とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある術式の七大罪源




「じゃあまさか、また魔術師が学園都市に攻め込んでるってのか!?」
「……平たく言えば、そういう事だにゃー」

土御門から、ひと気の無い路地裏へと呼び出された上条は、緊張を走らせていた。
第三次世界大戦が終わり、グレムリンとの戦いが終結した現在でも、
未だに科学サイドを憎む小規模な魔術結社は少なくないらしい。
現に今も土御門は、攻め込んできた魔術結社に対して裏で対応している最中なのだと言う。
そして彼の言葉を裏付けるのが、土御門の隣にいる二人の存在。

「そんな事でもなければ、わざわざ僕が学園都市【こんなごみごみしたばしょ】へ来ると思うかい?」
「…貴方にまた借りを作ってしまって申し訳ないのですが……事態は一刻を争うのです」

ステイル=マグヌスと神裂火織。
二人は土御門と同様に必要悪の教会のメンバーであり、今回の対・魔術結社の強力な味方である。
彼らは最大主教【ローラ=スチュアート】の命令で土御門の応援に駆けつけたのだが、
それよりもインデックスが暮らすこの街で好き勝手な事はさせないという、
個人的な感情でも動いている。というよりも、そちらの理由の方が大きいのだろう。

「それで…敵はどんなヤツなんだ…?」

上条はこの中では一番魔術について素人だが、それでも全く情報を知らないのと、
多少でも知っているのとでは、いざ敵と遭遇した時の対処に大きな差がある。
真剣な面持ちで土御門たちに探りを入れてみた…のだが。

「……あ、あれ? 何なのですか皆さん? その顔は…」

何故か土御門は半笑い、ステイルは心底ウンザリしたように、そして神裂は真っ赤に、
それぞれ三者三様の表情を浮かべるが、共通してあまり緊張感がないように見える。
だが黙っていても始まらないので、土御門が代表して上条の問いに答えた。

「あー、カミやん。その前にまず『七つの大罪』って知ってるかにゃー?」
「…? マンガとかゲームで、たまに見かけるけど…」

七つの大罪…それは主に十字教の西方教会で使われている用語である。
十字教において最も重いとされる七つの罪業の名称なのだが、正確には罪そのものではなく、
人間を罪へと導く可能性があるとされている欲望や感情の事をさしている。
『憤怒』 『怠惰』 『嫉妬』 『傲慢』 『強欲』 『暴食』 『色欲』
それら七つの欲望や感情は人ならば誰しもが持ち合わせているが、
それが大きく膨れ上がると人は罪を犯す…と考えられている。

「けど、それがどうかしたのか?」
「今回の敵さんは、それらを増大させる術式を使うって事だぜい」

科学サイド【こちら】で言えば、精神操作系能力のようなものだろうか。
上条は『一度も会った事は無い』が、おそらく第五位の能力に近いと思われる。

「大罪は七つ…つまり魔術をかけられた人数も七人。
 七人の能力者を欲望の赴くままに暴れさせて、
 学園都市を内部から崩壊させるのが連中の狙いって所かにゃー」
「…ん? でもそれならあまり被害は大きくならないんじゃないか? たった七人じゃ―――」

言いかけて、上条はハッとした。
この学園都市には、たった一人で軍隊と戦える程の力を持っている能力者が、
『ちょうど』七人いるのである。

「ま、まさ…か…?」
「そのまさかだぜい。連中は学園都市が誇る最強の能力者、
 『レベル5』に術式をぶつけたんだぜよ!」

あらゆるベクトルを操作し全てを破壊する力を持つ能力者、一方通行。
この世に無い物質を創り出し物理現象までも捻じ曲げる能力者、垣根帝督。
最強の電撃使いであり幅広い応用力や対応力を持つ能力者、御坂美琴。
下手をすれば自滅する危険性もある程に絶大な威力を持つ能力者、麦野沈利。
全ての人間を指先とリモコン一つで操る事の出来る能力者、食蜂操祈。
未だ実力を見せないがレベル5の一角として確かな実力を持つ能力者、藍花悦。
木原一族すら匙を投げる程の繊細な力を根性の一言で片付ける能力者、削板軍覇。
そんな怪物共が一斉に暴れたら、確かに学園都市は呆気なく崩壊するだろう。


「ヤベェじゃねーか! お前ら何でそんなに余裕あんだよ!?」

上条は妙に緊張感の無い表情を浮かべる三名を怒鳴るように、声を荒げた。
レベル5達が本当に敵の術中ならば、過去に類を見ない程の緊急事態である。
が、土御門は相変わらず飄々としながら答える。

