第五章 御坂さんの彼氏さん ~ 十二月九日
朝、白井黒子はベッドの中で悩んでいた。
自分の心を支配していた“何か”が一人の少年への恋であることをはっきりと理解したのも、上条
当麻と御坂美琴へすべての想いをぶつけ、そして泣きじゃくったのも昨日のことだ。あれから寮へ
戻ってからもずっと美琴の胸で泣いた。そして、泣き疲れていつの間にか眠っていたらしく、気づいた
ら朝になっていたのだ。
そんな彼女が悩んでいること――、それは“上条への想い”と“美琴への想い”の二点だ。二人は
自分たちの隣が白井の居場所だと言ってくれた。しかし、それは恋愛的な意味で白井を受け入れる
ことではなく、大切な仲間として、ということだろう。それに白井の想いは複雑だ。美琴に対する想い
は誰にも譲れない。だが上条を想う気持ちも誰にも譲れないのだ。誰よりも身勝手な想いだとは
重々承知している。それでも、その気持ちを捻じ曲げることなどできない。
自分の心を支配していた“何か”が一人の少年への恋であることをはっきりと理解したのも、上条
当麻と御坂美琴へすべての想いをぶつけ、そして泣きじゃくったのも昨日のことだ。あれから寮へ
戻ってからもずっと美琴の胸で泣いた。そして、泣き疲れていつの間にか眠っていたらしく、気づいた
ら朝になっていたのだ。
そんな彼女が悩んでいること――、それは“上条への想い”と“美琴への想い”の二点だ。二人は
自分たちの隣が白井の居場所だと言ってくれた。しかし、それは恋愛的な意味で白井を受け入れる
ことではなく、大切な仲間として、ということだろう。それに白井の想いは複雑だ。美琴に対する想い
は誰にも譲れない。だが上条を想う気持ちも誰にも譲れないのだ。誰よりも身勝手な想いだとは
重々承知している。それでも、その気持ちを捻じ曲げることなどできない。
どうすればよいのか。
これから先、二人とどう接して、どういう感情をぶつければよいのか。
これから先、二人とどう接して、どういう感情をぶつければよいのか。
隣のベッドで眠る美琴を見いる。
「……ぇぅ、と…ぅま」
枕を抱きしめ、幸せそうな表情を浮かべる美琴。
そんな彼女に対し、白井の心には二つの感情が同時に湧き出る。それは、大好きなお姉様にそこ
まで想わせる“上条への嫉妬”であり、そして同時に、大好きな上条を想う“美琴への嫉妬”だ。どう
すればよいのかわからない。この感情は一体どこにぶつければよいのか……。
そう思考が泥沼にはまり始めたその時、美琴が目を覚ました。
「……ぇぅ、と…ぅま」
枕を抱きしめ、幸せそうな表情を浮かべる美琴。
そんな彼女に対し、白井の心には二つの感情が同時に湧き出る。それは、大好きなお姉様にそこ
まで想わせる“上条への嫉妬”であり、そして同時に、大好きな上条を想う“美琴への嫉妬”だ。どう
すればよいのかわからない。この感情は一体どこにぶつければよいのか……。
そう思考が泥沼にはまり始めたその時、美琴が目を覚ました。
「ぅう、ん……。あ……、黒子おはよう」
「おはようございますわ、お姉様」
「ふあぁ……。なんだ、もう六時半じゃない。シャワー浴びてくるわね」
美琴は、昨晩のことなどなかったかのように、いつもと同じ様子だった。
よかった……と、素直に思う。嫌われてしまったのではないか? そう心配していたからだ。
「おはようございますわ、お姉様」
「ふあぁ……。なんだ、もう六時半じゃない。シャワー浴びてくるわね」
美琴は、昨晩のことなどなかったかのように、いつもと同じ様子だった。
よかった……と、素直に思う。嫌われてしまったのではないか? そう心配していたからだ。
いつもの朝だった。
身だしなみを整え、朝食を摂り、そして寮を出る。
愛しのお姉様へちょっかいを出し、軽口を叩きあいながら歩く。普段と何も変わらない、そんな朝
だった。
身だしなみを整え、朝食を摂り、そして寮を出る。
愛しのお姉様へちょっかいを出し、軽口を叩きあいながら歩く。普段と何も変わらない、そんな朝
だった。
そして、放課後のことである。昨晩のことで気を遣っているのかはわからないが、白井は珍しく美琴
から遊びに誘われた。
「お姉様とデートですの!?」と眼を輝かせるも、どうも初春飾利や佐天涙子も一緒らしい。こういっ
た場合、白井や佐天が美琴に声をかけることが多く、“自分から輪に加われない性格”の美琴が自
ら遊びに誘うことなど多くはないのだ。
から遊びに誘われた。
「お姉様とデートですの!?」と眼を輝かせるも、どうも初春飾利や佐天涙子も一緒らしい。こういっ
た場合、白井や佐天が美琴に声をかけることが多く、“自分から輪に加われない性格”の美琴が自
ら遊びに誘うことなど多くはないのだ。
待ち合わせ場所は第七学区センター駅。
学園都市南部を横断する並行した二つの私鉄と、学園都市を南北に縦断する学園都市モノレー
ルが交差する、第七学区の中心的な駅だ。付近の道路は全体的に幅員が広く、整然と並んだ学生
寮を中心とした団地群など、さながら大規模なニュータウンのようだ。
そんな喧騒とした駅前の広いデッキに白井と御坂は立っていた。二人の前を過ぎ行く様々な制服
を着た学生たちは、揃って二人へと目を向ける。ベージュのシングルブレザーに、紺色タータン
チェックのプリーツミニスカート。気品溢れると賞されるその制服に身を包んだ二人はどこまでも美し
く、そして可愛らしく、とにかく目立っていた。
「まったく……。慣れてるとはいえ、ジロジロ見られるのはあんまり嬉しいことじゃないわね」
「お姉様、見られているという自覚がおありなら普段の態度は自重して、もう少し気品の満ちた態度
をお願いしますわ」
美琴に対する愚痴がこぼれてしまう。
決して美琴を嫌な気分にさせたい訳ではない。彼女を想う一人の人間として、そして信頼するお姉
様の親友として、ついつい漏らしてしまうのだ。
「気品の満ちた態度のどこが御坂美琴なのよ」
「お姉様は常盤台のエースであり学園都市の頂点。皆の手本となるべきお方ですのよ」
「エースエースってねぇ……」
皆の手本と言われ美琴は呆れ顔で呟くが、そんな彼女の反応が可愛らしく思わず顔が綻びそうに
なる。
そんな白井の気分を邪魔するように、二人の後方から聞きなれた声が響く。
「御坂さーん、白井さーん!」
「遅いですわよ初春、佐天さんも」
「ごめんなさい。初春が学校に忘れ物したもので」
「全然いいわよ。じゃあ買い物は後で行くとして、とりあえずファミレスか喫茶店でも行こっか?」
学園都市南部を横断する並行した二つの私鉄と、学園都市を南北に縦断する学園都市モノレー
ルが交差する、第七学区の中心的な駅だ。付近の道路は全体的に幅員が広く、整然と並んだ学生
寮を中心とした団地群など、さながら大規模なニュータウンのようだ。
そんな喧騒とした駅前の広いデッキに白井と御坂は立っていた。二人の前を過ぎ行く様々な制服
を着た学生たちは、揃って二人へと目を向ける。ベージュのシングルブレザーに、紺色タータン
チェックのプリーツミニスカート。気品溢れると賞されるその制服に身を包んだ二人はどこまでも美し
く、そして可愛らしく、とにかく目立っていた。
「まったく……。慣れてるとはいえ、ジロジロ見られるのはあんまり嬉しいことじゃないわね」
「お姉様、見られているという自覚がおありなら普段の態度は自重して、もう少し気品の満ちた態度
をお願いしますわ」
美琴に対する愚痴がこぼれてしまう。
決して美琴を嫌な気分にさせたい訳ではない。彼女を想う一人の人間として、そして信頼するお姉
様の親友として、ついつい漏らしてしまうのだ。
「気品の満ちた態度のどこが御坂美琴なのよ」
「お姉様は常盤台のエースであり学園都市の頂点。皆の手本となるべきお方ですのよ」
「エースエースってねぇ……」
皆の手本と言われ美琴は呆れ顔で呟くが、そんな彼女の反応が可愛らしく思わず顔が綻びそうに
なる。
そんな白井の気分を邪魔するように、二人の後方から聞きなれた声が響く。
「御坂さーん、白井さーん!」
「遅いですわよ初春、佐天さんも」
「ごめんなさい。初春が学校に忘れ物したもので」
「全然いいわよ。じゃあ買い物は後で行くとして、とりあえずファミレスか喫茶店でも行こっか?」
そして、四人は歩き出す。
そこである人物と遭遇してしまうとも知らずに。
そこである人物と遭遇してしまうとも知らずに。
*
ここは駅近くにあるオープンカフェである。かつて美琴が自身に挑もうとする後輩とちょっとした“戦
闘”を繰り広げた場所だ。
そんな場所で、彼女たちは年頃の女の子らしいことに『恋愛について』という話題を中心に盛り上
がっていた。
闘”を繰り広げた場所だ。
そんな場所で、彼女たちは年頃の女の子らしいことに『恋愛について』という話題を中心に盛り上
がっていた。
「やっぱり、彼氏は欲しいと思うんですけど、ね……」
「じゃあチャンスじゃない」
「いやー、でも全然面識なかったんで」
どうも佐天が学校で先輩から告白をされたらしいのだ。
本人の話ではカッコいい人らしいのだが、それでも“知らない人”であることには変わりないからと
断ったらしい。
「やっぱり大切にしたいじゃないですか、そういうの」
