12月23日。
年の瀬も近づき、にわかに慌ただしくなった学園都市のあちこちは綺麗な装飾やイルミネーションが施されている。
科学の最先端を行く学園都市でも、来るクリスマスは重大なイベントとして取り扱われるらしく、学生達はそわそわとしていた。
もちろん、3バカと呼ばれるデルタフォースの彼らもその例外ではなく、あわよくば女の子と良い感じにデートしたいなと思っていたりする。
現に、下校途中だというのにデカい声でどんなデートがベストだとか、お蔵入りするであろう情報を撒き散らしている。
1人を除いて。
「んー、カミやん?えらい元気ないで―?」
「最近、悩んでるみたいだったけど、どうしたんだにゃー?」
青髪ピアスと土御門。3バカの両翼は物憂げな上条にちょっかいを入れる。
大方、どの女の子とデートするか迷ってるんやろー、なんて青髪は言うが、上条にとってはそんな気分ですらない。
あの日から数日が過ぎた。
小萌先生と話をして、心の整理をつけたものの、イマイチ踏ん切りがつかない。
インデックスに対してどうするか、あと一歩を、踏み出すきっかけを掴めずにいた。
(本当に告白してしまっていいのか)
上条は悩む。インデックスに全てを打ち明けること。そうすれば確かに前には進めるだろう。
但し、『今までの上条当麻』を否定しかねない行動だ。自分の信念さえ……
上条はインデックスが自分に縛られることを懸念している。
自分がインデックスに縛られてしまっていることに目を背けて。
(どう、するかな)
「カミやん、悩みすぎはよくないでー?お肌に悪いわ―」
耳元で青髪が喋りかけて来たことで、上条はようやく我に帰る。
「あ、わりぃ。何の話だっけ?」
「まぁ、モテるカミやんが気にする話やないんやねー。っと、じゃぁ、みなさんさいなら!」
喋るだけ喋って、青髪は走り去って行った。上条と土御門はお隣さんであるが、青髪は別の寮だ。
「さて。カミやん、何をそんなに悩んでるんだ?」
さっきまでのふざけた空気を一掃して、土御門が聞いてくる。その目には至って真剣だ。
「別に、お前に言うような話じゃねーよ」
「まぁ、深くは聞かないがな。だが、カミやん。友人として、1つだけ言っておく」
土御門は真剣に、仕事の時のような声で続ける。
「やりたいことはやりたいうちに済ませてしまえ。言いたい事は言えるうちに言っとけ。学園都市の奴らならともかく、魔術師相手なら特にだ」
「お前―――」
土御門は目で上条を牽制する。黙って聞け、とでも言っているようだった。
「俺はここの学生だからまだしも、日本人のねーちんや五和だって会えなくなるかもだしな。禁書目録だって例外じゃねぇ」
「っ!!お前っ、気づい―――」
「土御門さん的にはカミやんには、超電磁砲がお似合いだとは思うけどにゃー」
土御門は上条の言葉を遮り、言いきる。その口調は元のふざけたものに戻っていた。
「土御門………テメェ」
「お、図星かにゃー?顔が真っ赤だぜい?それに肩もプルプル………カミやん!?」
上条は目の前でヘラヘラとしている土御門を見据え、右手を握りしめる。
「紛らわしい真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
アドバイスのお礼に、拳をくれてやった。
年の瀬も近づき、にわかに慌ただしくなった学園都市のあちこちは綺麗な装飾やイルミネーションが施されている。
科学の最先端を行く学園都市でも、来るクリスマスは重大なイベントとして取り扱われるらしく、学生達はそわそわとしていた。
もちろん、3バカと呼ばれるデルタフォースの彼らもその例外ではなく、あわよくば女の子と良い感じにデートしたいなと思っていたりする。
現に、下校途中だというのにデカい声でどんなデートがベストだとか、お蔵入りするであろう情報を撒き散らしている。
1人を除いて。
「んー、カミやん?えらい元気ないで―?」
「最近、悩んでるみたいだったけど、どうしたんだにゃー?」
青髪ピアスと土御門。3バカの両翼は物憂げな上条にちょっかいを入れる。
大方、どの女の子とデートするか迷ってるんやろー、なんて青髪は言うが、上条にとってはそんな気分ですらない。
あの日から数日が過ぎた。
小萌先生と話をして、心の整理をつけたものの、イマイチ踏ん切りがつかない。
インデックスに対してどうするか、あと一歩を、踏み出すきっかけを掴めずにいた。
(本当に告白してしまっていいのか)
上条は悩む。インデックスに全てを打ち明けること。そうすれば確かに前には進めるだろう。
但し、『今までの上条当麻』を否定しかねない行動だ。自分の信念さえ……
上条はインデックスが自分に縛られることを懸念している。
自分がインデックスに縛られてしまっていることに目を背けて。
(どう、するかな)
「カミやん、悩みすぎはよくないでー?お肌に悪いわ―」
耳元で青髪が喋りかけて来たことで、上条はようやく我に帰る。
「あ、わりぃ。何の話だっけ?」
「まぁ、モテるカミやんが気にする話やないんやねー。っと、じゃぁ、みなさんさいなら!」
