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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 騎士と姫君-10

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「眠れる少年と黒犬のギャロップ」


 学校町、北区のはずれ。
 突如現われた仮面ライダーと名乗る人物、そして以前見かけたあの青年に後を任せ、彼女たちは巨大な黒犬――都市伝説「ブラックドッグ」であるザクロの背にまたがっていた。
 ひとたびその背に跨ればザクロはたちまち飛ぶ様に野を駆け、いつしか目の前に広がるのは田畑ではなく家々や学校が立ち並ぶ地区となっていた。
 加えて「パレードや一般人から自分達の姿を見られるのを避けるため」と、ザクロは林や障害物をうまく利用して足を止める事無く前へと進み続ける。
 その結果、だいぶ遠回りにはなったものの当初の目的である東区はもう目前となっていた。

『もうすぐアナタ様のお宅に着きますわ。お辛いでしょうが、もう少しだけ耐えてくださいまし』

「いいえ! むしろ手間をかけさせてしまって、すみません!」

 申し訳なさそうに述べる雌犬に、逆風に負けない様声を張り上げる。
 彼女の言葉は耳に入るのではなく直接声が脳裏に流れ込んでくる、いわゆる「テレパシー」だ。
 その為、走りながらでもザクロは淀みなく自らの意思をこちらに伝える事ができるのだった。

『犬たるもの、主人から命じられた事はきちんとこなすのがワタクシの信条ですわ! ですからアナタ様も、そう畏まらないでくださいまし!』

 そう誇らしげにザクロは語りかけてくる。
 走るのが得意なのだと道中聞いてはいたものの、それでも背中に自分達を乗せたまま走らせ続けている現状には何とも申し訳なく感じてしまう。

「しかしあなたの主人は私達のせいで「あれ」と戦っているというのに、私達を逃がす為にあなたまでお借りしてしまって……」

『何を仰いますの、ワタクシ達はもともとアレと戦う為に来たんですのよ』

 しょんぼりとうつむく彼女に、ザクロは明るく答えてみせる。

『今回の≪夢の国≫の事は、以前からワタクシ達や契約者様方の間で話題に上っていましたの。
 ですからこの日の為、ワタクシ達は万全の準備をしてきましたわ』

「≪夢の国≫?」

『ええ、よろしいですか?――』

 そうしてザクロは語り始める。
 今回の祭りの裏に隠された作戦、多発する失踪事件の真相、襲い来る着ぐるみたちと黒の集団、そして数日前に出回った≪夢の国≫の襲撃を知らせる張り紙――それらがすべて≪夢の国≫に繋がるという事実に、彼女はただ耳を傾けるしかなかった。

『ですから今ワタクシ達が戦わなければ、いずれ学校町は乗っ取られてしまいますわ。
 それを防ぐ為、そしてこの町の住人の方々をお守りするのがワタクシ達の使命ですの』

「守る為……」

『アナタ様にも、今はお守りすると決めた方がいらっしゃるのでしょう?』

 ザクロの穏やかな声に、思わず少年を抱く腕に力がこもる。
 走り続けて疲れたのだろう、少年は彼女に寄りかかってすうすうと寝息を立てていた。
 それでも先程までしばらく『鮫島事件』という都市伝説について電話をかけていたのだが、それらが済むと意識を失うように少年はまぶたを閉じたのだった。

 『鮫島事件』、正直それの本質はあまり理解できていないものの、とにかくそれに対抗する為には「嘘を信じなければいいだけだ」と少年は話していた。
 騙されやすい自分の事、知らなければ肝心に信じ込んでいたかもしれない。
 それ故、彼女は少年と情報をもたらした人物に心底感謝していた。
 それについてはとりあえず何とかなったとして、今は再び目の前の事を考えねばならないと彼女は考え込んでいた。

