私立(みなごろし)高校 校歌斉唱


  1.暴梅雨(あらづゆ)の〜♪ 弓眼(ゆみめ) (なが)れる 紅涙(べになみだ)〜♪
    勾引(かど)贄子(にえご)よ (きも) 寄越(よこ)せ〜♪
    (さか)るー 荒神(けしん)ー 凪求(なぎもと)()く〜♪
        ()らば〜♪
    いざや 紺碧(こんぺき)双刃(そうじん) ()るい〜♫
    (おのれ)〜 ()して一切衆生(いっさいしゅじょう)〜♫
    (おぼ)()すまま (みなごろす)〜♫


  2.産土(うぶすな)の〜♪ (かえ)愛子(まなご)よ (あや)むまで〜♪ 
    壱殺多生(いっさつたせい)♫ (つら)なる魔縁(まえん)♫ 要受(ようじゅ)せよ♪
    (かせ)()の 斬滅(ざんめつ)(みち) ()く〜♫
        ()らば〜
    いざや 紺碧(こんぺき)双刃(そうじん) ()るいー♪
    (おのれ) ()して一刀両断(いっとうりょうだん)〜♫
    (おぼ)()すまま (みなごろす)〜♫


        ※間奏


  3.仄暗(ほのぐら)き〜♪ 泥濘(くさ)()てた〜 (てん)(した)〜♪
    流亡(るぼう)のー 果てに〜 (こころ)ー 彷徨(さまよ)う〜♪
    ()てはー (ちぬ)らる(きも)と〜 (くび) 
     (さら)すー (しじま)(あわ)
        ()めて〜♪
    いざや 紺碧(こんぺき)双刃(そうじん) ()るい
    (おのれ) ()して一切衆生(いっさいしゅじょう)〜♫
    (おぼ)()すまま (みなごろす)〜♫





作詞作曲 桐子(きりこ)(フロイライン)・バッテンフォール







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「休職中のアンバード先生の替わりの方を紹介しよう。
吉祥(きちじょう)十羅(じゅら)さんだ。今の生徒は存じないだろうがまたこの学校に戻って来てくれて先生も嬉しい」

 壇上へと上がる一人の臨時教師。その顔は実に端麗であった。
 左右に分けた髪は脱色して白いのかと思ったら、白色に近い金髪。プラチナブロンドだ。
 精巧な西洋人形のような白い美貌と口で流れを戻す。

『今日から赴任することになった吉祥十羅です!短い間の臨時だけど、みんな宜しくね☆』

 恭しく頭を下げる彼女は頭を上げて金髪の髪をかきあげると、狭間から(しろ)い歯が光らせた。
 これには全校集会に集まる思春期の男性生徒たちの何人かは確実にクラッと来てしまうだろう。きっと今夜から何人かのオナニーのネタになることは間違いない。

「吉祥先生は若い頃から海外でご活躍されていて非常に語学が堪能でいらっしゃる。彼女は進学クラスで英語とフランス語とイタリア語とスペイン語を担当される」

(若い頃って・・・・・・あの人今も十分若いっスよね?)

 蓑虫ヤコが回想するショーケースに飾られる彼女の写った十四年前の〝全日本割殺居合道(ぜんにほんかっさついあいどう)選手権・二刀部門〟文部科学大臣賞入賞時の集合写真にも目尻には皺の一本もなく、今の姿とそっくりそのままだ。もはや怪奇現象の類だと言ってしまった方が正しいのではないだろうか?
 他にも前の校長との愛人契約や中等部男子生徒の筆下ろし伝説など彼女には噂が絶えない。

 しかし、こんな謎の美人教師の登場など、この後の嵐に比べればほぼ凪の無風に等しいだろう。



 壇上での校長からの次の一言は殺芸部の四人全員を絶望の淵へと突き落とした。






「次に。えー、君たちに誠に残念なお知らせがある。都の教育委員会の議決により・・・・・・」






「本年度から我が校四五年の歴史ある殺芸部の廃部が正式に決定した────やったぜ!」



 ────校長のガッツポーズ!

























イエェェェェェェェェェェェェェェィ────ッ!





 待ちに待った一言に全校生徒の集まる体育館は湧き上がった大歓声に包まれた。
 ────勿論、ピクリとも動かない殺芸部の四人を除いて。
 余りの不意打ちに殺芸部全員、目を丸くして言葉も出ないでいる。


  「ヤッター!」  「正義は勝つ!」 「当たり前だ!」

       「僕たちの勝利!」「廃部だ!廃部!」

    「当然!」  「天国の兄さん!見てる〜!」  


 列席者一同、ようやく生徒たちの苦労が報われた嬉しさの余りに泣き出し、ハンカチで鼻をかむ。
 歴史と伝統を重んじる故に長年教師陣を苦しめていた殺芸部という大問題を生徒たち自身が協力して問題に取り組み解決した。
 教育者としてこれ以上嬉しいことはない。
 ちなみに吉祥先生も、空気を読んでなんとなくだが、拍手している。


「君たちの集めた署名や地道なロビー活動が国を動かしたんだ。君たちの勝利だ。おめでとう!」


 校長はあえて、殺芸部部員たちに侮辱的視線を隠さなかった。
 再び大きな歓声とともにまた大きく体育館が揺れる。
 鳴り止まない拍手にようやく苦労が報われた嬉しさの余りに号泣する生徒たち。
 そして、本日の主役。ヒーローの登場だ。

「中河原〜」「おめでとう〜!」「やったな、オイ!」

 殺芸部廃部の発起人である元陸上部のホープ、中河原(なかがはら)修斗(しゅうと)君である。
 熱狂的コールの中、皆に抱えあげられ胴上げに担ぎ出された。


「万歳!(ノ≧∀≦)ノ万歳!(ノ≧∀≦)ノ万歳!(ノ≧∀≦)ノ」


 彼はオリンピック男子陸上代表を内定にしながら、部活練習中に校庭に埋設されていた対人地雷を踏んでしまい、両足を失った。
 失意のどん底の落ちた中河原君だったが陸上部の仲間たちとの週三回の街頭演説にSNSを駆使した外交戦術。集めた二六万枚もの嘆願書を手に国会にも赴いた。そして、彼は不可能を可能にしたのだ!殺芸部の廃部という!