喋るだけ喋って、青髪は走り去って行った。上条と土御門はお隣さんであるが、青髪は別の寮だ。
「さて。カミやん、何をそんなに悩んでるんだ?」
さっきまでのふざけた空気を一掃して、土御門が聞いてくる。その目には至って真剣だ。
「別に、お前に言うような話じゃねーよ」
「まぁ、深くは聞かないがな。だが、カミやん。友人として、1つだけ言っておく」
土御門は真剣に、仕事の時のような声で続ける。
「やりたいことはやりたいうちに済ませてしまえ。言いたい事は言えるうちに言っとけ。学園都市の奴らならともかく、魔術師相手なら特にだ」
「お前―――」
土御門は目で上条を牽制する。黙って聞け、とでも言っているようだった。
「俺はここの学生だからまだしも、日本人のねーちんや五和だって会えなくなるかもだしな。禁書目録だって例外じゃねぇ」
「っ!!お前っ、気づい―――」
「土御門さん的にはカミやんには、超電磁砲がお似合いだとは思うけどにゃー」
土御門は上条の言葉を遮り、言いきる。その口調は元のふざけたものに戻っていた。
「土御門………テメェ」
「お、図星かにゃー?顔が真っ赤だぜい?それに肩もプルプル………カミやん!?」
上条は目の前でヘラヘラとしている土御門を見据え、右手を握りしめる。
「紛らわしい真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
アドバイスのお礼に、拳をくれてやった。
「結局何だったんだよ、土御門の奴……」
土御門を殴り飛ばした後、1人で走って帰って来た。もう直に寮に着く。土御門が追ってくる気配はない。
さっきの『記憶喪失』を知っているかのような発言に、上条は一瞬ヒヤリとした。
(でも、アイツなら知ってたかもしれねぇな)
知っていて、上条にアドバイスをした上で、茶化したのかもしれない。上条に気負わせないために。
今頃、『全くカミやんは世話がやけるぜい』なんて言ってるかもしれない。
上条は土御門を殴り飛ばした右手を見る。後悔は……していない。
「さて………」
(勝負、だな)
上条は目の前の建物を見る。上条の住む学生寮。その一室には、銀髪のシスターがいるだろう。
上条は汗ばむ右手を握りしめる。
(やってやろうじゃねぇか)
下唇を噛み、自らの部屋に向かう。意を、決する。幻想を未来に繋げるために。
(ウダウダと悩むのはもう止めだ)
決意と共に扉を開く。
「ただいま」
「おかえり、とうま」
上条が部屋に入ると、インデックスは部屋を掃除していた。
先日始まった彼女の変貌は、インデックスを恐ろしいまでに働きものにさせた。
掃除機は流石に使いこなせていないものの――『歩く教会が吸い込まれそうになったんだよー』とか大騒ぎになった――粘着テープによるコロコロするアレで掃除をしている。
偶に、重要なプリントやら宿題の上までコロコロしてくれるので大変なことにもなったりするのだが、同居人の働きぶりは上条には嬉しい限りであった。
「とうま?」
掃除する自分を見ながら固まっている上条に、インデックスは首を傾げる。
「あ、いや、コロコロするシスターさんってのも新鮮だなーなんて思いまして」
「とうま。そこはかとなく馬鹿にしてるね?」
ぷぅ、っと頬を膨らます。可愛いなんて思ってない、多分。
「ねぇ、とうま。今日はなんだか元気だね?」
「そうか?いつもと変わんねぇつもりなんだが…」
上条はポリポリと頭を掻く。むしろ、
(いつも通り悩んでんだけど)
「なんか、最近ずっと悩み事してるみたいだったのに。今日はスッキリとしてる気がするんだよ。何かあった?」
「べ、別に……何もねぇよ」
上条は学ランを脱ぐとハンガーにかける。
スッキリとした。そうかもしれない。悩みぬいて出た答えは―――
「インデックス」
背を向けたまま、インデックスに呼び掛ける。どうしたの、という顔をしているだろう。
「話があるんだ……聞いてくれ」
振り返る。インデックスの表情が、予想した通りのものから変わっていく。
まるで『待っていた』と言わんばかりの顔に。
「インデックス、単刀直入に言う!俺は今まで、お前に隠してたことがある!」
「……とうま、私はシスターさんなんだよ?懺悔を聞くのも仕事の一つなんだから、なめないで欲しいかも」
えっへんとない胸をはるシスターに、上条は苦笑する。ここまで来て、決意が揺らぐ。
(こんなんに懺悔していいんかよ)
こっちは真剣だってのに、と目の前のお気楽シスターに、上条は思わず頭を抱えそうになる
「とうま。いつでもおーけーなんだよ」
「インデックス、俺は、記憶喪失なんだ」
言った。言ってしまった。
(もう後には引けねぇぞ)
上条は真っ直ぐとインデックスを見る。驚いた顔をしているか、絶望の顔をしているか。インデックスは―――
笑っていた。慈悲深い、まさに懺悔を聞くシスターのような顔で。
「イン……デックス?」
予想外だった。完全に、予想外だった。上条は呆気にとられる。言葉が、出てこない。
「やっと、やっと言ってくれたね。とうま」
インデックスはその慈悲深い顔をそのままに呟く。
(なんて言ったんですか?)
上条は混乱する。
(やっと言ってくれた?)
