とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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小ネタ チョコをあげよう



 両手に持った紙袋の中身は色とりどりの大量のチョコレートなわけで。これらは今日
一日で御坂美琴に贈られた品々であった。恐るべきは女の園、というべきか。それとも
単に美琴がおっとこ前、というだけの話なのか。
 朝、寮内から始まり(その分は部屋に置いてきたにもかかわらず)ついさっき下校時
までひっきりなしに手渡されて今に至る。この分だと帰ってからもまだ続きそうな勢い
だ。
「よいしょっと」
 例の自販機近くのベンチ。結構な重さになっているそれを置き、どかりと座った。蹴
りを放つ元気もない。体力的な疲労よりも精神的に。
 そりゃ美琴だって悪い気はしない。慕ってくれるのは素直に嬉しい。最近では女→男
の概念もずいぶんと薄まってきてはいるし。どっかのツインテールみたいに度が過ぎな
ければ可愛いもんだ。袋の中で一際異彩を放つ巨大で仰々しいラッピングが施された箱
は歪なオーラを放っている。いわく『1/8スケールKUROKOチョコレート(はーと)《ミ
ニマムラバー》』らしいが一体どうやって作ったのだろう。むげに断ると1/1《本人》
が贈られそうなので渋々受け取ったけれども。

「……それはなんかの嫌味ですか、御坂センセー」
「……珍しいじゃない、アンタから声を掛けてくるなんて」

 ぐたりとした声にドキリとして、美琴は反射的に右ポケットの中身を確かめる。顔を
あげれば見慣れた顔があった。心なしげっそりとした様子に見えるがそれも含めてデフ
ォルトの面だ。

「お前な、これ見よがしにそんな大量のチョコレート持ち運びやがって! あれか!?
それはモテない男に対する当てつけかゴルァ!」
「うっさいわねえ。そんなことで怒鳴らないでよみっともない。黒子に運んでもらおう
と思ったけど、あの子、仕事が入っちゃったのよ」

 日が日だ。どうせこの日を幸せに迎えられなった連中があちこちで悶着を起こしてい
るのだろう。そんなのに付き合わされる風紀委員《ジャッジメント》も気の毒だとは思
うが、テロだなんだと殺伐としたものに比べれば微笑ましいもんだ。出動間際の白井黒
子の様子では定例行事だと割り切っている感もある。

「つーか、なーに。もしかして、アンタその様子だと、一個も」
「だー! もーやっかましいわ! どうせ手元にゃ一個も残っちゃねーけども何か問題
があるかありますかぁ!」

 くぷぷぷ、と口元を押さえて嘲笑う美琴に上条は血涙を流さんばかりの勢いで叫ぶ。
「俺だってなあ、何人かからは頂いたのですことよありがたいことに。それがあれよあ
れよという間に……不幸だ」

 がくりと肩を落とす。こんな日でも、いやこんな日だからこそ上条の不幸体質は絶好
調に作用しているらしい。

「そりゃあお気の毒さまなことで。残念だけど分けてあげないわよ」
「へっ、それ全部食って太っちまいやがれってんだ。そしたらビリビリじゃなくてブク
ブクって呼んでや――」
 バチィッ、と電光が上条に迸るが合わせたようなタイミングで右手がそれを防ぐ。

「予告なしは心臓に悪いからやめろよ!」
「乙女に対して言っちゃいけないセリフの五本指にはノミネートされるから、体重に関
することだけはマジで気をつけなさいよね」

 なおもビリビリとそれ以外の何かを纏う美琴に上条はこくこくと無言で首を縦に振った。
美琴が電気を引っ込めると、ふう、と一息入れて、

「手伝うからどっちか貸せよ」
「え?」
「運ぶの疲れたからそんなとこに座ってたんだろ? 寮の中、は無理でも近くまでは行
くから、ほれ」

 と言って、ん、と上条は右手を差し伸べる。
 こいつは、と美琴はその右手をじっと見つめる。なんだかんだいって。相変わらず。
はあ。もうため息も馬鹿らしい。
 これが私に対してだけだったら素直に手を差し出すのに、と子どものような独占欲が
首をもたげるが、そうなってしまったらこいつをこいつたらしめているものがなくなっ
てしまうわけで。と美琴は一人、どうしようもないジレンマに陥る。
 よほどジト目で睨んでいたのだろう。

