とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06-2

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集


 常盤台の寮の一室で白井黒子は電話をしていた。電話の先は同僚の初春。
 先程、美琴が『例の自販機』とか言いながら飛び出していったのだ。
「初春、どうなってますの?」
『えーっと、ツンツン頭の……高校生ですかね、ベンチに座ってます』
「なるほど…………そう言う事ですの」
 白井は顎に手をやり、ツンツン頭を想像する。その高校生はおそらく―――
『上条さん、ですか?』
 電話の向こうから初春が答えを出す。
「そうでしょうね。お姉様は答えを待ってるとおっしゃられましたし………初春?」
『きゃー、御坂さんを待ってるんですかっ!これはビッグニュースですよ。佐天さんにも連絡します』
「初春、落ち着きなさい!」
 電話に向けて白井が叫ぶが、初春は聞いちゃいない。1人大騒ぎしている。
『白井さん、テレポート使って連れて行ってくださいっ』
「な、何を言ってますの?」
『ですから、佐天さんと3人で見に行きましょうよ!御坂さんがいかがわしい事されないように、見守らなきゃですよね!』
「うっ!?」
(いかがわし事……そんな事させませんわっ……いや、是非録画しなければっ)
「初春っ、佐天さんを初春の部屋まで呼び出してくださいましっ」
 白井は初春との電話を切ると寮を飛び出す。向かう先は初春の部屋。
 テレポートを効率的に使い高速移動を実現する。





「白井さんっ!」
 白井が初春の部屋の扉を開こうとしたとき、廊下の端から佐天が駆け寄ってくる。
「御坂さんと上条さんがなんですって?」
 佐天は目をキラキラと輝かせている。
「とりあえず入りますわよ」
 白井は扉を開き中に入る。佐天もそれに続く。インターホンなんて押してないし、ノックもしてない。
「うわわっ、おふたりとも急すぎますよっ」
 初春は慌てて花飾りを頭につける。
「ごめんごめん、初春。でも私は花のついてない初春も大好きだよ?」
「ななななっ、何を言ってるんですか、佐天さんっっ」
「そんな事はどうでもいいですの。お姉様はどうなってますの?」
 白井は2人のやりとりをバッサリと断ち切り、初春のパソコンに表示されている監視カメラの映像を見る。
 佐天もそれに倣いディスプレイに目をやる。
「どれどれ…まだ御坂さんは着いてないようですね」
 白井に『そんなこと』扱いされてしまった初春は後ろで涙を浮かべているのだが、当然のごとくスルーされている。
「では、現地に向かいましょう」
「はい!さっすが、白井さん」
 白井はまだ間に合いそうであろうことを確認すると、再び玄関へと向かう。
 佐天もそれに続くが、初春はあうあうと言いながらへこんだままだ。
「初春!何をへこんでいますの?」
「どうでもいいって……せっかく、佐天さんが誉めてくれたのに……」
「早く行きますわよ。それとも、その頭のお花だけ先に現地に飛ばしましょうか?」
「やややや止めてくださいっ」
 初春は花を飛ばされては大変だと、しぶしぶと後に続いていった。





 上条はベンチに座っていた。
 まさか監視カメラによって観察されているなんてことは予想だにしていない。
 御坂妹の電話によって美琴はここに来るはずである。
 あんな電話ではあったが、美琴の性格からして必ず現れるだろう。
 『いったい何の用よ!』とか言ってビリビリ帯電しながら。
(さて、なんて切りだすか)
 今まで散々待たせっぱなしだったわけだ。気の利いた事でも言ってやらないと爆発するかもしれない。
「そろそろかな」
 上条は時計台を見る。御坂妹のした時間から考えると、もうすぐ現れるだろう。
「こんなところまで呼び出して、いったい何の用なのよ……」
(噂すればなんとやらだな)
