とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

856

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

モヤモヤ当まぁ~ず2




日曜日。それは本来ならば休日の筈である。
しかしここにいる上条当麻は、度重なる無断欠席とテストの赤点によって、
日曜でも情け容赦なく補習を受けなくてはならない身の上となっている。
休日に学校を出入りする姿も、もはや違和感がなくなる程に慣れた物だった。

「はぁ…不幸だ…」

そう呟きながら校門を出る上条。どうやら本日の補習は終了したようだが、
本当に不幸なのは小萌先生なのだという事を、上条は肝に銘じるべきだと思う。
それにしてもこの男、補習が終わったのに妙に浮かない顔をしている。
どうやらその原因は、彼の鞄の中にあるようだ。
いつもは本当に中身が入っているのか疑いたくなるくらいにペラッペラの鞄が、
今日はパンパンに膨らんでいる。実はこれ、小萌先生から出された宿題の山なのだ。
上条の苦手な科目を重点的に詰め込んだ、小萌先生の心憎い思いやり【スペシャルメニュー】である。

「にしても古文とか現代社会に必要なんですかねぇ!?
 英語だって話せなくても日本じゃ生きていけるし、
 日本史とかも過去ばっか振り返るくらいなら未来を見据えるべきだと僕は思います!」

上条は半ばヤケクソ気味に叫んだ。どうやら出された宿題は古文・英語・歴史のようだ。
彼も学園都市の生徒らしく、科学や物理、機械工学に情報処理など、所謂理系の分野では、
それなりに成績は良い。(それでも学園都市全体から見たら平均以下ではあるが)
しかし反対に、文系の成績は壊滅的に悪いのだ。
何度も海外に飛んでいる割には、英語は「This is a pen」レベル
(現地の人でも大体日本語が通じるし、通じなくても通訳できる人が周りに必ずいた)
だし、日本史に至っては伊能忠敬すら知らなかった程である。

「しゃーねぇ…帰ったらインデックスやオティヌスに宿題手伝ってもら……ん?」

インデックスもオティヌスも、流石に科学的な内容ならばお手上げ(特にインデックス)だが、
本来の日常会話である英語は勿論、魔術に深く関わる古文や日本史
(昔話の「桃太郎」の原書が10万3000冊の魔道書の中の一冊だったり)などにも詳しい。
ましてや文系は記憶力が必要な問題が多く、そして記憶と言えばインデックスだ。
と、そこまで考えた所で、ある人物が上条の目に入ってくる。

「ありゃ? 美琴だ」

上条の歩く先には、美琴の姿があった。そこで彼は考え直す。
いくら詳しいと言っても、インデックスとオティヌスの知識には偏りがある。
専門的な魔術的解説とか教えられても、まず間違いなく宿題には必要ないだろう。
そこへいくと美琴は常盤台の生徒だけあって、総合的に高い基準で知識と学力がある。
しかも彼女ならば、テストで出そうな部分を抜粋してくれるというオマケも付いてくるかも知れない。
そう思った上条は、アッサリとインデックスから美琴へと鞍替えし、そのまま声を掛けようとした。

「おーい、美こ……と…?」

しかしその時、上条の視界が美琴の隣にいる男の存在を捉えた。
特攻服のような白い学ランに旭日旗柄のTシャツ、頭には鉢巻を巻いたその特徴的な服装は、
学園都市広しと言えども他にはいないだろう。

「軍…覇…?」

この距離では二人が何を話しているのかまでは聞き取れないが、
美琴が普段上条と接している時のように、顔を真っ赤にして怒鳴っている様は見て取れる。
チクリ、と上条の胸に小さな痛みが走った。鈍感である上条は自分自身の感情にも鈍感らしく、
その痛みの原因が分からないまま、妙なモヤモヤを抱える事と相成った。

「お、おーい二人共! 楽しそうに何をお話になってらっしゃるので!?」

居ても立ってもいられなくなった上条は、すぐに二人の近くに駆け寄ったのだった。


 ◇


時を遡る事、数分前。美琴は上条の学校の近くにある公園でウロウロしていた。

(う~、どうしよう! やっぱりアイツに電話してみようかな…
 でも私から電話したら、き……ききき気があるとかって誤解されそうだしっ!)

美琴は公園内をグルグルと回りながら、アレコレ考えつつ自分の携帯電話を握り締めている。
とりあえず、上条【アイツ】に気があるのは誤解でも何でもないだろうに。

(だ、だけどやっぱり限定品だし…しかも期限は今日までだし……)

