激劇
『おっす!!』
『……』
『??……おっす!!』
『いや、聞こえてるよ。ここ、どこかわかってる?』
『もちろん!!』
『いーや、わかってないね。なんといってもここはこの世で最も上るのが難しい山!! 標高8611m!! 世界で2番目に高い山、K2のの頂上です!!』
『違う』
『違わねーよ!! なにしに来てんのさ!! 冗談で来る場所じゃないんですよ!!』
『違う、ここはそんな場所じゃない』
『じゃあなんだって『アンタの、戦場よ』ん、だ……』
『アンタの、戦場でしょ』
『……』
『助け、させなさいよ』
『……じゃあ、オレの代わりに麓で守ってて欲しいやつがいる。そいつを任せられるか?』
『そんなやつ知るか』
『!!?』
『どーせすでに誰かが守ってるか、そんなことよりこっちをなんとかした方が早いんでしょ』
『だけど!!』
『わたしだって戦える!! わたしは他の誰でもない、アンタを助けに来たのよ!!』
『っ!!!……くそっ、勝手にしろ!!』
『ええ、勝手にする!!』
システム復旧率
32%
32%
「いはなーしゃい?」
「違うぞー。一端覧祭だぞー?」
「う?」
「学園都市全体でやる文化祭だぞー。まだお前には難しいかもなー」
「まーま、ぱーぱ?」
「ああ、あの二人はそこでやる劇の練習中なんだぞー」
インデックス、舞夏が視線を向けた先に
「どっ、どどどどどうかわた、私とけけけ結婚してくりゃさい!!」
「ふにゃ~~~~~~~」
アホがいた。
時間を数日戻そう。
時間を数日戻そう。
**************************************
「へー、常盤台も劇とか普通にするのな」
「あう、すーのな!!」
「なんだかんだ定番だからねー。世界屈指のオーケストラや、学園都市の最新技術を使った3D映像とか、一流の演技指導やらは将来その道を目指す人にとってはいい経験だろうし」
「……すまん、全然普通じゃなかった」
「だう?」
とある秋の夕方、
学園都市でも屈指の規模の劇場。
その通路を3人は歩いていた。
学園都市でも屈指の規模の劇場。
その通路を3人は歩いていた。
「いやー、助かったわ、ありがとう」
「どーいしゃしれ!!」
「台本を忘れるとかなにやってんだよ?」
「いやいや、昨夜インデックスが夜泣きして、寝不足な上に遅刻しそうになって……なんで当麻は平気なの?」
「へーきあの?」
「夕方に事件に巻き込まれて、徹夜で解決して翌朝学校、なんてことはしょっちゅうだったからな」
「ぱーぱ、えあい!!」
「すごい体力ね」
「だから学校で回復を……」
「勉強しなさい!!」
「ぱぱ、めっ!!」
ドアを開け放つ。
ステージでは、多くの常盤台生によって下見が行われていた。
一斉に視線が集まる。
あ、やべっ。この3人だから、つい自宅のつもりで行動してしまった。
自分たちの関係を説明しなければ。
ステージでは、多くの常盤台生によって下見が行われていた。
一斉に視線が集まる。
あ、やべっ。この3人だから、つい自宅のつもりで行動してしまった。
自分たちの関係を説明しなければ。
「あ、えーっと、こ、この人は……」
美琴の説明が途中で終わったのには訳がある。
「あ、あの人が御坂さんの許嫁!!?」
「高校生くらいでしょうか?」
「予想よりパッとしませんわね」
「そうかしら、わたくしは好みですわ」
「あら? あの赤ん坊はどちら様でしょう?」
「ま、まさか!? 御坂様の!!?」
「そ、そういえば、あの殿方、去年、寮の前で御坂さんと逢い引きされた方ではなくて!!?」
きゃーーーーー!!
そうでした、常盤台ではそういう設定でした。
「そ、そうなの!! こ、ここここここっこっ」
え? わ、私、言うの??
「ここここここ「コイツの婚約者の上条当麻です」べあっ!!」
見上げると、顔を赤らめながらも笑顔を見せる、自称自分の婚約者の顔があった。
一瞬だけ、視線が交差する。
一瞬だけ、視線が交差する。
「こっちは共通の親戚、インデックスっていいます。いつも美琴がお世話になってます」
きゃーーーーー!!
という叫び声が再び広がる。
そんなとき、
という叫び声が再び広がる。
そんなとき、
ドタン!!
と誰かが倒れる音がした。
振り向くと通路には、
振り向くと通路には、
「く、黒子!!」
無表情のまま倒れた白井と、
「あ、あはは、久しぶりだな」
「ええ、お久しぶり、です」
漆黒のオーラを纏った海原光貴がいた。
数十分後、上条とインデックスは劇場の観客席に座っていた。
「ぜひ見ていけ、なんていわれてもなぁ」
何をだ?
