とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある二人の異種悪夢 上条サイド ~その一言が悪夢の始まり~




「はぁー……彼女欲しい…」

悪夢は上条のこの一言から始まった。そのふざけた戯言【げんそう】を吐露した上条に対し、
当然の如く土御門と青髪は、両サイドから上条をぶん殴った。

「いってぇな、お前ら! 何だよ! 上条さんが何か悪い事言ったのかよ!」
「おうおう、自分の言った事の重大さが分かっていないような奴に容赦なんて出来んぜよ」
「もうホンマ、カミやんは一度死んだ方がええんとちゃうか?」

ご存知の通り、本人的には無自覚であるが上条はフラグ建築士だ。
数多くの女性に好かれており、特にここ上条の教室では、
吹寄以外の全ての女生徒に想いを寄せられていたりする。爆発すればいいのに。
おかげで上条が何気なく呟いた「彼女欲しい」発言で、
女生徒達がもれなくソワソワと浮き足立ってしまったのだ。
その中でも最も上条への好感度が高い姫神などは、「これは。チャンス」などと呟きながら、
拳をギュッと握って気合を入れてしまう始末だ。
この状況に土御門と青髪、そして上条以外の男子生徒は全員、心の中で舌打ちをした。
これはマズイと、青髪は上条に聞こえないように土御門に耳打ちする。

(どないすんねん! このままやと誰かがカミやんに告ってまうかも知れへんぞ!?)
(今までの傾向からすると、告白しようとしてもカミやんの不幸が発動して、
 結果的には大丈夫だと思うけどにゃー…でも万が一って事も有り得るぜい)
(ほんなら何か手ぇ打たな!)
(だにゃー。ま、ここはオレに任せろだぜい)

この者達、友人【かみじょう】に彼女を作らせない為にどんだけ必死なのか。
土御門は一度コホンと咳払いすると、上条にこんな事を言ってきた。

「あー、カミやん。それならナンパでもしてみたらどうだぜい?」
「ナ、ナンパァ!?」

思いも寄らない一言に、上条も面を食らってしまう。

「そうだぜい。古来より出会いの無い者は、ナンパによって相手を見つけてきたんだにゃー」
「そ…そうなのか!」

得意の適当な言葉【ウソ】で、それっぽい理由を取って付ける多角スパイ。
上条もまんまと信じてしまう。土御門の狙いは上条にナンパさせ、そして失敗させる事だ。
確かに上条の事を好いている女性は多く、それは教室の外でも同じ事だが、
かと言って流石に、全ての女性にフラグを建てている訳ではなく
(教室内は上条との距離が近いから例外)、中には上条に嫌悪感を持っている者も存在する。
例として挙げるならば、白井とか白井とか白井などである。
つまり上条の事を何とも思っていない人物をナンパすれば、当然ナンパは失敗する訳だ。
そして上条は不幸体質。ナンパ失敗が彼にとっての不幸なのだとしたら、
彼はほぼ100%、自分に好感度のない女性をナンパのターゲットにする事だろう。
これをほんの一瞬のうちに計算した土御門は、上条にナンパを持ちかけたのである。
本当に、どんだけ必死なのだろうか。
しかし上条には一つ気がかりな事がある。先程説明した通り、彼はフラグ建築士と言えども無自覚だ。
彼自身は、自分の事をモテない男なのだと自覚【ごかい】している。なので。

「でもなぁ…俺なんかがナンパ【そんなこと】しても、失敗するのは目に見えてるしなぁ…」
「カミやんの…………バカーッ!」
「ボグァッ!!?」

上条が弱音を吐いた瞬間、まるで昔の青春アニメのようなノリで、土御門が上条に平手打ち【ビンタ】した。

「やる前から諦めてどうするぜい!」
「せや! ボクらぁ、カミやんをそないな子に育てた覚えはあれへんよ!?」
「お…お前ら…」


何だこの茶番。
そもそも青髪に育てられた記憶など、記憶喪失になる以前でもある訳がない。あってたまるか。
青髪まで乗っかってきたこのノリは、何かいい話っぽい雰囲気を醸し出しているが、
あくまでも上条がナンパをするしないで揉めているだけなので騙されないように。
土御門の狙いは上条にナンパをさせて失敗させる事ではあるが、
その前に上条が諦めてしまったら元も子もない。
そんな事になったら。クラスの誰かが「じゃあ私が上条くんの彼女になってもいいですか!?」
なんて言い出しかねない。それだけは阻止しなくてはならないのだ。
だが土御門の説得の甲斐もあって、
上条は口をグイッと手で拭う(別に口から血が出てた訳でもないが)と。

「へっ…効いたぜ、お前のビンタ【パンチ】…そうだよな。
 やる前から諦めてちゃ、何も始められないよな! 俺やるよ! 絶対ナンパ成功させるよ!」
「ああ! その意気だにゃー!」
「くぅ…! ええ話や…」

