小さい頃、剣と魔法を駆使して悪の大魔王を倒すと言う当時大流行したファンタジーロールプレイングゲームに憧れ、ゲームの主人
公になりたい、主人公になって仲間と冒険したい、数々の洞窟や遺跡を探索してお宝を手に入れたい、そして悪の大魔王を倒してお姫
様に好かれたい、あるいはかっこいい王子様に求愛されたい――等と想像するのは、諸姉諸兄紳士淑女老若男女問わず誰だってあるは
ずで、各言う俺も、振りかざすと敵目掛けて落雷が走る魔法の剣や黄金のオーラを放つ鎧を纏い、世界を我が物にせんとする悪の手先
と死闘を演じてみたい――等と想像する日々を送った事もあった。想像しすぎて興奮し、夜も眠れなくなる事も幾度かあったけな。若
気の至り、って奴だな。
とは言え、リアルな世界ではそんなことは叶うべくもない、あり得る筈が無いと中学に入学する以前に悟った俺は、ゲームはあくま
でゲーム、ファンタジーの世界は所詮作られた世界さとすみ分けるようになり、その影響は『自分の分身』と称するドット絵のキャラ
クターが凄惨な扱いを受け、バッドエンドを迎えても苦痛に思わないくらいにまで関心が低下していた。
嫌いじゃないんだが、そこまで熱中するほどでもない。所詮画面の中の出来事、決められたストーリーを決められたようにやってい
く。バッドエンドを迎えたところで製作者の手の平で遊ばれているだけに過ぎないのさ。
ひねくれものの俺は、こうしてゲームに余り興味を抱かなくなってきたわけだ。何となく分かるだろう?
念のために言っておくが、ゲームを否定するわけじゃない。ゲームはゲーム。現実は現実。こう切り分けただけだ。
大人への階段の第一歩。
そう言っていただけるとありがたい。
公になりたい、主人公になって仲間と冒険したい、数々の洞窟や遺跡を探索してお宝を手に入れたい、そして悪の大魔王を倒してお姫
様に好かれたい、あるいはかっこいい王子様に求愛されたい――等と想像するのは、諸姉諸兄紳士淑女老若男女問わず誰だってあるは
ずで、各言う俺も、振りかざすと敵目掛けて落雷が走る魔法の剣や黄金のオーラを放つ鎧を纏い、世界を我が物にせんとする悪の手先
と死闘を演じてみたい――等と想像する日々を送った事もあった。想像しすぎて興奮し、夜も眠れなくなる事も幾度かあったけな。若
気の至り、って奴だな。
とは言え、リアルな世界ではそんなことは叶うべくもない、あり得る筈が無いと中学に入学する以前に悟った俺は、ゲームはあくま
でゲーム、ファンタジーの世界は所詮作られた世界さとすみ分けるようになり、その影響は『自分の分身』と称するドット絵のキャラ
クターが凄惨な扱いを受け、バッドエンドを迎えても苦痛に思わないくらいにまで関心が低下していた。
嫌いじゃないんだが、そこまで熱中するほどでもない。所詮画面の中の出来事、決められたストーリーを決められたようにやってい
く。バッドエンドを迎えたところで製作者の手の平で遊ばれているだけに過ぎないのさ。
ひねくれものの俺は、こうしてゲームに余り興味を抱かなくなってきたわけだ。何となく分かるだろう?
念のために言っておくが、ゲームを否定するわけじゃない。ゲームはゲーム。現実は現実。こう切り分けただけだ。
大人への階段の第一歩。
そう言っていただけるとありがたい。
しかし、である。
高校生になってからと言うもの、非現実的な事件が一極集中して俺のお膝元へと襲ってくるようになり、俺が今まで築き上げてきた
世間の常識と、そして前述の大人への階段がベルリンの壁宜しく音を立てて崩れ去ったのもこれまた事実である。
地球外生命体との邂逅、タイムマシンによる時間酔い、パッションレッドに煌く神風特攻隊……大小様々な出来事があったが、こん
な非現実的事件をまざまざと見せ付けられては、どんなに頭の固い人間だって「俺の人生何か間違ってたのかな……」と再考すること
請け合いである。
そんな事件の主たる原因となっているのは、もちろんあいつ。我がSOS団団長、涼宮ハルヒだ。
直接的にしろ間接的にしろ、不可解な事件のおよそ十割は涼宮ハルヒに起因する。『十割』って大げさな奴だなと思うかもしれない
が、これは決して言い過ぎではない。トンデモ騒動を引き起こすのが宇宙人未来人超能力者その他諸々の特殊人間(人間だけって訳で
もないが)だったとしても、元はといえばハルヒによって一高校の一部室に召喚されたのが原因であり、そう考えれば全ての事件が涼
宮ハルヒと直結していると考えるのは決して間違っていないだろう。第一今までの記憶を振り返っても、事件の断片には涼宮ハルヒが
影響をもたらしたという痕跡が少なからず残っているのだ。
そして今回もまた。
剣と鎧に身を包み、ゲームに出てきそうな敵と死闘を演じるこの世界は、恐らくこれもあいつが何かしらの影響を与えているに違い
ない。今のところハルヒの姿は見えず、一見して何も関係していないようにも伺えるわけだが、だからといって当事者でない可能性は
否定できない。
とは言え、全くハルヒのせいだけかと言うと、それもまた違うかもしれない。こんな事件に巻き込まれれば、大体誰かが――SOS団
の誰かが俺の回りにいるはずで、オロオロとする朝比奈さん、薄ら笑いを浮かべる古泉、顔色一つ変えず読書を続ける長門。このうち
の一人でも、あるいは全員でもいいが、ともかく事件が起これば少なくとも一人は俺の前に現れ状況を説明してくれるはずなのだが、
今回は誰一人として俺の前に現れてはいない。さあて困ったぞ。
しかし、その代わりと言うべきかどうなのか……上記三人とは異なる人物が現れた。奇しくもそれが通常とは異なる事件の可能性を
示唆し――
高校生になってからと言うもの、非現実的な事件が一極集中して俺のお膝元へと襲ってくるようになり、俺が今まで築き上げてきた
世間の常識と、そして前述の大人への階段がベルリンの壁宜しく音を立てて崩れ去ったのもこれまた事実である。
地球外生命体との邂逅、タイムマシンによる時間酔い、パッションレッドに煌く神風特攻隊……大小様々な出来事があったが、こん
な非現実的事件をまざまざと見せ付けられては、どんなに頭の固い人間だって「俺の人生何か間違ってたのかな……」と再考すること
請け合いである。
そんな事件の主たる原因となっているのは、もちろんあいつ。我がSOS団団長、涼宮ハルヒだ。
直接的にしろ間接的にしろ、不可解な事件のおよそ十割は涼宮ハルヒに起因する。『十割』って大げさな奴だなと思うかもしれない
が、これは決して言い過ぎではない。トンデモ騒動を引き起こすのが宇宙人未来人超能力者その他諸々の特殊人間(人間だけって訳で
もないが)だったとしても、元はといえばハルヒによって一高校の一部室に召喚されたのが原因であり、そう考えれば全ての事件が涼
宮ハルヒと直結していると考えるのは決して間違っていないだろう。第一今までの記憶を振り返っても、事件の断片には涼宮ハルヒが
影響をもたらしたという痕跡が少なからず残っているのだ。
そして今回もまた。
剣と鎧に身を包み、ゲームに出てきそうな敵と死闘を演じるこの世界は、恐らくこれもあいつが何かしらの影響を与えているに違い
ない。今のところハルヒの姿は見えず、一見して何も関係していないようにも伺えるわけだが、だからといって当事者でない可能性は
否定できない。
とは言え、全くハルヒのせいだけかと言うと、それもまた違うかもしれない。こんな事件に巻き込まれれば、大体誰かが――SOS団
の誰かが俺の回りにいるはずで、オロオロとする朝比奈さん、薄ら笑いを浮かべる古泉、顔色一つ変えず読書を続ける長門。このうち
の一人でも、あるいは全員でもいいが、ともかく事件が起これば少なくとも一人は俺の前に現れ状況を説明してくれるはずなのだが、
今回は誰一人として俺の前に現れてはいない。さあて困ったぞ。
しかし、その代わりと言うべきかどうなのか……上記三人とは異なる人物が現れた。奇しくもそれが通常とは異なる事件の可能性を
示唆し――
「……さん、話を聞いてください!」
けたたましく、甲高い声が森中に響き渡った。
声を張り上げたソイツは、いそいそと動かしていた足を止め、腰に手を当てて対峙した。
「何だ、橘か」
「何だ、じゃありません! あなたは本当に元の世界に帰りたいと思ってるの!?」
言わずもがな、だろ。どことも分からん森の中で朽ち果てたいとは思わないさ。同じジャングルならコンクリートジャングルの方が
まだマシだ。
「ならちゃんと聞いてください、あたしの話を!」
「はいはい」
と生返事を一つ。
「んん……! もうっ!」
彼女は話を聞かない俺に不満たっぷりの表情を見せ、しかし健気にも辛抱強く話を続けた。
けたたましく、甲高い声が森中に響き渡った。
声を張り上げたソイツは、いそいそと動かしていた足を止め、腰に手を当てて対峙した。
「何だ、橘か」
「何だ、じゃありません! あなたは本当に元の世界に帰りたいと思ってるの!?」
言わずもがな、だろ。どことも分からん森の中で朽ち果てたいとは思わないさ。同じジャングルならコンクリートジャングルの方が
まだマシだ。
「ならちゃんと聞いてください、あたしの話を!」
「はいはい」
と生返事を一つ。
「んん……! もうっ!」
彼女は話を聞かない俺に不満たっぷりの表情を見せ、しかし健気にも辛抱強く話を続けた。
――そう、彼女。
多々経験した不可思議な事件。その中で唯一違うとしたら、俺の前に現れたのがSOS団の面子じゃなく、彼女――橘京子の存在であ
る。
クラスに一人はいそうな、そこそこ整った顔立ちの女子高生――谷口ならフルネームで覚えそうだな――で、可愛げのある微笑みと
愛嬌溢れる人懐っこさは、しかし俺の神経を逆撫でするのに十分な資質を備えている。
それもそのはず。こいつと俺の出会いは最悪なものだった。『守ってあげたい人』ランキングを開催したらSOS団内どころか北高全
生徒内でも五指に入るであろう、SOS団のマスコットキャラ兼メイド、朝比奈みくるさん。橘京子はその朝比奈さんをぞんざいに扱っ
たのだ。その罪万死に値する。いくら世界のためとは言え、こいつの力になるくらいなら清水の舞台から命綱無しで飛び込んでやって
もいい。
だが、状況が状況だ。右も左も分からないこの世界に取り残されている以上、頼れる存在であることは間違いない。いや、こいつが
頼りになるかどうかはともかく、さすがに俺一人でこの世界を旅するのは気が引ける。なんとかして早く元の世界に戻りたいものだ。
「ならあたしの話をちゃんと聞いてください。この世界に蔓延る悪の大魔王を倒し、囚われた佐々木さん……ササキ姫を救出しないと
元の世界に戻れないのですから」
橘京子は先ほどよりも必死にまくし立てた。
「わかったよ。だから余計なことを言うんじゃない」
「佐々木さんを救出するのが余計なこととでも言いたいの!? あなた言っていい事と悪い事があるわよ。佐々木さんをこの世界から
救出しないと、佐々木さんは元の世界に戻る事も出来ずに、この世界の墓に名前を連ねることになるのよ。それでもいいって言う
の!?」
「そんな事言ってないだろ」言葉尻を捉えて揚げ足を取るんじゃない。「俺が余計な事と言ったのは、こそっと『組織の宣伝』や
『佐々木のユウイセイ』とか、イミフな勧誘活動をするなってことだ」
「うっ……」
説明の途中で『佐々木さんが最高なのです』とか『あたし達が機関に代わって』等と言うフレーズが出てきた時点で、どう考えても
おかしいと思うだろ、普通は。
「い、いいえ。そんなことはありません」
努めて冷静にまくし立てる橘。だが頬に流れる一筋の汗を見逃す俺ではない。
「……もう、言葉尻を捉えるのはどっちなんだか……」
何か言ったか?
