小ネタ 2月14日「結局はいつもの上琴話」
2月14日。それはまだローマ帝国が栄えていた時代、禁止された兵士の結婚式を行ったバレンタイン神父が起源とされているバレンタインデーだ。
大体の日本人はそんな事など知らないだろう。
本来は男女問わず恋人や家族に贈り物をする日なのだが、製菓企業の策略によって日本では女子が好意を寄せる男子にチョコを贈るという風習ができてしまっている。
それは外部から隔絶された学園都市とて例外ではない。
「あの馬鹿、喜んでくれるかしら」
日本中を襲った寒波によって、学園都市も雪が降り積った。
そんな中で常盤台中学の制服を着た栗色の髪の少女、御坂美琴は通学路の公園に立っている。
彼女も恋する乙女。周りの女子同様に想い人に手作りのチョコレートを渡し告白しようと思い心臓をドキドキさせている。
学園都市に七人しかいない超能力者の第三位であろうとも、この日はただの女の子だ。
(だいじょうぶ……大丈夫!シュミレーションは完ぺき!!)
レベル5級の能力を演算する頭脳によって作られた手順。
それはチョコをさっさと渡して告白して逃げ去るという、単純としか言いようのない物であるのだが、恋愛面で『あの馬鹿』が関ると本当に残念になってしまう美琴。
20分、30分で『あの馬鹿』、上条当麻が寒そうに歩いている。
「お…御坂か」
「や、やけにテンションが低いわね。今日はバレンタインでしょ?いくつもらったのよ」
からかう調子で言う美琴だが、バクバクと心臓が高鳴っている。
たくさんもらっていたらどうしよう。もしもその中に本命があって、もしもこの馬鹿が告白されていて、万が一にも付き合うことになってしまっていたら。
怖くて怖くて仕方がない。
「あー、クラスのやつからだけだよ」
この様子だと告白は受けていないらしい。
この馬鹿のことだ、その中に本命があっても気づかないはずだ。
「そっか。そっか。ふふふふふ」
これはチャンスだと不敵な笑みを浮かべる美琴。
「どーせ上条さんは義理チョコしか貰えませんことよ」
「べ、別にそういう訳じゃ……じゃなくて」
勇気を出して背中に隠していたチョコを前へと差し出す。
上条は本当に不思議そうな顔をしながら、
「こ、これは、まさか」
「今日は2月14日。バレンタインデー!それだけ言えばわかるでしょ!?」
この馬鹿に無理やりにでも押しつけようと体を前に出そうとするけれど、
「にょわ!!」
「御坂!!」
凍った地面で滑った美琴を支えようとする上条であったが、その上条さえも滑ってしまった。
「ってて、大丈夫か?御さ……」
背中が雪のせいで冷たい一方で顔の方は熱くなっているのが自分でもわかる。
目の前に、御坂美琴がいるのだから。
鳴護アリサの時もここまでではなかった。
実は学校で姫神愛沙で告白を受けていたのだが断っている。
その時に頭に浮かんでいたのは目の前の彼女だ。
(やべぇ、やっぱ御坂、かわいい)
端からはわからないほど薄く塗られた口紅。栗色の髪から香る柑橘系の甘い匂い。真っ赤に染まっている顔。
その全てが彼を魅了している。そう、彼は恋しているのだ。他の誰でもない、御坂美琴に。
理由などいらない。ただ彼女のことが好きなのだ。
「み、御坂さん?」
「…………」
美琴は何も言わない。ただじっと、上条を見つめている。
「そ、その、そろそろどいてくれると上条さんてきには嬉しいのですが」
「え、あ、ごめん!」
バッ!と美琴は起き上がり上条から離れる。
惜しいと思う気持ちもあるのだが、あのままでは理性を抑えきれず無理やりにでも美琴にキスをしてしまっていたかもしれない。
「そ、そのチョコ、アンタのだから!今度感想聞かせなさい!!」
そう言って美琴は走り去ってしまった。
残された上条は落ちていたチョコを拾い上げポツリと呟く。
「……手作り、だったらいいな」