まるで、まるで、全てを知っていたかのような。それでいて、上条の告白を待っていたかのような。そんな言葉。
「インデックス……まさか、お前…」
上条は回らない頭を必死に働かせる。目は丸くしたまま、インデックスに問う。
知っていたのか、と。
「うん。ごめんね、黙ってて。でも、とうまの問題だから。とうまが自分で言い出すまで待ってようって」
インデックスは申し訳なさそうに、細い眉をハの字にして続ける。
「とうまが悩んでる事も、苦しんでる事も分かってたけど。私から言ったら、とうまが潰れちゃいそうだったから……」
その目に涙がじわじわと浮び、零れる。一粒の涙が、インデックスの頬から落ち、床を濡らした。
土御門を殴り飛ばした後、1人で走って帰って来た。もう直に寮に着く。土御門が追ってくる気配はない。
さっきの『記憶喪失』を知っているかのような発言に、上条は一瞬ヒヤリとした。
(でも、アイツなら知ってたかもしれねぇな)
知っていて、上条にアドバイスをした上で、茶化したのかもしれない。上条に気負わせないために。
今頃、『全くカミやんは世話がやけるぜい』なんて言ってるかもしれない。
上条は土御門を殴り飛ばした右手を見る。後悔は……していない。
「さて………」
(勝負、だな)
上条は目の前の建物を見る。上条の住む学生寮。その一室には、銀髪のシスターがいるだろう。
上条は汗ばむ右手を握りしめる。
(やってやろうじゃねぇか)
下唇を噛み、自らの部屋に向かう。意を、決する。幻想を未来に繋げるために。
(ウダウダと悩むのはもう止めだ)
決意と共に扉を開く。
「ただいま」
「おかえり、とうま」
上条が部屋に入ると、インデックスは部屋を掃除していた。
先日始まった彼女の変貌は、インデックスを恐ろしいまでに働きものにさせた。
掃除機は流石に使いこなせていないものの――『歩く教会が吸い込まれそうになったんだよー』とか大騒ぎになった――粘着テープによるコロコロするアレで掃除をしている。
偶に、重要なプリントやら宿題の上までコロコロしてくれるので大変なことにもなったりするのだが、同居人の働きぶりは上条には嬉しい限りであった。
「とうま?」
掃除する自分を見ながら固まっている上条に、インデックスは首を傾げる。
「あ、いや、コロコロするシスターさんってのも新鮮だなーなんて思いまして」
「とうま。そこはかとなく馬鹿にしてるね?」
ぷぅ、っと頬を膨らます。可愛いなんて思ってない、多分。
「ねぇ、とうま。今日はなんだか元気だね?」
「そうか?いつもと変わんねぇつもりなんだが…」
上条はポリポリと頭を掻く。むしろ、
(いつも通り悩んでんだけど)
「なんか、最近ずっと悩み事してるみたいだったのに。今日はスッキリとしてる気がするんだよ。何かあった?」
「べ、別に……何もねぇよ」
上条は学ランを脱ぐとハンガーにかける。
スッキリとした。そうかもしれない。悩みぬいて出た答えは―――
「インデックス」
背を向けたまま、インデックスに呼び掛ける。どうしたの、という顔をしているだろう。
「話があるんだ……聞いてくれ」
振り返る。インデックスの表情が、予想した通りのものから変わっていく。
まるで『待っていた』と言わんばかりの顔に。
「インデックス、単刀直入に言う!俺は今まで、お前に隠してたことがある!」
「……とうま、私はシスターさんなんだよ?懺悔を聞くのも仕事の一つなんだから、なめないで欲しいかも」
えっへんとない胸をはるシスターに、上条は苦笑する。ここまで来て、決意が揺らぐ。
(こんなんに懺悔していいんかよ)
こっちは真剣だってのに、と目の前のお気楽シスターに、上条は思わず頭を抱えそうになる
「とうま。いつでもおーけーなんだよ」
「インデックス、俺は、記憶喪失なんだ」
言った。言ってしまった。
(もう後には引けねぇぞ)
上条は真っ直ぐとインデックスを見る。驚いた顔をしているか、絶望の顔をしているか。インデックスは―――
笑っていた。慈悲深い、まさに懺悔を聞くシスターのような顔で。
「イン……デックス?」
予想外だった。完全に、予想外だった。上条は呆気にとられる。言葉が、出てこない。
「やっと、やっと言ってくれたね。とうま」
インデックスはその慈悲深い顔をそのままに呟く。
(なんて言ったんですか?)
上条は混乱する。
(やっと言ってくれた?)
まるで、まるで、全てを知っていたかのような。それでいて、上条の告白を待っていたかのような。そんな言葉。
「インデックス……まさか、お前…」
上条は回らない頭を必死に働かせる。目は丸くしたまま、インデックスに問う。
知っていたのか、と。
「うん。ごめんね、黙ってて。でも、とうまの問題だから。とうまが自分で言い出すまで待ってようって」
インデックスは申し訳なさそうに、細い眉をハの字にして続ける。
「とうまが悩んでる事も、苦しんでる事も分かってたけど。私から言ったら、とうまが潰れちゃいそうだったから……」
その目に涙がじわじわと浮び、零れる。一粒の涙が、インデックスの頬から落ち、床を濡らした。
「ど、どうして……」
(どうして、バレたんだ)
上条は固まったまま動けなかった。いつ、なぜ、どこで……上条の脳内で記憶がぐるぐると回る。気を張っていないと、意識が飛びそうだった。
「『右方のフィアンマ』『自動書記の遠隔制御霊装』……ここまで言えば、とうまでも分かるよね」
「フィアンマ………あの時、か」
上条は『右方のフィアンマ』の言葉を思い出す。
「そう。それまでは全然気付かなかった。ううん、時々とうまが何かに悩んでたり、うなされてるのは聞いてたから、何だろうとは思ってたんだけど」
「はははっ、なんだよ。これじゃぁ、俺は何だったんだよ……今まで、何をしてたんだよ」
笑うしかねぇや、と上条は呟く。無力感のみが、身体を支配する。
「とうま。私はね、嬉しかったよ。とうまが私の事を考えてくれてたんだ、って」
「…………」
「何か隠し事をしてるな―、って、とうまの事だから聞いても教えてくれないだろうし、下らないことで悩んでるんだろーとか思ってたけど」
「…………」
「でも……『首輪』の制御下とは言え、私の攻撃で……とうまは」
「……インデックス!!」
上条はインデックスの両肩に手を置く。
「それ以上言うんじゃねぇ!!確かに俺の記憶喪失は『竜王の殺息』が原因かもしれねぇっ!」
「………とうま?」
「だからって、お前が気にする事じゃねぇ!俺は俺の自己責任であんな風に行動した!」
「でも、それでもっっ」
