり私の命令は絶対な訳で、
 も……もし私が、キ、キキキキキ、キス!!! して欲しいとか言っちゃっても………
 い、いいいやべべべ別に私からそんな事は勿論言わないけどねっ!!!?
 あ、ああ、あくまでも可能性として、『寄付して欲しい』って言おうとしたのを噛んで
 『キスして欲しい』って言っちゃう事だって無きにしも非ずだし!!!
 そ、そそ、それをアイツが勘違いしちゃったとしても、それはただの事故なのであって―――)

気になる事が山ほどあるが、一つ一つツッコんでいたら日が暮れそうなので止めておこう。
美琴が心の中で色々と面白い事を考えていると、

「よぉ美琴。来るの早いな」

と待ち人が話しかけてきた。と同時に、

「にょわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

美琴は口から心臓が飛び出る勢いで奇声を上げる。



「ぅおい! どうかしたのか!?」
「どどどどうもこうもないわよ!! いい、いき、いきなり話しかけないでよ馬鹿っ!!!」
「いや…普通に話しかけましたが…?」

うん。別にいきなりって程でもなかったよね。

「て、てかアンタ! 何でこんな早く来てんのよ! 約束の時間まで、まだ1時間もあるじゃない!」
「あー…どうせまた来る途中に色々と不幸に出くわして遅刻すると思ったからさ、
 大分早めに家を出たんだけど、そういう時に限ってスムーズに来れたりするんだよな」
「あ……なるほどね」
「そういう美琴は? 何で早いんだ?」
「ふぇっ!!!? わわわわわ私っ!!?」

言える訳がない。
今日の事が楽しみすぎて、4時間も前からここにいた事など。
そして上条が来るまでの膨大な時間を、心の準備に使おうとしていた事など。
だが上条が予定より早く着いたせいで、準備不足になってしまっていた事など。
…とは言っても、その心の準備とやらが、あと1時間で完了していたとも思えないが。

「わ、私は…その……アレよ。た、たまたま早起きしちゃったから、ちょっと散歩してたんだけど、
 そしたら偶然ここの公園に来ちゃったから、『どうせ待ち合わせはここだし、ここで待ってようかな?』
 って思って。だ、だからその……べ、べべべ別にアンタが思ってるような事は全然ないからっ!!!」
「えっ、あ…うん。………うん?」

「アンタが思っているような~」と言われても、上条は何とも思っていなかった訳で。
それと「ちょっと散歩」する為に、
常盤台生がわざわざ危険を冒してまで私服に着替えるとは思えないのだが。
疑問は尽きないが、上条は「美琴にも色々あるんだろ」と考える事を放棄している。
この一連の流れで、「もしかして美琴って俺の事…?」と思いつかないのが、上条当麻という男である。

「じゃあ予定よりちょっと早いけど、二人ともいる訳だし、もう行こうぜ?
 何させる気かは知らないけど、お手柔らかにな?」

今日の事は、進級のお礼も兼ねた、美琴への誕生日プレゼントだ。
以前の罰ゲームとは違い、嫌々連れ回されるのではない。
上条自身、心の底から「美琴の為に何かしてあげたい」と思ったからこそ申し出た事なのだ。
故に今回の上条は、何をさせられても文句を言うつもりはない。(金銭的な問題以外で)
美琴が楽しんでくれればそれでいい。そう思っていた。

「あっ、う、うん! えっと…まず行きたい場所が718ヶ所あるんだけど」

そう思っていたのだが、開始早々、心が折れそうになる。

「え、えっと…美琴さん? あなたの誕生日は今日から何日間あるのでせうか…?」
「は? 今日一日だけに決まってるじゃない」
「じゃあ…一日は24時間だって知ってる…?」
「馬鹿にしないでよ。そんなの当たり前でしょ?」
「OK。ならアレだ。えー……………
 そんなに色々行ける訳ねーだろ!!! ななひゃくって!!! 
 仮に一日フルに使って、移動時間も計算しなかったとして!!!
 それでも1ヶ所あたり2分くらいの滞在時間じゃねーか!!! 何その過密スケジュール!!!」
「だ、だけどこれでも絞ったもん!!! 最初は10000ヶ所くらいあったし……」
「もうちょっと頑張ろうぜ!!! せめて一桁代まで!!!」

いくら楽しみでも、予定はできるだけ余裕を持って立てよう。

その後二人は、ワーワーギャーギャーと議論【おおさわぎ】し、結果的に5ヶ所まで絞り込んだ。
だが議論に一時間も割いてしまい、奇しくも約束の時間ピッタリになっていたのだった。

