とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part07

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今日はバイト最終日だ。
上条当麻はその事実に気分が少しハイになっている。

(これが終われば上条さんの貧乏生活に終止符がー! やっほおおおおい!!)

思わずガッツポーズをしそうになってしまったが、なんとか抑える。
なぜなら今は絶賛バイト中だからだ。ここで問題でも起こしてクビになろうものならショックで生きていけない気がする。
故に、上条はいつになく用心深くバイトをしていた。

(…………………でも)

食器を洗っていた手を止めて、入り口の方をチラリと見る。
扉が開いたわけでも、その音が聞こえたわけでもないが、見てしまう。


御坂美琴が来ない。


いつの間にか美琴がやってくるのがどこか楽しみになっていた自分がいることに気づく。
美琴の存在は、いつの間にか自分に大きな影響を与えていたらしい。
2日3日会えないというだけで、寂しいと感じてしまう。

(~ッ! バイトバイトっと)

再び手を動かして、バイトに専念する。寂しさを紛らわす様に。
ただ、その手も少し時間が経つと止まってしまい、入り口の方を見てしまう。扉が開く音が聞こえたらすぐに見てしまう。
そして、客は美琴でないことを知って、落胆する。その繰り返し。店長に怒られても、それは治らなかった。
バイトの先輩にはニヤニヤしながら「頑張れよ」とか言われたが、意味が分からなかった。




結局、御坂美琴は来ないまま、バイトは終わる。




「はぁー……。終わったー。不幸なことが起きずにバイトを終わらせられるなんて、上条さんにも幸運の女神でも降りてきたんですかねー?」

バイトからの帰り道。上条は少し嬉々のした表情で歩いていた。
隣に誰もいないことを寂しく思いながら。

(御坂が来ないなんて、何かあったのか?)

そんな考えにたどり着いたとき、上条は急に不安に襲われた。
もしかしたら、また美琴は何かに巻き込まれているのかもしれない。
もしかしたら、また絶望に打ちひしがれているのかもしれない。助けを求めずに一人で何かをしているのかもしれない。
―――人知れず、泣いているのかもしれない。

「ッ」

上条はすぐに猫のストラップがついた携帯電話を取り出すと、アドレス帳を開き、一番上に登録されている番号に電話をかけた。
プルルルルッと電子音が鳴り始める。
その時間が異常に長く感じられた。
早く出てほしい。いつもの勝気で元気な声を聞かせてほしい。この心配は杞憂であってほしい。そんな思いに駆られた。

『な、なにか用?』

電話が繋がる音とともに、そう言われた。
上条は心底安堵した。よかった、と。
だけど、そこで気づく。声が聞きたくて、安否を確かめたくて電話をしたのだ。
つまり、上条の用事はこれで終わってしまったことになる。
だが、いくらなんでもこのまま切ってしまうのはどうかと思う。
それはつまり、何かしら用件を作って言わなければいけないわけで。

『……どうかしたの?』

どうしようかと思っていると、逆に心配されてしまった。
それに、上条は焦ってしまい、

「会いたい」
『…………………………………………………え?』

そんなことを言ってしまった。
美琴はたっぷり時間を置いてから訊き返してきた。
一度言ってしまった言葉を取り返すのは気が引けて、

「え…………えっと、今から会えるか? 自販機のところにいるからさ」
『え? ………ぁ、うん。大丈夫。今から行くね』

そういうと、美琴は電話を切った。
上条は言ってしまった後頭を抱えて唸り始めた。

(ななななんで「会いたい」とか言ったんですか俺はー!? そりゃまあ今日は珍しく来てなくて寂しいとか思ってたのは事実なんだけど「会いたい」ってぇー!?)

御坂美琴は呆然としていた。
原因は、先ほどの電話。
いきなり気になるアイツから電話がかかってきたと思えば、「会いたい」と言われたのだ。驚くに決まっている。

(なんでアイツはいきなりあんなことを言ってくるのよーっ!? わわっ、私に会いたいって、期待しちゃうじゃないのよあの馬鹿ーっ!!!!)

しばらく寮のベッドの上で悶々としていたが、上条のもとへ行かなくてはならない。
長い間待たせてしまうのは悪い。

(といっても、アイツは私を30分以上待たせたんだけどねー)

少し身だしなみを整えて、美琴は寮から出る。
白井黒子は風紀委員の仕事らしく、今はいなかった。

(でも、どうしていきなり呼ばれたんだろう? あ、会いたいって…………。も、ももも、もしかして告白!?)

