2020/03/07_13:12_都内某所
 民家で立てこもり事件が発生。
 犯人は居宅にいた主婦を人質にとり、警察に現金と逃走手段を要求。
 72時間の膠着の末、犯人は人質とともに逃走。
 のち居宅の浴室で死体が発見される。死体は家主である夫と見られる。
 死因は自ら腹部を刺したことによる自殺。
2020/03/12_06:03_都内某所
 警察が犯人の男を射殺。
 その際、人質の主婦の抵抗で警察官4名が撲殺される。5名が重傷。1名軽傷。
 人質の主婦はその場で射殺された。
 各報道に【東京ストックホルム事件】として取り上げられた。

2020/08/06_05:24_都内某所
 都内の金細工店で強盗事件が発生。
 犯人グループは「誰かに操られている」と主張し、真犯人の捜索を警察に要求。
 3名いた人質のうち2人がお互いに殺し合いを始めたため、警察が突入。
 犯人グループ9名のうち8名死亡。残り1名は逃亡。
 人質2人死亡。残り1名を保護。
 警察は逃亡した犯人の生き残り1名が重要な手掛かりを持つとみて捜索を開始。
2020/08/09_12:23_都内某所
 都内の病院の高さ6階の窓から保護された人質が飛び降り。
 全治1年。
2020/08/10_23:54_都内某所
 保護された人質が病院から再度逃走を図る。
 治療を拒否。対話能力と精神喪失を確認したため隔離。

2021/01/03_10:09_都内某所
 男子高校生が何者かに刺殺される。犯人は不明。
2021/01/04_11:43_都内某所
 男子高校生2名が何者かに襲われ重傷。うち1名は数時間後に死亡。
 先日の刺殺事件と同一の高校に通う生徒だったことから関連性が疑われる。
2021/01/05_12:19_都内某所
 犯人が出頭。
 指紋を照合したところ二件目の事件と一致。
「やりたくてやった。後悔はしていない」と供述。
2021/01/05_10:24_都内某所
 女子高校生が何者かに刺される。
 先日の刺殺事件と同一の高校に通う生徒だったことから関連性が疑われる。
2021/01/05_14:37_都内某所
 女子高校生が何者かに刺される。
 数時間後に死亡。
 先日の刺殺事件と同一の高校に通う生徒だったことから関連性が疑われる。
2021/01/06_10:40_都内某所
 男子高校生が何者かに刺殺される。
 先日の刺殺事件と同一の高校に通う生徒だったことから関連性が疑われる。
2021/01/07_10:24_都内某所
 警察が犯人を逮捕。
 犯人は心神喪失による無罪を強く主張。
2021/01/07_10:40_都内某所
 刺殺魔が学校に乱入。教師と高校生合わせて13名が死亡。8名重傷。
 犯人は「人を刺すのがどうしても好きになってしまった」と供述。
 3人の犯人たちにはそれぞれ接点はなく、【連続刺殺魔出没事件】として大きく報道された。

2022/05/23_18:00_都内某所
 俳優のD氏が電撃婚。
 相手は一般の女性。
 一目見て「運命を感じた」とのこと。
2022/05/26_19:00_都内某所
 俳優のE氏が記者会見。
 かねてD氏と婚約関係にあったことを発表したうえで、D氏の電撃婚に対し「とても信じられない」と発言。
 週刊誌等で大きく取り沙汰された。

2022/09/07_15:38_都内某所
 民家にて強盗事件が発生。
 当時民家には住人がいたが、強盗犯の身の上に強く同情し、現金400万円を渡して逃亡させた。
2022/09/08_13:08_都内某所
 先日の強盗被害者が強盗犯の居宅に押し入る。
 強盗犯がその場で通報したことで事件が発覚。
 強盗犯は殴られ重傷。

2022/10/06_13:47_都内某所
 都内某所の新興宗教団体の施設が爆破される。
 死者43名。重軽傷者合わせて20名。
 自作自演を疑われるもテロ事件として警察は捜査を開始。
2023/01/15_09:04_都内某所
【新興宗教施設爆破事件】の犯人を逮捕。5才の少年。
 当宗教団体との関連はなし。
 爆発物も少年の自作であることを確認。
 一般的な知能の幼児だが、両親曰く「4才ごろから爆弾に異常な興味を持つようになってしまった」とのこと。
 自宅から大量の爆弾を押収。
 警察は他にも大小複数の爆破事件に関連があるとみて捜査。

2023/02/05_11:16_都内某所
 都内駅前のビルで銃乱射事件が発生。
 犯人は前日に犯行を予告しており、入場規制がかけられていたが、被害者203名は最後まで現場を離れなかった。
 その場で立てこもり事件に発展。
 警察の救出活動に人質全員が激しく抵抗。
 203名全員死亡。犯人は警察により射殺。

2023/08/08_10:57_都内某所
 都内の商業施設にある喫茶店で男が死亡。
 死因は多量のコーヒーを摂取したことによる急性カフェイン中毒。
 来店した当時、男は異常な状態であり、店員が止めるのも聞かず他の客のコーヒーを飲んで倒れる。その場で死亡を確認。
 男の体からは致死量の3倍のカフェインが検出された。

