12月24日
世間はクリスマスイブ、学園都市を含めた日本全国が無意味に浮かれる日である。
昨夜、晴れて想いが届き、念願の上条との恋愛が始動したはずの御坂美琴は、朝からイライラとしていた。
あの後、走り回って久々に電池切れになり寮まで戻ったのだが、美琴がイラついているのは、それが理由ではない。
理由は朝交わした上条とのメールにある。
『当麻、クリスマスの予定は?』
『24日はイギリス清教(インデックスの所属してるやつな)のパーティーに参加予定』
『まぁ、今日は私も予定あるからいいわ。明日よ明日』
『明日は忙しい。無理。じゃ、これからパーティの準備だから』
それ以降、上条からの連絡はない。
「なんなのよ、アイツ!せめて理由くらい教えろっつーの!」
1人の部屋でビリビリとしてみる。同室の白井は朝早くからジャッジメントのお仕事らしい。
夜は佐天の部屋でパーティが開かれる。寮監には家族と過ごすなんて嘘をついていたりするのは内緒だ。
美琴としては、25日くらい恋人同士で過ごしてみたいと思うところだ。
まだデートすらしていないのだから、目の前にイベントがあればそれに飛びつくのは当然であろう。
告白の答えをもらった後も、なんだかんだで甘えることすらできなかった。キスさえも………
美琴は未遂に終わってしまった上条とのキスを思い出す。恥ずかしくて死にそうだ。
なんとか気分を変えないと夜のパーティの空気を悪くしそうだ。
「………あの馬鹿」
世間はクリスマスイブ、学園都市を含めた日本全国が無意味に浮かれる日である。
昨夜、晴れて想いが届き、念願の上条との恋愛が始動したはずの御坂美琴は、朝からイライラとしていた。
あの後、走り回って久々に電池切れになり寮まで戻ったのだが、美琴がイラついているのは、それが理由ではない。
理由は朝交わした上条とのメールにある。
『当麻、クリスマスの予定は?』
『24日はイギリス清教(インデックスの所属してるやつな)のパーティーに参加予定』
『まぁ、今日は私も予定あるからいいわ。明日よ明日』
『明日は忙しい。無理。じゃ、これからパーティの準備だから』
それ以降、上条からの連絡はない。
「なんなのよ、アイツ!せめて理由くらい教えろっつーの!」
1人の部屋でビリビリとしてみる。同室の白井は朝早くからジャッジメントのお仕事らしい。
夜は佐天の部屋でパーティが開かれる。寮監には家族と過ごすなんて嘘をついていたりするのは内緒だ。
美琴としては、25日くらい恋人同士で過ごしてみたいと思うところだ。
まだデートすらしていないのだから、目の前にイベントがあればそれに飛びつくのは当然であろう。
告白の答えをもらった後も、なんだかんだで甘えることすらできなかった。キスさえも………
美琴は未遂に終わってしまった上条とのキスを思い出す。恥ずかしくて死にそうだ。
なんとか気分を変えないと夜のパーティの空気を悪くしそうだ。
「………あの馬鹿」
上条は英国式の教会にいる。つまりはイギリス清教の教会だ。今日の夜、イギリス清教のパーティが開かれる。
とは言っても、学園都市内であるので、出張してきた『必要悪の教会』のメンバー一部のみの参加である。
参加者は神裂をはじめとした天草式のメンバーにステイル、土御門である。
オルソラやアニェーゼ部隊も来たかったらしいが、いくらなんでもシスターさんが大量に来れるわけはないので、彼女らは英国本国で楽しんでいるだろう。
神裂に聞いた話では毎年、騎士団長が色々と苦労しているらしく、そのお手伝いもさせられるらしい。
そうまでして学園都市で開かれる理由は学園都市で生活しているインデックスを考慮した結果である。
「美琴には悪いことしたかな……」
上条は携帯を閉じる。
上条としても恋人である美琴と一緒に過ごすクリスマスは魅力的である。そこは絶対だ。
(あとで何でも埋め合わせはするから、許してくれ)
閉じた携帯を握りしめる。理由も告げずに美琴に断りを入れた。責任感の強い、彼女を苦しめないために。
「馬鹿だな……俺は」
とは言っても、学園都市内であるので、出張してきた『必要悪の教会』のメンバー一部のみの参加である。
参加者は神裂をはじめとした天草式のメンバーにステイル、土御門である。
オルソラやアニェーゼ部隊も来たかったらしいが、いくらなんでもシスターさんが大量に来れるわけはないので、彼女らは英国本国で楽しんでいるだろう。
神裂に聞いた話では毎年、騎士団長が色々と苦労しているらしく、そのお手伝いもさせられるらしい。
