とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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おばけなんてないさ




「いやー上条さん、映画なんて久しぶりですよ」
「ふっふ~ん、私に感謝する事ね!」
「へいへい。どうもありがとうございますです、っと」
「うむ、よろしい♪」
「けど本当にいいのか? 俺の分の金、出さなくても」
「い、いいのよ! どうせ、たまたまクジ引きで当たった物なんだから!」

そんな会話を映画館の入り口でしている男女が二人。ご存知の通り、上条当麻と御坂美琴の両名だ。
二人の言葉から察せるように、「一緒に映画」というこのイベントは美琴の発案である。
そして更に察せるように、美琴の持っている2枚のチケットはクジで当たった物ではない。
と言うか、そもそもクジ引きなんてやっていない。
この映画券は、美琴が自腹を切って購入した物なのだから。
では何故そんな事をしてまで上条と一緒に映画を観にやってきたのか。そんな事は決まっている。

上  条  と  映  画  デ  ー  ト  を  す  る  為  で  あ  る 。

たまたま当たった物だという大『偽』名分があれば、
「捨てるのも勿体無いし誰か誘おうかなでも黒子や初春さんは風紀委員で忙しそうだし
 佐天さんは柵川中学【おなじがっこう】の人と遊びに行くって言ってたわね
 婚后さん達はホラーとか苦手だろうしじゃあどうしようそうだわあの馬鹿でも誘おうかしら
 確かアイツっていつも金欠状態だから映画なんて暫く観てないわよねきっと
 『年下に奢ってもらうのはちょっと…』とか言ってきても『いやこれ当たったモンだしw』
 って言えば気を使う事もないでしょうしうんやっぱりアイツを誘ってやろう
 これはあくまでも唯の親切心なのよ私がアイツとデートしたいとかそんな感情は微塵もない訳で
 ―――(以下略)」という言い訳ができる訳だ。
実際、上条を誘う時に、これとほぼ同じような事をまくし立てるように言ったのだ。
有無を言わせない美琴の謎の迫力に圧され、上条も「お、おう…」と了承したのだった。

「にしても俺、ホラー映画なんて初めてだよ」
「私も…あんまり観ないのよね」

美琴の(長~い)言い訳にもチラッと出てきたが、
美琴が当てた【こうにゅうした】チケットは、ホラー映画のそれである。
美琴は恋愛映画が好きなので本当はそうしたかったのだが、おそらく上条には興味がないだろう。
途中で寝られても困るし、そもそも上条と二人っきりで恋愛映画を観るなんていうのは、
今の美琴には、まだまだハードルが高すぎる。
そういう事は、もうちょっと距離が縮まってから(?)なのだ。
ならばアクションはどうだろうか。これなら上条も美琴も、二人とも興味のあるジャンルだ。
しかしそれは、いくら何でも色気がなさすぎる。
美琴だって中学二年生の女の子なのだ。
「気持ちに気付かれるのは困るけど、ちょっとくらいは意識してほしい」という、
複雑な乙女心【めんどうなせいかく】を持っているのである。
そこで間をとってホラーにしたのだ。何がどう間なのかは疑問だが。
しかしホラーならば、怯えるついでに相手の手を握ったりできるし、
怖がるついでに相手に抱き付いたりもできる。
つまり、美琴が「きゃー、怖ーい!」と言いながら上条に抱き付く事が可能なのだ。
…と『お約束』を期待した人も多いだろうが、残念ながらその幻想はぶち殺される。何故なら、

「だって結局は作り物な訳じゃない? 幽霊なんていないんだし」
「おまっ…! それ、映画観る前に言うか~!?」

美琴のキャラじゃないから。

「つーか、だったら何でホラー選んだんだよ」
「えっ? だからそれは、アクションだとちょっと色気がない……って、そうじゃなくてっ!!!
 そ、そもそもクジで当たった物なんだから、映画の内容までは選べなかったのよっ!」

という体である。

「それに絶叫マシンでも言える事だけど、適度な恐怖は人間に必要な心の栄養素なのよ?
 作り物でも…ううん、作り物だからこそ本物以上の恐怖が体験できるんじゃない。
 …って、本物なんていないって言ったばかりだけどね」
「本物以上…ねぇ…」