「ウォォーーッ!みんなぁぁぁッ!ありがとうぉぉおぉぉ────ッ!」


「ワッショイ!(ノ≧∀≦)ノワッショイ!(ノ≧∀≦)ノワッショイ!

「ワッショイ!(ノ≧∀≦)ノワッショイ!(ノ≧∀≦)ノワッショイ!

「(ノ≧∀≦)ノワッショイ!(ノ≧∀≦)ノワッショイ!(ノ≧∀≦)ノ!





「お待ちなさい!こんなの絶対おかしいですわ!どうしてですか!?お祖父様(じいさま)!約束が違います!」

 胴上げする人の波を割り、壇上へと駆け上がる生徒会長・小鋼ミカネ。

「お祖父様!何故なのです!?今年度中はまだ踏ん張ると仰ったではないですか!?」

「ごめんなぁ・・・・・・ミカネちゃん。まだじいちゃんは懲戒(クビ)にはなりたくない。年金も貰えなくなるのは流石に嫌じゃ・・・・・・」

 切実過ぎる一言に流石にミカネも言い返せない。

「こんなやり方は卑怯じゃない!?あんまりよ!中河原君!」

 中河原君へと向かい声を荒らげる部長のホノカ。しかし、立ちはだかる殺芸部廃部推進の道志たちによりホノカはすぐさま羽交い締めにされてしまう。
 ホノカの前に出て来た特待生・ブラウン鈴木君は怒りに顔を震わせながら彼女に近づくと躊躇わずに顔へ緑黄色の穢らしい痰を吐き出し、これでも殺さないだけマシだと言わんばかりに。

「俺の妹の顔に硫酸をかけた事を忘れたとは言わせないぞ!この鬼畜めが!」

 彼は泣いていた。怒りでだ。

「父さんや母さんにペットの猫まで燃やした!お前たちは何もかも奪った!」

  「俺の手を返せ!返せよぉぉ!」 

 「部屋に引きこもって一生オナッてろ、このカス!」


 廃部の祝賀ムードから一気に白けた大円団の中でホノカは何とか言い返そうとするがすっかり小さくなっている。



「テメェーら、近所の婆さんの店の料理にガラスを混ぜただろ!?年寄り虐めて楽しいか!?あ゛ぁ゛!?」

カ────!ペッ!

  「くたばれ!このひとでなし!」

カ────ッ!ペッ!

         「地獄に堕ちろ!」

カァー、ペッ! ゴホォ・・・ゴホ・・・

「あとで俺の▆▇▇▇▅でお前の▆▇▅に▃▇▇▅してやる!」


 ホノカの顔中は吐き散らされた痰で重く濡れる。
 裁判に勝てるレベルの罵倒やしまいには生理用ナプキンまで投げつけてくる者まで居る。何故みんなの目の前で部長がこんな辱めを受けなければならないのか殺芸部はまるで理解出来なかった。


「あんたら、やっていい事と悪いこと────グフッ」

 見ていられなくなった蓑虫ヤコは間に割って入り止めるが逆に暴徒と化した生徒の一人にナイフで刺されてしまい蹲ってしまった。

「ヤコちゃん!・・・・・・痛ッ」

 中河原君の取り巻きたちがメルに何かを投げつけたてきた。
 なにやら酷くべとついている────今度は使用済みのコンドームだった。

「お前たちは存在してはいけない生き物だ!」

「死ね」 「死ね」 「死ね」「死ね」「死ね」

  「死ね」  「死ね」  「死ね」  「死ね」


Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)


Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)


Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)」「Kill(殺せ)



 とうとう起こった逆死ね死ねコールの嵐。
 篠突く雨の大喝采。
 その渦中、人彩メルたち〝殺芸部〟の運命は、


 ────絶対絶命である。



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 二時間後。B・L・M(ブラック・ライブズ・マター)寸前だった殺芸部をタイヤネックレスから間一髪で救ったのは、殺人現場から炭酸カルシウム(チョーク)の粉が出たという当たらずも遠からずの理由で押しかけたてきた捜査一課・魔人犯罪対策室であった。

 学校生徒・教職員全員が厳重な身体検査を受けさせられた。服や下着どころか肛門の中までチェックされる、池袋唯一の学び舎であった私立鏖高校はCIAかくも恐怖の収容施設へと早変わりした。
 校門前には高機動装甲車。パトロール隊員も顔の見えないヘルメットとプレートキャリアで身を固めて、ここは戦場も同然の重装備である。
 近所の住民が何事かと詰め寄った途端、銃声とことごとく血飛沫を巻き上げた。




「闇サイトの運営!?私たちは金銭を得る為に人を(あや)めている!?ありえませんッ!」



「ああ、我々も信じたくない」

 書類の束を片手にホノカを見やる本田警部はサングラスのブリッジを上げながら嘆息する。

「実験室で猛毒のサリンを製造しているという告発もあった。どうなんだ?」

「アレはサリンじゃなくてハロタン(※麻酔ガスの一種)です!私たちは邪悪なテロリストみたいな企みなんて絶対にしません!」

「じゃあ、コレは?」

 ────それは肩から担ぐスネアドラムのような巨大な金属性の箱の写真だった。


「何ですか?野外フェスで使う音響スピーカーですか?」

 本田警部は殺芸部部長・火中ホノカの受け答えや反応を確かめながら話をする。

「これは〝メタルストーム〟と呼ばれる特殊な銃で、36の銃身から毎秒16000発を発射出来る行き過ぎなくらいの攻撃力のある兵器だ。これに撃たれたら、人体はまず蒸発する」

