とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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豆撒きの日に 1



2月2日。天気良好。良風、身に心地良し。
相も変わらず学校はあり、俺はいつものようにその学校に行った。
授業も終わり、土御門はじめ友人とも別れ、一人呑気に夕飯を考えながら帰宅していた。
インデックスが家で腹を空かせていると思い、既におやつは置いている。
なので俺は急いでタイムセールを見限って、早々に帰らずとも良いのだ。
嗚呼、何と不幸ではない素晴らしい俺。感動だ。
よもやタイムセール商品が無くなってる…事はないだろう、大丈夫だ、ああ。
俺は少し斜に傾いた日を背に、そのスーパーに向かっているのであった。

あった、が。

「あ、おーい。ねぇ、ちょっといい?」
視界に入り込んで来たのは、常盤台中学のお嬢様の頂点とも呼べるお方、御坂美琴だった。
何でココにいるのかは詮索しないでおこう。こいつが根無し草のような行動をするのは分かってる。
俺は一つ盛大に溜め息を吐く。
「…悪かったわね、私で」
御坂は少し口を尖らせて、むくれる。
「別に、お前だから、じゃねーよ。んで何の用だ」
まさかまた決着つけるわよ!とは言わない事を祈る。
…と、思ったが、よく考えれば今回は声のトーンが違うな。安心して良いのか。
「あのさ、明日って時間ある?」
「明日?」
「うん。学校休みなのは知ってるからね」
あーそういやそんな事を言われてたっけ。
平日のど真ん中で、お偉いさん方が校内点検をするらしい。
よって休みを頂く事になったのだ。
小萌先生の念入りの自宅学習命令も歓喜に打ち消されてた。
「まぁ、暇だけど?」
「良かった!」
何が。と眉間を寄せる行為だけで表現する。

「明日って何の日?」

唐突に聞かれ、俺は頭を駆け巡らせる。
「明日は…乳酸菌の日だな」
「……マイナー過ぎるでしょ、それ…」
さっき俺が吐いた溜め息より大きく溜め息を吐かれる。
何でだよ、体に良いだろ乳酸菌は!
「そうじゃなくて… 大豆の日でもあるのよ」
「大豆の日でもあったのか…知らなかった」
…ん、大豆?
「……ああ…節分か」
「一番最初に気付く事でしょ…」
そう言えば、スーパーの一角で鬼の面やら貼り付けてあったな。
そうか、そういえばそんな時期か。
「んで、何か。常盤台の超能力の篭った豆を、鬼に扮した俺に喰らえと申すのか」
「半分正解」
半分!?
参加者が常盤台のお嬢様方々だけでなく、もしや学舎の園規模で…!?
「悪いが、俺はそんな結果の見えた虐殺もどきに参加するつもりはないです」
「いや、そうじゃなくてね」
再度溜め息を吐かれた。何なんだよ一体。
「この近くに幼稚園あるでしょ?私あそこの園長さんと知り合いでさ」
「…ああ、あったな」
「そこで節分やる事になったんだけど」
…読めた。だが、黙って聞く事にしよう。
「鬼がいなくてさー、私の知り合いに誰も男手いなくって…」
「で、俺に鬼役をやれと」
御坂が、ぱん、と両手を合わせる。
「お願いっ!お礼はするからさ、ね?」
知り合いにここまで頼まれては仕方ない。返事は即決だ。
「わかった。上条さんはそこまで頼まれて断るような人じゃありません」
「ほんと?ありがとう!」
思わず胸をどん、と叩いた手を、御坂が両手で取って喜ぶ。
「……あ」
が、それも一瞬の事ですぐさま顔を赤らめて、俺に背を向ける。
なんなんだ、喜怒哀楽が早すぎて追いつかん。
…とりあえず、俺は何かしてしまったのか?
「おーい、御坂さーん?」
「……な、なんでもないないっ。んじゃ明日ね。またメールするわ」
俺の心配の声を掛ける暇もなく、御坂は早々に手を振って去っていった。
……何でもないなら、いいんだが。
気付けば空は橙色に染まっていて、俺はタイムセールを思い出し、猪突猛進した。
そして俺が、特売コーナーの惨劇を目の当たりにして、いつもの台詞を呟いたのは言うまでも無い。

―――――――――

その晩、俺はインデックスの噛み痕を自己治癒しつつ、御坂とメールをした。
竹を割ったような対応をしてくるから、もっと素っ気無いかと思ったらやっぱり女の子か。
女同士のやり取りのような感じではなく、適度に絵文字を使ったメールが送られてきた。
俺も何も無いのは申し訳ないと思い、ありきたりな文字を適度に選び送っていた。
始めるのは朝からだそうで、俺とインデックスは10時に幼稚園に出向いた。