「いえ、何も!!」
残念だが橘京子の不満の声は丸聞こえだった。……ったく、こいつはこうだから油断ならないんだよな。
「ですが、考えてもみてください。涼宮さんの気まぐれで、あたし達はこの世界に飛んできちゃったのよ。それをどうとも思わない
の? また余計な面倒ごとに巻き込まれたとか考えたことないの?」
橘はめげずに『話』とやらを再度始める。付き合ってられん。
橘の言葉を半分以上聞きながら、森から吹くそよ風に体を委ねた。涼しくて気持ちいい。
「もし佐々木さんが涼宮さんの力を一手に担ってくれれば、今回のようにどことも分からない世界に飛んでくる事もないのです。危険
な魔物と対峙して怪我をするなんて、バカらしいとは思いませんか?」
ふと彼女を見る。何でそんな事も分からないのと言わんばかりの口調で髪を掻き上げた橘は、口をへの字に曲げて俺と同じく風に身
を任せていた。彼女の髪と胸リボン、そしてスカートがたなびいている。
「あたし達は世界の存続を願っている。ただそれだけです」
なら、機関と手を取り合って協力したらどうだ。あいつらだって世界平和を望んでいるはずだ。似たもの同士、お互い打ち溶けあえ
るだろうに。
多々経験した不可思議な事件。その中で唯一違うとしたら、俺の前に現れたのがSOS団の面子じゃなく、彼女――橘京子の存在であ
る。
クラスに一人はいそうな、そこそこ整った顔立ちの女子高生――谷口ならフルネームで覚えそうだな――で、可愛げのある微笑みと
愛嬌溢れる人懐っこさは、しかし俺の神経を逆撫でするのに十分な資質を備えている。
それもそのはず。こいつと俺の出会いは最悪なものだった。『守ってあげたい人』ランキングを開催したらSOS団内どころか北高全
生徒内でも五指に入るであろう、SOS団のマスコットキャラ兼メイド、朝比奈みくるさん。橘京子はその朝比奈さんをぞんざいに扱っ
たのだ。その罪万死に値する。いくら世界のためとは言え、こいつの力になるくらいなら清水の舞台から命綱無しで飛び込んでやって
もいい。
だが、状況が状況だ。右も左も分からないこの世界に取り残されている以上、頼れる存在であることは間違いない。いや、こいつが
頼りになるかどうかはともかく、さすがに俺一人でこの世界を旅するのは気が引ける。なんとかして早く元の世界に戻りたいものだ。
「ならあたしの話をちゃんと聞いてください。この世界に蔓延る悪の大魔王を倒し、囚われた佐々木さん……ササキ姫を救出しないと
元の世界に戻れないのですから」
橘京子は先ほどよりも必死にまくし立てた。
「わかったよ。だから余計なことを言うんじゃない」
「佐々木さんを救出するのが余計なこととでも言いたいの!? あなた言っていい事と悪い事があるわよ。佐々木さんをこの世界から
救出しないと、佐々木さんは元の世界に戻る事も出来ずに、この世界の墓に名前を連ねることになるのよ。それでもいいって言う
の!?」
「そんな事言ってないだろ」言葉尻を捉えて揚げ足を取るんじゃない。「俺が余計な事と言ったのは、こそっと『組織の宣伝』や
『佐々木のユウイセイ』とか、イミフな勧誘活動をするなってことだ」
「うっ……」
説明の途中で『佐々木さんが最高なのです』とか『あたし達が機関に代わって』等と言うフレーズが出てきた時点で、どう考えても
おかしいと思うだろ、普通は。
「い、いいえ。そんなことはありません」
努めて冷静にまくし立てる橘。だが頬に流れる一筋の汗を見逃す俺ではない。
「……もう、言葉尻を捉えるのはどっちなんだか……」
何か言ったか?
「いえ、何も!!」
残念だが橘京子の不満の声は丸聞こえだった。……ったく、こいつはこうだから油断ならないんだよな。
「ですが、考えてもみてください。涼宮さんの気まぐれで、あたし達はこの世界に飛んできちゃったのよ。それをどうとも思わない
の? また余計な面倒ごとに巻き込まれたとか考えたことないの?」
橘はめげずに『話』とやらを再度始める。付き合ってられん。
橘の言葉を半分以上聞きながら、森から吹くそよ風に体を委ねた。涼しくて気持ちいい。
「もし佐々木さんが涼宮さんの力を一手に担ってくれれば、今回のようにどことも分からない世界に飛んでくる事もないのです。危険
な魔物と対峙して怪我をするなんて、バカらしいとは思いませんか?」
ふと彼女を見る。何でそんな事も分からないのと言わんばかりの口調で髪を掻き上げた橘は、口をへの字に曲げて俺と同じく風に身
を任せていた。彼女の髪と胸リボン、そしてスカートがたなびいている。
「あたし達は世界の存続を願っている。ただそれだけです」
なら、機関と手を取り合って協力したらどうだ。あいつらだって世界平和を望んでいるはずだ。似たもの同士、お互い打ち溶けあえ
るだろうに。
「残念ながら、彼らとは話し合いになりません。平和を望むと言う意味では同じかもしれませんが、その平和をどのように得ようとす
るかが異なっています。例えばある村の真ん中で不発弾が見つかったとしましょう。これを爆発させない方法はいくつかあると思いま
す。でも、『不発弾が爆発しないよう監視する』のと『不発弾を無害化して爆発の影響をなくす』のとでは大きく違います。あたしか
ら言わせれば、何時爆発するか分からない爆弾を四六時中監視してるなんてナンセンスだわ。それよりも爆弾の信管を抜いて無害化し
た方がよっぽど世界平和に貢献できると思うわ」
で、信管を抜き損なって暴発するわけだ。
「そんなヘマするわけないじゃない」
どうだか。穴だらけの計画でものの見事に誘拐に失敗し、それどころか未来人宇宙人との連携もままならないお前ならそれもありう
る事だ。それに比べれば俺達が一年以上かけて築き上げた友情の方がよっぽどマシだ。最初は内心嫌々付き合っていたであろう古泉も
観測対象以外目にも暮れなかった長門も、今となってはお互い上手くやっている。朝比奈さんが長門を苦手としているのは今もだが、
それでも互いを蔑むようなことはしてないぜ。連携が取れないどころか、互いが信じられない奴等に爆弾の処理なんか任せられるか。
下手をしたらその場でズドン、だ。
「どうだ、反論はあるか?」
「……た、確かに結束力という点ではまだ古泉さん達には劣るかもしれませんが、でも佐々木さんの精神は安定して……」
「その佐々木についてだが」
何やら言い繕う橘の言葉を遮った。一瞬、辺りは沈黙……いや、木の葉のざわつく音がよく聞こえる。
「何故佐々木はこの世界に引き込まれてしまった?」
「それは……その……えーと……」チラチラとこちらを見ながら、「あたしにも、よくわからないのです。気付いたら、あたしもこの
世界に具現していました。そして佐々木さんもこの世界に来ているとわかったのです」
突っ込むところは山ほどあったが、今回は「そうか」とだけ返答して他の質問をすることにした。
「なら、この世界に飛ばされてしまった原因。何か知らないか?」
「涼宮さんのせいに決まってます」
「何故ハルヒのせいだと断定できる?」
「えっ?」
「確かに今まで起こしてきた事件は殆どが何かしらハルヒ絡みの事件だったし、容疑者とまではいかなくても重要参考人レベルで関わ
っていたことも多々あった。しかし橘、お前は今回の事件はハルヒのせいだと即答しやがった。確証がないにも関わらず、だ。何故そ
う言い切れる?」
「…………」
一瞬の沈黙を置いて、橘は思ったよりも冷静に、
「……今までの事件で、涼宮さんが関わってない事件など一つもなかったから、今回もそうだと思って」
「ああそうかよ」
ふん、と藤原がそうするように、不機嫌丸出しの表情で顔を背けた。
橘の言う事は最もだ。さっきは言ったものの、へんてこりんな事件が起きれば俺だってイの一番にハルヒに容疑をかけるだろうし、
実際俺が今まで経験してきた事件を考えればそれほど不思議なことじゃない。ただな、長門や古泉に言われるのならともかく、誘拐を
平然とする犯罪者で且つ『機関』の敵で、何よりハルヒのことを何にもわかっちゃいない新参者のこいつにだけは言われたくない。俺
達の表面を見ただけで全てが分かってますみたいなその口調が特に気に食わん。
「そんなに怒らないで。あたしも涼宮さんのせいにはしたくありませんし、宇宙人や未来人、あるいは第三の勢力でもいいですが、そ
れらがあたし達をこの世界に幽閉したと考えても構いません。ですが別勢力があたし達をファンタジーの世界に召喚する理由がありま
せんし、それに涼宮さんなら剣や魔法といった不思議な世界に憧れていたんじゃないかと思っての発言です。決して涼宮さんを卑下し
てるわけじゃありません。それに問題は誰がやったかじゃなくて、どうやってここを抜け出すのかだと思います。こうなってしまった
以上、涼宮さんが満足するようあたしたちが駒をすすめ、ハッピーエンドを迎えるしか抜け出すより他はありません」
俺の態度が不機嫌オーラを振りまいていると悟ったのか、橘は突然フォローをし始めた。確かに、結局のところ橘の言うようにこの
ゲームライクな世界のストーリーを進めるしか方法が無いわけで……ん、待てよ。そういえばこいつ……
るかが異なっています。例えばある村の真ん中で不発弾が見つかったとしましょう。これを爆発させない方法はいくつかあると思いま
す。でも、『不発弾が爆発しないよう監視する』のと『不発弾を無害化して爆発の影響をなくす』のとでは大きく違います。あたしか
ら言わせれば、何時爆発するか分からない爆弾を四六時中監視してるなんてナンセンスだわ。それよりも爆弾の信管を抜いて無害化し
た方がよっぽど世界平和に貢献できると思うわ」
で、信管を抜き損なって暴発するわけだ。
「そんなヘマするわけないじゃない」
どうだか。穴だらけの計画でものの見事に誘拐に失敗し、それどころか未来人宇宙人との連携もままならないお前ならそれもありう
る事だ。それに比べれば俺達が一年以上かけて築き上げた友情の方がよっぽどマシだ。最初は内心嫌々付き合っていたであろう古泉も
観測対象以外目にも暮れなかった長門も、今となってはお互い上手くやっている。朝比奈さんが長門を苦手としているのは今もだが、
それでも互いを蔑むようなことはしてないぜ。連携が取れないどころか、互いが信じられない奴等に爆弾の処理なんか任せられるか。
下手をしたらその場でズドン、だ。
「どうだ、反論はあるか?」
「……た、確かに結束力という点ではまだ古泉さん達には劣るかもしれませんが、でも佐々木さんの精神は安定して……」
「その佐々木についてだが」
何やら言い繕う橘の言葉を遮った。一瞬、辺りは沈黙……いや、木の葉のざわつく音がよく聞こえる。
「何故佐々木はこの世界に引き込まれてしまった?」
「それは……その……えーと……」チラチラとこちらを見ながら、「あたしにも、よくわからないのです。気付いたら、あたしもこの
