とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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同型のマッサージ器がここに二つある理由




上条当麻の母・詩菜と、御坂美琴の母・美鈴は、いい意味で歳不相応な程に若々しい。
それでも歳相応に日頃の疲れは蓄積される訳で、
いつものスポーツジムの帰りに近くのカフェに寄った二人は、
「最近、肩が凝る」だの「家事は腰にくる」だの、
ネガティブな話題のベテラン主婦あるあるで盛り上がっていた。

「じゃあ上条さんも疲れが…?」
「ええ。近頃は眠っても、翌日に疲れが取れない事が多かったもので」
「ああ~…やっぱりどこも同じなんですね~……」

コーヒーをすすりながら相槌を打つ美鈴。
だが詩菜のそんな悩みを聞いているうちに、ふとある事を思い出す。

「あっ、そうだ! だったらこれ使ってみます? この前、美琴ちゃんから送られてきたんですけど」

バッグから何やらゴソゴソと探し始める美鈴。と、同時に、

「あ、でもこの前の母の日に、当麻さんからいい物を貰いまして」

詩菜も自分のバッグから何かを探し始める。
そして二人は、同時にそれを取り出した。

「これなんですけど、すっごく効くんですよ! ……って、ん?」
「お陰でここ数日は朝もスッキリ……って、あ、あらあら?」

二人が同時にバッグから取り出したのは、全く同じ形の低周波治療器だった。
聞けばお互い共、一週間前の「母の日」に、学園都市で暮らしている子供から贈られてきた物だった。
しかし同じ日に、同じ商品が、別々の人物からそれぞれ届けられる。それは果たして偶然なのだろうか。
否、それはきっと違う。全くの他人ならいざ知らず、詩菜の息子と美鈴の娘は『お知り合い』だ。
そもそも詩菜と美鈴も、子供達がきっかけで、
こうして一緒にスポーツジムへと通う仲になっているのだから。
そこまで考えた所で、二人はニヤリとする。

「あらあら。これはどういう事かしら♪」
「ん~…これは本人に確かめてみないとですね♪」

二人の母親は、心の底から面白そうに、くすくすと笑い始めた。



遡る事一週間前、上条は同居人歴・約10ヶ月のインデックスと、
同居人歴・約半年のオティヌスを連れて、大型家電量販店に来ていた。
店内には軽快な音楽と共に「やまーーーだまーだまだ」と、その店のCMソングが延々と流れている。
こういう曲って夜眠る前とかにずっと頭の中で響いてるけど、完全記憶能力者のインデックスは、
頭がおかしくなりそうにならないのだろうか、とよく分からない心配をする上条である。
その時、そのインデックスがふくれっ面をしながら上条に話しかけてきた。

「…とうま。どうして私がオティヌスを持っていないといけないのかな?」

インデックスの両腕の中には、抱えられるようにしがみ付いている、
身長15センチ程の魔神がそこにいる。

「仕方ないだろ? オティヌスだけ家に置いてったら、スフィンクスが何するか分からないんだから」

スフィンクスはあれ以来、すっかりオティヌスを新しいオモチャとして認識したらしく、
更に厄介な事に、どうやらお気に入りらしい。
安物のねこじゃらしやカラーボールには目もくれず、隙あらばオティヌス目掛けて突進するのだ。
本質的には魔神に近しい存在だとしても、実質的な力は小動物以下だ。
下手をすればザリガニにも負ける。
そんな状態でオティヌスをお留守番させる訳にもいかず、こうして連れて来ているのだ。

「それに私には、この人間と近い場所にいなければならないという『罰』を食らっているからな。
 残念だが離れる訳にはいかないのさ」
「だったらとうまの所に行けばいいんじゃないのかな!?
 何で私がオティヌスを持たなくちゃいけないんだよ!」