「あ、おーい!」
昨日俺達が出会った場所でアイツは待機していた。
インデックスに視線を向けて、ちょっと体が強張った気がするが、気のせいだろう。
「そういやお前、学校大丈夫なのかよ」
「あー大丈夫大丈夫。テスト期間終わって、ちょうどお休み」
早くないか?
そんな訝しげな顔をすると、御坂には通じたらしく「気にしない気にしない」と宥められた。
それに賛成して、気を取り直す。
「ねーねー、節分って何するの?」
インデックスが俺か御坂か分からないが尋ねて来る。
御坂は俺に人差し指を突きつける。
「要するに、コイツに豆を思いっっきり当てればいいのよ!」
「いや、違うだろ」
悪意しか見られない説明を聞いて、ほうほうと納得しているインデックスに正しい節分を教える。
「トーマに豆をぶつければいいんだね!」
違いますって。
インデックスの凛々とした瞳は、もはや俺の説明を受け付けようとしていない。
言いたい事を全て溜め息に変えて、御坂にちゃっちゃと行くように促す。
御坂の後に、上機嫌のインデックスが並び最後に俺がついていった。
後が思いやられる。

―――――――――

「こんにちはー」「わー、でっけー。つんつーん」
「変わった服ー」「ちっちゃーい」「髪ながーい」
十人十色な園児達の歓迎を受け入れつつ、幼稚園の中に入る。
インデックスは楽しそうに、子供達と喋っている。
御坂にも女児が纏わりつき、御坂は笑顔でその子達に応対している。
…そーやって笑えるんじゃねーか。俺にはガン飛ばしばっかなのに。
入ると、園長先生と思われる男性が現れ、俺に謝辞を送って来た。
俺は謙遜して受け入れつつも、鬼の面と気持ちばかりの衣装を拝借する。
衣装と言っても、上下共に、防寒具を色づけしたようなもので、
それを着るだけでそれだけでありがちな赤鬼になれた。デブ型だが。
防寒具に類しているお陰で豆が当たっても痛くない。素晴らしい。
「おーい、鬼ー」
御坂が扉を開けて入って来る。
「鬼と言うな」
「鬼は鬼でしょ。頑張りなさい、鬼」
「分かってますよ。上条さん、子供の為なら何とでも」
どん、と胸を叩く。衝撃は緩衝されている、やはり素晴らしい。
「ほい、んじゃーこれっ!」
どごっ、と勢いよく側頭部を殴られた。
身構えしてなかったので、派手にこけそうになるも、慌ててバランスを取り戻した。
「いってぇな…、何して…棍棒?」
「そ。鬼に金棒ってね」
「持つのは俺だろ」
「当たり前でしょ。パース」
ひょいっと黒くトゲのある"金棒"を投げて来る。
ふわっ、と舞い上がったソレを取ると、予想以上に軽い。
「…スポンジ?」
「ホンモノだと思ったの?それならアンタとっくに死んでるでしょ」
…そりゃそうだな。
指に力を入れると、ぐにゅっと指が"金棒"にめり込む。
「あ、子供達が呼んだら出て来るって事だから。ここで待機よろしくね」
そう言いながら、ポケットから取り出した缶ジュースを俺に投げて来る。
金棒を持たない手でそれを受け取る。
「あれ、普通のジュースなのか」
「わざわざあんなの選ばないって。安心しなさい、ちゃんと買ったやつだから」
じゃあね、と言って御坂は入って来た扉から出ていった。
プルタブを引き上げると、飲み口が音を立てて開く。
一瞬白い煙が漂い消え、俺は縁に口を付けて飲む。
「…そういや、節分とかまともにやったの何年ぶりだろうな」
インデックスと来てからもこういう行事を行った事がなかった。
表で子供が騒ぐ声がする。
「そろそろか?」
くっ、と一気に飲み干して、俺は別称の呼び出しにスタンバイした。
「あっかおーにさーん!!」
期待と嬉々に満ち溢れた幾人もの声を聞いて、『赤鬼』は"金棒"を手に扉を開けた。

―――――――――

扉を開けて、まず一声。
「悪い子はいねぇがぁー!!」
ナマハゲなのは突っ込んではいけない。
子供の方を見ると、頭というか上半身一つ飛び出してインデックスと御坂がいる。
「よぉーし、あの鬼さんをやっつけろー!」
御坂が子供の後ろから先導して、一番に枡に入った豆を俺にぶつけて来る。
全力で。
「い、あだだだだっ!」
何でコイツは服を狙わず、面しかない顔を狙って来るんだよ!しかもピンポイントで生身!