「でも、告白されるなんてすごいと思いますよ」
初春は目を輝かせてそう言う。
彼女は恋愛や“お嬢様”に並々ならぬ憧れを持っており、こういった話や常盤台などの話になると
必ずこういった反応をする。
「わたくしは人から告白される気持ちは解りませんわね。なんと言っても学舎の園。そういったイベン
トは全くありませんから」
「いや、同性からの告白があるじゃない……」
「それはお姉様が憧れの的だからですわよ」
学舎の園――そこは五つの超名門お嬢様学校が集まる場所。そこに“殿方”という存在はなく、
“淑女”同士での恋愛もごく一般的な光景である。美琴も隣に居るツインテール風紀委員を含め、結
構な回数の告白を受けている。
「や、やっぱりお嬢様学校って、百合百合な関係があるんですか??」
「百合百合ってねぇ……」
さらに目の輝きを増す。
そこに憧れるのは何かズレているとは思うが。
「これがそれそのものじゃない」
呆れたように美琴は黒子を指差す。
しかし、
「白井さんは百合じゃありません! ただの変態です!!」
言い切った。はっきりと。それも即答である。
それを聞いた白井の顔が一瞬引きつったように見えた。そして鬼も逃げ出すような冷めたく威圧感
ある声で告げる。
「初春? あなた最近調子乗りすぎですわよ。頭のお花だけ空間移動(テレポート)して差し上げま
しょうか?」
「ひいっ!」
その声からは、初春が未だ体験したことのないほどの恐ろしさが伝わってくる。
「そ、そういえば御坂さんって好きな人とかいるんですか?」
言葉だけでなく大胆にもスカートをめくり上げ、太股のベルトから『金属の矢』を取り出しチラつかせ
る白井と、蛇に睨まれた蛙どころではない初春を見て、佐天はとりあえず話題を変えようとしたの
か、たまたま視線が合ってしまった美琴に“美琴的禁止ワード”を言い放ってしまった。
「え!? わた、私? べ、別にいないわよそんなの……」
明らかに怪しい美琴の反応を見てニンマリと目元が綻ぶ佐天。白井は美琴の言葉に反応し、金属
の矢の照準から外された初春は一息つくと、美琴の様子を観察するように眺め始める。
美琴はマズった!と正直思ったが、もう時は既に遅い。
「あら。ではお姉様、あの殿方は黒子が頂いてもよろしいですのね?」
「な、何言ってんのよアンタは!?」
追い討ちをかけるように、白井の言葉が響いた。
それは美琴の“好きな人”の存在を示唆する内容であり、そんな意味ありげな言葉を聞いてしまっ
ては、初春も佐天も気になって気になって仕方がないであろう。
「あの殿方!? それって誰ですか!? 誰なんですか??」
「御坂さんの好きな人ですか!?」
始まってしまった。始まってしまったのだ。
美琴的には『恥ずかしい』という地獄になるであろう時間の始まりである。
「どんな人なんですか?」
「やっぱり年上ですか??」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!」
とりあえず声を上げて二人の質問を制止し、話を逸らすか誤魔化すかと思慮しようとした。
が、
「お姉様、素直に白状されたほうがよろしいですわよ?」
「い、いや、だって……」
「わたくしのことを気にされているのでしたら、お姉様の考えは間違いですわ。黒子はあんな事くらい
ではくじけませんの」
白井の発言に少々“?”を浮かべながらも、それでも興味津々といった表情で美琴を見つめる二人
の少女。
そして、ありのままの関係を受け入れた(らしい?)ルームメイト。
「す、好きな人っていうか、彼氏なんだけど……」
素直に、彼氏の存在を肯定してみた。
「「……、」」
わずかな沈黙。
そして、
「「ええ―――っ!!」」
二人の少女の、驚きの絶叫。
「み、御坂さんって彼氏いたんですか!?」
「相手はどんな人ですか!? やっぱりカッコいい人ですか?? イケメンですか!?」
「えーっと……、顔は普通」
あまりの二人の勢いに押されながら、おずおずと答え始める。
「じゃあどんなタイプですか? スポーツ系!? それとも優秀な学生さん??」
「いや、体力は人並み以上だけど、スポーツはやってないはず。それに、勉強も無理」
思い浮かべると、自分と一晩中全速力で追いかけっこしてもぶっ倒れないほどの体力はあるの
に、何かスポーツやっているといったことは聞いたことがない。
ちなみに、一晩中全速力で上条と追いかけっこを繰り広げたり、女子中学生とは思えないほどの
体力や格闘技術がある美琴も、スポーツは特に何もやっていないのだが。
「じゃあ……」
「えっと……、期待してるみたいだけど何もないわよ? ただの高校生だし」
「それでもお姉様を骨抜きにするほどの方ですの」
「そ、そんなにすごい人なんですか?」
「何か特徴とかはないんですか?」
二人は白井の言葉に驚いたようで、さらに“美琴の彼氏”の事を聞こうとする。
「そうね……。うーん。いっつも幸薄そうな顔してて、頭はウニみたいでかわいい」
美琴にとって、上条はムラサキウニかガンガゼか何かなのだろうか? 確かに似てはいるが。
“かわいい”ところがポイントだったりするのかもしれない。
「む。すごく見たいですね、御坂さんの彼氏さん」
「プリとかないんですか?」
「え? あ、あるにはあるんだけど……」
「「見せてください!!」」
もはや瞳に星が浮かぶほどの輝きを放つ二人。勢いに負けた美琴はおずおずとケロヨン携帯を取
り出し、
「ほ、ほんとに見るの?」
「「はい!!」」
顔を赤くしながらケロヨン携帯を差し出す。
そして、それを受け取った佐天が画面を開くと、そこには――
「「うわぁ――――!!」」
プリクラ――それもあっついキスをするツンツン頭の少年と美琴が、待受に表示されていた。
「す、すごいです御坂さん!」
「さすが御坂さん! やっぱり大人!!」
「おおお、お姉様に、わたくしのお姉様にッ! おのれ上条当麻ぁぁあ!!」
一人嫉妬が混ざっているがたぶん気のせいである。
「は、恥ずかしい……」
ちなみに、上条ほどではないが美琴もかなり不幸な人種である。
「じゃあチャンスじゃない」
「いやー、でも全然面識なかったんで」
どうも佐天が学校で先輩から告白をされたらしいのだ。
本人の話ではカッコいい人らしいのだが、それでも“知らない人”であることには変わりないからと
断ったらしい。
「やっぱり大切にしたいじゃないですか、そういうの」
「でも、告白されるなんてすごいと思いますよ」
初春は目を輝かせてそう言う。
彼女は恋愛や“お嬢様”に並々ならぬ憧れを持っており、こういった話や常盤台などの話になると
必ずこういった反応をする。
「わたくしは人から告白される気持ちは解りませんわね。なんと言っても学舎の園。そういったイベン
トは全くありませんから」
「いや、同性からの告白があるじゃない……」
「それはお姉様が憧れの的だからですわよ」
学舎の園――そこは五つの超名門お嬢様学校が集まる場所。そこに“殿方”という存在はなく、
“淑女”同士での恋愛もごく一般的な光景である。美琴も隣に居るツインテール風紀委員を含め、結
構な回数の告白を受けている。
「や、やっぱりお嬢様学校って、百合百合な関係があるんですか??」
「百合百合ってねぇ……」
さらに目の輝きを増す。
そこに憧れるのは何かズレているとは思うが。
「これがそれそのものじゃない」
呆れたように美琴は黒子を指差す。
しかし、
「白井さんは百合じゃありません! ただの変態です!!」
言い切った。はっきりと。それも即答である。
それを聞いた白井の顔が一瞬引きつったように見えた。そして鬼も逃げ出すような冷めたく威圧感
ある声で告げる。
「初春? あなた最近調子乗りすぎですわよ。頭のお花だけ空間移動(テレポート)して差し上げま
しょうか?」
「ひいっ!」
その声からは、初春が未だ体験したことのないほどの恐ろしさが伝わってくる。
「そ、そういえば御坂さんって好きな人とかいるんですか?」
言葉だけでなく大胆にもスカートをめくり上げ、太股のベルトから『金属の矢』を取り出しチラつかせ
る白井と、蛇に睨まれた蛙どころではない初春を見て、佐天はとりあえず話題を変えようとしたの
か、たまたま視線が合ってしまった美琴に“美琴的禁止ワード”を言い放ってしまった。
「え!? わた、私? べ、別にいないわよそんなの……」
明らかに怪しい美琴の反応を見てニンマリと目元が綻ぶ佐天。白井は美琴の言葉に反応し、金属
の矢の照準から外された初春は一息つくと、美琴の様子を観察するように眺め始める。
美琴はマズった!と正直思ったが、もう時は既に遅い。
「あら。ではお姉様、あの殿方は黒子が頂いてもよろしいですのね?」
「な、何言ってんのよアンタは!?」
追い討ちをかけるように、白井の言葉が響いた。
それは美琴の“好きな人”の存在を示唆する内容であり、そんな意味ありげな言葉を聞いてしまっ
ては、初春も佐天も気になって気になって仕方がないであろう。
「あの殿方!? それって誰ですか!? 誰なんですか??」
「御坂さんの好きな人ですか!?」
始まってしまった。始まってしまったのだ。
