とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とりっくおあとりーと




時計が午後11時半を示していた時。
上条家には珍しい流暢な英語の発音が響く。

「Trick or Treat!!!」

上条の顔はひきつった。
そうしてゆっくりと愛しの彼女の方に顔を向ける。
彼は余計なことは言わない。
ただ、

「不幸だ」

とこぼした。

「ちょっと!! 彼女がこんな恰好でいて『不幸』は無いんじゃない!!?」

「ちょろっと待っててねー」なんていって脱衣所に行った理由はそれか。
上条は目の前のかわいい小悪魔に対し、
「お前もう高校3年生だろ」とか
「どこで買ったんですか?」とか
「それでも短パン装備かよ」とか
いろいろ言いたいことがあったが目下の問題はそこでない。

「すみません、お菓子なんか持ってません」

「じゃあいたずらさせてもらうわよ!!!!」

「……いつも電撃でやってるじゃ「なによ?」なんでもないっす」

とりあえずため息。

「お好きにどーぞ」

「最初からそうすればいいのよ」

胡坐で座る上条を見下ろす美琴は
それはもう満面の笑みである。
彼女は上条がどれほどその表情が好きか知っているのだろうか?

「ちょっとの間そのまま座っててよねー」

四つん這いになって近づく小悪魔は、
上条にとって眼福この上ないのだが、
今、それを口に出すと美琴は妖怪ビリビリ猫に変化し、
ふにゃって家電を全滅するため、心にとどめる。
2か月前からバカでも学習はするのだ。



そんなことを考えていたら美琴が抱きついてきた。
さらには胸に顔をこすりつけてくる。
かつて「御使堕し」で乙姫がやったことだが、今は小悪魔がこれをやっている。
天使と悪魔がわっはっはっはなのだ。




まて、落ち着け、数日おきにコイツはこれをしてくるが……

「……これがいたずらなんでせうか美琴さん?」

「しまった!! つい本能に従っちゃった!!」

言うんじゃなかった。
今なら黒子の気持ちもよくわかるわーとか危険なことを言っていた彼女が、
手を伸ばしてきた。

「えーい」

「ひゃいすんひゃよ?」

「え? ほっぺ引っ張ってんの」

「ひょーですか」

「やわらかい」

「……」

「ほっぺやわらかい人ってエロいらしいよ」

「うるふぇー」



「今度は撫で撫でですか」

「いつもされてるからおかえしよ!!」

(いつも嬉しそうにしてんのそっちだろ……)

「犬みたいね」

「あのなぁ」

「ワンって言ってみて」

「……ワン」

「かーわーいー!!!!!」

(……こっちのセリフだ////////)



「こちょこちょこちょ」

「だっ!! ばか!! やめっ!!」

「当麻はここが弱いのよねー!!」

「な、んで!! そんなこぎゃはっははは、やめっ」

「わたしはねー、誰よりも当麻の事をわかってるのよ」

「か、感動する余裕が、だはっ、もう、勘弁……?」



正面からわきの下や腹部をくすぐっていた美琴の手が急に止まる。
そこにあったのは、

今も増え続ける傷跡で……



「当麻……あのさ……」

「ん?」

いろいろ言いたいことがあったのだろう。
しかし、言葉にはならなかったのだろう。

彼女は何とも辛そうな顔で
今にも泣き出しそうな顔で
あの絶望の時のような顔で
小さく言葉を紡いだ。

「……わたしの前から、いなくならないで……」



美琴は彼がどんなにその表情が嫌いか知っているのだろうか?



上条はそっと美琴を抱きしめた。
その幻想から彼女を救い出すために。

「大丈夫ですよ悪魔さん」

「……」

「私、上条はこの可愛い悪魔に魂を売っているから大丈夫なのです」

「……くすっ、訳わかんない」

「この小悪魔さんとの契約をやりきるまで、オレは死ねないんですよー」

「契約?」

「そう」

上条はニカッと少年のように笑う。

彼は美琴がその表情でどれほど幸せを感じるかを知らない。

「『美琴とその周りの世界を守る』って契約さ」

「……」

「それまでは死ねないし、美琴の前からいなくなることは無い」

「……ばっかじゃないの」

「そうですよー、上条さんはバカなんです」

「知ってた」

「酷いな」

そのまましばらく二人はそうしていた。













「ねぇ、そろそろ動きたい」

「まぁ、待てよ……美琴……」

「なに?」




「トリックオアトリート」



へったくそな発音である。
しかし、大丈夫、想定内。
だから時間がギリギリのところでこうやっていたずらをしたのだ。
見ればいい。
さっき時計は11時半を指していた。
だから今は11時半を指している。




あれ?



「ああ、あの時計、三日前から止まってるぞ」

美琴の顔はひきつった。
そうしてゆっくりと愛しの彼の方に顔を向ける。
彼女は余計なことは言わない。
ただ、

「不幸だ」

とこぼした。

「ん? 彼氏に抱かれててその言いようは少し傷つきますなー」

「……えっとー、お菓子はまた明日ってことで……」

「明日はハロウィンじゃないです」

「今から買いに……」

「だから、そうすると日付変わります」

「えー、あー、うー」

「安心しなさいミコったん」

「たんいうな!! ……なにが?」

「上条さんは甘―いお菓子をいただきます」

「え? ちょ? まって!!……あっ」


その日、小悪魔さんは狼男さんに食べられちゃったのでした。








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