瞬間的にその場面を想像して、自販機に向かって歩いている美琴の顔は瞬時に真っ赤に染め上げられた。
すぐに美琴は頭を横にブンブンと振って、その想像を追い払おうとする。だが、それは消えずに粘り強く残り続ける。
周りから見たら「あの人何やってんの?」状態なのだが、美琴はそんなことに気づく余裕はない。
舞い上がりそうな気持ちとバクバクといっている心臓をどうにか抑えようと必死になっているからだ。

(で、でで、でも。そんなことあるはずないわよね……。アイツに限って。…………いや、でも、初春さん達によると「ノーコメント」って………)

否定しては思い直し、否定しては思い直す。しばらくそれを続けていると、待ち合わせ場所の自販機前が見えてきた。
その、近くのベンチに、電話をかけてきた人物は座っていた。

(………………何やってんのかしら)

接近に気づいた様子もなく、ツンツン頭の少年は頭を抱えて唸っていた。
何だか、さっきまでの自分がバカらしく思えて、熱は急に冷めてしまった。
なんだか知らないけれど、少年は悩んでいるらしい。
またか、と思いつつため息を吐いて、美琴は少年に話しかけた。

「何やってんのよ?」

そんな声が聞こえて上条はその声の方へ振り向くと、御坂美琴が腕を組んで立っていた。
頭を抱えていた手を下ろす。

「あ、あー。…来たのか」
「アンタが呼んだんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどな」

少し不思議そうな顔をした後、美琴は話を切り出してきた。

「で? 今度は何に巻き込まれてるわけ?」
「……は?」

いきなり何を言い出すんだろう、この人は。
そんなことを思ったが言わないでおく。言えばきっと電撃が飛んでくる。

「は? じゃないわよ。巻き込まれてるんじゃないの? 頭抱えて唸ってたじゃない」
「あ、あー」

頭をガリガリと掻きながら上条は納得する。
どうやら勘違いをしているらしい。
だが、ここで弁解したらしたらで、今度は本当の理由を言わなくてはならない。
どうしようか迷っていると、

「私を呼んだ理由はそれじゃないの? 早く言いなさいよ」
「い、いや。今回は別に巻き込まれてるわけじゃないぞ」
「…………だったら何よ?」

美琴は怪訝そうな表情で訊ねてくる。ここで美琴は胸中密かに期待していたりしているのだが、その態度から上条は気づかない。
巻き込まれていないと言ってしまったからには、どうにか誤魔化すしかない。

「いやー……。御坂さんが元気そうで何よりです」
「…………はい?」

美琴は訳が分からないといった表情で訊き返してきた。
だが、上条は嘘は言っていない。電話だけではなく実際に元気そうな声を聞けて上条はとても安堵していた。
ついでに時間を稼ぐ意味でもあったのだが、結局稼いでも思い浮かばなかった。

「…………御坂さん」
「な、何?」
「笑わないで聞いてくれますか」
「え? う、うん。笑わない」

何だか前にも似たような会話があったなと思いつつ、上条は正直に暴露することにした。

「何も考えてないんです」
「……………………………………………………、はい?」
「だから、会ったのはいいけれど何も考えてなかったんです」
「へ?」

どうやら美琴は訳が分からないらしい。少し口を開けてポカンとしていた。
上条はこの際だから言わずに流れを変えることにした。

「……ま、いいや。ちょっと喉渇かないか? ちょっと自販機でなんか買ってこようか?」
「あ、ならヤシの実サイダーでいいわよ。って違う! さっきのはどういう意味よ?」
「お前、本当にヤシの実サイダー好――――――ッ!?」

上条は言いかけて止まる。今、何を言おうとした?
「す」で始まるあの言葉が、何故か頭から離れない。

「いきなりどうしたのよ?」

美琴の言葉が耳に入ってきて、上条は美琴に目を向ける。
すると、今度は美琴の顔から目を離せなくなった。
髪、額、眉、眼、鼻の順に上条の目が移る。その目が唇に行ったとき、上条はそこで完全に止まってしまった。