美琴的には『恥ずかしい』という地獄になるであろう時間の始まりである。
「どんな人なんですか?」
「やっぱり年上ですか??」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!」
とりあえず声を上げて二人の質問を制止し、話を逸らすか誤魔化すかと思慮しようとした。
が、
「お姉様、素直に白状されたほうがよろしいですわよ?」
「い、いや、だって……」
「わたくしのことを気にされているのでしたら、お姉様の考えは間違いですわ。黒子はあんな事くらい
ではくじけませんの」
白井の発言に少々“?”を浮かべながらも、それでも興味津々といった表情で美琴を見つめる二人
の少女。
そして、ありのままの関係を受け入れた(らしい?)ルームメイト。
「す、好きな人っていうか、彼氏なんだけど……」
素直に、彼氏の存在を肯定してみた。
「「……、」」
わずかな沈黙。
そして、
「「ええ―――っ!!」」
二人の少女の、驚きの絶叫。
「み、御坂さんって彼氏いたんですか!?」
「相手はどんな人ですか!? やっぱりカッコいい人ですか?? イケメンですか!?」
「えーっと……、顔は普通」
あまりの二人の勢いに押されながら、おずおずと答え始める。
「じゃあどんなタイプですか? スポーツ系!? それとも優秀な学生さん??」
「いや、体力は人並み以上だけど、スポーツはやってないはず。それに、勉強も無理」
思い浮かべると、自分と一晩中全速力で追いかけっこしてもぶっ倒れないほどの体力はあるの
に、何かスポーツやっているといったことは聞いたことがない。
ちなみに、一晩中全速力で上条と追いかけっこを繰り広げたり、女子中学生とは思えないほどの
体力や格闘技術がある美琴も、スポーツは特に何もやっていないのだが。
「じゃあ……」
「えっと……、期待してるみたいだけど何もないわよ? ただの高校生だし」
「それでもお姉様を骨抜きにするほどの方ですの」
「そ、そんなにすごい人なんですか?」
「何か特徴とかはないんですか?」
二人は白井の言葉に驚いたようで、さらに“美琴の彼氏”の事を聞こうとする。
「そうね……。うーん。いっつも幸薄そうな顔してて、頭はウニみたいでかわいい」
美琴にとって、上条はムラサキウニかガンガゼか何かなのだろうか? 確かに似てはいるが。
“かわいい”ところがポイントだったりするのかもしれない。
「む。すごく見たいですね、御坂さんの彼氏さん」
「プリとかないんですか?」
「え? あ、あるにはあるんだけど……」
「「見せてください!!」」
もはや瞳に星が浮かぶほどの輝きを放つ二人。勢いに負けた美琴はおずおずとケロヨン携帯を取
り出し、
「ほ、ほんとに見るの?」
「「はい!!」」
顔を赤くしながらケロヨン携帯を差し出す。
そして、それを受け取った佐天が画面を開くと、そこには――
「「うわぁ――――!!」」
プリクラ――それもあっついキスをするツンツン頭の少年と美琴が、待受に表示されていた。
「す、すごいです御坂さん!」
「さすが御坂さん! やっぱり大人!!」
「おおお、お姉様に、わたくしのお姉様にッ! おのれ上条当麻ぁぁあ!!」
一人嫉妬が混ざっているがたぶん気のせいである。
「は、恥ずかしい……」
ちなみに、上条ほどではないが美琴もかなり不幸な人種である。
ふいに、
「もう上条さん死んじゃいます……」
という、すごく聞きなれた声が、耳に入ってきてしまったような気がした。
「もう上条さん死んじゃいます……」
という、すごく聞きなれた声が、耳に入ってきてしまったような気がした。
気のせいだと、頭をぶんぶんと振るい、現実を取り戻そうとするが、
「う、初春、あの人ってもしかして……」
「御坂さんの彼氏さん、ですよね?」
「御坂さんの彼氏さん、ですよね?」
美琴がおそる恐る振り返ると、“ウニっぽい頭で不幸そうな顔をした高校生”が、ちょうどカフェに向
かって歩いて来るところだった。
かって歩いて来るところだった。
「な、ななな、何でア――」
――ンタがここにいんのよ!
そう美琴が叫ぶ前に、誰もが予想だにしない事態が起こる。
「おっにいっさま――――ん!!」
「「お、お兄様!?」」
瞬間、二人の少女が驚きの声を上げ、二人の少年が凍りついた。
「うがぁあっ!! 一体なんだナンデスカー!?」
いきなり身体にまとわり付いた“生暖かい物体”に、上条の全身にゾワァァッ!とした寒気が走り回
り、そんな上条と“その物体”の突然すぎる行動を目にした美琴は、驚きのあまり凍りついてしまう。
そして“その物体”は、美琴や上条が驚きでパニックに陥っている隙を狙って、自らの欲望のままに
次の行動を開始する。
「あぁん! お兄様の匂い! お兄様の温もり!! ん゙んっ、最高ですわァァッ!!」
「か、カミやんが常盤台のお嬢様に絡み付かれとる!!」
「ちょ、黒子! アンタ何してんのよ!!」
ようやく状況を飲み込めた美琴が、“その物体”――つまり白井黒子を怒鳴りつける。
「常盤台の超電磁砲もいるにゃー!!」
「なになに何なの初春!?」
「わ、わからないですよ!」
「お兄様ぁぁん! はぁ、はぁ」
「し、白井かお前! 一体何なんだ!!」
「うひひ、黒子は気づきましたの。わたくしはお姉様のこともお兄様のことも諦められませんの! な
らば恋人丼!! お二人ともセットで食べてしまえば全て解決ですわ――っ!!」
「黒子ッ!!」
ゴンッ! という鈍い音。
暴走風紀委員を止められるのは美琴しかいないのだ。
――ンタがここにいんのよ!
そう美琴が叫ぶ前に、誰もが予想だにしない事態が起こる。
「おっにいっさま――――ん!!」
「「お、お兄様!?」」
瞬間、二人の少女が驚きの声を上げ、二人の少年が凍りついた。
「うがぁあっ!! 一体なんだナンデスカー!?」
いきなり身体にまとわり付いた“生暖かい物体”に、上条の全身にゾワァァッ!とした寒気が走り回
り、そんな上条と“その物体”の突然すぎる行動を目にした美琴は、驚きのあまり凍りついてしまう。
そして“その物体”は、美琴や上条が驚きでパニックに陥っている隙を狙って、自らの欲望のままに
次の行動を開始する。
「あぁん! お兄様の匂い! お兄様の温もり!! ん゙んっ、最高ですわァァッ!!」
「か、カミやんが常盤台のお嬢様に絡み付かれとる!!」
「ちょ、黒子! アンタ何してんのよ!!」
ようやく状況を飲み込めた美琴が、“その物体”――つまり白井黒子を怒鳴りつける。
「常盤台の超電磁砲もいるにゃー!!」
「なになに何なの初春!?」
「わ、わからないですよ!」
「お兄様ぁぁん! はぁ、はぁ」
「し、白井かお前! 一体何なんだ!!」
「うひひ、黒子は気づきましたの。わたくしはお姉様のこともお兄様のことも諦められませんの! な
らば恋人丼!! お二人ともセットで食べてしまえば全て解決ですわ――っ!!」
「黒子ッ!!」
ゴンッ! という鈍い音。
暴走風紀委員を止められるのは美琴しかいないのだ。
――放課後のことだった。いつものように授業を終えた上条は、舞夏と何かあったらしく機嫌が良
かった土御門から、めずらしいことにコーラ一杯とホットドッグ一個を奢ってくれると誘われ、青髪と共
にこのオープンカフェへと向かっていたところだった。
しかしなぜかいきなり常盤台のお嬢様に抱きつかれた上条を見て、青いほうは『カミやんは最初か
ら僕らに見せ付けるつもりやったんやー』とか泣きながら走り去り、黄色いほうは『男の熱き友情を裏
切るとは! 夜道は背後に気をつけろと忠告しておくぜよ』などと言いながら立ち去って行った。
そして、結局この場に取り残されてしまった上条は、美琴・白井と初対面の少女二人(と上条は
思っている)がいる机に着いて、向かいの見知らぬ少女からの謎の視線に耐えるはめになってし
まったのである。
かった土御門から、めずらしいことにコーラ一杯とホットドッグ一個を奢ってくれると誘われ、青髪と共
にこのオープンカフェへと向かっていたところだった。
しかしなぜかいきなり常盤台のお嬢様に抱きつかれた上条を見て、青いほうは『カミやんは最初か
ら僕らに見せ付けるつもりやったんやー』とか泣きながら走り去り、黄色いほうは『男の熱き友情を裏
切るとは! 夜道は背後に気をつけろと忠告しておくぜよ』などと言いながら立ち去って行った。
そして、結局この場に取り残されてしまった上条は、美琴・白井と初対面の少女二人(と上条は
思っている)がいる机に着いて、向かいの見知らぬ少女からの謎の視線に耐えるはめになってし
まったのである。
「ご紹介しますわ。こちら、右から佐天涙子さんと、わたくしと同じ一七七支部で風紀委員をしている
初春飾利さんですわ。お二人とも第七学区立柵川中学校の一年生でいらっしゃいます」
謎の奇妙な沈黙を打ち破るように、白井が少女二人を上条に紹介する。
「そしてこちらが、お姉様の彼氏、つまりわたくしのお兄様、上条当麻さんですの」
「な、なんでアンタのお兄様なのよ!」
「お姉様もお兄様も黒子の大切な恋人ですのよ」
すかさず美琴からのツッコミが入り、黒子が反論する。
一方の佐天と初春は、
(御坂さんの彼氏ってぐらいだからやっぱ高位能力者?)