「よーし、苦しんでるわよ。みんなもやっちゃえっ!」
「「「「はーい!!」」」」
子供の声が見事にハモる。その中にはインデックスもいる。
そしてみんながそれぞれの枡に手を突っ込み、俺に豆をぶつけてくる。
なんとまあ、可愛らしい攻撃だ。
俺は痛がるフリをして、右往左往して逃げるフリをする。子供が俺を追う。
どうやら御坂は勢いづけだったらしく、それ以降はゆっくりと投げて来るだけだった。
インデックスも修道服を鬱陶しく感じながらも俺に目一杯当てて来た。
「あの吸血鬼…血の色してる…。こ、こっち来ちゃダメー!」
と、叫んでいるが…。鬼と云えば向こうは血を吸うアレだけなのか?
確かに八重歯が長そうな面だが。

2,3分これは続いた。
「もう、あの鬼はへろへろのハズよ。よーし、みんな、この一発でいくわよっ」
これは御坂と立てた算段だ。"終わり"の合図。
子供達も握り締めた豆を御坂の合図で、俺に渾身の力で放って来た。
「ひぃー。も、もうダメだ…逃げろぉ!」
頭を抱えながら、俺は子供達から遠ざかって行く。
赤鬼は去ったのだった。

―――――――――

そして俺は裏方に回り、貸し切った部屋に入り込む。
額にじわっと汗が滲み、服を脱げばシャツは汗まみれだった。
冬場なのにいい運動だな。くそう。
……これからどうしたらいいんだろう。鬼が出て行くのはきっとマズい。
…鬼の格好してない、俺なら大丈夫なのだろうか。
「ま、念には念をだ」
程よく調整されている暖房の温度を少し下げて、俺は1人で使うには広い部屋で横たわった。


「おーい、おっきろー」

意識が徐々に現実世界に戻って来る。俺は寝てしまってたのか。
目を開けると御坂が俺の横に座って俺の肩を揺すってた。
「ん…ああ、悪い」
「おはよ。そんなに疲れるもんなのかしら?」
最近は風呂場で寝てるから、体が快適な睡眠を求めてたのかも知れない。
大きな欠伸をする。
俺は毛布が掛けられている事に気付いた。
「あれ、これ掛けてくれたのか?」
「ああ、ちょっと前にね。気持ち良さそうに寝てたからさ」
「悪いな」
「いいのよ別に。風邪引いて貰っても困るしね」
壁に掛かった時計を見ると、もうお昼を過ぎている。
それを認識したせいかどうか、お腹が鳴る。
「やっぱお腹空いてたか」
「あんまし動いたつもりもないんだけどなぁ」
体を捻ると背骨がぽきぽきと鳴る。
「子供達は?」
御坂は腰を上げ、壁に立てられた小さなテーブルをこっちに持って来る。
「寝ちゃったわ。早めのお昼にしたから、あっという間にね」
「インデックスは?」
「子供達と一緒に、っと」
机の脚の間に、俺の足があるように置く。
「なんだ?」
「お昼ご飯。お礼よお礼」
そう言って小さな籠をテーブルに置く。
「……マジですか」
「…美味しいかは分かんないけど…」
少し恥ずかしそうに呟く。こいつ、こんな一面俺に見せた事あったっけ?
俺は御坂の手を取る。
「お前の作ってくれた飯が不味いわけねぇだろ!いや、ホントありがとうな御坂っ」
ありったけの感謝を述べる。
御坂は少し引き気味に、頬を紅潮させる。
「…う…こ、声が大きいっ」
俺の手を払って、人差し指を立てて「しーっ」と言う。
俺も手遅れだが、反応して口に両手を当てる。
「……あ、有難いのは分かったから…食べなさいよ」
「御坂は食ったのか?」
「う、うん。子供達と一緒に…」
「そっか。じゃ、頂きます」
両手を合わせて、深々と一礼。
籠の留め具を外し、蓋を開ける。
中身がぎっしり詰まったサンドイッチが所狭しと入っている。
「うおー…なんつーか、すげぇ」
「み、見た目はいいから…早く食べなさいよ」
「おう、んじゃ改めて頂きます」
一番端っこのサンドイッチを手にする。
レタスと卵を挟んだやつだ。
俺は少々興奮を覚えつつ、一口かぶりつく。
卵のちょうどいい甘さとレタスのシャキシャキ感が口の中で味覚触覚共に心地良い。
目の前のサンドイッチに夢中になっていたが、気付けば横で御坂が俺を睨んでいる。
どうしたんだ?と聞こうと思ったが、なんとなく理由が分かり止めた。
そしてその理由に対する答えを御坂に告げる事にする。
「御坂」
「なっ…何?」
一口目を飲み込む。
「美味いぞコレ」
笑って言ってやると、御坂は嬉しそうに笑う。
「ほんと?」
「ああ、嘘なんかつくわけないだろ。流石だな」
「さ、流石って… ありがと」
「こちらこそ、こんなイイモン食えるなら鬼やって良かったとしみじみ思うね」
また一口、手にしてるヤツを食べる。
うん、美味い。俺の料理とかより何倍もな。
一切れ食べ切り、またその横のサンドイッチを取る。
今度はハムと切ったプチトマトがマヨネーズと和えられて入っている。
では、頂きます。と俺は次なる楽しみに口を開く。