2023/12/23_11:00_都内某所
 都内の結婚式場に女が押し入り、結婚式をしていた花婿を攫う。
 女はその場で取り押さえられるも、両者に面識はなし。

2024/2/13_11:23_都内某所
 都内在住の一般女性が結婚。
 相手は10年前に女性の父親を殺害した通り魔。
 男は服役中で、女性は「殺したいほど憎い」と語り話題となった。

2024/03/12_10:07_都内某所
 都内の飲食店で強盗事件が発生。
 店内にいた客63名が人質になるも、一部の客が犯人グループと意気投合。
 客の手引きにより犯人グループは逃走。
 怪我人、死亡者ともになし。
2024/03/14_23:47_都内某所
 都内の住居で強盗事件が発生。
 犯人と住人が意気投合。
 住人の手引きにより犯人グループは逃走。
 先日飲食店で起きた強盗事件との関連も含めて警察は捜査中。
 逃走の際に警察官一名が重傷。

2024/04/30_13:16_都内某所
 都内の民家に男が押し入り、住人に対し金銭を要求。
 住人が抵抗したため、犯人は住人を殺害。
 近隣からの通報で警察が駆けつけ、その場で犯人は逮捕。
2024/05/01_08:06_都内某所
 検察庁への護送中に犯人が逃走。
 当時警察車両に乗っていた被疑者5名のうち2名が他の1名を巡り殺し合いを始める。
 その場で乱闘騒ぎに発展。警察官3名死亡。
 被疑者1名死亡。4名逃走。
2024/05/02_07:30_都内某所
 警察は被疑者同士の乱闘を操作系の魔人能力によるものと推定。
 脱走した被疑者のうち、乱闘を煽った1名が能力者であるとの疑い。
 2020年から現在までに起きた【ストックホルム】による複数の事件と関連すると見て捜査中。
【ストックホルム】の行方は現在も分かっていない。

2024/05/03_20:20__________________




 これは誰かに向けての文章ではなく、体裁に関係なく私自身の心の述懐だと断っておく。

 さて、人と関わることを得意としない私が学校の保険医という職を選んだ理由はどうでも良い。
 日銭を稼ぎ生計を立てるためだとか、はたまた私がまだ学生であった時分に人生を変えてくれる心の師に出会ったのだとか、勝手なことを想像してくれて構わない。
 保険医は生徒の体調不良だけでなく、十代の若者たちの日頃の悩みや心の底にあるモヤモヤした感情まで受け持たねばならないというのが、この際は重要だ。

 あるいは、保険医という職業は授業をサボる男子生徒の噂話も聞かねばならない七面倒な職業だということだ。

「先生、恋の天使様って知ってる?」
「あ?何言ってんだお前」

 時刻は午後12:30。
 すでに食事を終え、私物のノートPCと睨めっこしながら昼下がりのコーヒーブレイクを楽しんでいた私に突拍子もなく質問が投げかけられた。
 質問を投げかけたところの男子生徒は、中世ヨーロッパ宮廷で大切に育てられたプリンセスもかくやと言わんばかりに見目麗しく、保健室のベッドでくつろいでいる。
 何が楽しいのかその表情はこちらをからかうようであり、それでいて親密さを醸し出そうとしている。十代の社交的な男子生徒にありがちな馴れ馴れしさだ。

 しかし私は分別の付く大人である。
 丁寧に言葉を話す人には丁寧に返すが、丁寧に話さない類には丁寧でない言葉を返す。
 保健室のベッドで仮病をしている男子生徒に粗雑に言葉を返すと、コーヒーを一服して再び口を開いた。

「それってアレか?自分がそうだって言いたいのか?」
「アッハハ!ハハッハハ!!」

 ベッドで仰向けになっている学生服を着たその生徒は、眉間に寄せた私の皺を見ると、これまでとはまた違う、ひときわ甲高く大きな声で笑った。
 甲高い声、そう思われたいのだろう。変声期を超えた喉仏の膨らみは隠しようなく成人に近い年頃の男性で、私に対するあどけなさを演出した態度の半分は演技も甚だしい。
 着崩れた学生服。ピンク色の短髪は東洋人離れした癖っ毛である。それでいて顔貌は端正だ。いるだけで場が華やぐ魅力がある。
 なにせ彼が廊下を歩けば、10人中9人が振り向く。残りの1人は目でもふさいでいるのだろう。
 この少年は同年代が羨むような、そういう美しさを持っている。

「先生ぇ、オレのことすっげえ良くワカってんじゃん!」
「馬鹿言うな。俺とお前はただの保険医と生徒の関係だ。それ以上でもそれ以下でもないし、実際付き合いも長くねえ。うぬぼれるのも大概にしやがれ」
「えぇ〜つれないなぁ。オレと先生ぇの仲じゃん。天使様に失礼だぞ」
「繰り返すが、俺とお前はただの保険医と生徒の関係だ。忘れるな」
「分かってるよ先生ぇ。”ここでは”、でしょ?」
「……」