(やっぱりそうじゃないですかねー。なにせ御坂さんは学園都市の頂点ですし)
互いの意見が一致したらしい。
そして、
「初めまして、初春飾利です」
「初めまして。佐天涙子です。強度(レベル)は無能力者(レベル0)でーす。ちなみにこの初春は低
能力者(レベル1)」
「あ、佐天さん……」
「ふうん。俺は上条当麻っつーただのしがない高校生。強度は完全無欠の無能力者だ」
上条の自己紹介を聞いて、『え?』と何かを疑問に思ったように顔を見合わせる二人。
ちなみに上条の脇で美琴と黒子が何やら暴れている(正確には美琴に絡み付こうとする白井を押
しのけようとしている)が、色々と恐いので三人とも関わらないことにしている。
「えっと……、無能力者なんですか?」
「ああ。頭の血管ぶち切れるまで踏ん張っても何もおきない本当の『無能力』ってやつだな」
あくまで事実をありのままに伝えただけなのだが、なぜかその上条を雷撃の槍が襲う。
「うおぁあ! 何!?」
「何が無能力者よド馬鹿! 二三〇万分の一じゃないアンタの幻想ぶち殺し能力!」
初春と佐天は信じられない光景を見た。
あの御坂美琴が撃ち出した雷撃の槍を、上条はなんと右手を闇雲に振るっただけで“掻き消した”
のだ。
「お、お、お姉……、様……」
「あ、く、黒子!」
どうやら可愛そうなことに白井が巻き添え食ったようだ。そりゃそうだ。白井に絡み付かれているの
に電撃ぶっ放したのだから。
「う、うへへ、お姉様の電撃、良いですわぁ……」
前言撤回。
身もだえする危険な香り漂う少女は放置して話を進めるとしよう。
「コイツは都市伝説の『どんな能力も聞かない能力を持つ男』よ。私が生まれて初めて本気の雷撃
の槍をぶっ放した時も、コイツには全然効かなかったんだから。あれ普通だったら死ぬどころか近
辺数キロは焼け野原よ」
さらっと殺人未遂どころか街を一個消滅させるだけの能力を使ったことを言う。
「わたくしの能力も通用しませんの」
正常な思考を取り戻したらしい白井も、そのチカラの存在を肯定する。
「そ、それってどんな能力なんですか? 書庫(バンク)にも載ってない、噂だけの架空能力だったよ
うな……」
「ん? ああ、『能力』じゃねーし、実際無能力者だから当然だろうな」
初春はその能力に興味を持ったようだが、すぐさま上条は“能力開発による能力であること”を否
定する。
上条は右手をグー、パー、と握ったり開いたりしながら、
「幻想殺し(イマジンブレイカー)っつってな、すべての異能のチカラを、例え神の力でもそれが異能
なものであるならば、全て打ち消すことができる。らしい……」
「コイツの右手に触れると、その瞬間“すべての能力の効果”が失われるって訳。だから、こいつの前
では例え学園都市最強の能力者だって、無能力者以下でしかなくなるのよ。まあ私はコイツの弱
点知ってるけどね」
ちょっぴり勝ち誇ったように美琴は言う。
そう。美琴は知っているのだ。何らかの理由により電撃を浴びせる必要がある場合、右手先以外
の場所を掴めば打ち消されないことを知っている。
美琴の電撃に対して、上条の幻想殺しは右手首より先しか効力がない。つまり、右手のヒジと手首
の間を掴んでしまえば、上条の右手先は美琴の体に触れることも、能力を搔き消すこともできなくな
るため、美琴の電撃を掻き消すことができなくなるのだ。
いや、単に最近肩腰こり過ぎの上条へ電撃を使ってマッサージしたり、生体電気をコントロールし
て血行を良くしてあげているだけであって、決して鬼畜な行為を行っている訳では(たぶん)ない。能
力の有効活用だ。
「も、もしかして、学園都市第一位を倒した無能力者って言う噂って、上条さんのことなんですか?」
佐天が興味津々といった面持ちで聞いてくる。
「そうね。コイツよ、その無能力者って」
「じゃあ、学園都市第三位に付きまとわれる無能力者っていう都市伝説も、上条さんのことだったん
ですね」
初春の発言に、ぶっと噴出す美琴。
「な、何なのよその噂は!?」
「結構有名な都市伝説というか噂ですよ? 他にもたくさんあります」
にこにこと笑顔の初春が、いつのまにか立ち上げていたノートパソコンの画面を見せた。
そこには、
『学園都市第三位から貞操を狙われる少年!!』
『衝撃! 常盤台の超電磁砲を骨抜きにした無能力者!!』
『学園都市第一位はロリコンか!?』
『風力発電の真実! 風車は第三位の電磁波で回っている!!』
『学園都市最下位の無能力者が学園都市最強を倒した!?』
など、学園都市にまつわる都市伝説や噂話が書かれていた。
「ふにゃああぁぁぁあああ!」
突然美琴の全身からバチバチと放電される。どうやら自分と上条の関係が噂話として学園都市中
に知れ渡り始めていることを知り、ついふにゃーしてしまったらしい。危うく初春ご愛用のパソコンが
お亡くなりになるところだった。
「やめろぉぉおお!!」
闇雲に上条が右手を振り、左隣に座る美琴の体を掴もうとする。
むにゅ、と柔らかな感触。
「わぁ……」
目を丸くする初春。そして度肝を抜かれ口をあんぐりと開ける佐天。
「お、おお、お兄様! 公衆の面前でお姉様に何をしているんですのッ!! 許しませんわぁぁ!!」
絶叫しながら金属の矢をごっそりと大量に掴みだす白井。
上条は見てしまった。自分の右手が掴む、なにやらとてもやわらかい、最近なんかよく揉んでいる
ような気がする感触の“それ”を。
上条の掴んでいた“それ”は――、
初春飾利さんですわ。お二人とも第七学区立柵川中学校の一年生でいらっしゃいます」
謎の奇妙な沈黙を打ち破るように、白井が少女二人を上条に紹介する。
「そしてこちらが、お姉様の彼氏、つまりわたくしのお兄様、上条当麻さんですの」
「な、なんでアンタのお兄様なのよ!」
「お姉様もお兄様も黒子の大切な恋人ですのよ」
すかさず美琴からのツッコミが入り、黒子が反論する。
一方の佐天と初春は、
(御坂さんの彼氏ってぐらいだからやっぱ高位能力者?)
