とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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美琴のアレがアレだった理由




今日は朝から最悪だった。
インディアンポーカーを使ってケロヨンやピョン子達に囲まれるという幸せな夢を見たはいいが、
途中から食蜂のメイドとなり、彼女の肩を揉んだり靴を磨いたりオイル塗ったりお茶淹れたり…
とにかく、おぞましい夢を見る事となったのだ。
睡眠をとって逆に疲れたのは、初めての経験である。
しかも、それ程までに馬が合わない食蜂と、放課後にお茶をする事になり、極め付きは…

「超能力者もボクにかかれば丸裸や…文字通りな」

もう、憂鬱を通り越して憤慨である。
後ろの席で盛り上がっていた野郎は事も有ろうに、
自分(と食蜂)であんな事やそんな事をするという夢が書き込まれたカードを、
その他大勢の男に無料配布しようとしていたのだ。

カードの破壊と監視カメラの細工、食蜂の協力で記憶の改竄も済んだので、
とりあえずそのカードが世に出る事は(多分)無くなったが、美琴の不機嫌度は更に深刻な物となった。
おかげで、ただでさえ食蜂との険悪な雰囲気が、より一層ピリついていたのである。

だがそんな時だ。食蜂の取り巻きの筆頭でもある縦ロール髪の三年生は、
自分が美琴をお茶に呼んだ事に責任を感じたのか、この空気を変える為にこんな事を言ってきた。

「お二人も気になる殿方の夢はご覧になるのですか?」

気になる殿方。
その言葉に美琴も食蜂も、真っ先に思い浮かぶ人物がいた。
いつもヘラヘラしててデリカシーが無くて全然自分の能力が通用しなくて超が付くほど鈍感で
人の心にズカズカと土足で上がり込んできて本当に困っている時は当たり前のように助けてくれる、
あのツンツン頭の事を。

「あーそーいえばアレをアレ力でアレする予定があったわぁ」
「私もアレがアレだったんで失礼するわね」

縦ロール髪の三年生の一言に『何か』を思い立った二人は、その場で別れたのだった。
寮に帰って、アレのアレをアレにアレがアレでアレする為である。


 ◇


寮に帰った美琴は、部屋に白井がいない事を確認し、速攻でパソコンを立ち上げた。
そして検索サイトに飛び、キーワードを入れる。
検索ワードは [  上条  インディアンポーカー  夢  配布  ] である。
流石に検索では『あの馬鹿』や『アイツ』でもなく、『上条』と入力するようだ。
ググった結果、一人の少女のTwitterが引っかかった。美琴は即座にクリックする。

『ひめがみ @MahouTsukai
 今流行の。インディアンポーカーをやってみた。
 夢の中に上条君が出てきて。すごく幸せだった。
 朝からテンションが高いので。
 コピーでも良ければ。このカードを配布しようと思います。
 欲しい方は。リツイートしてください。』


このつぶやきは既に10000件近くリツイートされていた。
その殆どに「~、とミサカは~」というコメントがされており頭を抱えそうになる美琴だが、
今はそれにツッコんでいる場合ではない。美琴も早速リツイートした。
『もし出来ればで構いませんが、即日配達でお願いします!』と付け加えながら。


 ◇


その日の夜、時刻は午後7時56分である。
美琴は全身からポワポワしたオーラを撒き散らしながら、一通の茶封筒の封を開ける。
中身は勿論、昼間に注文したインディアンポーカーだ。

先方は美琴の無茶振りにも丁寧に対応してくれたらしく、速達で出してくれたようだ。
速達といっても、本来は昼間に出してその日の夜に届く事は無いのだが、
学園都市内で、しかも同じ第七学区という事も手伝い、
美琴は異例の速さでカードを手にする事ができたのである。