世界に具現していました。そして佐々木さんもこの世界に来ているとわかったのです」
突っ込むところは山ほどあったが、今回は「そうか」とだけ返答して他の質問をすることにした。
「なら、この世界に飛ばされてしまった原因。何か知らないか?」
「涼宮さんのせいに決まってます」
「何故ハルヒのせいだと断定できる?」
「えっ?」
「確かに今まで起こしてきた事件は殆どが何かしらハルヒ絡みの事件だったし、容疑者とまではいかなくても重要参考人レベルで関わ
っていたことも多々あった。しかし橘、お前は今回の事件はハルヒのせいだと即答しやがった。確証がないにも関わらず、だ。何故そ
う言い切れる?」
「…………」
一瞬の沈黙を置いて、橘は思ったよりも冷静に、
「……今までの事件で、涼宮さんが関わってない事件など一つもなかったから、今回もそうだと思って」
「ああそうかよ」
ふん、と藤原がそうするように、不機嫌丸出しの表情で顔を背けた。
橘の言う事は最もだ。さっきは言ったものの、へんてこりんな事件が起きれば俺だってイの一番にハルヒに容疑をかけるだろうし、
実際俺が今まで経験してきた事件を考えればそれほど不思議なことじゃない。ただな、長門や古泉に言われるのならともかく、誘拐を
平然とする犯罪者で且つ『機関』の敵で、何よりハルヒのことを何にもわかっちゃいない新参者のこいつにだけは言われたくない。俺
達の表面を見ただけで全てが分かってますみたいなその口調が特に気に食わん。
「そんなに怒らないで。あたしも涼宮さんのせいにはしたくありませんし、宇宙人や未来人、あるいは第三の勢力でもいいですが、そ
れらがあたし達をこの世界に幽閉したと考えても構いません。ですが別勢力があたし達をファンタジーの世界に召喚する理由がありま
せんし、それに涼宮さんなら剣や魔法といった不思議な世界に憧れていたんじゃないかと思っての発言です。決して涼宮さんを卑下し
てるわけじゃありません。それに問題は誰がやったかじゃなくて、どうやってここを抜け出すのかだと思います。こうなってしまった
以上、涼宮さんが満足するようあたしたちが駒をすすめ、ハッピーエンドを迎えるしか抜け出すより他はありません」
俺の態度が不機嫌オーラを振りまいていると悟ったのか、橘は突然フォローをし始めた。確かに、結局のところ橘の言うようにこの
ゲームライクな世界のストーリーを進めるしか方法が無いわけで……ん、待てよ。そういえばこいつ……
「『機関』の優位性をアップするのは少々気が引けるけど、そんなこと言ってる場合じゃないですものね。あなたはこの世界を、そし
てあたし達の世界を救う勇者なのです。あたしも協力します。ですからあたしを敵視しないで。お互い協力して使命を……佐々木さん
を救出しましょう」
「……橘。一つ聞きたい」
「何でしょうか?」
「そういやお前、この世界の内情について何故そんなに詳しい?」
「……!」
「やれファンタジーの世界だとか、剣と魔法の世界とか。どこでそんな内情を手に入れた? それだけじゃない。佐々木が幽閉されて
いることも知ってたし、挙句の果てに俺が選ばれし勇者だとか。そんなことさっきの町ですら誰も言わなかったぞ。どうしてそこまで
知ってる?」
「……さ、さあ……そう言えば何ででしょう……ああ、きっとあたしに予知能力が生まれのかも知れません。何せ魔法の世界ですから
あは、あははは……」
あまりにも苦しい言い訳に、俺は「そうかい」と白々しく返答した。
「ところで橘。以前古泉から聞いた話だが、『機関』の人間は、ハルヒの精神に何が起きたかが分かってしまうらしい。上々なのか、
不機嫌なのか。あるいは単に落ち込んでいるだけなのか……ともかく閉鎖空間や巨人に関係なくても、その深層心理を把握することが
できるそうだ」
以前古泉から聞いた話を元に話し始める。橘といえば「は、はあ……」と毒気を抜かれた様子で頷き、ぽかんとこちらを見ていた。
「そしてハルヒによって世界の改変が行われた場合、それにいち早く気付く事もできるみたいだ」
こちらは俺の予想だが、決して的外れではないと思う。以前文化祭の映画を撮影するべく神社に来た際、古泉は神社の鳩がハルヒの
一存で一斉に衣替えしたという、どうでもいい情報を教えてくれた。そんな無益の情報を知っているのは古泉や『機関』の連中が一日
中神社に張り付いていたわけではなく、ハルヒによって世界が改変され、『分かってしまった』のだろうと俺は考えている。
……ま、自分の能力の範疇を超えてしまうと無理みたいだが。
「そ、それが何か……?」
「そして以前、お前は言ったよな。佐々木は閉鎖空間こそ持つものの、その心は安定していて変な力を発動させない。世界を作り変え
ようとはしないと」
「……は、はい」
「それはどうしてそう言い切れるんだ?」
「それは……わかってしまうのです。それ以外に説明のしようがありません」
「なるほど、確かに古泉もそんな事を言ってた。ってことは、佐々木の精神に何かしらの瑕疵が見られた場合も『分かってしまう』ん
だよな?」
「……あの、何が言いたいんですか?」
「つまり、だ」
俺は橘にズイッと近寄り、その幼げな顔をマジマジと見つめて口を開いた。
「佐々木の精神状態に何かしら異常が見られて、それが原因で俺達はこの世界に飛ばされたんじゃないかと言いたいんだ」
「…………!!」
「佐々木にもハルヒと同じようなパワーが発生して、世界を改変できるような力を得るようになってしまった。このままでは世界の安
定をウリにしていた自分達の面子が立たない。だから必死で俺を説得して元の世界に戻ろうとしている。そうだろ?」
「そ、そんなわけありません! やったのは涼宮さんです!」
「じゃあ何で俺と一緒にいるのがお前なんだ。正直ハルヒはお前のことなど歯牙にもかけてないし、そもそも名前も覚えてないはず。
ハルヒがこれをやったとしても、お前を巻き込もうなんて思うはず無かろう」
「で、でも! 非現実的な世界を作り上げようなんて、佐々木さんが考えるわけないでしょ!」
「なら教えてもらおう。ここへ来た理由が『よく分からない』のに、佐々木がここに来たことが『分かってしまった』理由を」
ずい、と一歩前に出て問い詰める。
「う……」
橘は同じ分だけ後ろに下がった。
「さあ!」
更に二歩前に出る。
「うう……」
同じく二歩下がった。
「さあさあ!」
「ううう…………」
グニャリ。
「んあ?」
「どうした?」
「今、何か変なものを踏んだ感触が……」
てあたし達の世界を救う勇者なのです。あたしも協力します。ですからあたしを敵視しないで。お互い協力して使命を……佐々木さん
を救出しましょう」
「……橘。一つ聞きたい」
「何でしょうか?」
「そういやお前、この世界の内情について何故そんなに詳しい?」
「……!」
「やれファンタジーの世界だとか、剣と魔法の世界とか。どこでそんな内情を手に入れた? それだけじゃない。佐々木が幽閉されて
いることも知ってたし、挙句の果てに俺が選ばれし勇者だとか。そんなことさっきの町ですら誰も言わなかったぞ。どうしてそこまで
知ってる?」
「……さ、さあ……そう言えば何ででしょう……ああ、きっとあたしに予知能力が生まれのかも知れません。何せ魔法の世界ですから
あは、あははは……」
あまりにも苦しい言い訳に、俺は「そうかい」と白々しく返答した。
「ところで橘。以前古泉から聞いた話だが、『機関』の人間は、ハルヒの精神に何が起きたかが分かってしまうらしい。上々なのか、
不機嫌なのか。あるいは単に落ち込んでいるだけなのか……ともかく閉鎖空間や巨人に関係なくても、その深層心理を把握することが
できるそうだ」
以前古泉から聞いた話を元に話し始める。橘といえば「は、はあ……」と毒気を抜かれた様子で頷き、ぽかんとこちらを見ていた。
「そしてハルヒによって世界の改変が行われた場合、それにいち早く気付く事もできるみたいだ」
こちらは俺の予想だが、決して的外れではないと思う。以前文化祭の映画を撮影するべく神社に来た際、古泉は神社の鳩がハルヒの
一存で一斉に衣替えしたという、どうでもいい情報を教えてくれた。そんな無益の情報を知っているのは古泉や『機関』の連中が一日
中神社に張り付いていたわけではなく、ハルヒによって世界が改変され、『分かってしまった』のだろうと俺は考えている。
……ま、自分の能力の範疇を超えてしまうと無理みたいだが。
「そ、それが何か……?」
「そして以前、お前は言ったよな。佐々木は閉鎖空間こそ持つものの、その心は安定していて変な力を発動させない。世界を作り変え
ようとはしないと」
「……は、はい」
「それはどうしてそう言い切れるんだ?」
「それは……わかってしまうのです。それ以外に説明のしようがありません」
「なるほど、確かに古泉もそんな事を言ってた。ってことは、佐々木の精神に何かしらの瑕疵が見られた場合も『分かってしまう』ん
だよな?」
「……あの、何が言いたいんですか?」
「つまり、だ」
俺は橘にズイッと近寄り、その幼げな顔をマジマジと見つめて口を開いた。
「佐々木の精神状態に何かしら異常が見られて、それが原因で俺達はこの世界に飛ばされたんじゃないかと言いたいんだ」
「…………!!」
「佐々木にもハルヒと同じようなパワーが発生して、世界を改変できるような力を得るようになってしまった。このままでは世界の安
定をウリにしていた自分達の面子が立たない。だから必死で俺を説得して元の世界に戻ろうとしている。そうだろ?」
「そ、そんなわけありません! やったのは涼宮さんです!」
「じゃあ何で俺と一緒にいるのがお前なんだ。正直ハルヒはお前のことなど歯牙にもかけてないし、そもそも名前も覚えてないはず。
ハルヒがこれをやったとしても、お前を巻き込もうなんて思うはず無かろう」
「で、でも! 非現実的な世界を作り上げようなんて、佐々木さんが考えるわけないでしょ!」
「なら教えてもらおう。ここへ来た理由が『よく分からない』のに、佐々木がここに来たことが『分かってしまった』理由を」
ずい、と一歩前に出て問い詰める。
「う……」
橘は同じ分だけ後ろに下がった。
「さあ!」
更に二歩前に出る。
「うう……」
同じく二歩下がった。
「さあさあ!」
「ううう…………」
グニャリ。
「んあ?」
「どうした?」
「今、何か変なものを踏んだ感触が……」
俺と同じ歩数だけ後ろに歩みを進める橘。
いつまで続くのかと思われたこの一進一退劇は、橘が上げた悲鳴とも奇声とも付かぬ声を以って突如終焉を迎えることになった。
いつまで続くのかと思われたこの一進一退劇は、橘が上げた悲鳴とも奇声とも付かぬ声を以って突如終焉を迎えることになった。
――変なもの? 何だそれは?