「ゼィ…ゼィ……じゃ、じゃあ今度こそ出発しようぜ…?」
「ハァ…ハァ……そうね……」

しかしその時、上条は何かを思い出したかのように「あっ! それとさ」と声をかけ、

「その服可愛いじゃん。似合ってるよ」

と急な不意打ち。
見事なボディーブローを食らった美琴は、顔を茹で上がらせ、

「にゃ、にゃりがと……」

と「ありがとう」もまともに言えない状態になってしまった。
この調子で、この先本当に大丈夫なのだろうか。



あれから4件の店に寄った。
正確には、大型デパート(昼食もここで済ませた)、レディース用ファッションショップ、
家電量販店、美琴御用達のゲームセンター(超電磁砲用のコインは大体ここで調達する)である。
「美琴を楽しませる」が今回の企画のコンセプトなので、
彼女が終始笑顔だったのは、上条としても喜ばしい。
なのだが、上条はどこが違和感を感じていた。
少なくとも、彼は荷物持ちくらいは覚悟していた。
マンガでよくある、何箱も積み重ねたのをヨタヨタフラフラと持って歩くアレだ。
しかしどの店でも、美琴は何かを買いに来た訳ではなかった。(ゲーセンではいくらか使ったが)
ただただ一緒に見て回るだけだったのだ。しかしそうなると―――

(そうなると…俺は何で連れて来られたんだ?
 ただ遊びに来るだけなら、それこそ友達と一緒の方が楽しいだろうし…
 っと、確か友達はみんな急用でいないんだっけか。
 にしてもパシらせないなら、『何でもする』って約束も全く意味ないよな……)

鈍感の鈍感による鈍感の為の思想である。
できることなら、もう「上条【おまえ】の事が好きなんじゃね?」と言ってしまいたい。

そんな事をグルグル考えていると、美琴が袖をクイっと引っ張ってきた。
「何だ?」と上条が振り返ると、美琴はモジモジしながらこう言った。

「あ…あの……さ、さ、最後に…い、行きたい所があるんだけど………いい…?」
「あ、ああ。美琴が行きたいとこならどこでもいいぞ。そもそも今日の俺に、拒否権なんてありません!」

『不覚にも』、ちょっとドギマギしてしまった上条であった。


  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


上条が連れて来させられたのは、第9学区に建てられた、ある高校だった。
第9学区は工芸や美術関連の学校が集まる学区であり、この高校も例外ではない。
どうやら映像技術方面に特化した高校らしいのだが、美琴は何故ここに来たかったのか。

「こ…ここの写真部がね…? 6月のコンクールに出展する写真を撮ってるらしいんだけど……
 そ、その……モ、モモ、モデルになった男女ペアには…そ、粗品が出るらしくて……」

ああ、なるほど。と上条は納得した。つまるところ、このイベントが今回の本命なのだろう。
『男女ペア』でなければならないならば、上条【じぶん】くらいしか相方はいない。
きっと『粗品』とやらも、限定のゲコ太グッズが何かなのだろう。
要はあの時の罰ゲームと全く同じ状況だ。

校内はこのイベントの為に一部開放されており、ご丁寧に案内板まで置かれている。
どうやら5/1~5/7までの、ゴールデンウィーク期間限定イベントらしい。
案内板の通りに進むと、『○○高等学校写真部』と書かれた部室を見つけた。
中に入ると受付のお姉さん(おそらく3年生の部員)が、笑顔でお出迎えしてくれた。

「コンクール出展写真撮影希望の方ですか?」
「は、ははは、はひっ!! そ、そ、それですっ!!!」

何故か緊張しまくりの美琴。写真など撮りなれているだろうに。

「ではお名前を教えていただけますか?」
「な、名前…ですか…?」
「はい。コンクールには無記名で出展いたしますが、モデルとなってくださったカップルの方々には、
 完成した写真に名前をお入れしてお渡しいたしますので」
「カ…カカ…カップ……リュ………」

『カップル』という単語に、美琴は思わず「ふにゃー」しかけたが、ここはグッと我慢だ。

「あの…それでお名前は……」
「あっ! はは、はい!! えと…御坂―――」
「ちょーっ!!! 待て待て待て!!!」

と、ここで今まで黙って説明を聞いていた上条が急に割って入り、美琴の耳元で小声で囁きかける。

(アホか! 本名言ってどうすんだよ!)
「はにょ! ふへっ!」
(お前は有名人【レベル5】なんだから、変な噂とか立ったらマズイだろ!)
「ふみっ! へにゃ!」
(ったく、気をつけろよ……って、さっきからちゃんと俺の話聞いてる?)

