豆撒きの日に 2
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横になったはいいが、直前に寝てるのと腹が活性化してるので流石に寝れはしなかった。
「あったけーなー」と独り言を言いつつ、ぽちぽちとケータイをずっといじっていた。
適度に日が傾いて来たトコロで、俺は起き上がり背筋を伸ばし、大きな欠伸をして出て行く事にした。
御坂にメールを送ると、すぐさま返信が。アイツ暇してんのか?
御坂が出入りした扉とは反対側に裏口用の扉がある。
俺はそこから外に顔を出す。誰もいない、静かな空間があった。
御坂からのメールによると、インデックスをそこに連れて行くらしい。
俺はそこで少し待ちぼうけ、寒いながらも日光が木の葉の間から差し込む光景に見惚れていた。
2,3分しない内に、インデックスと御坂がやって来た。
インデックスは御坂の背にいたのだが。
「…一瞬起きたんだけど、また寝ちゃって……」
御坂からインデックスを受け取り、俺の背に移す。
「ふぅ……んじゃ、悪いけどそっちからね。子供達が騒ぐのもアレだから」
「おう。昼飯ありがとうな。また作ってくれよ」
そう言うと、御坂が少し戸惑いながら、少し声を大きくする。
「わ、分かってるわよ!ちゃんと早めに行く日言ってよねっ?あと何が食べたいかとかっ!」
「お、おう。…じゃあ、次もサンドイッチが食いたいな」
「え…また?」
「ああ。あんまり多く作らせるのも御坂に悪いし」
「別にそんなの気にしなくても……」
「それに、山の上で綺麗な景色見ながら食った方がさっきより美味いのを証明してやりたいしさ」
御坂は何か言いたそうに、「分かった」とだけ言う。
「ああ、御坂の料理が食いたくないわけじゃないからな。今度、晩飯でも作ってくれよ」
後から付け加えるように、そういう意味ではないのを言う。
御坂はそれを分かってくれたようで、さっきよりちょっとテンションを上げて「うん」と言ってくれた。
「じゃ、私はこれからまだ子供達と構わないといけないから」
「そうか、頑張ってな。楽しかったよ。またな」
「―――うん、今日はありがとう」
「どーいたしまして。こんなので良ければいつでもいいぜ」
インデックスを支える手を片方だけ外し、ひらひらと御坂に振ってみせる。
「補習がなければいいのにねぇ?」
「ぐっ…。お、俺だって頑張ってるんだよ!」
鉄格子の扉を片手で開ける。
「ふぅん?まぁ能力テスト以外の勉学なら教えてあげるから、いつでも御坂さんに聞きなさい」
「……年下に教えられるのは屈辱だが…背に腹は変えられない状況になったら頼むよ」
「うん、まっかせなさい」
会話も一区切りした所で、お互いに別れを告げて俺は幼稚園から出て行った。
帰路を渡る間、インデックスは終始俺の肩で小さく寝息を立てていた。
静かだととても楽なので俺はなるべく静かな道を選び、揺らさないように運ぶ。
行きより少し遅くなったが、まだ空が橙色より濃く、赤く黒くなりかけの内に家に着いた。
インデックスをそっとベッドに寝かせ、買い物に行くつもりもなかったのでありあわせの野菜炒めを作る。
匂いがリビングにいったのか、音が意識を戻した脳に伝わったのか、がばっと彼女は起きた。
「トーマ!大丈夫なの!?」
何が、と言おうとした手前で口を紡ぐ。
こいつにも御坂は子供達を同じ事を言っていたのだろう、とすぐに察しはついた。
頭の中ですぐさま言い訳をでっち上げる。
「あ、ああ…鬼は連れて帰ろうと捕まえただけで、何とか無傷だ」
インデックスはどたばたと救急セットと十字架を手に台所にいる俺の元へ来る。
「ほんとっ?あの鬼、凄い牙だったけど、首とか腕とか噛まれてない!?」
俺の腕を強制的に押さえ込み、袖を捲くったり、後ろからよじ登って首元を確認してくる。
だが、幸いにも俺のどこにも牙の痕なんてない。吸血鬼ではないからな。
ましてや、鬼なんて存在しないし。怪我すらねぇよ。
…とは言わないわけだがな。
「ああ、安心しろ。この通り、飯が作れるほど、大丈夫だ」
わざと調理箸で野菜をかき混ぜて、ジューと香ばしそうな音をさせる。
すると、インデックスの腹が鳴る。
「ご、ご飯ご飯!トーマが無事ならご飯だねっ!お腹空いたよ!」
「へいへい」
インデックスに皿を持ち出させるよう促すと、従順に動いてくれた。
それだけすると、インデックスはリビングに行きテーブルの横に座って待機する。
「もう出来るから、うだうだ言うなよ」
「はーいっ」
安価だった豚肉も投入して、赤い部分を無くすように焼いていく。
塩胡椒を振ると、なんといい匂いだ。俺も腹が減ってきたぞ。
飯は冷や飯があるので、それを電子レンジで温めておいた。
2つの皿に盛り分けて、俺はインデックスの待つテーブルにそれを持って向かう。
「ごっはんー!そういえばトーマにぶつければいいと思ってたのに、あんな化物が来ると思ってなくて怖かったんだよ?」
ああ、こいつは完全に洗脳されてたんだな。御坂の迫真の演技でもあったのかね。
「悪かった。俺も不意打ち過ぎて反応出来なかったんだよ」
「トーマが動けないってよっぽどだねぇ、あの吸血鬼。豆が弱点だからこれからは持っておかないと!」
今後あの鬼が出るのは一年後なんですよ。
これもまた俺は言う事無く、「とっとと食おうぜ。無事だったんだからいいだろ」と言う。
インデックスも頷いて、箸を置いて両手を合わす。
「いっただっきまーすっ」
インデックスの嬉しそうな挨拶を迎え、2人とも飯に手をつけた。
「ふぁ、そーだ。トーマ、ケータイ光ってたよ」
インデックスがベッドに置いてあったケータイを取って、俺に渡してくれた。
「ん、サンキュー」
行儀が悪いが、咥え箸の状態で俺はケータイを開く。
御坂からのメールだった。
『今日はお疲れ様。ほんと、早くしてよね?楽しみにしてるから、ピクニック』
あいつはどんだけ楽しみなんだよ、と思い笑みが零れる。
微かに、朝の笑顔が見れたらアイツへの印象も変わるだろう。と期待する俺もいるが。
「ねぇトーマ、誰からのメール?」
御坂だよ、と言って改めて飯に手をつける。
インデックスも珍しく、楽しかったからお礼言っておいて、と言う。
それを了解すると、インデックスも再びがっつき始めた。
喉を詰まらせる動作を見て笑いつつ、お茶を渡す。
コップ一杯のお茶を飲み干して、安堵の笑みを浮かべてまた食べ始めた。
俺はその様子を見届けてから、御坂にメールを返した。
『了解。俺も楽しみにしてるよ』と。