俺と橘は同時に橘の足元に目線を送り……うっ!
「やだぁ!」
鳴き声に近い叫び声を上げながら、自分が踏んだソレから思わず足を引いた。
俺と橘は同時に橘の足元に目線を送り……うっ!
「やだぁ!」
鳴き声に近い叫び声を上げながら、自分が踏んだソレから思わず足を引いた。
それは、緑色の長い蔓のようなものだった。
「な、なんだソレ!」
「き、気持ち悪いです!」
「気持ち悪いってレベルじゃねえぞ!」
蔓とだけ聞かれれば、熱帯地方にでも生えていそうな蔓科の仲間か何かだろうと思うだけで済むが、太さが親指と中指とで作った輪
の大きさほで、奇妙に脈打っていれば誰だって悲鳴を上げるに違いない。しかも蔓の先は更に細い数本の蔓となってうねっており、先
端は吸盤状。おまけに全身にイボイボがついていやがる。グロデスクなことこの上ない。
……いや、これは蔓というより、触手といった方がいいかもしれない。その証拠に、ほら。
「やだっ! ちょっと! あたしに絡み付いてこないでよっ!」
攻撃されたと勘違いしたのだろう、触手は踏みつけた橘京子の右足に絡み付いてきた。
「この、離れなさい!」
必死にもがくが、吸盤が張り付いてなかなか離れそうにない。生き別れた母親を抱擁するかのようにがっちりとホールドしている。
俺はと言えば、橘を助けた方が良いとは思いつつも得体の知れないその触手に立ち向かう勇気もなく、ただただ事の成り行きを見守
っていた。
それに、橘の太腿に絡みつく触手はなかなかそそるものが……何を言ってんだ俺?
「く……こうなったら!」
力ずくで抜けきるのは不可能と悟った橘は、腰に付けていたダガーを取り出し、逆手に持って掛け声とともに一閃。
「えいっ!」
うまい! 触手の先端は見事に断たれ、橘の足元に落下した。
それは暫くその場でもがき、断面からは透明で粘り気のある体液を飛び散らせている。
同時に橘を戒めていた触手の本体部分は橘を解放し、逃げ帰るように森の暗闇へと消えていった。
……ちっ、不甲斐ない触手だな。もう少し楽しませてくれよ……
「何かいいましたか?」
……いや、何も。気のせいだ、気のせい。
「な、なんだソレ!」
「き、気持ち悪いです!」
「気持ち悪いってレベルじゃねえぞ!」
蔓とだけ聞かれれば、熱帯地方にでも生えていそうな蔓科の仲間か何かだろうと思うだけで済むが、太さが親指と中指とで作った輪
の大きさほで、奇妙に脈打っていれば誰だって悲鳴を上げるに違いない。しかも蔓の先は更に細い数本の蔓となってうねっており、先
端は吸盤状。おまけに全身にイボイボがついていやがる。グロデスクなことこの上ない。
……いや、これは蔓というより、触手といった方がいいかもしれない。その証拠に、ほら。
「やだっ! ちょっと! あたしに絡み付いてこないでよっ!」
攻撃されたと勘違いしたのだろう、触手は踏みつけた橘京子の右足に絡み付いてきた。
「この、離れなさい!」
必死にもがくが、吸盤が張り付いてなかなか離れそうにない。生き別れた母親を抱擁するかのようにがっちりとホールドしている。
俺はと言えば、橘を助けた方が良いとは思いつつも得体の知れないその触手に立ち向かう勇気もなく、ただただ事の成り行きを見守
っていた。
それに、橘の太腿に絡みつく触手はなかなかそそるものが……何を言ってんだ俺?
「く……こうなったら!」
力ずくで抜けきるのは不可能と悟った橘は、腰に付けていたダガーを取り出し、逆手に持って掛け声とともに一閃。
「えいっ!」
うまい! 触手の先端は見事に断たれ、橘の足元に落下した。
それは暫くその場でもがき、断面からは透明で粘り気のある体液を飛び散らせている。
同時に橘を戒めていた触手の本体部分は橘を解放し、逃げ帰るように森の暗闇へと消えていった。
……ちっ、不甲斐ない触手だな。もう少し楽しませてくれよ……
「何かいいましたか?」
……いや、何も。気のせいだ、気のせい。
「大丈夫か、橘」
それまでの妄想を振り払い、何事も無かったかのように俺は橘に問い掛けた。
「ええ、大丈夫です。でもビックリした。まさかこいつがここにいるなんて……吸盤が吸い付いてきてちょっと赤くなっちゃっている
けど、これくらいならすぐ治るわ」
あ、本当だ。赤くなっている。まるでキスマークみたいだな。いやらしい奴。
……などとはいえる筈もなく(いい加減妄想癖は直したほうがいいな)別の質問をすることにした。
「何なんだ、この生き物は?」
「正式な名前は知らないけど、捕食植物の一種ですね。あの触手の先から養分を吸い取って生きる、半ばモンスターのような植物なの
です。たまに人も襲ったりもするようで、あちこちで被害が発生しているみたい」
おいおい、まさかこいつ、肉食性植物か? 橘に絡みついたのも捕食するために……ってマジか?
橘が切り落とした触手に目をやる。まだ蠢いてやがる。恐ろしいまでの生命力だな。本体側の方はどこにいったのかわからないが、
逃げたにしても近くにいることは確実である。
「早く逃げようぜ。俺はこんなやつの餌食になる気はさらさらない」
「いえいえ。そんなに危険な生物じゃないわ。彼らは見た目こそ醜悪ですが、正確は比較的温厚。何より草食性です。人間を襲うこと
は殆どありません」
比較的温厚って……第一今お前を襲ったじゃないか。それにお前あちこちで被害が発生してるっていったじゃないか。話が矛盾して
るぜ。
「さっきのあれは、あたしが踏んづけたから襲ったのでしょう、窮鼠猫を噛むってやつですね。追い詰められた獣が……今回は植物で
すけど、ともかく自分が生き伸びるためには格上相手でも牙を向ける。野生の世界の掟なのです。それに先ほども言いましたが、彼ら
は草食性です。人間への被害は殆どありません。一部の例外を除いて」
一部の例外?
「ええ。彼らの栄養としている、生命活動をしていない植物を得るために、一部の人間への被害を及ぼしているのです」
「はあっ?」頭にクエスチョンマークが点灯した。「どういうことだ、そりゃ。生きている植物を襲うってのなら分かるが、死んでる
植物を餌にしたところで特に困ることはないだろ? それなのにどうして人間に被害が発生するんだよ?」
それまでの妄想を振り払い、何事も無かったかのように俺は橘に問い掛けた。
「ええ、大丈夫です。でもビックリした。まさかこいつがここにいるなんて……吸盤が吸い付いてきてちょっと赤くなっちゃっている
けど、これくらいならすぐ治るわ」
あ、本当だ。赤くなっている。まるでキスマークみたいだな。いやらしい奴。
……などとはいえる筈もなく(いい加減妄想癖は直したほうがいいな)別の質問をすることにした。
「何なんだ、この生き物は?」
「正式な名前は知らないけど、捕食植物の一種ですね。あの触手の先から養分を吸い取って生きる、半ばモンスターのような植物なの
です。たまに人も襲ったりもするようで、あちこちで被害が発生しているみたい」
おいおい、まさかこいつ、肉食性植物か? 橘に絡みついたのも捕食するために……ってマジか?
橘が切り落とした触手に目をやる。まだ蠢いてやがる。恐ろしいまでの生命力だな。本体側の方はどこにいったのかわからないが、
逃げたにしても近くにいることは確実である。
「早く逃げようぜ。俺はこんなやつの餌食になる気はさらさらない」
「いえいえ。そんなに危険な生物じゃないわ。彼らは見た目こそ醜悪ですが、正確は比較的温厚。何より草食性です。人間を襲うこと
は殆どありません」
比較的温厚って……第一今お前を襲ったじゃないか。それにお前あちこちで被害が発生してるっていったじゃないか。話が矛盾して
るぜ。
「さっきのあれは、あたしが踏んづけたから襲ったのでしょう、窮鼠猫を噛むってやつですね。追い詰められた獣が……今回は植物で
すけど、ともかく自分が生き伸びるためには格上相手でも牙を向ける。野生の世界の掟なのです。それに先ほども言いましたが、彼ら
は草食性です。人間への被害は殆どありません。一部の例外を除いて」
一部の例外?
