VS呑屋ホッピー
「酔い(よい)!」「酔い(よい)!」「酔酔酔い。酔い(よよよい、よい」)!!」の口上とともに
歌舞伎のように啖呵を切る必殺技だけ考えていた。
血に酔い、殺しに酔い、財に酔い、あらゆる渡世のしがらみを忘れ鬼と化す技術体系。
他者の物を奪い、使い、踏みにじる鬼畜生のマシラの剣。
これは最も有名で最も鬼畜で最もおぞましく最も華やかなとある歌舞伎の一演目。
『女に扮した』盗賊(ばけもの)が、夜鷹より財を命を尊厳を、根こそぎ奪い川へと捨てる鬼畜生の一演目。
それは、誰もが知る有名で軽薄な、浮かれたような一文で〆る一演目。
すなわち――――
月も朧(おぼろ)に 白魚の
篝(かがり)も霞(かす)む 春の空
冷てえ風も ほろ酔いに
心持ちよく うかうかと
浮かれ烏(からす)の ただ一羽
ねぐらへ帰る 川端で
竿(さお)の雫(しずく)か 濡れ手で粟(あわ)
思いがけなく 手に入る(いる)百両
御厄払いましょう、厄落とし!
ほんに今夜は 節分か
西の海より 川の中
落ちた夜鷹は 厄落とし
豆だくさんに 一文の
銭と違って 金包み
『こいつぁ春から 縁起がいいわえ』
その演目の名は、『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』
そう言って呑宮ホッピーは鬼のように赤い赤ら顔を見せつけるように敵の遺骸を川に放る。
ああそこには武人のような気高さはなく。
修羅の道と血肉と財を浅ましく貪り奪う、鬼畜生の所業なり・・・
こんな感じで。
最終更新:2024年07月07日 11:51