インデックスが首を横に振る。上条の性格上、そういうとは思っていた。それでも、納得できない。
「でも、ってなんだ!お互い様だろ!俺はお前に迷惑をかけてる。心配もかけちまってる」
「……………」
「お前が責任取るってんなら、俺から頼むのは1つだけだ。今まで通りに、友達、いいや、家族みたいに接してくれ!」
「そんな、とうまがそれでよくても、私は嫌なんだよ!納得できないもん」
インデックスは納得できない。まるで駄々をこねる子供のように、上条の言葉を否定する。
「うるせぇっ!俺は、お前との関係がそんな責任とか慰謝料みてぇな関係になっちまうのが嫌だって言ってんだ!そんなんじゃねぇだろっ、俺達の関係は……どうなんだ、インデックス?」
「…………私も、とうまとは家族でいたいよ?もっと仲良くなりたいんだよ?」
「そうだろインデックス!だったら、家族みてぇに、俺の同居人として支えてほしい……俺は、それでいいと思う」
上条は全てを出し切る。心の内の全てを。
「……わかったよ、とうま。私も……もっと色々と出来るようにならないとだね。とうまのお手伝いも」
そう言って、インデックスは掃除用コロコロを掲げて微笑む。
「インデックス……わりぃな。俺の価値観を押しつけちまって…」
「なんでとうまが謝っちゃうのかな?ここは私が謝るところだと思うんだけど」
インデックスは上条の手を取り、真っ直ぐと見つめる。
「私にとっては、例えどんな風になっても、とうまはとうまなんだよ」
「インデックス………1ついいか?」
上条もインデックスの碧い瞳を真っ直ぐと見つめる。
「この事は……記憶喪失の事は………他には言うな。心配させたくねぇし、記憶が無くとも、俺は俺だ」
「やっぱり、とうまはいつまでたってもとうまのままなんだね」
インデックスは小さく溜息をつくと、頬を緩める。
「わかったんだよ。でも、あんまり悩んじゃダメなんだよ。一人で何でもやっちゃうのはとうまの良いところだけど、待ってる方は心配なんだよ」
(美琴にも同じこと言われたな)
自分の行動による責任は自分で背負う。上条の信念であり、悪い癖でもある。
(これからは、もっと臨機応変に、かな)
上条は頬を緩めて思う。このインデックスへの告白は、過去の自分を殺すことになったかもしれないけど。
(1つ成長……前に進めたってトコか)
目の前にいる同居人のシスターの小さな手を握り返す。
「ああ。困った時は相談、だな」
「うん」
2人は手を取り合って微笑む。お互いに心の内をさらけ出し、神の前で懺悔するかのように。
(どうして、バレたんだ)
上条は固まったまま動けなかった。いつ、なぜ、どこで……上条の脳内で記憶がぐるぐると回る。気を張っていないと、意識が飛びそうだった。
「『右方のフィアンマ』『自動書記の遠隔制御霊装』……ここまで言えば、とうまでも分かるよね」
「フィアンマ………あの時、か」
上条は『右方のフィアンマ』の言葉を思い出す。
「そう。それまでは全然気付かなかった。ううん、時々とうまが何かに悩んでたり、うなされてるのは聞いてたから、何だろうとは思ってたんだけど」
「はははっ、なんだよ。これじゃぁ、俺は何だったんだよ……今まで、何をしてたんだよ」
笑うしかねぇや、と上条は呟く。無力感のみが、身体を支配する。
「とうま。私はね、嬉しかったよ。とうまが私の事を考えてくれてたんだ、って」
「…………」
「何か隠し事をしてるな―、って、とうまの事だから聞いても教えてくれないだろうし、下らないことで悩んでるんだろーとか思ってたけど」
「…………」
「でも……『首輪』の制御下とは言え、私の攻撃で……とうまは」
「……インデックス!!」
上条はインデックスの両肩に手を置く。
「それ以上言うんじゃねぇ!!確かに俺の記憶喪失は『竜王の殺息』が原因かもしれねぇっ!」
「………とうま?」
「だからって、お前が気にする事じゃねぇ!俺は俺の自己責任であんな風に行動した!」
「でも、それでもっっ」
インデックスが首を横に振る。上条の性格上、そういうとは思っていた。それでも、納得できない。
「でも、ってなんだ!お互い様だろ!俺はお前に迷惑をかけてる。心配もかけちまってる」
「……………」
「お前が責任取るってんなら、俺から頼むのは1つだけだ。今まで通りに、友達、いいや、家族みたいに接してくれ!」
「そんな、とうまがそれでよくても、私は嫌なんだよ!納得できないもん」
インデックスは納得できない。まるで駄々をこねる子供のように、上条の言葉を否定する。
「うるせぇっ!俺は、お前との関係がそんな責任とか慰謝料みてぇな関係になっちまうのが嫌だって言ってんだ!そんなんじゃねぇだろっ、俺達の関係は……どうなんだ、インデックス?」
「…………私も、とうまとは家族でいたいよ?もっと仲良くなりたいんだよ?」
「そうだろインデックス!だったら、家族みてぇに、俺の同居人として支えてほしい……俺は、それでいいと思う」
上条は全てを出し切る。心の内の全てを。
「……わかったよ、とうま。私も……もっと色々と出来るようにならないとだね。とうまのお手伝いも」
そう言って、インデックスは掃除用コロコロを掲げて微笑む。
「インデックス……わりぃな。俺の価値観を押しつけちまって…」
「なんでとうまが謝っちゃうのかな?ここは私が謝るところだと思うんだけど」
インデックスは上条の手を取り、真っ直ぐと見つめる。
「私にとっては、例えどんな風になっても、とうまはとうまなんだよ」
「インデックス………1ついいか?」
上条もインデックスの碧い瞳を真っ直ぐと見つめる。
「この事は……記憶喪失の事は………他には言うな。心配させたくねぇし、記憶が無くとも、俺は俺だ」
「やっぱり、とうまはいつまでたってもとうまのままなんだね」
インデックスは小さく溜息をつくと、頬を緩める。
「わかったんだよ。でも、あんまり悩んじゃダメなんだよ。一人で何でもやっちゃうのはとうまの良いところだけど、待ってる方は心配なんだよ」
(美琴にも同じこと言われたな)
自分の行動による責任は自分で背負う。上条の信念であり、悪い癖でもある。
(これからは、もっと臨機応変に、かな)
上条は頬を緩めて思う。このインデックスへの告白は、過去の自分を殺すことになったかもしれないけど。
(1つ成長……前に進めたってトコか)
目の前にいる同居人のシスターの小さな手を握り返す。
「ああ。困った時は相談、だな」
「うん」
2人は手を取り合って微笑む。お互いに心の内をさらけ出し、神の前で懺悔するかのように。