 オレ、か。オレと名乗ったか。
 確か昨日の一人称は「僕」だった。その前は「私」で、さらに前は「自分」だ。
 彼の唇から出てくる言葉はどれもこれも信じるに値しない戯言だ。
 一応、社会性を意識しているのか、人前ではTPOに適した言葉遣いに変えているようだが、私との会話ではそうする意図がないのか、コロコロと人称が変わる。
 それに人称名詞だけでなく、発言の内容もさっき言ってたことと今言ってることがまったく一致しない。そう言うことはこれまでもたびたびあった。

「ねぇ〜はぐらかさないでよ先生ぇ。オレって皆から恋の天使様って呼ばれてるんだってさ。それってオレが天使みたいにカワイイってことじゃない?」
「何もお前とは限らねえよ。恋の天使様ってあれだろ?女子生徒が言ってたぜ。願うとどんな恋の悩みも解決してくれるっていうありがたい存在だろ?へー、お前がそんな殊勝なモンかねぇ」
「あーズルいズルい。先生ぇ女子とお話ししたんだ。おれも女の子とお話ししたい」
「雑談だろ。お前みたいに下心ねえよ。てか引っかかるのそっちかよ」

 少年は何気なくベッドから起き上がり、こちらに近寄ってくるが、その視線は私のノートPCに注がれている。
 近づけばその肌は透き通るように白いが、皮脂のにおいは誤魔化せない。
 体臭はどうしようもなく、男性のそれである。
 この少年は実際のところこの学校の生徒ではない。
 おそらくは学生ですらないだろう。
 学校に通っているかも怪しいものだ。

「……天使だよ。僕は天使さ。天国から神さまの愛を皆に届けにやって来たのさ」
「恋、か。神さまの愛ってのはそんな肉欲とか恋愛と同じなのかね。女日照りのしねえイケメンのお坊ちゃまには分からねえと思うけどよ。」
「あー!信じてないな」

 確か出会った初めは「両親に追い出されて仕方なくここまで行きついた」とか言ってなかったか。

 少年を無視して起動中のノートPCの画面に目を遣る。
 モニタが反射した胸像が映し出すのは、ピンク色のくせ毛と深い青色の美麗な顔だ。
 思わず見とれそうになるその顔にはあどけなさがまだ半分残っている。
 ここまで目立つ顔立ちで、口を開けば出まかせが飛び出すのに、学校の人間にそれを信じさせる手腕は大した詐欺師とも言える。
 こいつが詐欺までするかは知らないが、犯罪者であることに変わりない。

「もう!先生ぇ!無視しないでったら」

 少年は私の顔を無理矢理つかんで振り向かせた。
 目の前の綺麗な顔が悪戯な笑いで歪む。

「先生、同じなんだよ。神さまの愛は普遍的だから、恋愛も神さまの愛を窓から覗いたひとつの風景でしかないのさ」
「そういう普遍的で概念的な存在に、お前はなりたいのか?」
「……やっぱり先生ぇ、オレのことすっげえワカってんじゃん」

 コイツが目指すところの普遍的な愛というのも理解できなくはない。
 ただそれが人の身では不可能なことをコイツは知らないし、認めようともしない。
 私自身、そういうひたむきな若さに憧れるし嫉妬してしまう面がないではない。

 ただ、この少年は致命的に無思慮で無遠慮だ。
 むしろだからこそ、そんな大それた望みを抱くまでに自己を肥大化させてしまったのだろうか。

 不意にぞくりとした感覚が頭をもたげる。

 少年の指先は私の頬と首の下の皮膚に深くめり込み、手入れの行き届いた女性のような爪が痕を残さんばかりに食い込んでいる。
 窓の向こうの景色では花壇のさざんかに群がってモンシロチョウの群れが子孫を残そうと必死に大乱交を始めていた。

 頭に詰め込まれた暗澹とした感覚は冷や水のように脊髄を伝って私の身体を硬直させる。
 若者風に言えばヤバいという言葉だ。

「大丈夫だよ、先生」

 天使を自称する少年が深海に隠れた氷山のような瞳でこちらを見据える。
 少年の、否、冷徹な犯罪者が獲物に対してふと見せる妖艶な笑み。

「先生には”能力”を使わないから」
「はっ……どこまで……」

 果たしてその発言がどこまで信じられたものか。
 ならば私のこの心の裡はなんだというのか。

「先生、僕は天使なんだ。天使はね、人類みんなに恋をしてもらうのがお仕事なの」

 強い力だ。
 大人の魔人とも遜色ない。そういう力だ。
 そういう力を私の首に注ぎつつ、その視線はちらりとノートPCの画面に注がれている。

「人類みんなが痴態を晒せば、それは博愛って言えるんじゃない?」

 優しくも何ともない力で私の首を絞める少年は、その悪戯に歪んだ口から人類愛を騙る。
 余りにも破綻した論理はむしろ少年が語る夢のようだが、ここでいう少年とはこの若き犯罪者の年齢に適した意味ではない。
 嗚呼。