そうまでして学園都市で開かれる理由は学園都市で生活しているインデックスを考慮した結果である。
「美琴には悪いことしたかな……」
上条は携帯を閉じる。
上条としても恋人である美琴と一緒に過ごすクリスマスは魅力的である。そこは絶対だ。
(あとで何でも埋め合わせはするから、許してくれ)
閉じた携帯を握りしめる。理由も告げずに美琴に断りを入れた。責任感の強い、彼女を苦しめないために。
「馬鹿だな……俺は」
美琴は白井達4人とやセブンスミストに来ていた。今夜行うクリスマスパーティ用に、プレゼントを買いに来たのだ。
と言っても、お互いに交換し合うのだから内容が分からないように個人行動ではある。
その後、合流して買い出しを済ませ、佐天の寮で準備に取り掛かる予定である。
準備と言っても、美琴が自宅から取り寄せてきたツリーを飾って、夕食を作るだけだ。
美琴は店内をプラプラと歩きながら目ぼしいものをピックアップしていく。
「うーん、他人にあげるものとなると……難しいわね」
美琴は顎に手をやりながら頭を捻る。
値段関して言えば、2000円から3000円くらいと初めに決めてはあるので困ることはない。
だが、見た目で『いいな』と思ったものは大概予算オーバーだし、予算で探せばショボイものばかりである。
もちろん予算内で良いものもあるのだが、そこは常盤台のお嬢様。感覚が違うのである。
2000円ではホットドッグくらいしか買えないわ、とは美琴の談である。
この感覚の違いが、上条との生活において後々問題となってくるのだが、それはもう暫し先の話である。
「黒子相手ならフザケたものでもいいけど……初春さん達にはねぇ」
美琴はランジェリーショップの前まで来ると、布があるのか分からないような紐パンを手に取る。
「………うまく初春さんに回れば面白いんだけど……」
美琴は佐天にスカートを捲られている初春を想像する。
「さ、流石に………可哀想かなぁ」
美琴は紐パンを返すと、となりの店へと歩く。小洒落た雑貨屋さん。
ゲコ太を始めとしたファンシーグッズは置いてないので、美琴はあまり御世話になっていないお店だ。
「んー、なかなかいいお店じゃない」
今度から来てみようか、と思いながら、プレゼントになりそうなものを探す。
「御客様、なにかお探しでしょうか?」
「あ、はい。ちょっとクリスマスプレゼントを探してるんです」
キョロキョロとする美琴を見かねて、店員さんが声をかけてくる。
他人の意見も取り入れてみようか、と美琴は店員さんに見繕いをお願いする。
「予算は3000円くらいまでなんですけど、可愛いものありますか?」
「そうですねー。あ、お相手は……彼氏さんですか?」
「あ、いや……友達の女の子にです」
美琴にとって振られたくない話題であった。顔に出なかったか心配になる。
(たぶん、すごく嫌な顔してる)
美琴は店内にあった鏡に目をやる。鏡に映った自分は酷く疲れた顔をしていた。
昨夜は幸せの絶頂にいたのに。今は………
「どうしてよ、当麻」
美琴は自分が弱くなった気がした。想えば想うほど、辛くなる。こんな思いをするなら恋なんてするんじゃなかったかな、と思えるほどに。
と言っても、お互いに交換し合うのだから内容が分からないように個人行動ではある。
その後、合流して買い出しを済ませ、佐天の寮で準備に取り掛かる予定である。
準備と言っても、美琴が自宅から取り寄せてきたツリーを飾って、夕食を作るだけだ。
美琴は店内をプラプラと歩きながら目ぼしいものをピックアップしていく。
「うーん、他人にあげるものとなると……難しいわね」
美琴は顎に手をやりながら頭を捻る。
値段関して言えば、2000円から3000円くらいと初めに決めてはあるので困ることはない。
だが、見た目で『いいな』と思ったものは大概予算オーバーだし、予算で探せばショボイものばかりである。
もちろん予算内で良いものもあるのだが、そこは常盤台のお嬢様。感覚が違うのである。
2000円ではホットドッグくらいしか買えないわ、とは美琴の談である。
この感覚の違いが、上条との生活において後々問題となってくるのだが、それはもう暫し先の話である。
「黒子相手ならフザケたものでもいいけど……初春さん達にはねぇ」
美琴はランジェリーショップの前まで来ると、布があるのか分からないような紐パンを手に取る。
「………うまく初春さんに回れば面白いんだけど……」
美琴は佐天にスカートを捲られている初春を想像する。
「さ、流石に………可哀想かなぁ」
美琴は紐パンを返すと、となりの店へと歩く。小洒落た雑貨屋さん。