「あー、緊張した」
上条は仰向けに倒れると大きく息を吐いた。
「とうま、大丈夫?」
インデックスは上条の横まで歩いてくると、そこに腰を下ろす。
「いやいや、インデックスさん。上条さんは悩みすぎで死ぬかと思いましたよ」
悔いはないぜ、と言い残し、ワザとらしく力を抜く。
上条の部屋に静寂が広がっていく。
暗い後ろ向きな静寂ではなく、心地よい春の陽だまりのような静寂。
実際、上条はうとうととしていた。悩みが解消されてホッとしたし、今までその悩みのせいでまともに眠れていなかった。
その疲れが一気に出たのか、わずか数分だというのに睡魔に襲われる。
「ねぇ、とうま」
そんな眠たい静寂を、インデックスの小さな声が破る。
「私も1つ、とうまに言いたいことがあるんだよ」
インデックスは上条の顔を見ないまま呟く。
「おっ、なんでせうかインデックスさん?上条さんで良ければ、お聞きしましょう」
上条は腹筋を使って起き上がると、胡坐を組んでインデックスに向き直る。
それでも、インデックスは上条の方を見ない。
心なしか、顔が赤い気もする。
「インデックスはね………」
「ほうほうっ」
上条がインデックスの方に身を乗り出すと、彼女は身を固くし、目を閉じた。
「インデックスはね、とうまのことが大好きなんだよ」
「なるほどー。いやー、上条さんは照れてしまいますよっ!?」
あはははは、という形で上条の口が止まる。目の前のインデックスが真剣な顔をしているから。
「これでも私は女の子なんであって、そんな風に流されてしまうと悲しいかも」
「あれ、もしかして………マジですか?」
こく、っと、インデックスは首を縦に振る。
『とうまのことが大好きなんだよ』
上条の脳内で、インデックスの言葉が繰り返される。
(ど、どうするよ?)
上条は自分の心に問いかける。今までインデックスを可愛いと思ったことは確かにあるし、好かれているような気もしていた。
だけど、それは…………恋人とかそういうのではなく、兄弟というか、家族という括りでだ。
「………い、い、いいいいんでっくす?」
「とうまは、私のこと、きらい?」
真剣な眼で真っ直ぐと見つめてくるインデックスに、上条は罪悪感に苛まされる。
(き、き嫌いなわけじゃねぇっ、けど、そうじゃなくて)
あくまで『家族』としてだ、そうなんだ、と上条は自分に言い聞かせる。
(俺が、俺が好きなのは、年上の管理……っ!?)
上条の脳裏に浮かんだのは――御坂美琴
(そうか、そうなのか……このもやもやは)
混乱した上条の頭の中では小さなインデックスと小さな美琴が団体戦を繰り広げている。
あっちでは美琴がびりびりと。こっちでインデックスががぶがぶと。
「お、おおおおお俺はっ―――」
「なんてね。冗談なんだよ?」
「はい?」
「仕返し。覚えてない?とうまは『なんつー顔してんだよ!お前は』って言ったんだよ」
にまーっと、インデックスが笑う。初めて入院した時のことだよ、と付け足しながら。
「えーっと、インデックスさん?冗談だったんでせうか?」
「とうまは私の家族だもの。それに、とうまはみことの事が好きなんだよね?」
インデックスはにっこりと笑う。上条は、全てを見透かされているような気がした。
「もう答えたの?」
「なんで知ってるんですか?」
「あ、やっぱり告白されたんだね」
とうまから言いそうにはないと思ってたんだよ、とインデックスは続ける。
(は、はめられたっ!?)
まさかインデックスにやられるとは、と上条は悔しがる。彼はこの手の話となると非常に弱いのである。
「まだ、答えてはねぇよ。お前との問題が片付くまでは待ってくれって言ってさ」
上条は全てを白状する。さっき、相談すると誓ったところだ。
「じゃぁ、今からみことのところに行ってくるんだよ」
「はぁ?今から?」
インデックスはその場に立つと、胡坐をかいている上条の手を取り無理矢理に立たせる。
「思い立ったら吉日っていうんだよー」
そういうとシスターさんは文字通り上条の背を押し、玄関に導く。
「おいおい、インデックス?」
「いいから行くんだよ。みことをいつまでも待たせてたら可哀想なんだよ」
玄関まで連れてこられ、上条はバッシュを履く。決意はまだ固まりきっていないが……ここまでされては、やるしかない。
「インデックス、ごめんな」
「こういうときは、ありがとうっていうもんだと思うけど」
インデックスは頑張ってきてねと言って手を振る。上条は大きく頷くと、扉を開く。
「行ってくる。ありがとうな、インデックス」
ばたん、と扉が閉まり、廊下を駆けていく上条の足音が響く。
「これで、良かったんだよね」
インデックスは柔らかく微笑んだ。我慢し続けた涙を浮かべながら。
上条は仰向けに倒れると大きく息を吐いた。
「とうま、大丈夫?」
インデックスは上条の横まで歩いてくると、そこに腰を下ろす。
「いやいや、インデックスさん。上条さんは悩みすぎで死ぬかと思いましたよ」
悔いはないぜ、と言い残し、ワザとらしく力を抜く。
上条の部屋に静寂が広がっていく。
暗い後ろ向きな静寂ではなく、心地よい春の陽だまりのような静寂。
実際、上条はうとうととしていた。悩みが解消されてホッとしたし、今までその悩みのせいでまともに眠れていなかった。
その疲れが一気に出たのか、わずか数分だというのに睡魔に襲われる。
「ねぇ、とうま」
そんな眠たい静寂を、インデックスの小さな声が破る。
「私も1つ、とうまに言いたいことがあるんだよ」
インデックスは上条の顔を見ないまま呟く。
「おっ、なんでせうかインデックスさん?上条さんで良ければ、お聞きしましょう」
上条は腹筋を使って起き上がると、胡坐を組んでインデックスに向き直る。
それでも、インデックスは上条の方を見ない。
心なしか、顔が赤い気もする。
「インデックスはね………」
「ほうほうっ」
上条がインデックスの方に身を乗り出すと、彼女は身を固くし、目を閉じた。
「インデックスはね、とうまのことが大好きなんだよ」
「なるほどー。いやー、上条さんは照れてしまいますよっ!?」
あはははは、という形で上条の口が止まる。目の前のインデックスが真剣な顔をしているから。
「これでも私は女の子なんであって、そんな風に流されてしまうと悲しいかも」
「あれ、もしかして………マジですか?」
こく、っと、インデックスは首を縦に振る。
『とうまのことが大好きなんだよ』
上条の脳内で、インデックスの言葉が繰り返される。
(ど、どうするよ?)
