とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part15

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― 分岐点 ―


3月31日10時頃、上条宅

この時、上条はいつもの目覚ましで目を覚ました。
始め目にしたのはいつも通りの時計、指されていたのはいつも起きる時間だ。
次にいつも通りの天井。
そこで上条は体を起こす。
自分の部屋に特に異変は見られない。
いつも通りの家具、台所、美琴の姿、台所から漂ういい香り。
間違いない、ここは自分の部屋だ。
今日も平和な一日の始まりだ…

「……ってちょっと待て!2つ程おかしいところがあるぞ!!」
「あ、起きた?ったく一体何時寝てるつもりよ」

朝から何やら戸惑っている上条に対して、美琴はいたって平然と答える。

「あ、あれ…?」
「当麻、昨日のこと覚えてないの?」
「昨日……あぁ、そいや今日イギリスに行くからってやつか。うん、今思い出した」
「……アンタ、そんな重要なこと普通忘れる?ってかいつまで経っても起きないから勝手にそこにあった書類読ませてもらったけど、飛行機でるのは今日の13時くらいでしょ?そんなゆっくりしてる暇はないんじゃないの?」

美琴はガラステーブルの上に乱雑に置かれている書類の束を指差し、若干呆れ顔で上条に指摘する。
美琴の言う通り、23学区に着くまでの時間を考慮すると、今の時間はそこまで余裕のある方ではない。
なら昨日目覚ましをセットし直せばよかったのだが、上条はあの体勢のまま寝てしまったので、それはできなかったのだ。

「…おぉ!じゃあ何で起こさなかったんだよ!」
「だ、だって当麻の寝顔があまりに可愛かったから…じゃなくて!当麻があまりに気持ち良さそうに寝てたから起こしにくかったのよ!」
「……まぁ、いいとして。とりあえずなんか良い匂いするけど朝飯作ってあるのか?」
「え?ぅ、ぅん…」
「サンキュ!じゃあ朝飯はいつもは食べないけど久々にいただきます!」
「ちょ、ちょっとアンタ急ぎすぎよ!まずそのテーブル片付けてよ」

テーブルの上には書類が広がっており、食事をするにはあまり適した状態とは言えない。
その惨状を見た上条は急いでそれらを片付け、昨日の内に用意してあった旅行用の大型のカバンに詰め込んだ。
そしてそれと同時に、美琴が昨日の残りのおかずとご飯に味噌汁といういたってスタンダードに思える朝食を盆に乗せて持ってくる。
それは以前から上条が心から食べたかったちゃんとした朝食でもあった。

「……なんかこうやって朝からちゃんとした飯が食えるって、すっげー幸せだな」
「はぁ?ちゃんとしたって、これくらい普通じゃない。ってかアンタさっき久々とか言ってたけど、もしかしていつもは食べてないの?」
「上条さんの家は貧しいですから毎朝ちゃんとした朝食を食べる余裕はないんです……というかこれはもう食べていいんですか、いいんですね、いいんですよねの三段活用!いただきます!」
「あっ!ちょっと!」

美琴が自分の分を持ってくる前に、上条は美琴の制止の声を得意のスルースキルで無視し、目の前の朝食へとがっつく。

「うぅ…美味い。朝からこんな飯が食える時がくるとは、上条さん夢にも思いませんでしたよ」
「ったく、いちいち反応が大袈裟なのよ。ま、まぁ美味しいって言ってくれるのは素直に嬉しいけどさ……でもせっかく私が朝食は一緒に食べようと当麻を待ってたのに、自分は先に食べちゃうなんて酷くない?」
「………ん?はんはひっはは?(何か言ったか?)」

上条は目の前にあるご馳走に目がいっており、美琴が顔を赤らめながら話していたことに全く気づいていなかった。
先に朝食を食べられたことでもそれなりにご立腹であった美琴がとる行動はもちろん…