「ちょっと? アンタ、ホントにいきなりどうしたのよ? どこか具合でも悪いわけ?」

美琴は上条に近づいて肩を揺さぶる。だが、それでも上条は反応しない。
上条の脳は、「す」で始まる言葉と、美琴の顔の情報でいっぱいになってしまっていた。
美琴が近づいたせいか、上条の心臓の鼓動が速くなる。

「どうしたのよ?」
「ぁ………悪い。ちょっとボーッとしてた」

本当に心配そうな顔をして訊いてくる美琴の顔を見て、上条はようやく我に返る。
どう考えたってちょっとボーッとしてたでは済むレベルじゃないので、当然。

「何がボーッとしてた、よ。何かあったんでしょ? いいなさいよ」
「………ヤシの実サイダー買ってくる」
「ちょっ、無視するんじゃないわよ!」

美琴は上条の腕を掴んで離さない。まあ、当然の行動である。

「……とても人に言える内容ではないので聞かないでください」
「何よ、それ」

上条としては当然、言えるはずがない。まだ整理すらついていないのだ。
ある言葉が頭から離れなくなったと思ったら、美琴の顔から目が離せなくなったりしたのだ。
ソレが何を意味するのか。答えは出たようなものだったが、まだ混乱していた。
だが、美琴は上条の言葉を信用していなかった。普段の上条の行動を考えると、また何かに巻き込まれていると考えるのも当然だった。まさか、ひょんなことから美琴に関係していることだとは思えるはずがない。

「わかったわよ」

だけど、美琴は聞かなかった。聞いても答えてはくれないと思ったから。
その代わりに、話題を元に戻すことにした。

「結局、なんで呼んだのよ?」
「う、ぅううううぅぅうううううぅぅうううう…………」
「え? な、なんでまた頭抱えて唸りだすのよ!?」

また頭を抱えだした上条に美琴は慌てる。
そんな美琴に、上条はポツリと呟いた。

「………だから、考えてなかったんだよ。呼んだ理由」
「…………………………………………………へ?」

美琴は固まったように動かなくなった。
上条はその様子にバツが悪そうに頭をポリポリと掻く。

「と、とにかくどっか行こうぜ。そ、そうだなーゲーセンでも行くかー?」
「へ? あ………うん」

なんかよくわからないまま美琴は頷いたので、2人はなんだかんだでゲーセンへ行くことにする。
ゲーセンへ向かう間、美琴は何か考え事をしていたのか会話はなかった。
上条にとってはそれはかえって嬉しいことでもあった。頭の中を整理できるから。

「……何やる?」
「何でもいいわよ」
「じゃあ、対戦でもすっか」

2人はゲーセンに着くととりあえず何かゲームをすることにした。
最初は対戦ゲームをするのだが、どこか2人が使うキャラの動きがぎこちない。対戦しながら別のことを考えていたからだった。
それでも、なんとか上条が辛勝した。

「なんか、ギリギリだったな」
「ホントね。1ミリ差って感じだったもんね」
「じゃあ、また1000円でも賭けるか?」
「ん。いいわよ。なら、次はパズルね」
「あいよ」

あの時と同じく、今度はパズルゲームをする。賭けることにしたからか、2人の動きは先ほどよりはよかった。だけど、あの時程ではない。
結局、美琴が勝利した。これもまたギリギリで。

「ま、またなんかギリギリだったわね」
「そうだな。なら、次はまたあのレースゲームで終わりにすっか?」
「いいわよ」

どことなく2人は上の空で、レースゲームを開始する。
お互いがお互いの事を微妙に意識しながら、レースは続いていく。
だが、あの時とは違い、デッドヒートとはならず、大きく差をつけて上条が勝利した。美琴が終盤でミスをしてしまったからだった。

「あちゃー。負けちゃったわね。はい、1000円」
「ん、おう」

なんだか作業のように淡々としている。つまり、盛り上がらなかったのだ。
お互いどこか乗り気じゃなかったのだろう。上条自身、何故賭けようと言い出したのかわからない。
だけど、どうせならあの時と同じルートを辿りたいと思った。