いけしゃあしゃあと宣うオティヌスに、たまらず言い返すインデックスだったが、
そこに上条が嘆息しながら仲裁に割って入ってきた。

「…あのなぁインデックス……もし上条さんが今のオティヌスを持って歩いてたら、
 周りからどう思われるでしょうかね…?」
「うっ…」

フィギュア(にしか見えない)女の子を、男子高校生が持ったまま歩いていたら、
社会的に抹殺…とまではいかなくとも、半殺しぐらいはされるだろう。
しかしそれを、可愛い女の子【インデックス】がしていれば何も問題は無くなるのだ。
「ただしイケメンに限る」、とニュアンスが近いかも知れない。世の中は不公平で成り立っているのだ。

上条の言葉に押し黙るインデックス。
彼女としても、よく考えたらオティヌスが上条に抱かれているのをイライラしながら見つめるよりは、
自分で抱え込んだ方がマシだと思ったらしい。

インデックスも納得(?)してくれたようで、これで心置きなく買い物に専念できる。
上条は意気揚々と宣言した。

「じゃ、行きますか。マッサージ器コーナーに!」


同時刻、美琴もまた、上条と同じく大型家電量販店にいた。
店内マップを見て、目的の物が何階で売られているのかを調べる。

「えっと…健康器具は地下一階か」

目的地が分かり、エレベーターに乗り込む美琴。
エレベーター特有の無重力感を味わいながら、美琴はここへやってきた顛末を思い出していた。



『そういえばもうすぐ母の日ですね。皆さんは何か、贈り物とか考えてるんですか?』
『わたくしは特に何も…風紀委員のお仕事で忙しいのは、両親にも伝えておりますので』
『私も白井さんと同じ理由で……あ、でもやっぱりお花は贈りたいですね』
『あはは! 初春さんの得意分野だもんね。母の日って言ったら、やっぱりカーネーション?』
『そうですね。確かに定番と言ったらカーネーションですが、最近は他のお花を買う方も多いんですよ。
 アジサイやバラ、ランなども人気です』
『へ~…知らなかった。ちなみに初春のオススメは?』
『オリエンタルリリーとかいいかも知れません。花言葉はズバリ、「子の愛」です』
『おお~、ストレートでいいね! あたしはそれにしよっかな』
『むぅ…わたくしも、お花くらいなら何とかなりそうですわね……』
『ん~…でもお花かぁ…ウチのママ、割と現実主義だからな~……お酒とかの方が喜びそう』
『……お姉様…今の発言は風紀委員として、ちょっと聞き逃せませんの…』
『いや、買わないわよ。そもそも売ってくれないでしょ』
『あ、でしたらマッサージ器なんてどうですか?』
『どういう事? 初春さん』
『今ちょっと調べてみたんですけど、意外と人気みたいですよ。母の日のプレゼントに』
『あー…家事とか疲れるもんね。
 あっ! しかも学園都市製なら、外よりも高性能なのが揃ってるから、いいかも!』
『それもそうね…ママも最近、肩が凝るってメールで言ってたし……うん、決めた』



そんな会話が数日前に繰り広げられ、結果、美琴は今ここにいるのだ。

地下一階に着き、美琴は早速、健康器具コーナーに歩き出す。
すると目的の場所から、何やら聞き慣れた声が聞こえてくる。

「どうだインデックス? これ、さっきの店より安いか?」
「ううん。二軒前のお店よりは安いけど、一軒前のお店よりは378円高いんだよ。
 あ、でも『ぽいんとかんげーん』率はここの方が高いかも」
「ポイントなんざどうでもいいの。どうせ滅多に来ないんだから。それより現物が安い方が―――」

とても悲しい会話である。
つまる所上条が、オティヌスも一緒に連れてこなければならないという危険を冒してまで、
インデックスを連れてきたのはこの為であった。
何件も店を回り、その完全記憶能力を『無駄に』有効活用させ、
商品の名前と値段を覚えさせていたのだ。
インデックスは機械に滅法弱く、覚えた商品が一体どんな効果を持った物なのかはサッパリだが、
少なくとも「商品名」と「値段」だけを記号として記憶するのなら、彼女以上の人材はいない。
勿論、一番安い所で買う為ではあるが、この事がステイルの耳にでも入ったら、
速攻でイノケンさんを召喚され、上条は消し炭となるであろう。