 と、唐突に少年は私を締め上げていた両手を離した。
 初めから私を害するつもりはなかったのだろう。
 あるいは脅しという意味合いですらない行為だったのかもしれない。

「な~んちゃって!ビックリした?先生ぇ。オレが先生のこと殺そうとするわけないじゃん」
「……はっはっ、とんだ恋の天使もいたもんだな。」
「ねえ怒ってる?あ~怒ってるでしょ先生。ちょっとからかっただけなのに~」

 少年はなれなれしく私の顔に触れてくる。
 私はうっとおしそうにその手を払うと、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
 少年は乱れた私の頭髪を整えようとしてくる。
 人の髪に無闇に触るなと一喝してやった。

「それにしても恋の天使様だなんてダッサいセンスで辟易するよね先生ぇ。昭和かっつーの」
「いきなり掌返すなよ。その呼び名、気に入ってたんじゃねえのか」
「ぜーんぜん!だってオレには【博しき狂愛】って名前があるんだから。ラディカル・キューピッドだよ、先生ぇ?」
「へえ、【ストックホルム】じゃなくてか?」

 犯罪者の顔が悪戯そうに優しく微笑んだ。

「うん!オレは【博しき狂愛(ラディカル・キューピッド)】の方が気に入ってる。【ストックホルム】ってのも悪くないセンスだけどね」

 その時、外から保健室の戸を二回ノックする音が響いた。

「あの、新堂先生はいますか」

 すこし弱気で今にも消え入りそうな、しかし発音自体は明瞭でよく通った女子生徒の声がした。




 須藤久比人。
 本人はそう名乗ったが、おそらく偽名だろう。
 ストックホルム。クピド。
 良い得て妙ともいえるし、短絡的で幼稚でしょうもないセンスともいえる。
 私はこの少年のことをまだ名前で呼んだことがない。
 「お前」とか「少年」とか、ぶっきらぼうに適当に呼んでいる。
 そうしないといけない。彼のことを名前で呼ぶと何か取り返しのつかない一線を超えてしまうような、そんな感情を抱いているから。
 少なくともそれは愛ではない。

 私は新堂夢朗。
 夢が朗らかと書いてユメヲと読む。
 漢字だといかにも男らしいが、音だけ聞けばユニセックスでどちらの性別でも通用しそうに思う。
 年齢のわりにやけにファンシーだが、両親が名付けた名前だから仕方がない。性格はむしろ現実的で地味に育ってしまったが。
 少年もまた私を名前で呼ばない。
 須藤久比人という彼の名前を初めて聞いて、彼から名前を聞き返されたとき、私は彼に対して自分の名前を「新堂オスロ」と名乗った。
 我ながらウィットに富んだ、機転の利く返しだと自画自賛している。
 少年もまた気に入ったのか、それ以上は追求しなかった。
 以来、少年は私を「先生ぇ」とか「先生」と呼ぶ。
 私の本名など、近づけばすぐに分かる距離感だというのに。
 やはりそれは、両者にとっての線引きなのだ。

「えっと……つまりはそれって恋の悩み?」

 私の不躾な質問に対して保健室に入ってきた生徒、仮に生徒Aさんだとする、彼女はやや恥ずかしそうに小さく頷いた。
 彼女の本名を伏せたのはこれが単に私の自身の所感を述べた文章だからで、私の興味は隣で愉しそうに他人の話を聞く少年に向けられているためである。
 すべての人物の名前を伏せるかといえばそうではなく、ここではあまり重要でないからそうしているだけのことなのだから、今後新しい登場人物が名前付きで登場したにもかかわらず、私の心に影響のある位置付けになかったとしても、それは生徒Aさんの名前を伏せるのと同じくらいあり得ることだ。
 つまり私に彼女のプライバシーを守る意思は毛頭なかった。

 生徒A。彼女は保険医である私に恋愛に関する悩みを相談しに来たのである。

「……はい。先生なら助けていただけるって」
「助けるって。俺は保険室の先生だぞ?そりゃ生徒の悩みを聞くってのも仕事ではあるが」

 私がなるべく丁寧に応対する様子を、少年は実に愉快そうにニヤニヤとした笑顔を浮かべながら見つめてくる。
 こういうのも保険医としての仕事の一環だとは考えているが、しかし、保健室に入るなり開口一番「告白を手伝ってほしい」と言ってきた相手には慎重にならざるを得ない。
 告白の手伝い。
 そう、生徒Aが言ってきたのは悩み相談でも心の不安の吐露でもなく、「恋愛の手伝い」だ。保険医である私に他人の恋愛成就の手伝いをしろというのか。
 一体全体これはどうしたものかと口にしてしまいたいが、私は大人で相手は生徒である。とはいえ生徒Aは高校生だ。一定の社会性を求められる年齢なのだから、それ相応の切り出し方をすべき。ただそれをどう伝えるべきか。
 しかし、生徒Aの目は無分別な子供ではなく、何かをしっかりと決意した目で、それでも危うさを残した視線で私を見据えていた。

