とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part14

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― 分岐点 ―


19時頃、上条宅

二人はあの後からいつものように過ごした。
場所は上条の部屋ということで、そこでいつもとは違う雰囲気がでた時もあったが、それ以外はいつもの平日や休日で過ごすように過ごした。
いつも話すように話し、笑うように笑い、怒るときは怒る。
明日から上条が旅立つということなどもう忘れているかのように。
美琴はその時間がとても幸せだった。
大好きな彼とこうして二人で話すことは、どれだけ繰り返してもきっと飽きることがないであろう。
それほど楽しく、ずっとずっと前から恋い焦がれていた幸せな時間だった。
しかし、楽しい時間というのは無情にも早く過ぎてしまうもの。
辺りは既に暗くなっており、時刻は19時をまわったところ。
常盤台女子寮の門限に着々と近づいている。

「美琴、そろそろ時間だから…」
「いやよ」
「あの、いやって俺はまだ何も…」
「どうせもうすぐ門限だから早く帰れ、でしょ?そんなの嫌、今日は離れたくないの…」

美琴は呆れたように俯き、心細そうに呟く。
それは本心。
今日は彼が何と言おうと離れたくなかった。

「美琴、別に今生の別れってわけじゃないんだから…」
「そんなことわかってる。……どれだけ経ってからはわからないけど、きっと当麻は何もなかったような顔しといて、ここに大怪我して帰ってくるんでしょうね」

美琴だって今生の別れではないことはわかっていた。
でもじゃあどうしてかとか聞かれても、美琴ちゃんと答えられないかもしれない。
理屈じゃないのだ、そういうことは。
どれだけ正論や理屈を並べられても、今の美琴は決して屈しない。
ただ一時的でも離れてゆく彼のそばに少しでも長くいたい、その一心。

「でも、どれだけ建て前を言っても、どれだけ取り繕っても……やっぱりダメなの。私そんな大人になれない…私はいつでも、どんな時でも当麻の隣にいたいの、理屈なんてないのよ…」
「……」
「だけど行くなとはもう言わない。当麻の決意もしたいこともわかるから。……けどせめて今日は、明日出発するまではそばにいさせて、お願い…」

多少目を涙ぐませながら美琴は懇願する。
それは美琴の心からのお願い。

「……わかったよ、今日は泊まってっていいぞ。どうせ今は春休みだしな。白井にはちゃんと言っておけよ?」
「!……うん!あ、当麻お腹へってるわよね?私なんか作ってあげるわよ」
「は?いや、つっても明日からいなくなるんだからろくなもんないぞ?」
「あるもんでなんとかするから大丈夫よ!」

そう言って美琴は嬉々とした表情でキッチンへかけてゆく。
その表情は晴れやかとまではいかないものの、彼女の本来の明るさは取り戻していた。

(ホント、美琴にはかなわないよな…こいつには頭が上がんねぇよ)

上条に先のことはどうなるかはわからない。
この先どれだけ長く付き合っていくかもわからない。
けれどもきっと将来の自分は彼女に尻にしかれてるんだろうな、などとという考えが頭をよぎる。
そしてその光景が容易に想像できた。
わがままで少し理不尽なところもあるが、実はそれを覆すのに有り余る程の様々な長所をもつ彼女に、あれこれと言われるがままに生活する光景。
上条はどうしてそんなことを考えたのかはわからなかったが、それでもそう考えてしまったことに対する抵抗や嫌悪は不思議となかった。
別に将来を誓ったわけでもないのに、思い浮かんだその光景はごく自然に思えてなかった。

(もし本当にこれからそうやってやりながら過ごせたら、きっと幸せなんだろうな…)

そこに他意はない。
ただもし本当にそうなれたら、幸せだろうという考えが頭から離れなかった。
先ほど暗い雰囲気、表情だったのが嘘のような振る舞いで鼻歌を歌いながら料理をテキパキと作って見せる美琴を見て、上条はそう思えた。
その明るさが今は上辺だけの振る舞いでも、いつか心からのものになればいいと思いながら。