「あ、それなら意外と大丈夫っぽいぜい。
 ちょっと様子を見てきたんだが、レベル5達【あのアホども】の周りは平和だったにゃー」
「………へ?」

そうなのである。
確かにレベル5達は七つの大罪によって欲望や感情を増幅されてはいたが、
敵の狙いである「学園都市を破壊する程の大暴れ」はしていなかったのだ。

例えば『憤怒』を増幅された一方通行は、
「テメェ番外個体ォ! 今、俺の酢豚ン中の肉盗りやがっただろォ!!!」
「ギャッハハハ☆ 盗られる方が悪いんだぜ第一位!」
「まぁまぁ一方通行。ミサカのピーマンあげるから、ってミサカはミサカはなだめてみる」
「そりゃァ自分で食いたくねェだけだろォが好き嫌いすンなくそガキィ!!!」
「こらこら、食事中にケンカはよくないじゃんよ」
「うっせェよ黄泉川ァ!!!
 つーか元はと言えばテメェがケチって肉少なめにしたンが原因だろォがァ!!!」
「どうでもいいけど埃立てないでくれるかしら?」
「どォでもいいけどテメェはとっとと職探せや芳川ァ!!!」
これといって特に普段と変わらず。

『怠惰』を増幅された垣根帝督は、
(今頃、本体である私…垣根はどこで何をしているのでしょうか…?
 まぁ、私には関係ないですかね。私は私ですし、考えるのも無意味なのかも知れません)
これといって特に普段と変わらず。

『嫉妬』を増幅された麦野沈利は、
「はぁ~まぁ~づぅ~らぁ~……」
「うおわぁ!? むむむ麦野!? さっきから原子崩し乱発とかシャレになってねーぞ!?
 何なんだよ! 俺に何か文句とかあるんなら言ってくれれば―――」
「……ート…」
「へっ!?」
「テメェまた滝壺とデートしやがっただろぉ!!!
 ふっざけんな私にも構えよブッ殺すぞ浜面の分際でゴルァ!!!」
「ええええええええええ!!!?」
これといって特に普段と変わらず。

『傲慢』を増幅された食蜂操祈は、
「貴方は私の肩を揉みなさぁい」
「はい女王」
「貴方はお茶を淹れてくれるかしらぁ?」
「はい女王」
「貴方と貴方はお茶菓子を買ってきてぇ。ダッシュでねぇ」
「「はい女王」」
「貴方達はそうねぇ…私を楽しませる為に、即興力の高いコントでもしてちょうだぁい」
「「「はい女王」」」
「みんな私へ奉仕できる事を、光栄力で満たされなさいよねぇ」
「「「「「「「「「「はい女王」」」」」」」」」」
これといって特に普段と変わらず。

『強欲』を増幅された藍花悦は、
「ああっ!? おい、ちょっと待ちやがれクソ第六位!
 今日だけで『藍花悦』の名前貸すの何人目だと思ってんだボケカスオラァ!
 なんでもかんでも救おうとしてんじゃねーよ、どんだけ援助欲求高ぇんだよテメェは!
 いくら内蔵潰しの横須賀さんでも身体は一つしかねーんだから、ちったぁ休ませ…
 え? 時給30%アップ? ……チッ、仕方ねぇなアホンダラ」
これといって特に普段と変わらず。

『暴食』を増幅された削板軍覇は、
「ガツガツもぐもぐバクバクはぐはぐ!
 ごくん…おばちゃーん! カツ丼と豚汁おかわりー!
 あとついでに唐揚げとフライドポテトとだし巻き卵も追加で!」
「はいよー! お客さん、豪快に食べてくれるから作る方としても気持ちがいいよ!」
「俺は、そんじゃそこらの学生とは根性が違うからな! 胃袋も根性がすわってんのさ!」
これといって特に普段と変わらず。


とまぁ、そんな感じで件の魔術結社の思惑とは大きく外れ、
結果的に言えば何一つ変わってはいなかったのである。
なので土御門たち必要悪の教会は、悠々と敵を探しに行けるのだ。
先程の余裕も、それが原因なのかも知れない。
しかし少なくとも、上条に助力を求める程度の事態である事は間違いない。
わざわざこんな路地裏に呼び出したのだから。

「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「ん~…何をって言うかナニをって言うか…」

すると土御門は、半笑いな顔を更に不気味な程にニヤニヤさせ、
ウンザリしていたステイルは、何故か上条にゴミ虫でも見るかのような目を向け、
神裂は顔を真っ赤にさせたままゴホンゴホンと咳払いし始めた。