封筒からオレンジ色のカードを取り出す。
インディアンポーカーには夢の傾向で色が変わる特性があり、
オレンジは『楽しくて幸せ』な内容の色なのだ。

カードを手にした美琴は、そのまま寝巻きに着替えて自分のベッドに潜り込む。
そしてルームメイトである白井に対して一言。

「おやすみ、黒子!」

白井は一瞬キョトンとして、その数秒後に「っ!!?」となる。

「え、あの、お姉様!? もうお眠りになられますの!? まだ八時前ですが…」
「うん! 何か今日、すんごく眠いから!」
「いえしかし失礼ですが、全然眠そうなお声をしておられませんわよ…?」
「大丈夫。さっきドラッグストアで睡眠薬買ってきて飲んだから。寝れる寝れる」
「……はいっ!!?」
「心配しなくても平気だって! ちゃんとした正規品で、危ない薬とかじゃないから」
「いえあの…わたくしがお聞きしたいのはそこではなく……
 何故わざわざお薬を飲んでまでこんな早くからお眠りになるのかと―――」
「おやすみー!」

白井の話をバッサリと打ち切り、美琴は夢の世界へと旅立つ為に布団を被る。
取り残された白井は愛するお姉様の後ろ姿を眺めながら、ただただ「えー…?」と呟くのだった。

ちなみに、この頃の美琴はまだ上条への気持ちを自覚していないので、
ここまでやっておきながら未だに、
「別にアイツの夢を見たいとかそんなのは全然ないけど、
 『たまたま』届いちゃったカードを『偶然』使っちゃうのは仕方ないわよね! うん、仕方ない!」
と自分に言い聞かせるのだった。面倒な性格である。


ふっ、と美琴が目を開けると、今まで自分がいた世界が変わっていた。
この感覚は身に覚えがある。と言うか、昨日味わったばかりだ。

「…夢の中に来たみたいね」

インディアンポーカーも使うのは二回目なので、美琴も慣れたものだ。
さて、一度目は縦ロール髪の三年生の見た夢でえらい目に遭ったが、
ひめがみ @MahouTsukaiさんの見たという『上条君が出てきて。すごく幸せだった』夢とは、
一体どんな物だろうか。

なってそんな事を考えながら周りを見回すと、何か妙な既視感。
目の前の光景、この雰囲気。美琴はつい先日、これと同じような体験をしたばかりだ。

「…え? これ、大覇星祭じゃない」

そう、ここは大覇星祭の競技場だ。更に自分の体を見てみれば、常盤台の体操服を着ている。
と、その時。ふと背後から誰かに話しかけられた。

「おーっす。もう準備はいいのか?」

その声の主は勿論、

「のわああああっ!!! ア、アアアンタ! 急に話しかけんじゃないわよ!」
「…何をそんなに驚いているのでせうか?」

上条当麻だ。

「だ、大体準備って何のよ!」
「お前…もしかして寝ぼけてんのか? 『お姫様抱っこ競争』に決まってんだろ」
「………はい? おひ…何て?」
「だから、お姫様抱っこだよ!」
「………」

どうやら聞き間違いではないらしい。
その競技名とこの状況から、これから何をするのか何となく察する美琴。
だが分かったからこそ、

「えええええええっ!!? お、お姫様!? わ、わわ、私と、アンタがっ!!?」
「他に誰がすんだよ…とっくに選手登録してただろ」
「えええ…ええぇ~…?」

アワアワしながら顔を真っ赤にする美琴。そんな美琴を見つめながら溜息を吐いた上条は、

「あ~もう、いいから掴まれって。ほら、選手はスタートラインまで急げって放送されてんぞ?」

と急かす。美琴は仕方ないので、上条の首に手を回した。
すると上条は、「ん、よし」と美琴の背中と膝裏に腕を差し込み、そのままグイッと持ち上げる。
紛う事なきお姫様抱っこに、美琴は「ひーっ!」と嬉しい悲鳴を上げ、
顔からポッポと湯気を出しながら、借りてきた猫の様に縮こまる。

「うっし! んじゃ、行きますか!」
「……ひゃぅ…」
「…もしかして、かな~りドキドキしてらっしゃる?」
「ににゃっ!!? ドドドドキキドキドなんてしてないですけどもっ!!?」
「ふ~ん…? そっか。俺は……」

上条は一拍置いてから。

「俺は…結構ドキドキしてるぜ?」
「…え…?」

上条は照れくさそうに顔を逸らしたが、すぐに振り返り、その照れを隠すようにニカッと笑う。

「な、なんてなっ!? さ、そ、そろそろホントにスタートラインに行かないとな!」
「…………うん…」

美琴は上条の顔をポーッと見つめながら、そのまま身を委ねるのだった。


 ◇


美琴が抱っこされて運ばれてきたのは、『お姫様抱っこ競争』なる競技の会場…ではなかった。
と言うか気がつけば、いつの間にか自分はしっかりと両足で立っている。
そして目の前には大勢の観客。どうやらここは、何かのイベントのステージのような場所らしい。