「……馬鹿!!」

口いっぱいにご飯を頬張っている上条に対して、美琴は数億ボルトの電撃の槍を放つが、それは上条の右手によってかき消される。

「……っぶねえな!俺今飯食ってるだろうがよ!!」
「うっさい馬鹿!全部アンタが悪いんでしょうが!」
「俺が悪いのかよ!」
「当たり前じゃない!」

何が悪かったのかがさっぱりわからない上条は、何やら彼女の態度にやや理不尽を感じながらも首を傾げる。
時刻は10時半前。

「……ほら、時間無いんだからさっさと食べなさいよ」
「確か食べてるとこを無理やり中断させたのはそっちだよな?」
「いちいちそういうことにつっこむな!」

そう言って美琴はまた電撃を放つ。
そして上条は慣れた手つきでそれを打ち消すのだが、こうしょっちゅう電撃を放ってくる彼女を見て『いつかこれで本当に殺されるかもな』などと考えたりしていた。
毎回彼女の電撃を難なく打ち消しているように見える上条とて、会う度に電撃を放たれてはたまったもんじゃない。
それに表面は涼しく見えても内心はとても冷や汗ものだったりもする。
その想像が現実になることが永遠にくることがないことを祈りながら、上条は目の前にある残りの朝食を口にかっこんだ。


同日12時前、とある電車

今二人は空港のある23学区に向かう電車の中にいた。
上条は見送りは家の前まででいいと言ったのだが、美琴はそれを断固としてよしとせず、無理やりついてきて今に至る。

「…………」
「…………」

今二人の間に会話はない。
上条の寮からこの電車のとまる駅まではまだ少しご立腹の状態のままだった美琴が話をもちかけたりして会話はあったのだが、電車に乗ってからは全くなかった。
そして空港に近づくにつれ、会話がないだけに留まらず、二人の間の空気が重くなってゆく。
その原因は美琴がそう言う雰囲気を醸し出しているのが主だが、少なからず上条からもそれはあった。
以前上条の部屋に居候していた少女インデックスを救うため、しばらく学園都市から離れることは、昨日土御門から事件の概要を説明された時に覚悟したはずだった。
未練がないように昨日という一日を過ごしたはずだった。
しかしいざ離れることが近づいてくると、離れたくないという気持ちが溢れてくる。
決して彼の中のインデックスを救いたいという気持ちが薄れているわけではない。
彼女を救いたいという気持ちの強さは今も変わらず強い。
だかそれでも、それ以上に美琴と離れたくないという気持ちが強くなってきた。
今美琴が寂しそうな顔をして、そういう雰囲気を醸し出しているのも、それの原因の一つと言える。
ただやはりそれだけでなく、上条のより根源的な部分の訴えもあった。

(別にこれが今生の別れじゃないってのはわかってるんだが……くそっ、なんで今になってこんな気分になるんだよ……これからインデックスを助けに行くんだろうが…!こんな気持ちでいちゃダメだ)

そう自分に言い聞かせるが、今になって何故だか彼の中に引っかかるものがでてきた。
今回のイギリス行きで学園都市に戻れなくなるなんてことは、恐らくない。
上条は美琴とも必ず生きて帰ると約束した。
上条は絶対にその約束を守るつもりでいるし、帰りたいとも思っている。
だから、また戻るのだから、そこまで未練を残す必要はどこにもないはず。
はずなのに…

(今までこんなことはなかったのにな…やっぱりこいつの影響かな…)

上条は自分の隣で、自分の服の端を掴んで俯いている美琴を見る。
そこで思い出されるのは、今まで彼女と過ごした日々。
彼女と本当の意味で初めて出会った時の記憶は無いけれど、初めて出会った時はいきなり自販機に蹴りをかます彼女には驚いた。
妹達の件で彼女が絶望に満ちた顔を見た時には胸が痛んだ。
今になって思えば、彼女の笑顔は自分がずっと守り続けたいという気持ちが生まれたのはこの頃かもしれない。