なんてツッコミを聞くようなお嬢様方ではない。
なんてツッコミを聞くようなお嬢様方ではない。
「しかも、アイツらまで……」
上条自身も一端覧祭の準備があったはずなのだが、姫神に連絡したら戻らないでいいと吹寄に怒鳴られた。
なんで途中で代わったのかわからない。
なんで途中で代わったのかわからない。
「まーま?」
「ん? ああ、とりあえず、衣装合わせと台本の読み合わせやるんだと」
美琴はお姫様役をやるらしい。
当然の配役だとは思う。
そして、末期だなぁとも思う。
当然の配役だとは思う。
そして、末期だなぁとも思う。
「主役じゃないらしいけどな」
「うーばら!!」
ステージを見ると、
風を感じたと錯覚するほど、
颯爽と王子が現れた。
もともと、○○王子とあだ名をつけられていてもおかしくない外見だ。
普通の人間なら似合うはずのない衣装も、彼の私服だと言われても納得する。
何人かの生徒は黄色い歓声をあげていた。
この学園都市に、海原ほど王子役に相応しい人物はいないだろう。
風を感じたと錯覚するほど、
颯爽と王子が現れた。
もともと、○○王子とあだ名をつけられていてもおかしくない外見だ。
普通の人間なら似合うはずのない衣装も、彼の私服だと言われても納得する。
何人かの生徒は黄色い歓声をあげていた。
この学園都市に、海原ほど王子役に相応しい人物はいないだろう。
「おおぉ」
「??……おおー」
ついつい感嘆の声を上げる上条と、意味も分からず追従するインデックス。
主役がまだ到着していないらしく、ほかの場面から台詞合わせが行われた。
ヨットに王子が乗る場面は、実際に水流操作や浮力使いの力でヨットに海原が乗った。
ヤバい、自分と違う。アイツはイケメンの国に生きている。オレはごみだね。
主役がまだ到着していないらしく、ほかの場面から台詞合わせが行われた。
ヨットに王子が乗る場面は、実際に水流操作や浮力使いの力でヨットに海原が乗った。
ヤバい、自分と違う。アイツはイケメンの国に生きている。オレはごみだね。
「……はぁ」
「ぱーぱ?」
ハリウッドから来たという演技指導のプロが大声で指示を出した。
次の場面に移るのだろう。
そして、美琴の名を呼んだのがわかった。
次の場面に移るのだろう。
そして、美琴の名を呼んだのがわかった。
息を、飲んだ。
「まーま!!」
あれは、本当に美琴か?
誰一人として動けない中、彼女は一歩一歩ステージの中央に歩みを進める。
白いプリンセスラインのドレスは、光を吸い込むかのように輝き、数万円するであろうティアラはいくつもの光を反射していた。だが、そんなものは目に入らない。
誰一人として動けない中、彼女は一歩一歩ステージの中央に歩みを進める。
白いプリンセスラインのドレスは、光を吸い込むかのように輝き、数万円するであろうティアラはいくつもの光を反射していた。だが、そんなものは目に入らない。
1年という時間が、
いつの間にか少女を、女に変えていた。
いつの間にか少女を、女に変えていた。
その目の輝き、鮮やかな唇、細い首、鎖骨・肩の肌は消え入りそうなほど白い。
膨らんだ胸、細い腕・手・指、くびれた腰、一挙手一投足、小さな吐息……。
膨らんだ胸、細い腕・手・指、くびれた腰、一挙手一投足、小さな吐息……。
いや、
言葉に表そうとすることすら、ばかばかしいほどの美が、存在していた。
言葉に表そうとすることすら、ばかばかしいほどの美が、存在していた。
「…………」
上条は、気づいていない。
自分の周りにいる生徒の顔が赤らんでいくことを。
彼女たちは、美琴ではなく、上条を見ていた。
自分の周りにいる生徒の顔が赤らんでいくことを。
彼女たちは、美琴ではなく、上条を見ていた。
それほど、今の上条の表情は……。
最初に金縛りを解いたのは、海原だった。
珍しく、緊張した面持ちで美琴に歩み寄る。
珍しく、緊張した面持ちで美琴に歩み寄る。
そして、片膝をつき、台本を取り出した。
「『助けていただいたあの時から、あなたの姿が瞼の裏から離れないのです』」
それは、台本通りの言葉だった。
「『どうか、私と結婚してください』」
再び誰かが息をのむ音が聞こえる。
脚本家も驚いていた。
これほど、絵になろうとは、だれも考え付かなかったのだ。
脚本家も驚いていた。
これほど、絵になろうとは、だれも考え付かなかったのだ。
だが、
少しして、違和感が周囲を襲う。
美琴が、声を発しない。
美琴が、声を発しない。
「お姉様……」
その表情が苦悶に彩られているのに気付いたのは、
長くともに過ごした白井と、
正面から顔を窺えた海原、
そして……
長くともに過ごした白井と、
正面から顔を窺えた海原、
そして……
海原が寒気を覚える気配を放っている人物。
本人は気づいていないのだろうか?
先ほどまで彼の表情にフラグを建てられていた少女が、
叫び声もあげられないほど恐怖に震えていることを、
自分がその重圧に気圧され、
振り向くことすらできないことを。
本人は気づいていないのだろうか?
先ほどまで彼の表情にフラグを建てられていた少女が、
叫び声もあげられないほど恐怖に震えていることを、
自分がその重圧に気圧され、
振り向くことすらできないことを。
彼は、これほどの殺気を放てる人物だっただろうか?
息を吐いた海原は、当初の予定通りに動くこととする。
「ゴホッゴホッ」
???
「じ、持病の脊柱管狭窄症が……」
「え? それ咳が出る病気だっけ??」
「どうもこれ以上演技を続けられそうにありません。ですので、今回の王子役は」
海原は上条を見る。
「あの男に任せたいと思います」
「「へ??」」
「あう?」
「終わらせるのか?」
月光が降り注ぎ、枯葉が舞うビルの屋上。
「あぁ」
少年の長い金髪が風に靡く。
「……そうか」
隻眼の少女もまた、風を受け入れた。
終わりは、すぐそこまで来ている。