「冗談を言っているわけではありません。本当はここで相談するような話じゃないことも分かっています。でも、ここでならそう言う話を聞いていただけるって聞いたんです」
「聞いた?そんなこと誰に聞いた?」
「そちらのピンク頭の方にです」

 生徒Aは丁寧なのか失礼なのかよくわからない言い回しで少年を名指しした。
 その時の私は生徒の前ながら実に不愉快そうな眼をしていたと思う。
 そして、少年はこれまた本当に悪戯な表情でニッコリと目を細めて笑った。

「だから言ったじゃん。僕は恋の天使様なんだって」

 そもそも恋に関することだろうが、一大決心をして個人的な話を相談に来た場に部外者がいて、おかしいと疑わない人間はいないだろう。
 だが、少年はそういうことを何ともなしに出来てしまう、そういう魅力を持っている。
 その場にいて何ら不自然さを感じさせない。
 少年の場合はさらに魔人能力を使えば周囲に自分の嘘を強く信じ込ませることもできるのだろうが、その魔人能力を使ってすらいないのだから驚きだ。
 彼が魔人能力を使えば私は即座に理解できる。

 私には【心態検査】という魔人能力がある。
 人が人に向ける好感度や親密度のようなものを百分率で見ることができる。
 発動条件は2時間以内のカフェインの摂取。元は非生物を人間にするか、逆に人間を非生物の世界に行かせるあたりの能力が欲しかったのに、なぜこんなコミュニケーション能力を求められる魔人能力に目覚めたのかが不思議でならない。
 しかし、他人の心象をパラメータで見ることで分かることもある。

 たとえば生徒Aの私に対する好感度は45%だ。
 これは好きでも嫌いでもないがやや不安が勝っているといったところだろう。
 顔見知り程度の人間に向ける好感度としてはこんなものだ。

 対して生徒Aが少年に向ける好感度は60%を超えている。
 これはそれだけ生徒Aが少年に抱く初対面の印象が良いことを示す。
 仮に少年が能力を使って生徒Aの行為を操作したら、好感度は90%を一気に超える。

 そんなことばかり観察していたから、初歩的な部分を見落としていた。
 この場に少年がいて生徒Aが何の疑問も持たずに話を進めていたことに。

「新堂先生って恋の天使様と知り合いなんですよね?」
「どうも~。僕の名前はヘルシンキ・アモール。実は僕こそが君の言う恋の天使様なんだ」
「えっそうだったんですか」
「待て待て待て。お前はここを恋愛相談室にするつもりか?」
「いいじゃんいいじゃん生徒の悩みを聞くのも教師の務めでしょ、先生ぇ?さあ、迷子の子猫ちゃん。こんな奴ほっといて天使様に恋の相談をしてごらんよ」

 また一人称が変わっている。
 少年は口から出まかせを言いながら勝手に話を進める。
 ヘルシンキ・アモールなどという名前の人間がこの世に存在するはずもないが、生徒Aにとってそんなことは些事なのだろう。
 うまくいけば自分の願望を都合よくかなえてくれる。下手な鉄砲を数打ち当てるつもりでここにいるのだろう。
 ただ、私は知っている。少年の興味はあくまで恋愛事そのものに過ぎず、生徒Aの願望がかなうかどうかなど考えてすらいないことを。

「天使様。天使様って本当にいたんですね。天使様。私、サッカー部の先輩に告白したいんです。どうすれば成功させられるでしょうか」

 サッカー部の先輩。ここでは仮にB先輩としておこう。
 校内でサッカー部の先輩と聞けばこの男が想起される、そういう快活な青年がB先輩だ。
 もちろん憧れる生徒は多いが、確か既にマネージャーと付き合っていると聞いたことがある。

「へー!サッカー部の!いいじゃん青春だね。告白しなよ応援しちゃうよ僕は。先輩とはどこで知り合ったの?」
「実は私、文芸部で、先輩はサッカー部だから接点がなくて、でもかっこいいからどうしても付き合いたいんです」
「良いねえ。失敗したくないわけだ。恋の天使は誰の恋でも応援するよ」

 生徒Aの見た目はまあはっきり言って地味だ。
 かわいくないわけではないし、その辺りの努力を怠っている風でもない。むしろ所作や髪型などオシャレに気を遣っている。
 とはいえ、叶わない願望もある。
 B先輩の生徒Aに対する好感度は35%。どちらかというと嫌われているかほとんど知らない人間に向ける感情だ。

「おい、滅茶苦茶はするなよ」

 警告もかねて私は少年に言ったつもりだったが、どう受け取ったのか少年は愉快そうにニンマリと微笑んだ。
 逆に生徒Aは委縮したように縮こまる。

「こんなこと無謀だって分かってるんです。本当は先輩には付き合ってる人がいるのも分かってます。でも、どうしてもこの思いを伝えたいんです。」
「ああ、そういう意味じゃなくてな。まあなんだ。そういうこと言われて、嬉しくない奴なんかいないと思うぞ。責任はとれんが、どういう結果になろうと、一度告白してみるのもアリだと思う」
「僕も先生の意見に賛成かな。知ってた?恋の天使は全ての恋を等しく応援するんだよ。だから君に恋の矢は使わない」

