【悪の末路】迷惑客がいたのでお仕置きしてみた
【正義】阿漕な暴力団事務所殴りこんでみた【執行】

刺激的なタイトルの動画が男のパソコンの画面に映し出されている。
ここは裏動画サイトの一つ。
動物虐待、自殺動画、そして殺人。まるで悪趣味な違法動画を収集した博物館のような存在。
『NOVA』ほど有名ではないが、それなりに名の知られた存在ではある。

そして、男が熱心に見ているのはこのサイトで人気の投稿者の一人くーちゃんの「正義執行ちゃんねる」に投稿されている動画である。

【天誅】公園にたむろする迷惑チンピラ皆殺しにしてみた

男は新しく投稿された動画を選択。
そして、クリックした。


【動画起動】


画面に映し出される池袋の街並み。
雑踏を行き交う人々。

「はーい!みんな元気ー!くーちゃんだよ!今日は池袋に来ちゃったよー!」

映像が切り替わり、喪服のような真っ黒なセーラー服を着た少女の姿が大写しになる。
髪を二つ結びの三つ編みにした眼鏡っ娘で手には日本刀を持った少女 -くーちゃんは画面に向かって手を振りながら笑顔を見せている。

「今日は公園でゴミ掃除をしちゃおうとおもいまーす!」

くーちゃんの言葉とともに画面が公園の映像に切り替わる。
公園内にはチンピラ集団が集まっている。
この辺りを根城にするチーマー「怒離賭頼」のメンバーだ。

リーダーらしきサングラスのチンピラ男が画面に大写しになる。

そして彼らがいかに悪辣な存在であるかを紹介する映像が流れると映像が公園に戻る。

「社会のゴミの皆さんこんにちはー!」

笑顔で話しかけるくーちゃん。

「なんだこのガキ。俺たちを怒離賭頼のメンバーと知っての狼藉か!?」
「僕?僕はくーちゃん!この公園に君たちゴミを掃除に来たんだー。よろしくね」

挑発的に自己紹介をするくーちゃん。
笑顔を崩さない。

「おい女だからってなめた真似しやがると容赦しないぞ」
「容赦?容赦しないって?いいよ僕も容赦しないから!」

くーちゃんが日本刀を振る。
近くにいたチンピラの一人が臓物をぶちまけながら、真っ二つになる。

「うーん、今日も相棒の切れ味は最高みたいだね!絶好調!」

血しぶきを浴びながら、楽し気に笑顔で話すくーちゃん。
一瞬に何が起こったのかわからず、動きを止めた後、激昂するチンピラたち。

「てめえ」
「殺してやる!!」

ナイフ、ブラックジャック、警棒。獲物を取り出すチンピラたち。

「なめやがって!!このガキ殺せ!!!」
「へいボス」
「死ねえ」

ボスの命令を受けたチンピラの一人がくーちゃんに襲い掛かる。
だが、殴りかかろうとしたチンピラは既に真っ二つになっていた。

その後もチンピラたちが次々とくーちゃんに襲い掛かっていく。
そのたびにチンピラたちの身体は切断されていく!

「やるなクソガキ。だがこの俺は魔人能力によりダイヤモンドよりも硬……」

次の瞬間、ドレッドヘア―のチンピラの首が飛んだ。


「うん?何か言った?」

切断!切断!切断!切断!切断!噴水のように噴き上がる血飛沫!
切断!切断!切断!切断!切断!飛び出す内臓!

圧倒的な力の差に蹂躙され、絶句するチンピラたち。
そしてそれはチンピラたちのボスも例外ではなかった。

「ま、待て!俺の右腕にならないか?金なら……」
「ならないよ!僕は正義だからね!」

無慈悲に日本刀を振り下ろす。
縦に真っ二つになったボス。

そしてボスを失ったあとのチンピラたちの反応は様々だった。
殴りかかろうとするもの。算を乱し、逃げ出そうとするもの。

だが、どのチンピラもその後の末路は同じだった。
くーちゃんに襲い掛かったチンピラたちは全員日本刀で切断されて死んだ。

そしてそれは逃げ出したチンピラも同じだった。
どこへ逃げようとも簡単に発見され、一思いに両断されていく。

逃げ出したチンピラの姿。
公園から離れ、ビルの陰に隠れている。ここまで来れば安心だろうと思ったチンピラの背後。

「逃げちゃだめだよ!!探すの大変なんだから」

くーちゃんが現れた。

「なっどうし……」

チンピラの身体が真っ二つにされる。

なぜチンピラの居場所が分かったのか。
当然これは彼女の能力によるものだ。
彼女の眼。アルゴスの瞳(ハンドレッドアイズ)は獲物を逃がさない。
どこへでも眼を発生させ、監視することができる。
今再生されている動画もこの能力で撮影したものだった。