夏休みの最終日にした偽デートに大覇星祭の罰ゲーム。
聞けばこの頃には美琴は自分を意識はしてたらしく、ならもっと素直になれよと今思う。
そして一端覧祭、クリスマス、正月と様々なイベントはあったが、何よりも印象的なのはバレンタイン。
嘘でも彼女を遠ざけるようなことを言ってしまったのは今でも後悔してる。
でも彼女の後輩の白井黒子のおかげでなんとか上手くいったし、もらったケーキは本当に美味しかった。
一番最近でインパクトのある日はホワイトデー。
冗談のつもりでもあのシチュエーションはダメだと彼女に言われ、意識を新たにした日。
さらに自分の勘違いからなんだかとんでもないことをしてしまった気がする日でもある。
これ以外にも色々あったが、どれもこれも楽しさには優劣はない。
どの日も一様にとても楽しかった。

(……って、なんで今こんなことを思い出してんだか。これじゃもう会えないみたいじゃねぇか。……もしかしてこれは死亡フラグというやつですか?)

縁起でもないと、上条は自分の考えを否定する。
だが相変わらず昔の記憶が頭の中から溢れ出す。

(……そっか、頭ではわかってるつもりでも、やっぱり離れたくないんだな。俺はコイツを…)

いつの間にか俺はここまで惚れ込んでたんだな、と自分の気持ちを再認識する。
始めの頃はところかまわず電撃を放って、来る日も来る日も追いかけてくる彼女をここまで想うことになるとは、あの日には想像もできなかったことだ。
と同時に

(なんで昨日はあんなにあっさり土御門に返事を言えたんだか、もうちょっと悩めよ俺)

と自嘲的な笑みを浮かべるが、そんなことを今言っても仕方ない。
今はとにかく空港に着くまで、飛行機に乗り込むまでの時間を大切にすることが重要だ。
恐らく第23学区の駅へはあと数分で着くだろう。
勿論駅からの移動もあるので、着いたらすぐお別れというわけではない。
そして空港に着いても美琴の時間管理のおかげで、時間の余裕もそれなりできた。
結局会話と言えるものは電車の中でしなかったが、ぐちゃぐちゃだった考えを色々とまとめられる良い機会だったと思う。

(お前は今までの時間、何を考えていたんだ?俺のことか?だったらいいけど……俺は昨日そんな顔すんなって言ったばっかじゃねぇか。無理かもしれないけど、笑えよ…)

上条は今なお俯いている美琴を見て、ポケッの中にあるものを確かめる。
こんな状態の彼女をどこまで元気づけられるかは甚だ疑問ではあるが、何もしないよりは何倍もマシだ。
そして上条はポケットにあるものを握りしめた。


同日12時過ぎ、空港への道

(なんで、幸せな時間って長く続かないんだろう……神様はそんなに私から大事なものを取り上げたいのかしら?)

二人が23学区の駅に到着した後、近くに止めてあったタクシーに乗り込み、今日の上条の目的地の空港へと向かっていた。
残りの時間を考えると、徒歩でも行けなくはないのだが、それだと空港でかなりドタバタすることになる。
だからタクシー代はかかっても、ドタバタするよりはいいということで今に至る。
このタクシーでかかる時間はどんなに長くても10分程。
おかげで空港での時間の余裕が結構できた。
そしてやはりここでも会話はない。
美琴は上条の手をかたく握りしめ、上条は真剣な表情でタクシーの窓から外の景色を眺めている。
ここ第23学区は学区全体が航空関係などの施設しかなく、外の景色といってもたかが知れているのだが、それでも上条は外を眺めていた。
美琴は学園都市の風景を目に焼き付けているのかもしれないと思った。
……しばらく学園都市には戻ってこれないらしいから。
そうすると、電車の中でも外ばかりを見ていたのも頷ける。
実際はこういうことには慣れっこの上条に、そういう意図があったわけではない。
だが美琴にはそう考えるのが一番自然だった。

