【上田明也の協奏曲15~極楽鳥が舞う野には~】
バイク――それ程高級でない物―――を一台用意しよう。
小粋な曲―――そうだテクノが良い―――を鼻歌で歌おう、それは既にテクノじゃないが。
センスの良い武器を一つ――MP7をブリーフケースに入れて――持っていこう。
今の自分にはそれが丁度良い。
赤い部屋から出て外を見ると太陽が昇っており、時刻はすっかり昼過ぎになっていた。
サンジェルマンはどうせハーメルンの笛吹き相手に苦戦しているに違いない。
奴は戦闘において甘いのだ。
戦闘から遠ざかるを得ないというハンデは有るがそれにしても甘いのだ。
スイートな彼にはメルという特上のビターポイズンを相手にすることは出来ない。
……どうやらあの子供の口癖が移ったようだ。
気を取り直して探偵事務所を出ようとすると留守番をしていた向坂に呼び止められた。
何時から居たのだこいつ。
「生きていたのですか所長、大怪我したと聞いていたんですが。」
「なんだ、俺が死んだとでも思ったかい?」
「いや、このまま所長が死んだら給料どうなるかなあと……。」
「そんなことを気にしていたのか?
愛する俺の危機に胸を痛めていた訳じゃないのか。
これでも俺ってモテモテなんだぜ?」
元気であることを見せる為に戯けてみせる。
俺は誰にも心配されてはいけない。
「でしょうね、所長の傍に居られる人間に、愛される人間になれれば……。
それはそれは人生の特等席ですから。」
あははと笑う向坂。
「特等席かあ……。そこでは何のショーが始まるんだい?」
「観客のリクエストでしょう?」
「成る程、間違いではない。」
「行ってらっしゃい。」
「行って来ます。依頼に来た人の連絡先だけメモっといて。
内容はあまり深く聞かなくても良い。」
向坂はまるで当たり前のように俺を送り出してくれた。
小粋な曲―――そうだテクノが良い―――を鼻歌で歌おう、それは既にテクノじゃないが。
センスの良い武器を一つ――MP7をブリーフケースに入れて――持っていこう。
今の自分にはそれが丁度良い。
赤い部屋から出て外を見ると太陽が昇っており、時刻はすっかり昼過ぎになっていた。
サンジェルマンはどうせハーメルンの笛吹き相手に苦戦しているに違いない。
奴は戦闘において甘いのだ。
戦闘から遠ざかるを得ないというハンデは有るがそれにしても甘いのだ。
スイートな彼にはメルという特上のビターポイズンを相手にすることは出来ない。
……どうやらあの子供の口癖が移ったようだ。
気を取り直して探偵事務所を出ようとすると留守番をしていた向坂に呼び止められた。
何時から居たのだこいつ。
「生きていたのですか所長、大怪我したと聞いていたんですが。」
「なんだ、俺が死んだとでも思ったかい?」
「いや、このまま所長が死んだら給料どうなるかなあと……。」
「そんなことを気にしていたのか?
愛する俺の危機に胸を痛めていた訳じゃないのか。
これでも俺ってモテモテなんだぜ?」
元気であることを見せる為に戯けてみせる。
俺は誰にも心配されてはいけない。
「でしょうね、所長の傍に居られる人間に、愛される人間になれれば……。
それはそれは人生の特等席ですから。」
あははと笑う向坂。
「特等席かあ……。そこでは何のショーが始まるんだい?」
「観客のリクエストでしょう?」
「成る程、間違いではない。」
「行ってらっしゃい。」
「行って来ます。依頼に来た人の連絡先だけメモっといて。
内容はあまり深く聞かなくても良い。」
向坂はまるで当たり前のように俺を送り出してくれた。
「さて、行こうか。」
気を取り直して今度こそ俺はメルの居場所に向かうことにした。
契約しているので何処に居るかは大体解る。
丁度、俺がバイクに跨りエンジンをかけた時だった。
「笛吹さん。」
「おやおや友ちゃん。」
「だからちゃんは……。」
「済まない、友。」
「良し。」
俺は友美に出会った。
妙な偶然だ。
気を取り直して今度こそ俺はメルの居場所に向かうことにした。
契約しているので何処に居るかは大体解る。
丁度、俺がバイクに跨りエンジンをかけた時だった。
「笛吹さん。」
「おやおや友ちゃん。」
「だからちゃんは……。」
「済まない、友。」
「良し。」
俺は友美に出会った。
妙な偶然だ。
「ところでもうすぐバレンタインなんだが、君の好きな子とはどうだい?」
「私の好きな人はみんなですからねえ……。」
「………ふむ、そうか。」
そういう少女なのだ。
「今まで出会ったみんなを平等に本気で愛せるならそれは素晴らしいことだと思いませんか?」
「全員を愛するのは誰も愛さないに等しい行為だ。」
「ナルホドね。」
「君の本当に好きな子にさっさと愛を告げたまえよ。
駄目でも俺が慰めてやる。」
「ありがとう、笛吹さん。でも愛するばかりが愛じゃないでしょう?」
俺は少しばかり驚いた。
まだ小学生である彼女がこんな良いこと言うなんて。
「まったくだな、一本とられたよ。」
やはり、心のゆがみは比較不可能な美しい黄金に昇華するのだなあ……と実感させられる。
「それより笛吹さん。またまた妙な物持っているじゃないか?」
「仕事道具だよ、只の。」
「またまた面倒ごと?本当にいつか限界が来るよ?」
「はは、俺ってドMなんだ。」
彼女は俺のことをどこまで知っているのだろう。
まあ友人なんだから幾ら知られても構わないのか?