「私も……本当なら戦うべきなのでしょうね」

『失礼ながら、ワタクシそうとは限らないと思いますわ』

 うつむく彼女に、意外にもザクロはぴしりとした答えを返す。

『戦う事も守る事も、決して誰かに強いられてする様な事ではないでしょう? 仮にその様な理由が動機だったとしても、それはあまりに辛すぎますもの』

 だから中途半端な決意で戦いに臨んではいけない、そう語るザクロの言葉は、迷いを抱いていた彼女の心を強く揺さぶった。
 この少年を守りたいという気持ち、それは確かに誰かに強要されたものではない。
 あくまで自分がそうしたいと望んで決心した事だ。
 ザクロも、後を託してきたあの二人も、つたない手つきで懸命に電話をかけていた少年も、皆もしかしたらそういった理由があるのだろうか――。

『さあ、この建物を超えればアナタ様のお宅が見えますわ! しっかり掴まっていてくださいまし!』

「は、はい! ……え、超える?」

 その言葉にいくばくかの不安を覚えたものの、直後にザクロがスピードを加速させた為それを聞くどころでもなく、少年を抱えしっかりとザクロの背を両手で掴む。
 それを確かめるとザクロは地を蹴って高く飛び上がった。
 二階、三階――眼下を流れていく窓を数えたかと思えば、気が付けばすでに彼女らはアパートの屋上に降り立っていた。

『さあ、お待たせ致しました! 到着で――』

 明るい声でそう告げるザクロの声は、顔を上げた途端突如として途切れてしまった。
 何事かと首を伸ばしてみれば、視界に飛び込んできた光景に彼女もまた目を見張った。

 それは……まるで空襲か大地震でもあったのかという様な有様であった。
 かつては多くの住宅やアパートなどが軒を連ねていた区画、それがまるまる瓦礫の山に変貌している。
 家々は倒壊し、道路はひび割れ、しまいには隕石でも落下したのかというクレーターが出現し――とにかく、一体全体何があった。

『ひ、ひどい……≪夢の国≫、許せませんわ……!』

 ふるふると怒りに身を震わせるザクロの一方、彼女はしばし呆然と目の前の光景を眺めるしかなかった。
 これは現実なのだろうか。
 はたまたザクロが間違えて西地区に来てしまったのではないかと、思わず逃避寄りの思考が頭を駆け巡り消えていく。
 しかし目印であるすぐそばの中学校が目に入り、やはりこれは現実なのだと改めて呆然とせざるをえなかった。
 だがその付近の路地を白い着ぐるみが率いる黒いパレードが横切る光景が眼に入った瞬間、ごちゃごちゃとした思いが一瞬で霧散した。

「ザクロさん、あれ!」

『出ましたね……≪夢の国≫の住人たち!』

 低い声でそう叫ぶやいなや、たちまちザクロは空へと身を躍らせる。
 そして軽やかに地に降り立つと、その反動すらもスピードへと変えて一目散に黒い集団へと駆け出した。
 先程とは比べ物にならないスピードの風圧に耐えつつ、近づいてくる行列に何とか目を凝らす。

「ザクロさん! こ、子供たちが! 連れ去られそうになってます!!」

『なんですって!!!』

 すさまじい加速の中かろうじて見えたのは、子供を抱え上げてどこかへ移動する異形たちの姿だった。
 白いウサギが率いる異形の数は今までと比べれば少ないものの、各々その手や頭上には幼い子や小学生ぐらいの子供が抱えられ、十数人程の人影が伺える。

『何という事でしょう、ヤツらはきっとあの子達を≪夢の国≫へ連れ去るつもりですわ! そうなれば……ああ、口にするのも恐ろしい!
 その様な酷い事、たとえお月様が許してもワタクシは許しませんわ!! 覚悟なさい≪夢の国≫!!!』

「ちょっ、ザクロさわああああ!!?」

 黒い巨体は西日を照り返して鈍くきらめき、血の様に赤い瞳はらんらんと輝いている。
 極めつけには開いた口の端からめろめろと紅の炎がちらついており……今やザクロは地獄の魔犬もかくやという形相で、パレード目掛けて突進していた。
 幸いその姿は彼女から確認できなかったものの、あまりの勢いにもはや口を開く事すら難しく、せめてもと未だ夢の中にいる少年を抱きしめる。
 すさまじい形相でぐんぐん近づく黒犬にパレードもようやく気づいたのだろう、しかしザクロのあまりの迫力からかすぐさま背を向け退散しようとしたのだが――。