「すいません、刑事さん。私は銃はあまり使わないし、詳しくないんです。私の武器は鰹節です」

 話のスケールが何段階も切り替わってくれたおかげで廃部のショックから何とか平静さを取り戻せたホノカ部長。
 初めは今も行方不明の生徒たちの顔写真や心当たりの多過ぎるうしろ暗い事案を警戒していた殺芸部であったが、彼女の預かり知らない案件であった。
 これは暗黙の了解であるがキラキラダンゲロス2の参加イコール殺人準備罪・凶器準備結集罪など最低でも2年の懲役刑が確定する。

「当然だ。この銃は私も今まで知らなかった。最近コレ(、、)に撃たれたような損傷をした遺体が見つかって調査しているんだ。調べたら以前鏖高校(ココ)の生徒がこの銃(、、、)を制作した記録が残っていた。例えば・・・・・・卒業生たちが残した3Dプリンターの設計図(あおがみ)なんかが残っている可能性はないかね?」

「地下の第4セクション保管庫に卒業生たちの手付かずの卒業制作があります」

 事前の鑑識の調査で鏖高校の校庭には200発以上の弾丸が回収された。が、いずれも池袋での事件に該当するものはない。池袋で起きた大量殺人鬼殺人事件の糸口は見つかっていなかった。

「では、地下の保管庫に案内してほしい」

「メルさん、案内(、、)してあげて。大丈夫でしょ?」

 既に察しているメルは頷く。

「・・・・・・はい」

「1、3。と・・・」

 たった二桁の暗証番号の入力で解錠される扉には本田警部も防犯意識に不安を覚えるが、前を往くメルの後に続いて、地下の倉庫へと降りていった。
 中は食料や医薬品。毛布の備蓄からコンドームまで完備されている。恐らく学園自治法改正時の過去の遺物だろう。
 そんなものに見入る本田警部を人彩メルが見逃すはずなどなかった。

「グワァァァ────ッ」

 突如、上階から響き渡る野太い悲鳴に驚く本田警部の不意をついて、クルリと本田警部が振り返るや否や、人彩メルは警部の顔に荷物検査を潜り抜けたホノカ部長の(かんな)を取りだして、本田警部の顔面に押し当てる。
 本田警部は顔面を押さえながらこの世の声とは思えない声で地面にのたうち回る。
 床にはトイレットペーパー1切れ分の顔の皮膚が剥がれ落ちていた。
 地下から戻ると、メルにガスマスクが投げつけられる。
 既に随伴していた警官たちは全員ホノカたちに駆除されていた。

「あんたなら()れると思ってたッスよ」

 そこには体育館でナイフに刺され、保健室に運ばれた蓑虫ヤコが居た。

「ヤコちゃん!怪我はないの?さっき体育館でブスッと刺されたでしょ!?」

「切れてなーい!ちょっと2センチほど鳩尾に入ってオエッっ・・・・・・って、なっただけッス!」

 保健室から戻ってきた蓑虫ヤコの戦線復帰によって希望の光が見えてきた。
 当初の予定とは違うが優先権(アドバンテージ)殺芸部(コッチ)にある。
 必要なのは盤面の把握。

「何か武器はないのかな?部室が警察に押さえられてるし・・・・・・」

 流石のメルたちも剣道場から盗んだ無銘の日本刀だけで警察ちちと銃撃戦には心許ない。
 予算不足によりキラキラダンゲロスに備えた私立鏖高校の要害化は完成を待たずして、この日を迎えてしまったのが実に痛かった。

「二階の男子トイレの造った隠しポケットにグロックと予備の弾。それと手榴弾があるよ」

「それじゃあ足りないよ・・・・・・他には?」

「屋上の貯水塔の中にMk.19機関銃・・・・・・けど、走っても取りにいけるかな?」

良し(べネ)、私が囮になる」

 ホノカが床下から取り出したアサルトライフルを組み立て終えると立ち上がる。

「了解!っと・・・・・・その前に、ミツキ。魔法をもっと使っちゃいなさい」

「使っちゃいマース」

 ちちんぷいぷい。海原ミツキは奪ったタブレット端末をカタカタ叩くと、あっという間。

「体育館裏口から隊員確認。電力供給カット。防火扉を下ろして、施錠。スプリンクラー起動。はい、これで溺死♡」

 みんなでハイタッーチ!()ったね!これで五人ほど削れた。
 次いで校内放送局をクラッキングして、ダークウェブ、NOVAからの中継器(ハブ)に繋がる。
 校内に非常事態を知らせるアラートはNOVA運営の司る交奏曲へと切り替わった。

 ────天からのアナウンスが死闘の幕を厳かに落とす。

 
 You have execute authority.Leave no one alive(誰一人生きて帰すな)


 これから始めるダンゲロスに一同に緊張が走る。
 ミツキからハンドマイクを手渡され、満面の笑みを浮かべて受け取る火中ホノカ。






〝それでは、改めまして・・・・・・警視庁捜査一課・魔人犯罪対策室の皆様方〟



〝宣誓、これより私たち殺芸部は────ッ!

 一切の政治的、思想なくッ!

 一切の宗教的、思想なくッ!

 一切の良心の呵責なくッ!

 そして、残酷にッ!美しくッ!殺すことをッ!

 ここに誓います────ッ!〟


 今我々は紛れもなく、この学校での、上位であり、頂点捕食者である────ッ!