(やっぱりそうじゃないですかねー。なにせ御坂さんは学園都市の頂点ですし)
互いの意見が一致したらしい。
そして、
「初めまして、初春飾利です」
「初めまして。佐天涙子です。強度(レベル)は無能力者(レベル0)でーす。ちなみにこの初春は低
能力者(レベル1)」
「あ、佐天さん……」
「ふうん。俺は上条当麻っつーただのしがない高校生。強度は完全無欠の無能力者だ」
上条の自己紹介を聞いて、『え?』と何かを疑問に思ったように顔を見合わせる二人。
ちなみに上条の脇で美琴と黒子が何やら暴れている(正確には美琴に絡み付こうとする白井を押
しのけようとしている)が、色々と恐いので三人とも関わらないことにしている。
「えっと……、無能力者なんですか?」
「ああ。頭の血管ぶち切れるまで踏ん張っても何もおきない本当の『無能力』ってやつだな」
あくまで事実をありのままに伝えただけなのだが、なぜかその上条を雷撃の槍が襲う。
「うおぁあ! 何!?」
「何が無能力者よド馬鹿! 二三〇万分の一じゃないアンタの幻想ぶち殺し能力!」
初春と佐天は信じられない光景を見た。
あの御坂美琴が撃ち出した雷撃の槍を、上条はなんと右手を闇雲に振るっただけで“掻き消した”
のだ。
「お、お、お姉……、様……」
「あ、く、黒子!」
どうやら可愛そうなことに白井が巻き添え食ったようだ。そりゃそうだ。白井に絡み付かれているの
に電撃ぶっ放したのだから。
「う、うへへ、お姉様の電撃、良いですわぁ……」
前言撤回。
身もだえする危険な香り漂う少女は放置して話を進めるとしよう。
「コイツは都市伝説の『どんな能力も聞かない能力を持つ男』よ。私が生まれて初めて本気の雷撃
の槍をぶっ放した時も、コイツには全然効かなかったんだから。あれ普通だったら死ぬどころか近
辺数キロは焼け野原よ」
さらっと殺人未遂どころか街を一個消滅させるだけの能力を使ったことを言う。
「わたくしの能力も通用しませんの」
正常な思考を取り戻したらしい白井も、そのチカラの存在を肯定する。
「そ、それってどんな能力なんですか? 書庫(バンク)にも載ってない、噂だけの架空能力だったよ
うな……」
「ん? ああ、『能力』じゃねーし、実際無能力者だから当然だろうな」
初春はその能力に興味を持ったようだが、すぐさま上条は“能力開発による能力であること”を否
定する。
上条は右手をグー、パー、と握ったり開いたりしながら、
「幻想殺し(イマジンブレイカー)っつってな、すべての異能のチカラを、例え神の力でもそれが異能
なものであるならば、全て打ち消すことができる。らしい……」
「コイツの右手に触れると、その瞬間“すべての能力の効果”が失われるって訳。だから、こいつの前
では例え学園都市最強の能力者だって、無能力者以下でしかなくなるのよ。まあ私はコイツの弱
点知ってるけどね」
ちょっぴり勝ち誇ったように美琴は言う。
そう。美琴は知っているのだ。何らかの理由により電撃を浴びせる必要がある場合、右手先以外
の場所を掴めば打ち消されないことを知っている。
美琴の電撃に対して、上条の幻想殺しは右手首より先しか効力がない。つまり、右手のヒジと手首
の間を掴んでしまえば、上条の右手先は美琴の体に触れることも、能力を搔き消すこともできなくな
るため、美琴の電撃を掻き消すことができなくなるのだ。
いや、単に最近肩腰こり過ぎの上条へ電撃を使ってマッサージしたり、生体電気をコントロールし
て血行を良くしてあげているだけであって、決して鬼畜な行為を行っている訳では(たぶん)ない。能
力の有効活用だ。
「も、もしかして、学園都市第一位を倒した無能力者って言う噂って、上条さんのことなんですか?」
佐天が興味津々といった面持ちで聞いてくる。
「そうね。コイツよ、その無能力者って」
「じゃあ、学園都市第三位に付きまとわれる無能力者っていう都市伝説も、上条さんのことだったん
ですね」
初春の発言に、ぶっと噴出す美琴。
「な、何なのよその噂は!?」
「結構有名な都市伝説というか噂ですよ? 他にもたくさんあります」
にこにこと笑顔の初春が、いつのまにか立ち上げていたノートパソコンの画面を見せた。
そこには、
『学園都市第三位から貞操を狙われる少年!!』
『衝撃! 常盤台の超電磁砲を骨抜きにした無能力者!!』
『学園都市第一位はロリコンか!?』
『風力発電の真実! 風車は第三位の電磁波で回っている!!』
『学園都市最下位の無能力者が学園都市最強を倒した!?』
など、学園都市にまつわる都市伝説や噂話が書かれていた。
「ふにゃああぁぁぁあああ!」
突然美琴の全身からバチバチと放電される。どうやら自分と上条の関係が噂話として学園都市中
に知れ渡り始めていることを知り、ついふにゃーしてしまったらしい。危うく初春ご愛用のパソコンが
お亡くなりになるところだった。
「やめろぉぉおお!!」
闇雲に上条が右手を振り、左隣に座る美琴の体を掴もうとする。
むにゅ、と柔らかな感触。
「わぁ……」
目を丸くする初春。そして度肝を抜かれ口をあんぐりと開ける佐天。
「お、おお、お兄様! 公衆の面前でお姉様に何をしているんですのッ!! 許しませんわぁぁ!!」
絶叫しながら金属の矢をごっそりと大量に掴みだす白井。
上条は見てしまった。自分の右手が掴む、なにやらとてもやわらかい、最近なんかよく揉んでいる
ような気がする感触の“それ”を。
上条の掴んでいた“それ”は――、
顔を真っ赤に染め上げた美琴の、控えめな胸のふくらみだった。
「……え、ええと、これは事故であって決してわざとではないんですよ白井サン!!」
慌てて美琴の胸から手を“放す”が、すると当然のごとく、再び美琴の身体から激しい漏電が起き
た。
「何放しているんですの避雷針!! 殿方(あなた)が触れていないと漏電が止まりませんの
よ!!」
「お兄様から避雷針に格下げ!?」
急いで美琴の左手を掴みなおす。
「はうぅ……」
どうやら触れていないと漏電が収まることがないらしい。
茹で上げた蛸のようにますます顔を赤くした美琴だが、心地がよいのか上条に身を預けてしまっ
た。
仕方がなく美琴を後ろから抱きしめるようにした上条だが、それを見た白井は今にも襲い掛からん
ばかり勢いでぎゃあぎゃあと騒ぎ出し、初春と佐天の目からは謎の輝きがあふれ出している。
「ふ、ふふふ……」
上条は突然笑い出し、
慌てて美琴の胸から手を“放す”が、すると当然のごとく、再び美琴の身体から激しい漏電が起き
た。
「何放しているんですの避雷針!! 殿方(あなた)が触れていないと漏電が止まりませんの
よ!!」
「お兄様から避雷針に格下げ!?」
急いで美琴の左手を掴みなおす。
「はうぅ……」
どうやら触れていないと漏電が収まることがないらしい。
茹で上げた蛸のようにますます顔を赤くした美琴だが、心地がよいのか上条に身を預けてしまっ
た。
仕方がなく美琴を後ろから抱きしめるようにした上条だが、それを見た白井は今にも襲い掛からん
ばかり勢いでぎゃあぎゃあと騒ぎ出し、初春と佐天の目からは謎の輝きがあふれ出している。
「ふ、ふふふ……」
上条は突然笑い出し、
「不幸だ……」
ついその言葉を口にしてしまった。
*
案外美琴の回復は早く、あの後五分ほどで上条は恥ずかし空間から解放されたのだが、その代
わりに今度は目が星のように輝いた二人の少女による、美琴と上条への質問タイムが始まってし
まった。
「いつ頃にどうやって知り合ったんですか?」
「六月の中頃よ。不良に絡まれてたところを助けようとしてくれたのよ」
「上条さんがですか?」
「ああ。『知り合いの振りして自然にその場から連れ出す作戦』を実行しようとしたんだが、美琴が
『誰アンタ』なんてバラしてくれたもんだから失敗して、逆に不良に絡まれた上に、コイツにまで電撃
浴び去られた」
「そ、それはアンタが私のことガキだなんだって言ったからでしょ!」
確かに初対面の女子中学生相手にガキだの反抗期だの言った上条は、電撃浴びせられても仕方
がなかったかもしれない。
顔を赤くして怒り出す美琴の様子を見て、初春と佐天の表情がさらにニヤつく。
「告白はどちらがされたんですか?」
「んー美琴だな。一端覧祭の最後で」
「御坂さんがですか!? 意外!」
絶対にありえないとでも言いたげな驚き方だ。
「どうして御坂さんは上条さんのことを好きになったんですか?」
初春からすれば、超能力者でありお嬢様である美琴が、一見ただの無能力者の高校生でしかない
上条当麻という男に惚れた理由がわからないのだ。
「え、えっとね、今思うと逢ったばっかりの頃から気になってはいたんだと思う。はっきり意識するよう
になったのって夏休みの終わり頃なんだけど……」
美琴は一旦区切って、
「八月一〇日頃からだったかな……、私その頃、あることで独りで思い詰めてたのよ。それは絶対に
誰も、黒子だって巻き込む訳にはいかないことだったから、誰にも相談できる訳がなかったし、自分
の命を投げうつ覚悟もしてた。だけど当麻は、頼んでもいないのに私が思いつめてたことを勝手に
調べて、勝手に解決してくれた。私の命も、私の大切な“家族”も助けてくれた」
「御坂さんの命……、ですか?」
そう佐天が訊く。
“命”という言葉が出るほど、それは深刻な状況だったということだ。しかし、超能力者である美琴
がそんな状況に陥ってしまうなんてことなど、佐天や初春には想像できない。
「うん。あの時当麻が助けてくれなかったら、私はここにはいない。私が死んだって状況が変わるか
なんてわからないのに、私は自分の考えを押し通そうとしてたのよね。その私の間違った考えを当
麻は直してくれた。それからかな、私がコイツのことをはっきりと恋愛対象として意識するようになっ
たのは。その頃は自分の気持ちを否定してたんだけどね……」
「ヒーロー、ですね」
初春がぽそりと呟く。
「全然ヒーローっぽくないけどね。コイツ」
「悪かったなおい」
美琴の皮肉交じりの台詞に上条が突っかかるが、
「本当に仲良いんですね」
佐天からすれば、それはとても幸せそうな関係に見えた。
「そ、そうかな……? ありがと」
「それで、自分の気持ちを認めたのはいつ頃なんですか?」
「……それって、言わなきゃダメ?」
「「ぜひ」」
「ずいぶんいきなりな話なんだけど……。ある時当麻がね、死にかけてたのよ。体中ボロボロで、包
帯だらけで、点滴の管とか心電図とかの電極までつけっぱなしで、足元もふらふらだった。それで
も当麻は何かと“戦おうとしていた”。誰にも助けを求めないで、全てを背負い込んで。それを見た
とき、自分の心の中にあったことかな……、全部言っちゃったのよ。勢いでね。それで、はっきり気
づいたの。私にとって上条当麻は自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を崩壊させるほど大きな
存在になってたんだってね。やっぱり、好きなんだって。でも、それでも好きだとは言えなかったん
だけど」
美琴の目は、過去を見つめなおすかのような、そんなどこまでも遠く澄んだ瞳だった。
「ずっと好きだって言いたかったのにね、言えなかった。コイツは全然気づいてくんないし、気づくと
どっか遠くに行っちゃってるし。やっとの思いで一端覧祭で一緒に回るのを約束したのに、別の女
の子に囲まれてたし。でも、最終日だけは何とか約束できた。その時にやっと好きだって伝えられ
てね」
「まさか美琴が俺のこと好きだなんて思ってなかったから、最初は何かの間違えかと思ってな……」
上条は誤魔化すように笑うが、
「気づかないアンタが鈍感すぎるのよ」
「いや、人の顔見るなりいきなり電撃ぶっ放してくるビリビリ女から好かれてると思える人間のほうが
おかしいだろ」
「そ、それはアンタがスルーするからでしょ!」
さっきまでの雰囲気はどこへやら。
軌道が変な方向に分岐して行っているようだ。
「スルーって何のことだよ。お前いつも挨拶なしにいきなり後ろから『雷撃の槍』撃ってくるじゃねえ
か! あれ気づかなかったら本当に死ぬぞ!!」
「ちゃんと挨拶してるじゃない! 何回も何回も何っ回も呼んでるのに無視すんのはアンタよアン
タ!!」
「ちゃんと挨拶されたら気づいてるっつうの。つうかお前にとっての挨拶ってのは一〇億ボルトの電
撃を所構わずぶっ放すことか?」
「とっ、所構わずな訳ないでしょ!? アンタ以外には絶対当たんないようにしてるわよ!」
「俺に向かってなら撃っていいのか!? 上条さんだって人間ですよ人間!!」
「アンタどうせ電撃かき消すじゃない!! 私は学園都市第三位の超電磁砲よ? 御坂美琴よ??