先程から美琴が変な声を出しているので、気になった方も多いだろう。
実はこれ、上条に耳元で囁かれ、背筋がゾクゾクしたせいで発せられた、美琴の謎の鳴き声だ。
悪いものではないので、放っておいても問題はない。



(き、ききき、聞いてるわよっ!!)
(そっか? じゃあ頼むぞ)
「ふぉふっ!」

「本当に大丈夫か?」と上条は思った。

「御坂…ってもしかして、あの常盤台の…?」
「ああ! ち、違います違います! みさか…じゃなくて……えっと…その……」

受付のお姉さんも「そういえ言えばどこかで見た事あるようなないような」
と言わんばかりに、手を顎に当てる。
上条の言う通り、ここで『御坂美琴』だとバレると、後々面倒な事になりそうだ。
そこで咄嗟に考えたのが、

「みさ…いや、みか…さ………そ、そうミカサ!! ミカサ・アッカーマンです!」

偽名である。何とも調査兵団にいそうな名前だ。

「えっ!? あっ、は、はい! アッカーマン様ですね!?」

どうやら誤魔化せたらしい。やや強引に。

「では、そちらの男性の方もお名前を……」
「激おこプンプン丸です」

偽名である。
「お前は偽名を使う必要ないだろ」とか、「偽名にしても適当だな」とか、
「エレンじゃねーのかよ」とか、「そのネタもう古くね?」とか、
色々と他にも言いたい【ツッコみたい】事はあるだろうが、ここはスルーしようと思う。
理由は簡単。めんどいからだ。

「は、はぁ……激おこ…様ですか……」

いいのかそれで本当に。

「で、では男性は左側の試着室へ。女性は右側の試着室へお進みください」

お姉さんに案内された通り、プンプン丸は左へ、ミカサは右へそれぞれ別れる。
通されたのは、試着室にしては広く、要は空き教室であった。
部屋の中にいた部員らしき人に手伝ってもらい、上条は淡いグレーのタキシードを着付けられる。
着慣れていないせいで、全身から違和感の塊を醸し出す。

(にしても…わざわざ正装なんかすんだな……まぁ、コンクール用だしな。
 けど万が一出展作品に選ばれたら恥ずかしいな…俺はともかく、美琴は華があるもんな~)

そんな事を思いながら、今度は撮影スタジオに通される。どうやら美琴はまだいないらしい。

(んー…美琴遅いな。着付けに時間かかってんのか?
 俺のほうはタキシードだし、パーティードレスでも着て来んのかもな)

などとボーっと考えていると、スタジオに美琴が入ってくる。

「おっ! やっと来たか、待ってた…ぞ……?」

言いかけて上条は硬直した。
いや、確かにドレスはドレスだったのだが、しかしまさか……

「えっ…あっ……え…な、何故にその…ウ……『ウエディングドレス』…なのでせう…か…?」

そう。上条の目の前には、純白なウエディングドレスに身を包んだ、花嫁【みこと】の姿がそこにあった。
美琴の頬が薄く赤く染まっているのは、果たして化粧のせいだけであろうか。

「あ、あの。もしかしてご存知なかったんですか?」

上条が疑問を抱いている事に対して疑問を持った撮影スタッフ【しゃしんぶぶいん】の一人が、
この企画の全容を説明しだす。
どうやら今年のこの学校の写真部は、コンクールに『新郎新婦』の写真を出展させようとしているらしい。
コンクールが6月にあるので、ジューン・ブライドをテーマにしたいのだとか。
とはいえ、ここは勿論学園都市だ。8割が学生であるこの街に、
滅多に新婚さんなどいらっしゃ~いはしていない。
だからこそ逆に、学生カップルを対象に新婚さん『ごっこ』として、『新郎新婦』のコスプレをさせ、
モデルとして写真を撮らせてもらっているらしいのだ。
聞けば中々好評らしく、前日から始まったのに既に9組のカップルが撮影に来たらしい。
しかもゴールデンウィークは明日からが本番であり、これからもっと来場者は増えるだろう。
学生達はみな、遊び半分に青春の1ページとやらを残したいのだ。

と、長々と説明されたのだが、上条の頭には2割程度しか届いていない。
何故なら、

(み、美琴ってこんなに綺麗だったっけ!!?
 い、いやそりゃ元々可愛いかったけど、何つーか今までと印象が違いすぎて……
 てか何ドキドキしてんだよ俺!! 相手は中学生ですぞっ!!?)