「殺芸部・部長────〝火中ホノカ〟────」

 呼応して言葉を重ねる。

「同じく、殺芸部・副部長────〝海原ミツキ〟────」

「同じく、殺芸部────〝蓑虫ヤコ〟────」

「新入部員の人彩メルです!よろしくお願いします!」


 いつもの調子のメルに皆は顔を見合わせてクスリと微笑した。


「それでは生徒諸君────警察一同────おいでませい」














 しかし、校内はもうしっちゃかめっちゃか。殺芸部のなんかそれっぽい演説は誰も聴いちゃくれなかった。。。


 現状はまさしく〝混沌(カオス)〟の惨事である。
 この私立鏖高校の産んだ突然変異のカリスマ・中河原君の考えた殺芸部完全対策マニュアルも、突如現れた殺人鬼・間宮祥三のフライングにより全て御破算。
 我先にと逃げまどう生徒たちにとって今は、歩き回る二人の殺人鬼たちと殺し回る殺芸部たちへの恐怖だけが全てだった。
 魔人対策室の介入に乗じて、まさかあんな闖入者までもが学校に紛れ込んだ事実に、生徒たちは恐慌をきたした。
 しかし、絶対絶命の窮地に追い込められた鏖高校生たちは、極限状況下の絶望によって、


 もう殺される前に、殺せば良いじゃないか!


 殺人鬼たちに追い詰められた生徒たちの恐慌が、ここに来て逆に手負いの獣如き生存本能の不思議な化学反応を起こした。
 極限下の警察も生徒を見れば〝殺芸部だ!〟と即射殺し、生徒は女性警官を見れば数人がかりで押さえ込んで輪姦する。
 その暴力の嵐は生徒会長・小鐘ミカネにも吹き荒れていた。
 全身を殴られて、一糸纏わぬ用務員と繋がってあえいでいる。
 殺し殺される私立鏖高校は完全にガバナンスを失っていた。
 今この瞬間も、この醜態をネット中継で全世界に生配信されている。



「・・・・・・総員・・・・・・戦闘準備」

「外の街にも血の雨が降る前に片付けろ。タンジェロ・・・・・・好きなだけ斬っていいぞ。責任は俺がとる」

 警察無線に訴える本田警部は最後の力を振り絞って力尽きた。


「────承知」

 タンジェロは、短く、応答した、トイレの中で。

 ────東京都内中心に起こった同時多発大量殺人事件から四年。
 内閣は対魔人犯罪対策法案を可決。魔人犯罪対策は新たな局面を迎えた。
 修羅の巷と化したこの東京で日夜サイコパス狩りをしている警察官たちである。
 辞める奴は居ない。死ぬかクビになるかどちらかだからだ。


 彼らも逮捕しに来たんじゃない。殺しに来たのだ。


 今此処に殺芸部と三人の殺人鬼。
 そして、最強の員数外(イレギュラー)たちとの決闘のゴングが鳴った。
 私立鏖高校での虐殺は、今ここに酸鼻の極みを迎える。


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 ────西棟 初等部。

 そこに居合わせた全員が、悪魔が唄うのを聴いた。

「幼稚児はいいなぁー柔らかくてーいいなぁー小学生もいいけどー」

 異形の蓑虫ヤコは蛮勇のバーバリアンよろしく血振りの一旋をさせて、咆哮を放つ。
 紅に染まった蛮刀は、間違いなくたった今、血を吸ったものだろう。もう片方の手が投げ放ったのは幼稚園教諭の無言の絶叫を放った生首だ。
 ケタケタと緩みきった哄笑を放ちながら、異形化した蓑虫ヤコは問答無用のままに腰の抜けた女児たちを刈り取りはじめた。

 ────その時だ。


 ピピピピピ、と電子音めいた音が鳴り渡る。
 蓑虫ヤコは振り返る────刻、既に遅し。




太陽(たいよう)呼吸(こきゅう) 百八式(ひゃくはちしき)────」







 そして、褐色の剣士は轟き叫ぶ────ッ!



「────波動砲(はどうほう)!」



 起動した太陽剣に周囲の大気は帯電して迸る稲妻。
 カマド・タンジェロはかの有名なDX太陽剣を解き放ったのだ。
 ブラザーたちとの過酷なトレーニングを経て習得した太陽剣の新・奥義はその超高温でいかなる生物も滅殺する。
 一直線と原子の太陽にも匹敵するコロナビームが蓑虫ヤコとその背後の女児目掛けて光の奔流が彼らを周りの空気ごと貪った。

「ギャアァァァ────」「あ゛づいい────ッ」

 椅子の後ろに隠れていた子供もろとも風孔は空けられた。子供たち悲鳴、絶鳴。髪が溶け、皮膚は焼け、肉ごと骨まで炭化させる太陽剣のその深奥。
 堅牢な繊維骨格もまるで歯がたたず、蓑虫ヤコを傍に居た児童たちごと真円の形の消し炭へと変えられた。

八百万(やおよろず)荒御霊(あらみたま)たちよ、どうか安らかに・・・・・・」

 結果がどうであれ、この惨憺てる状況に言い訳出来ないが、今は奪われたこの無辜の命たちに祈りを捧げる。
 タンジェロの見やる空の彼方には雲に穴を開けるほどのキラキラした一条の光と化して飛んでいくなんかもの凄いエネルギー。

 ボン!

 少し遅れて波動砲の同射線上の高いビル。恐らくサンシャイン60の展望台も少し消し飛ばした。まぁ・・・・・・観光者も多少は居るだろう。

 ドン!

 次いで、上空で着陸待機していたANA発547便の左第二エンジン。
 煌々と光る西の空はすぐさま重厚な厚雲に塗り潰され、

 ドッカーン!