ゲコ太を始めとしたファンシーグッズは置いてないので、美琴はあまり御世話になっていないお店だ。
「んー、なかなかいいお店じゃない」
今度から来てみようか、と思いながら、プレゼントになりそうなものを探す。
「御客様、なにかお探しでしょうか?」
「あ、はい。ちょっとクリスマスプレゼントを探してるんです」
キョロキョロとする美琴を見かねて、店員さんが声をかけてくる。
他人の意見も取り入れてみようか、と美琴は店員さんに見繕いをお願いする。
「予算は3000円くらいまでなんですけど、可愛いものありますか?」
「そうですねー。あ、お相手は……彼氏さんですか?」
「あ、いや……友達の女の子にです」
美琴にとって振られたくない話題であった。顔に出なかったか心配になる。
(たぶん、すごく嫌な顔してる)
美琴は店内にあった鏡に目をやる。鏡に映った自分は酷く疲れた顔をしていた。
昨夜は幸せの絶頂にいたのに。今は………
「どうしてよ、当麻」
美琴は自分が弱くなった気がした。想えば想うほど、辛くなる。こんな思いをするなら恋なんてするんじゃなかったかな、と思えるほどに。
「久しぶりだね、上条当麻」
「おう、ステイル。どうしたんだよ、そんな怖い顔して。お前、インデックスと飾り作ってたんじゃねぇのかよ?」
上条が教会で飾り付けをしていると黒い不良神父こと、ステイル=マグヌスがやってきた。
「別に。どうにもこの飾り作りとやらは性に会わなくてね。神裂に代わってもらったよ」
ステイルは溜息をつきつつ、上条に折紙が鎖状になった飾りを手渡す。
インデックスと2人きりなのに耐えられなくなったのでは……ない。
「お、さんきゅー。神裂なら……あれだな、過保護すぎて作業が進まないんじゃねぇか?」
不器用なりにも懸命に作るインデックスと、それを必死に手直しする神裂を想像し、上条は吹き出してしまう。
「どうだろうね?神裂は聖人だからね。すごい速度で作ってるかもしれないな」
そう言いながら、ステイルは懐からルーンのカードを取り出して手で弄ぶ。
「さて、上条当麻。ちょっと来てもらおうか」
「な、なんだよ」
「いいから来い」
ステイルは上条を連れて教会の外に出る。ポケットからルーンの紙切れを投げると、あたりに妙な空気が流れる。
「……人払い、か」
「そうだ。あまり聞かれたくない話なもんでね」
ステイルはそう言うと上条の目の前に立つ。
「上条当麻。これを、左手で持ってもらおうか」
ステイルはラミネート加工されたルーンのカードを上条に差し出す。
「左手?あぁ、右手じゃ『幻想殺し』で壊れちまうからか」
上条はそれを受け取り、興味深そうに見る。
「そんなに面白いものをでもないだろう?」
ステイルは興味深そうな上条に、何を今さら、という顔を向け新しい煙草に火をつける。
いやいや面白いって、と上条は言う。
「この右手でいくつもの魔術をぶっ殺してきたけどよ。こうやってゆっくり見るのは初めてだしな」
これが天使の名前か?と言いつつ、裏表をじっくりと観察する上条にステイルは溜息をつく。
「本題に入るぞ。インデックスの事だ……」
「………」
「僕は言ったはずだ。彼女を泣かせる者は誰であっても許さないと」
ステイルの目が本気になる。上条はその目を真っ直ぐと見返す。
「君は彼女の想いに答えなかった……そうだな?」
「ああ。そうなっちまうな」
上条は僅かに目を伏せると、右手を握りしめる。もしかしたら、ステイルと殴りあうかもしれない。
「確かに俺はインデックスを泣かせちまったかもしれねぇ!それでも、俺は俺のしたことに後悔はしてねぇ」
上条の持つルーンのカードがひしゃげる。それくらい上条には力が入っていた。
「その事に関しては、例え誰にも文句は言わせねぇ。お前にも、インデックスにもだ」
「…………分かった。もういいぞ、上条当麻」
ステイルは人払いを解除すると、上条に興味が失せたかのように教会へと戻っていく。
「ステイル…」
「勘違いするな、僕と君は仲良しさんじゃないんだ」
ステイルは足を止めたはしたものの、上条に振り返ることなく続ける。
「さっき君が僕に謝ったなら、その程度の覚悟だったなら、君の左半身を吹き飛ばすつもりだったんだが……」
上条は左手に持たされたルーンのカードに目をやる。『魔女狩りの王』をも呼びだす、ステイルの作った『大切な人』を護るためのルーン。
上条は思う。ステイルは本気で自分を吹き飛ばそうとしただろうか。
もし本気だったなら、わざわざ潰されるかもしれないカードを――左手であるとはいえ――渡したであろうか?