上条は自分の心に問いかける。今までインデックスを可愛いと思ったことは確かにあるし、好かれているような気もしていた。
だけど、それは…………恋人とかそういうのではなく、兄弟というか、家族という括りでだ。
「………い、い、いいいいんでっくす?」
「とうまは、私のこと、きらい?」
真剣な眼で真っ直ぐと見つめてくるインデックスに、上条は罪悪感に苛まされる。
(き、き嫌いなわけじゃねぇっ、けど、そうじゃなくて)
あくまで『家族』としてだ、そうなんだ、と上条は自分に言い聞かせる。
(俺が、俺が好きなのは、年上の管理……っ!?)
上条の脳裏に浮かんだのは――御坂美琴
(そうか、そうなのか……このもやもやは)
混乱した上条の頭の中では小さなインデックスと小さな美琴が団体戦を繰り広げている。
あっちでは美琴がびりびりと。こっちでインデックスががぶがぶと。
「お、おおおおお俺はっ―――」
「なんてね。冗談なんだよ?」
「はい?」
「仕返し。覚えてない?とうまは『なんつー顔してんだよ!お前は』って言ったんだよ」
にまーっと、インデックスが笑う。初めて入院した時のことだよ、と付け足しながら。
「えーっと、インデックスさん?冗談だったんでせうか?」
「とうまは私の家族だもの。それに、とうまはみことの事が好きなんだよね?」
インデックスはにっこりと笑う。上条は、全てを見透かされているような気がした。
「もう答えたの?」
「なんで知ってるんですか?」
「あ、やっぱり告白されたんだね」
とうまから言いそうにはないと思ってたんだよ、とインデックスは続ける。
(は、はめられたっ!?)
まさかインデックスにやられるとは、と上条は悔しがる。彼はこの手の話となると非常に弱いのである。
「まだ、答えてはねぇよ。お前との問題が片付くまでは待ってくれって言ってさ」
上条は全てを白状する。さっき、相談すると誓ったところだ。
「じゃぁ、今からみことのところに行ってくるんだよ」
「はぁ?今から?」
インデックスはその場に立つと、胡坐をかいている上条の手を取り無理矢理に立たせる。
「思い立ったら吉日っていうんだよー」
そういうとシスターさんは文字通り上条の背を押し、玄関に導く。
「おいおい、インデックス?」
「いいから行くんだよ。みことをいつまでも待たせてたら可哀想なんだよ」
玄関まで連れてこられ、上条はバッシュを履く。決意はまだ固まりきっていないが……ここまでされては、やるしかない。
「インデックス、ごめんな」
「こういうときは、ありがとうっていうもんだと思うけど」
インデックスは頑張ってきてねと言って手を振る。上条は大きく頷くと、扉を開く。
「行ってくる。ありがとうな、インデックス」
ばたん、と扉が閉まり、廊下を駆けていく上条の足音が響く。
「これで、良かったんだよね」
インデックスは柔らかく微笑んだ。我慢し続けた涙を浮かべながら。
勢いよく飛び出してきたものの、上条はこれからどう動くか困っていた。
美琴に会う、という目的はあるものの、どうやって会うか。
第一、手元に何もない。携帯もなければ小銭もないので公衆電話も使えない。
颯爽と飛び出してきたので、今さら部屋に戻って充電器の上の携帯を確保するのもなんだか間抜けだ。
常盤台の寮に乗り込む、っていうのも1つの手ではあるが、この時間だ。恐ろしいと聞く寮監に遭遇すればどうなるか……
「ど、どうするっ!?」
上条はとりあえず、常盤台の寮に向けて走りながら考える。いい案は浮かんでこない。
案1、出直す。
(論外だ。どのツラ下げてインデックスに『出直します』なんて言うんだよ)
案2、誰かに電話を借りる。
(土御門……いや、無理。小萌先生………この時間は酔ってそうだ)
案3、ジャッジメント経由で、白井にお願いする。
(1番現実的ではあるが、自殺行為だ)
上条は立ち止まって頭を抱える。
(ふ、不幸だ)
溜息といっしょに禍々しい何かが飛び出してきそうな気分だ。
周りを見回すと、例の自販機前まで来ていた。
「な、なんか急に喉渇いてきやがった」
上条はズボンのポケットに手をやる。もちろん、財布は入っていない。
「しまった………って、あれ?」
一瞬、回し蹴りを入れてみるかと思ってしまった自分を恥じながら、自販機の隣を見る。
誰かがベンチに座っている。常盤台の制服に、肩まである茶色い髪。ジュースの缶を見つめて、ぼーっとしている。
「みっ、美琴っ!?」
(なんたる偶然!)