この私の雷撃の槍まともに喰らって死んでないとか異常よ異常! 一回くらいまともに当たんなさ
いよ!!」
「当たったら死んでる!」
「あ、あの! 御坂さん上条さん……」
「だいたいお前は常盤台のお嬢様だろ!? もっと自覚持ってお嬢様らしい行動しろっつうの!!」
「常盤台のお嬢様? はっ、笑わせないでよ! お嬢様のどこが私らしいってのよ! あー、そう。
やーっぱりアンタはお嬢様がいい訳このウニ頭!! だったらどっかそこらへんのお嬢様でもとっ
捕まえて遊んでればいいじゃない!!」
「お姉様お兄様お止めくださいませ!!」
この場を静めたのは白井だった。
白井に怒鳴りつけられて冷静になったのか、上条と美琴はケンカをやめ、途端に俯く。
「お姉様もお兄様ももう少しお互いを尊重できませんの? だいたいお二人だけでケンカをお楽しみ
になるなんて……。黒子もっ! わたくしも混ぜてくださいませっ!!」
いや、白井はケンカを止めたかったのではなかったっぽい。
「……あら? も、もうお終いですの?? 黒子も混ぜて欲しかったんですのに……」
なぜか本当に残念そうに、いや寂しそうに白井は言う。
「あ、アンタは一体何がしたいのよ」
美琴のツッコミに対し、白井は高らかに宣言する。
「わたくしはお姉様やお兄様と痴話ゲンカしたいんですの! さあお兄様お姉様、今からわたくしを含
めて三人でケンカを始めますわよ!!」
「「しねえよ《しないわよ》!!」」
わりに今度は目が星のように輝いた二人の少女による、美琴と上条への質問タイムが始まってし
まった。
「いつ頃にどうやって知り合ったんですか?」
「六月の中頃よ。不良に絡まれてたところを助けようとしてくれたのよ」
「上条さんがですか?」
「ああ。『知り合いの振りして自然にその場から連れ出す作戦』を実行しようとしたんだが、美琴が
『誰アンタ』なんてバラしてくれたもんだから失敗して、逆に不良に絡まれた上に、コイツにまで電撃
浴び去られた」
「そ、それはアンタが私のことガキだなんだって言ったからでしょ!」
確かに初対面の女子中学生相手にガキだの反抗期だの言った上条は、電撃浴びせられても仕方
がなかったかもしれない。
顔を赤くして怒り出す美琴の様子を見て、初春と佐天の表情がさらにニヤつく。
「告白はどちらがされたんですか?」
「んー美琴だな。一端覧祭の最後で」
「御坂さんがですか!? 意外!」
絶対にありえないとでも言いたげな驚き方だ。
「どうして御坂さんは上条さんのことを好きになったんですか?」
初春からすれば、超能力者でありお嬢様である美琴が、一見ただの無能力者の高校生でしかない
上条当麻という男に惚れた理由がわからないのだ。
「え、えっとね、今思うと逢ったばっかりの頃から気になってはいたんだと思う。はっきり意識するよう
になったのって夏休みの終わり頃なんだけど……」
美琴は一旦区切って、
「八月一〇日頃からだったかな……、私その頃、あることで独りで思い詰めてたのよ。それは絶対に
誰も、黒子だって巻き込む訳にはいかないことだったから、誰にも相談できる訳がなかったし、自分
の命を投げうつ覚悟もしてた。だけど当麻は、頼んでもいないのに私が思いつめてたことを勝手に
調べて、勝手に解決してくれた。私の命も、私の大切な“家族”も助けてくれた」
「御坂さんの命……、ですか?」
そう佐天が訊く。
“命”という言葉が出るほど、それは深刻な状況だったということだ。しかし、超能力者である美琴
がそんな状況に陥ってしまうなんてことなど、佐天や初春には想像できない。
「うん。あの時当麻が助けてくれなかったら、私はここにはいない。私が死んだって状況が変わるか
なんてわからないのに、私は自分の考えを押し通そうとしてたのよね。その私の間違った考えを当
麻は直してくれた。それからかな、私がコイツのことをはっきりと恋愛対象として意識するようになっ
たのは。その頃は自分の気持ちを否定してたんだけどね……」
「ヒーロー、ですね」
初春がぽそりと呟く。
「全然ヒーローっぽくないけどね。コイツ」
「悪かったなおい」
美琴の皮肉交じりの台詞に上条が突っかかるが、
「本当に仲良いんですね」
佐天からすれば、それはとても幸せそうな関係に見えた。
「そ、そうかな……? ありがと」
「それで、自分の気持ちを認めたのはいつ頃なんですか?」
「……それって、言わなきゃダメ?」
「「ぜひ」」
「ずいぶんいきなりな話なんだけど……。ある時当麻がね、死にかけてたのよ。体中ボロボロで、包
帯だらけで、点滴の管とか心電図とかの電極までつけっぱなしで、足元もふらふらだった。それで
も当麻は何かと“戦おうとしていた”。誰にも助けを求めないで、全てを背負い込んで。それを見た
とき、自分の心の中にあったことかな……、全部言っちゃったのよ。勢いでね。それで、はっきり気
づいたの。私にとって上条当麻は自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を崩壊させるほど大きな
存在になってたんだってね。やっぱり、好きなんだって。でも、それでも好きだとは言えなかったん
だけど」
美琴の目は、過去を見つめなおすかのような、そんなどこまでも遠く澄んだ瞳だった。
「ずっと好きだって言いたかったのにね、言えなかった。コイツは全然気づいてくんないし、気づくと
どっか遠くに行っちゃってるし。やっとの思いで一端覧祭で一緒に回るのを約束したのに、別の女
の子に囲まれてたし。でも、最終日だけは何とか約束できた。その時にやっと好きだって伝えられ
てね」
「まさか美琴が俺のこと好きだなんて思ってなかったから、最初は何かの間違えかと思ってな……」
上条は誤魔化すように笑うが、
「気づかないアンタが鈍感すぎるのよ」
「いや、人の顔見るなりいきなり電撃ぶっ放してくるビリビリ女から好かれてると思える人間のほうが
おかしいだろ」
「そ、それはアンタがスルーするからでしょ!」
さっきまでの雰囲気はどこへやら。
軌道が変な方向に分岐して行っているようだ。
「スルーって何のことだよ。お前いつも挨拶なしにいきなり後ろから『雷撃の槍』撃ってくるじゃねえ
か! あれ気づかなかったら本当に死ぬぞ!!」
「ちゃんと挨拶してるじゃない! 何回も何回も何っ回も呼んでるのに無視すんのはアンタよアン
タ!!」
「ちゃんと挨拶されたら気づいてるっつうの。つうかお前にとっての挨拶ってのは一〇億ボルトの電
撃を所構わずぶっ放すことか?」
「とっ、所構わずな訳ないでしょ!? アンタ以外には絶対当たんないようにしてるわよ!」
「俺に向かってなら撃っていいのか!? 上条さんだって人間ですよ人間!!」
「アンタどうせ電撃かき消すじゃない!! 私は学園都市第三位の超電磁砲よ? 御坂美琴よ??
