「彼女はさ、人間だって言うんだよ」

「でもね、あの子が人間だって言われても説得力がないんだ」

「人外だよね」


試験管の中に入ったサラサラの粒がある。

小麦粉のように細かく、キラキラと瞬く粒が入っている。

その重さ、実に21g。


これより。池袋全域が爆殺の危険にさらされる。

この21gの粒たちによって。


◆ ◆ ◆


ねえ、知ってる?


連続爆殺殺人鬼のウワサ。


池袋中のどこにでもあらわれて。


誰にでも変装して。


なんでも爆発させる殺人鬼のウワサ。


指を鳴らすと誰かが死ぬの。


指を鳴らすと誰かを殺してしまうの。


誰かが殺され、犯人が残され、手段だけが不明のまま爆殺されたという結果だけを残す殺人鬼。


その現場には必ず何かが残されているんだって。


何が残されているかっていうと――――


◆ ◆ ◆


池袋、某所


「・・・また例の件か」


凄惨な現場に刑事がぼやく。


これで何度目になるか分からない爆殺事件。

犯人は分かっている。手口も分かっている。ただどうやってやったのかが分からない。


これで何人目になるか分からない爆殺犯人。

彼は指を鳴らすことで今回の爆殺事件を起こしたらしい。


まるでたった今魔人に覚醒した魔人能力であるかのように(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


まったく同じ能力。

まったく同じ発動条件。

まったく違う犯人。


あり得ない。

まったくもってあり得ない。


裏でこの現象を起こしている真犯人がいるのだ。

それは分かるのだがどうやってこの現象を起こしているのか、それがまったく分からない。


魔人能力のはずだ。はずなのだ。だがその形跡すら判別できないのだという。

魔人能力に目覚めたと思われる犯人たちもまったくもって人間(にんげん)のままだ。


そして。


「あい、はー、あい、ゆー、りありー、いでぃおっと・・・」


『I her I You Really Idiot I You Really I see』


訳そうにも訳せない、乱筆乱文のメッセージ。

必ず現場に残されている、意味の分からないメッセージ。

明らかに意図的だ。


この現象を引き起こしているなにがしかがいるのだ。

こんな現象を引き起こせるなにがしかがいるのだ。


明確な意思を持って。

この池袋に爆殺の現象をもたらしている。

なにがしかが。


覚醒したと思われる魔人能力、それらの名前は現在一時的にこう総括されている。

八百万(なにもかも)を虚無にばらまく殺人現象・・・

八百万 虚無(パンク・キャノン)と。


◆ ◆ ◆


池袋、某所


凄惨な現場を見下ろすビルの屋上に五人の少女がいる。


一人は一 端数(にのまえ はすう)

「ッすぅぅ~~~ハァァ~~~」

端切れ(パンツ)を被った親指のない少女。


一人は一 母偶数(にのまえ まざあぐうす)

「昔々あるところに・・・」

ホルマリン漬けの脳髄を膝にのせて読み聞かせをしている人差し指のない少女。


一人は一 (^ε^)-☆Chu!!数(にのまえ きっす)

「チュッ☆」

中指のない少女。


一人は一 ヤク数(にのまえ やくすう)

「ウッ!!ぷへえええええ・・・」

ひっきりなしに注射を打っている薬指のない少女。


一人は一 数の子(にのまえ しーすー)

「寿司うめえ」

寿司を食べている小指のない少女。


少女たちは彼女のために集まってる魔人たちだ。

彼女が『結果を見る』ために持ち運ぶためにここに来た魔人たちだ。


だが彼女は答えない。だが彼女は応えない。


ホルマリン漬けのたんぱく質はすでにその性能を一失している。

だというのに。


『・・・うん、ありがとう』

『ずいぶんと集めたとは思うんだけど・・・』

『結構今回のは今までにない結果が出てるよねえ』


聞こえるのだ。

虚数(あい)を愛していた彼女(かぞく)たちには。

その電極に刺したコンピューターのノイズが。

確かに彼女(かのじょ)の反応を示している。


『これからはもっと警戒も激しいとは思うんだけどさ』

『もう少しサンプルを集める意味はありそうなんだよね』

『だから、もうちょっと、さ』

『派手にやっても・・・いいかな?』


一 端数(にのまえ はすう)

「ッすぅぅ~~~ハァァ~~~」

端切れ(パンツ)を被った親指のない少女がいる。


一 母偶数(にのまえ まざあぐうす)

「昔々あるところに・・・」

ホルマリン漬けの脳髄を膝にのせて読み聞かせをしている人差し指のない少女がいる。


一 (^ε^)-☆Chu!!数(にのまえ きっす)