 美琴はキョロキョロと周りを見回しながら歩いている。見当たらない妹を探しているようだ。
 何やら息が荒いところを見ると、走ってきたのだろう。口ではあぁ言いながらも根は優しいお姉様なのだ。
(ま、そこが美琴のいいところなんだけどな)
 上条はベンチから立ち上がると、美琴の方に近付いていく。
「よう、美琴」
「っ!?」
 美琴はものすごい勢いで上条を見ると、機嫌の悪そうな顔のまま睨みつける。
「な、なんでアンタがここに居んのよ」
「おいおい、せっかく名前で呼びあうようになったのに。またアンタに降格か?」
 やれやれ、とワザとらしく肩をすくめてみる。美琴はそんな上条に呆れるように息を吐くと肩の力を抜く。
「私は『美琴』って呼んでいいとは言ってないんだけど?」
「あ、わりぃ。当麻って呼ばれたからついな。許せ、美琴」
 あっ、またやっちまった、と上条は頭を掻く。
「別にいいけど」
「ん?」
「美琴でいい、って言ってんのよ」
「そうか、ならそうしよう」
 上条は腕を組んでうんうんと頷いている。美琴は上条に美琴と呼ばれていることを急に意識してしまい、自分の顔が熱くなるのをを自覚する。
 妹の意味不明な電話に呼び出されてきてみればコレだ。
(そもそも、肝心のあの子はどこにいったのよ)
 美琴はあたりを見回してみるが御坂妹の姿はどこにもない。
 茂みのあたりでカサカサ聞こえたような気がしたが、おそらくネコでもいるのだろう。
 ビックリさせるのも可哀想だなと思い、電磁波ソナーの出力を下げてみる。0には出来ないが、遠距離で驚かすことはないだろう。
 背後からの襲撃などに備えての電磁波ソナーを弱くすることは心配ではあるものの、今は上条もいる。
(もしものときは、しっかり守ってよね)
 そんな期待を込めた目で上条を見てみるも、上条は妙にそわそわとしていた。
「あー、美琴。お前は、御坂妹に呼び出されたと思うんだが……あれは俺が頼んだんだ」
「はぁ?なんでアンタが直接連絡してこないのよ?」
 そんなに妹が好きか、と言いながら帯電しだす美琴の頭に右手を乗せる。
 電気で逆立っていた美琴の髪がふわりと戻り、あたりに飛んでいた電気が消える。
「お前に答えを伝えようと思って飛び出してきたはいいけど、携帯とか忘れちまってよ」
「なら、家まで戻ればいいじゃないの」
「いや、たまたま御坂妹に会って、連絡してくれたんだって。それに……」
「それに?」
 歯切れの悪い上条に続きを促す。上条は一瞬迷った後に口を開いた。
「インデックスが、な」
「あ………そうね。ごめん変なこと聞いて」
「なんで謝んだよ」
 上条はそう言って、美琴の頭を撫でる。
(インデックス………ごめんね)
 美琴は上条の部屋にいるであろうシスターの事を思う。今頃泣いているかもしれない。
(今度、ゆっくり話しないとね)
 美琴は思う。インデックスの対等な友達として、同じ人を想う恋敵として。
「なぁ、美琴…………今まで待たせちまって悪かった」
 そう言うと、上条は逸らしていた目を美琴に向ける。美琴が見たこともない、取り繕うことも偽ることもしない本当の『上条当麻』がそこにいた。





「思ってたより、早いわね」
「上条さん的には長くて泣きそうでしたけどね」
 とりあえず座ろうぜ、と美琴をベンチに促し、上条はその隣に座る。15センチ。少しだけ、小さくなった幅。
「ねぇ、当麻。解決はしたの?」
「んー、まぁな。インデックスも御坂妹も分かってくれたとは思う」
 上条は何気なく口にするが、すごく悩んだんだろう。美琴はそんな上条を少しだけ気にかける。
「………そう。って、なんであの子が出てくんのよ?」
「あの子?あぁ、御坂妹か?」
 上条が『片づける』と言っていたのはインデックスとの問題じゃなかったのか。
「さっき、御坂妹に会ったって言ったろ。そんときにさ、好きだって言われちまった」
「えっ!?」
 美琴は固まる。
(あの子が、当麻にこ、告白した?)
