とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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 美琴と別れた後、上条は自分の寮へと向かう。
 あと解決すべき問題は、インデックスとの関係と自分の記憶について。
 インデックスと、本当の意味で打ち解ける為には、記憶の話は不可避である。
(全部話してしまったら、アイツはどうなっちまうんだよ)
 『竜王の殺息』の影響で記憶を失ったと知れば、インデックスはどうなるであろうか。
(想像したくもないな)
 完全なる行き止まり。越えなくてはいけない壁なのに、越えられない理由がある。
 別れ際に美琴は言っていた。
 『そんなに心配しなくても、あの子ならきっと受け止めてくれるわ』
 信じてあげなさい、と美琴は笑って言った。
 上条には、美琴が何をもってそういうのかは分からなかった。
 インデックスと美琴の関係。自分が追い出された20分の間に何があったのか。
 インデックスも美琴も教えてはくれなかった。
 考えながら歩くうちに、上条は自分の寮まで帰って来ていた。
(どんな顔で入ればいいんだ)
 考えのまとまらないまま、上条はエレベーターに乗り、部屋の前に着く。
「ただいま」
 意を決して扉を開き、中に入る。
 電気は付いているものの、お腹を減らしているであろうシスターの元気な声は聞こえてこない。
「おい、インデックス――っ!?」
 部屋の中心におかれたガラステーブルの前に座っていたのはインデックスではなかった。
「待ってたのですよー、上条ちゃん!」
 我らが幼女先生、月詠小萌がお茶まで用意して待機していた。
「えー、小萌先生?ここはワタクシの家であってますよね?」
「そうですよー、ここはちゃんと上条ちゃんのお部屋です。ちゃんと片付いている様で、先生は満足なのです」
 うんうん、と腕組をしながら1人で納得する小萌先生を見つつ、上条は何から聞いていいか困っていた。
「では質問っ。小萌先生は何故ここにいらっしゃるんでしょうかっ?」
「それはですねー。最近悩ましげな上条ちゃんの相談に乗るためなのですよー。シスターちゃんは姫神ちゃんと一緒に私の家にいます」
 さぁ、ここに座るのです、と席を進める小萌先生に、戸主は俺ですよと言いそうになる。
「さぁ、上条ちゃん。何で悩んでるんですか?なんでも来いなのですよ!」
「先生……俺、どうしたらいいのか、分からないんです」
 上条は小萌先生の向かいに座り話し始める。個人面談みたいだな、と上条は思う。
「この話をするためには、先生にしておかなきゃならない話があります」
「ふむふむ。なんですか?」
「インデックスを初めて先生の所に連れて行った時のことです」
 上条はステイル=マグヌスを『魔女狩りの王』ごとぶっ飛ばした後、瀕死のインデックスを連れて小萌先生の家を訪れた。
 小萌先生に回復魔術の補助をしてもらい、ステイルや神裂から目をくらます意味も含めて暫く居候となったことがあった。
「あの後、先生の家がぶっ壊れた事とか……そのへんの話です」





 美琴は寮に戻っていた。上条と別れた後、どこかをプラプラする気分でもなかったし真っ直ぐ帰ってきたのだ。
「ただいま」
 扉を開けると、ルームメイトの白井が自らのベッドの上で正座していた。
 いつもなら美琴のベッドの上で怪しい事を企んでいるはずである。
「お姉さま」
「ど、どうしたのよ、黒子?改まっちゃって」
 正座をしたまま、真っ直ぐと真面目な表情で見つめてくる白井に、美琴の腰が引ける。
「とりあえず、お座りになって下さい」
 白井に部屋に入るように促され、美琴は自分が扉を開けたまま固まっていた事に気付いた。
「あ、ごめんごめん」
 美琴はこれから何が起こるのかと、少し不安、いや、戦々恐々としながらも、促されたベッド――付け加えておくと、美琴のベッドである――に座る。
「で、どしたの?」
「黒子はお姉様に確認を取らなければなりません」
(カクニン?なんのこと?)