「ええ。彼らの栄養としている、生命活動をしていない植物を得るために、一部の人間への被害を及ぼしているのです」
「はあっ?」頭にクエスチョンマークが点灯した。「どういうことだ、そりゃ。生きている植物を襲うってのなら分かるが、死んでる
植物を餌にしたところで特に困ることはないだろ? それなのにどうして人間に被害が発生するんだよ?」
「……言い方を変えましょう。彼らの餌である生命活動をしていない植物。その一例として、人間達が着ている服があります」
「なっ!」
「しかも大好物。その証拠に、ほら。見てください」
橘は先ほど自分の右足……先ほど触手が絡みついた側の足を一歩前に出した。橘が穿いていた黒いサイハイソックスは、よく見ると
小さい穴がいくつも空いていた。
「あの触手の先から出した消化酵素なのです。かなり強力で、数秒絡まれただけでこうなるの。もし全身にアレが絡まったら、ものの
数分で衣類はヤツの栄養源とされるでしょう。ちなみに人体には影響が無いようで、被害にあった人も特にケガはなかったようです。
せいぜい寒い時期に襲われて風邪を引いたくらいかな」
ああ、なるほど……人間への害ってのはそう言うことだったのか。
「あとは廃村なんかで、木造の家が彼らの餌食になったという報告があるくらいかしら。基本的に人を恐れるので、集落を襲うことは
ないようです。実は被害にあっているのは旅人ばかりで、彼らの縄張りに入り込んで被害にあったという報告が殆どです」
ううむ……何とも面妖な生き物だ。
「確かに。大きな被害はないとはいえ、決して気持ちのいい生き物とは言えないわ。あまり関わりたくないからさっさとこの森をでま
しょう」
異論はない。が。
「やっぱり異常に詳しいな、お前。何でそんなに……」
「まあまあ、積もる話はこの森を出たところでしましょう。ここで話してたらまたあいつに捕まっちゃうわ。だから、ね? 行きまし
ょう!」
気持ちを切り替えて……というより無理矢理話を終わらせ、橘は駆け足でその場を立ち去り。
「なっ!」
「しかも大好物。その証拠に、ほら。見てください」
橘は先ほど自分の右足……先ほど触手が絡みついた側の足を一歩前に出した。橘が穿いていた黒いサイハイソックスは、よく見ると
小さい穴がいくつも空いていた。
「あの触手の先から出した消化酵素なのです。かなり強力で、数秒絡まれただけでこうなるの。もし全身にアレが絡まったら、ものの
数分で衣類はヤツの栄養源とされるでしょう。ちなみに人体には影響が無いようで、被害にあった人も特にケガはなかったようです。
せいぜい寒い時期に襲われて風邪を引いたくらいかな」
ああ、なるほど……人間への害ってのはそう言うことだったのか。
「あとは廃村なんかで、木造の家が彼らの餌食になったという報告があるくらいかしら。基本的に人を恐れるので、集落を襲うことは
ないようです。実は被害にあっているのは旅人ばかりで、彼らの縄張りに入り込んで被害にあったという報告が殆どです」
ううむ……何とも面妖な生き物だ。
「確かに。大きな被害はないとはいえ、決して気持ちのいい生き物とは言えないわ。あまり関わりたくないからさっさとこの森をでま
しょう」
異論はない。が。
「やっぱり異常に詳しいな、お前。何でそんなに……」
「まあまあ、積もる話はこの森を出たところでしましょう。ここで話してたらまたあいつに捕まっちゃうわ。だから、ね? 行きまし
ょう!」
気持ちを切り替えて……というより無理矢理話を終わらせ、橘は駆け足でその場を立ち去り。
グニャニャ。
「……へ?」
そして、再び何かを踏んだ。
そして、再び何かを踏んだ。
「この感触、まさか……」
足元を見ずに一筋の汗を垂らす橘の代わりに、俺が彼女の足元を見る。
うむ。さっきお前が踏んだものと寸分違わないものだ。しかしよくよく縁がある奴だな、お前は。
「う、うそお……勘弁してくださいよぉ……」
謝るんなら俺じゃなくて、その足元の奴に言ってみたらどうだ。
「う、うわああぁぁあ!!!」
――当然聞き入れるわけが無い。
先ほどと同じく、踏まれた触手は再び橘を絡めとり、拘束した。しかも今度は片足だけではない。一体何時の間に現れたのだろうか
数本の触手が両足、そして両手を束縛した。
一回だけならまだしも、二回も踏まれてよほど頭にきたのだろうかね。纏わりつき方も先ほどよりも強力に見える。
「た、助けてぇ!!!」
自業自得だ。実害が無いならそのままおとなしくしてろよ。腹が一杯になったらおとなしく引くだろ。
「そんな悠長なことしてたらあたし真っ裸になっちゃいます!」
いや、むしろ好都合だな、俺にとっては。それに『触手に絡まれる女の子』ってのは何時見てもいい。欲を言えばもっと大事な部分
を執拗に攻めて欲しいわけだが……っていかんいかん。また怪しい妄想を繰り返すところだった。
「おーい、橘ー、大丈夫かー?」
「大丈……夫……な訳…………バカやっ……てない…………たす……けっ……早…………」
うーむ、確かに馬鹿やっている場合じゃないな。
橘を取り巻く触手は今や体の半身を覆い尽くし、口元までその手が伸びている。例えこいつが草食性だったとしても、あのままでは
窒息死しかねない。
「しかたない、助けてやるか。さっきの借りもあるし」
俺は剣を抜いて、今や緑色の塊となった橘の前に立ち、伸びきった触手を目掛けて振り下ろす。
ザシュッ!
太さの割には抵抗無く、意外なほどあっさり断ち斬ることができた。剣を翻し、他に絡み付いている数本を同様に薙ぐ。それと同時
に触手の先端は次々に地面へと落ち、網から揚げたばかりの鮮魚よろしくバタバタと身を跳ねる。俺の存在を無視したせいか、あるい
は橘に気を取られてそこまで頭が回らなかったまでは分からないが、それが命取りだ。よくよく考えたら不甲斐ない奴等である。そし
て、そんな不甲斐ない奴等の餌食になった橘京子はもっと不甲斐ない。
残った最後の一本を斬り落とす。すると束縛が解けたのか、「ぷはっ。ふええぇぇ……」とその場にへたれこむ甲斐性無し。
少しは学習しろと文句をつけたいところだが、それは後回しだ。
「まだだ、油断するな」
「へ?……」
ヘタリ声を遠くで聞き取りながら、俺は斬り落とした触手が現れた方角――森の暗闇に目を向ける。
陽を遮った木陰が織り成す闇。一見そのようにしか見えないが、だが違う。剣を構えて対峙する俺。そこにいるのは分かってんだと
いう意思表示だ。
足元を見ずに一筋の汗を垂らす橘の代わりに、俺が彼女の足元を見る。
うむ。さっきお前が踏んだものと寸分違わないものだ。しかしよくよく縁がある奴だな、お前は。
「う、うそお……勘弁してくださいよぉ……」
謝るんなら俺じゃなくて、その足元の奴に言ってみたらどうだ。
「う、うわああぁぁあ!!!」
――当然聞き入れるわけが無い。
先ほどと同じく、踏まれた触手は再び橘を絡めとり、拘束した。しかも今度は片足だけではない。一体何時の間に現れたのだろうか
数本の触手が両足、そして両手を束縛した。
一回だけならまだしも、二回も踏まれてよほど頭にきたのだろうかね。纏わりつき方も先ほどよりも強力に見える。
「た、助けてぇ!!!」
自業自得だ。実害が無いならそのままおとなしくしてろよ。腹が一杯になったらおとなしく引くだろ。
「そんな悠長なことしてたらあたし真っ裸になっちゃいます!」
いや、むしろ好都合だな、俺にとっては。それに『触手に絡まれる女の子』ってのは何時見てもいい。欲を言えばもっと大事な部分
を執拗に攻めて欲しいわけだが……っていかんいかん。また怪しい妄想を繰り返すところだった。
「おーい、橘ー、大丈夫かー?」
「大丈……夫……な訳…………バカやっ……てない…………たす……けっ……早…………」
うーむ、確かに馬鹿やっている場合じゃないな。
橘を取り巻く触手は今や体の半身を覆い尽くし、口元までその手が伸びている。例えこいつが草食性だったとしても、あのままでは
窒息死しかねない。
「しかたない、助けてやるか。さっきの借りもあるし」
俺は剣を抜いて、今や緑色の塊となった橘の前に立ち、伸びきった触手を目掛けて振り下ろす。
ザシュッ!
太さの割には抵抗無く、意外なほどあっさり断ち斬ることができた。剣を翻し、他に絡み付いている数本を同様に薙ぐ。それと同時
に触手の先端は次々に地面へと落ち、網から揚げたばかりの鮮魚よろしくバタバタと身を跳ねる。俺の存在を無視したせいか、あるい
は橘に気を取られてそこまで頭が回らなかったまでは分からないが、それが命取りだ。よくよく考えたら不甲斐ない奴等である。そし
て、そんな不甲斐ない奴等の餌食になった橘京子はもっと不甲斐ない。
残った最後の一本を斬り落とす。すると束縛が解けたのか、「ぷはっ。ふええぇぇ……」とその場にへたれこむ甲斐性無し。
少しは学習しろと文句をつけたいところだが、それは後回しだ。
「まだだ、油断するな」
「へ?……」
ヘタリ声を遠くで聞き取りながら、俺は斬り落とした触手が現れた方角――森の暗闇に目を向ける。
陽を遮った木陰が織り成す闇。一見そのようにしか見えないが、だが違う。剣を構えて対峙する俺。そこにいるのは分かってんだと
いう意思表示だ。
――瞬間、闇は蠢く影を形成した。
「ま、また現れた!?」
ちっ、本当にしぶとい野郎だ。まだ俺達にちょっかい出そうってのか。しつこい奴は嫌われるぜ。人間だけじゃなく生物全般の統一
見解だと思ってたんだがな。
等と軽口を叩きながら再三に渡ってこいつらと対峙した俺は、しかしこれまでと違う雰囲気を感じ取った。
地面にひっそりと潜んでいた先ほどまでとは異なり、むしろ逆で天に向かって触手を伸ばしている。その高さは辺りの木々と引けを
取らない。そして先端部は俺の方を向け、不規則な動きを繰り返している。
……挑発のポーズ、だな。二回に渡る触手の切除で、俺達を完全に敵とみなした。そんなところだろう。
「橘、隠れてろ!」
俺の声と同時に、それまで一つに固まっていた触手の群れが一斉に弾けた。
右から三本、左後方から二本。タイミングをずらしながら攻めてくる。波状攻撃のつもりか! だが遅い!
左からきた一本をかわし、遅れてきた一本を切断。俺の後ろへと伸びていく触手は足で踏みつつ、右からの攻撃に対処する。
一本、二本と斬り落とし……っと、今度は前から四本!
俺は決して運動神経が良い方ではないと思うのだが、それでも迫り来る触手をかわし、斬り落とし、あるいは踏み潰す。
斬り落とされた触手はいったん下がり、別の触手が間髪いれず攻めて来る。攻めてきた触手は同様の方法で俺に斬り落とされる。
そんな一進一退の攻防が暫く続き……
「ま、また現れた!?」
ちっ、本当にしぶとい野郎だ。まだ俺達にちょっかい出そうってのか。しつこい奴は嫌われるぜ。人間だけじゃなく生物全般の統一
見解だと思ってたんだがな。
等と軽口を叩きながら再三に渡ってこいつらと対峙した俺は、しかしこれまでと違う雰囲気を感じ取った。
地面にひっそりと潜んでいた先ほどまでとは異なり、むしろ逆で天に向かって触手を伸ばしている。その高さは辺りの木々と引けを
取らない。そして先端部は俺の方を向け、不規則な動きを繰り返している。
……挑発のポーズ、だな。二回に渡る触手の切除で、俺達を完全に敵とみなした。そんなところだろう。
「橘、隠れてろ!」
俺の声と同時に、それまで一つに固まっていた触手の群れが一斉に弾けた。
右から三本、左後方から二本。タイミングをずらしながら攻めてくる。波状攻撃のつもりか! だが遅い!
