とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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(無題)




吐息も白く染まる寒い季節、冬。
そんな冬でも心がポッカポカに温まるイベントがいくつかある。2月14日バレンタイン。
日本では製菓業界の努力によって、女の子がチョコレートを想い人に贈る日となっている。

女の子は皆、チョコレートと共に想いを恋する男に贈れるかどうかでドキドキソワソワ。
うまく贈れれば新しいカップル誕生の声を聞くことができるだろう。(リア充爆発しろ)

だが最近は女の子に限らず、男の子からも同じようにチョコレートを贈ったり、
友達同士で贈りあったりなど、バレンタインの贈り物の形式は徐々に変化してきている。


そんな冬の日の放課後。
御坂美琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子。
いつもの仲良し4人組中学生は、バレンタイン特集の半額商品を物色するべく繁華街を歩いていた。

「いやー、しかしびっくりしましたねぇ……紙袋いっぱいのバレンタインチョコなんて都市伝説だと思ってました!」

黒髪長髪に白いヘアピンを留めた少女、佐天涙子は歩きながら感動の声を漏らした。

柵川中学と常盤台中学。
それぞれ違う学校に通う彼女達は、放課後一緒に遊ぶにはどこかで待ち合わせをしなければならない。
そのため、普段から頻繁に利用するとあるファミレスの前を、本日の集合場所にしていた。

後から到着した初春、佐天の柵川組。
そこには、バレンタインのチョコレートがぎっしり詰まった紙袋を大量に抱えた美琴と白井が待っていたのだ。
その紙袋も1個2個の話ではない。美琴1人では到底持ちきれず、両手で持ち、肩に掛け、白井にも持たせ…ととにかく大量だったのだ。
現に今も、初春と佐天もその紙袋を持って歩いているほどだ。

「ははは……去年もいっぱいあってね、通学カバンだけじゃ絶対入りきらないから、今年は紙袋も用意したんだけど…」

「わたくしが予備に確保しておいた分まで使わなければ、到底収めきれない量でしたのよ」

さすがわたくしのお姉さま! と白井はツインテールをなびかせているが、さすがに双方の紙袋が邪魔で、飛びつくのは自重したようだ。
ちなみに件の美琴の通学カバンは、普段の3倍近くに膨れ上がっている。

「これ全部本命チョコだったりするんでしょうか?」

己の持つ美琴の紙袋の中を覗いた初春は、その中に詰められたチョコレートの外装を見て思う。
可愛らしい包装紙に、色とりどりのリボン。実に気合の入った包装で、中身も相応に気合の入ったものであると推測できる。




「まさか。これ全部学び舎の園の中で貰ったものだから、確実に義理とか友チョコの範囲よ」

その初春の呟きに美琴は苦笑いで答える。学び舎の園は女子校のみが集まる男子禁制の領域。
なれば、美琴のもらったこのチョコレート達の送り主は、皆女性ということになる。
普通ならこれらが本命であるはずはないのだが。

「まあお姉さま! よもやわたくしのバレンタインチョコまで義理とおっしゃるおつもりではありませんわよね!?」

例外はどこにでもいるものだ。しかも、美琴の場合はそれがすぐ傍にいるから始末に悪い。

「はいはい、友チョコの本命よね。」

御坂美琴お姉さまラブラブラブ!!! という程度には美琴を愛して止まない淑女・白井黒子。
当然彼女も今日の朝、おはようのハグと共に愛しのお姉さまへとバレンタインチョコを渡している。
もちろん美琴もその場で電撃と拳骨のお返しをしている。ちゃんとしたものは3月のホワイトデーに渡すつもりでいるが。

ああん黒子は本気でお姉さまを愛していますのにー! やめてよねそういうのホントに、と二人が会話するのを尻目に、
初春と佐天は美琴のバレンタインチョコについて、こそこそと意見交換をしていた。

「(御坂さんの鈍感具合も相変わらずですね。コレ絶対本命チョコありますって)」

「(それよりさ~、御坂さんは本命チョコを誰かさんにあげたりしたのかな!?)」

二人は女子中学生!
自分の恋も他人の恋も気になるお年頃。
それが憧れの先輩のものであるならなおさら。

大切な友人であり頼れる先輩である少女は、最近なにやら秘密の単独行動が増えている。
美琴ラバーでありルームメートの白井の目をごまかす手伝いや、その白井から愚痴という形でそれらを知った二人は、
それが美琴の恋による乙女の戦ではないかと推測していた。