 美琴は自らの記憶を振り返る。
(あれ……選択授業の書類って、提出まだよね………でも、こんな真剣に確認って、なんの話?)
 美琴には心当たりがない。白井に『真剣に』確認されるようなこととは何か。
 全く何も思いつかずキョトンとしていると、白井はぷるぷると震えながら口を開いた。
「お姉様からお話してくれるかとも思ったのですが……例の噂についてです」
「う、わさ……?」
 美琴は自らの不幸センサーにビビッ、と反応したのを感じる。
(噂って、『妹達』の事じゃないわよね……だと、したら。いやいや、初春さん達には口止めしたし…)
「ええ。セブンスミストでお姉様があの殿方と抱き合ってたという噂ですの」
 探るような目で覗いてくる白井に、美琴は顔を青くする。
 美琴自身はあまり覚えていないが、上条によるとギャラリーに取り巻かれるくらいの騒ぎだったらしい。
 美琴は学園都市内では有名であるし、なにより常盤台の制服を着ていたのだ。
『幻想殺し』が噂になるくらいなのだから、あの事件が噂として流れない方がおかしいのであった。
「あのー、黒子?なんの話かなー、なんて。あははは」
「お姉様!」
「は、はいっ!?」
 恐る恐る言い訳しようとする美琴の言葉をピシャリと遮り、白井は美琴の目を真っ直ぐと見る。
 その目には、揺るぎない意志。
「お姉様。なぜ、隠すのですか?」
「………ごめん」
「なぜ、黒子を信じてくれないのですか?」
 白井の悲痛な目が訴えかける。美琴には、返す言葉が無かった。言い訳のしようすらなかった。
 自分を信頼してくれる後輩なのに、自分は信じ切れていなかったかもしれない。
「……噂は本当の事、という事でいいんですの?」
「……うん」
 美琴が答えると、白井は小さく溜息をつく。わかっていましたけど、とでも言いたそうな顔で。
「確かにわたくしは上条さんの事をよろしく思っておりません」
 美琴が何か言おうとするのを目で牽制し、白井は続ける。
「あの方との件では、お姉様が規則破りに走りかねないので好ましくないですし。もちろん、黒子よりもお姉様の愛を受け取ることも許せないのですけど」
「………あ、愛って、別にそんな」
 白井の余りにもストレートな表現に、美琴はたじろぐ。上条に好きとは言ったが、言葉にされてしまうと気恥かしい。
「違いますの?」
「……ううん、違わない。私は、アイツの事が好き」
 そうですか、と白井は少しだけ悲しそうな顔をする。理解はできるが、納得できないといったそんな表情。
「寂しくはありますが、お姉様が決めた事でしたら、黒子はそれを応援します」
「うん…………ありがとう、黒子。ごめんね?」
「謝らないでください、お姉様」
 白井は強気に答える。しかし、その目には明らかに涙が浮かんでいる。
「黒子………」
 美琴は白井の隣に座ると、その頭に手を置き、優しくなでる。
「私がこんなことしても、辛いだけかもしれないけど……」
「お姉……様っ」
 白井は溢れだした涙を堪えることなく、美琴の胸に飛び込む。
「今までありがとう。今日は私の胸を貸してあげるから……全部出しちゃいなさい」
 部屋に白井の嗚咽が響く。
 扉の外で一部始終を聞いていた寮監は、点呼もそのままに立ち去る。
(私にできるのは、見守るだけ、か)
 子供たちの幸せを祈って。





 上条は小萌先生に事情を説明する。魔術について、インデックスについて。
 もちろん、余計な部分は省く。矛盾が出ないレベルで、説明していく。
「つまり、先生の部屋が壊れちゃったのは、暴走した魔術で操作されちまったインデックスと、俺達が戦ってたからなんです」
「まだ納得しきれませんが、そういう理由だったのですね」
 あの神父さんも関わっていたとは驚きです―、と小萌先生は冷めてしまったお茶をすする。
 時間的にもビールを飲みたいところだが、生徒との真剣な話の場だ。さすがに我慢する。
「あの、先生?」