この私の雷撃の槍まともに喰らって死んでないとか異常よ異常! 一回くらいまともに当たんなさ
いよ!!」
「当たったら死んでる!」
「あ、あの! 御坂さん上条さん……」
「だいたいお前は常盤台のお嬢様だろ!? もっと自覚持ってお嬢様らしい行動しろっつうの!!」
「常盤台のお嬢様? はっ、笑わせないでよ! お嬢様のどこが私らしいってのよ! あー、そう。
やーっぱりアンタはお嬢様がいい訳このウニ頭!! だったらどっかそこらへんのお嬢様でもとっ
捕まえて遊んでればいいじゃない!!」
「お姉様お兄様お止めくださいませ!!」
この場を静めたのは白井だった。
白井に怒鳴りつけられて冷静になったのか、上条と美琴はケンカをやめ、途端に俯く。
「お姉様もお兄様ももう少しお互いを尊重できませんの? だいたいお二人だけでケンカをお楽しみ
になるなんて……。黒子もっ! わたくしも混ぜてくださいませっ!!」
いや、白井はケンカを止めたかったのではなかったっぽい。
「……あら? も、もうお終いですの?? 黒子も混ぜて欲しかったんですのに……」
なぜか本当に残念そうに、いや寂しそうに白井は言う。
「あ、アンタは一体何がしたいのよ」
美琴のツッコミに対し、白井は高らかに宣言する。
「わたくしはお姉様やお兄様と痴話ゲンカしたいんですの! さあお兄様お姉様、今からわたくしを含
めて三人でケンカを始めますわよ!!」
「「しねえよ《しないわよ》!!」」
美しいほど、二人の声が完璧に重なる。
結局その後、事態に追いつけず困り果てていた初春と佐天には、騒いでしまったことを上条と美琴
が陳謝し、それはいつものことだから気にしないで欲しいという旨の説明をした。初春や佐天からす
れば、ケンカするほど仲が良いという言葉を具現化したような二人が羨ましく見えたので、別に良
かったのだが。まあ、それは二人が支え合っているからこそだろうが。
なお、最後まで白井は美琴に抱きつきながら『三人でケンカしたい』という主張を続けていたが、内
心では美琴と上条が付き合い始める前とさほど変らない、あいも変わらずケンカや言い合いをする
二人の関係を見てほっと胸を撫で下ろしていた。美琴が本気でケンカできる相手は白井自身を除く
と上条以外におらず、その点で白井は上条を信頼しているからだ。二人が仲が良いのもいいが、ケ
ンカできる関係はこれからも変わらないでほしい。そう切に願っていた。
が陳謝し、それはいつものことだから気にしないで欲しいという旨の説明をした。初春や佐天からす
れば、ケンカするほど仲が良いという言葉を具現化したような二人が羨ましく見えたので、別に良
かったのだが。まあ、それは二人が支え合っているからこそだろうが。
なお、最後まで白井は美琴に抱きつきながら『三人でケンカしたい』という主張を続けていたが、内
心では美琴と上条が付き合い始める前とさほど変らない、あいも変わらずケンカや言い合いをする
二人の関係を見てほっと胸を撫で下ろしていた。美琴が本気でケンカできる相手は白井自身を除く
と上条以外におらず、その点で白井は上条を信頼しているからだ。二人が仲が良いのもいいが、ケ
ンカできる関係はこれからも変わらないでほしい。そう切に願っていた。
美琴に文字通り絡みつき騒いでいた白井がようやく落ち着いたのを見計らってか、佐天が新しい
話題を振る。
「それで、やっぱり上条さんと御坂さんは二十四日の予定決まってるんですよね?」
「「二十四日?」」
上条と美琴はそう疑問で答える。
「あー、そういえばまだ何も考えてなかったわね……。あぶないあぶない」
「そうか、クリスマスイヴか……。どうする?」
期待した佐天だが、向かいに座る一組の男女の反応は鈍い。
それもそのはずで、上条と美琴は今の状況をすでに満足しきっているからだ。実際行くところまで
行ってしまっているし、週に五回はデート(かどうかは微妙だが)しているベタベタな二人にとって、ク
リスマスもバレンタインデーもちっぽけな飾りに過ぎない。何も考えていなかったというより、忘れて
いたというべきだろう。
「うーん、やっぱクリスマスって言ったら特別な日よね……、でも特に何かあるわけでもないし、適当
にデートで良いと思うのよね……」
その美琴の言葉を聞いた初春と佐天は、顔を見合わせ、
(あ、あの少女趣味な御坂さんがクリスマスを適当って言ってますよ!?)
(御坂さんのことだから少女的素敵イベントを期待してると思ってたのにー!)
予想外の反応に驚きをぶつけ合っていた。
二人の予想では、尾根のような高台か高層ビルで、クリスマスイルミネーションで美しく色づいた街
の夜景を背に……的な、そういった感じだったのだ。
「ねえ当麻、二十四日の予定、私が考えといていい?」
「ん? ああ、上条さんが死なない程度でお願いします」
「何言ってんのよバカ。……って、そっか。アンタお金ないんだっけ」
昨日、上条は十二月分の生活費全てを落としている。主な収入源である奨学金は、その学生の能
力の有効性や強度・学校・学業成績などを元に額が決められているため、従って無能力者で底辺校
に通い成績も悪い上条には、学生一人が生活をする上で不自由しない最低限の金額しか支払われ
ていない。貯蓄するほどの額は余らないし、しかも生活を圧迫する居候の存在は大きい。
つまり一銭も持たず、美琴からの生活援助を受けることになった上条には、何かを買って美琴にプ
レゼントすることはできないはずだ。
「あ、ああ……。けどプレゼントは絶対何か用意するから、期待しててくれ」
「いいわよ。アンタ生活費削りそうだし。……そうね、私がお金渡すから、それで買ってきてよ。アンタ
のお金じゃないけど、アンタが選んでくれた物ならそれで良いから」
「……悪い。俺がドジなばかりに」
「アンタが不幸体質なのは仕方がないでしょ。だったら私がアンタを少しでも幸せにするだけよ。この
美琴センセーがついてるんだから、安心なさい」
それは黒子や“妹達”、そして後輩たちに向ける優しさと同じものだった。かつては素直になれず、
上条に強く当たることもあった美琴だが、今の彼女はそんなかつての彼女とは違う。まだ美琴が上
条に告白した日から数週間しか経っていないが、それでも、素直になると自分に強く誓った彼女は、
その胸に秘めた誓いを守って行動している。
「そうだ御坂さん上条さん。二十三日か二十五日ってあいてますか? どうせならみんなでパー
ティーしましょうよ」
「佐天さん名案……じゃなくて、いいですねー! やりましょう御坂さん、上条さん!」
上条と美琴は気づいていないが、初春と佐天は何かを企てているのかのように口元がニヤけてい
た。
「二十三日は天皇誕生日だから休みよね。二十五日って何曜日だったっけ?」
「たしか金曜だったな。俺んとこは終業式。何も問題なければ、な……」
上条の頭の中をよぎる“補習”の二文字。
そんな上条の心配を見抜いたかのように、美琴が言う。
「じゃあ二十五日の放課後なんてどうかしら? 常盤台も終業式で午後は丸々開いてるし。当麻、ア
ンタは補習にならないよう努力すること」
「お、お姉様!? ま、まさか二十三日は、この黒子のために空けていてくださるとそういうことです
のね!!」
「何言ってんのよアンタは。佐天さん初春さんは大丈夫?」
このままでは白井に引きずられて競合脱線しそうだったので、向かいに座る二人に振った。
「あたしはそれで全然大丈夫ですよ。初春も良いでしょ?」
「そうですね、では二十五日で。詳しいことはおいおい決めましょう」
何とか問題なく話がまとまり胸を撫で下ろす。白井のことは好きだが、美琴にそっちの趣味はない
ので絡み付かれても嬉しくない。
「さてと。そろそろ良い時間だし、初春、セブンスミスト行くよ!」
「はい。……御坂さんと上条さんはどうされますか?」
二人は当初の予定通り買い物へ行くようだ。
「うーん、アンタどうすんの? 私はセブンスミスト行きたいんだけど」
とりあえず上条に訊く。
美琴はその第三位という立場や、“自ら輪に加われない”という性格上友人が少ない。だからこそ、
いくら彼氏が隣にいようと友人との約束は重要だと思っているし、一緒にセブンスミストに行きたい。
「俺? 男が一緒だと面白くないだろ。それに……、後々のことを考えるとあの馬鹿共を追いかけた
ほうがいいような気がしてきたしな」
上条の言っている事とその意図はわからないが、本人がそういうのだからそうすべきなのだろう。
「そう、じゃあ私たちはセブンスミストね。って黒子は何してんのよ?」
何を考えているのか、先ほどから白井がそわそわとしている。
「い、いえ、わたくしはお姉様とお兄様をセットで頂くことを選んだ身、お二人が別々に行動されるとど
ちらについて行けば良いものか……」