 ────遠くの彼方で何かが大爆発する。搭乗者数は180人くらいだろうか。

 そんな光景を見たタンジェロは頭を掻き毟りながら、気づかなかったフリをして事態の収拾に戻った。




■■■■■■■■




「キィィィ────ッ」


 物狂いの奇声を上げ、頭上に振りかざした自転車で襲いかかってくる一人、二人と生徒を射殺した警官の脳天に、三人目が備え付けの消化器を警官の脳天へと勢いよく叩き下ろす。

「前見て歩け!このクソガキ!邪魔だ退け!」

 その三人目を間宮は窓の外と突き飛ばし、四人目を間宮は掌底で顎部を脱臼させる。五人目は間宮に睾丸を蹴り潰され、その場に捨て置かれた。六人目は足払いで転ばせるとそのまま膝頭を喉へと落とすと鈍い不快な音を立てる。

「コイツ────ッ」


 電光石火の勢いでその後、間宮に撃ってきた海原ミツキを防刃ベストの隙間から都合8ヶ所、急所を瞬時に弁当の割り箸で刺し貫くと振り撒いた血の匂いに酔いしれることもなく逡巡(しゅんじゅん)なく階段を一気に駆け上がっていった。
 先ほどの出会い頭彼女が所持していた手榴弾の安全ピンを引き抜いて、置き土産として残して────。
 夥しい数の光の針で貫かれる東棟校舎────直後の闇に照らす爆炎のフラッシュ。
 キラキラしたガラス片と共に窓から外に放り出されるのは殺芸部海原ミツキ。
 地に付した彼女の背後から赤い翼が流れ出ていった。
 ────もうここに居る者たちは誰も疑わなかった。
 目の前にいる冴えないオヤジは戦場の天才以外に何者でもないと。
 混沌とした中で気配を敏感に嗅ぎ取って、逃げまどう生徒たちの誰も追うことなく、雨隠れの人喰い鬼のいる屋上方向へと馳せていた。




「待ってろよぉ!かあーさーん────ッ!」



 間宮祥三、覚醒────。


 自分の認知は、してくれないがどうしても嫌いにはなれない実の母親(、、、、)の吉祥十羅の下へ向かう一匹の化物(けもの)と成る。






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 吹き荒れる雨嵐(あめあらし)。不気味な閃光。雷鳴。豪雨の慟哭。

 激しい稲妻の閃光が都内有数のマンモス校、私立(みなごろし)高校のシンボルである太古の巨大鮫メガロドンを劇的に浮かび上がらせた。
 そして、メガロドンの鼻先には不吉そのものの影が。
 たばしり落ちる雨滴に全身を掠ませながら、(あるじ)なき古城のガーゴイルのように腰を降ろしている。
 現在の羅刹女の状況も他と似たり寄ったりの状況である。
 眼下ではガラス越しの中等部の生徒たちが殺芸部謹製の毒ガス兵器によって血の泡を吹いて全身を震わせながら失禁していた。その大半は既に絶命しているのは確かだ。顔も水膨れで腫れ上がり正視に耐えられるものではなかった。
 空気より比重の重い毒ガスは校舎1階部分で滞留する。校外へ出しようとして出口を通うとするものならまずこのガスの餌食となる。
 先ほどまで助けを乞う声や施錠された扉を力の限りに叩く音も今は静寂を保つ。勿論、最後の昇降口の扉の鍵を閉めたのは羅刹女である事は問うまでもない。図らずも殺芸部との共同作業であった。

 雨と風が結託して羅刹女(ラークシャシー)を打ち、彼女は不敵に嗤い、

「おー、怖ッ!」と拍手を打った。

〝Hey!羅刹女!バットニュースだぜ!また、鬼が出現()た〟

 羅刹女はすっくと立ち上がり、ウンザリするように電話口に返事をする。動じた素振りは見せなかった。

「ねぇ、スポンサーさん。最近、鬼とか流行ってるの・・・・・・?コレで今週何人目よ?」

 スポンサーの笑い声が止む。どうやら笑って済ませられる状況ではないらしい。

〝神出鬼没のデストロイヤー。通称〝雨隠れの人喰い鬼〟ラークシャシーみたいに頭に角は生えていないけど、これがメチャ強い〟

 スポンサーの言葉を聞き流すでもなく、つまらなそうに返事をよこした。

「角なし?じゃあ、偽物のザコじゃん。この前の電気出す雷パンツ履いたやつはコスプレだったし」

〝コイツは違う。他所のデスマッチに乱入して、賭けが何度も流れてる。運営は落とし前(、、、、、)をつけに何人か刺客を送り込んだが全員の追跡を振り切っている〟

「へぇ、金目当てじゃあないの?そりゃ殺人鬼の鏡だね」

〝まるで台風だ。悪役(ヒール)としては満点だけど、おかしな能力の所為でビデオ映りが最悪!プロモーター的には零点。オマケに警察(サツ)にも目が付けられてて、NOVA運営からも鼻つまみの今とびきりのアウトサイダーだぜ!〟

「人殺しに(いい)(わるい)もないよ、スポンサーさん」

〝みんなの仇はとってくれよ!ラークシャシー!ボーナスは弾むぜ!〟

〝久しぶりのビッグゲームだ。たっぷり盛り上げてくれ!〟

「アイアイサ〜〜」

〝まぁ、気をつけなはれや!それじゃあね〜Good Luck(グッド・ラック)警告。大会運営NOVAではキラキラダンゲロス参加中の事故・傷害・死亡その他の損失に関して一切責任を負いません。あしからず