どうやら美琴は今、ある悩みを抱えているらしい。
然る有名なハンバーガーチェーン店に、ハッピーなセットがあるのを皆さんもご存知だろう。
そのハッピーなセットにはオマケが付いてくるのだが、
今回はラヴリーミトンのキャラクターのミニフィギュアが貰えるのだ。
そして美琴はそのメーカーのキャラ、特にゲコ太シリーズがお気に入りであり、
自他共に認めるヘビーゲコラーである。しかしミニフィギュアの種類は全部で8種類あるのだが、
美琴はコンプリートまで後3つも残っている。しかも運の悪い事に、残る3つというのが、
よりにもよってゲコ太・ケロヨン・ピョン子の3種であり、更に更に運の悪い事に、
今日を逃すと明日からはオマケの内容も変わってしまうのだ。
だが女子中学生がハンバーガーのセットを3つも注文するのは流石に恥ずかしい。
そこで上条の力を借りようと電話をかけようとしたのだが、
それによって気があるのだと誤解()されてしまうのではないかと心配になった…
というのが現在の美琴の状況である。
ちなみに上条の学校の近くでウロウロしていた事には特に意味はない。
上条に補習がある事など知らなかった美琴だが、
つい放課後になったら上条の学校に寄るいつものクセで、
日曜だと言うのに無意識に足が向いてしまったのだ。と、そんな時だった。

「む? よう、嬢ちゃん。こんなとこで奇遇だな。何か悩み事か?」
「……そんな事よりアンタ、何もない所から一瞬で現れたんですけど…?」
「根性があれば、それくらい誰だって出来るぞ」
「……ああ、そう…」

ランニング中(音速)だった削板が、何かに悩んでいそうな顔をした美琴を見つけ声を掛けてきた。
彼は困っている人を見かけたら助けずにはいられない性格なのである。
しかしその登場の仕方は常人には、あらゆる意味で理解できない程に速く、
あまりの速さに、人間【みこと】の目には瞬間移動でもしたかのように映ったのだった。
実はこの二人が出会うのはこれが四度目である。
一度目は木原那由他の介入を切っ掛けに二人で決闘した時。
二度目は大覇星祭の二日目に木原幻生の実験により絶対能力者へと進化しかけた時。
三度目は『人的資源』プロジェクトを巡る事件の際に7500人のヒーローと激突した時。
もっとも二度目の時は美琴も意識が無かった為、
彼が上条と共に自分を助けてくれた事は、あまり覚えてはいないし、
三度目の時も他のレベル5と同様にバラバラに戦っていたので、特に会話する事もなかったが。
ちなみにこの二人、未だにお互いがレベル5だと言う事は疎か、
お互いの名前すら知らなかったりする。まぁ、そこまで深い仲でもないからなのだろう。


「それより悩みがあるなら吐き出した方が楽になるぞ」
「べ、別に悩みなんてないわよ!
 ただちょっと…どうしようかな~って思ってる事があるだけで…」

世間一般では、それを「悩んでる」と言うのだが。
削板は「ふ~ん、なるほどな」と理解したのかしていないのか(多分していない)相槌を打つと、
もう悩み相談に飽きたのか、突然全く関係ない話題を振ってくる。

「そう言えばアイツはどうしたんだ? 上条」
「びゃっ!!?」

ただし美琴にとっては、全く関係なくない話題だった。
美琴は一瞬、上条に電話しようとしていた事を削板【このおとこ】に読まれたのかと思ったが、
そうではなかった。削板は腕を組むと、ふいにこんな事を言ってきたのである。

「上条とは一度手合わせしてみたいんだが…中々会えなくてな。
 嬢ちゃんはアイツの知り合いらしいから、どこで何してるとか知らないかと思ったんだが」
「し、知らないわよ! そんなのむしろ私の方が教えて欲…って、何言わせんのよ馬鹿!
 大体、べ、べべ別に四六時中アイツの事を考えてる訳じゃないんだから……」

削板は何か美琴の地雷を踏んでしまったらしく、急に怒鳴られてしまう。
しかも美琴は顔を真っ赤にまでさせている。
「風邪かな?」と思った削板だったが、ちょっと様子が違うっぽい。削板は首を傾げた。
と、その時だった。

「お、おーい二人共! 楽しそうに何をお話になってらっしゃるので!?」
「…おっ?」
「みにゃっ!!?」

美琴と削板、それぞれ全く違った意味で会いたいと思っていた人物が声を掛けてきた。
その特徴的なツンツン頭は、忘れたくとも忘れられない。上条だ。

「ちょうど良かった。今、お前の話をしてたとこだ」
「俺の…?」
「ああ。だがお前の名前を出した途端、この嬢ちゃんが真っ赤に」
「わーっ、わーっ、わーっ!!! ななな何でもないわよ何でも!!!」

余計な事を言われては敵わないので、削板の台詞に被せるように割って入る美琴。
しかし意味も無く会話を途切らせたままでは不自然なので、
そのまま勢いに任せて美琴が本来、上条を呼び出そうとしていた用件を語り出す。

「あ、えと、ああ、あの! ちょろっと相談なんだけど! 実は今やってるハッピー―――」

美琴は上条と削板の二人に、ゲコ太達のミニフィギュアの事を説明した。

「…アンタ、そんな事で悩んでたのか。根性が足りねぇな」
「…まぁ何つーか、美琴らしいっちゃらしいけどな」
「ななな、何よその目は! コレクターにとっては重要な事なのよ!」