「あー、カミやん。確かに他の六名のレベル5は大丈夫だったんだけど、
 一人だけ面倒な事になってるのがいてにゃー」
「面倒…?」
「まぁ、論より証拠。実際に見てもらった方が早いかにゃー。
 ねーちん、例の子を連れて来てくれだぜい」
「…わ…分かりました……」

土御門に言われるがまま、神裂は路地裏の奥へと引っ込んでいった。
そしてそのまま、ものの数分もしない内に一人の女性を連れてきたのだが、
その連れて来られた女性は上条のよく知る人物だった。
しかし、上条のよく知る女性は、明らかにいつもの様子ではなかった。

「み、美琴っ!? どうしたんだそんなに息荒くして!?」
「はぁ、はぁ…当麻……当麻ぁ!」

美琴だった。それは紛れも無く、御坂美琴だったのだ。
美琴は「はぁはぁ」とヨダレを垂らしながら上条の名前を連呼して、
潤んだ瞳でこちらを見て、何かに耐えるように体を小刻みに震わせていた。

「え、これ……えっ!? なにがどうなってらっしゃるので!?」
「『色欲』だぜい」

混乱する上条の問いに、土御門はこれ以上ないくらいに簡潔に答えた。
七つの大罪の術式を受けた他の六名のレベル5達は、
これといって特に普段と変わらなかったのだが、
それはそれぞれが受けた罪が普段の性格と大して変わらなかった
(一方通行で言えば、普段から『憤怒』する機会などザラにあった)おかげである。
しかし美琴は普段から『色欲』を前面に出す事などない。
それをやっているのは白井や青髪、オリアナ姉さん辺りである。
故に美琴だけ魔術の効きがハンパなく発揮され、こんなにエロエロしてしまったのだ。
もっとも、美琴も『憤怒』や『嫉妬』ならば普段と変わらなかったのかも知れないが。
だが、どんな効果であろうとも魔術は魔術。異能の力に変わりはない。ならば―――


「じゃあ、とっとと美琴の体を元に戻そうぜ。幻想殺しなら一発なんだろ?」

ところが。

「あっ、それ無理」
「えっ……」
「この術式は、確かにカミやんの右手で触れれば一発で解決する。
 けどその触れる場所が問題なんだぜい」

土御門のサングラスがキラリと光った。嫌な予感がする。

「えっと…どういう事だ…?」
「この術式を受けた者は例外なく特殊な刻印が浮かび上がる。
 けどその刻印は、それぞれの大罪に関係のある場所に現れるんだぜい。
 例えば『強欲』なら何もかも奪うその『手』に、
 『暴食』なら全てを貪る『口の中』って感じでにゃー。
 で、ここで問題なんだが、『色欲』を司る体の部位とは一体どこでしょう?」

その問いに、上条は冷や汗を滝の様に流す。

「ま…まさか……」
「そう、そのまさかだぜい。つまりおま」

土御門が放送禁止用語を言いかけた瞬間、神裂が土御門の顔面目掛けて鉄拳【ツッコミ】をめり込ませた。
これはつまり、美琴の『色欲』の刻印を打ち消す為には、
上条が右手で美琴のイケナイ部分をアレやコレやしなくてはならないという事だ。

「い、いやそれは色々とマズイだろっ!?」
「いってて…それが無理なら、オレ達が敵さんをブッ倒すしか方法はないんだが…
 その間、超電磁砲をこのままの状態で放っておく訳にもいかないだろ?
 それでカミやんを呼び出したって寸法だぜい」
「っ!? ちょ待っ! まさか俺に今の美琴のお守りをしろと!?
 一緒に敵と戦えってんじゃなくて!?」
「自惚れるな。君は本来、魔術サイド【こちら】とは関係ない人間だろう」
「それに貴方には、あの子の為にも危険な事はしてほしくないのです」

すると今まで黙っていたステイルと神裂が口を挟んできた。
上条を戦場へと引っ張るのは、彼らの本意ではないのだ。しかも。

「それにその超電磁砲、捕まえた時からずぅ~~~っとカミやんの名前を呼んでるぜい?
 って事はカミやんしか面倒を見られないって事じゃないかにゃー?」
「丸投げしてるだけだろそれっ!」

とは言っても、確かに土御門の言う通り美琴をこのままの状態で放っておく訳にはいかない。
こんなフェロモンを撒き散らしたまま外に出せば、すぐさまスキルアウトの餌食となり、
ヒャッハーされて薄い本みたいな展開になってしまうかも知れない。

「だから、もしその超電磁砲が大事なら、カミやん自身が守っとく必要があるんだぜい」
「ぐっ…! わ、分かったよ! けど出来るだけ早く解決してこいよ!」
「カミやんこそ、いざとなったら『色欲』の刻印を解除しろよにゃー。
 路地裏でヤルのが気まずかったら、そこの角を曲がった所にホテルがあるから―――」
「いいからとっとと行けよこの野郎!」



