とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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恋する乙女の決戦日




恋する乙女にとっての決戦日。二月十四日、聖バレンタインデー。

常盤台中学のエース、『超電磁砲』の異名を持つ超能力者第三位・御坂美琴は授業が終わるとすぐに学生寮へと戻り、自室にある自分の机の引き出しを開けた。
引き出しの中から綺麗にラッピングされた小説の単行本程度の大きさの箱を取り出すと、それを制服の右ポケットに入れ、引き出しを閉めて立ち上がる。
それからそっと胸ポケットの上に右手を置き、中に入れてある物を布地越しに指先でそっとなぞってから右手をポケットの中に入れ、先ほど入れた箱の感触を確かめてから、携帯を取り出して時間を確認した。

16:24

(まだちょっと早いけど、行くか)

メールで指定して了解をもらった待ち合わせ時間まではまだ一時間ほど余裕があったが、呼び出しておいて遅れるわけにはいかないので、早めに待ち合わせ場所へ行くことにする。

(今日こそ、アイツに告白するんだから)

―――――



(落ち着け、落ち着くのよ)

指定した時間より四十分以上早く着いた公園にある自動販売機の横で、美琴は自動販売機に背を預けるようにして俯きがちに立っていた。

(まだ、アイツが来るまでは時間がある。むしろアイツは遅れてくるはずだから、それまでに気分を落ち着かせて)

そこで美琴はふと考える。
いつから、上条当麻を異性として意識し始めたのかを。

(…たぶん、あの時かな)

一方通行を倒した後に、アイツが橋の上で『またな。御坂』って名前を呼んでくれたとき。

(…自覚したのはもっと後だけど、あの時にはもう、好き、だったと思う)

単純に、名前で呼ばれると、嬉しい。
笑顔を向けられると、嬉しい。

(もう、アイツのいない世界なんて、考えられない)

そう思うからこそ。
上条の隣に立っていたいと願うからこそ。
美琴は決意したのであった。



「あれ?御坂。早いな」

「……え?」

声をかけられて顔を上げると、そこには待ち人がいた。

「ア、ア、ア、ア、アンタ。な、な、な、な、何で!?」

「なんでって、お前に呼び出されたからだけど?」

「た、確かにわたしが呼んだんだけど、早くない!?」

「上条さんも年がら年中、補修しているわけじゃないんですよ。御坂さん」

「そ、そっか」

「それで、どうして上条さんは御坂さんに呼び出されたのでしょうか?」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」

少し後ずさりながら、目の前にいる少年を観察する。
いつもどおりのツンツン頭に、気だるそうな眼差し。
何の変哲もない学生服を身に纏い、左手には学生鞄を持っている。



「あれ?アンタ、荷物それだけ、なの?」

「学校帰りだし、特売もないから平常どおりの持ち物ですよ」

「あ、あれー?」

「なんだよ?」

「バレンタインだから、いっぱい貰ってるんじゃないかな?って思ったんだけど」

「…少なくとも、学校では貰わなかったけどさ。それって厭味かなにか?」

じとっとした眼差しで睨まれる。

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

そう呟いて、美琴は右手をポケットに突っ込んだ。
大きく息を吸い込んで、右手で箱を掴むと、そのまま、少年の眼前に右手を突き出した。

「その、これ、アンタに…」

「え?これって?」

「さ、察しなさいよ」

「マジ?サンキューな、御坂」

箱を受け取り笑顔で言うと、上条は受け取ったものを鞄にしまおうとする。



「あのさ、その、今、開けて欲しいんだけど」

「へ?なんで?」

「そういうものなのよ」

「上条さん、甘いものなんて久しぶりなんで、食後のデザートにしようと思ったんですけど。ダメ?」

「食べるのは食後でもいいから、さ。とりあえず、開けてみて欲しい」

上目遣いで上条を見て、美琴はそう呟いた。

(バレンタインのチョコって、受け取ったときに見ないといけないんだっけ?)

