とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part58

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匿名ユーザー

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完成間近の常盤台寮の前で、浜面の叫びがほとばしっていた。
第一位と第二位は隣で「浜面の顔って不細工だなー」とか考えている。

「ぶーーーー」

「唇尖らせて不満そうな顔すんな!!」

「なんで壊したらダメなんだよ?」

「人の物壊したらダメなんだって!! じょーしき!!」

「わたしに命令する気かこら?」

「まあまあ、浜面さん、年増、落ち着かれてください。おい、ロリコンレベル第一位、止めんの手伝え」

「と、し、まぁ?」

「ホントてめェは、オレをキレさせンのがうまいよな」

一方通行がまたキレた後、上空からなにかが降ってきた。


白井は戦慄した。
確かに、彼が自分より何歩も先を歩いていることには気付いていた。
憧れのあの人の隣、いや、あの人ですら届かない場所を彼は歩いている。
そんなことは承知しているはずだった。

(私が矢を放つ位置を向こうが把握する術は無いはず)

しかし、実際に対峙すると、驚きを越えて恐怖すら覚える。

(だというのに、なぜ私が誘い込まれていますの?)

瞬間移動で矢を放ち、上条を追い詰めたように見え、逆に白井自身の行動範囲が狭められていた。
慌てて攻撃を止め、距離を置くことに専念する。

「あ!? バレた!!」

など向こうは余裕すら見せるのだから、悔しいったらない。

「そんな気軽に戦われたら、私の立場がありません。
殿方のくせに女性に恥をかかせる気ですの?」

「こう見えて必死だぞ?」

「……」

「まぁ、似たようなヤツと戦ったことがあるんだよ、どこからでも攻撃できたり、自分の信念で殺さなかったり…」

「なるほど、経験の差ということですのね」

「まぁな」

魔神だったり、聖人だったりするが割愛。

「とはいえ、オレは多分お前を捕まえられないし、今回は引き分けってことで……」

「出来ませんの」

再び白井は飛ぶ。
上条もまた鉄矢を避ける。

「くそっ!! 理由もなく戦えるかよ!!」

「お姉さまには、限りない未来がありますの!!」

戦いが始まって、もう38本ほど矢を放ったはずだ。

「ですが、今回あなた方のためにお姉さまは自分の学校すら捨てようとされました!!」

しかし、最初に服をかすって以降、1つも彼に届いていない。

「例え私がお姉さまから嫌われようと、お姉さまの可能性を狭めることを、わたくしが許しませんの!!」

ここにきてようやく、
彼の表情に敵意が見えた。




「なンだ? アイツら?」

一方通行たちは、視線を常盤台の寮の上に向ける。

「ええいっ!! まさか必要悪の教会[ネセサリウス]がいようとは!!」

小物です!!
と自己主張する変な服を着たオッサンが3人ほどいた。
?を浮かべる4人の近くに、見覚えのある侍女と赤髪神父が降り立つ。

「おい、アレはなンだ?」

「はい、土御門の罠……ゲホンゲホン!! たまたま学園都市に攻めてきた魔術……ゲホンゲホン!! テロリストです」

とりあえず、「土御門」の名前ですべて察した。
原作では語られることすらないレベルの雑魚に対し、
第四位が照準を合わせ、魔女狩りの王[イノケンティウス]が召喚され、第二位は羽を繰り出し、聖人が刀を構え、第一位がチョーカーのスイッチを入れた。
怪訝な顔をするモブの代わりに、浜面が白目で悲鳴をあげる。