「じゃあな。」
「生きて帰って来いよ、笛吹さん。」
「俺には似合わぬセリフだね。」
憎まれ口を叩いて俺は早々にその場を離れることにした。
「私の好きな人はみんなですからねえ……。」
「………ふむ、そうか。」
そういう少女なのだ。
「今まで出会ったみんなを平等に本気で愛せるならそれは素晴らしいことだと思いませんか?」
「全員を愛するのは誰も愛さないに等しい行為だ。」
「ナルホドね。」
「君の本当に好きな子にさっさと愛を告げたまえよ。
駄目でも俺が慰めてやる。」
「ありがとう、笛吹さん。でも愛するばかりが愛じゃないでしょう?」
俺は少しばかり驚いた。
まだ小学生である彼女がこんな良いこと言うなんて。
「まったくだな、一本とられたよ。」
やはり、心のゆがみは比較不可能な美しい黄金に昇華するのだなあ……と実感させられる。
「それより笛吹さん。またまた妙な物持っているじゃないか?」
「仕事道具だよ、只の。」
「またまた面倒ごと?本当にいつか限界が来るよ?」
「はは、俺ってドMなんだ。」
彼女は俺のことをどこまで知っているのだろう。
まあ友人なんだから幾ら知られても構わないのか?
「じゃあな。」
「生きて帰って来いよ、笛吹さん。」
「俺には似合わぬセリフだね。」
憎まれ口を叩いて俺は早々にその場を離れることにした。
メルの気配は神社の方角にあるようだ。
サンジェルマンも恐らく其処か……。
何かしらの人払いの術が為されていると考えても良いよな。
俺はバイクを走らせながら考え続けていた。
空は快晴、気持ちは曇天。
どうしてだろうこの感覚。
「さっさと行かないと……。」
とにかく今やるべき事は現場に急ぐことだ。
神社の近くの駐車場にバイクを止める。
真っ昼間だというのに人が居ない。
おかしな話だ。
そう思って辺りを見回している時だった。
「――――――!!」
真後ろから殺気が飛んでくる。
この直接突き刺すような殺気の特徴は……あいつだな。
そのまま真横に飛び跳ねると足下のアスファルトの水分が蒸発する。
俺の後ろには正義の味方―――明日真が立っていた。
サンジェルマンも恐らく其処か……。
何かしらの人払いの術が為されていると考えても良いよな。
俺はバイクを走らせながら考え続けていた。
空は快晴、気持ちは曇天。
どうしてだろうこの感覚。
「さっさと行かないと……。」
とにかく今やるべき事は現場に急ぐことだ。
神社の近くの駐車場にバイクを止める。
真っ昼間だというのに人が居ない。
おかしな話だ。
そう思って辺りを見回している時だった。
「――――――!!」
真後ろから殺気が飛んでくる。
この直接突き刺すような殺気の特徴は……あいつだな。
そのまま真横に飛び跳ねると足下のアスファルトの水分が蒸発する。
俺の後ろには正義の味方―――明日真が立っていた。
「笛吹き、何をやっているんだ?」
それはこちらのセリフである。
「ついに俺の都市伝説が暴走してね。今から殺しに行く。」
だが答える、俺って紳士だねえ。
俺が殺すという言葉を吐くととてつもなく嫌そうな顔をする。
なんて偽善者なのだろう。
「今回は人に被害を与えに来たって訳じゃないみたいだな……。」
「ああ、その通りだ。お前はどうしてここに?」
「いや、人が少なすぎるから何か有った物だとばかり……。」
「丁度良い、手伝えヒーロー。」
うわ、露骨に嫌な顔してやがる。
まあ正義の味方だから仕方がないか……。
だが、俺と手を組む以上にこの異常な事態を解決しなきゃいけない。
それがこいつの使命だ。
しばらく考え込んだ後、明日は俺と手を組むことを決めた。
「問題の元凶である俺の都市伝説はこの先だ。
あいつのことだから無関係の人々を操っているとおもうんだよ。
そいつらをお前に任せたい。」
「え?それ位お前だって……、ああできないな。」
「その通り、俺じゃあ間違えてしまう。」
「正義の味方であるお前ならなんとかなるだろう?