上条は嬉々とした表情で駆け寄る。美琴の隣に何か置いてある。なにか……ゴーグルのような。
「またお姉様と間違えましたか、とミサカは覚えの悪いあなたを睨みます」
「なんだ、御坂妹か」
一旦持ち上げてから落としてくれる意地悪な神様を呪いつつ、上条はベンチに腰掛ける。
「なんだとは失礼ではないですか、とミサカは訂正を求めます」
無表情で訴えかけてくる御坂妹に素直に頭を下げる。すいません、と。
「で、御坂妹はこんなところで何してんの?」
「お姉様に教えていただきました事の実践を、とミサカは指差しながら言います」
ぎぎぎ、と上条は御坂妹の指差す先を見る。そこにあるのは赤い自販機。
「あー、御坂妹。教えて貰ったというのは………」
「この自動販売機に回し蹴りをするとジュースが出てくるというものです、とミサカは本当に出てきた事に驚きながら報告します」
御坂妹は自慢げに手元のジュースを見せる。心なしか口元もニヤついている。
「あんまりそういう事やるなよ」
上条は溜息をつきながら、美琴を思い出す。
(妹に何教えてんだよ)
「あなたも試そうと思ったのではないですか、とミサカは邪推します」
「いやいやいや、一瞬思ったことは否定しませんけどね。紳士上条さんはそんな事しませんっ」
上条はぶんぶんと首を振る。やろうとなんか、してない。
「喉が渇いたと言っていましたが、買われないのですか、とミサカは首を傾げます」
「それが財布も携帯も忘れちまってな」
御坂妹は、そうですか、と呟くと手に持ったヤシの実サイダーを差し出す。
「お飲みになりますか、とミサカは間接キスに期待しながら差し出します」
「ちょ、お前!そんな言葉何処で聞いてきたっ!?」
そういう事をあまり気にしない上条でも、目の前で先に言われてしまうと急に気になってしまう。
「紳士上条さんはそんなことしません!」
「お姉様のときは喜んで飲んでいましたのに、とミサカは借り物競走を思い出しつつ舌打ちします」
ちっ、と本当に舌打ちをして御坂妹はヤシの実サイダーを飲み干す。
「借り物競走………あ、あんときか」
上条は思い出した。大覇星祭のときに美琴から飲み物を貰ったような気がする。
御坂妹は白い目でこっちを見ると口元をにやっと緩める。
「紳士の意味を調べ直すことを勧めます、とミサカは皮肉ります」
上条はぷるぷると震えながら俯く。
「ふ、不幸だ……」
美琴に会う、という目的はあるものの、どうやって会うか。
第一、手元に何もない。携帯もなければ小銭もないので公衆電話も使えない。
颯爽と飛び出してきたので、今さら部屋に戻って充電器の上の携帯を確保するのもなんだか間抜けだ。
常盤台の寮に乗り込む、っていうのも1つの手ではあるが、この時間だ。恐ろしいと聞く寮監に遭遇すればどうなるか……
「ど、どうするっ!?」
上条はとりあえず、常盤台の寮に向けて走りながら考える。いい案は浮かんでこない。
案1、出直す。
(論外だ。どのツラ下げてインデックスに『出直します』なんて言うんだよ)
案2、誰かに電話を借りる。
(土御門……いや、無理。小萌先生………この時間は酔ってそうだ)
案3、ジャッジメント経由で、白井にお願いする。
(1番現実的ではあるが、自殺行為だ)
上条は立ち止まって頭を抱える。
(ふ、不幸だ)
溜息といっしょに禍々しい何かが飛び出してきそうな気分だ。
周りを見回すと、例の自販機前まで来ていた。
「な、なんか急に喉渇いてきやがった」
上条はズボンのポケットに手をやる。もちろん、財布は入っていない。
「しまった………って、あれ?」
一瞬、回し蹴りを入れてみるかと思ってしまった自分を恥じながら、自販機の隣を見る。
誰かがベンチに座っている。常盤台の制服に、肩まである茶色い髪。ジュースの缶を見つめて、ぼーっとしている。
「みっ、美琴っ!?」
(なんたる偶然!)
上条は嬉々とした表情で駆け寄る。美琴の隣に何か置いてある。なにか……ゴーグルのような。
「またお姉様と間違えましたか、とミサカは覚えの悪いあなたを睨みます」
「なんだ、御坂妹か」
一旦持ち上げてから落としてくれる意地悪な神様を呪いつつ、上条はベンチに腰掛ける。
「なんだとは失礼ではないですか、とミサカは訂正を求めます」
無表情で訴えかけてくる御坂妹に素直に頭を下げる。すいません、と。
「で、御坂妹はこんなところで何してんの?」
「お姉様に教えていただきました事の実践を、とミサカは指差しながら言います」
ぎぎぎ、と上条は御坂妹の指差す先を見る。そこにあるのは赤い自販機。
「あー、御坂妹。教えて貰ったというのは………」
「この自動販売機に回し蹴りをするとジュースが出てくるというものです、とミサカは本当に出てきた事に驚きながら報告します」
御坂妹は自慢げに手元のジュースを見せる。心なしか口元もニヤついている。
「あんまりそういう事やるなよ」
上条は溜息をつきながら、美琴を思い出す。
(妹に何教えてんだよ)
「あなたも試そうと思ったのではないですか、とミサカは邪推します」
「いやいやいや、一瞬思ったことは否定しませんけどね。紳士上条さんはそんな事しませんっ」
上条はぶんぶんと首を振る。やろうとなんか、してない。
「喉が渇いたと言っていましたが、買われないのですか、とミサカは首を傾げます」
「それが財布も携帯も忘れちまってな」
御坂妹は、そうですか、と呟くと手に持ったヤシの実サイダーを差し出す。
「お飲みになりますか、とミサカは間接キスに期待しながら差し出します」
「ちょ、お前!そんな言葉何処で聞いてきたっ!?」
そういう事をあまり気にしない上条でも、目の前で先に言われてしまうと急に気になってしまう。
「紳士上条さんはそんなことしません!」
「お姉様のときは喜んで飲んでいましたのに、とミサカは借り物競走を思い出しつつ舌打ちします」
ちっ、と本当に舌打ちをして御坂妹はヤシの実サイダーを飲み干す。