ステイルなりに、上条を信じてくれていたのではないか。共に、インデックスを思う人間として。
「なぁ、ステイル。このルーン、記念に貰っていいか?」
「……好きにするといい。ただ1つ言っておくぞ、上条当麻。そのルーン、僕はいつでも吹き飛ばせるんだぞ?」
さも、危険なものだと言わんばかりに。気に入らなければ吹き飛ばすぞと言わんばかりに。
「あぁ、分かってる。じゃぁ、貰っとくぜ」
「ふん。何の記念かは知らないが、僕は君の友人じゃないからね。誤爆したときは恨まないでくれよ」
そう言ってステイルは教会に入っていく。
「馬鹿野郎」
上条は思う。何がいつでも吹き飛ばせるだ。何が誤爆だ。ステイルはステイルなりに自分を信じてくれている。
わざわざこんな茶番みたいな事をしてまで、自分の心の内を聞きだして。
(そういうのを、友達っていうんじゃねぇのかよ)
上条は頬を緩めると教会に戻った。
「おう、ステイル。どうしたんだよ、そんな怖い顔して。お前、インデックスと飾り作ってたんじゃねぇのかよ?」
上条が教会で飾り付けをしていると黒い不良神父こと、ステイル=マグヌスがやってきた。
「別に。どうにもこの飾り作りとやらは性に会わなくてね。神裂に代わってもらったよ」
ステイルは溜息をつきつつ、上条に折紙が鎖状になった飾りを手渡す。
インデックスと2人きりなのに耐えられなくなったのでは……ない。
「お、さんきゅー。神裂なら……あれだな、過保護すぎて作業が進まないんじゃねぇか?」
不器用なりにも懸命に作るインデックスと、それを必死に手直しする神裂を想像し、上条は吹き出してしまう。
「どうだろうね?神裂は聖人だからね。すごい速度で作ってるかもしれないな」
そう言いながら、ステイルは懐からルーンのカードを取り出して手で弄ぶ。
「さて、上条当麻。ちょっと来てもらおうか」
「な、なんだよ」
「いいから来い」
ステイルは上条を連れて教会の外に出る。ポケットからルーンの紙切れを投げると、あたりに妙な空気が流れる。
「……人払い、か」
「そうだ。あまり聞かれたくない話なもんでね」
ステイルはそう言うと上条の目の前に立つ。
「上条当麻。これを、左手で持ってもらおうか」
ステイルはラミネート加工されたルーンのカードを上条に差し出す。
「左手?あぁ、右手じゃ『幻想殺し』で壊れちまうからか」
上条はそれを受け取り、興味深そうに見る。
「そんなに面白いものをでもないだろう?」
ステイルは興味深そうな上条に、何を今さら、という顔を向け新しい煙草に火をつける。
いやいや面白いって、と上条は言う。
「この右手でいくつもの魔術をぶっ殺してきたけどよ。こうやってゆっくり見るのは初めてだしな」
これが天使の名前か?と言いつつ、裏表をじっくりと観察する上条にステイルは溜息をつく。
「本題に入るぞ。インデックスの事だ……」
「………」
「僕は言ったはずだ。彼女を泣かせる者は誰であっても許さないと」
ステイルの目が本気になる。上条はその目を真っ直ぐと見返す。
「君は彼女の想いに答えなかった……そうだな?」
「ああ。そうなっちまうな」
上条は僅かに目を伏せると、右手を握りしめる。もしかしたら、ステイルと殴りあうかもしれない。
「確かに俺はインデックスを泣かせちまったかもしれねぇ!それでも、俺は俺のしたことに後悔はしてねぇ」
上条の持つルーンのカードがひしゃげる。それくらい上条には力が入っていた。
「その事に関しては、例え誰にも文句は言わせねぇ。お前にも、インデックスにもだ」
「…………分かった。もういいぞ、上条当麻」
ステイルは人払いを解除すると、上条に興味が失せたかのように教会へと戻っていく。
「ステイル…」
「勘違いするな、僕と君は仲良しさんじゃないんだ」
ステイルは足を止めたはしたものの、上条に振り返ることなく続ける。
「さっき君が僕に謝ったなら、その程度の覚悟だったなら、君の左半身を吹き飛ばすつもりだったんだが……」
上条は左手に持たされたルーンのカードに目をやる。『魔女狩りの王』をも呼びだす、ステイルの作った『大切な人』を護るためのルーン。
上条は思う。ステイルは本気で自分を吹き飛ばそうとしただろうか。
もし本気だったなら、わざわざ潰されるかもしれないカードを――左手であるとはいえ――渡したであろうか?