(こいつにもそんなことを考える時あるのね……ちょっと意外かも)

こんな時でも新しい彼を発見できたと、ちょっと嬉しい気分になれたのは秘密だ。
美琴はたったこれだけのことで嬉しくなってしまうとは重症かもしれないと、思わず自分を心の中で笑ってしまった。
でも、そう思ってしまっても気分は決して悪くない。
むしろ、心地よいくらいだ。
それだけ彼が、上条当麻のことが好きだということだから。
この気持ちだけは他の誰にも譲れないし、想いの強さも誰にも負ける気はしない。
思えばどうしてこんなに想うことになったのだろうか。
そんな疑問が脳裏をよぎるが、答えははっきりとは出てこない。
ある日突然自分を不良達から助けようとして、自分の電撃を打ち消した。
またある時は死を覚悟していた自分を文字通り命懸けで救ってくれて、本当にいつの間にか自分の中で彼の存在が大きくなっていた。
確かに初対面の時は嫌な奴だと思っていたのに…
いつからかその嫌な奴は大事な人に変わり、さらにそこから好きな人へと姿を変えた。
そして今では、ずっとそばにいてほしい存在にまでなってしまった。

(にしてもここまで惚れ込むことになるとはね…自分でも流石に呆れるわよ…)

美琴は上条と出会うまでは恋愛のことについては無関心と言えた。
そんなことに現を抜かしているから強度が上がらないのだと、蔑んだ時さえもあった。
だが実際自分も恋をして、それが叶って、蓋を開けてみれば恋をすることはとても苦しいことだけど、同時に素晴らしいことだと認識を改めた。
自分ももっと早くにこの感情を知ってしまってたら今の地位は有り得なかったかもしれない。
それほど、自分だけの現実を大きく揺るがすほどの、強い感情。

(そんな真剣な顔してアンタは何考えてるの?私のこと考えてるの?だったらいいんだけどな…だけど、だけど今は、今は笑っててほしいな…)

気づけば目的地の空港は既に目と鼻の先にまできていた。
着くのはあと数分といったところか。
上条が乗る飛行機の時間を考慮すると、空港でもそれなりに時間はある。
その時間をどう過ごすか。
話だけにするか、今のまま沈黙のままか、人目もはばからず自分のしたいことをするか、それとも…
美琴は離れてしまうのが一緒なら、別れ際までの過程はどうでもよかった。
楽しく過ごしすぎてしまえば、未練が大きくなるだけだから。
だからと言って、何もせずに別れたいというわけではない。
過程は最悪何もなくても、別れ際だけは笑って過ごしたい。
泣いたまま、暗い気持ちのまま別れるのはあまりに辛い。
そして、彼に一つ言いたいことがある。
2月14日からずっと隠していたこと。
それは話す機会ならいくらでもあっただろうが、あまりに恥ずかしくて言えなかったこと。
きっと彼がそれを聞いたら驚く。
もし彼が勉強ができる人間ならば危なかったが、生憎彼はその方面にはあまり堪能ではない。
それを知らなかったらあの時こんなことはできなかっただろう。
あの時はまだ付き合うのはおろか、告白もしていなかったのだから。
それなのに自分が起こした行動は告白が少し小さく見えてしまうほどの行動。
それは告白よりももっと先の…

(別に全てを了承してくれとは言わない。"コレ"の返事自体はまだ先でもいい。……だけどせめて、せめて離れている間だけでも自分を安心させてくれるような言葉がほしいな…)

つくづく自分はわがままだなと思う。
彼を独り占めできないと知ってなお、まだまだ彼がほしいと思っている。
わがままで、傲慢。
不意に乗っていたタクシーが停止する。
タクシーが空港に着いたのだ。
今の時刻は12時08分。
飛行機が飛び立つのは13時08分。
あと、60分。


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