……とでも思っているのか?」
「解っているじゃないか。」
遠目に神社の境内を見回す。
小山が一つ出来ているがあれはなんだろう?
俺達二人は軽口を交わし合いながら神社の境内に入った。
それはこちらのセリフである。
「ついに俺の都市伝説が暴走してね。今から殺しに行く。」
だが答える、俺って紳士だねえ。
俺が殺すという言葉を吐くととてつもなく嫌そうな顔をする。
なんて偽善者なのだろう。
「今回は人に被害を与えに来たって訳じゃないみたいだな……。」
「ああ、その通りだ。お前はどうしてここに?」
「いや、人が少なすぎるから何か有った物だとばかり……。」
「丁度良い、手伝えヒーロー。」
うわ、露骨に嫌な顔してやがる。
まあ正義の味方だから仕方がないか……。
だが、俺と手を組む以上にこの異常な事態を解決しなきゃいけない。
それがこいつの使命だ。
しばらく考え込んだ後、明日は俺と手を組むことを決めた。
「問題の元凶である俺の都市伝説はこの先だ。
あいつのことだから無関係の人々を操っているとおもうんだよ。
そいつらをお前に任せたい。」
「え?それ位お前だって……、ああできないな。」
「その通り、俺じゃあ間違えてしまう。」
「正義の味方であるお前ならなんとかなるだろう?
……とでも思っているのか?」
「解っているじゃないか。」
遠目に神社の境内を見回す。
小山が一つ出来ているがあれはなんだろう?
俺達二人は軽口を交わし合いながら神社の境内に入った。
神社に入るとそこにはハーメルンの笛吹きの能力で操られたと思しき少年少女が大量に集まっていた。
「ふふ、さっそく仕事だ正義の味方。善良な市民共を精々保護していろ。」
こいつは面白そうだ。
奴の正義の味方っぷりを堪能させてもらうのも悪くない。
「言われなくてもだよ。邪魔するなよ?」
「出来る限り頑張る。」
「あと、うちの黒服がお前に怒ってたぞ。」
「知ってる。」
「それじゃあさっさと殺されてこい。」
「じゃあさっさと殺してくる。」
俺は走り始めた。
成る程、俺に向かってくる奴は全部あの明日が動きを止めてくれる。
遠距離攻撃というのはなかなか便利だな。
シンプルな能力ほど応用が利くから俺と違って複数契約しなくても戦えるのか。
以後、参考にするとしよう。
さて、俺が目指す対象はこの先に居る。
石段を踏み、鳥居を越えて、ついでに手を洗って先に進む。
丁度ピッタリお賽銭箱の所に彼女は居た。
「あ、マスター……やっと来た。」
髪はボサボサ、目は空ろ。
所々破れ欠けた服から黒い影みたいなものがしみ出ている。
「私、やっと自分が何なのか思い出したんですよ。」
そう言って、彼女は笑った。
その微笑みが徒に痛々しかった。
「ふふ、さっそく仕事だ正義の味方。善良な市民共を精々保護していろ。」
こいつは面白そうだ。
奴の正義の味方っぷりを堪能させてもらうのも悪くない。
「言われなくてもだよ。邪魔するなよ?」
「出来る限り頑張る。」
「あと、うちの黒服がお前に怒ってたぞ。」
「知ってる。」
「それじゃあさっさと殺されてこい。」
「じゃあさっさと殺してくる。」
俺は走り始めた。
成る程、俺に向かってくる奴は全部あの明日が動きを止めてくれる。
遠距離攻撃というのはなかなか便利だな。
シンプルな能力ほど応用が利くから俺と違って複数契約しなくても戦えるのか。
以後、参考にするとしよう。
さて、俺が目指す対象はこの先に居る。
石段を踏み、鳥居を越えて、ついでに手を洗って先に進む。
丁度ピッタリお賽銭箱の所に彼女は居た。
「あ、マスター……やっと来た。」
髪はボサボサ、目は空ろ。
所々破れ欠けた服から黒い影みたいなものがしみ出ている。
「私、やっと自分が何なのか思い出したんですよ。」
そう言って、彼女は笑った。
その微笑みが徒に痛々しかった。
「そうか、それは良かったな。」
精一杯の笑顔で俺はそれに応える。
駄目だ、ぎこちない。
笑う
駄目だ
笑う
駄目だ
「私ね、なんか居るだけ悲しい何かだったんですよ。」
「そうか……。」
「私としての私が居る限り、誰も幸福にはならないんですよ。
だからこれでさようならしませんか?」
「それを言ったら俺だって同じだよ。さよならには応じられないね。」
「いいや、マスターは誰かを幸福にしてますよ。
全員じゃなくても、少なくとも貴方は貴方を幸福にしている。」
「お前は違うのか?」
「私は……都市伝説として生きている事すら苦痛です。」
「俺と居たときは幸せじゃなかったか?」
「幸せでした。でも………。」
「でも?」
「私と契約していなかったら、マスターって別に組織に追われなかったですよね?