「なんですかー、上条ちゃん?」
「信じてくれるんですか?」
「あまり信じたくはありませんが、この目で2回も見てしまっていますしね。それに――」
 2回。小萌先生は魔術を見ている。インデックスの治療のとき、大覇星祭の時の姫神の治療のとき。
 小萌先生は途中で言葉を途切ると、上条を見る。
「それに、先生は生徒の事を信じてあげるもんなんですよ―」
 少し照れたような笑顔で、小萌先生は笑う。
 そんな笑顔に上条は救われた気がした。普通なら話しても信じてくれないであろう『異能』の話。
 同じ『異能』のはびこる学園都市であるとはいえ、魔術の話はそうそう受け入れられるものではない。
 それでも、小萌先生は上条を信じてくれた。
 上条は意を決する。小萌先生には、自分の全てを話そうと。その信頼に答えようと。
「先生、もう1つ。もう1つだけ聞いてもらっていいですか?」
「おーけーですよー。1つと言わず、2つでも3つでもドンと来いなのです!」
「実は俺、記憶喪失なんです」
 上条は苦笑いを浮かべながらそう言った。その上で、まるで自分の事はどうでもいいかのように続ける。
「暴走したインデックス魔術の影響で、エピソード記憶の脳細胞が破壊されちゃったらしいんです。だから、あの日より前の、記憶が……ないんです」
 小萌は絶句する。流石にこの話は想像外だった。
(上条ちゃんは……なんてものを)
 なんてものを背負ってるんだろう、小萌先生は思う。なぜ、そこまで笑っていられるのか。
「俺は……インデックスを縛りたくないんです。俺の記憶喪失が自分のせいだと思うと、アイツは……」
 そこまで言って、上条は黙る。これ以上先は、言いたくなかった。
「どうすればいいか、わからないんです、先生。黙ってたら、これ以上インデックスを騙したままだと俺は……」
 身体を震わせる上条に、小萌先生は下唇を噛みしめる。自分の非力さを思い知らされる。
 目の前の1人で戦ってきた少年を助けたいと、そう思った。教師としての責任ではなく、上条を知る1人の人間として。
 小萌先生は上条の横に来ると、ツンツンとした頭をなでる。
「上条ちゃん」
 優しく穏やかな小萌先生の声に、上条は顔をあげる。涙を我慢したような、小萌先生も初めてみる表情。
「先生には、上条ちゃんがこれまでに巻き込まれてきた事も、辛さも分かってあげられませんが……上条ちゃんは良く頑張ったと思います」
 小萌先生は上条の目を真っ直ぐと見る。その目の奥の何かを読み取るように。
「シスターちゃんも、上条ちゃんの想い人も、分かってくれると思います。信じてあげてください」
「でも…………」
「大丈夫です。上条ちゃんのやりたい事をやればいいのですよー。今までと同じ。そうでしょう?」
 小萌先生は優しく微笑みかける。上条は、そうですね、と呟くと、涙目で笑う。
「先生には敵いませんね」
「そう簡単に負けませんよ―、先生は立派な大人なのですー」
 上条は涙の浮かんだ目をごしごしとこする。上条は心が軽くなった気がした。これから先は、自分が決める。今まで通りに。





 ふぅ、と上条は溜息をつく。
 目の前には美味しそうにご飯を食べる小萌先生がいる。
 今頃、小萌先生の部屋ではインデックスと姫神がご飯を食いつくしているであろう。
 と言う事で、お礼がてらに上条が夕食を作ることになった。
 あり合わせの夕食であったが、小萌先生はおいしいですー、とバクバクと食べていた。
(そういや、普段はどんな生活なんだろうな)
 大したものでもない上条の料理を美味しそうに食べる姿を見て、上条はふと、小萌先生の部屋の惨状を思い出した。
 知らず知らずのうちに、口元が緩む。中途半端に我慢したせいか、ニヤニヤとしてしまう。
 必死に我慢しようとするが、肩がピクピクし始める。
「あー、上条ちゃん!何を笑ってるんですか」
「いや、先生!別に先生の部屋を思い出し笑いしたわけではなく……」
(しまったぁっ!?)