説明した直後、二人から呆れ交じりの眼差しを食らった美琴は、
ゲコ太が子供っぽいグッズなのだと自覚しているのか、ちょっと恥ずかしい思いをする。
上条は溜息を吐きながら、やれやれと言った具合に、
次に美琴が頼み込んでくるであろう言葉を先読みする。

「そんで一人でセット3つも注文するのは恥ずかしいから、俺も一緒に来て欲しい…って所か?」
「ま……まぁ、そんな感じです…はい…」

上条に考えを読まれてしまい、「私ってそんなに『嗜好』回路が単純なのかな…」と凹みつつ、
しかし「私の思ってる事、分かってくれるんだ…えへへへへ~」と上機嫌にもなり、
感情があっちこっちに飛び回ってしまう。
上条は「仕方ねぇな」と切り出すと、美琴の頭に手をポンと置いた。

「ふにゃっ!!? あ、あああ、頭ポンって!」

当然ながら、上条のこの無自覚な行動に、美琴は再び耳まで真っ赤にさせる。
それを見た削板も何か考えるように再び首を捻ったが、上条はそれらを気にせず会話を続ける。


「一緒に付いてってやるよ。美琴があのグッズを集めてるのは知ってるしな」
「~~~~~っ!!!」

これだ。上条のこれがズルイのだ。
普段は無気力&ぶっきらぼうなクセに、困ってる時は優しくしてくる。
美琴は赤いままの顔を俯かせて、小さく「あ…ありがと…」と呟いた。
…と、本来ならここで大団円となるくだりだが、ここに一人空気の読めない男が。

「そうか。なら俺も行ってやろう」
「「……………へ?」」

思わず同時に聞き返す上条と美琴。

「その月光太郎とかいう奴は残り3種類必要なんだろう? なら3人で行った方がいいじゃねぇか」
「えっ? あ、いや…うん、そうなんだけど……
 ってかそれ以前に! 月光太郎って誰よ! ゲコ太よゲ・コ・太!」
「遠慮すんな嬢ちゃん。何だったらセットの二人前くらい余裕で食えるから、
 上条が行きたくないんなら、俺と嬢ちゃんの二人で行っても構わんぞ」
「……そ、それはちょっと…」

削板の提案はごもっとだし、削板自身に悪気もないが、
せっかくの上条とのプチデートを邪魔されたくはない。
削板には申し訳ないが、その申し出をやんわりと断ろうとした瞬間だった。

「い、いいよ! 俺と美琴だけで行くから!
 それに余れば俺ん家の同居人にお土産として持って帰るし!
 あと俺も元々美琴に用があったしな!」

上条が珍しく少しムッとしながら、削板に食って掛かる。
何故かは分からないが、美琴と削板が二人で仲良くファーストフードを食べる姿を想像したら、
妙にモヤモヤした気持ちが大きくなり、ものすごく嫌な気分になったのだ。
美琴としては嬉しい言葉だったが、嬉しすぎて逆に何も話せなくなってしまう。
なので削板が代わりに上条に質問する。

「何だ? 用って」
「…ちょっと厄介な宿題を出されちまったんで、美琴に手伝ってもらおうと思っただけだよ」
「宿題?」
「ああ。英語と古文、それと日本史だな」
「おお! 日本史なら俺も自信あるぞ! 根性ナシ【574】の聖徳太子誕生だろ!?
 何だったら宿題【そっち】も俺が教えてやろうか!?」
「年号覚えやすいけど聖徳太子【ものすごくえらいひと】をディスってんじゃねーよ!
 つーか美琴に教えてもらうからいいって!」

美琴と同様、上条も削板の申し出を断ってしまう。
どうやら、上条自身にも理由は不明だが、どうしても美琴が相手じゃなければならないようだ。
上条のこの様子に、削板はまたも首を捻って考える。
上条の名前を出しただけで赤くなる美琴。どうしても美琴と二人っきりになりたい上条。
削板は数秒間「む~?」と考え込むと、やがて何かを閃いたようで、分かりやすくポンと手を叩く。
そして空気の読めないこの男は、空気を読まずに爆弾を放り投げた。

「ああ! つまり、お前達は惚れ合ってんのか!」

時が、止まった。
美琴は上条への気持ちが本人にバラされてしまった事に対する焦りと恥ずかしさ、
そして上条ももしかして自分の事が好きなのだろうかという期待感や、
その他諸々の感情が渦巻いて脳が収拾をつけられなくなり、
上条は心の中のモヤモヤが晴れたかと思ったら、今度はまた別のモヤモヤが立ち込める。
そんな中、空気の読めない男がまるで空気を読んだかのように、

「うんうん、やっぱりそうか。それならそうと言ってくれりゃあ良かったのに、水臭ぇな。
 んじゃあ俺は帰るから。後は惚れ合ってるモン同士で仲良くやってくれ。それじゃあな」

と言い残しつつその場から消えた。
残された二人は、お互いにギクシャクと意識しまくってしまい、
もうゲコ太とか宿題とか言い出せる雰囲気では無くなってしまうのだった。











ウィキ募集バナー