きゅるるるる……。


開いた口は止まり、腸を捻るような音の元に視線を向ける。
俺に飯を作ってくれた張本人は、お腹を押さえていた。
「…………」
俺と視線を合わせようともしない。
「…食ってないのか」
「………うん」
「ダイエット、ってワケじゃないだろ?」
まぁそうかも知れないが、こいつが気にするとも思えん。
案の定御坂は首を横に振る。
「ほら、じゃあ食べろ」
俺は手にしているサンドイッチを御坂に突きつける。
「え、だ、だってそれは…その……作ってあげたやつだし……」
「それは有難いけどさ。作ってくれた本人が腹空かしてるのにほっとけるかよ。
    お互い腹減ってるなら一緒に食おうぜ。そっちのが美味いし、お互いデメリットないだろ?」
突き出したものの、俺の指圧で2つ目は変形していたので新しく一個取って御坂に渡す。
御坂は抵抗したそうな目で俺とサンドイッチを見つめるが、再度鳴る腹に負け、手を伸ばした。
「じゃ、改めて頂きます」
「い…いただきます……」
俺はまた口を開く。マヨネーズの香りが口に漂う。
噛むとプチトマトの甘みが口内を充満していく。やっぱり美味いな。
で、御坂はと言うと、両手でサンドイッチを持ち、ずっと睨み付けている。
「どうした?自信ないなら安心しろ。これはどんな人も唸りたくなる美味さだよ」
「…う、うん…っ」
御坂の躊躇いは次第に解かれ、ゆっくりと小さいながらも口を開き、端を齧る。
眉間を寄せて強く目を閉じ、もぐもぐと口を動かす。
「いや、御坂さん?それじゃパンの味しかしませんよ」
実際、中身はまったく取れていない。
御坂は俺を睨みつけてから、ちゃんと一口齧る。
また目を閉じて、口だけが動く。ごくん、と飲み込んだ音が聞こえた気がした。
「………良かった」
そして洩れるは彼女の安堵。
「な?だから言ったじゃねえか」
「っさいわね!お世辞かも知れないでしょ!!」
「誰がお前にお世辞言うかよ。ちゃんと本心で喋るに決まってるだろ」
「……それは、それで嫌だけど…」
御坂の声が極端に小さくなる。
「はぁ?どっちなんだよ…ま、今日作ってくれたコレは美味い。
    そして俺もお前も腹がへっている。だから食う。以上だ」
2つ目のサンドイッチを口に入れる。
御坂も安心した反動か知らないが、早々と1つ目を平らげる。
「なぁ、これ朝早くに起きて作ったのか?」
「へっ?いやいや、そんなんじゃないわよ。7時とかそれくらい、いつもの時間に起きて…」
「…休みなのにわざわざ早くに起きて作ってくれるなんて、上条さん感激です」
「お、大袈裟だって!だから早いんじゃなくて、いつもどーりだし」
サンドイッチを持ちつつ、両手を突き出し揺さぶって否定する。
「そうか?でも俺はすっごい嬉しいよ。ありがとな」
「えっ…あ……うん……どういたし、まして…」
そういえば、と御坂がお茶の入ったペットボトルを2つ取り出す。
1つは俺が受け取り、水気はあるがパンでかさかさな口内を潤す。
「いい天気だな」
「…そうね」
建物の裏側というものの、窓から入ってくる光がちょうど俺達の場所を暖めている。
暖房ももうちょっと弱めてもいいかもしれないぐらいに。
窓から見える空は青く、雲も時々丸っこいのが見えるくらい。
「こう…なんか、ピクニックとか、いいかもな」
カゴに入ったサンドイッチとかおあつらえ向きじゃないか。
流石に外に出れば寒いんだろうが、これくらいの温かさで野ででも食べればもっと美味いと思う。
「ピクニック?」
「ああ、学園都市の中とかホログラムとかじゃなくてだな。山の上から見下ろすんだよ」
小さい頃に家族と行ったソレを思い出す。
観光名所と言われるだけあって、人は多かったが見下ろした都会や町や木々は美しかった。
空気も心地よく、寝転べば大地と同化したような、そんな思い出。
ま、子供の頃の思い出だから美化されてるのかも知れないけどな。