こうして上条は、半ばキレ気味に土御門たちを見送った。
彼らが無事に魔術結社を潰してくれるのを祈るしかない。

「当麻ぁ…! キスぅ…キシュしてぇ…」

あとは事件が解決するまでに、自分の理性を保てるかが問題である。


 ◇


「ねぇ当麻ぁ…! 私もう…我慢、でき、らいろぉ!」
「そこを何とか我慢してください美琴さんっ! 上条さんも色々と我慢しますからっ!」

何だかよく分からないが、何故か敬語になる上条である。
美琴はあざとく自分の胸を上条に押し付けながら、服の上からボディタッチしてくる。
いや、ボディタッチなんて生易しい物ではない。完全に『誘ってる』手付きだ。

「…なんで…? 当麻は私の事…嫌い…なの…?」

上条に拒否されると、途端にシュンとする美琴。
上条だって男の子だ。据え膳を出されれば食べたいに決まっている。
しかしそれでは動物と同じだ。人間である上条には理性があるのである。

「い、いや、嫌いって訳じゃ…」
「じゃあ好き!? 好きならキスして!? キスキスキスキスぅ~~~!!!」
「~~~っ!!!」

嫌われてないと分かった瞬間、表情をパァっと明るくさせてキスをねだる美琴。
可愛い。上条も思わず抱き締めてあげたくなってしまう程に。
だってしょうがないじゃないか。人間だって動物だもの。

「で、でもダメだ! 今の美琴は魔術でおかしくなってるだけなんだから!
 こういう事は、お互いに正気を保ってる時にだね!」

まるで正気を保ってる時ならキスしてもいいかのような物言いである。

「やだ…だって我慢できないもん……ほら、触って…?」
「っ!!!?」

すると美琴は、上条の右手をグッと掴み、そのまま自分の胸に当てた。

「…ね? ドキドキ…してるでしょ…?
 当麻だから…私がこんなになってるのは当麻がいるからなのよ…? だから…」

そして美琴は、制服の上着をスルッと上にずらし、お腹を見せ付けたまま一言―――

「だから……して…?」
「し、ししし、してって何をっ!!?」

何を、と言っているが上条もそこまで馬鹿ではない。
本当は分かっているのだ。美琴が何を求めているのかを。
そんなテンパる上条を楽しむかのように、美琴はクスッと笑い、突然思いっきり抱き締めてきた。

「何って…こういう事!」
「っ!!? ぐっ…がっ!?」

抱き締めたと思ったら、美琴はそのまま放電した。
極寒のデンマークで、美琴が初めて上条に勝利した、あの時のように。

「な、にを!?」
「だって…こうでもしないと当麻ってば素直になってくれないんだもん…」

美琴は上条を痺れさせて、動けなく【にげられなく】なった所で行為に及ぶつもりらしい。
行為が何か分からない場合は、家族の人に聞いてみよう。気まずくなる事請け合いである。

「いっぱい…気持ちよくしてあげるね…?」
「い、いや待て待て美琴! 話せば分かるから、まずは離して!」
「ダ~メっ!」

『色欲』を増幅された美琴は、半裸の状態のまま上条に覆い被さった。
対して上条は、先程の放電で体が痺れて身動き一つできない。
上条が逃げられない状態のまま、美琴は上条のズボンのファスナーに手をかけた。

「……………あれ? 私こんな所で何してるんだろ?」

ファスナーに手をかけた所で、突如として美琴は正気に戻った。
土御門たちが無事に敵の魔術結社を殲滅させたのだろう。
路地裏【このばしょ】で別れてからまだ数分しか経っていないが、
土御門ら必要悪の教会が非常に優秀だったのか、それとも敵が予想以上にアホだったのか、
とにかく事件は過去に例がない程にスピード解決したのである。

が、今はそこにツッコんでいる場合ではない。
ふと美琴が下を見ると、何故か上条がそこにいる。
しかも何故か自分は半裸の状態で、何故か馬乗りになっている。
ついでに、何故か自分の身体がじんわりと火照っている。

「えっ!? えっ!!? ええええええええええぇぇぇぇっ!!!?!!?!??!?」

美琴は瞬間的に顔を沸騰させて絶叫した。
さて、どこから説明したものか。
いや、そもそも今の美琴に説明を聞けるだけの冷静さがあるのだろうか。
上条は『あらゆる意味』を込めて、いつものセリフで締めるのだった。

「…はぁ、不幸だー……」











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