同日21時頃

美琴が作った料理は上条家に残っていた材料が材料であっただけに、料理自体はそれほど大したものではなかった。
しかしそれはあくまでも料理の外見の問題で、味の方は逸品であり、どこかの料亭でもでていそうなほどである。
上条と美琴は週末にどこかに出かける際に、たまに美琴が弁当を作ってくることもあり、頻度は高くないがたまに彼女の手料理を食べていた。
その時に決まって思うのが材料も上条と大差ないはずなのに、味が全然違うことについてだ。
弁当の定番とも言える卵焼きを一つ例にとってみよう。
上条は美琴の卵焼きを食べるまでは、卵焼きなんてものは誰が作っても同じと考えていた。
しかし美琴のそれは上条のそれを根底から覆すほどに美味しかった。
感動したと言ってもいいくらいの衝撃を受けたのである。
その衝撃のあまり、上条は彼女に何回も作り方を聞き、何回も実践したのだがうまくいっていない。
他の料理にしても同様の結果。
なので上条にはどうしてか不思議で仕方なかったのだが、美琴曰わく『何回聞いてもアンタと作り方はそんなに変わらないってば』らしい。
そして終いには『強いて言うなら、私の当麻への愛情の大きさかな……えへ』と可愛らしくとんでもないことを言い放ったが、それを上条が『なにわけわかんねーこと言ってんだよ』と一蹴。
当然の如く、上条は電撃をお見舞いされたわけだがその理由は彼にはさっぱり理解できていなかった。
どこか腑に落ちない上条だったが、その話題は無限に続いてしまうので途中で話を切り上げた。

そして今は料理をしたのが美琴なので上条がその後の後片付けをして、美琴はその間特にこれといってすることもないので風呂に入っている。
なので今上条の部屋にはピチャピチャと水がはねる音が二カ所から聞こえる。
一つはもちろん上条がしている水仕事で発せられるもので、もう一つは…

(だぁー!明日から多分何度も修羅場とか死線をくぐりぬけるってのに、俺は何してんだよ!意識すんなって方が無茶だろこれ!)

別に色んな方向から水のはねる音がするのが問題なのではない。
そんなことは銀髪シスターが居候していた時代からあった。
問題なのは今風呂を使っているのが美琴であるということだ。
夜中、年頃の男女、部屋に二人っきり、シャワー、彼氏彼女の関係、恐らく明日からしばらく会えない、ミコトサビシイ。
健全な男子高校生ならどうにかなってしまいそうな条件は複数そろってしまっているこの状況。
二人は今まではキス程度のスキンシップなら何度もしているが、恐らくまだ清い付き合いをしている方と言えるだろう。
上条にもそういうことをするのは、二人ともより大人になってからという意地がある。
しかも明日からは大事な仕事がある。
あまり浮ついた気分でイギリスに向かいたくはない。
無論彼の理性は我慢するつもりではあるが、果たして本能を理性で御しきれるか…
甚だ心配ではあったが、様々な葛藤を水仕事をしながら上条が頭の中で繰り広げているのをよそに、風呂場で動きがあった。
シャワーの音が止み、少しごそごそと物音の後に"何かが"湯船に浸かるような音がしたのだ。

(あれ?ちょっと待てよ…次風呂入るの俺だよな…?今美琴が湯船に……!?)

鈍感の上条とは言え何も考えなかったわけではなかったのだが、その時は料理の疑問をあってか、あまり深く考えられなかったのだろうか。
冷静になってみれば美琴が浸かった湯船に自分も浸かるということをすっかり忘れていた。

(まてまてまて!!いや、それはまずいだろ!一体何考えてたんだよさっきの俺!)