「「ねえ」」
「「あ」」

2人は同時に話しかけてしまい、どこか気まずそうに同時に視線を逸らす。
だが、すぐに気をとりなおして、上条は美琴に言う。

「そっちからでいいぞ」
「え? い、いやそっちからでいいわよ」
「そうか。じゃあさ、次は休憩代わりに適当に見て回ろうぜ」
「あ、うん。私もそう思ってたとこ」

2人は今度はゲーム機器が置いてある地帯からUFOキャッチャーが置いてある地帯へと移動することにした。
そして、あの時と同じUFOキャッチャーの前で止まる。

「あの猫のぬいぐるみはねえな」
「そうね。アレで最後だったのかしら」

その猫のぬいぐるみの他にも可愛いものならあったのだが、どうやら美琴は取る気がないようだ。
突然美琴は上条の方を向く。

「というか、今行ってるとこって、前にも行ったとこ行ってるわよね? 何か理由でもあるの?」
「おー。そういえばそーだったな。いやー、気づかなかった。じゃあ、この際だからアクセサリーショップにも行きますかー」

思い切り棒読みで、上条は答えた。どこからみたって嘘であることがバレバレである。
美琴は上条のそんな様子にため息を吐く。けれど、その表情はどこか嬉しそうにしながら。2人はアクセサリーショップへと向かった。

「で、何しに来たのよ?」
「いや、特に理由はないけどな」

2人はアクセサリーショップの中でそんな会話をしていた。
これまた、美琴が目を輝かせていた場所で。

「ん? これ、どこか御坂に似てねえか?」
「え? どっ、どこがよ!?」
「ほら、この茶色いところとか、どこか勝気な目のところとか」

上条はストラップを見ていた。これまた猫の。
その猫は茶色で、雰囲気が美琴に似ている。と上条は思った。

「これってあの猫と何か関係してるんかな?」
「知らないわよ。そんなの。仮にあったとして、どんな関係なのよ?」
「ん? 例えばこ――――友達とか?」

一瞬、『恋人』と言いそうになってしまい、止める。まだ、そういう言葉は言える気がしない。何だか、凄く恥ずかしい。
美琴は上条の様子には気づかなかったようだ。

「友達、ねぇ」

美琴は一瞬寂しそうな表情を浮かべたが、上条は気づかなかった。

「よーし、ならこの上条さんが御坂さんの為にこの猫を買ってあげよう」
「えぇ!? な、なななんでそうなるのよ?」
「んー? この前の猫のお礼?」
「お礼って、あの時私はUFOキャッチャーのお礼で買ってあげたのよ!? それに対するお礼ってもう訳がわかんないじゃない!!」
「じゃあ、もう単純にプレゼントでいいよ」
「プ、プレッ!!!???」

上条は美琴が顔を真っ赤にして俯いて何かボソボソとしゃべっているのを尻目にストラップを買ってくることにした。なんだか、無性に買いたくなったのだ。他に他意はない、と思う、多分。
上条がストラップを買って戻ってくると、美琴はまだ俯いて呟いていた。上条は少し頭を掻いて、美琴の手をとってその手にストラップを置く。

「ほれ」
「へ? これって……、あ、あああアンタ買ったわね!!?? お礼にお礼って意味が」
「プレゼントって言ったじゃん」
「……な、なんでいきなりプレゼントすんのよ?」
「んー? なんとなく、かな」
「なんとなくってアンタねぇ……」
「で、気に入ったか?」
「う、うぅ、き、気に入ったに決まってんでしょこのバカ!!!!」
「……そ、そーか、それはよかった」

美琴は袋からストラップを取り出すと早速携帯につけ始める。妙にその作業に集中しているような気がするが、気にしないことにした。
美琴はストラップをつけ終えると、上条に訊ねる。

「で、この後どうすんのよ?」
「そーだなー。とりあえずどっか歩くか」

2人は並んで目的地を決めもせずに歩く。
上条が自転車に轢かれそうになったり、フラグを立てたりといったハプニングがあったりしたが、なんだかんだで落ち着けそうな場所へとやってくることができた。
その場所は、鉄橋だった。

「なあ」
「…何よ?」
「……人を好きになるって、苦しくて辛いんだな」
「へ? ………いい、いきなり何言ってんのよ?」
「ん~? まあ、確かにらしくないか」
「な、何でいきなりそんな話するのよ?」
「……………俺、お前のことが好きなんだ」

真剣な眼差しで上条は美琴へと告げた。
美琴は言葉を聞いた瞬間からその表情のまま固まっていた。
何かおかしなことでも言ったのだろうか。なんてことを考えていると、美琴が物凄く小さな声で。