左からきた一本をかわし、遅れてきた一本を切断。俺の後ろへと伸びていく触手は足で踏みつつ、右からの攻撃に対処する。
一本、二本と斬り落とし……っと、今度は前から四本!
俺は決して運動神経が良い方ではないと思うのだが、それでも迫り来る触手をかわし、斬り落とし、あるいは踏み潰す。
斬り落とされた触手はいったん下がり、別の触手が間髪いれず攻めて来る。攻めてきた触手は同様の方法で俺に斬り落とされる。
そんな一進一退の攻防が暫く続き……
「……こりゃ骨だな。数が多すぎる」
右斜め上から攻めてきた触手を二本同時に斬り落とし、内心舌打ちをした。
しつこく攻め続ければあいつも諦めると思ったのだが、思ったよりしぶとい。それどころか一向に触手が攻撃を休む気配も見られな
い。このままだと俺の方が先に根をあげるかも知れん。
「……くっ!」
何時の間にか後方に潜んだ触手を一閃したとこで前方を見渡した。心なしだろうか、触手の数が先ほどよりも増えているような気が
する。
――こいつら底なしか?
「橘、こいつは一体何本の触手を持っているんだ!? 斬っても斬ってもキリがないぞ!」
「詳しくはわかりません、ただ……」斬り落とされた触手の山から、橘の声が響いた。「ただ?」
「何となくですけど、すぐに再生しているんじゃないんでしょうか……」
絶望的なことを言いやがった。
「ならどうすればいいんだよっ!」
「耐えてください!」
無茶を言うな! こっちはもうそろそろ限界だっ……
「――うおっ!」
それは、一瞬の気の緩みが原因だった。右斜め後ろから地面を這いつくばって接近してきた触手に、足をとられてしまった。
……しまった!
そう思ってももう遅い。触手は俺の足を絡み取り、そして俺の体へと巻きつ……かない?
それどころか、他の触手たちも接近せず、一定の間合いを取って攻め倦み始めた。どういうことだ? 何を考えてやがる……? だ
がこれで俺が元の体制を整える時間ができた。剣を構え、息を整え、そして再び対峙する。
先ほどまでのような攻撃はピタリと止み、恐ろしいくらいの沈黙が訪れる。何を考えているのか分からない以上、俺もうかつな攻撃
はできない。じりじりと、間合いだけを取りながら攻めるチャンスを伺い……そして、沈黙を破ったのは橘の叫び声だった。
「そ、そうだ! 魔法を使ってください!」
……は? 魔法!?
「こいつは植物ですから、火には弱いはずです! 火の魔法でこいつを追っ払ってください!」
「魔法って言ってもどうやって使うんだ! 俺は知らんぞ!」
「ここはファンタジーの世界です! 炎っぽい呪文詠唱をすれば、それっぽい魔法をだせるはずです!」
こんな時に限って適当なことを言いやがって。ハルヒかお前は。
ええい、こうなりゃヤケだ!
剣を鞘に収め、両手を胸の前にかざして頭の中で思いつく限りの『それっぽい』呪文詠唱を開始した。
右斜め上から攻めてきた触手を二本同時に斬り落とし、内心舌打ちをした。
しつこく攻め続ければあいつも諦めると思ったのだが、思ったよりしぶとい。それどころか一向に触手が攻撃を休む気配も見られな
い。このままだと俺の方が先に根をあげるかも知れん。
「……くっ!」
何時の間にか後方に潜んだ触手を一閃したとこで前方を見渡した。心なしだろうか、触手の数が先ほどよりも増えているような気が
する。
――こいつら底なしか?
「橘、こいつは一体何本の触手を持っているんだ!? 斬っても斬ってもキリがないぞ!」
「詳しくはわかりません、ただ……」斬り落とされた触手の山から、橘の声が響いた。「ただ?」
「何となくですけど、すぐに再生しているんじゃないんでしょうか……」
絶望的なことを言いやがった。
「ならどうすればいいんだよっ!」
「耐えてください!」
無茶を言うな! こっちはもうそろそろ限界だっ……
「――うおっ!」
それは、一瞬の気の緩みが原因だった。右斜め後ろから地面を這いつくばって接近してきた触手に、足をとられてしまった。
……しまった!
そう思ってももう遅い。触手は俺の足を絡み取り、そして俺の体へと巻きつ……かない?
それどころか、他の触手たちも接近せず、一定の間合いを取って攻め倦み始めた。どういうことだ? 何を考えてやがる……? だ
がこれで俺が元の体制を整える時間ができた。剣を構え、息を整え、そして再び対峙する。
先ほどまでのような攻撃はピタリと止み、恐ろしいくらいの沈黙が訪れる。何を考えているのか分からない以上、俺もうかつな攻撃
はできない。じりじりと、間合いだけを取りながら攻めるチャンスを伺い……そして、沈黙を破ったのは橘の叫び声だった。
「そ、そうだ! 魔法を使ってください!」
……は? 魔法!?
「こいつは植物ですから、火には弱いはずです! 火の魔法でこいつを追っ払ってください!」
「魔法って言ってもどうやって使うんだ! 俺は知らんぞ!」
「ここはファンタジーの世界です! 炎っぽい呪文詠唱をすれば、それっぽい魔法をだせるはずです!」
こんな時に限って適当なことを言いやがって。ハルヒかお前は。
ええい、こうなりゃヤケだ!
剣を鞘に収め、両手を胸の前にかざして頭の中で思いつく限りの『それっぽい』呪文詠唱を開始した。
――炎の精霊よ! 我が名に答えよ! 我を渾名す不埒者に制裁の業火を!――
これで炎の『ほ』の字も出なかったら辺り一面銀世界になるほど寒いんだろうな。むしろ寒さで触手が枯死したりして。いやいや植
物だから寒いとかウケルとかの概念もないからやっぱり無駄か。駄目じゃん。
……等と心の中で緊張感のないノリツッコミを考えていたのだが、それは杞憂に終わった。
「……嘘だろ……?」
なんと俺の口からでまかせ呪文を紡いだ後、俺の両手の間から生まれた炎の鞭が現れ、空を紅く染め上げたのだ。
物だから寒いとかウケルとかの概念もないからやっぱり無駄か。駄目じゃん。
……等と心の中で緊張感のないノリツッコミを考えていたのだが、それは杞憂に終わった。
「……嘘だろ……?」
なんと俺の口からでまかせ呪文を紡いだ後、俺の両手の間から生まれた炎の鞭が現れ、空を紅く染め上げたのだ。
炎の鞭は一目置かず目の前の触手へと絡みつき、間を置かずして炎に包まれれる。だがそれで終わりじゃない。一本を火達磨にした
後はまるで意志を持つかのように次の触手へと矛先を変え、同じように餌食にする。瞬く間に触手は炎を上げ燃え尽き、ケシズミ一つ
残さずこの世から消滅した。
それと同時に炎の鞭も消滅、辺りは元の緑色の世界を取り戻す。
「すげえ……」
何がすごいってなあ。アレを出した自分が一番驚いているぜ。あんなテキトーな詠唱ひとつで炎を自在に動かせるなら今までの苦労
は一体なんだったんだ?
「すごいです……まさかあんな魔法が使えるなんて……一体いつの間に覚えたのですか?」
まんまるに目を見開いた橘が俺に問い掛ける。その質問は俺が聞きたい。瓢箪から駒とか、嘘も方便とか、その諺の意味を始めて知
った気がした。
まさか、『出でよドラゴン!』とか詠唱したら、本当に召喚されるのだろうか? ちょっと試してみるのもアリかも……
……いや、やっぱり止めておこう。制御する自信がない。
後はまるで意志を持つかのように次の触手へと矛先を変え、同じように餌食にする。瞬く間に触手は炎を上げ燃え尽き、ケシズミ一つ
残さずこの世から消滅した。
それと同時に炎の鞭も消滅、辺りは元の緑色の世界を取り戻す。
「すげえ……」
何がすごいってなあ。アレを出した自分が一番驚いているぜ。あんなテキトーな詠唱ひとつで炎を自在に動かせるなら今までの苦労
は一体なんだったんだ?
「すごいです……まさかあんな魔法が使えるなんて……一体いつの間に覚えたのですか?」
まんまるに目を見開いた橘が俺に問い掛ける。その質問は俺が聞きたい。瓢箪から駒とか、嘘も方便とか、その諺の意味を始めて知
った気がした。
まさか、『出でよドラゴン!』とか詠唱したら、本当に召喚されるのだろうか? ちょっと試してみるのもアリかも……
……いや、やっぱり止めておこう。制御する自信がない。
パチパチと音を立てて燃える触手を見ながら、俺は未だその場に蹲っている橘に声をかけた。
「大丈夫か、立てるか? というか這い出られるのか?」
「ああ、はい。すみません、あまりの展開にボーッとしちゃって。別に怪我はないから立てます。よいしょ、と」
ズルズルと触手の残骸から這い上がる。
「ふう。お待たせしました。では参りましょう」
…………。
「ん? どうしましたか?」
いや、何もなってないのか……
「何の話?」
だってさっき言ったろ。あの触手の大好物が人間の衣類だって。てっきり喰われてその場に立てないものだと思っていたんだが……
「もうっ、何を考えているんですか。いやらしい。そんなに都合のよい展開があるわけないじゃない。それに絡まれてたのはほんの数
十秒ですし、彼らが服を消化するほどの時間はなかったのです」
くそ、ちょっと残念。
「そうそう、服の話で思い出したけど、ちょっと面白いことがあったわね。あなたが彼らに襲われそうになったとき、彼らはあなたに
目掛けて攻めたけど、絡んで直ぐに止めたでしょ」
ああ。そうだったな。いまいち理由がよくわからんが、あれで助かったのも事実だ。
「あれは恐らく、あなたが着ている革製の鎧のせいね。革は動物から取ったものだから、彼らの食事には適さない。獲物だと思って喰
いついたはいいけど、不味かったから吐き捨てたってところかしら」
そうか、どうりであの後俺を攻めようとはしなかったわけだ。これで納得がいった。しかし橘。その言い方は何か癪に障るものがあ
るんだが……
「どちらかというと誉め言葉よ。ぼやかないぼやかない。さ、今度こそ行きましょう!」
再び橘が号令をかけ、足を進めた、その時。
「うおっ!」
「きゃっ!」
今までのそよ風とは違う、強烈な風が吹き荒れた。
風は草を揺らし木を揺らし、そして木の葉が舞い上がる。舞い上がった木の葉は俺の視界を一瞬遮り、前を見るのもままならい。思
わず目線を地面に移し、木の葉の流れを目で追う。緑や黄色、それに茶色やら黒の葉が風下に流れて……ん? 黒い葉っぱ? そんな
のあったか?