と珍しくテンパっているからだ。



「な、なな、何か感想言いなさいよ! こ、こ、これでも結構恥ずかしいんだから………」
「あ、えと……その…悪ぃ。すげぇ…綺麗だっ…たから、その……み、見とれ…てた……」
「っ!!! あ、あああ、あり、ああ、あり……が…と………」

お互いに顔を「かああぁ」っとさせる、実に初々しい新婚である。
写真部の部員達も二人を生暖かい目で見つめる。
(一部、「チッ!」と小さく舌打ちする部員【ひリアじゅう】もいたが)

撮影は滞りなく順調に終わった。
正直な所、二人ともガッチガチでどこか余所余所しく、お世辞にも「いい写真」とは言えなかったのだが、
「この初々しさ【しろうとくささ】が、逆にリアルでいい」との写真部の見解らしく、
数枚撮っただけでOKとなったのだ。

写真ができるまでの間、二人は最初の部屋で座って待たされている。
しかし、さっきの今で、二人とも全身がぽっぽぽっぽと熱くなっている。
無言なままだと余計に恥ずかしいので、上条から話しかけた。

「あ、あああのさ! そ、そ、粗品! 貰ったんだろ!? な、なな、中身って何だったんだ!?」
「ふぁえっ!? あ、う、うん! えっと、な、中身ね!! ふ、普通にタオルとか石鹸とかだけど!?」
「あ、あーそうなんだ!! 良かったなー貰えて!!」
「そ、そうね!! いやー助かったわー!」
「……………」
「……………」

会話が続かない。お互いに顔も見れず、何かもうギクシャクしている。

(お、おかしい! 今までは普通に美琴と話せてたのに、何か急にできなくなってる!!
 どうしたの俺! 上条さんは、やればできる子じゃなかったのか!?)

と、色々考えを巡らせていると、上条はふとある事に気付く。

(……あれ? 粗品の中身ってゲコ太じゃなかったのか…? いや、ゲコ太じゃないにしても、
 美琴が普通のタオルとか石鹸を欲しがるか? じゃあ、粗品が目当てじゃないって事だよな……
 そうなると…欲しかったのは…写真そのもの? けど何で?
 ………いや…もしかして写真だけじゃなく……今日のは全部―――)
「お待たせしました。写真できましたよ」
「あっ! は、はい! 今行きます!!」

上条が何か考えている時に、タイミングよく声がかかる。
おかげで上条は、

(……何か今、とんでもない事を閃いた気がしたんだけど……何だったっけ…?)

何か『大切な事』を忘れてしまったようだ。コレも彼の不幸の為せる業なのかも知れない。



「こちらがお写真になります」

受付のお姉さんに渡されたのは、先程の写真を拡大し、綺麗に額に入れられた物だった。
ぎこちない笑顔と、右端に書かれた「新郎・激おこプンプン丸  新婦・ミカサ・アッカーマン」の文字に
若干の後悔は残るが、それでも美琴はその写真を抱き締め、「…嬉しい……」と漏らす。
上条はドクン!と何かがこみ上げてきたが、それが何なのかは分からない。
「何か言わなきゃ」とは思うのだが、その言葉が出てこない。非常にモヤモヤする。
なのでとりあえず無難な言葉で締めくくる。

「み、みこ…と!! そ、その…誕生日、おめでとうな!
 あ、ほら! よく考えたら、まだ言ってなかったから!!」
「うん…ありがとう……今までで…一番の誕生日になっちゃった……」

本当に嬉しそうな美琴の笑顔を見て、上条も「ま、とりあえずこれでいっか」と笑う。
その写真がいつの日か、現実になる事も知らずに―――



という訳で、ここから先はいつものオチの時間である。
美琴の誕生日から約2ヶ月後、6月の写真コンクールの大賞が発表された。
タイトルに『純ブライド』と書かれたその写真には、
ぎこちなく笑うツンツン頭の少年と、短髪の少女が写っていた。
そして不幸な事に、大賞作品はネットにも公開され【さらされ】たのだった。
だが不幸はこれで終わらない。
ネットに公開されるという事は、世界中の人が簡単に見られるという事だ。
つまり、この記事を『偶然』にも見られてしまったのだ。
例えば、とある高校の生徒や教師が。例えば、常盤台中学の生徒や寮監が。上条家や御坂家が。
柵川中学の生徒が。風紀委員が。警備員が。レベル5が。原石が。アイテムが。はまづら団が。
妹達が。黒鴉部隊が。元・グループが。元・新入生が。人工天使が。必要悪の教会が。イギリス清教が。
天草式十字凄教が。アニェーゼ部隊が。王室派が。騎士派が。殲滅白書が。アメリカ大統領が。
新たなる光が。明け色の陽射しが。翼ある者の帰還が。天上より来たる神々の門が。
オッレルス勢力が。元・神の右席が。元・グレムリンが。etc.etc……
それはもう、科学サイド魔術サイド関係なく、あらゆる組織の人間が『偶然』見てしまったのだ。

上条と美琴の携帯電話が鳴り響く。
彼らの戦いはこれからだ。









ウィキ募集バナー