「…え? 何、ここどこ?」

すると周りから『ワーッ!!!』と歓声が上がった。
その歓声はどうやら、自分に向けられているらしい。

夢と言うのは脈絡もなく場面が切り替わったりする物だ。
どうやら先程の大覇星祭の世界から、一気に別の世界へと飛んでしまったらしい。

(って事は…もうアイツとの夢は終わりなのかしら…?)

お姫様抱っこだけでも充分に幸せな夢ではあったが、
「もう少しくらい楽しんでいたかったな~…」と、ちょっぴり肩を落とす美琴。


(い、いや、別に楽しんでた訳じゃないけどさっ!!!)

まだ言うか。
美琴がそんな事を思っていると、司会者らしき身長135㎝くらいの女の子
(小学生にしか見えないが、実はひめがみ @MahouTsukaiさんのクラスの担任の先生である)
がマイクを向けた。ただし向けた先は美琴ではなく、その隣に立っている、

「さぁ、それでは今年の一端覧祭の目玉、
 『ベストカップルコンテスト』の優勝者さん達にお話を聞いてみるのですよ!
 いかがでしたか上条ちゃん?」
「そうですね~…まぁ、全部彼女のおかげって感じですかね。
 ホント、俺なんかには勿体無いくらいの女性ですよ」

上条であった。

「のわああああっ!!! ア、アアアンタ! 何でまだいんのよ!?」

美琴は先程の大覇星祭パートで背後から話しかけられた時と、ほぼ同じリアクションをする。

「おっ! お元気ですね~! それでは彼女さんの方にもお話を伺いましょうか。
 彼女さんは、上条ちゃんのどんな所がお好きなのですか?」
「えええええええっ!!!? どどど、どど、どこ、どこ、どこって、ええええええっ!!?」

テンパりまくる美琴。

「あらら…彼女さん、恥ずかしがっちゃいましたね」
「まぁ…そんな所も魅力ですけどね」
「おっ! 上条ちゃん、惚気ですか~? 先生も思わず妬けちゃうのですよ!」
「本当の事ですから」

真っ赤になったまま美琴は固まった。
あまりにもサラサラと出てくる上条の嬉し恥ずかしな台詞の数々に、
免疫のない美琴は硬直するしかないのだ。
だがそれで終わってはくれなかった。
身長135㎝くらいの女の子は、最後にとんでもない爆弾を放り投げてきたのである。

「っと、そろそろお時間なので、最後に優勝のキスをしていただきましょうか!」

その言葉を皮切りに、会場のボルテージが一気に上昇した。
観客席からは『キースッ!!! キースッ!!!』とキスコールが巻き起こる。
その有り得ない状況に、美琴の思考は完全にフリーズした。
しかしその隙に上条は―――


 ◇


「……………………」

美琴は目を覚ました。
あの時、あの瞬間、それは確かに夢だったのだが、美琴の唇には確かな感触があった。
美琴はベッドから上半身を起こし、自分の唇に触れてみる。

「……えへ…えへへ……えへへへへへへぇ~…」

そして顔がふにゃふにゃになってしまった。
その明らかに様子がおかしいお姉様に対し、白井は、

「……お…おはようございますですの…」

としか言えなかった。



ちなみにこの日の美琴は過去に例を見ない程に上機嫌だったらしい。
そしてそれは食蜂も同様で、何か『とても優しい夢』を見たらしく、一日中ニコニコしていた。
おそらく彼女も、美琴と『同じような体験』をしたのだろう。おかげで二人は、

「あら食蜂さん、今日はとっても天気が良いみたいね♪」
「あら御坂さぁん、快晴力全開で晴れ晴れするわねぇ♪」

と普段なら絶対にしないような挨拶を交わした。

そしてこの日は、常盤台中学を代表する二人のレベル5が、ついに手を取り合った記念日として、
後の世まで語り継がれる事になるのだった。










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