「ふーん…」
「行ったことなし?」
「まぁ、そう、ね。覚えてないだけかも知れないけど、ちっちゃい頃からココにいたからさ」
「そうか」
ちょっと驚きだ。レベル5という方々はもしや自由と思いきや、都市内で拘束されてるだけなのか?
「興味はあるのか?」
「そりゃあるけどさ。今時、ピクニックなんてねぇ…」
「あるならさ、行かないか?」
「…………は?」
御坂が口を開けたまま固まる。
あれ、俺ヘンな事言ったか?
「いや、だからさ。ピクニックだよ。一緒に行かないか?」
俺は子供の頃の記憶と現状を比較して良い所を存分に口にする。
「こんなガス臭いトコロとは違って空気は美味いし、緑は豊富だし。
    何より上からいれるという妙な優越感と景色の壮大さが最高だ
    昼飯ももっと美味くなるだろうしな」
「…それは、非、科学的ね」
ご尤もだ。
「だけどよ、独りで食うよりみんなで食えば美味いとも昔から言われてるじゃねえか。
    それの延長線上だよ。地球と一緒に飯を食うんだよ」
「……はぁ」
…はい、その視線は分かりますって、御坂さん。
俺も言ってから妙だな、と思ったわけですし。
俺はもう一度ペットボトルの飲み口に口を付けて、お茶を飲む。
「…ダメか?」
なんか、セールスに失敗した営業マンみたいだな。
必死に御坂家の玄関前で訴えつつ、もはや断られそうなの覚悟してて、まだ喋るという。
仕方ない。俺はこの家から出て行こう。今日もノルマはこなせなかったな。
なんて事を思いつつ、俺はサンドイッチに手を伸ばす。
「……かしら?」
「は?」
俯いていた御坂が何かを言った。
諦め掛けてた俺はそれを聞き逃し、もう一度尋ねる。
「…また、作っても…いいの…かしら?」
頬を赤くして、普段は俺に対してよく叫ぶ口を小さくして呟くように言っている。
扉を閉めかけた俺は、踵を返して目を輝かせて商品を売りつけにかかる。
「ああ。寧ろ御坂の飯がいいな。美味いし」
「……わかっ…た」
「と、いう事は行ってくれるのか?」
今更な気もするが、俺は原点を尋ねる。
「なっ… は、話くらい読み取りなさいよっ!そういう話だったんでしょ!!」
急に声を荒げる。
人差し指を立てて、静かにしろ。と指示をする。
「……うん。アンタがそんなに勧めるなら…一緒に行ってあげる」
よく見ると、耳まで真っ赤だ。
「ありがとうな、御坂。…まぁ、もうちょっと温かくなってからだが」
「…じゃあ、それくらいになったら…また言ってね?」
「ああ。なるべく早くがいいよな」
「…うん」
俺が笑うと、御坂も頬を緩ませる。

不意に、こんこん、と扉がノックされた。御坂が飛び跳ねた。
「おっと、お邪魔してすまないね。子供達が美琴ちゃんを呼んでるもんで」
笑顔、というより好奇の顔をしている園長さんが用件だけ述べて、立ち去る。
「大変だな。御坂も」
「好きでやってるから…いいのよ」
「それもそうだな。余計な事言ってすまん」
俺は3つ目のサンドイッチを食べる。
「んじゃ…なるべく早くねっ」
「ああ、分かってるよ」
御坂は立ち上がり、俺に手を振って部屋を出ようとする。
「あ、そうだ。出るなら裏口からよろしく。メールしてくれたらあの子にも言っておくし」
「そういや、俺がいないのは気に掛けられてないのか?」
結構色んな意味で注目されてたと思うんだが、インデックスと一緒に。
「ああ、鬼にやられたって事にしてるから大丈夫大丈夫っ」
「は?いやそれって大丈夫じゃ…」
「次出会ったら"なんとか助かった"とか言えばいいのよ」
御坂は部屋を出て行く。
行き場を無くした突っ込みの言葉が胸に詰まる。
俺は残ったサンドイッチを平らげて、お茶も飲み干して、まだ日光が入っている場所で横になった。


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