返事をしながら上条は、自分の分のチケットに目を向ける。

「けどそれって、こんなB級臭いタイトルの映画でも味わえるモンなのか?」
「意外と評判なのよ。…確かにタイトルはアレだけど」

上条が訝しげに見つめるこの映画のタイトルは、「着信アリング」。
アウトと刻んだアウトを鍋で煮込んで、仕上げにアウトを入れて味を調えたようなタイトルだ。
しかし美琴の言ったように、これが意外とウケているらしい。
その理由は三つ。その一つ目は、普通に怖い事。
ふざけたタイトルではあるが中身はかなりの硬派で、ホラーとしての完成度は高いらしい。
二つ目はVFXを一切使っていない事。
どうやら「アナログな撮影方法の限界に挑戦」がコンセプトらしいのだが、
これが科学技術に慣れ親しんだ学園都市の住人達から「逆に新しい!」と絶賛されたのだ。
そにて三つ目は、

「そう言やこの映画、スタッフの意図してない所で変な声が入ってるって噂があったよな」

という事だ。
ホラー映画ではよくある話だが、映画本編とは全く関係のないノイズが混じっている事がある。
この映画も例外ではなかった、というだけの話だ。

「ただの噂でしょ? それにその噂自体も映画を宣伝する為にスタッフが流したって話もあるし…
 要するにステマよステマ。だから何度も言うようだけど、結局は幽霊なんていないのよ」
「んー……」

美琴の言葉に、何かを思い出そうとして唸る上条。喉の奥に小骨が引っかかっているような感じである。
そうこうしている間に、美琴は受付を済ませて戻ってきた。

「6番シアターだって。丁度入れ替えの時間だし、もう入っとく?」
「…ん? あ、ああ」

美琴が戻ってきても上条はまだ考え中だったが、美琴に急かされて一旦思考を止める。
そして6番シアターの自分の席に座り、美琴と雑談しながら映画が始まるのを待った。

「―――でさー、そしたら佐天さんが『本当に怖い都市伝説』とかいう怪しい本を持ってきたのよ」
「へー、怖かったのか?」
「面白いとは思ったけど、特に怖くはなかったわね。やっぱり幽霊とか非科が」
「あっ! そっか!」
「く的な……何よ?」

美琴の『幽霊』という言葉に反応して、やっと何かを思い出した上条。小骨は無事に吐き出せたようだ。

「いや、美琴が霊的な事を否定してからずっと引っかかってたんだけどさ。
 幽霊って本当にいるっぽいぞ」
「………へ?」

唐突に何を訳の分からない事を言っているのだ、このツンツン頭は。

「い、いやいやいや。いる訳ないじゃない」
「俺もそう思ういたいんだけどさ、美琴はもう魔術がある事は知ってるだろ?」
「ま…まぁ、一応…」

何か風向きがイヤな方に変わった予感がする美琴。
確かにガッチガチの科学脳である美琴には詳しい仕組みは理解できないが、
この世に「魔術」という異能の力がある事は事実として受け止めている。
実際に第三次世界大戦以降、美琴は何度かその力を目視しているのだから。

「前に土m…魔術サイドに詳しい奴が言ってたんだけど、
 イギリス清教が『魔女狩り』に特化してるのに対して、ロシア正教は『幽霊狩り』に特化してるんだとさ」
「ゆ…ゆうれい…がり…?」
「ああ。要はゴーストバスターズだって言ってたよ」
「ゴースト……」

知らなきゃ良かったトリビアを聞かされて、美琴は徐々に顔を青ざめさせていく。
上条としては親切心だったのだろうが、
美琴としては「ありがた迷惑」…いや、ありがたくもないので『めいわく迷惑』である。

「なっ、なななな何でこのタイミングでそんな事言うのよ!!?」

何もこれからホラー映画を観るって時に、そんな話をしなくてもいいだろう、と美琴は声を荒げた。
恐怖心を最大限に引き出したという意味では、ベストなタイミングではあるが。
一方、上条は全く悪びれた様子もなく一言。

「いや、思い出したから。…っと、もう始まるぞ」

非常にも、映画開始のブザーが鳴り響く。
先程まで余裕たっぷりだった反動も大きく、必要以上にビクビクとする美琴。
何かもう、「妖怪・カメラ頭」が踊り狂うだけでも怖いと感じてしまうのであった。
いつの間にか、無意識に上条の手を握ってしまっている程に。

