とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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私は猫であるが名前はある




スフィンクスと言う。
白いご主人がつけてくれた名前なのだが、どうやらコレ、どこかの怪物の名前が由来らしい。
怪物とは所謂、恐ろしい生物の事だ。きっと大型犬に違いない。
下品は犬の名前を高貴な猫である私につけるとは、逆にアッパレなセンスの持ち主のご主人だ。

しかしながら、今この空間にご主人はいない。数匹の人間のメスと共に、どこか遊びに出かけたようだ。
まぁ、ご主人にも息抜きは必要なのだろう。いつもこんな狭い空間に閉じ込められ、
ずっとフカフカした椅子に座りながら、黒くて薄い箱(確か『てれび』と言ったか?)を眺め続け、
充分な食事も与えられずに常に空腹のまま…そりゃあイライラも溜まるってもんだ。
だから気分転換に外へ出る事は私も反対しない。反対はしないが、しかしご主人。

何故、私のお気に入りのオモチャまで持って行ってしまったのか!

ご主人が「おてぃぬす」と呼んでいるそれは、私の中で今最もブームなオモチャなのだ。
何故…何故、私の一番の楽しみを奪うのか、ご主人…!

っと、話が大きく逸れてしまった。申し訳ない。
今この空間にご主人はいない訳だが、何も私一匹だけと言う事ではない。
私の他に2匹の人間がいる。
1匹はご主人と共にここで暮らしている人間のオスだ。
ご主人の下僕で、いつもご主人や私のご飯を作る人間である。
地位がご主人よりも下にいる為か、食事の量はいつもご主人の半分以下だ。
だがそれでもご主人には足りないらしく、よく頭を噛み付かれて「しつけ」されている。
私は猫なので犬のように序列を決める事はないが、あえて順位付けするならば、
ご主人>>>私>>>>>>>>>>>>>>>>>>>下僕の人間、と言ったところだろうか。
ああ、いやすまない。彼にも名前があったな。
しかし「あんた」「かみじょうくん」「カミやん」「きさま」などと、
彼には72通りの名前があるから、何て呼べばいいのか。確か最初に会った時はイーノ…ではなく、
「とうま」と呼ばれていたな。ご主人から。

その「とうま」と、もう1匹の方の人間は「みこと」と言う。
とうまが何度も「みこと」と呼んでいるので間違いはないだろう。
みことはいつも威嚇しているので私は苦手だ。
どういう訳か、全身からピリピリした何かを全身から出し続けているのである。
その上やたらと私に触りたがってくる。もしかして喧嘩を売られているのだろうか?
それはそうと、このみこと。人間のメスなのであるが、どうやら発情期を迎えているらしい。
人間のフェロモンなど嗅ぎ取れはしないが、その態度を見ていれば一目瞭然だ。
とうまの言動に対して、イチイチ一喜一憂している。
しかし、それにしても人間の発情期というのは期間が長いのだな。
私の知る限り、みことがとうまに発情したのは「暑い時期」だ。
そこから今の「寒い時期」までずっと発情しっぱなしである。

とうまもとうまで、とっとと交尾してやればいいものを…と私も初めは思っていたが、
どうやらこのオスの人間は発情期に入っていないらしい。
度重なるみことからの接近(もっとも、とうまに接近を試みるメスの人間はみことだけではないが)を、
ことごとく台無しにしているのだ。所詮は下僕といったところだろうか。

っと、とうまがご飯を作る場所に行ったぞ。私も追いかけてみよう。
あの白くて冷たい箱の中に、お肉が入っているのを私は知っている。
だがどうやら、今回とうまは白くて冷たい箱を開けないようだ。残念。
代わりに、その上にあるカンカンを手に取った。
そのままカンカンから細かい葉っぱを取り出し、変な入れ物に葉っぱと熱い水を入れる。
そして再び変な入れ物から熱い水を出してコップに入れる。
…いつも不思議に思うのだが、何故あの変な入れ物に入れた熱い水は、
出てくる時に色が変わっているのだろう。緑とか赤とか茶色とか。
余談だが、私はあの熱い水が大の苦手だ。舐めるとベロが死ぬ。


「はあぁ……な~んか最近、美琴と話してると胸が苦しくなるんだよなぁ…
 何つーか、ドキドキするような…いやむしろキュンキュンするような…?」

とうまが独り言をする。しまった…考え事をしていたので聞き逃した。
「何て言ったの? ねぇ今何て言ったの?」と私は問いかける。

「にゃーん」
「…ん? ああ、腹減ったのか? ちょっと待ってろ。今キャットフード出してやるから」

違う! そうじゃねぇ!
けど、それはそれとしてご飯は貰う! 今日はカンカンに入ったベチャベチャした奴が食べたいな!
ガサガサに入ったカリカリの奴じゃなくて!