 何かにつけて、美琴と争っては来たが…………
「で、あ、アンタ。なんて答えたのよ?」
「アイツには悪いけどな、ごめんって、断ったよ」
 泣いてたんだ、アイツ。上条は続ける。その横顔は、寂しげだった。
「お前を泣かせたら許さない、ってよ………」
「…………あの子」
「だから俺も約束したよ。俺の大切な人を、もう2度と泣かせたりしねぇ、って」
 上条は右手を、『幻想殺し』を握りしめて見つめる。
「美琴だけじゃねぇ、インデックスも、御坂妹も、ステイルや土御門だって入れてもいい。俺が出来る事なら、全て守ってやる」
 握りしめていた右手を開く。先程の寂しげな目ではなく、意志のこもった目をしていた。
 美琴は思う。上条当麻はこんな人間だ。
(私だけじゃない。自分を犠牲にしてでも、全てを護ろうとしている)
「そう、よね」
 『自分だけが特別じゃない。アイツは平気であんなことを言うやつよ』以前に自分に言い聞かせた言葉。
 同じ言葉でも、今の自分には辛い言葉。
「アンタは……当麻はっ、そういうやつよね」
 美琴の目から涙が零れる。
 分かってはいたことだ。でも、もし上条が自分を選んでくれるなら。そんな事を期待し、夢に想い、言葉にした。
 上条の自分に対する接し方からも、期待はしていた。自意識過剰かもとは思いながら、『待っててくれ』という言葉に甘い感情も抱いた。
 ふたを開けてみれば、上条当麻は相変わらず、上条当麻のままだった。
 でも、それでも。これではピエロじゃないか。
(あんまりだ)
 美琴は思う。上条は確かに鈍感ではある。それにしてもあんまりだ。期待を抱かせておいて、待たせるだけ待たせたのに。
(逆恨みかもしれない)
 上条は『待っててくれ』とは言ったが『答えがどうなるかも分からない』と言っていた。
 感情論だとは思う。上条を恨むのは筋違いだ。
 それでも、美琴の目から流れる涙は止まらない。止めることなく流れ出す感情の奔流は、美琴の心にヒビを入れていく。
 美琴は『自分だけの現実』を崩されるような感情を上条に抱いた。
 レベル5の、常盤台のエースの座は今日で終わりかもしれない。
 それほどの感情の爆発が、涙となって溢れる。目の前で慌てる上条の姿が揺らぐ。
 いつもなら放たれる雷撃の槍も飛び出すことはない。





 茂みの中。
 白井黒子はじめ、盗み見の共犯3人はそこに潜んでいた。
 通常、美琴の電磁波ソナーによってこのような行為は瞬殺されてしまうはずなのだが、美琴の勘違いによって事なきを得ている。
 この3人は、美琴よりも一歩早く到着していた。美琴が誰かを探してキョロキョロとした時は焦って初春が倒れそうにもなった。
「し、白井さん……あれが、上条さんですか?」
「見た事ありませんの?てっきり全て知っているのかと思っていましたのに」
 佐天の質問に頷いてから、白井は中途半端に知っている2人をいぶかしむ。
「顔は見たことなかったんですよ。へー、なかなかカッコイイかも……ねぇ、初春?」
「私は以前お会いしたことがあるので知っていましたよ」
 グラビトン事件で面識のあった初春は自慢げに言う。
「そういえば、グラビトン事件だっけ、のときに初春たちを護ってくれたんだよね」
「そうなんですよ。しかも、何にも言わずに立ち去るんですよ!」
 初春は興奮気味に言う。例の美琴からの聞きだしのときに知った事実であり、初春も佐天もその上条の行動に感動したのだ。
「くーっ、御坂さんも命を助けられたって言ってたし。そりゃ、惚れちゃうよねっ!いいないいなー」
「ですよねっ、佐天さん!」
「おふたりとも、お静かにしてくださいまし。バレてしまいますよ」
 白井は勝手にテンションの上がっていく2人を白い目で見る。白井としては、このあと美琴がどうなるかの方が問題なのだ。