「な、なんだよ」
「言っとくけど……あげないわよ?」
「お前な、どういう目で俺を見てやがる? さすがにそこまで落ちてねーよ」
「あっそ」

 二つあるうちの一つを預けて、美琴は立ち上がった。右ポケットからは、手を出して。

「やー、超能力者《レベル5》ともなるとやっぱりこっちの数も段違いだな、おい」
「そうでしょうそうでしょう。でもアンタもなかなかのもんよ? ちゃんと数
字通り《0》じゃない」
「くのやらあ……」

 街中がどこか浮ついた空気に包まれているのは気のせいではあるまい。

「しっかし、大層な浮かれっぷりだよなあ、どこもかしこも」
「いいじゃない。思春期真っただ中なのよ、皆」
「お前は誰かにあげたりしねーのか、思春期真っただ中《中学二年生》?」
「い、」

 ぴくん、と。表情には出なかった自信はある。

「ないわねー。私のお眼鏡に適う男ともなると、そう簡単には見つからないもの」
「確かになあ。まずお前の電撃を防げる奴じゃねーとお話しにならんわな。全身ゴム人
間とか」
「あーそのマンガ知ってるわ、私」

 そういえばお前もマンガ好きだっけな、と上条はけたけたと笑う。そんな上条を美琴
はちろりと横目で伺った。薄い学生鞄と紙袋をさりげなく一つの手に持ち代えて、空い
た右手をスカートのポケットに入れる。そこには常備してある無機質な硬貨とは別の感
触がもう一つ。

「ま、お前にもそんな相手が出来ることを、上条さんはささやかながら祈っててやるよ。
と、この辺にしとくか」

 学生寮が見えてきた。上条はほいよ、と紙袋を差し出す。
 色々と。渡す物から方法からタイミングから考えた。この日に向けて。けれどもどれ
も決定打にはならず今日が来てしまった。もういいや、と諦めていた。しかし幸か不幸
か、きっかけは向こうからやってきた。ろくな準備は出来なかったけれど、どうせなら
コイツにとっての私らしく。
 食堂のパーティ菓子の中から朝、失敬してきたものを右手の中で確かめる。

「ちょろっと」

 あん? と上条が口を開けるのに合わせて、例のあれと同じ要領で親指を弾く。
 いくじなしの、精一杯の強がりを受けてみよと、勢いよく回転しながらその物体は進む。

「ぅぉわ!?」

 悲しいかな条件反射か、その不幸体質の賜物か。飛来する物体を阻もうと上条は手を
伸ばす。けれども手提げ袋と学生鞄を持っていたせいか今回は反応が
ちと遅い。電撃が伴っていないことも理由のひとつだろう。それは上条の伸ばされた手
の横を一直線に走った。
 かこん、と音がしたかどうかまでは上条本人ではないからわからない。けれど美琴は
その音を聴いた気がした。それは確かに上条の口の中へと吸い込まれていった。

「っ痛てーなコラ! 何すんだ……って、これ」

 涙目になりながら、上条はもごもごと口を動かす。

「……チョコ、か?」
「『超電磁砲ver五円チョコ《美琴センセーのお情け》』、ってやつかしらね」

 茫然気味の上条に、ばきゅんと。美琴はウィンクと同時に人差し指から弾丸を発射す
る。仮想の弾丸は上条の右手でも打ち消せない。けれど届いたとしても、たぶん意図は
伝わらないだろう。相手が相手だ。けれどまあ今年はこれでよしとすることにする。

「来年こそは、ね」

 まだ何が起きたかよくわかっていない上条には聞こえないようにくすりと笑って、美
琴は寮へと駆け出す。


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