「あれ? 猫缶もう切れてたか…袋のは、まだあったかな?」

ああ、ちくしょう! カリカリの奴が入ったガサガサを取りやがった!

「にゃー! にゃー!」
「はいはい、ちょっと待ってろって。その前に美琴にお茶出さなきゃだから。
 せっかく淹れたのに冷めちまうし」
「ふみゃーっ!」

とうまは熱い水の入ったコップ2つと、カリカリの私のご飯の入った皿を持って、
みことが座っている方へと向かう。
おのれ…全っ然話を聞かねーでやんの、この人間……

「お、お待たせ。緑茶で良かった…かな?」
「ふぇっ!!? あ、う、うん! お構いなく!」

そんな会話をしつつ、とうまは台の上にコップを、床に皿を置いた。
ベチャベチャの奴が食べたかったのに…仕方ない、文句ばかり言っても始まらないか。
私は大人なのでカリカリの奴でも我慢美味っ! はぐはぐ、もぐもぐ、ぺちゃぺちゃうんま!

「あっ! ご飯食べてる。可愛い~! …でも能力のせいで触れないのよね~……」
「……み、ミコっちゃんだって充分可愛いと思いますが……(ぼそっ)」
「……え…?」
「あ、ああいや! その、何でもありませんですことよ!!?」

何やらお互いにはぐはぐ、うま! 顔を赤くするバクバク、コレうま! 人間2匹うまうまっ!
だが、私は今うんま! コレうんま! カリカリの奴にはぐ、うま、はぐ! 夢中なのでうま~!
それどころクチャクチャうまうま! ではなうまーーーっ!
っと、いけない。夢中になりすぎてカリカリの奴が一粒転がって行ってしまった。
みことの股の間に挟まってしまったようだ。仕方ない、取りに行くか。
こう…顔を押し込んで、と。

「わきゃっ!?」
「っ! ちょ、何やってんだスフィンクス!?」

ああ…狭い所って落ち着くなぁ~……何か良いスメルもするし…
これはピリピリを我慢してでも顔を突っ込む価値がありますなぁ~……

「ひゃんっ! く、くすぐったい、って、ば、ぁっ……あぁあんっ!」
「み、美琴さんも美琴さんで、変な声出さないでくださいませ!
 ほらスフィンクス! んな所に顔突っ込んでないで出てこいエロネコ!」
「に゛み゛ゃーっ!」

なっ! 何をするだァ―――ッ!
無理やり私を引っ張り出そうとするな! 私は狭い所に顔を挟んでおきたいのだ!

「おぅわっ!?」
「きゃーっ!」
「にゃーん!」

ほら見ろー! とうま、お前が無理やり私を引き剥がそうとするから、
バランスを崩して転んでしまったではないか!
お前はやたらと「フコウ」とやらに巻き込まれるのだから、こういう時は気をつけ…おや?

「っ!!! ちょ、ちょちょアンタっ!!! ど、どどど、どこに顔突っ込んでふにゃー」
「もごもご!?」

とうまがみことの股に顔を突っ込んでいる。な~んだ、要は私と同じ事をしたかっただけか。
確かにみことの股の間はクセになる狭さとスメルだからな。


 ◇


2匹は今、お互いに俯きながら正座をしている。何か気まずい事でもあったのだろうか?