「チュッ☆」

中指のない少女がいる。


一 ヤク数(にのまえ やくすう)

「ウッ!!ぷへえええええ・・・」

ひっきりなしに注射を打っている薬指のない少女がいる。


一 数の子(にのまえ しーすー)

「寿司うめえ」

寿司を食べている小指のない少女がいる。


気にするなと。少女たちは彼女に返す。

気にするな。気にするな。気にするな。気にするな。気にするな――――

私たちは。


「「「「「家族なんだから」」」」」


だから彼女は堪えない。


彼女は人を見るのが好きな子だ。魔人を見るのが好きな子だ。

人を()(じんがい)が。

今日のおもちゃを探している。

彼女のためならば。

家族(わたしたち)はいくらでも。

人間を、見殺しにする。


『魔人だけが殺人鬼(ひとごろし)だなんて不公平だよねえ』

歌が、聞こえる。

人間(わたしたち)だって遊びたいよねえ』

とある日本の昔放送していたドキュメント番組の主題歌だ。

『いいよ、皆。武器(おもちゃ)をあげる手段(ルール)をあげる』

それは旧い古い日本の言葉で紡がれた一人の少女の自己紹介。

『遊ぼう!遊ぼう遊ぼう!!魔人(かぞく)に殺られる(しのまえ)に!!』

どこかつたなさをともなった、一人の少女の自己紹介。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


池袋、某所。

凄惨な現場を見下ろすビルの屋上から。

凄惨な現場より爆音が鳴り響く。


『私には家族がいます』


試験管の中に入ったサラサラの粒があった。

小麦粉のように細かく、キラキラと瞬く粒が入っている。

その重さ、実に21g。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


これより。池袋全域が爆殺の危険にさらされる。

この21gの粒たちによって。


『私には家族がいます』


一 端数(にのまえ はすう)

「ッすぅぅ~~~ハァァ~~~」

端切れ(パンツ)を被った親指のない少女。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


凄惨な現場にいた刑事だったものがばらまかれている。


『私には家族がいます』


一 母偶数(にのまえ まざあぐうす)

「昔々あるところに・・・」

ホルマリン漬けの脳髄を膝にのせて読み聞かせをしている人差し指のない少女。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


凄惨な現場には一つの文章が残されている。


『私には家族がいます』


一 (^ε^)-☆Chu!!数(にのまえ きっす)

「チュッ☆」

中指のない少女。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


訳そうにも訳せない、乱筆乱文のメッセージ。

必ず現場に残されている、意味の分からないメッセージ。

明らかに意図的だ。


『私には家族がいます』


一 ヤク数(にのまえ やくすう)

「ウッ!!ぷへえええええ・・・」

ひっきりなしに注射を打っている薬指のない少女。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


I her I You Really Idiot I You Really I see

(私は彼女。私はあなた、本当に?)

(――――馬鹿な私を、あなたはどうか見ていてください)


『私には家族がいます』


一 数の子(にのまえ しーすー)

「寿司うめえ」

寿司を食べている小指のない少女。


『私の名前は一 i(にのまえ あい)です』

『私は名前が一 i(にのまえ あい)です』


私の名前は一 i(にのまえ あい)

虚数(あい)から産まれた、存在のない少女(おんなのこ)


『私には家族がいます』


私は名前が一 i(にのまえ あい)

家族(かぞく)から認められて初めて認識できる、存在のない少女(おんなのこ)


「さあ、今日は何して遊ぼうか?」


◆ ◆ ◆


彼女(このこ)はさ、人間だって言うんだよ」

「でもね、あの子が人間だって言われても説得力がないんだ」

人外(かぞく)だよね」


一粒一粒が人間一人くらいなら粉々に爆散させる威力を持った爆弾たち。

虚数の愛で完全に管理された愛が愛する愛のカタチ。


それが小麦粉のようなチープさで。

細かく、キラキラと瞬くそれらが完全に管理されている。

その重さ、実に21g。


その総数。ばらまかれた範囲。実に――――


「私はさ、人間なんだよ」

「でも私が愛する魔人(まじん)たちはだーれも私が人間だと信じていないんだ」

心外(さいこう)だよね」


彼女の名前は一 i(にのまえ あい)。

虚数(あい)より産まれAI(あい)(あい)した、EYE(あい)(あい)する察人鬼(おんなのこ)


――――愛は愛より生出で愛より愛し。


I her I You Really Idiot I You Really I see.


続く。
続く。
最終更新:2024年05月19日 17:20