地面にしゃがみこみ、その黒い葉っぱをよく見る。……って、葉っぱじゃないぞこれ。何かの布だ。ボロボロになっているから勘違
いしたが……
「きゃあああ!」
突如、橘が悲鳴をあげた。
「どうした!」
強風に逆らいながら声を張り上げ、舞い散る木の葉に顔を掠められながら橘の方を見……おおっ!!
「み、見るなぁー!!!」
そこにいたのは、風によってポロポロと剥がれていく服を必死で押さえ込もうとする橘の姿。今や8割以上が剥がれ落ち、殆ど生ま
れた時の姿と同様である。唯一手で押さえている胸の部分と足の付け根の部分の布切れだけが申し訳なさげに覆っているに過ぎない。
「どうした、こんなところでストリップか?」
「違うわよ、バカぁ!!」
「さっきはさっきでパンツを見せてくれたし、お前って露出願望があるんだな」
「そんな訳ないでしょ! いいからこっち見ないで!」
「いやあ……下手に全裸でいるよりもよっぽど刺激的だぞその格好。思春期の俺にとっては眼福この上ない光景だ」
「見ないでって言ってるでしょ!……ううっ……うう……」
ついにはその場に蹲り、ふるふると肩を振るわせた。
ちょっと、苛めすぎたかな……?
「大丈夫か、立てるか? というか這い出られるのか?」
「ああ、はい。すみません、あまりの展開にボーッとしちゃって。別に怪我はないから立てます。よいしょ、と」
ズルズルと触手の残骸から這い上がる。
「ふう。お待たせしました。では参りましょう」
…………。
「ん? どうしましたか?」
いや、何もなってないのか……
「何の話?」
だってさっき言ったろ。あの触手の大好物が人間の衣類だって。てっきり喰われてその場に立てないものだと思っていたんだが……
「もうっ、何を考えているんですか。いやらしい。そんなに都合のよい展開があるわけないじゃない。それに絡まれてたのはほんの数
十秒ですし、彼らが服を消化するほどの時間はなかったのです」
くそ、ちょっと残念。
「そうそう、服の話で思い出したけど、ちょっと面白いことがあったわね。あなたが彼らに襲われそうになったとき、彼らはあなたに
目掛けて攻めたけど、絡んで直ぐに止めたでしょ」
ああ。そうだったな。いまいち理由がよくわからんが、あれで助かったのも事実だ。
「あれは恐らく、あなたが着ている革製の鎧のせいね。革は動物から取ったものだから、彼らの食事には適さない。獲物だと思って喰
いついたはいいけど、不味かったから吐き捨てたってところかしら」
そうか、どうりであの後俺を攻めようとはしなかったわけだ。これで納得がいった。しかし橘。その言い方は何か癪に障るものがあ
るんだが……
「どちらかというと誉め言葉よ。ぼやかないぼやかない。さ、今度こそ行きましょう!」
再び橘が号令をかけ、足を進めた、その時。
「うおっ!」
「きゃっ!」
今までのそよ風とは違う、強烈な風が吹き荒れた。
風は草を揺らし木を揺らし、そして木の葉が舞い上がる。舞い上がった木の葉は俺の視界を一瞬遮り、前を見るのもままならい。思
わず目線を地面に移し、木の葉の流れを目で追う。緑や黄色、それに茶色やら黒の葉が風下に流れて……ん? 黒い葉っぱ? そんな
のあったか?
地面にしゃがみこみ、その黒い葉っぱをよく見る。……って、葉っぱじゃないぞこれ。何かの布だ。ボロボロになっているから勘違
いしたが……
「きゃあああ!」
突如、橘が悲鳴をあげた。
「どうした!」
強風に逆らいながら声を張り上げ、舞い散る木の葉に顔を掠められながら橘の方を見……おおっ!!
「み、見るなぁー!!!」
そこにいたのは、風によってポロポロと剥がれていく服を必死で押さえ込もうとする橘の姿。今や8割以上が剥がれ落ち、殆ど生ま
れた時の姿と同様である。唯一手で押さえている胸の部分と足の付け根の部分の布切れだけが申し訳なさげに覆っているに過ぎない。
「どうした、こんなところでストリップか?」
「違うわよ、バカぁ!!」
「さっきはさっきでパンツを見せてくれたし、お前って露出願望があるんだな」
「そんな訳ないでしょ! いいからこっち見ないで!」
「いやあ……下手に全裸でいるよりもよっぽど刺激的だぞその格好。思春期の俺にとっては眼福この上ない光景だ」
「見ないでって言ってるでしょ!……ううっ……うう……」
ついにはその場に蹲り、ふるふると肩を振るわせた。
ちょっと、苛めすぎたかな……?
触手に絡まれた際、少なからず消化液を浴びたようで、それに伴って橘が着ていた服の腐食も少なからず影響があった。完全に服を
溶かすほどでもないが、繊維が持っている化学的及び物理的結合は確実に強度を弱めていた。加えてさっきの強風が致命傷となって、
服はボロボロに破けた。
……あの後、目に涙を浮かべながら橘は見解を語ってくれた。両手を押さえたまま、斬り落とされた触手の山に再び蹲りながら。
そして橘は、俺にある要求をしてきた。それは『服、貸しなさい』というものだ。
確かにその格好じゃ次の村にはいけないだろうし(俺は全く困らんのだが)、触手を巻いていくわけにもいくまい。
いいものを見せてもらったしちょっと苛めすぎたし、何より可愛そうだ。だから俺は素直に自分の装着物を貸してあげることにした。
溶かすほどでもないが、繊維が持っている化学的及び物理的結合は確実に強度を弱めていた。加えてさっきの強風が致命傷となって、
服はボロボロに破けた。
……あの後、目に涙を浮かべながら橘は見解を語ってくれた。両手を押さえたまま、斬り落とされた触手の山に再び蹲りながら。
そして橘は、俺にある要求をしてきた。それは『服、貸しなさい』というものだ。
確かにその格好じゃ次の村にはいけないだろうし(俺は全く困らんのだが)、触手を巻いていくわけにもいくまい。
いいものを見せてもらったしちょっと苛めすぎたし、何より可愛そうだ。だから俺は素直に自分の装着物を貸してあげることにした。
「……何、これ」
「着ないのか?」
「……これを着ろっていうの? あたしが?」
「よこせといったのはお前だろ。それともすっぽんぽんで次の村に行く気か?」
「そんなわけないけど、でもこれ……」
「俺なりの配慮なんだがな。また襲われたら、今度は着るものすらなくなっちまうぞ。それでもいいのか?」
「……わかったわよ、着ればいいんでしょ。着れば。……もう」
「着ないのか?」
「……これを着ろっていうの? あたしが?」
「よこせといったのはお前だろ。それともすっぽんぽんで次の村に行く気か?」
「そんなわけないけど、でもこれ……」
「俺なりの配慮なんだがな。また襲われたら、今度は着るものすらなくなっちまうぞ。それでもいいのか?」
「……わかったわよ、着ればいいんでしょ。着れば。……もう」
さて、俺が橘に何を着せたかお分かりだろうか。『衣服』じゃないのがポイントだ。
お、そろそろ着替え終わったみたいだ。では姿を拝見しようとするか。
お、そろそろ着替え終わったみたいだ。では姿を拝見しようとするか。
「……ちょっと」
どうした?
「擦れて痛いんだけど……」
我慢しろ。嫌ならその辺に落ちてる木の葉でも身につけるか? 俺は構わんが、はっきり言って丸見えだぞ」
「ううう……わかりましたよ、我慢します」
不承不承ながらも橘は了解した。
「ところで、どこか擦れるんだ? 男性用だから全体的に大きめで擦れる部分なんて……ああ、そうか。男性より女性の方が大きいと
い、あそこだろ?」
「……っな! 違うわよ! 胸は擦れてないわよ!」
まだ何も言ってないんだが……
「うっ……誘導尋問なんて汚い!」
誘導尋問以前の問題だ。それにな橘、ちゃんと自分のを見てから物を言え。お前の胸は擦れるほど大きくないだろうが。
「……っ!!!」
痛ってえ! 蹴るな!!
「あなたが変なこと言うからでしょ! このっ! このっ!!」
わ、悪かったって、謝る謝る。だから止めよう、な? それにあんまりその格好で足をおっぴろげると、その、丸見えだぜ?」
「うっ……村についたら覚えてなさいよ……」
いやだ、忘れる。
どうした?
「擦れて痛いんだけど……」
我慢しろ。嫌ならその辺に落ちてる木の葉でも身につけるか? 俺は構わんが、はっきり言って丸見えだぞ」
「ううう……わかりましたよ、我慢します」
不承不承ながらも橘は了解した。
「ところで、どこか擦れるんだ? 男性用だから全体的に大きめで擦れる部分なんて……ああ、そうか。男性より女性の方が大きいと
い、あそこだろ?」
「……っな! 違うわよ! 胸は擦れてないわよ!」
まだ何も言ってないんだが……
「うっ……誘導尋問なんて汚い!」
誘導尋問以前の問題だ。それにな橘、ちゃんと自分のを見てから物を言え。お前の胸は擦れるほど大きくないだろうが。
「……っ!!!」
痛ってえ! 蹴るな!!
「あなたが変なこと言うからでしょ! このっ! このっ!!」
わ、悪かったって、謝る謝る。だから止めよう、な? それにあんまりその格好で足をおっぴろげると、その、丸見えだぜ?」
「うっ……村についたら覚えてなさいよ……」
いやだ、忘れる。
……というわけで。
肌の上に直接革の鎧を着るというかなりマニアックな服装をした橘京子は、俺の後ろをしぶしぶと歩きながら次の村を目指すのだっ
た。
そして、その次の村で、恐るべき予言を聞くことになるなど、考えもしなかった。
この時は、まだ。
肌の上に直接革の鎧を着るというかなりマニアックな服装をした橘京子は、俺の後ろをしぶしぶと歩きながら次の村を目指すのだっ
た。
そして、その次の村で、恐るべき予言を聞くことになるなど、考えもしなかった。
この時は、まだ。
「そういやお前、なんであの村を目指しているんだ?」
あの後、特に何事もなく森を抜けた俺は、視界の先に広がる集落を目にして何となく問い掛けた。
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。実は、あの村にはよく当たることで有名な占い師がいるんです。その人に遭って、あたし
達の今後の方針を伺おうと思っているのです」
今後の方針って、大魔王を倒して佐々木を救出するんだろ。それ以外に何があるんだ?