「いやー、白井さん。落ち着いてなんかいられませんよ」
 御坂さんの大スクープですよ、と大騒ぎする初春。白井はその頭に手を載せ、笑顔で応える。
「お花畑は頭の中だけで十分のようですわね?頭のお花畑は空間移動させていただいてよろしいかしら?」
「すいませんすいません許して下さい」
 目の座った白井に対し、初春はただただ謝る。
「あ、見てくださいよ、白井さんっ!!」
 佐天が指差した先、つまりは上条と美琴がいるところを見る。
 ぽんっ、と、上条の手が美琴の頭に置かれ、わしゃわしゃと撫でているところだ。
 佐天は『いいなぁぁっ』と頬を染め、初春は『お花がぐちゃぐちゃになるので私にはちょっと…』とか言い、白井は危うく金属矢を空間移動させるところだった。
 茂みの中で三者三様に反応を見せていることなんて想像すらせず、上条と美琴はベンチに隣り合う。
「うわー、近いっ!近いですよ、白井さん」
 初春が再び騒ぎ出す。佐天――意外にも一番乙女かもしれない――は完全に見とれており、初春や白井の事など気にもしていない。
 となると、盛夏祭等でも見せたテンションが上がしまって扱いにくい初春の矛先は白井に向く。
(うっとおしいですわね)
 本当に頭の花をテレポートさせようかと思ったものの、叫ばれてはバレてしまう。
 白井は大きく溜息をつく。こうなれば無視するしかない。
 白井は絡んでくる初春を適当にあしらい、再び目線を美琴達に向ける。
 美琴は上条の横顔をみつめているところだった。
(お姉様があれほど熱い視線を送るなんてっ………この黒子、羨ましいなんて思ってはおりませんっ)
 恐ろしい顔をした白井を見てしまった初春は、全身を強張らせる。
(い、いま白井さんを怒らせたら、あわわわわ)
 顔を真っ青にして、初春も2人同様、美琴達に目を向ける。少し大きくなった上条の声が聞こえてくる。
『俺の大切な人は、もう2度と泣かせたりしねぇ、って』
 はうっ。
 そんな声が初春の左側、1人の世界に入っていた佐天の方から聞こえてくる。
 初春と白井が様子のおかしい佐天の方を見ると、彼女は顔を真っ赤にして、目をうるうるとさせていた。
 この場に上条をよく知る人間がいたらこう言ったであろう。『またか、あの野郎』と。
 しかし、そんな雰囲気も一瞬で壊れるような事が起こる。
『美琴だけじゃねぇ、インデックスも、御坂妹も、ステイルや土御門だって入れてもいい。俺が出来る事なら、全て守ってやる』
 上条の言葉。静かな空間にそれだけが響く。そして―――
 美琴が泣いた。気を張った、強がった美琴しか見たことのない佐天と初春には衝撃的な姿。
(あの御坂さんが)
(泣いた?)
 それでも、どうにも様子がおかしい。少なくとも、上条の言葉に感動したわけではなさそうだ。
 上条の言葉が、美琴にとって辛い事実を示していた。そんな涙。
 2人は慌てて白井を見る。飛び出す事を必死に我慢している白井の姿があった。
 次に出る上条の言葉次第では、白井は飛び出していくだろう。そして金属矢を上条に打ち込むだろう。
 白井にとって、美琴に恋人が出来るのは好ましい事ではないかもしれない。
 それでも、愛すべきお姉様を泣かせるのは、何人たりとも許さない。
(例え、お姉様に嫌われることとなっても、黒子は許すことはできませんの)
 血が沸騰するかのような思いを抱えながら踏みとどまる。上条当麻の、心の内を確かめるまでは。





「みみみ美琴さんっ!?な、なんで泣いてるんでせうか?」
 張りきって――上条的にはカッコよく決めたつもり――宣言してみたら、美琴が号泣していた。
 デルタフォースと呼ばれている上条にも、美琴が感動して泣いているわけではない事は分かる。
 それゆえに焦る。どさくさにまぎれて何か言ってしまっただろうか?