「その…さ、さっきはスマン……」
「いいい、いや、べ、べべ、別に私は気にしてないし! わ、わ、悪気がなかったのは分かってるから!」
「確かに悪気はなかったんだけど……けど、み、美琴の……な? だから、えっと…」
「いいいいいいからっ! 詳しく言わなくてもいいからっ!
 そ、それにホラ! 私、短パンはいてるから! セーフだから!」

「せーふ」という言葉の意味は分からないが、
私の野生の勘が「せーふ」とやらではないと言っている気がする。

それにしても今のとうま、何だかとうまと接している時のみことと似ている気がする。
顔は赤く、目線は揺れ動き、妙に慌てている。
これはもしや…このオスの人間に、ついに発情期が来たのか?
みことがとうまに発情している時と同じ、という事は、とうまがみことに発情している?
いや、きっとそうに違いない。
しかしこの人間、どうやら初めての発情でどうしていいか困っている様子だ。
ここは一つ人生(私の場合は猫生であるが)の先輩として、
とうまがみこととうまく交尾できるように手伝ってやるか。

「うみゃ~ん」

私は出来るだけ甘ったるい声で鳴き、2匹の気を引く。

「な、何か呼んでるみたいだな」
「そ、そうね」

作戦成功だ。2匹の視線が私に集中する。
このまま気まずい無言が続くよりも、私という話題を介した方がマシという判断だろう。
だから私も手を抜かない。
私はこの2匹がうまく交尾できるように誘導する、仲介人…いや、仲介猫なのだから。

まず私は、小さくて冷たくて硬い人間
(とうまは「かなみんのふぃぎゅあ」と言っていた。とうまがご主人に献上したモノだ)
を横に置く。そして私がそれに覆い被さり、あとは腰を―――

「なっ!!?」
「ふにゃー」

―――このようにして振るのだ。どうだ? これが交尾だ。…ちゃんと見てる?
勿論これは擬似的な交尾だが、実際は…って、な なにをするきさまー。

「何やってんだバカ猫っ!」
「に゛ゃー、に゛ゃーっ!」
「『に゛ゃー』じゃねーっつのっ!」

ええい、だからお前の為に交尾の仕方を教えてやってんじゃねーか! 引き剥がすな!
ほらほらお嬢さん。あなたはちゃんと私を見て、そして参考にしてくださいな。

「ふにゃー」

あ、ダメだ。こっちはこっちで私の話を聞いてない。
何だよー! せっかく擬似交尾までやって見せたのによー!

「わ、悪いな! 何か盛ってらっしゃるようで!」
「い、いいいいや、ききき気にしてなな、ないからっ!!!」
「そ、そっか! な、ならいいけど! …ほら、お前はもうあっち行け! シッシッ!」
 
チッ! じゃあもう知~らない! 私は一人で遊ぶもんね~!

「と、とりあえず何か映画でも―――」
「あ、さ…さっき借りたDVD―――」

2匹が私を放って黒くて薄い箱を観始める。
むぅ…どうやら本格的に私を無視しているようだ。少し寂しい。
私は構われている時は鬱陶しく感じるが、いざ離れられると遊んで欲しくなるのだ。
猫なのだ。仕方あるまい。
しかしこのみことというメスの人間。人間なのに我々猫と同じような習性があるように思われる。
確か人間達の言葉で「つんどら」だか「ほんだら」だか…いや、「かんぶり」だったか?
…段々遠ざかっているような気がするが、そんなような響きだったはずだ。
まぁ、ともかくだ。私は今、猛烈に寂しい。だから構って~! ねぇねぇ構ってよ~!

「うわっ! 急に頭に登ってくんじゃねー! 今テレビのリモコン取ろうとしてバランスが―――」
「………え―――」

ドダン!と大きな音を立てて、とうまが転んだ。全く、本当によく転ぶ人間だ。
しかもまたみことを巻き込んで倒れている。
その上、口と口までぶつかっているではないか。
……もしかして、私がとうまの頭によじ登ったのが原因なのだろうか?
というかこの2匹、口と口がぶつかってから微動だにしないのだが、そんなに強くぶつかったのか?
見た感じではそこまででは―――

「うおおおおおあああああぁぁぁぁっ!!!!! ごごごごごごめんっ!!!」
「ご、ごめ、ったって、い、いい、今、キ………キキキキキキキキーーーーーっ!!!?」

やれやれ、口と口がぶつかったくらいで大袈裟な人間達だ。
と言うか、発情してんだったら早く交尾しろよ。










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