殺人鬼と呼ばれ、誰からも恐れられる事なんて無かったですよね?
貴方に助けて貰いながら私は貴方を不幸にしていましたよ。」
「別に?俺は小さい女のこを好き放題できるならそれで構わん。」
「それが高いリスクを払ってまで私である必要は無い。」
「リスクの無い人生など退屈だよ。」
「そんな口先だけの話をしているんじゃない。必然性がないんだよ、私と貴方の間に。」
「……そうか。」
必然性が無くても、否、無いからこそ彼女が目の前に居るのはきっと素敵な奇跡なのだ。
精一杯の笑顔で俺はそれに応える。
駄目だ、ぎこちない。
笑う
駄目だ
笑う
駄目だ
「私ね、なんか居るだけ悲しい何かだったんですよ。」
「そうか……。」
「私としての私が居る限り、誰も幸福にはならないんですよ。
だからこれでさようならしませんか?」
「それを言ったら俺だって同じだよ。さよならには応じられないね。」
「いいや、マスターは誰かを幸福にしてますよ。
全員じゃなくても、少なくとも貴方は貴方を幸福にしている。」
「お前は違うのか?」
「私は……都市伝説として生きている事すら苦痛です。」
「俺と居たときは幸せじゃなかったか?」
「幸せでした。でも………。」
「でも?」
「私と契約していなかったら、マスターって別に組織に追われなかったですよね?
殺人鬼と呼ばれ、誰からも恐れられる事なんて無かったですよね?
貴方に助けて貰いながら私は貴方を不幸にしていましたよ。」
「別に?俺は小さい女のこを好き放題できるならそれで構わん。」
「それが高いリスクを払ってまで私である必要は無い。」
「リスクの無い人生など退屈だよ。」
「そんな口先だけの話をしているんじゃない。必然性がないんだよ、私と貴方の間に。」
「……そうか。」
必然性が無くても、否、無いからこそ彼女が目の前に居るのはきっと素敵な奇跡なのだ。
「こんな夢を見ました。
マスターが口裂け女と契約していてすごくその子と相性が良いんですよ。
私なんかよりずっとずっと。
それ見てたらね、私なんて居ない方が良いじゃないかと思ったんです。
私が居ない方が……マスターも楽でしょう?」
やめろ、そんな顔を、“俺の味方”がそんな顔をするな。
マスターが口裂け女と契約していてすごくその子と相性が良いんですよ。
私なんかよりずっとずっと。
それ見てたらね、私なんて居ない方が良いじゃないかと思ったんです。
私が居ない方が……マスターも楽でしょう?」
やめろ、そんな顔を、“俺の味方”がそんな顔をするな。
「下らない問題じゃないか。否、問題ですらない。」
いつも通りのセリフを俺は吐く。
問題無い。
それだけで大抵の物事はさらっと片付くものだ。
いつも通りのセリフを俺は吐く。
問題無い。
それだけで大抵の物事はさらっと片付くものだ。
「いつもそう言うんですね。」
「ああ、だって問題なんて無いもの。」
「それは貴方がそう思っているだけでしょ?」
「そうだよ、だけどそれで十分だ。」
一歩ずつ、俺はメルに近づく。
「もうそろそろ離れないと危ないですよ。また私は暴れ始める。
マスターだって平気な顔して相当負担が来ているんじゃないですか?」
「でも止めなきゃいけないだろうが。」
まったく身体に負担は来ていない。
俺の器は暴走した彼女すら容易に受け止めてしまっているそうだ。
だからこそ、俺にはサンジェルマンの与えた解決方法以外にもう一つの解決方法が有った。
「貴方に、私を、止められるんですか?」
馬鹿にしたように笑いながらメルは俺に尋ねる。
きっと彼女の今までのマスターは簡単に飲まれたのだろう。
「簡単だよ。」
問題にならないくらい簡単だ、とさっきから言い続けていたのだが解ってくれないようだ。
「そう、すごく簡単な話だ。」
それを聞いたメルの瞳に希望の光が灯る。
「じゃあ私、やっと消えて無くなれるんですか?