「あー、美琴さん……泣いておられては分からないんですが……」
「アンタの答え、じゃなかったの?さっきの言葉」
 全員を守るという上条の誓い。転じて言えば、例外はないという事だ。
 美琴にはそれが辛かった。自分を見てほしい。出来るなら、自分『だけ』を見てほしかった。
 溢れだす涙は止まらない。上条を困らせているのも、優しい上条の前で泣くことがずるい手段であるかもしれない事も分かっている。
 『自分だけの現実』を制御してきたレベル5でも、抑えきれない。
 ぼやけた視界の中で、上条は呆れたように溜息をついている。
 そんな上条を見たくなくて、美琴は顔を背ける。
 上条が近づいてくるのを感じ、身を固くする。
(やめて。中途半端に優しくしないで)
「諦めきれないじゃないのよ!!」
 想いが、言葉として漏れる。制御の利かなくなった感情が溢れだし、漏れだした電気があたりに散る。
 そんな能力と感情の奔流を抑えるかのように、背けた顔の横に上条の顔がきた。
 溜息をついていた上条は、泣きじゃくる美琴の身体を後ろから抱き締める。優しく、壊れないように。
「諦める、ってどういう事だよ」
 身を固くする美琴の耳元で囁く。出来るだけ優しく、心の奥まで届くように語りかける。全身全霊の想いをこめて。
「勘違いしてるみてぇだから、訂正しとく」
 『勘違い』とはどういうことか。1人で浮かれていた事が勘違いだというのか。
 上条は一回しか言わねぇぞ、と前置きする。
「もう1つ、御坂妹と約束したんだ」
 上条は美琴から離れると、その両手で美琴を自分の方に向かせる。
「お前を幸せにする、って約束した」
「っ!!」
 美琴の目が大きく見開かれる。『勘違い』とは…。自分のはやとちりだとしたら。上条の気持ちを聞いていないだけだとしたら。
「遅くなっちまったけど、答えが出た。俺は、お前が……御坂美琴が好きだ」
 上条は真っ直ぐに、美琴の瞳を見つめる。涙で濡れた綺麗な穢れのない瞳を。
 肩に置いていた手を伸ばし、美琴の涙を拭ってやる。
「2度と泣かさねぇ、なんてカッコつけといて……いきなり泣かせちまって……情けねぇ」
 美琴は上条の手を取る。暖かい手が、自分の涙で濡れていた。
(当麻の話を最後まで聞こうともせずに、勝手に勘違いして。私は……)
 最悪だ。美琴は思う。最愛の人に辛い思いをさせた。最愛の人の誓いを涙で濡らしてしまった。
「………ううん、そんなことない。そんなこと、ないわよ」
 美琴は上条の手を離すと、その胸に飛び込む。
「私こそ、最後まで当麻の話も聞かずに勝手に勘違いして……ごめんなさい」
「気にすんなよ。俺も回りくどい言い方しちまったし。そもそも、待たせなきゃこんなことにはならんかったしな」
 上条は両腕を美琴に回し、優しく抱きしめる。
「美琴、お前は俺が幸せにする!不幸は全部、俺が奪い取ってやる」
 上条は美琴に回した腕に、少しだけ力を入れる。自分の意志を示すかのように。
「……なに言ってんのよ。当麻といれば、不幸なんて大きな幸せの一部にすぎないわよ」
 美琴は笑う。ずっと恋焦がれた、夢に見た、自分の居場所。最愛の人の腕の中で。
 上条と美琴は見つめあう。その顔が近づいていく。





 茂みの中の3人は固まっていた。目の前の出来事はなんなのだろうかと。
 まるでドラマを見ているかのような、そんな風景。
「ねぇ、初春。これ、夢じゃないよね?」
「ほっぺほすねってみまひたが、ひたひです」
 両頬をつねったまま初春が答える。どうやら夢じゃないらしい。
「あぁっ、佐天さん!あれってもしかしてきききききすですか?」
「初春、ちょっと落ち着き―――っ!」
 佐天が初春の方を見たとき、その視界には白井も飛び込んでくる。ぷるぷるとしていた。
「し、白井さん?」
 声をかけるのが早いか、空間移動で消えた白井は、今まさに甘い世界に行こうとしていた美琴達の横に飛び出した。
『お姉様ぁぁぁっっ!!』
『うわぁっ、し白井?どっから出てきたっ?』
『黒子?アンタまさか、見てたの?』
 さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら、喜劇に変わる。