こうして立ち上がった上条。
そしてクラスの三バカによるコントの一部始終を見ていた吹寄は、

「………もう、すっかり冬ね…」

と我関せずを決め込んだ。だって巻き込まれたら面倒だから。


 ◇


「はぁ~…ナンパって言ってもなぁ…」

さっきまでの勢いはどこへやら。上条は溜息を吐きながら、第7学区の街をトボトボと歩いていた。
教室の中では土御門と青髪による煽りと、その場の変な空気にあてられて了承してしまったが、
冷静に考えてみると、やはりナンパなど成功する気がまるでしない。
しかし大見得切って「俺やるよ!」なんて宣言してしまった手前、
一度くらい誰かに声を掛けないと格好がつかない。例え玉砕してしまうとしてもだ。
もしも結局、誰にも声を掛けられませんでしたで終わってしまったら、
きっと奴らの事だ。「おや~? あの時の意気込みはどこ行ったのかにゃ~?」
「『絶対ナンパ成功させるよ! キリッ!』とか言うてへんかったっけ~?」
などと、ここぞとばかりに馬鹿にしてくるに違いない。それは何かもうムカツクのである。
しかも周到な事に、件の土御門と青髪はと言えば、上条の後方20m付近にある、
風力発電のプロペラの支柱の影から、こちらの様子をうかがっている。
これは本当に上条がナンパをするのか監視する為でもあるが、それとは別に、
ナンパに失敗した直後の上条をとことん馬鹿にする為でもある。この二人、本当に友人なのだろうか。
とは言え、フラれるのが前提のナンパなどモチベーションが上がる訳もなく、
こうして途方もなくフラフラとしているのだ。
しかし、いつまでもこうしていても何も解決はしない。上条は両手で頬をバチンと叩き、気合を入れる。

「っしゃ! もう次に目に入った人、誰でもいいからナンパしよ!
 そんでとっとと終わらせよう! 今日スーパーの特売日だし!」

最後の一言が本音らしいが、とにかくナンパする事を決意する上条。
キョロキョロと周りを見回すと、小さな喫茶店の中で何やら言い争いをしている女性二人を見つけた。
ガラス越しで何を話しているのかは聞き取れず、しかも太陽の反射光でちょうど顔は見えなかったが、
一人は柵川中学の制服、そしてもう一人は常盤台中学の制服を着ていた。

  お    約    束    通    り    で    あ    る  。

中学生をナンパするのは主義に反するが、元々自分の主義に則って始めたナンパでもあるまいし、
上条は呆気なく自分の主義()を曲げる。そして、その小さな喫茶店に入っていくのであった。


 ◇


喫茶店に入った上条は、先程見た中学生二人の下へ、真っ先に駆け寄った。
最初に目に入ったのは柵川中学の制服の子(ただし顔は見えなかった)だったが、
喫茶店の入り口に近いのは常盤台中学の制服の子(ただし顔は以下略)だったので、
ナンパするのは常盤台の子にするようだ。
上条はその子に近寄り、しかし緊張のせいかあまりその子の顔を見ないように視線を下にずらし、
その子の肩に手をポンと置き、こう言ったのだ。

「あ…あの~、よろしければ、わたくしとお茶などをしては頂けませんでせうか…?」

ナンパなどやった事のない上条は、その手口や知識も20~30年ほど昔のモノであった。
既にお茶をしている女性に対して「お茶などを」と言うのも不自然である。
元々フラれるのは前提だったので、ナンパのやり方などどうでも良かったのかも知れないが。
しかし次の瞬間、ナンパをした女性から思いも寄らない一言が飛び出してくる。
常盤台中学の制服を着た女性は、背後にいる上条を指差し、こう言い放ったのだ。

「こっ! この人よ佐天さん! この人が私の付き合ってる人!」

聞き覚えのある声。『佐天』という名前。そして常盤台中学と柵川中学の制服。
上条は下を向いたまま、とてつもなく嫌な汗が流れ落ちてくる。

(ま、まさか…いやいや、まさか! そんな事がある訳は…!)

上条がゆっくりと顔を上げるとそこには―――

「みみみみ美琴ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!?」
「アアアアアンタァァァァァアアアアアアアアアア!!!!?」

目と目が合った上条と美琴は、同時に叫び声を上げた。

「そっか~。御坂さんが付き合ってる人って、やっぱり上条さんだったんですね~!
 そうならそうと早く言ってくださいよ~、いや~残念残念♪」

この言葉とは裏腹に、口調は全く残念そうじゃない佐天。

「ちょちょちょ、どないなっとんねん!? カミやんのナンパ成功しとるやないかい!」
「こ、これは予想外だにゃー! どうしてこうなったぜよ!?」

上条の後方20m付近で待機していた土御門と青髪も、ショックのあまり喫茶店に来店してしまう。
そして肝心の二人は。

「えっ!? えっ!? 俺と美琴が付き合…ど、どういう事なんだ!!?」
「ななな何でアンタが私に、ナ、ナナナ、ナンピャ―!!!」

ただただ混乱するばかりなのであった。
ちなみに不幸体質の上条が何故ナンパを成功させられたのか、
しかもよりにもよって上条への好感度が飛び抜けて高い美琴をナンパ対象に選べたのかは、
不幸をも超える『愛の力』って奴が働いたとか、そんな感じなんじゃないでしょうかねぇ(ドヤァ)











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