ステイルなりに、上条を信じてくれていたのではないか。共に、インデックスを思う人間として。
「なぁ、ステイル。このルーン、記念に貰っていいか?」
「……好きにするといい。ただ1つ言っておくぞ、上条当麻。そのルーン、僕はいつでも吹き飛ばせるんだぞ?」
さも、危険なものだと言わんばかりに。気に入らなければ吹き飛ばすぞと言わんばかりに。
「あぁ、分かってる。じゃぁ、貰っとくぜ」
「ふん。何の記念かは知らないが、僕は君の友人じゃないからね。誤爆したときは恨まないでくれよ」
そう言ってステイルは教会に入っていく。
「馬鹿野郎」
上条は思う。何がいつでも吹き飛ばせるだ。何が誤爆だ。ステイルはステイルなりに自分を信じてくれている。
わざわざこんな茶番みたいな事をしてまで、自分の心の内を聞きだして。
(そういうのを、友達っていうんじゃねぇのかよ)
上条は頬を緩めると教会に戻った。
「お客様、これなんてどうでしょうか?」
店員さんは店の奥から小さな黒い球体を持ってきた。
「1世代古いものですので、お値段もご予算の範囲内です」
あまりお洒落とは言えない、何に使うかもわからない。
「あの、これは?」
「あぁ、これはですね。お風呂用のプラネタリウムなんですよ」
店員さんはにっこりと商業スマイル全開で、スイッチを入れる。
明るい店内では良く分からないが、小さな穴から光が漏れているように見える。
「あー、なるほど。お風呂に入りながら見れるってやつですね」
美琴は暫く考えた後、勧められた通りお風呂用プラネタリウムを購入する。
「では、包装致しますので少々お待ち下さいませ」
店員さんは丁寧にお辞儀をすると、カウンターの裏へと入っていく。
美琴はポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
(まだ時間はあるみたいだけど、どうしようかな)
ブラブラと何かを見て回ってもいいし、ジュースでも飲んで待ってるのもいい。
お待たせしました、と笑顔で出てきた店員さんから紙袋を受け取り、美琴は店の外に出る。
クリスマスイブという事で、カップルもちらほらと見える。
美琴は、ほぅっと息を吐く。
(あーあ、なんでこんなにイライラしてるんだろう)
美琴は右頬をパシッと叩き、首を振る。
(気持ちを入れ替えないと。他の3人にまで辛い空気を撒かないように)
「御坂さーん!」
美琴が声の方に振り向くと、佐天が元気よく駆け寄ってきた。
「御坂さんは、もう決まりましたか?」
「うん、一応ね」
美琴は手に持った紙袋を掲げる。
「佐天さんは?」
「あたしも決まりましたよ―。いやー、良いものがありました」
佐天は天真爛漫な笑顔で手に持った袋を見せる。ニヤニヤとしてるあたり、良いものというより面白いものな気がしないでもない。
「あ、御坂さんはこの後どうされるんですか?」
まだ集合までは時間ありますけど、と付け足し、佐天が問いかける。
「うーん。喫茶コーナーにでも行こうかな。佐天さんは?」
「ご一緒してもいいですか?」
「うん。じゃ、行きますか」
はーい、と元気良くついてくる佐天に顔を見られないように、美琴は目を伏せた。
(気持ちを切り替えなきゃいけないのは分かってるんだけどね)
美琴は上条との一件を引きずったままの自分の弱さを嫌悪する。
「御坂さん?」
気付けば佐天が心配そうな顔で見ていた。
「あ、ごめんね」
「いえいえ。御坂さん、なにかお悩み事ならお聞きしますよ?」
いつものからかう様な感じではなく、本当に心配そうな顔の後輩に甘えようかとも思う。
今まで、何度か佐天の気持ちを考えない発言をしてきたというのに。そんな自分を本気で友達だと言ってくれ、心配までしてくれる。
(後輩に面倒みて貰うようじゃ、私もまだまだね)
そんな事を言えば『そんなの先輩・後輩なんて関係ないですよ』なんて言われそうだ。
「ありがとう、佐天さん」
店員さんは店の奥から小さな黒い球体を持ってきた。
「1世代古いものですので、お値段もご予算の範囲内です」
あまりお洒落とは言えない、何に使うかもわからない。
「あの、これは?」
「あぁ、これはですね。お風呂用のプラネタリウムなんですよ」
店員さんはにっこりと商業スマイル全開で、スイッチを入れる。
明るい店内では良く分からないが、小さな穴から光が漏れているように見える。
「あー、なるほど。お風呂に入りながら見れるってやつですね」
美琴は暫く考えた後、勧められた通りお風呂用プラネタリウムを購入する。
「では、包装致しますので少々お待ち下さいませ」
店員さんは丁寧にお辞儀をすると、カウンターの裏へと入っていく。
美琴はポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
(まだ時間はあるみたいだけど、どうしようかな)
ブラブラと何かを見て回ってもいいし、ジュースでも飲んで待ってるのもいい。