 能力は使わない。そう言いたいのだろう。
 コイツの信念なのか、コイツは恋のためにしか能力を用いず、それゆえに既に芽生えている恋にはむやみやたらと能力を使ったりはしない。
 見たいのは他人の恋の行く末だ、ということなのだろう。

 少年は手の甲で生徒Aの顎を上げるとその顔を興味深げに覗き込んだ。

「子猫ちゃんは追われる側がいい?それとも追う側がいい?」
「え?」
「うーん、僕の見立てでは子猫ちゃんは追う側なんだよね。恋は追い求めるものさ。だから君はもう大丈夫。好きなだけ自分の恋を追い求めるといいよ。失敗なんて恐れてちゃだめだ」
「ありがとうございます天使様。少し気が晴れました。私、これから先輩に告白してこようと思います」
「良いよ。行っておいで。僕たちが見守ってあげるから、諦めちゃだめだよ。存分に思いのたけを述べてきな」




 告白の場所は古式奥ゆかしい体育倉庫の裏だ。
 出歯亀というのも分かっているが、私と少年は生徒Aの一世一代の告白の下見に来ていた。
 体育館の裏といえば告白の定番スポットだが、意外と周囲に人はいるものだ。
 告白のタイミングの調整もまた天使の役目なのだと、奴はのたまった。

 チャンスは放課後の部活が始まるまでの僅かな時間。
 生徒Aは知り合い伝手にB先輩を呼び出す手筈を整えているはずだ。

 そんな天使様は、隅の陰からコッソリと観察できる場所を見繕いながら、ふと私の肩に両手を回した。

「ねぇ先生?学校って人が多いからさぁ、人気のない場所って案外少ないよね」
「お陰様でな。お前と二人になるなんて想像するだけで悪寒が走るわ」
「またまたそんなこと言っちゃて~」

 背中が硬直する。
 少年の体格はけして大きくはないが、私もまた高身長という部類ではない。少年とはせいぜい10センチも差がないだろう。
 私は魔人としてはむしろ力の弱い類だ。

「お前、本当に魔人能力は使うなよ」
「大丈夫だよ。先生にはオレの能力は使わないって言ってんじゃん?安心してよ」
「そうじゃねえ。あの子のことを言ってんだ」
「あの子?あの子って子猫ちゃんのこと?」

 少年はまるで今まで生徒Aのことなど忘れていたかのような口ぶりで言葉を紡ぐ。
 いや、実際に忘れていたのだろう。

「もー!オレと一緒の時に他の女の話なんてしちゃ駄目」
「どういう情緒だよそれは」
「また怒ってる~!ちょっとからかっただけじゃん」
「で、どうなんだよ。あの子に能力使うのか?」
「は?使うわけないじゃん。だってあの子はもう恋をしてるんだよ」
「……だよな。それを聞いて安心した」
「大丈夫。俺は嘘を吐くけど、能力を使うのは等しく恋を見たいと思った時だけだよ。天使の矢は薄汚い犯罪の道具なんかじゃない」

「ちょっとあなたたち、そこで何してるんですか」

 まだ授業中にもかかわらず、教師がひとり角から姿を現した。
 丸目先生。現国にしては珍しく二年の学担だ。

「新堂先生、こんな処で何をされているんですか?まだ業務は終わっていませんよ」
「丸目先生。どうしてここに」
「巡回警備ですよ。ほら、先週脱走事件があったじゃないですか、犯罪者の」
「ああ、護送中の警察車両から4人の容疑者が逃げたってアレですか」
「よくご存じじゃないですか。ウチは警備員を雇う余裕なんてありませんからね。それにあまり口外出来ないことですが、実はウチの生徒がいま行方不明になってましてね」
「行方不明、ですか」

 教師間の学内メールで連絡が来ていたので、その件についてはよく知っている。

「ええ。資産家令嬢の。元々素行不良の子だから、ご家庭は家出だって言ってますけどね」
「確か婚約者との仲が悪かったとか」
「そんな話をしてるんじゃないですよ、新堂先生。そちらにいるのは誰なんですか?」

 丸目先生の目はピンク髪の少年に向けられていた。
 少年に向けられた好感度は40%。疑いの目を持って見ているといっていい。

「そんな生徒、ウチにはいませんよね?随分とお顔立ちの整った方ですが……」
「僕、コペンハーゲン・ホリックと言います。新堂先生の姉の子なんですが実は無理を言って学校を案内させてもらってて……」
「ああ、まあそういうこともあるでしょうが……」

 少年は不意にそっと、両手で丸目先生の頬に触れた。

「ねえ、真面目そうな人が危険な恋に落ちるのって、面白いと思わない?」
「は?あなた何を言って」

 少年は左手で銃を撃つジェスチャーを丸目先生に向けた。

「きっとキミはオレに恋をする。その方が楽しそうだから」
「おい!」

 能力だ。
 能力を使いやがった。

【禁断症情】。
 漢字ではそう書いて、ストックホルムと読ませるらしい。
 それが奴の能力だ。
 他人の好感度を操る能力。
 奴は興味の向いた相手にしか能力を使わない。
 だが、奴の興味がマトモだと考えるのは余りに大きな間違いだ。
 神の愛は、万物に等しく向けられるのだから。

 丸目先生の少年に対する好感度は35%。能力は使っていない?