白井は己の手を数える。
残り、48本。
だが、冷や汗を流す白井とは対照に、奴の表情に敵意が見えたのは一瞬。
いまでは笑みが浮かんでいる。

「最初はカチンときたけどさぁ」

鉄矢は瞬間移動【テレポート】で出た瞬間にはたき落とされた。
残り、42本。

「やっぱ、おかしいよな!!」

「なにがです?」

鞄から先に残りの矢を取り出しておく。
その間飛ばしていた矢も軽々とかわされる。
残り、36本。

「お前らしくねぇよ!! 戦う理由を美琴のせいにするなんて!!」

瞬間移動しながら数本放ったが、制服にかすりもしない。
残り、29本。

「じゃあ、理由はなんだ?」

上条が駆ける後を追うように矢が地面に刺さる。
残り22本。

「まずは、嫉妬だ。いつも一緒にいるオレのことが気に食わない」

動きを追って放った矢は木の幹に入った。
残り15本。

「でも、美琴が笑っていたから今までは放っておいたんだ。」

上条が蹴り上げた石に矢が突き刺さる。
残り、11本。

「だが今回、美琴が泣いた。それで不安に思っちまったんだろ?」

矢を囮にして蹴りを放つ。
が、読まれていた。
残り、7本。

「確かめたくなったんだろ? アイツの隣にオレが立っていて大丈夫なのかどうかを!!」

白井は上条の八方に矢を飛ばす。
が、現れる前にあの右手に打ち消された。
残り、1本。

「違うか? 恋敵」


上条の首筋に矢の先端が突きつけられる。
白井の目の前には上条の拳があった。

白井は全力を尽くした。
だが、上条はその気になれば白井に拳を当てることができたはず。
つまりは、そういうことだ。

「さて、引き分けみたいだけど、どうする?」

「…………ふぅ、そうですわね、そろそろ終わりにいたしましょう」

ようやく、白井は上条の顔を見る余裕ができた。

「なにを笑っているんです?」

「ん? 美琴の味方が多くてうれしくてさ」

まったく、この男は……。

「さ、アホ面さらしてないで行きますわよ」

「……へいへい」

その時、地面が揺れるほどの爆発音が響いた。
慌てて2人は現場に駆けつける。
そこには満足げな顔をした知り合いと、
ぼろ雑巾のような見知らぬ男たち、
そして、原型をとどめていない常盤台の寮があった。

