サプライズ
ある日の朝、美琴の携帯に一本の電話が入る。
(こんな朝っぱらに。当麻かしら。あれ?母から。)
「おっはよー美琴ちゅわん!」
「うるさい!!だいたいこんな朝から電話かかってくることが迷惑だとわからない訳??」
「えー?ダーリンからのモーニングコールだったら怒らないくせにぃ。美琴ちゃんを驚かすために電話したの♪」
「で?ダーリンからのモーニングコールではなく、驚かすために電話した理由は何なのよ?」
「私、昨日から学園都市にいるの。大学のことでね♪」
「全くサプライズになってないわよ馬鹿母!!」
「あら。じゃあ今からとっておきのサプライズを披露しちゃいまーす♪ちょっと待ってねー。」
電話のむこうでは美鈴は誰かと話しているようだ。
誰かと?学園都市で母の知り合いと言えば大学の友人もいるだろう。でもサプライズと言っていたから・・・・まさか!!
「もしもし?俺だー。」
美鈴が代わった相手は上条当麻。美琴の恋人だ。
「!!!ななななななんでアンタが私の母親といんのよ!何!?もしかして親子丼ってやつなの?相変わらずこのダメ男があああああああ!!!!!」
「美鈴さん!サプライズどころか何か怒らせたみたいですよ――!」
電話の奥では美鈴がただの照れ隠しよん。美琴ちゃんはまだ当麻くんに素直になれてないのねと言っている。
「んで、一緒にいる理由なんだがな、ゴミ出しに外に出た時にバッタリ美鈴さんと会ったんだよ。」
なんだたったそれだけのことだったのか・・・
上条が女性といるだけで(たとえ母親でも)こんなに嫉妬するのが情けない。恥ずかしい。そう反省していると、
「なあ。美琴の部屋は二階だよな?」
「・・・・ふぇ?そうだけどそれがどうしたのよ。」
「窓から顔を出してみなさい。そして正門を見てみなさい。
言われた通り窓から正門の所を覗いてみる。
信じられない。ツンツン頭の少年と母親が立っていた。
「ちょっっ!!なんでいるのよ!?」
「だからサプライズだって言っただろ?というか美鈴さんに連れてこられたんだけどな。それと早く窓から顔を出せ。俺と美鈴さんは二階のどこだかわかんねえから。」
ダン!とうるさい音で窓を開けて顔を出す。(奇跡的に白井はまだ眠っている。)
その音に気づいた二人は美琴のほうを振り向く。上条はおーいと手を振り美鈴はニヤニヤしながら何故か親指を立ててアピールしている。
「美琴、悪いが今から出てこれるか?美鈴さんはもう大学に戻らないといけないらしいんだよ。」
「そうなの?今から着替えるからちょっと待ってて!」
電話を切ってからものの五分もしないうちに歯を磨き制服に着替え、髪をヘアピンで止め、白井に先に学校に行ってくると置き手紙を書いて上条と美鈴が待っている正門に走った。
「はあはあ。それで、アンタ達一体何の企みがあるわけ?」
「ここに来るまでに上条くんから色んな話を聞いてね♪美琴ちゃんのあんなことや・・・」
美鈴が言い終わらない内に美琴は上条の胸ぐらをつかむ。
「アンタ。一体何を吹き込んだわけ?」そう言いながらも顔は凄く赤い。
「別にやましい事なんか話してませんよ?美鈴さんが初デートはどうだった?って聞いてきたから簡単に一日を話しただけだぞ。」
しかし美琴は照れてるのか怒ってるのか、バチバチと音を鳴らし始めた。
「おい!!こんな至近距離でビリビリはやめてくれ!!美鈴さんに当たったらどうすんだ!!」
「アンタ!!アタシの母親側に立つ訳?まさか変な嘘とかついてないでしょうね?」
「美琴からは誰にも言うなって聞いてないぞ?悪いが既に土御門とかに話したんだよ。何故か学校でみんなにボコボコに殴られたんだけどな。それと、美鈴さんには嘘偽りなく話したぞ。」
「・・・・・・え?友達に話したの?それに母にはどう話したのよ!!」