お待たせしました、と笑顔で出てきた店員さんから紙袋を受け取り、美琴は店の外に出る。
クリスマスイブという事で、カップルもちらほらと見える。
美琴は、ほぅっと息を吐く。
(あーあ、なんでこんなにイライラしてるんだろう)
美琴は右頬をパシッと叩き、首を振る。
(気持ちを入れ替えないと。他の3人にまで辛い空気を撒かないように)
「御坂さーん!」
美琴が声の方に振り向くと、佐天が元気よく駆け寄ってきた。
「御坂さんは、もう決まりましたか?」
「うん、一応ね」
美琴は手に持った紙袋を掲げる。
「佐天さんは?」
「あたしも決まりましたよ―。いやー、良いものがありました」
佐天は天真爛漫な笑顔で手に持った袋を見せる。ニヤニヤとしてるあたり、良いものというより面白いものな気がしないでもない。
「あ、御坂さんはこの後どうされるんですか?」
まだ集合までは時間ありますけど、と付け足し、佐天が問いかける。
「うーん。喫茶コーナーにでも行こうかな。佐天さんは?」
「ご一緒してもいいですか?」
「うん。じゃ、行きますか」
はーい、と元気良くついてくる佐天に顔を見られないように、美琴は目を伏せた。
(気持ちを切り替えなきゃいけないのは分かってるんだけどね)
美琴は上条との一件を引きずったままの自分の弱さを嫌悪する。
「御坂さん?」
気付けば佐天が心配そうな顔で見ていた。
「あ、ごめんね」
「いえいえ。御坂さん、なにかお悩み事ならお聞きしますよ?」
いつものからかう様な感じではなく、本当に心配そうな顔の後輩に甘えようかとも思う。
今まで、何度か佐天の気持ちを考えない発言をしてきたというのに。そんな自分を本気で友達だと言ってくれ、心配までしてくれる。
(後輩に面倒みて貰うようじゃ、私もまだまだね)
そんな事を言えば『そんなの先輩・後輩なんて関係ないですよ』なんて言われそうだ。
「ありがとう、佐天さん」
「さって、大体こんなもんか」
上条は額の汗を拭い、脚立から降りる。
「あとは料理くらいか……」
この手の作業で全く使えない子状態のステイルは相変わらず煙草をぷかぷかとやっている。
神裂はインデックスのつまみぐいを防ぎつつ、バカでかいクリスマスツリーと格闘している。
残る天草式のメンバーは各々料理を作ったり掃除をしたりと忙しそうだ。
そんな中、教皇代理の建宮斎字だけはちらちらと上条の方を見ている。
「な、なんなんだ?」
まるで恋する女の子がやるような建宮の目線の送り方に、上条は冷や汗をかく。
(どうせなら五和や神裂なら良かった)
そこまで考えて、上条は何を想像したのか、恐ろしいものを見たような顔をした後肩を落とす。
(いや、いかんっ!俺としたことがあの堕天使を思い出すとは……不覚っ)
堕天使とは、間違っても『御使堕し』の時のミーシャ=クロイツェフの事ではない。
「うおぉぉぉぉっっ!この幻想もぶち殺したいっ!」
上条はそのトラウマになりかねない記憶を末梢すべく『幻想殺し』を頭部に持ってくる。
バキンッ!なんて音がするわけもなく、図らずも脳裏に残されてしまった堕天使の姿は消えることはなかった。
上条はブンブンと首を振って気を取り直す。口元がぴくぴくと緩んでしまうのを必死で我慢する。
「今、神裂に会ったらダメだ。絶対に―――」
「女教皇様がどうかしましたか?」
「のうわぁっ!?」
ぶはっ、と変な声をあげ、上条は背後の人物から距離をとる。
「いいいいいい五和サン?いつから聞いてらっしゃったんでせうか?」
「『この幻想も…』ってあたりからですけど」
「……………不幸だ」
がくんっ、と肩を落とし、気の毒になるくらい落ち込む上条に、五和はきょとんとするしかない。
「あ、すいませんっっ!もしかして、聞いちゃいけない事でしたか?」
「いいやっ、五和さん!気にすることなんかないですのよっ!紳士である上条さんが五和や神裂がエロい天使さんや精霊さんになるなんて想像もしておりません!」
沈黙。
上条の口から放たれた言葉によって、重苦しい空気が流れる。
言った上条は真っ青に。言われた五和は真っ赤に。間にオレンジでもおけば信号になりそうである。
「あわわわわわわわっ!?わ、私がですか?」
「いいいいいいい五和さん、それは幻想、じゃない幻聴ですっ。忘れてくださいませ……」
上条は真っ赤になった五和の前で土下座の体勢に入る。上条にとって慣れてしまったその姿にはもはや貫禄すら漂う。
「…………その、あなたが見たいって言うなら………着てもいいですけど」
「はい?」
五和は真っ赤な顔で体の前で手をもじもじとしながら呟く。
「えっと………五和さんはあのエロい精霊さんに興味があるとおっしゃるのでせうか?」
「きょ、興味なんてないです!それに、エロくなんてっ」
上条が顔をあげると、五和は手はもじもじ、顔は真っ赤、眉は吊り上げの器用な状態を維持していた。
(あれ、怒ってんのか……照れてんのか……あの姿はエロくないんかよ?)