 ガチャン、と切れた。

「────ふん、結局は金かよ」


 非常用サイレンの鳴り響く、校舎を眺めながら、三豆かろんは
 その昔、普通に学校に通いたくて研磨機(グラインダー)で毎日角を削っていたある日の事を思い出していた。


「・・・・・・学校なんて嫌いだ」


 ────四歳の時、左義長(さぎちょう)の焚き火で焼き芋を焼いていた時の事だ。
 何を思ったのか、待ちきれない小さい私は焚き火の中に腕を突っ込んで芋を取り出したのだ。
 それを見ていた隣の男子は当然真似して、
 ・・・・・・結果、大火傷。救急搬送の大惨事となった。
 私の方はというと、長袖は肘まで融けて失くなっていたのに腕の方はヤケドの一つも負ってはいなかったのだ。
 その時の私を見る目には毒があふれていたのを今でも覚えている。額に角の生えてきたのもその頃。
 少しだけ困った母から訊かされたのはある(かたり)。所謂、日本昔話だった。
 スポンサーさんが言うには私の家の歴史はとてもとても(ふる)く、昔は姫纈(きしぼ)という()でその筋(どのスジ?)では有名だったらしい。
 この姫纈というのは鬼子母神(きしぼじん)の末裔を意味した。
 鬼子母神とは、お釈迦様によって改心した人喰いの女鬼(おんなおに)のことで、彼女は神様に昇天する前に沢山の子供を成していた。
 その内の一鬼(いっき)がうちの家系の御先祖様だったらしい。
 正直いうと御先祖様たちがよその赤ちゃんを誘拐して、頭からバリバリ食べていたなんて話は今聞いてもゾッとする。
 まぁ、そのおかげでひとでなしを自覚出来たので良かったが・・・・・・。


「雨隠れの人喰い鬼──────(おそ)入谷(いりや)鬼子母神(きしぼじん)────────なんて」

 発する言葉に、自然と自虐的な響きがこもる。と、


                           ザザ


 羅刹女は身体を一回転させて四方を確認する。
 普通の視力の者なら十メーター先も見えないであろう。夜明け前の暗さのように真闇に包まれた周囲には人影は全く見えない。

                        ザザ

 ────聞こえるのは、雨と風と雷が悪魔的エネルギーで暴れ狂った音だけ。だか、最後の殺人鬼は今、此処に居る。



 ────頭上である。

 直後や閃光と雷鳴が迸るや世界に穴が空いたかのように黒い影が生まれる。


「へぇ。今どきの鬼は空も飛べるんだ・・・・・・何もんだ」

 羅刹女は笑いを引っ込めて、眉をひそめると威嚇的に袖口から堰を切ったよう大量の(ロープ)が現れ、迎撃態勢に入ると、縄は身をよじる大蛇のようにくねり周囲を張り結柵(けっさく)した。


『鬼の居ぬ間に、なんとやらね・・・・・・』


 頭上から、声がかかる。冷たく、静かな、闇の世界からの声。
 吹き抜ける音はこの雨の所為だが、虚空の空間には漣の一つも起こさない。キン、と凍り付く音さえ聞こえそうだ。


「────彼岸(ひがん)もやい結び〝下手廻(しもてまわ)し〟」

 羅刹女の手首のスナップ一つで、地面に並べられた縄たちは鴉のように飛び立ち、
 河渡しの冥銭が彼女の掌から溢れ落ちるや、十七条(じゅうななじょう)もの〝川〟が突如として流れはじめる。
 これは既に『冥河渡し』の術中。
 定置網に掛かった魚だ────何者であっても逃げることは不可能。
 それにこれは消化試合である。大本命は鏖高校の生徒諸君、殺芸部!

「雨隠れの人喰い鬼、お前が先にルビコン川を渡れ────」

 最大張力168㌧。五馬分屍の緊縛術、フライハイ・ハングマンズ・ノットの体勢に音なく移った。結び目の中に巻き込んだ獲物を持ち前の剛力でもって、ギリギリと圧搾しながらそのまま川へと引きずり込む・・・・・・瞬間、


『馬鹿な()


 熱の欠けた相手の口から漏れたのは哀れみか?それとも哄笑だったのだろうか。


 宙に浮かぶ人喰い鬼は微塵も動かぬまま、羅刹女の引き絞る手綱のテンションが切れる。


「・・・・・・ナンジャラホイ」


 それが、皮切りだった。
 ゴムパチンコのように羅刹女の手元へ弾け飛び、跳ね返ってくる係留索(ホーサー)は特注品の故の引っ張り強度と鬼のなせる160トンを超える剛力(ごうりき)アダ(、、)となり、特殊マルチフィラメント・ロープはそっくりそのまま羅刹女へ襲った。
 縄というにはあまりにも鋭利で、残忍に、
 その音速の速度の果ては────致命傷だ。
 羅刹女は校舎の屋上階から一階中庭の校舎まで吹っ飛んでようやく止まった。背後のコンクリートの衝突痕にはカモメのフンのような血塊が残る。

 ────これは〝スナップバック〟と呼ばれる海難事故の一例である。

 張りつめられた船の係留ロープが破断して、元に戻ろうとする力よってロープがギロチンと化して、飛んでくるのである。
 ダンプカーに跳ねられても膝小僧を擦りむく程度のこの小鬼(、、)でも、結果は悲惨だ。
 羅刹女の満身(まんしん)をたんと抉る幾重もの係留索はその体内から飛び出した(はらわた)の代わりに伸びている。
 幸い胴体の切断、全身バラバラの即死は免れたものの、彼女の体中に残ったまま係留索は内臓や骨にまで達し、ロープから自力での脱出・摘出は完全に不可能となった。
 苦しみに悶えながら足掻く様は、まるで踏み潰されても死にきれない虫のようだ。

「ア・・・ゥッ、ハァハァ・・・・・・っ」

 手足を持ち上げようとするだけで内臓が引っ張り出される痛みに羅刹女から融けた呼気が漏れる。ついにはこらえようとして、こらえきれず叫び声をあげる。







 一歩一歩と近づいてくる。暗黒(そら)から降りてくる跫音(あしおと)