「・・・・・・・美鈴さんが追求してきて逃げれなかったからプロローグからエピローグまで・・・・簡単に・・・」
美琴の頭からボシュっと音がなり顔がりんごのように赤くなる。
「そこの二人!私を置いてなにいちゃいちゃしてんのよー。母さん一人寂しいわー。」
「いや、いちゃいちゃとは・・・ていうか美鈴さん、大学に戻らなくて大丈夫ですか?」
「あらホント。もう出ないと間に合わないわ。上条君、一つお願いがあるんだけど。」
ゴニョゴニョと上条に耳打ち上条はそれを聞いて真っ赤になる。
「美鈴さん・・・マジですか?」
「大マジよ♪それに両親いっぺんに説得するより母親だけでも先に納得させれるわよ♪」
うう・・と上条は呻く。美琴はエピローグまで・・・とブツブツ呟いていて美鈴と上条のやりとりに気づいてない。
「わかりました。美琴のためにもですね。私上条当麻も腹をくくります。」
「お願いね!!美琴ちゃんへのサプライズというより私を楽しませてね♪」(うわ。上条君かっこいい。美琴ちゃんが惚れるのもわかるわ。私も若ければアタックしてたかもね♪)
腹を据えた上条はどこか決意した顔つきで美琴を見つめる。
「美琴!!!」
「ひゃい!」
自分の世界に入っていた美琴は驚き妙な返事をしてしまう。
上条は何も言わずつかつかと美琴に近寄る。
(何よ急に真面目な顔して。かっこいいじゃない。)
お互いの距離がゼロになり、上条は美琴を無言で抱きしめる。
「ちょっっっ・・急に!こんな外でいきなり・・恥ずかしいというか心の準備ができてないというか・・・とにかく・・早くやめて・・でももう少し・・・」
美琴は上条にしか聞こえない小さな声で話す。
すると美鈴が少しがっくりしたような声で
「初デートの最後にしたのってキスじゃなかったのね。でもさすが上条君!こうやって美琴ちゃんを骨抜きにできるんだもの!!」
「驚かせて悪かったな美琴。美鈴さんがどうしても初デートの再現をしてくれってうるさいから。」
「それだけでこんな事やってんの?ていうかなんで言うとおりにやってんのよ!!」
「そこは深く追求しないでくれ。古傷なもので・・」
「美琴ちゃん!上条君!あなたたち超お似合いよ♪こりゃ籍入れる日考えとかないとね。それじゃ、いいもの見せてもらったところで失礼するわ。多分この時間だと大学に間に合わないだろうけど。」
美鈴は二人に投げキスして駆け足しながら去っていった。
「・・・ねえ、ところでいつまでこのまま抱きしめてもらえるの?」
「ずっと抱いていたいんだけどな。ここじゃさすがに周りの目も上条さんには痛く感じるぜ。」
「あっ・・・」
周り。ここは常磐台中学寮の正門。寮の生徒が学校に登校する時間帯になっていた。美琴が気づいた頃には二人の周りに大勢の生徒がいた。
人ゴミから「御坂様が殿方と抱擁を・・・」「あの殿方は御坂様の彼氏なのでしょうか。」「御坂様は大胆なのですね。」とキャーキャー騒いでいた。美琴の部屋からは「お姉様ああああぁぁぁぁ!!!また類人猿ですのねぇぇぇぇぇ!!!!殺す!!!」と白井のデスボイスが。
「あははは。参ったことになってしまったな美琴。サプライズにしては規模をでかくしてしまった。んじゃ、上条さんもここからだと学校に遅れそうだからもう行くからな。放課後に公園でまた会おうな!!」
シュバっと上条は逃げるように走り出す。
「あ!!ちょっと待ちなさい!!」
と言う前に生徒達にぎゅうぎゅうに囲まれ「御坂様!御坂様!!」
と質問攻めに合い上条を追いかけられなかった。
身動きがとれない状態の美琴にはまだ上条の後ろ姿が見える。
上条が見えなくなりそうと思っていた瞬間、上条の後頭部に白井がドロップキックを決めたのが見えた。