キス以上をしたことがない上条でも、恋人の浸かった湯船に浸かるのは流石に気恥ずかしい。
湯船に浸からないということも考えたが、もうすぐ四月とは言えまだ長袖なしに過ごせない程に肌寒く、シャワーだけだと逆に寒くなってしまう。
もちろん貧乏学生の彼にとって湯船を落とすなんて以ての外である。
普通に常人の思考ですれば、可愛い女の子が浸かった湯船に自分も浸かるのは恐らく戸惑うだろうが、決して悪くないことだろう
むしろ喜んで飛び込んでいく輩もいるかもしれない。
しかし上条は目一杯不幸だと呟いた。
至極当然のことに全く頭がまわらなかった過去の自分を、精一杯恨んだ。

結果を言うと上条は湯船に浸かった。
浸かったには浸かったのだが、雑念やら何やらで体が全然温まらない内に早々に出てしまった。
上条自身はこれでよかったと言い聞かせているが、温まりきってないのでやはり寒いものは寒い。
上条はシャワーだけを軽く浴びると、いつも入っている時間の半分にもなっていないがそのまま風呂場から出た。
そんな彼を美琴は少し頬を赤に染めながらも、少し驚いたような顔で迎えた。
実は彼女も上条と似たようなことを考えていたため、本当はとてもドキドキしており、予想よりも早くに上条が出てきたことに相当動揺していた
さらに今彼女が着ている服は上条のスペアのパジャマ代わりのジャージであり、彼が着ている服ということで、彼の匂いがするなどとかなり舞い上がってもいたのだが、それはまた別のお話。
とにかく美琴はそれらを悟らせまいと出来うる限り無表情で口を開いた。

「あ、あれ?早くない?いつもこんなもんなの?」
「は?あー、そう、だな…いつもこんなもん、だよ、多分…」
「……なんかはっきりしないわね。ま、まぁいいけどさ。ってかそんなんでちゃんと温まれるの?」
「温まってるよ、多分…」

そう言いながら、上条は美琴が座っている所の隣へ腰へおろす。
実際はそんなわけもなく、シャワーを少し浴びる程度だけでは入る前と大差はない。
むしろ髪などが少し濡れている分、前よりも寒いかもしれない。
そんな話を追求されても、上条としては答え辛いし、面白くもないので少し疑問に感じている顔をしている美琴が再度口を開く前に上条が話題をそらす。

「そ、そういうお前もそんな格好で湯冷めとかしないのかよ?寒かったりするなら先に寝ててもよかったのに」
「別にそんなことないわよ。それに、先に寝たらどっかの狼さんに何されるかわかったもんじゃないもの」
「お前な、紳士上条さんは神に誓ってそんなことはいたしませんことよ!?……大体明日からイギリス行くんだから、そんな浮ついた気持ちではいたくない」
「ふーん…」

それを聞いた美琴は少し呆れたような、それでも少し悲しそうな顔をする。
それは彼女が本当にそういうことをしてほしかったからではない。
明日から彼はしばらくいなくなることを思い出させられたからだ。

別に今の今までそのことを忘れていたわけではない。
ただ意識はしないようにはしていた。
今の彼といる時間を沈んだものではなく、心から楽しむために。
それが、彼のイギリスという言葉で改めて事実を意識させられる。
彼は明日からいないのだな、と。
そう思うと今まで心の奥底に押し込んでいた感情が溢れ出す。
それは何回も無理やり自分に納得させた感情。

「…美琴?」

その心情をを知ってか知らずか、上条が急に黙りこくって俯いた美琴の顔を覗きこむ。

「……何でもない。もうやることもないわけだし、寝ましょ?」

美琴は自分の顔を覗き込んでくる上条の視線から顔そらす。
時刻はまだ22時をまわった頃、寝るのには少し早い時間かもしれない。
でもそれは自分で何とかしなければならないこと。
上条に言って何か変わるわけではないことは既に証明済みだ。
彼に余計なことで心配させるわけにはいかない。
彼にはやらねばならないことがあるのだから。
今は、もっと集中しなければならないことがあるのだから。

「はぁ……仕方ねぇな」
「へ?」

上条が言ったことを理解する前に、座っていたはずの美琴に突然の浮遊感を襲う。

視線を上条からそらしていたため、美琴は彼が何をしたかは始めわからなかった。
しかし、その状態は長くは続かず、すぐに状況を理解する。
美琴は今上条に抱っこされている、それも彼女の憧れの一つでもあるお姫様抱っこで。