 蓮歩一歩ごとに咲く一輪の波紋は、
 腐った汚泥の底から現れる蓮の花のように、
 篠突く雨の中を躍る。


 ────私は一体何と戦っていた(、、、、、、、)




 ────そうか、



 薄闇に炯々と光るその冷たい輝きに、諸人(もろびと)は動物的恐怖感に襲われ、戦慄とともに理解するだろう。

 自分が一体ナニ(、、)に殺意を向けたのかを。


 偽物の方は自分だったのか。あれが本物の。
























鬼子母神────(まこと)の──── 角なき(、、、、)
































『────正解。よく判ったわね』























苦 害 否 悲 屠 骨 反 消 亡 悪 殺 下 否 卑 閉 失 老 影 鬼 剋





 (ないぞう)は引っ張られ、ねじ切れる。すみやかに死の国に送りこまる。





────プツン()

 美しいその刃紋の輝きが目に焼き付く。
 一体どんな細工と物質だ。


────プツン()






 その正体は羅刹女の目には映らない。


 冥河の境界は絶ち斬られた。
 かの鬼子母神には、この死の川さえも、越境()えられるのか。








死 吊 切 不 壊 忌 妖 亡 乱 死 殺 血 恨 腐 凶 失 肉 帝 殴 幻 害 墓



切り花のように哀しく────




黒 危 雨 降 消 死 呪 凶 不 切 下 呪 砕 去 消 反 凪 無 血 宴 切 刺 玖 穹 怪 兎



      標本よりも残酷に────



 猛々しい鼓動が三豆かろんの耳にも聴こえ、黒風に吹き流される。コレが自分の『死』なのだ。




化 自 吊 七 獄 脳 恐 殺 卍 屈 怪 魔 古 呪 悪 死 怨 凶 切 怨 死 斬…斬…斬...斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬           


「ぁ・・・・あぁ・・・イヤだぁ・・・・・・そんなに、強く、引っ張らない・・・・・・ァ────







                     ────ブチッ()



 死の川の流れに抗いながらも、彼女は流される激流にただただ身を任せた。
































 ────抹殺 完了(Kill Confirmed)


 ────羅刹女(Rākṣasa)脱落(He`s gone)




































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太陽(たいよう)呼吸(こきゅう) 一二式(ひとにいしき) 地対艦誘導弾(ちたいかんゆうどうだん)




 (あか)く光るタンジェロの和刀(わとう)から放たれるレーザー目標指示機(デジグネーター・モジュール)による、近接航空支援(Close Air Support)。タンジェロに呼応し、学園外に設置されたランチャーからマッハ2.8の飛行速度で発射された地対地誘導弾(ミサイル)は五秒以内に目標に着弾する。まさに呵責なき一撃である。

南無阿弥陀仏(フレンドリー・ファイア)

 誰にともなく、孤独なデーモンスレイヤーは呟いた。
 爆心地は浄化の炎に包まれ、殺人鬼たちの不浄な魂もこれで祓い清められるだろう。


「ゲホゲホ・・・・・・オエッ」

 メルは埃を吸い込んでむせながら瓦礫の中から這いだしてくる。

「ホノカさーん!」



脳・マ↑↑(ノーマライズ)最大活性(シビライゼーション)────」

 メルは脳筋を発揮して、焼け焦げた瓦礫の校舎の中から救い出した火中ホノカの姿は鉄筋が腹部を貫いて、重度の火傷をおっている。



「・・・・・・こんなことならもっと勉強しとけば良かった・・・・・・銃とか爆発物の────」

「 ・・・・・・美しく散るはずが、ただの意気地無しね・・・・・・」

「黙ってホノカさんーッ!血が出てるーッ!」

 内臓が飛び出している彼女はひどく弱々しい。
 小さな声言った。たった一言。

「殺芸部はもうあなた一人だけよ」

 掠れた声で囁いた。

 刻一刻と血の気を失ってゆく唇から、か細く声を紡ぐ。

「メ・・・ル、少し・・・・・・お願・・・い・・・ワタ、しを・・・コロして・・・?」

 二人は互いを労い、笑い合い、

「うん!分かった!」

 メルはホノカの胸にナイフを突き刺した。
 無論、急所は外してある。

「────ァ、」

 メルの背後から水音に重なって機械的なまでに規則的な靴音が近づいてくる。

「そこまでだ、殺芸部。今なら終身刑で済む」

 力強い太い声がメルを釘付けにした。
 カマド・タンジェロだ。


「私たちは絶対に諦めない!部長もミツキさんもヤコさんも全員死んじゃった!私が殺さないと一体誰がみんなを殺すの!?」


「いささかも容赦せぬ。その妄執砕け散る覚悟はあるか?」


()ってみろ!」



「なら良し!太陽(たいよう)呼吸(こきゅう) 八一式(はちいち) 短距離誘導弾(たんきょりゆうどうだん) 八連(はちれん)

 赤外線誘導の八一式地対空誘導弾ならタンジェロの捕捉を離れても追跡する。

 空に群れをなして翔ぶミサイルは鏖高校に到着するや音もなく光も飛ばなかった。今は、ただ、宙を浮いている・・・・。
 空中で飛ぶ燃料を完全燃焼した八一式は校舎へと次々墜落していった。