「………………ホントに?」
「え? 今言った言葉を嘘だとお思いになるのでせうか!?」
「ホントなのね? ホントのホントに………ぅ」
「って、え? な、ななななんで!? なんで!!??」

上条は完全に焦った。何故なら想いを告げた相手が涙を流していたから。
どうしようかと悩んでいると、美琴は突然上条に抱きついた。

「よかった………、私もね? アンタのこと、好き」
「…………マジ?」
「ホントよ。先を越されちゃったけど、ね」
「はい?」
「私も告白するつもりだったのよ。明日くらいに」
「……そ、そーだったのか」

上条の胸の辺りに美琴がいるという構図になっているため、当然上目遣いになっていて、そんな状態から話されれば恥ずかしくて目を合わせられない。
美琴はその上目遣いの状態のまま、

「なんで目を逸らすのよ?」
「ぅ、そ、それは…………、美琴が可愛いから」
「なっ、か、かわっ……ッ!?」

素直に言ってみたら、美琴は顔を瞬時に真っ赤に染めて、それを隠そうと上条の胸に顔を埋めた。
すると今度は美琴の髪の匂いが上条をドキリとさせてしまう。結局、抱き返すなんてできずに両手は宙を彷徨っている。

「…………ねえ」
「ん? なんだ?」

まだ少しだけ赤い顔を上げて、美琴は上条に話しかけてきた。その顔と上目遣いがやはり可愛いので、上条は目を合わせられない。
美琴はそんな上条の顔を両手で押さえて美琴の方へと向けさせる。その顔はいたって真剣だった。
上条はその顔をみて気を引き締める。

「また、遊園地いかない? 別の日に」
「ああ、いいぞ。………というかそれはデートのお誘いでせうか?」
「ぅ……うっさいわね! な、なんだっていいでしょ!!」
「あーはいはいわかったわかった」
「な、何よその適当な言い方はっ!!」
「じゃあ、楽しみにしてるから、日時とかはそっちで決めてくれ」
「……こういうのはアンタがするもんじゃないかしら」
「ん? 何か言ったか?」
「…………なんでもないわよ」

2人は傍から見れば抱き合っていたように見える状態から、普通に向き合う体勢に戻る。
周りは大分暗くなっていた。だけど、あの時とは違って周りに負の感情は渦巻いてはいない。

「とりあえず今日はもう帰るか。ほら、完全下校時刻も過ぎそうだろ?」
「………もう少し一緒にいたい」
「いや、でもほら、俺は逃げないから。また明日にでも会えばいいだろ?」
「…………わかったわよ」
「その代わりといっちゃあなんだけど、帰り道くらい手繋いでやるからさ」

そういって上条は美琴と手を繋いでやる。実は繋ぎたかったのは上条の方だというのは内緒だ。
上条にだってカッコつけたい時だってあるのである。
そんなことを思っていても、純情少年上条当麻は顔が赤かったのだが。
でもそれは、美琴の方もどうやら同じだったようで、顔を赤くしていた。
しばらく歩いていると、不意に。

「ねえ、いつから?」
「ん? 何がだ?」
「……私をす、好きになったの」
「…………気づいたのはほんの数時間前だな」
「え」
「でも、それよりも前から好きだったと思う」
「そ、そっか………」
「そっちは?」
「え?」
「いつから俺のことを好きだったんだ?」
「ぅ……ぇ……ぁ……ぃ、言えるわけないじゃない、そんな恥ずかしいこと」
「えええ!!?? 俺は言ったのに!!??」
「い、いいのよ私は! 乙女の秘密よ!!」
「ふ、不幸だ……」

少し肩を落としていたら、常盤台の寮が見えてきた。
美琴は上条の前に立つと振り返って立ち止まった。上条もそれに合わせて立ち止まる。

「えっと、ありがと……好きって言ってくれて」
「上条さんでも頑張る時は頑張るんですよ」
「うん。わかってる。それじゃ………またねっ!」

美琴はそう元気よく言うと寮に向かって走っていった。
上条の頬にキスをしてから。

「………………………………はっ!? い、今一体なにが………!?」

しばらく呆然とした後、自分を取り戻した上条は、キスをされた頬を押さえながら自分の寮へと向かっていった。





終わり。


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