 ◇


そんな訳で、映画中も美琴は大騒ぎだった。
霊的な物が存在しないのならホラーもエンターテイメントとして楽しめたのだが、
存在してしまうなら作り物でも怖くなってしまう。おかげでビックリシーンが流れる度に、

「○※△×☆♧□%&◇#☺♨♀!!!!!」

と声にならない叫びを出しながら、上条に抱き付いているのだった。
『お約束』を期待したが残念ながら幻想はぶち殺されていた方々には、お詫びと訂正をしよう。

「みみみ美琴さん!!? 首っ! 首が絞まる! ってか胸が当たってらっしゃるううぅぅぅっ!!!」

しかし美琴の抱き付きは好感度アップの為の、あざとい「きゃー、怖ーい!」ではなく、
本気で怖い時の「きゃー、怖ーい!」なので、抱き付き方に容赦がない。
思いっきり胸が押し付けられ『役得感』はあるものの、やっぱり苦しさの方が勝り、
トータルでは不幸だと思う上条であった。爆発しろ。

そして例の「変な声が入ってる」というシーン。
小さく『……ッコイー………剝けやが……惚れちゃいそ………アクセ……』と、
死者の声らしきノイズが聞こえてきた瞬間、美琴はついに泣き出した。


 ◇


「…ひぐっ…えっぐ……ぐすっ…」
「え、えっと……な、何かゴメンな…? 美琴…」

映画が終わりシアターから出る頃には、美琴は恐怖のあまり大粒の涙と嗚咽を溢れさせていた。
普段は強気な態度をとっているだけに、「怖くて泣いた」なんて姿を上条に見られて、
恥ずかしくて余計に泣けてきてしまう。
上条も上条で、自分の無駄なトリビアのせいで女の子を泣かせてしまったという罪悪感と、
泣きじゃくる美琴の姿に、どうしてあげればいいのか分からずオロオロする。

「べづに…アンダのぜいじゃ……ぐじっ…だいんだがら……ひっぐ…
 謝んだぐでぼ……ずずっ…いいばよ………」

いいようにはとても見えないが、美琴はハンカチで涙を拭いながら気丈に振舞う。
上条は思わず、頭でも撫でてあげたくなる衝動に駆られたが、グッと我慢した。惜しい。

「じゃ、じゃあせめて寮まで送ってくよ。流石に一人で帰るのは怖いだろ?」

2時間映画を観た後で外へ出ると辺りはすっかり暗くなっており、
この状態の美琴を一人で帰すのは可哀想だと思い、上条は提案する。
美琴も、これから一人で帰宅した時の恐怖を想像して、再び涙ぐむ。
なのでいつもならば
「はぁっ!? 一人で帰れるわよ! …で、でもアンタが一緒に帰りたいって言うんなら―――」
とか言って、また面倒くさい問答を交わす所なのだが、今回ばかりはちょっとシャレにならないので、
上条の服の裾をクイッと引っ張りながら、

「……お願い…」

と素直に答える。
上条は思わず、優しく抱き締めてあげたくなる衝動に駆られたが、グッと我慢した。惜しい。

「ま、まぁ寮に帰れば部屋に白井もいるしな! 夜は怖くないだろ!」

普段の美琴とのギャップに、内側から『よく分からない感情』が湧き出てきた上条だが、
それを誤魔化すように話題を変える。
が、その直後、件の白井から美琴にメールだ。携帯電話の画面を見てメールの内容を確認した美琴は、
その内容を読み進める内に顔から血の気が引けていく。

「ど、どうした!?」

その様子に上条も慌てて美琴に詰め寄る。すると美琴はメール画面を見せながら、一言呟く。

「く…黒子……風紀委員の仕事が忙しすぎて……今日…帰れないって……」

ここでまさかの「黒子や初春さんは風紀委員で忙しそうだし」という冒頭の言い訳の伏線回収である。
白井が帰れない…つまり今日は一人で寝なければならないという事である。こんな状態のままで。

何と声をかけていいのか分からずに、声を詰まらせる上条。
そんな上条に、恐怖心に負けた美琴は普段ならば絶対に言わないであろう言葉で懇願する。

美琴は近くのビジネスホテルを指差しながら一言。
























「きょ、今日一緒に泊まって!? 今夜だけでいいからっ!!!」



……………
え?









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