「な、何を言って」
「キミは俺から離れられないって言ってんの」
「馬鹿な、私は教師ですよ」
「そんなの関係ないよ。オレの能力の前ではね。ねえ、オレのこと警察が調べてるんだ」
「は?だから何を言って」
「オレの代わりにさ、捜査を攪乱してきてよ。自分が【ストックホルム】だってさ」

 丸目先生の【ストックホルム】という呼び名に対する好感度が90%以上に上昇。
 少年は能力を使うが嘘も吐く。
 奴の能力は一度かかれば直す手立てはない。恋の対象は人間でなくてもいい。
 これで丸目先生は自分自身が【ストックホルム】と呼ばれることに執着するようになった。

「違う、そんなことするはずが」
「オレのためにいろいろ頑張ってよ。じゃあどっか行ってね」

 いわれるがまま、丸目先生はふらふらどこかへ行ってしまった。

「お前、何てことしてくれたんだ」
「大丈夫。先生だってオレが能力使うトコ見んの初めてじゃないっしょ?」
「そういう問題じゃねえ!人払いならもっとましな方法だってあったろうが」
「人払い?ああ違う違う!今のはただオレがあの人の恋の行く末を見たかっただけ!」

 興味本位で、コイツはそういうことをする。
 すべては自分自身が楽しめそうかどうか。それが奴の行動原理だ。

 だから、けして奴は生徒Aの味方というわけではない。
 自らの恋を包み隠さず語って聞かせたのは、彼女にとってとても良いことだったのだろう。

「能力を使わないんじゃなかったのか」
「あれ?そんなこと言ったっけ?オレってラディカル・キューピッドだよ?」

 そうこうしているうちに、終業のチャイムが鳴って、生徒たちが下校を始めた。
 そして生徒Aが緊張した面持ちで足早にやって来た。
 私と少年は物陰から告白の様子を見守ることになっている。
 生徒Aも了承済みだが、なんとなくやはり他人のこういう重要事を覗くのは罪悪感が強い。
 彼女は私たちを探しているのか、きょろきょろと周囲を見回している。

 さらに5分後、B先輩がやって来た。
 その傍らには女生徒を連れている。
 楽しそうに雑談をしている。

「あらら」
「こりゃ脈ねーな」

 思わず口から言葉がこぼれる。

「先生ぇ、あの女の子って先輩の彼女さんなのかな?」
「いや、そんな風には見えねえぞ。確か同じクラスに幼馴染がいるって聞いてたけどそいつじゃないか」
「へーモテるんだねえ、サッカー部の先輩は」

 仮にこの女を幼馴染Cとする。
 B先輩と幼馴染Cの好感度はお互いそれぞれ70%台。
 気の置けない友人と言ったところだ。やはり恋愛関係にはないだろう。
 つまりただの友人。
 そんな人間をこの場に連れてきた時点で、告白の行く末など知れている。
 おそらくB先輩は生徒Aが告白しようとしていることにすら気付いてないだろう。

 それでも、生徒AはB先輩にキチンと想いを伝えたのだった。




 一日の仕事を終えた帰路、私は少年とともに学校から自宅への道を歩いていた。

「あの子猫ちゃんも頑張ったねえ」
「先輩の断り方も大人の対応だったし、まあ苦い思い出にはなっても、悪い思い出にはならねえんじゃねえか」
「そうだねえ、いい子だったよどっちも」

 路地裏では学校の生徒が生ごみを漁っている。
 うちの学校の制服を着ている。金髪の男子生徒だ。
 生ごみへの好感度100%。
 男子生徒は嘔吐を繰り返しながら、それでもゴミ山を漁ることを止めようとしない。

「ねえ先生、答え合わせしよっか?」
「は?何言ってんだお前」
「先生ぇがノートPCにまとめてるオレの情報のこと。アレ全然間違ってるからね。天使のお仕事があんなスローペースなわけないじゃん」
「……はぁ、やっぱ気づいてたか。隠す気もなかったけどな」