 上条が自分の失言に気付いた時には、小萌先生はむぅーっと膨れる。
「あー、っと、せ、先生っ!さっきの話ですけど、俺に想い人がいるって、良くわかりましたね」
 学校じゃボロ出してないと思うんですけど、と続け無理矢理に話題を変えようとする。
「え?」
「え?」
 きょとん、とする小萌先生。狭い部屋を静寂が支配する。
(あれー、もしかしてわたくし………地雷原につっこみましたか?)
「上条ちゃん?先生は冗談で言ったつもりだったんですけど……」
「え?」
 上条の背に嫌な汗が流れる。それはもう、だらだらと。
「上条ちゃん」
「はい。なんでございましょうかっ!?」
 上条はビシッと正座をする。小萌先生はそんな上条を見ると、にやぁーっと笑みを浮かべる。
「先生は生徒の相談を聞く義務があります。そうですねー?」
「はい。そうですね……」
 さっきまで相談に乗ってもらって身であるので、知らんぷりもできない。
「では、お話をしてください、上条ちゃん」
 小萌先生は暗に吐け、と訴えかけている。笑ってはいるが、目は座っている。
「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 上条の叫びが部屋にこだました。





 所変わって、常盤台の寮。
「お姉様?」
「どうしたの、黒子」
 寝巻に着替え、それぞれのベッドに横たわっている。
 就寝時間はとうに過ぎているのだが、美琴は上条とのあれこれを全て吐かされた。
 あまり言いたくなかったのだが、『黒子を信じてくれませんの?』と言われては抵抗も出来ずに陥落した。無条件降伏にもほどがある。
「お姉様は、もう想いを告げられましたの?」
「………うん。身の回りの整理がつくまで待ってくれって、保留されちゃったけど」
 幸せそうに美琴が微笑む。白井はがばっと起き上がり、美琴の近くまで来ると手を握り閉める。
「ちょ、ど、どうしたのよ、黒子?」
「お姉様!待ってるだけではダメです。上条さんの所に行って下さいまし」
 白井は酷く興奮した顔でぶんぶんと美琴の手を振る。
「い、痛いって黒子っ!それに、待ってるって言っちゃったし、アイツも待っててくれって言ってくれたし……でも、答えがどうなるかは分からないって言ってたっけ」
 美琴はゴニョゴニョと聞き取りにくい声で呟く。
(あれ?どうなるか分からないんだっけ?って、ことはもっと攻めた方がいいのかしら……あれ?)
 白井はそんな美琴にためらう事もなく続ける。
「そんなもの既成事実でなんとかなりますのっ。押し倒すのですわっ」
「は?」
(今、何言いやがった、この子)
 美琴の身体が固まる。
(キセイジジツ?オシタオス?)
 何を想像したのだろうか、ぼんっ、と美琴の顔が一気に赤くなる。
「そしてわたくしはその様子をしっかりと録音させていただ―――っ!?」
「ふざけんなぁぁぁぁっっ!!」
 美琴の蹴りが白井の頬に突き刺さる。うにゃぅっ、という声なのか音なのかと共に、白井の身体が部屋の中を転がる。
「おおおおおお姉様っ、今日は少し電撃が強いようなぁぁぁっ!?」
「うるさいうるさいうるさいっ」
 美琴は電撃を飛ばし、白井を縛りつける。
「あーもうっ!不幸だぁぁぁぁぁっ!!」
 美琴は自分でも知らぬうちに、ある少年の口癖を叫んでいた。


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