テスト中
アイリッシュティ
最終更新:
匿名ユーザー
-
view
アイリッシュティ 03/05/19
アイリッシュティというカクテルがある。
生クリームを浮かべたものであるウィンナコーヒーに砂糖とウィスキィが入っているものだ。このコーヒーを紅茶に変えると「アイリッシュティ」になる。かつて一度だけ実際に自分で作ってみたことがある。苦い思い出を聞いてくれ。
まず濃い紅茶を作るため、ティーパックを二つ使った。沸騰直後の紅茶の香りなど吹っ飛んでしまう熱すぎる湯をティーカップもコーヒーカップもなかったから湯呑に注いだ。月に雁、粋な湯呑から濡れてしおしおになった紙が二つ垂れ下がって張り付いている。
アイリッシュティの主流はザラメらしいが、カップもないのにそんな洒落たものがあるわけがない。ザラメはなく、角砂糖もグラニュー糖もなく、練乳もないから遠い昔に食べたヨーグルトに付属していた蟻の巣コロリの如き砂糖をざらざらと落とした。アイリッシュウィスキィは手元になく、カナディアンウィスキィもなく、当時それしか飲んでいなかったアーリータイムスをどぼどぼ注いだ。
当然生クリームなどない。マシュマロもない。卵はあるがメレンゲなど作っていられない。第一作り方を知らない。先が檻みたいな混ぜる奴はあるが、米を研ぐためにしか使ったことがない。仕方がない。生クリームは別の機会にしよう。
ティーパックをやっと引き上げ、不吉な色になっていることを気付かない振りをしてヨーグルト付属蟻の巣コロリ砂糖とアーリータイムズを半分やけくそになってかき混ぜた。ティースプーンなどないからマドラーのつもりの箸でかき回した。念の為に言っておくが、月に雁柄の風雅な湯呑だ。
これがアイリッシュティか。全然違う気がするが、作り方は踏襲している筈だ。湯呑であるから持ち手などないので鷲掴みにするが熱くて持てない。左手を底に右手を上端に支えて香りを嗅ぐ。アイリッシュティだ。ティだ。お茶じゃないか。照れることはない。飲むぞ。
やっぱり熱い。
思わず啜ってしまう。お茶だ。いやアイリッシュティだ。アイリッシュティの筈だ。熱くて味がわからない。もう少し温度を下げて飲もう。アーリータイムズを追加。
何故だろうか。非常によくない予感がする。とても不味いのではないかという恐怖に包まれる。
あれほど苦労して作ったアイリッシュティではないか。入っているのはバーボンだからアイリッシュではなくてケンタッキーであるが、ダイエーのセービングティーパックであるが、ザラメの代わりにヨーグルトの砂糖であるが、生クリームがないが、湯呑ではあるが、これはアイリッシュティなのだ。唇をつけてみる。うむ。この温度なら大丈夫だ。気持ち良く喉が焼けるだろう。飲んでみるぞ。
「うえれえ」
えぐい。にがい。まずい。何だこれは。どこかで作り方を間違えたのか?それにしても苦すぎる。いかにティーパックを二つ使ったが、通常の半分の湯に二つだから実質四倍の濃さではあるが、あ、それでか。砂糖の効き目が薄いようだが。残っていたから舐めてみると全然甘くない。なんだこれは。この砂糖全然甘くないぞ。これではあの濃茶に対抗できるわけがないではないか。不味いのはアーリータイムスのせいか。温くなっているから普段は全然感じないアルコールが鼻につーんとくる。渋い茶。甘くない砂糖。えぐい酒。これがアイリッシュティなのか。断じて違う。何故ならば、生クリームを乗せていないからだ。
捨てた。含まれている酒が勿体無かったが、人間の能力には限界というものがある。限界を超えるカクテルをあっさり調合しておいて何だが、あれは飲めたものではなかった。
アイリッシュティ、正しく作れば美味しい筈だ。現在試すことのできる状況にはないが、作り方を記しておく。
熱く濃い紅茶をティーカップに半分、温くなってしまわぬよう、かといってアルコールが飛ばぬような温度でいれておく。ここで苦すぎたら飲めたものではないから程々に。砂糖はザラメだそうだが、練乳も美味そうだ。1tsp。カップ半分のさらに半分、つまり四分の一にアイリッシュウィスキィを注ぐ。カナディアンウィスキィでもいい。香りの強いスコッチ、バーボン、日本製を避ける。かき混ぜて砂糖を溶かしてカップの中が回っているうちに生クリームを大匙一杯載せる。
誰か雪辱を果たしてくれ。
TOTAL ACCESS: - Today: - Yesterday: -
LAST UPDATED 2025-11-10 03:13:23 (Mon)
TOTAL ACCESS: - Today: - Yesterday: -
LAST UPDATED 2025-11-10 03:13:23 (Mon)