 少年は足を止め、生ごみを食べる金髪の男子生徒を愛おしそうに眺める。

「よかったねえ、キミも素敵な恋ができたねぇ」
「……っはっなんで……オエっ」

 少年と出会って6日目。
 少年が能力を使った相手はゆうに150人を超えている。

「それにさ先生、天使のことを犯罪中心で見すぎだよ。オレはもっと密やかな恋とかもいっぱいやってんの」
「そういうのは調べても追いきれねえんだよ。お前がやったと思われることをまとめようとすると、どうしても事件中心になっちまう」
「そういうもんなのかな。まあいいや。でも5/1に護送車から脱走したのってオレじゃないからね」
「そういうどうでもいいとこで嘘つくなよ。脱走した4人の中にはお前もいたんだろ」
「あ、バレてた?」
「わかるよ。さしずめ乱闘を煽った能力者と思しき有力な被疑者、アレは今日の丸目先生みたいにお前が【ストックホルム】に仕立て上げたんだろ。お前は隅の方で大人しくして、おこぼれにあずかるように逃げ出した囚人の一人だ」
「やっぱ先生ぇ、オレのことすっげえよくわかってんじゃん」

 私は狂っているのだろうか。
 それとも、既に少年の能力に魅了されてしまっているのだろうか。

 きょうの生徒Aの告白。
 失敗にこそ終わったが、私は見逃さなかった。
 一緒にいた幼馴染Cの先輩Bへの好感度が90%以上に急上昇していたことを。
 ラディカル・キューピッドの矢が向かう先は、常にそうした方が面白いと思った方だ。

 少年は私の自宅から道を外れて、別のアパートへと足を運ぶ。
 不躾に無遠慮に、そしてなにより手慣れた様子で土足のまま玄関に上がり込むと、そこに横たわっていた警察官の服を着た死体に目を遣った。

「良いねえ。いいこだねえ。やっぱりキミも良い恋ができたんだねえ」

 言ってしまえば須藤久比人は、余りにも純粋なのだ。
 人の理屈ではなく、天使の理屈で動く。
 殺人や強盗がダメというのは、彼にとっては人の理屈にすぎないのだ。
 警察官の死体。
 しかしこれは、直接彼が手を下したわけではない。

 少年はズカズカと風呂場へ上がりこむ。
 そこでは、女子生徒が一人、服を着たまま血まみれになって浴槽で震えていた。

「ひっ、私、私」
「じゃん!僕だよ」

 件の行方不明の女子生徒。
 婚約者との折り合い悪く、家を飛び出した資産家の令嬢だ。
 家出した先に向かったのが恋の天使様の処だったのが運の尽きだったのだろう。

「あの人が、あの警官が私を守るって言って、私を監禁して、私、私抵抗して」
「チワッス!眠れない街に今夜も天使が愛を届けに参りました!」
「ひいっ」

 女子生徒、ここでは仮に被害者Dとしよう。
 被害者Dは水道の蛇口を捻って浴槽にお湯を張り始めた。
 あたかもそうすることが自然であるかのようなしぐさで、しかし本人も何故そうしているのかわからない様子だった。

「恋の病は心の病!心の病は目の病!恋は盲目!恋い改めよ!博する狂愛!」
「私、わたし」
「須藤久比人でっす!拍手喝采!」

 被害者Dは蛇口をほおばり、口と鼻から湯がこぼれて勢いよく溢れだす。

「んだよノリ悪ぃなぁ~。でもまあいっか。じゃ、あとはお好きにどうぞ」
「モゴガ!?もごごごごごご!!!!!?」
「良い恋を見つけられてよかったねえ。お嬢様。お湯と令嬢の恋なんて禁断だよねぇ」
「アゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」

 被害者Dのお湯に対する好感度100%。

 私は狂っているのだろうか。
 それとも既に少年の能力に毒されてしまっているのか。
 今はただ、彼の行く末を見たい。
 見たいのだ。

 少年は両腕を私の首に巻き付け囁く。
 背筋に悪寒が走る。
 この感覚はけして恋などでない。

 これは

 恐怖だ。

「先生とオレの関係は、被害者と加害者だもんね?」
「ああ。早く解放してほしいもんだ」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ先生。」

 私は狂っているのだろうか。

「先生はオレが、ちゃんとぶっ壊してあげるからね」




2024/05/03_20:20_都内某所
 高校の保険医をする男の自宅に男が盗みに入る。
 たまたま帰宅した保険医と出くわしたところで男は居直り強盗に方針を変更。
 男は先日護送車から脱走した被疑者のうちの一人と思われる。
 保険医の怯える様子を見た犯人は保険医に強く同情。

2024/05/07_10:20_都内某所
 警察官が資産家の令嬢を誘拐。
 警察官はアパートに令嬢を監禁。
 アパートは第三者の物だったが、当時住人は出張しており数日間家を空けていた。
 計画的な犯行とみられる。
2024/05/08_16:08_都内某所
 令嬢が警察官を殺害。
 その後アパートの浴槽で水死。
 後日、帰宅したアパートの住人が何者かに殺害されているのを発見される。
 アパートの住人が殺害されたのは令嬢が水死した1時間ほど後と推定される。

2024/05/09_14:54_都内某所
 高校教師が警察署を襲撃。
 教師は刃物を振り回して民間人を含む17名を殺害。3名重傷。54名軽傷。
 その後警察官から銃を奪い逃走。
 教師は高校の現代国語の担当だった。

2024/05/11_08:25_都内某所
 高校に通う生徒Cが生徒Aを監禁。
最終更新:2024年05月19日 23:04