「ちょ、ちょっとアンタ何してんのよ!すぐに降ろしなさい!」

そう言いつつ、もう少しこの状態でいたいと思っていたのが本心だったりする。
だが今はそれよりも羞恥が先行する。

「言われなくてもすぐに降ろしますよっと」

上条の言った通り、美琴はすぐに彼のお姫様抱っこから解放され、降ろされるが、そこは元々美琴が座っていた場所ではない。
降ろされた場所は彼女が寝ようと思っていた場所、ベッドだった。

「え?え?…えええぇぇぇ!!??」
「なんだよ、そんな騒ぐなよ。今一応夜だぞ?」

上条は彼女をそう言ってなだめるが、美琴のこれから起こるであろうことの脳内の妄想は止まらない。

(え?嘘、本当に!?いや別に嫌じゃないけどさ…でもさっきそうゆうことはしないって言ったわよね!?急すぎるのよ!ま、まだ心の準備が…)

今彼女の脳内ですごいことが繰り広げられているのだが、そんなことを上条が知る由もない。

上条は顔を真っ赤にして、ベッドに横になっている美琴を確認すると、電気を消して彼女をもう少しベッドの奥にやり、自身もベッドに横になろうとする。

(ほ、本当にやるのかな…?いつかはやるとは思ってたけど、まだ1ヶ月ちょっとしか付き合ってないわけだし、早い気も…)

そうこうしている内に、上条は美琴の隣に横になり、美琴へと手を伸ばす。

(き、きた…!)

伸ばされた手に対して多少の恐怖があってか美琴は目を瞑り、体をきゅっと強ばらせた。
だが上条の手は彼女の予想とは違うところへと伸ばされる。

「??あ、あれ?」
「悲しそうな顔すんなって。少なくとも今晩は隣にいてやるから」

上条の手は美琴の頭へと伸びており、優しく彼女の頭を撫でながら、諭すように囁いた。
それに美琴は予想を反する上条の行いに始めは半分がっかり、半分嬉しさで上条を見つめるが、次第に撫でられることによる心地よさで顔を緩ませる。
彼女はそこである銀髪シスターの『とうまはやっぱりとうまのままなんだよ』という言葉を思い出す。
そうだ、例え彼がどこにいくことになったとしても、自分の前からいなくなることになったとしても、彼は彼。
彼女がこの言葉を使っている状況と本来言いたい意味とは恐らく違うだろうが、大意は変わらない。
こういうことはわかっている。
どれだけ取り繕っても、彼にはきっと全てお見通し。
そしてきっと彼には一番大切な存在なんていなく、恋人だからとかいうのも恐らくない。
彼にとって見れば彼をとりまく全ての存在が大切なんだ。
ただ偶々恋人という立ち位置に自分がいるから、日頃から一緒にいられるし見てもらえた。
それだけのこと…
彼をずっと隣に置いておくことはできないだろう。
彼はそういう人間だから。
そう思うとじゃあ彼にとって恋人はなんなんだと、少し悲しくなる。
でもこの立ち位置にいるからこそ今こうして隣にいることができるし、彼に甘えることも甘えさせることもできる。
これは"彼女"である自分だけに許される特権。
それができるなら、恋人だからと言って彼を独り占めできないと知っても、恋人という立ち位置も存外悪くない。

「当麻…」

自分を撫でてくれる上条に身を寄せ、彼の体に手をまわす。
まわした手から直接伝わる彼の体温がとても愛おしくて、心地よい。
こうやって彼の名前を呼べるのも、こうして一緒にベッドで身を寄せられるのも恋人の特権。

「今日は色々あって疲れただろ。朝までこうしてやるからゆっくり休め」
「……ぅん」

美琴はふと今の彼の表情が気になって、彼の顔を覗き込む。
彼の表情はとても優しいもので、見つめているだけでもなんだか心が軽くなった気がした。
見つめられていることが少し疑問に思ったのか、どうしたと不思議そうに聞かれたが敢えて言葉にはせずにに、軽く微笑んだ。
それだけでも十分伝わると思ったから。
その表情で軽く戸惑う彼が何だかどうしようもなく可愛く思えて、彼の体にまわした手の力を強くする。
本当は離れたくない存在を、今だけでもここにとどめておくために。
今宵は晴天、月明かりに照らされ二人は眠りに落ちた。
共に"大切な"存在に包まれながら。


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