上条は頭の上にクエスチョンマークを大量に飛ばしながら、思いついたままの事を言う。
「五和的にはあの格好はエロくないとっ!?もっとハードなのをっぐえっ―――」
ぷんぷんと怒る五和が後にした部屋には、気を失って横たわる上条の身体があった。
上条は額の汗を拭い、脚立から降りる。
「あとは料理くらいか……」
この手の作業で全く使えない子状態のステイルは相変わらず煙草をぷかぷかとやっている。
神裂はインデックスのつまみぐいを防ぎつつ、バカでかいクリスマスツリーと格闘している。
残る天草式のメンバーは各々料理を作ったり掃除をしたりと忙しそうだ。
そんな中、教皇代理の建宮斎字だけはちらちらと上条の方を見ている。
「な、なんなんだ?」
まるで恋する女の子がやるような建宮の目線の送り方に、上条は冷や汗をかく。
(どうせなら五和や神裂なら良かった)
そこまで考えて、上条は何を想像したのか、恐ろしいものを見たような顔をした後肩を落とす。
(いや、いかんっ!俺としたことがあの堕天使を思い出すとは……不覚っ)
堕天使とは、間違っても『御使堕し』の時のミーシャ=クロイツェフの事ではない。
「うおぉぉぉぉっっ!この幻想もぶち殺したいっ!」
上条はそのトラウマになりかねない記憶を末梢すべく『幻想殺し』を頭部に持ってくる。
バキンッ!なんて音がするわけもなく、図らずも脳裏に残されてしまった堕天使の姿は消えることはなかった。
上条はブンブンと首を振って気を取り直す。口元がぴくぴくと緩んでしまうのを必死で我慢する。
「今、神裂に会ったらダメだ。絶対に―――」
「女教皇様がどうかしましたか?」
「のうわぁっ!?」
ぶはっ、と変な声をあげ、上条は背後の人物から距離をとる。
「いいいいいい五和サン?いつから聞いてらっしゃったんでせうか?」
「『この幻想も…』ってあたりからですけど」
「……………不幸だ」
がくんっ、と肩を落とし、気の毒になるくらい落ち込む上条に、五和はきょとんとするしかない。
「あ、すいませんっっ!もしかして、聞いちゃいけない事でしたか?」
「いいやっ、五和さん!気にすることなんかないですのよっ!紳士である上条さんが五和や神裂がエロい天使さんや精霊さんになるなんて想像もしておりません!」
沈黙。
上条の口から放たれた言葉によって、重苦しい空気が流れる。
言った上条は真っ青に。言われた五和は真っ赤に。間にオレンジでもおけば信号になりそうである。
「あわわわわわわわっ!?わ、私がですか?」
「いいいいいいい五和さん、それは幻想、じゃない幻聴ですっ。忘れてくださいませ……」
上条は真っ赤になった五和の前で土下座の体勢に入る。上条にとって慣れてしまったその姿にはもはや貫禄すら漂う。
「…………その、あなたが見たいって言うなら………着てもいいですけど」
「はい?」
五和は真っ赤な顔で体の前で手をもじもじとしながら呟く。
「えっと………五和さんはあのエロい精霊さんに興味があるとおっしゃるのでせうか?」
「きょ、興味なんてないです!それに、エロくなんてっ」
上条が顔をあげると、五和は手はもじもじ、顔は真っ赤、眉は吊り上げの器用な状態を維持していた。
(あれ、怒ってんのか……照れてんのか……あの姿はエロくないんかよ?)
上条は頭の上にクエスチョンマークを大量に飛ばしながら、思いついたままの事を言う。
「五和的にはあの格好はエロくないとっ!?もっとハードなのをっぐえっ―――」
ぷんぷんと怒る五和が後にした部屋には、気を失って横たわる上条の身体があった。
「でね、理由も告げずに逃げられちゃったのよ」
あーもうイラつく、と美琴は空になった紙コップを握る。怒りの矛先となった不憫な紙コップは、クシャっという音と共に綺麗に握りつぶされた。
(なるほどー。それでですか)
佐天は目の前で愚痴る美琴を宥めながら、この後どうすべきかを考える。
あれだけ悩み事を打ち明ける事を渋っていたというのに、喋りだすと聞いてもいない惚気話を挿みながら教えてくれる。
佐天はそんな美琴の一面を見れた事に喜びを感じる。
「御坂さん、その話って直接、上条さんから聞いたんですか?」
「そうよ。今日の朝にメールで」
美琴は佐天に話すことでイライラが復活したのか、さっきまでコップの形をしていたものは球体となっている。
「うーん。上条さんには、御坂さんにも言えないような理由があるってことですよね」
佐天は目の前の恋するレベル5が噴火させないように言葉を選びながら喋る。
「えっと、ご自宅はご存知なんですよね?お話してみられてはどうでしょうか?」
「えっ………」
(考えもしなかった)
美琴は固まる。上条からの断りのメールを見た瞬間からイライラしっぱなしだった美琴は思いつきもしなかった。
確かに、面と向かって問い正せばメールより効果はあるだろう。
だが相手は上条だ。頑なに口を割らないかもしれない。
「本当はすぐにでも送り出したいところなんですが、上条さんも今日はご用事なんですよね」
だったら今夜にでもお部屋に伺えば良いと思います、と佐天は続ける。
(答えてくれないかもしれない。言いたくない事は聞くべきじゃないのかもしれない。それでも)
美琴は肩の力を抜き、怒りを鎮めるように大きく息を吐く。