『お・待・ち・な・さあああああい!!!!』

「!!!!」

 ひぃ、と言わんばかりにパレード全体がざわめいた。
 そんな状態で怒れる黒犬を止められるわけも無く、まっしぐらに飛び込んできた黒い弾丸に住人達は成す術も無く弾き飛ばされた。
 わたわたと子供達をかついだまま迷走を始める者もいる。
 その勢いで住人達をかきわけ、尻餅をついた白ウサギにザクロが迫ろうとした、まさにその時。

 牙を剥き、恐ろしいうなり声と共に黒い影が目の前に飛び込んできたのだ。

 それはまるでスロー再生を見ているかのような光景だった。
 黒いたてがみ、ぎらつく緑の眼、左目部分に残る大きな傷跡――恐ろしい形相の雄ライオンが迫ってくるのがはっきりとわかる。
 避けなければ、ザクロに早く伝えなければと頭は働くものの、一向に身体は反応を示さない。
 早く、早くしなければ……!
 その焦りと裏腹に、目の前の光景はじりじりと進み続ける。
 鋭い爪を供えた大きな右の前足が振り上げられ、ザクロの頭に向けて振り下ろされる――次の瞬間、彼女は宙に投げ出されていた。
 傍に建つ校舎が落とす影の中に倒れ伏すザクロとそれを見下ろすライオン、それらがどんどん遠ざかっていく。
 黒い集団が上に、茜色の空は下に、世界が回る中で彼女はしっかりと少年を抱きしめ、叫んだ。

「ホロウさん!!」

 右手に地面が迫り、来るであろう衝撃にぎゅっと目をつぶった瞬間、逞しい腕が彼女を受け止めていた。
 恐る恐る瞼を開けば、目に入るのは火を吹く双頭のドラゴンが象られた、見事な鎖の鎧。
 いつか見たその光景、それはまさしく彼の人でしかない。

「ホロウさん! 来てくれたんですね!」

「…………」

 地面に接触する間際に呼びかけに答えて騎士は現われ、見事彼女達を受け止めていた。
 日暮れが迫り、昼の影響が少なくなった事でようやく首無しの騎士は彼女の傍らに姿を現したのだった。
 見れば日に当たった際のダメージはまだ癒えきってはいないようではあるものの、普段と何ら変わらない様子で現われた騎士の姿に彼女の心細さは吹き飛んでいた。
 しかしはたと我に返ってみれば、今の体勢が非常にまずい事に気が付く。

「あの、と、とりあえず降ろしてもらえませんか……えっと、こ、この状態結構辛いんですよ」

 そう言って示してみせたのは、ようやく目を覚ましたのか眠たげに目元をこする少年。
 彼女が少年を抱えた状態でさらに騎士が彼女を横抱きするという、端から見ても何とも厳しい体勢である。
 それを察してか、さすがに今回は騎士も素直に降ろしてくれて彼女は密かに息をついた。

「うー……おねーちゃんと騎士さま、おはようございます」

「お、おはようございます……」

「…………」

 起き抜けだからか、それとも周りの状況など気にも留めていないのかという少年の様子に思わずこちらも一瞬気が抜けてしまう。
 あれ、そういえば少年はこの騎士の事を知って――

『お二人ともご無事ですか?!』

「ざ、ザクロさん!?」

 その途端脳裏に飛び込んでくるザクロの声に思わず振り向く。
 そこには先程襲い掛かってきたライオン(どうやらあれで着ぐるみらしい、すさまじい迫力だった)とにらみ合い、唸り声を上げるザクロの姿があった。
 息は荒いものの、幸いにも怪我らしい怪我は負っていない様に見受けられた。

『ワタクシがこの獣もどきめを引き付けます! ですから、その間に早く子供達を助けてあげてくださいまし!』

 その言葉に辺りを見回せば、いつの間にか子供たちを担いだ異形たちは姿を消していた。
 周りに残るのはこのライオンが連れて来たのであろう新たな異形たちであり、それは今もじりじりとこちらを伺っている。

