小ネタ とあるミサカの金色夜叉
…打連れてこの河原を逍遙せるは当麻と琴となりけり。
琴はぽつりと言ふ。
「私はただ胸が一杯で、…何も言ふことが出来ない」
五歩六歩行きし後、当麻はやうやう言出でつ。
「……堪忍して下さい」
「何も今更謝ることは無いわ。一体今度の事はあンたも得心であるのか、それを聞けば可いのだから」
「…………」
「此処へ来るまでは、私は十分信じてをつた、あンたに限つてそんな了簡のあるべき筈は無いと」
憤りを抑うる琴の呼吸は漸く乱れたり。
「当麻、あンたは好くも私を欺いたわね」
当麻は覚えずおののけり。
「そんな悲い事をいはずに、ねえ琴さん。
僕も考へた事があるのだから、それは腹も立たうけれど、どうぞ堪忍して、少し辛抱してゐて下さいな。
僕はお肚の中には言ひたい事が沢山あるのだけれど、余り言難い事ばかりだから、口へは出さないけれど、
唯一言いひたいのは、僕は貴方の事は忘れはしない――僕は生涯忘れはしない」
途端に、琴の額より電光が躍りて、当麻を襲ひ来ぬ。
前に翳せる彼の手は、神の手の如くなり。電光は立処に消え失せり。
「聞きたくない! 忘れんくらゐなら何故見棄てた」
「だから、僕は決して見棄てはしない」
「何、見棄てない? 見棄てないものが禁書目録の許にゆくの、馬鹿な! 二人の嫁が有てるかい」
「だから、僕は考へてゐる事があるのだから、も少し辛抱してそれを――僕の心を見て下さい。
きつと貴方の事を忘れない証拠を僕は見せる」
「もう宜い。あンたの心は能く解つた」
琴の周りに黒煙の如く砂鉄が渦巻けり。やがて一本の禍々しき刃となりて琴の右手に収むる。
物言はず、力を極めて刃を振降ろせば、当麻は交わしつつ無残に伏まろびぬ。
「えい忌々しい」
「堪忍して下さい…」
上条当麻と御坂美琴は、御坂妹に手渡された原稿を見ながら、複雑な表情をしている。
「尾崎紅葉の金色夜叉がモチーフね…それはそれでいいとして…何で私たちがモデルなのよ!?」
「ミサカ先生でも、ミサミサ先生と呼んで下さっても構いません、とミサカは文豪になった気分で宣言します」
「人の話を聞けー!」
「…それはともかく、だな…」
上条は首を傾げる。
「普通、『貫一』が俺で、『宮』が御坂になるんじゃねーの、これ…?名前も琴、だし」
「ミサカも最初はそう考えましたが、足蹴にする方があなた、される方がお姉様となり、
誰にも理解できない作品となるため、逆にしました、とミサカは説明します」
「ちょっと待ちなさいよアンタ!」
美琴は、そりゃ逆にされるだろうという勢いで喚く。
「逆なら俺の口調も何とかしろ!なんでオネエ言葉なんだ!」
「あなたの口調はこの世界に似あわないので、とミサカは苦心したことを述べます」
「だったら選ぶな、俺を!」
「そ、それにこの話だとつまり?」
美琴は口ごもりながら、御坂妹に突っ込む。
「私と当…じゃなくてコイツはもう結婚しそうな仲になったのに、コイツはあのシスターを選んで、
その事に私は怒り狂って至近距離から砂鉄剣かましたり、無茶苦茶するってこと!?」
「あくまで架空の話ですよお姉様、とミサカはたしなめます。リアリティは追求しましたが、とミサカは補足します」
上条もブツブツとつぶやいた。
「どんなに滅茶苦茶にされても、御坂に深い事情があるんだ理解してくれとすがる俺に、リアリティがあるのか…」
(すがるかどうかはともかく、謎の理由の交際や結婚をしてもおかしくないわよアンタなら、とは思うわ…)
と、美琴は密かに毒づく。
「普通、物語はヒーローとヒロインがくっつきますから、原作もこういうエンドの可能性が高いですよ、
とミサカは爆弾発言をしてみます」
「えっ」
「えっ」
Fin.