そして今日はそんな恋する乙女の大一番の勝負所。
本日美琴を遊びに誘ったのは、それらの情報を引き出し、必要なら援護する腹積もりだったのだが。
今のところ、本命相手にチョコを渡す渡さないなどの話題は全く出てきていない。
これを機に美琴本人に鎌を掛けてみようと意気込んだ矢先、彼女達4人組に話しかけた男がいた。

「あれ、御坂じゃねーか。こんなとこで何してんだ?」

「あん? ああ、アンタか」

何がどうしてそうなったのか、紙袋を道端に置いて白井にヘッドロックを掛けていた美琴はその声に振り返った。
白井をペイッ! と放り投げた美琴はその男に正対すると、初春・佐天そっちのけで話し込み始めた。

「(御坂さんのお知り合いでしょうか? なにやら仲がよさ気に見えますが…)」

「(あれは上条さん! ほら、大覇星祭のときに御坂さんと色々やったっていう例の!)」

「(ほえ!? ということは、もしかしてもしかしちゃったりするんですかね!?)」




キラキラと目を輝かせ始めた初春の変化に苦笑しつつ、佐天も美琴のバレンタインチョコの行方を探るために、
正面の二人をロックオンして、会話や些細な動作も見逃さんと集中する。

そんな初春と佐天を気にした様子も無く、美琴と上条は世間話からバレンタインチョコの話題に移っていた。

「すげえ大荷物だな。これはひょっとして?」

「うん、バレンタインチョコよ。常盤台生だけじゃなくって、学び舎の園内の他校生にも貰っちゃって、この有様よ」

「義理…ですよね?」

「あたりまえでしょ。まあ、来月にお返ししなきゃいけないから、大変な事に変わりは無いんだけど」

はぁーやれやれと、美琴は大きく肩を回す。
あれだけのチョコレートを抱えていたのだ。そりゃあ肩も凝ってしまうというもの。

「そういうアンタはカバン以外何も持ってないわね」

知る人ぞ知るフラグ男。またの名を女泣かせ。
その上条がこんな日に何も持っていないというのは不思議なことだ。

「カバンの中に入る程度にしか貰ってないとか?」

初春や佐天は上条のフラグ体質を知らないが、それでも美琴の想い人(推測)が収穫ゼロだとは思っていなかった。
美琴を通じて尋ねられた疑問の答えを聞き逃すまいと、全力をもって聴覚を働かせる。

「…いや、バレンタインチョコなんて1個も貰えてませんが……」

「は?」

「だから! 俺はバレンタインチョコ0個の負け組みですよ!」

「はあああ!?」

なんとなんと、あの上条当麻は本日のバレンタインチョコの収穫数はゼロ。
あちこちでチョコをもらえる男子に爆発の呪詛をかけている可愛そうな側の男子だったのだ。

まあ、例によってクラスの男子の妨害とおきまりの不幸が炸裂したせいで、
上条の手に実物が渡らなかっただけだったりするが、ここでは省略する。

上条が立てたフラグの数を知っている美琴は、この事実に大いに驚いていた。
さらに自分の思惑がはずれ、ちょっとまずいかも、とか思っていたりしたが、顔には出さなかった。


そしてこっちもこっちで驚いていた。




「(ゼロ…だと…!? 御坂さんの想い人(推定)は御坂さんにしか人気がないのか!?)」

「(想い人かどうかはまだ分かりませんが、ここで御坂さんがチョコを渡せば御坂さんの想い人確定ですし、ゼロじゃなくなりますし……)」

はらはらどきどきと見守る中、美琴と上条の会話はヒートアップしているようだった。

「ゼロなの? 本当にゼロなわけ?」

「ゼロですよ! お前こんな可愛そうな男子に塩を塗りこむんじゃありません!」

「そっかぁ…ゼロかぁ……ふふっ」

「笑いやがったな!? 上条さんの純情ハートは傷つきましたよ! 慰謝料として美琴たんのバレンタインチョコを請求します!」

キターー! と内心大盛り上がりになった初春と佐天。
美琴からのアプローチではないにしろ、ここで美琴が答えればこの上条という男が美琴の想い人確定となるだろう。

美琴との友人期間が長いわけではないが、それなりに濃いお付き合いにはなっている。
そこで知りえた美琴は、なかなか純心で乙女チックな姿だった。
たとえ知り合いに憐れな男がいても、本命以外にはバレンタインチョコを贈ったりはしないんじゃないだろうか。