「だぁぁっ、白井さんっダメですよー!!」
「コラ初春っ、アンタまでいってどうすんの」
 そういいつつも、2人は茂みから飛び出す。ガサガサッという音と共に自販機横に転がり出る。
 急に茂みから飛び出して気でもすれば、必然的に注目の的だ。
「………」
「………」
 口をあんぐりと開けたまま、上条と美琴は固まる。白井は美琴に取り押さえられて悲鳴をあげている。
「あははははは。み、御坂さんっ、おめでとうございます!!」
「上条さんも、おめでとうございます!」
 初春と佐天は、慌てたように祝福を言葉にする。
 そんな2人に、上条と美琴は丁寧に頭を下げる。『どうもご丁寧に』と。
「………」
「………」
「………」
「………」
 沈黙が流れる。
「で、あなたたちは見てたの?」
「はい、見てました。佐天さんや、白井さんと一緒に」
 固まったままの美琴からの問いかけに初春が答える。妙に重い空気が漂っている。
「どこくらいから見られていたんでせうか?」
「えっと、御坂さんが誰かを探してここに来たあたりからです」
(さ、最初からですかっ)
 上条は愕然とした表情をする。
(ということはアレですか。上条さんの偉そうな宣言とか、告白とか全部聞かれてしまったという事ですね……不幸だ)
「アンタら、覚悟はできてるんでしょうね?」
 こめかみに青筋を立て、美琴がビリビリと帯電する。
「おおお姉様っ、黒子はもう痺れておりますっっ………うげっ」
「御坂さんっ、落ち着いてくださいっ」
「そんなの、私達死んじゃいますからっ!!」
 美琴に掴まれていた白井は電撃の犠牲と散り、残る2人も顔を真っ青にすると、後ずさる。直ぐにでも走り去りたかったが、背中をみせたら危険な気がした。
「おい、美琴。そんなビリビリすんなって」
 そう言って、上条は右手で美琴の頭を撫でる。ふわり、と電撃が収まり、美琴は膨れっ面で上条を睨む。
「なによ。全部見られちゃったのよ?」
「まぁ、いいじゃねぇか。こうやって祝福してくれてんだし」
「で、でもっ……」
 上条は納得のいかない顔をしている美琴の耳元に口を近づけると、小さな声で囁く。
「(後で、全部説明する方が恥ずいだろ……)」
 ぼんっ、と音を立てるような勢いで美琴の顔が赤く染まる。
 上条の声は聞こえていないので、周りから見れば愛の言葉を囁いたように見えなくもない。
「あ、上条さん。今、そんなに甘いことを言ったんですか?」
 佐天はニヤリと口元を歪める。
「え、聞かせてください!御坂さんっ」
 初春も佐天に乗っかるかたちで続く。さっきまでビリビリを怖がっていたのに。
「アンタ達、よっっっっっっぽど電撃食らいたいみたいね?」
「「きゃー」」
 こめかみをピクピクとさせた美琴から逃げるように、2人はわざとらしい声をあげて上条の後ろに隠れる。
「助けてください、上条さん!」
「大切な人は、全員守ってくれるんですよね?」
「えっ?」
 確かに、ついさっきそんな事を誓ったところだ。
 目の前には、ほほう、とか言いながら帯電している美琴がいる。ポケットからゲーセンのコインなんか出しているようにも見える。
「もしかして、私たちはその中に入りませんか?」
「見ず知らずの女の子はダメでしょうか?」
「うっ……」
(う、う上目づかいっっ)
 上条は女子中学生2人の上目づかいにやられ、完全に固まってしまう。
(なんだか上条さんの不幸レーダーにびんびんと反応しておりますよー。今までにないくらいにぃぃぃ)
 ぎぎぎ、と動きの悪い音がするかのような速度で、上条は美琴に振り返る。
 笑っていた。それはもうにっこりと。手にはコインが1枚。
「み、美琴さん?ここはゲーセンではないので、コインを取り出しても出来ることなんてないですよ?」
「死んでみる?」
 超絶至近距離で超電磁砲が放たれる。上条はなんとか右手で受け止めるも、攻撃はそれで終わるハズもない。
 上条はぐりんっ、と踵を返すと走り出す。こういうときに言う言葉は1つ。
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


ウィキ募集バナー