(話だけでも聞いてみる)
その決意が表情に出たのか、佐天は美琴を見て微笑んでいた。
美琴はそんな佐天を見つめ返する。
(ほんとうに、助けられっぱなしだわ)
美琴は微笑む。何もできない自分への笑いか、佐天への頬笑み返しか。
「ありがとう、佐天さん」
もう一度、繰り返す。レベル0でも、能力が使えなくても、強い目の前の少女に。
「いえいえ。御坂さんには『幻想御手』ののときに御世話になりましたし」
お互い様ですね、と笑う。美琴はそんな佐天に心が落ち着いていくように感じる。
「ほんとうに、御世話になりっぱなしだわ。貴方達には頭が上がらなくなるわね」
「レベル5の、お嬢様なのにですか?」
佐天は皮肉ではなく、その事実が可笑しいようにクスクスと笑っている。
「なにかお礼しないとね。何がいいかな?」
「そうですねー。ファーストネームで呼びあうとかは?」
いつもの冗談を言う調子で佐天が提案する。
(ふふん。偶にはお返ししておきますか)
いつもからかわれている美琴にとって、めったに訪れない好機。逃す手はない。
「おーけー。これからは涙子、って呼べばいいかしら?」
「うっ、みみみ御坂さんっ」
「み・こ・と・さ・ん!なんなら呼び捨てでもいいけど?」
美琴は佐天の目の前でピッと人差し指を立ててたしなめる。
「わわわ、冗談のつもりだったんですけど」
「あれ、涙子は私を名前で呼びたくないの?距離感じるわね」
美琴はわざとらしく目を伏せる。視界の端の佐天の顔は真っ赤で、目はおろおろとしている。
「そ、そんな事はないですよ、み……美琴さん」
ずきゅーん。
そんな音が聞こえたような気がするくらい、美琴の心に何かが突き刺さる。
普段は天真爛漫な佐天の恥じらう姿。
(当麻……なんか、良くわかんないけど、ごめん)
あーもうイラつく、と美琴は空になった紙コップを握る。怒りの矛先となった不憫な紙コップは、クシャっという音と共に綺麗に握りつぶされた。
(なるほどー。それでですか)
佐天は目の前で愚痴る美琴を宥めながら、この後どうすべきかを考える。
あれだけ悩み事を打ち明ける事を渋っていたというのに、喋りだすと聞いてもいない惚気話を挿みながら教えてくれる。
佐天はそんな美琴の一面を見れた事に喜びを感じる。
「御坂さん、その話って直接、上条さんから聞いたんですか?」
「そうよ。今日の朝にメールで」
美琴は佐天に話すことでイライラが復活したのか、さっきまでコップの形をしていたものは球体となっている。
「うーん。上条さんには、御坂さんにも言えないような理由があるってことですよね」
佐天は目の前の恋するレベル5が噴火させないように言葉を選びながら喋る。
「えっと、ご自宅はご存知なんですよね?お話してみられてはどうでしょうか?」
「えっ………」
(考えもしなかった)
美琴は固まる。上条からの断りのメールを見た瞬間からイライラしっぱなしだった美琴は思いつきもしなかった。
確かに、面と向かって問い正せばメールより効果はあるだろう。
だが相手は上条だ。頑なに口を割らないかもしれない。
「本当はすぐにでも送り出したいところなんですが、上条さんも今日はご用事なんですよね」
だったら今夜にでもお部屋に伺えば良いと思います、と佐天は続ける。
(答えてくれないかもしれない。言いたくない事は聞くべきじゃないのかもしれない。それでも)
美琴は肩の力を抜き、怒りを鎮めるように大きく息を吐く。
(話だけでも聞いてみる)
その決意が表情に出たのか、佐天は美琴を見て微笑んでいた。
美琴はそんな佐天を見つめ返する。
(ほんとうに、助けられっぱなしだわ)
美琴は微笑む。何もできない自分への笑いか、佐天への頬笑み返しか。
「ありがとう、佐天さん」
もう一度、繰り返す。レベル0でも、能力が使えなくても、強い目の前の少女に。
「いえいえ。御坂さんには『幻想御手』ののときに御世話になりましたし」
お互い様ですね、と笑う。美琴はそんな佐天に心が落ち着いていくように感じる。
「ほんとうに、御世話になりっぱなしだわ。貴方達には頭が上がらなくなるわね」
「レベル5の、お嬢様なのにですか?」
佐天は皮肉ではなく、その事実が可笑しいようにクスクスと笑っている。
「なにかお礼しないとね。何がいいかな?」
「そうですねー。ファーストネームで呼びあうとかは?」
いつもの冗談を言う調子で佐天が提案する。
(ふふん。偶にはお返ししておきますか)
いつもからかわれている美琴にとって、めったに訪れない好機。逃す手はない。
「おーけー。これからは涙子、って呼べばいいかしら?」
「うっ、みみみ御坂さんっ」
「み・こ・と・さ・ん!なんなら呼び捨てでもいいけど?」
美琴は佐天の目の前でピッと人差し指を立ててたしなめる。
「わわわ、冗談のつもりだったんですけど」
「あれ、涙子は私を名前で呼びたくないの?距離感じるわね」
美琴はわざとらしく目を伏せる。視界の端の佐天の顔は真っ赤で、目はおろおろとしている。
「そ、そんな事はないですよ、み……美琴さん」
ずきゅーん。
そんな音が聞こえたような気がするくらい、美琴の心に何かが突き刺さる。
普段は天真爛漫な佐天の恥じらう姿。
(当麻……なんか、良くわかんないけど、ごめん)