「最終的にはそうですけど、でも単にそのまま乗り込んだところで返り討ちにあっちゃうわ。ゲームだって最終ボスを倒すためには細
かい事件を解決し、魔王の幹部を倒し、伝説の武器防具を手に入れた後、魔王の城に乗り込むでしょ。それと一緒。占い師の言葉に従
い、あたし達がすべきことを見出すの。わかった?」
ああ、わかったが、これだけは言わせてくれ。
「何?」
俺はふうと溜息一つつき、予言とやらに対する懐疑心と予言に振り回されそうな未来に対し、自嘲気味にお決まりの台詞を吐いた。
「やれやれ」
あの後、特に何事もなく森を抜けた俺は、視界の先に広がる集落を目にして何となく問い掛けた。
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。実は、あの村にはよく当たることで有名な占い師がいるんです。その人に遭って、あたし
達の今後の方針を伺おうと思っているのです」
今後の方針って、大魔王を倒して佐々木を救出するんだろ。それ以外に何があるんだ?
「最終的にはそうですけど、でも単にそのまま乗り込んだところで返り討ちにあっちゃうわ。ゲームだって最終ボスを倒すためには細
かい事件を解決し、魔王の幹部を倒し、伝説の武器防具を手に入れた後、魔王の城に乗り込むでしょ。それと一緒。占い師の言葉に従
い、あたし達がすべきことを見出すの。わかった?」
ああ、わかったが、これだけは言わせてくれ。
「何?」
俺はふうと溜息一つつき、予言とやらに対する懐疑心と予言に振り回されそうな未来に対し、自嘲気味にお決まりの台詞を吐いた。
「やれやれ」
村は、至って普通の村だった。
村というだけあって最初にいた町と比べて見劣りはするものの、それでも露店が建ち並び、そこそこの活気を見せていた。行き交う
人も傭兵や司祭、魔法使いといった町から町へと移動する旅人の他、猟師や農家と言ったこの地で住まい生計を立てているもの。様々
だ。
こんなところに高名な占い師がいるのだろうかね、本当に。
「います。大丈夫。あなたは信じてくださればいいのです」
質素な貫頭衣の他に、革の胸当てに革の手袋、そして革のブーツに身を包んだ橘京子が自身満々に答えた。これらの装備品は先ほど
の露店で調達したものである(もちろん俺が買いに行かされた)。魔法で強化されたという掘り出し物のローブが同価格で売られてい
たが、革の製品を選んで購入したあたりさっきの一件がよほど身に染みたのだろう。
そういえば上着は沢山買い込んだのだが下着はどうしたんだろうね。ちゃんと身に付けた方がいいぞ。
「……あ、あそこ、あそこなのです」
親心子知らず、と言う訳でもないのだろうが、橘はせっかく心配してあげている俺の気持ちを真摯に無視し、自分が探していた占い
師がいる建物を探し当てた。
そこは石で造られた、牛小屋程度の建物だった。特徴的なのはドーム状の造りで、石造イグルーと言った感じだ。ざっと見渡したと
ころ、通りとは反対の位置に人一人が何とか通れるくらいの入り口があった。当然ここからでは真っ暗で様子を伺うことができない。
「本当にここなのか? 有名な占い師にしては行列すらないじゃないか」
「有名だから、人気があるからと言ってそこに集中する。いかにも俗物っぽい考えだわ。ガイドブックや人の噂のみを信じてちゃ真実
は見えてこないわ。ウラを押さえて行動するのは重要なことよ」
じゃあお前はこの占い師が言うことは間違いないって言い切れるのか?
「間違いありません。今からそれを証明して見せるわ。さ、行きましょう」
……ったく。
村というだけあって最初にいた町と比べて見劣りはするものの、それでも露店が建ち並び、そこそこの活気を見せていた。行き交う
人も傭兵や司祭、魔法使いといった町から町へと移動する旅人の他、猟師や農家と言ったこの地で住まい生計を立てているもの。様々
だ。
こんなところに高名な占い師がいるのだろうかね、本当に。
「います。大丈夫。あなたは信じてくださればいいのです」
質素な貫頭衣の他に、革の胸当てに革の手袋、そして革のブーツに身を包んだ橘京子が自身満々に答えた。これらの装備品は先ほど
の露店で調達したものである(もちろん俺が買いに行かされた)。魔法で強化されたという掘り出し物のローブが同価格で売られてい
たが、革の製品を選んで購入したあたりさっきの一件がよほど身に染みたのだろう。
そういえば上着は沢山買い込んだのだが下着はどうしたんだろうね。ちゃんと身に付けた方がいいぞ。
「……あ、あそこ、あそこなのです」
親心子知らず、と言う訳でもないのだろうが、橘はせっかく心配してあげている俺の気持ちを真摯に無視し、自分が探していた占い
師がいる建物を探し当てた。
そこは石で造られた、牛小屋程度の建物だった。特徴的なのはドーム状の造りで、石造イグルーと言った感じだ。ざっと見渡したと
ころ、通りとは反対の位置に人一人が何とか通れるくらいの入り口があった。当然ここからでは真っ暗で様子を伺うことができない。
「本当にここなのか? 有名な占い師にしては行列すらないじゃないか」
「有名だから、人気があるからと言ってそこに集中する。いかにも俗物っぽい考えだわ。ガイドブックや人の噂のみを信じてちゃ真実
は見えてこないわ。ウラを押さえて行動するのは重要なことよ」
じゃあお前はこの占い師が言うことは間違いないって言い切れるのか?
「間違いありません。今からそれを証明して見せるわ。さ、行きましょう」
……ったく。
石造りの中は、まるで洞窟のようにひんやりとしていた。明かりは何もなく、真っ暗で何も見えない。松明でも持ってくればよかっ
たな。
「そんなに広いところじゃないから必要ないと思いますけど」
いや、確かにそうなんだが、何も見えないのは不安だ。
「……そう、ね。まるで誰もいないみたい……」
暗闇に支配された部屋は、俺の想像以上に広く感じた。何も見えないからこそ目の錯覚が生じ始めているのだろうが、しかし圧倒的
な闇の前では『目の錯覚』という言葉だけで事を片付けられるようには思えない。錯覚こそが錯覚であり、幻影は本物……うん、何を
言ってるのかわからなくなってきた。
「す、すみません、誰かいませんかぁ~」
橘の問い掛けが辺りに反響する。暫く耳を澄ませてみるが、帰ってくるのは橘の声ばかり。誰もいないのか?
「そんなはずはないんですけど、でも返答がないってことはそうなのかも……どうしましょう?」
時間を改めてまた来たらいいだろ。
「うーん、そうですね。仕方ありませんね……はあ」
息を漏らす声が聞こえた。不在だったことがそんなにショックなのかね。いないんだから仕方ないだろう。このままここに居座って
不法滞在でしょっぴかれるよりはマシだ。
急いては事を仕損じる、急がば回れ、ってね。じっと待つことも必要なのさ。
「――――その必要は……ない――――ー」
『へ?』
声は、突如として響き渡った。
たな。
「そんなに広いところじゃないから必要ないと思いますけど」
いや、確かにそうなんだが、何も見えないのは不安だ。
「……そう、ね。まるで誰もいないみたい……」
暗闇に支配された部屋は、俺の想像以上に広く感じた。何も見えないからこそ目の錯覚が生じ始めているのだろうが、しかし圧倒的
な闇の前では『目の錯覚』という言葉だけで事を片付けられるようには思えない。錯覚こそが錯覚であり、幻影は本物……うん、何を
言ってるのかわからなくなってきた。
「す、すみません、誰かいませんかぁ~」
橘の問い掛けが辺りに反響する。暫く耳を澄ませてみるが、帰ってくるのは橘の声ばかり。誰もいないのか?
「そんなはずはないんですけど、でも返答がないってことはそうなのかも……どうしましょう?」
時間を改めてまた来たらいいだろ。
「うーん、そうですね。仕方ありませんね……はあ」
息を漏らす声が聞こえた。不在だったことがそんなにショックなのかね。いないんだから仕方ないだろう。このままここに居座って
不法滞在でしょっぴかれるよりはマシだ。
急いては事を仕損じる、急がば回れ、ってね。じっと待つことも必要なのさ。
「――――その必要は……ない――――ー」
『へ?』
声は、突如として響き渡った。
――勇者よ、虚空より導かれし勇者よ。真の力を解放するのです――
――混沌より現れし陰と陽。行き場を失った彼の者が、今正に暴走しようとしています――
――木々は枯れ、水は濁り、そして光は途絶え……やがて世界は滅亡するでしょう――
――そうなる前に、彼の者を虚空へと還すのです。あなたにはその力があります――
――だけど、焦ってはいけません。まずは五行を探すのです――
――五行は、必ずやあなたの力の拠り所になるでしょう――
――混沌より現れし陰と陽。行き場を失った彼の者が、今正に暴走しようとしています――
――木々は枯れ、水は濁り、そして光は途絶え……やがて世界は滅亡するでしょう――
――そうなる前に、彼の者を虚空へと還すのです。あなたにはその力があります――
――だけど、焦ってはいけません。まずは五行を探すのです――
――五行は、必ずやあなたの力の拠り所になるでしょう――
『あっ……』
暖かい女性の言葉が聞こえたかと思うと、突然辺りが光に灯された。
無限の広さを誇るかと思われたここは、確かに石造りのドームの中だった。部屋の隅、五ヶ所に配置された燈篭の光が辺りを照らし
それを証明した。
不思議なのはこの光の色。赤や黄色の他に、青や緑、果ては茶色の光がそれぞれ燈篭で煌々と照り、この部屋をより幻想的に演出し
ている。
床には五芒星が描かれている。五つの頂点はそれぞれ色が異なり、それぞれの色は頂点にある燈篭の光と同じ色。俺と橘がいたのは
その五芒星の中心……つまり部屋の中央だった。
そして、俺達の前にいた一人の人物。
妖艶な色で光る水晶の前に立つ彼女こそ、橘の言う占い師に違いない。
彼女は両手を不規則に動かし水晶を操っていたようだが、俺達の視線に気づくと動きを止め、そして立ち上がった。
暖かい女性の言葉が聞こえたかと思うと、突然辺りが光に灯された。
無限の広さを誇るかと思われたここは、確かに石造りのドームの中だった。部屋の隅、五ヶ所に配置された燈篭の光が辺りを照らし
それを証明した。
不思議なのはこの光の色。赤や黄色の他に、青や緑、果ては茶色の光がそれぞれ燈篭で煌々と照り、この部屋をより幻想的に演出し
ている。
床には五芒星が描かれている。五つの頂点はそれぞれ色が異なり、それぞれの色は頂点にある燈篭の光と同じ色。俺と橘がいたのは
その五芒星の中心……つまり部屋の中央だった。
そして、俺達の前にいた一人の人物。
妖艶な色で光る水晶の前に立つ彼女こそ、橘の言う占い師に違いない。
彼女は両手を不規則に動かし水晶を操っていたようだが、俺達の視線に気づくと動きを止め、そして立ち上がった。
「――やっと…………会えた――――」
「九曜!?」
「九曜さん!?」
「九曜さん!?」
占い師――周防九曜は、漆黒の瞳でこちらを見つめていた。