「ゴミ掃除終了!」

一方的な殺戮の収量が宣言された。
そして公園とその周囲には血塗れになったくーちゃんとチンピラたちの死体だけが残されていた。


【動画終了】


「今回も最高の動画だったな」

動画を見終えた男がコメント欄を確認するとそこには動画を称賛するコメントが並べられていた。
中には次に標的にしてほしい悪をあげるコメントを残すものもいた。

会社の上司。政治家。近隣の評判の悪い住民。
大半は自分が気に食わない人物をあげているだけのもの。
日常的なストレスを抱えてるものが多いのだ。

そして男は彼らと同じように動画を称賛するコメントを残した。



◇◇◇◇


雨が降りしきる池袋。
路傍に止められた一台の車があった。
車の持ち主、百目鬼孔雀はノートパソコンで新しい動画を投稿すると数日前の出来事の思い出していた。


その日、いつものように部屋の中で動画の投稿作業をしていると孔雀のパソコンに匿名のメールが届いた。
孔雀はメールが安全であることを確認すると、それを開き、内容をチェックする。

「へえ」

それは殺人中継サイト『NOVA』で行われる無差別殺人中継についての案内。

容赦なく標的を殺害する貴女の動画に感銘を受けました。
つきましては貴女様の実力を見込んでこちらの企画を案内したいと思います。
参加していただけるなら幸いです。
『NOVA』VIPの一人。

そしてメールに付属されていたのは『NOVA』のアカウントとパスワード。
新規で作成されたものらしく閲覧履歴は何もない。そして料金はすでに払い込まれているようだった。
閲覧には途方もない大金が必要なようだったが、このサイトに登録できるような金持ちからすれば大した金額ではないのだろう。

サイト内を確認する。検索し、コンテンツの一つをクリックする。
映し出される悪趣味なショー。
無辜の善人がただ莫大な借金をしたというだけで残酷な拷問にかけられて玩弄されるだけの動画。
それは耐性のないものが見れば、吐き出してもおかしくないほどグロテスクで残酷なものだった。

「僕が言うのもなんだけど悪趣味なサイトだよね。正義の味方は何をしてるんだろうねー」

自嘲するように笑う孔雀。

改めて思う。
この世界に正義なんてない。
だって、自分やこんな動画を運営している奴らが野放しになっているのだから。

彼女が動画を投稿しているのは正義感が強いからではもちろんない。
そんなものは犬にでも食わせてやればいい。
彼女が悪人を断罪するのはそれが視聴者に一番受けるからだ。

そして殺人鬼を殺すというお題は、彼女の動画のテーマとも一致している。
殺人鬼は世間的に把握に分類されるからだ。
もしかしたら彼らは必ずしも悪人ではないかもしれないが、それは重要なことではない。

実際のところ、彼女の動画において断罪される存在が本当に悪人かどうかはどうでもいいことだ。
一方的に断罪できる「悪人」を提供し、視聴者に正義の味方になった気分にさせるショー。
ただただ「悪人の末路」を見て自分が気持ちよくなるためだけのポルノのようなもの。

借り物の正義で満足する愚かな存在。本質的には断罪される側と変わらない存在。
それが彼女の動画の視聴者だ。
少なくとも孔雀はそう認識している。

孔雀からすれば、彼らに対しては軽蔑以外に感情はない。
せいぜい動画を回してくれて収益化の糧になってくれればそれでよい。

「それにしても5億円だなんて太っ腹だねー。【転校生になる権利】っていうのは別にどっちでもいいけど」

よい臨時収入になりそうだと思った。もちろん簡単な仕事とは思ってないが、相応の価値があることに疑いはない。

そして孔雀は車の中で仮眠を取る。
外はまだ雨が降り続いていた。
最終更新:2024年05月19日 21:20