包装紙のシールを剥がしながら、上条は心の中で首を捻る。
箱を取り出し、箱の蓋を開けて中を見る。

「…………!!」

箱の中のチョコレートを見て、上条の瞳が驚きの色に染まった。
しばらくして、美琴に顔を向ける。

「これ………マジ?」

「………」

小さく頷く。
たぶん顔は真っ赤になっているだろう。



「いや、なんつーか、その…」

見ると、上条の顔も赤くなっていた。
もしかしたら照れているのかもしれない。

「えっと…信じられねーっつーか…」

そんな上条の言葉に、美琴のこめかみにビシィッと青筋が走った。

「アンタねえ、女の子の純情、疑うのかコラ」

「いやだってこれ、既製品だろ?なんか間違えたんじゃねえかって思って…」

「確かに既製品だけど、本命と義理を間違えるなんてことあるわけないでしょうか!」

「義理?今、義理って言った御坂さん?ならやっぱり間違えたんじゃ?」

「そんなわけあるかああああっ!!」

バチバチバチィッ!!と少女の身体が紫電に覆われる。

「久しぶりにアンタに電撃喰らわせたくなったわ。いいかしら?」

「いや、今、右手塞がってるんで勘弁してください。てか撃ってきたら上条さんは身を守るため御坂のチョコを落としてしまわなくてはならなくなりますが」

「じゃあ、とりあえずチョコをしまってもらえる?」

「こ、こんなチョコ渡した相手に雷撃喰らわす気か!」

言い返しながら、それでも言われたとおりに箱を閉じて鞄にしまう。
その様子を見届けてから、美琴は帯電したまま尋ねた。



「こんなチョコってどんなチョコよ」

「ハートの形の『LOVE』って大きく書かれたチョコだよ!」

「その意味、わかってるわよね?」

「えーっと、本命チョコ?」

「そうよ」

「つまり、お前は俺が、その、好き、なのか?」

その応えに、美琴は右手を振りかざし、上条めがけて雷撃を放った。

「あっぶね!おい、御坂!」

上条は右手の幻想殺しで雷撃を打ち消すと、抗議の声を上げる。
だが、その声を掻き消すように、美琴は上条に向かって言い放った。



「絶対能力進化計画を潰したとき、たぶんあの時からわたしはアンタを気にし始めたんだと思う。アビニョンからの電話でアンタが記憶喪失になったってことを知って、そのあと第二十二学区でボロボロなのに戦いに行こうとするアンタを見て、アンタが好きって自覚した。その後、ロシアでアンタに拒絶されたときはすごい落ちこんだわよ。挙句アンタは行方不明になるし、海岸でゲコ太ストラップ拾ったときはアンタが死んじゃったんじゃないかってすごい不安になったわよ。でも酔っ払って帰ってきたアンタはたくさんの女の子を引き連れて学生寮に戻るし、かと思えば戦いに行くとか言い出すから、わたしも強引に着いて行ってアンタの力になれるって見せたのに、気がついたらアンタまた一人で勝手にどっか行ったわよね?まあすぐ戻ってきたけど、新しい女の子連れてたけど。それで一端覧祭のときはあろうことかわたしの胸を触って酷いこと言ったわよね?まあそれに関しては後でじっくりと謝ってもらうとして、その後、魔術師だかなんかと戦って気がつくと怪我してたりとか、学舎の園に入り込んで何かしてたりとか、人に心配掛けまくるくせに相変わらずで、魔人が出てきたときなんて力を貸してくれなんて嬉しいこと言ってくれたのに、追い詰めたかと思えば魔人を守っちゃったりなんかしてさ、結局そのせいで、クリスマスも正月も潰れちゃって大変だったけど、今の世界があるのは魔人のおかげだとか、いろいろ腑に落ちないことはあるけど、アンタのおかげで世界が守られたって信じてるし、守ってるって思ってるから。それでまあ、つまり何が言いたいかって言うと、あんたの周りには女の子がたくさんいて、さ。それでもわたしは…、わたしは、アンタのそばにいたい。アンタの一番になりたい。アンタに好きになって欲しい。わたしは、アンタが好き」

「……」

「……」

「……はは、参ったな」

上条は右手で頭を掻く。



「御坂」

少女の名を呼ぶ。
だが少女は俯いたまま応えない。

「御坂」

もう一度少女の名を呼ぶ。
相変わらず、少女は応えない。

「あー、もー、なに固まってんだよ」

「………えっ!!」

気がつくと、美琴は上条に抱きしめられていた。
突然のことに、思考が追いつかない。

「あっ、あのっ!?」

「あれだけの告白しておいて、どうしてそんな驚いてるんでしょうか?御坂さん?」

「だ、だって、だって、……迷惑、なんでしょ?」

泣きそうなのを堪えながら、美琴はそう尋ねる。



「迷惑だったら、こんなことしてねえよ」

「…それって?」

上条と美琴の視線が重なる。

「ありがとう。俺もお前が好きだ。御坂、俺と付き合ってくれるか?」

「ほんと、に?」

「ああ。上条当麻は、御坂美琴が好きですよ」

「わたしも。御坂美琴は、上条当麻が好きです」

だから―――。
いいよね?

そう瞳で訴えると、美琴は静かに瞳を閉じた。


おしまい










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