小ネタ その先に遥かな想いを
6月のある晴れた昼下がり。
歴史の風格を感じさせる教会の壁に据え付けられたステンドグラスは、色とりどりの影を床に描きだしている。
いずれも見上げるほどの大きさのパイプオルガン、聖母マリア像、そして十字架が、荘厳なオーラをかもし出す。
信仰心のない者でさえも言葉を発することを躊躇してしまう、神聖な何かがこの空間を永らく支配していた。
が、ちょうど場の中央に陣取る2人が神秘的な雰囲気をこっぱ微塵にブチ壊した。
「なぁ美琴さんや、この体勢は上条さん的になかなか辛いものがあるのですが」
一方の少年がぼそっとつぶやくなり、もう片方の少女はさっそくかみついてきた。
「む、なによそれ。まさかひょっとして遠まわしに重いって言ってるの? なめた口きいてんじゃないわよアンタ」
むすっとしつつも美琴はしなやかな両手を当麻の首にしっかりと絡ませ、当麻は当麻で美琴を横向きに抱きかかえていた。いわゆるお姫様抱っこである。
「さっきまで泣いてたくせに、うちの姫様ときたら。まったくやれやれですな」
「うぅ……もう、お姫様じゃないもん。というかなんであんたはこんな時にもいつもどおりなのよ……って、よく見るとあんただって目元潤ましちゃってるじゃない! うわー、うわーっ!」
「ちっ、ちがいますこれはあれですよホコリが目にはいっちまっただけですから! そんな、にまーっとした意地の悪い笑顔で上条さんを見ないでください!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ彼らの背後ではステイル=マグヌスが渋い顔で紫煙をくゆらしていたりするのだが、2人だけの世界を築き上げている彼らには完全にアウトオブ眼中であった。
「そういえばさ、ここって本当にステキな所よね。すごくロマンチック……」
「はっはっは、上条さんの人脈に恐れ入ったか」
「売り飛ばしたらいくらになるのかしら」
「ちょっとまてや! お嬢様のクセに何言ってんですか?!」
「あんたの庶民感覚がこっちにまで染みついてきた証拠ね。っていうかもうお嬢様じゃないってーの。ついでに言えば超電磁砲<レールガン>も卒業ね」
なんだか妙にすがすがしい少女に当麻は肩をすくめる。
「お姫様でもお嬢様でも超電磁砲<レールガン>でもなけりゃ、いったいなんだってんだよ?」
「はぁ? そんなの決まってるじゃない!」
腕の中の少女の答えなど訊くまでもないのだが、当麻はあえてしらばっくれてみた。
開け放たれた扉から外へと一歩を踏み出す。あたたかな陽の光と、群集の歓声が2人を包み込んだ。
美琴は何を当然と言わんばかりの、それはそれはまぶしい笑顔を浮かべてたったひと言。
「わたしは、当麻のお嫁さんなんだから」
END