美琴がチョコを渡したら思う存分からかってやろうと思っていた二人は、しかしその期待を裏切られた。

「美琴たんいうな! というかないわよ?」

「………what?」

「アンタにあげるチョコなんてここにないわよ?」

ヒュウ、と一陣の風が通り抜けたが、その風が妙に冷たかった気がする。
上条は美琴のその一言に加え、先の冷風に止めを刺されたようで完全に凍り付いてしまっている。

おーい、と美琴が上条の眼前で手を振っているが、全く反応がない。
しばらくしても上条は動き出す様子を見せない。諦めたのか、美琴は紙袋を白井を回収してこちらに戻ってきた。

「早くしないとバレンタイン特価の半額チョコレート売り切れちゃうし、行きましょう」

そして、何事も無かったかのようにデパートへ向けて行ってしまった。

「初春…」

「佐天さん…」

「見なかったことにしよう」

「見なかったことにしましょう」

残された2人の熱気はすっかり冷め、これいじょう冷えても堪らんと、後ろを振り返らずに美琴の後を追った。





「ミコっちゃんは絶対くれると思っていたのに…」

あれから数分。
悲しみから解凍された上条は、肩を落として自身の学生寮へと帰宅していた。

先程はあんな態度であったが、実は上条と美琴は付き合っていた。
上条の周りにはデルタフォースをはじめとした男子達、美琴の周りには白井とか白井とか白井とか。
周りにばれると碌な事が無いというのはお互い分かっていたから、付き合っていることは秘密にしようと約束したのだ。

既に美琴の身も心も隅から隅まで戴いている。
そんな関係であるから、バレンタインチョコもくれるものだとばかり思っていたのだが。

「こんばんは。ミサカです」

「うおう!」

地味にショックを受けていた上条には、背後の気配をよむ余裕が無かった。
慌てて振り返ったそこには御坂美琴の妹が立っていた。

「なんだ御坂妹かよ…驚かすなよな」

「勝手に驚いたのはそちらではありませんか、とミサカは貴方に異議を唱えます。
それよりも、本日ミサカはミサカ達とお姉様の分のバレンタインチョコレートを届けにきました、とミサカは早く受け取れと催促します」

「……御坂妹と美琴のバレンタインチョコレート?」

「はい。数々の妨害を危惧されていたお姉様に代わり、このミサカ10032号が代表してチョコレートを届けに来たのです、
とミサカはお姉様に頼ってもらった喜びをかみ締めつつ、お姉様譲りの無い胸を張ります」

「いや、胸のことは言ってやるなよ」

そう。美琴とて今年のバレンタインについて何も考えていたわけではなかった。
白井による妨害や、初春・佐天両名への恋人の露見。ほかにも上条の不幸具合を考え、直接渡すのは無理だろうと思った。
そこで、ダメ元で妹達にバレンタインチョコの配送を頼んでみたのだ。
妹達は美琴の頼みを快諾してくれ、今無事に上条の元へ美琴のバレンタインチョコが届いたというわけだ。

「ちなみに、お姉様は妹達全員にバレンタインチョコをプレゼントしてくれました、とミサカはお姉様の深い愛情を貴方に自慢します。
これに伴い、来る3月14日に向けてのお返し作戦を妹達全員で進行中です、とミサカはお姉様に深い愛情を返すことを貴方に宣言します」

「(こりゃ、ホワイトデーは大変だぞ美琴……)」

一ヶ月後、お返しの海に美琴が窒息しかけるのだが、それはまた別の話。

「とにかく、こちらをどうぞ、とミサカは貴方にバレンタインチョコを手渡します」

「おう。サンキュ。御坂妹の分も入ってるんだよな? ありがとな」

こうして無事に、上条にもバレンタインの祝福が届けられたそうな。リア充爆発しろ。










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