「この力は一体・・・・・・!?」

 この大雨に打たれながら、汚れた轍もなければ、雨その他振り撒いた血飛沫からの(しずく)の跡もない。肩、服、靴ひすら濡れてはいない。


「お、お、鬼・・・・・・ッ!?」

 タンジェロは感嘆の声を漏らし関心を覚えつつ寒気がした。
 この鬼、強い────それも凄まじく。
 それが剣先の震えとなり、太陽剣がせわしない動きになる。

『道を開けなさい────』

 その言葉が、断頭の一閃よりも疾く冷血の眼から迸ったと覚えた、タンジェロは口を押さえた。
 視線ひとつで、たちまちタンジェロは凍りついた。

『────それとも死ぬか』怜悧に。厳格に。

 騒がしく鳴り響く心の臓に、鎮まれと命じているうちに、あとずさっていたタンジェロは刀を捨てて、ダーッと走り出した。

「だ、誰か来てくださーい!」

 タンジェロは叫びながら逃げていった。

「助けて、助けてーッ!ヘルプ!ヘールプ!」

 十羅は見る見る雨の中に溶けた影を見送る。
 もはや、戦士ですらないカマド・タンジェロに出る幕などない。


「あの・・・・・・鬼って、もしかして・・・・・・これ?」

 メルは頭の上に両方の人差し指を立てて小首を傾げる。

『そうよ』

 つられて十羅も両方の人差し指がさりげなく立つ。彼女も興味を持ったらしい。
 メルは感嘆の溜息をついた。緊張にこわばって表情の中で目が笑っている。

「────小学校の時に同級生に居たんです、鬼」

「その子とは電車が線路を通る瞬間に一緒に石を投げ入れたりして、遊んでたんです」

『楽しいよね』

 メルは赤い舌を見せて、

「けど、脱線させたのがかなり不味かったみたいで私は矯正施設送りだったけど、その子は転校することに・・・・・・」

「ちょっと忘れてたけど、最後に思い出せて良かった」そこには残酷な真剣さがあった。

 吉祥は(ふりかえ)りながら、寂しく微笑んだ。

『さようなら、涅槃でまた会いましょう』

 満足気に笑うと「はい!」声を明るくしていった。

 隠し持っていた拳銃を吉祥に向けて、銃を放った。
 銃弾は吉祥に当たる前に弾が跳ねて、明後日の方向や速度が落ちていく。

 風が刃と化して吉祥の周囲を走り、髪の毛を逆立てた。
 それだけだ。体を触れずに空を切った。

 メルの、あ、と思った言った瞬間、弾ける硬質の音。
 天つ風に人彩メルは骨片一つ残さずに吹き飛ばされた。
 戦う前から、すでに勝敗は決している。
 アメダスの観測した今日の降水量は39.5mm。
 つまり、吉祥十羅の周りでは1立方メートル辺り1分間に約10億発以上の雨粒が点在する。
 それはガトリングガンを遥かに凌駕する量の弾丸が発射されるのと同義である。

 ()を鬼神大帝波平行安────それは古より破邪調伏する天上の(つるぎ)である。











 ────抹殺 完了(Kill Confirmed)


 ────普通の女子高生(ABNORMAL HIGHSCHOOL GIRL) 脱落(He`s gone)





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 間宮の父親は彼が18の時に自動車事故で死亡した。
 彼が運転免許を取り、初めての父親親とのドライブの時である。
 彼が調子に乗って車のスピードを上げすぎて、信号に気づかずに交差点に侵入。反対車線から曲がってきた大型トラックと正面衝突した。
 父親は即死。間宮もシートベルトを外して運転していた事が災いし、咄嗟に運転席から飛び降りて、九死に一生を得る。
 その後の交通刑務所の服役により、将来設計にも暗い影を落とした。
 しかし、父親の葬儀では親戚一同から事故当事者の自分よりも香典一つよこさない吉祥十羅に怒りの矛先が向かっていた。









「・・・おか・・・・・・さん!僕が・・・助けに来たよ!」




『────えーと、誰の子かしら?』





「この糞ビッチがががががががが・・・・・・ッ!」


 怪物のように口を開けて、彼女を呑み込もうと飛びかかる。
 間宮祥三のその時のその眼はまぎれもない鬼眼であった。

 襲い来る間宮に、吉祥は生理的な気持ち悪さを覚えて、
 羽虫を払うように間宮を瞬く間に血霧へと変えた。


『・・・・・・何?今の気ッ持ち悪いの・・・・・・』


 吉祥の頭上にはクエスチョンマークが今も点滅している。



『何だったの?』




 残されたのは、熱をもつ廃校舎。
 血臭をはらむ風が吹く。
 篠突く雨の大喝采の中。
 色の煙を纏い、
 今にも消え入りそうな。
 艶姿の女性が独り。








 ────抹殺 完了(Kill Confirmed)


 ────指名手配犯、マミヤショーゾー53歳 横領殺人容疑(MANIYA SHOZO 53 Embezzlement a brutal murderer the wanted) 脱落(He`s gone)




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 ────捜査一課によると、間宮容疑者は午前11時半ごろ、鏖高校近くの側溝に車ごと突っ込み、車から降りるとそのまま校舎へと入り、犯行を繰り返しました。
 事件当時、鏖高校では全校集会が開かれていて、現場に通報を受けた魔人犯罪対策室が高校に到着すると間宮容疑者の死亡を確認。
 隣接する私立鏖小学校や中学校・高校の生徒ら574人中554人が病院に搬送され、
 内、生徒349人、教員職員37人が重症、内214人の死亡が確認されました。
 今回の事件で駆けつけた警察官・捜査員17人も殉職。警ら隊員ら8人が意識不明重体。
 現場付近で仕事をしていた目撃者からは、空からミサイルが降ってくるのを見たと共同通信に話した。
 間宮容疑者は先月、オフィスビルで経理部長の男性=当時(48)をボールペンで刺して殺害したとして全国に指名手配されていました。
 現場の私立鏖高校では現在も高い放射線と何らかの化学物質が検出されたとのことで立ち入りが制限されています。
 今後、被疑者死亡のまま、書類送検する方針です。


 ────次のニュースです。旅客機の墜落です。
最終更新:2024年06月02日 21:51