また飛竜騎士は一般の軍人と違って特別な存在である。
騎士爵という身分上のことだけではない。魔力に秀でるという特殊な才能が必須なのである。
例えば
ロッシェル王国軍では地上戦の雄『
戦竜』を駆る
竜騎士が『下士官以上』なのに対し、飛竜騎士は『その全員が士官』という超エリ-ト部隊だ。
飛竜騎士になるにはまず“飛竜騎士候補生”(教育機関は錬成飛竜騎士団)になる必要がある。
候補生は4年課程で、まず前半の2年で士官・飛竜騎士としての基礎知識が叩き込まれ、後半の2年は最初の4ヶ月は下士官待遇の見習として地上軍の連隊に派遣され、残り20ヶ月は実際ワイバ-ンに搭乗し訓練する。
無事に候補生課程を終了すれば見習士官の位が与えられ、“見習飛竜騎士”(教育機関は錬成飛竜騎士団)として本格的な実戦訓練を1年間行う。これを終えると少尉の位が与えられ、“准飛竜騎士”となる。 ……が、まだまだ訓練機関は終わらない。この後2年間、引き続き錬成飛竜騎士団で腕を磨かせられることになるのだ。
候補生4年、見習1年、少尉2年の都合7年を経ると中尉の位を与えられ、“正飛竜騎士”となる。
これでようやく実戦配備だ。ここまでの間に“帝國”風に例えれば、月30時間×56ヶ月で都合1680時間程度の飛行時間を経験している。(実際には自習や補習などで、その大半が2000時間近くを経験済み)
が、この程度では実戦部隊では半人前だ。実戦配備後二~五年かけて編隊指揮官資格(2~3騎の長)を獲ると大尉に昇進できるが、これでようやく“本当の一人前”なのだ。実戦任務は10~12年程度続き、三十代前半から遅くとも半ばには第一線を退くことになる。その後は一部がより高位の指揮官を目指す他は、経験を活かして教官や飛竜養成官となるか退役して第二の人生を送ることとなる。
このように飛竜騎士は一見華やかだが、その華の期間は余りにも短い、まるで花火の様な存在だった。
またこのように各国が多額の費用を掛けている為、国を問わず飛竜騎士には暗黙のマナーが存在する。
『騎乗する飛竜騎士を直接狙わない』ということは、その最たるものだった。(無論、これには『飛竜騎士が希少な存在である』という背景が大きく後押ししている)
……が、仮に飛竜騎士を直接狙わなかったとしても、その生還率は決して高くない。飛竜騎士はワイバーンと
精神同調しているため、ワイバーンの負傷……ましてやその死亡時には、その断末魔により少なからぬ“精神汚染”を受けるからだ。加えてワイバーンは魔力で無理矢理飛ぶ存在故に、その魔力を失えば全てのコントロールを失い落下する。これ等を乗り越え、無事脱出することは至難の業だった。
故に、墜とされて生還するのは少しも恥ではない。撃墜されて尚生還するということは、『様々なハードルを乗り越えた』と同義語であり、多大な精神力と魔力、運を必要とするからだ。 ……まあこれはあくまで大昔の話であり、現在は魔導の発展に伴い何重もの安全策が組み込まれ、生還率は大分向上しているが、その伝統は今も生きている。
とはいえ、それでも生還率は一割前後――状況にもよるが熟練した正騎士で――である。
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最終更新:2007年08月24日 23:25