「借り物競走………あ、あんときか」
上条は思い出した。大覇星祭のときに美琴から飲み物を貰ったような気がする。
御坂妹は白い目でこっちを見ると口元をにやっと緩める。
「紳士の意味を調べ直すことを勧めます、とミサカは皮肉ります」
上条はぷるぷると震えながら俯く。
「ふ、不幸だ……」
「1つお聞きしてもいいですか、とミサカはあなたに確認をとります」
「なんでせうか?上条さんは心が折れそうですよ」
負のオーラを出しまくる上条に気負うことなく、御坂妹は続ける。
「いつからお姉様をファーストネームで呼ぶことになったのですか、とミサカは疑問を投げかけます」
「つい最近。美琴に用があって飛び出してきたんだけど、連絡出来なくて困ってたんだよ」
答えはするものの、心ここにあらずの上条。口からは『不幸だ』が何回も出ている。
「なるほど。お姉様を呼びだせばいいのですね、とミサカは自前の携帯をプッシュします」
「っ!!お、連絡してくれんのか」
上条は自分を見捨てなかった神様に感謝しつつ、電話する御坂妹に手を合わせる。
「もしもし、お姉様ですか?」
『な、なによ。アンタから連絡が来るなんて珍しいじゃない?』
電話の向こうから美琴の声が聞こえる。
「お姉様も素直になられたようですね、とミサカは安堵します」
『はぁ?何の話よ』
「お姉様。例の自販機前まで来てください」
『ちょ、どうい』
Pi
御坂妹は一方的に電話を切る。恐らく、美琴は怪訝な顔で切れた電話を見ているだろう。
「いやー、助かったぜ、御坂妹。さんきゅーな」
「お姉様が素直になられたのでしたら、ミサカも素直になりましょう、とミサカは決意します」
御坂妹はベンチから立ちあがる。
「あなたの事が好きです、とミサカは叶わぬ恋と自覚しながら気持ちを伝えます」
(今日はなんて日だ)
上条は目の前の少女を見る。感情の薄い無表情な少女、だと思っていた。
しかし、その少女の顔には明らかに感情が見て取れる。
「…………ごめん」
上条は俯く。真っ直ぐと見てくる御坂妹に目線を合わせられない。
「何故謝るのですか………、とミサカは……あなたにっ…問いかけます」
様子のおかしい御坂妹に驚き、上条が顔を上げると御坂妹は涙を流していた。
「これ……が悲しいという………気持ちなのですね、と……ミサカは…溢れる涙を………堪え切れずに言います」
「…………わりぃ」
上条は罪悪感に打たれていた。目の前にいる泣いている女の子に何もしてあげられない、非力な自分に。
「気にする必要はありません。その分………お姉様を……幸せにしてください」
「ああ、約束する」
御坂妹は、涙を拭うとその場から駆けだす。
「御坂妹っ!!」
上条が叫ぶ。その声に呼応するかのように、御坂妹は立ち止まる。振り返りはしない。
「ありがとうな、こんな俺を好きでいてくれて」
「お姉様を泣かすようなことがあれば、ミサカはあなたを許しません、とミサカは世界中のミサカを代表して言います」
そう言い残して、御坂妹は夜の闇に紛れるように駆けていった。
「もう2度と、泣かせるもんか」
上条は誓う。2度と目の前で、大切な人が泣かないように。
「なんでせうか?上条さんは心が折れそうですよ」
負のオーラを出しまくる上条に気負うことなく、御坂妹は続ける。
「いつからお姉様をファーストネームで呼ぶことになったのですか、とミサカは疑問を投げかけます」
「つい最近。美琴に用があって飛び出してきたんだけど、連絡出来なくて困ってたんだよ」
答えはするものの、心ここにあらずの上条。口からは『不幸だ』が何回も出ている。
「なるほど。お姉様を呼びだせばいいのですね、とミサカは自前の携帯をプッシュします」
「っ!!お、連絡してくれんのか」
上条は自分を見捨てなかった神様に感謝しつつ、電話する御坂妹に手を合わせる。
「もしもし、お姉様ですか?」
『な、なによ。アンタから連絡が来るなんて珍しいじゃない?』
電話の向こうから美琴の声が聞こえる。
「お姉様も素直になられたようですね、とミサカは安堵します」
『はぁ?何の話よ』
「お姉様。例の自販機前まで来てください」
『ちょ、どうい』
Pi
御坂妹は一方的に電話を切る。恐らく、美琴は怪訝な顔で切れた電話を見ているだろう。
「いやー、助かったぜ、御坂妹。さんきゅーな」
「お姉様が素直になられたのでしたら、ミサカも素直になりましょう、とミサカは決意します」
御坂妹はベンチから立ちあがる。
「あなたの事が好きです、とミサカは叶わぬ恋と自覚しながら気持ちを伝えます」
(今日はなんて日だ)
上条は目の前の少女を見る。感情の薄い無表情な少女、だと思っていた。
しかし、その少女の顔には明らかに感情が見て取れる。
「…………ごめん」
上条は俯く。真っ直ぐと見てくる御坂妹に目線を合わせられない。
「何故謝るのですか………、とミサカは……あなたにっ…問いかけます」
様子のおかしい御坂妹に驚き、上条が顔を上げると御坂妹は涙を流していた。
「これ……が悲しいという………気持ちなのですね、と……ミサカは…溢れる涙を………堪え切れずに言います」
「…………わりぃ」
上条は罪悪感に打たれていた。目の前にいる泣いている女の子に何もしてあげられない、非力な自分に。
「気にする必要はありません。その分………お姉様を……幸せにしてください」
「ああ、約束する」
御坂妹は、涙を拭うとその場から駆けだす。
「御坂妹っ!!」
上条が叫ぶ。その声に呼応するかのように、御坂妹は立ち止まる。振り返りはしない。
「ありがとうな、こんな俺を好きでいてくれて」
「お姉様を泣かすようなことがあれば、ミサカはあなたを許しません、とミサカは世界中のミサカを代表して言います」
そう言い残して、御坂妹は夜の闇に紛れるように駆けていった。
「もう2度と、泣かせるもんか」
上条は誓う。2度と目の前で、大切な人が泣かないように。