『あの白ウサギはあちらの路地に逃げましたわ! お早く……きゃっ!』

 これ以上は言わせまいとばかり、ライオンが先手を打ってザクロに飛び掛った。
 負けじとザクロもライオンの爪をかいくぐり、急所である喉元を狙って牙を剥く。
 周りの異形たちも加勢しようというのか様子を伺いはするが、どちらも互角の体格である二頭の争いに全く手を出す余地は無い。
 たったひと時とはいえ、激しくぶつかり合う闘気に異形たちはこちらから注意をそらしたのだ。

 彼女が騎士を見つめ、頷く。
 そうして騎士が後ろを顧みた瞬間、影の中に二つの赤い光が瞬いた。

 ヒヒィィィィン――!!

 いななきと共に影から現われたのは、あの黒犬に負けず劣らず見事な毛並みの黒馬である。
 首なし騎士の騎馬――デアデビルは鼻息荒く、わき目もふらず一目散に主人の下へ馳せ参じた。
 運悪く道中にいた異形たちは、あるものはその巨体に弾き飛ばされ、あるものは踏みつけられる。
 圧倒的な重量、そしてその存在感に黒い集団はたまらず道をあけた。

「ザクロさん、無理だけはしないでください! 本当に危なくなったら、私達に構わず逃げてください!」

 そうザクロに呼びかければ、唸りながらも彼女はぱたりと一度だけ尾を振った。
 答える余裕も無いのか、それでも「確かに聞き届けた」という返事だったのだろう。
 しかし次の瞬間またライオンに踊りかかり、見事首の後ろに食らい付いてみせる。
 すかさずライオンはザクロを振り落とそうとするものの、がっちり食い込んだ牙はそう簡単に外れるものではない。
 しまいには悲鳴とも取れる吼え声をあげるが、当然ザクロはその顎を緩める様子はない。
 案外、あの雌犬は心配するまでもないのかもしれない。

「うー、おねーちゃん早く!」

 すでに馬上の人となった騎士と少年の手を借り、自らもデアデビルの背にまたがるとすかさず馬は早足で走り出す。
 ……乗った時明らかに不満げな鼻息を聞いた気がするが、きっと気のせいだろう、うん。

「白いウサギさんあっち! うー、逃げちゃう!」

 少年が指差した先、わたわたと走る白ウサギがまさにこちらを振り返っていた。

「ホロウさん!」

 騎士が力強く腹を蹴ると、デアデビルは弾かれた様に駆け出した。
 その様子に驚いたのか、たまらず白ウサギもばたばたと走り去ろうとする。
 しかし馬とウサギでは、その差はあまりにも大き過ぎた。

「うううー!! お馬さんはやーいー!!」

 つかの間の全力疾走に少年が歓声を上げる。
 馬の全力疾走はそのスピードと振動の激しさに大人でもなかなか恐ろしい思いをする者もいるというが、初めてのはずの少年にそんな様子は欠片も見受けられない。
 なかなかこの子は肝が据わっているのか、それとも……とそんな事に思いが及ぶが、すぐ傍に迫る白ウサギを認めると慌てて視線を前に戻した。
 先程は500mほどの距離だったのが、それがデアデビルの疾走によってたった一瞬で目と鼻の先まで縮まってしまったのだ。
 おもむろに騎士は剣を抜き放ち、左手で手綱を、右手でしっかりと剣の柄を握って構える。
 もちろんその位置はちょうど白ウサギの首の高さである。

「うー! そこ曲がった!」

「し、しぶといですね!」

 もう少しで剣の範囲に入るという距離で、突如白ウサギの姿が消えた。
 最後の悪あがきなのか、角を曲がったらしい。
 すかさず騎士が手綱を引き、デアデビルに後を追わせる。
 周りにぶつからない様スピードを抑えつつも勢いよくカーブを切れば、目の前に広がるのは路地のみで。

 え、と声をあげようとした次の瞬間、彼女の視界が暗転した。



 西日が差し込む路地に人の姿はなく、そこにあるのはどこに通じるとも知れぬ巨大な穴のみ。
 ウサギを追って穴に落ちたのは――。




<To be...?>



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