美琴は思わず、「うわー…」と呟く。
その声を聞いた上条が、美琴の方を振り向き、声をかけてきた。

「お? 美琴じゃん。なに、健康器具コーナー【こんなとこ】来て。もしかしてお疲れ?」
「その言葉、そのままお返しするわ。
 しかも何かインデックス【ちっこいの】と…オティヌス【さらにちっこいの】まで連れて。
 私は母の日のプレゼント買いに来ただけよ」
「ああ、そうなんだ。俺も同じ。…で、これにしようかと思ってたんだけど」



そう言って上条は、一軒前の店よりも378円高い、ハンディ型の電気マッサージ器を手に取った。
すると美琴は「う~ん」と唸り、首を横に振る。

「そういうタイプって気持ちはいいけど、実際疲れが取れるかって言うと割とそうでもないのよね。
 それよりこっちの、低周波治療のにした方がいいんじゃないかしら?」
「え、でもそういうのって、パッドにジェル塗ったりして面倒じゃないか?
 そのパッドも何回か使ったら買い換えなきゃだし」
「アンタね…もうちょっと学園都市の科学技術を信用しなさいよ。
 こっちのは最新型で、そもそもパッドもジェルも使わないの。
 てか、身体に直接付けなくても、低周波が流れるって代物なのよ」
「へー、そんなのあるんだ」
「そ。操作もコンセントと電源入れるだけで簡単だし、何より動きながらでもマッサージできるから、
 家事に大忙しなお母さんにもピッタリ! 母の日の贈り物にどうですか? …って、書いてあるわ」
「あ、なんだ…広告読んだだけか……てっきりミコっちゃんが家電芸人だったのかと……」
「誰が芸人だ、誰がっ!」

何だか話が盛り上がっている上条と美琴。
その様子をインデックスとオティヌスが、ムスッとしながら見つめていた。
インデックスは先程も述べた通り、科学技術に関しては門外漢だ。
オティヌスはそこまででもないが、健康家電の知識はあまり無い。
故に二人は、上条達の会話に混ざりたくても混ざれないのだ。

イライラした二人は、武力介入しようとする。インデックスは勿論、いつもの噛み付き【アレ】だ。
しかしインデックスの歯が上条の頭部に突き刺さる事はなかった。
もう一人の人物、オティヌスの発した言葉の暴力によって、その場の空気が固まったからだ。

オティヌスは現在、物理的な攻撃力は皆無だ。その上、魔術もろくに使えない程に弱体化している。
そんな彼女に残された武力は、言葉だけだったのだ。
彼女は口を開く。とんでもない事を言う為に。

「しかし人間。お前の持っているハンディ型の電マって、AVによく出てくる奴だろう?
 それって大人のオモチャ【エログッズ】ではなかったのだな。初めて知ったよ」

オティヌスの言葉に、上条は顔を引きつらせ、美琴は一気に赤面させ、
インデックスは意味が分からず首を傾げる。
だがオティヌスの口撃はこれで止まらない。彼女は更に恐ろしい事を言ってのけたのだ。

「だがキサマにはそんな物必要あるまい。キサマはその幻想殺し【みぎて】の代わりに、
 毎夜、私を右手の恋人として『使っている』のだからな。
 いやはやまさか、妖精化を破壊された私が、
 今度はオ☻ホ妖精としての第二の人生が待っているとは、何とも皮肉な―――」

オティヌスが言い終わる前に、上条は握り潰しそうな勢いでインデックスからオティヌスをひったくると、
その勢いのままに反論する。

「何言ってんの何言ってんの!!? お前ホント馬鹿なの死ぬの!!?
 やってないじゃん!!! そんな事一度もやってないしってかそんな発想すら浮んだ事ないよ!!?」
「何を焦っている? ただの軽いジョークだろう」
「重すぎるわいっ!!!」
「とうま? オナ☻妖精って何なのかな?」
「知らんでも良かです!!!」

インデックスに、今や日本が世界に誇れる文化、
『HENTAI』についての知識がなくて、心底安心した上条である。
ちなみに余談だが、江戸時代にはすでに『巨大なタコから触手攻めされる女性の春画』があったらしい。
この国は、ご先祖様からしてすでに手遅れなのであった。