「黒子、アンタはこっちに来なさい。なんか男同士で語らうみたいだし? 邪魔しちゃだめよ。ていうか
セットって何よ」
「セットはセットですの。恋人丼最高ですわ」
白井が原因でまたも話が脱線し始める。
そんな二人の謎の掛け合いを見た初春が、
「ただの冗談だと思っていたんですけど、さっきから白井さんは何なんですか? もしかして白井さん
の好きな男の人って上条さんなんですか?」
冷静に疑問をぶつける。
「わたくしが上条さんを好きになることに何か問題でもありますの? 今の黒子にとって上条さんは
お姉様と比べられないほどの大切なお人ですのよ」
白井は何かを決意したような力強い眼差しで、美琴に絡み付きながらはっきりと言い切る。
美琴も上条もその言葉に対しては何も言わない。美琴にとって白井が大切な人であることは何ら
変わりないし、上条にとっても似たようなものだろう。それだけでなく、白井の本当の気持ちを知って
いるからこそ、それを受け入れることだってできるだろう。
しかし、いまいち状況を掴めない初春と佐天からすれば、一体白井は何なのか理解できなくて当
然かもしれない。
「つーか、あの、俺はどうすれば……?」
尤も当の上条としては、これからどう行動すればよいのか、そのことが最優先すべき事項なのだ
が。
「あ、ごめん忘れてた……。じゃあ、私たちはセブンスミスト行くわね。あとで連絡するから」
「りょーかい。んじゃまた後でな」
美琴は予定通り遊びに向かう。
一方の上条は、今後の平安な生活のため、誤解(?)して去って行った友人二人を探しに向かう。
話題を振る。
「それで、やっぱり上条さんと御坂さんは二十四日の予定決まってるんですよね?」
「「二十四日?」」
上条と美琴はそう疑問で答える。
「あー、そういえばまだ何も考えてなかったわね……。あぶないあぶない」
「そうか、クリスマスイヴか……。どうする?」
期待した佐天だが、向かいに座る一組の男女の反応は鈍い。
それもそのはずで、上条と美琴は今の状況をすでに満足しきっているからだ。実際行くところまで
行ってしまっているし、週に五回はデート(かどうかは微妙だが)しているベタベタな二人にとって、ク
リスマスもバレンタインデーもちっぽけな飾りに過ぎない。何も考えていなかったというより、忘れて
いたというべきだろう。
「うーん、やっぱクリスマスって言ったら特別な日よね……、でも特に何かあるわけでもないし、適当
にデートで良いと思うのよね……」
その美琴の言葉を聞いた初春と佐天は、顔を見合わせ、
(あ、あの少女趣味な御坂さんがクリスマスを適当って言ってますよ!?)
(御坂さんのことだから少女的素敵イベントを期待してると思ってたのにー!)
予想外の反応に驚きをぶつけ合っていた。
二人の予想では、尾根のような高台か高層ビルで、クリスマスイルミネーションで美しく色づいた街
の夜景を背に……的な、そういった感じだったのだ。
「ねえ当麻、二十四日の予定、私が考えといていい?」
「ん? ああ、上条さんが死なない程度でお願いします」
「何言ってんのよバカ。……って、そっか。アンタお金ないんだっけ」
昨日、上条は十二月分の生活費全てを落としている。主な収入源である奨学金は、その学生の能
力の有効性や強度・学校・学業成績などを元に額が決められているため、従って無能力者で底辺校
に通い成績も悪い上条には、学生一人が生活をする上で不自由しない最低限の金額しか支払われ
ていない。貯蓄するほどの額は余らないし、しかも生活を圧迫する居候の存在は大きい。
つまり一銭も持たず、美琴からの生活援助を受けることになった上条には、何かを買って美琴にプ
レゼントすることはできないはずだ。
「あ、ああ……。けどプレゼントは絶対何か用意するから、期待しててくれ」
「いいわよ。アンタ生活費削りそうだし。……そうね、私がお金渡すから、それで買ってきてよ。アンタ
のお金じゃないけど、アンタが選んでくれた物ならそれで良いから」
「……悪い。俺がドジなばかりに」
「アンタが不幸体質なのは仕方がないでしょ。だったら私がアンタを少しでも幸せにするだけよ。この
美琴センセーがついてるんだから、安心なさい」
それは黒子や“妹達”、そして後輩たちに向ける優しさと同じものだった。かつては素直になれず、
上条に強く当たることもあった美琴だが、今の彼女はそんなかつての彼女とは違う。まだ美琴が上
条に告白した日から数週間しか経っていないが、それでも、素直になると自分に強く誓った彼女は、
その胸に秘めた誓いを守って行動している。
「そうだ御坂さん上条さん。二十三日か二十五日ってあいてますか? どうせならみんなでパー
ティーしましょうよ」
「佐天さん名案……じゃなくて、いいですねー! やりましょう御坂さん、上条さん!」
上条と美琴は気づいていないが、初春と佐天は何かを企てているのかのように口元がニヤけてい
た。
「二十三日は天皇誕生日だから休みよね。二十五日って何曜日だったっけ?」
「たしか金曜だったな。俺んとこは終業式。何も問題なければ、な……」
上条の頭の中をよぎる“補習”の二文字。
そんな上条の心配を見抜いたかのように、美琴が言う。
「じゃあ二十五日の放課後なんてどうかしら? 常盤台も終業式で午後は丸々開いてるし。当麻、ア
ンタは補習にならないよう努力すること」
「お、お姉様!? ま、まさか二十三日は、この黒子のために空けていてくださるとそういうことです
のね!!」
「何言ってんのよアンタは。佐天さん初春さんは大丈夫?」
このままでは白井に引きずられて競合脱線しそうだったので、向かいに座る二人に振った。
「あたしはそれで全然大丈夫ですよ。初春も良いでしょ?」
「そうですね、では二十五日で。詳しいことはおいおい決めましょう」
何とか問題なく話がまとまり胸を撫で下ろす。白井のことは好きだが、美琴にそっちの趣味はない
ので絡み付かれても嬉しくない。
「さてと。そろそろ良い時間だし、初春、セブンスミスト行くよ!」
「はい。……御坂さんと上条さんはどうされますか?」
二人は当初の予定通り買い物へ行くようだ。
「うーん、アンタどうすんの? 私はセブンスミスト行きたいんだけど」
とりあえず上条に訊く。
美琴はその第三位という立場や、“自ら輪に加われない”という性格上友人が少ない。だからこそ、
いくら彼氏が隣にいようと友人との約束は重要だと思っているし、一緒にセブンスミストに行きたい。
「俺? 男が一緒だと面白くないだろ。それに……、後々のことを考えるとあの馬鹿共を追いかけた
ほうがいいような気がしてきたしな」
上条の言っている事とその意図はわからないが、本人がそういうのだからそうすべきなのだろう。
「そう、じゃあ私たちはセブンスミストね。って黒子は何してんのよ?」
何を考えているのか、先ほどから白井がそわそわとしている。
「い、いえ、わたくしはお姉様とお兄様をセットで頂くことを選んだ身、お二人が別々に行動されるとど
ちらについて行けば良いものか……」
「黒子、アンタはこっちに来なさい。なんか男同士で語らうみたいだし? 邪魔しちゃだめよ。ていうか
セットって何よ」
「セットはセットですの。恋人丼最高ですわ」
白井が原因でまたも話が脱線し始める。
そんな二人の謎の掛け合いを見た初春が、
「ただの冗談だと思っていたんですけど、さっきから白井さんは何なんですか? もしかして白井さん
の好きな男の人って上条さんなんですか?」
冷静に疑問をぶつける。
「わたくしが上条さんを好きになることに何か問題でもありますの? 今の黒子にとって上条さんは
お姉様と比べられないほどの大切なお人ですのよ」
白井は何かを決意したような力強い眼差しで、美琴に絡み付きながらはっきりと言い切る。
美琴も上条もその言葉に対しては何も言わない。美琴にとって白井が大切な人であることは何ら
変わりないし、上条にとっても似たようなものだろう。それだけでなく、白井の本当の気持ちを知って
いるからこそ、それを受け入れることだってできるだろう。
しかし、いまいち状況を掴めない初春と佐天からすれば、一体白井は何なのか理解できなくて当
然かもしれない。
「つーか、あの、俺はどうすれば……?」
尤も当の上条としては、これからどう行動すればよいのか、そのことが最優先すべき事項なのだ
が。
「あ、ごめん忘れてた……。じゃあ、私たちはセブンスミスト行くわね。あとで連絡するから」
「りょーかい。んじゃまた後でな」
美琴は予定通り遊びに向かう。
一方の上条は、今後の平安な生活のため、誤解(?)して去って行った友人二人を探しに向かう。
二人はそれぞれの目的へと歩みだす。
そんな今日の放課後は、まだまだ始まったばかりだ。
そんな今日の放課後は、まだまだ始まったばかりだ。