「こ、これは……」

「いったい……」

「仕方なかったンだ」

「敵がここを戦場にしましたので」

「僕たち5人がかりでやっとだったよ」

「いやー頑張ったわー」

「強敵でした」

「お前ら5人でやっとだと? こいつらこんななりで木原だったり魔神だったりすんの?」

「よく見てくださいまし、あの人たち無傷ですの」



「ちょっと!! どうなってんのこれ!!?」

「あぶっ!! ぱあぱ!!」

「お、美琴?」

「お姉様」

「あ、おはよう黒子。当麻!! 『お、美琴?』じゃないわよ!! 急にいなくなって心配したでしょ!!」

「ぱぱ!! メッ!!」

「お、おお、悪い……。ん? インデックス、元気になったか!!」

「あい!!」

「そうなの、朝起きたらもう元気元気!! でもパパいないんだもん」

「いあいんだおん!!」

「だ、だから悪かったって」

すっかり3人だけの世界が作られたことに、複雑な笑みを白井は浮かべた。
そんな彼女の耳に、こちらに駆け寄る足音が入る。

「こ、これは?」

「あ、寮監様」

寮監も上条たちと同様、爆発音を聞いて駆けつけたのだろう。
ぽかん、とした表情にいつもの覇気は見られない。
が、すぐに自分を取り戻した。

「これをしたのはお前たち6人か?」

一歩進み出たのは垣根だ。

「はい、ですがテロリストに対応した余波で壊れてしまったものでして、私たちに悪意は無いんです」

「おい、オレは止めてただろうが」

「そうか」

寮監は、答えた垣根に近づくと、そのまま首を折った。

「か、垣根ーーー!!!」

「え? 効いてるの?」

「かきね、ねんね?」

「おい、オレは止めてただろうが」

「「ザマァ」」

「すごい技ですね」

「神裂、君がそれほど評価してしまうのかい?」

「そもそもテロリストへの対応はアンチスキルの担当だ。君たちの管轄ではない。言い訳にはならん」

メガネが光る。

「よって、処断する」

「あぁ?……???」

麦野がガンを飛ばしたが、すぐに怪訝な顔をした。
視界から寮監が消えたのだ。
はっとした時には後方に回り込まれていた後だった。
くぎごきゃ

「は、速い!!」

「神裂、君が驚いてしまうのかい!!?」

そのセリフをステイルが言った次の瞬間、神裂とステイルは地面に倒れていた。

「なっ!!?」

チョーカーにのびた手は既につかまれていた。
くびきょ

「お、オレは止めてたってんだろぉがよぉぉぉぉおおおおお!!」

ぐびばきゃ

「ふむ、御坂、白井、そしてそこの御坂の許嫁は今回の件に関係しているのか?」

「「「いいえ全然!!!!」」」


「そうか、ならばいい。しかし、これでは今年度中は寮が修復されることはないだろう」

「えっ? そ、それじゃあ!!!」

「あぁ、寮に戻るという話は白紙だろうな。この壊れようでは、本年度中は無理だろう」

3人は笑顔を浮かべた。

「よかったな、御坂」

美琴が見ると、寮監は寂しさを隠しきれていない笑顔を浮かべていた。
そう、今年度、つまり卒業まで美琴が寮に戻ることがないということは、つまり、寮監のもとに美琴が戻ることはないということだ。
気付いた美琴は堪らずインデックスを上条に預け、寮監の胸に飛び込んでいた。



木の葉が舞う。
どんなものにも終わりがある。



「どうやったら当麻に気持ちが伝わるんだろ?」

数日後の公園にて、
美琴はそうボヤいた瞬間、横からハリセンで叩かれた。

「痛い!! なにすんのよ黒子!!」

「てっきりツッコミ待ちかと。伝えようとしてないのに伝わるわけがありませんの」

「うぐっ」



変化、というものは少しずつ訪れる。
変化があった本人達には気付かない速度で。



「白井さん、最近は上条さんに八つ当たりしませんね」

「だねー。お、噂をすれば上条さんだ」

「追われてません?」

「み、美琴、インデックスを頼むあぎゃぁぁぁああああ」

「あ、うん。って当麻ぁぁぁあああ!!」

「ぱぁぱ!! ……あう」

「今日はこのくらいで勘弁してやるぜい」

「明日も覚悟しとくんやで」

「……当麻、なにやったのよ」

「美琴にはまだ言えないっす」

「……ふーん」

「やましいことはねえ」

「わかったわかった。さ、みんな、行きましょ。インデックスも一緒にいこうか?」

「あいっ!!」

「あ、えーっと、待ってください!!」

「あれ? 御坂さん!! 上条さん置いて行くんですかー!!?」



自覚のない変化は周囲にも派生し、
周囲もまた、変化していく。



「なぁ、白井」

御坂たちを追おうとした白井に上条は声をかけた。

「なんです?」

別に白井が足を止める必要はない。

「俺は今、あの約束をちゃんと守れているか?」

上条には彼女の背中しか見えていない。

「……ええ、ちゃんと守れていますわ。今のところは」

だから最後まで、上条はその笑顔を見ることはなかった。







おまけ!!

「コホッコホッ」

ベッドの横で、ただ立ちすくむ。

「コホッコホッ、コホッコホッ」

今の彼に、出来ることはない。











「だ、断ぜコホッん、苦しゴホッゴホッい」

「お粥は食べた。薬も飲んだ。水分補給もした。もうやることはない」

「あ、ゴホッ暗然ゴホッ死んでしまう」

「ただの風邪だ。死んでたまるか」

「ゴホッゴホゴホッゴホッ」

「そもそもそんな状態で、なんで外出していたんだ?」

「慨然、マイゴホッゴホッエンジェル、も、体調ゴホッを崩しているようなゴホッ気がしてな」

「そんな状態で会う方が迷惑だろう。って、私はなんでこんなアホの面倒を見ているんだ?」

「裕然、元気になってきた気がする」

「流石あの医者だな」

「躍然!! 今から会いに行くぞマイエンジェ「寝てろボケぇぇぇええ!!」がべぶはっ」

「おとなしくなったか。あんなツッコミは私のキャラじゃないというのに」

ボヤキながら天井は冷えタオルを取り換えた。


おまけ


ジョセフス。
上条や御坂、インデックスと別れた3人はだべっていた。

「インデックスちゃん風邪だったんですねー」

「周りが見えなくなるほど動揺したって御坂さんいってましたね」

「もう、ホントの両親みたいだよねー」

「少し、落ち着きも必要だと思いますわよ?」

「……白井さん、変わりましたね」

「???」

「うん、いつものように『あの類人猿コロス!!』ってならないもん」

「……わたくしは、お姉様が幸せなら何でもいいんですの」

「「白井さん……」」

「それに」

「?」「?」

「源氏物語、ってご存知です?」

「「えっ?」」

……。
ぞわわわわわわわわわわわ

「ふふっ、うふふふふふふ」










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