しかしインデックスはそうだとしても、15年も日本で暮らしている美琴はそうはいかない。
「へー……そう……」と小さく呟くと、いつものように髪の毛をバチバチと帯電させる。
いつもと違うのは、その表情だ。
普段の彼女なら、怒りに任せてギャーギャーと喚きながら帯電させる所だが、今は違う。
その顔は完全に『無』であった。もはや旧式のロボットのように、表情からは感情が見えない。
多分だが、これは完全にキレている。

「どぉぉおおおおおい!!! ちょ落ち着いてくだされ美琴さん!!!」

上条は慌てて、その右手で美琴の頭を触り、能力を封じる。
ここは家電量販店なのだ。美琴が暴走でもすれば、どれだけの被害になるか分かったものではない。
しかもその弁償を、何だかんだで上条が支払わねばならない状況になるような気がする。
だって彼は、不幸体質であると自覚しているから。それだけは避けなければならない。

「落ち着け~、美琴~…」と恐る恐る美琴の頭を撫でる上条。
頭を撫でられた事で、美琴は一瞬だけ頬が緩みそうになるが、
それで許す訳にはいかず、キッ!と上条を睨む。
オティヌスの言った事がウソであるのは理解しているが、それでも腹は立つのだ。
怒りの矛先が矛盾していても、そこには何か、負けられない戦いのような物があったりなかったり。

「こ、ここ、こんなんで騙されたりなんかしないんだから!
 さっきの話がどういう事なのか、ちゃんと説明しなさいよ!」
「だからあれはオティヌスが勝手に言っただけでだな……」
「だが毎夜、私と一緒の布団で寝ているのは事実だろう?」
「仕方ないでしょ! 風呂場じゃないとスフィンクスが入り込んで来……
 いや待て待て待て。違うそういうんじゃないからホント落ち着いてください美琴様」

オティヌスの余計な一言により、美琴の怒りマークがまた一つ増えた。
上条も上条で、先程から「落ち着け」しか言っていない。

ふと、上条にある名案が思いつく。
何の根拠もないが、今の美琴を落ち着かせるにはこれしかないと、上条の本能が告げたのだ。

上条は美琴の背中に両腕を回して。
優しく抱きしめた。
『あの時』、美琴がしてくれた事を、そのまま上条が。

「!!?」
「!!?」

インデックスとオティヌスは、上条の突然の行動に驚いたが、

「っっっ!!!!!!!!?????」

当然、一番驚いたのは美琴本人である。

「よ~しよしよし。大丈夫だぞ~美琴。落ち着け~落ち着け~」

まるで子供やペットでもあやすかのように、そのまま美琴の背中やら頭やらを優しく撫でる上条。
とっさの事で他になだめ方が思いつかなかったのだが、その効果は絶大だったようだ。
美琴は見る見るうちに大人しくなり、顔を茹で上がらせたまま、その場で呆然と立ち尽くしている。
よく考えたら、この行動にどんな意味があったのだろうか、とか、
どうして自分は、あんな極限状態で『美琴を抱き締める』、
という選択肢しか頭に浮ばなかったのだろうか、とか後々で色々と疑問が浮んだが、
とりあえず、満足のいく結果だった【みことはおとなしくなった】ので考えるのを止めた。

が、それで丸く収まる訳がない。
あちらを立てればこちらが立たず、美琴の怒りが収まれば他の二人の怒りを買うのだ。
結局上条は、インデックスには頭を噛み付かれ、
オティヌスにはその小さい両手で、全力でほっぺを引っ張られた【つねられた】のだった。

一方、美琴はと言えば、

「…抱き締められちゃった………えへ…えへへ~……♡」

と幸せそうにニマニマしながら、
先程に上条に抱き締められた感触の余韻を、暫くの間、堪能するのであった。



あ、それと母の日用のプレゼントは、この後二人共同じの買って、
そのまま実家に送られたんだってさ。めでたしめでたし。









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