誰かを飲み込んだり殺したりすることなく。」
そこまでして居なくなりたいか。
「ああ、お前は消えて無くなれるよ。全部俺の心の中に帰るんだ。」
「ああ、だって問題なんて無いもの。」
「それは貴方がそう思っているだけでしょ?」
「そうだよ、だけどそれで十分だ。」
一歩ずつ、俺はメルに近づく。
「もうそろそろ離れないと危ないですよ。また私は暴れ始める。
マスターだって平気な顔して相当負担が来ているんじゃないですか?」
「でも止めなきゃいけないだろうが。」
まったく身体に負担は来ていない。
俺の器は暴走した彼女すら容易に受け止めてしまっているそうだ。
だからこそ、俺にはサンジェルマンの与えた解決方法以外にもう一つの解決方法が有った。
「貴方に、私を、止められるんですか?」
馬鹿にしたように笑いながらメルは俺に尋ねる。
きっと彼女の今までのマスターは簡単に飲まれたのだろう。
「簡単だよ。」
問題にならないくらい簡単だ、とさっきから言い続けていたのだが解ってくれないようだ。
「そう、すごく簡単な話だ。」
それを聞いたメルの瞳に希望の光が灯る。
「じゃあ私、やっと消えて無くなれるんですか?
誰かを飲み込んだり殺したりすることなく。」
そこまでして居なくなりたいか。
「ああ、お前は消えて無くなれるよ。全部俺の心の中に帰るんだ。」
「じゃあ一思いにお願いしますよ。サンジェルマン伯爵にも迷惑かけちゃいましたし。
どうせ私に帰る場所なんてありません。」
メルは俺に向けてすがるように手を伸ばす。
ああ、あの時と、始めて会ったときと一緒だ。
俺が助けてやらないと駄目なんだ。
「まあお前が居なくなっても……、俺の心の中には残るよ。ずっとだ。」
「何を言ってるんですか?
貴方は私が期待した悪い人なんだから悪い人らしくして下さい。」
がっかりしたような声をあげるメル。
「そうだったな……。」
俺はその手をつかみ取ると彼女を抱きしめた。
ああ、軽いなあ。
すごく軽い。
「じゃあ悪人として哀れな都市伝説に命令させて貰おう。お前は俺の従順な僕として俺の傍に居ろ。」
「……それが無理なんじゃあないですか。」
「無理ならば力尽くでここに留め置く。」
「もう、また元に戻りますよ?」
彼女から染み出す影が一層濃くなる。
成る程、これが彼女の本体らしい。
「元に戻れば貴方は私に触れることさえ出来ない。
私以外の私は確かにサンジェルマンが殺し尽くしたかもしれないけれど……。
私はこのまま、ここを離れてまた増えて復活しますよ?」
「成る程、俺は触れられないだろうな。」
蜻蛉切を腰から抜き放つ。
「だけどこれならどうだよ。」
俺は蜻蛉切でメルごと自分を貫いた。
どうせ私に帰る場所なんてありません。」
メルは俺に向けてすがるように手を伸ばす。
ああ、あの時と、始めて会ったときと一緒だ。
俺が助けてやらないと駄目なんだ。
「まあお前が居なくなっても……、俺の心の中には残るよ。ずっとだ。」
「何を言ってるんですか?
貴方は私が期待した悪い人なんだから悪い人らしくして下さい。」
がっかりしたような声をあげるメル。
「そうだったな……。」
俺はその手をつかみ取ると彼女を抱きしめた。
ああ、軽いなあ。
すごく軽い。
「じゃあ悪人として哀れな都市伝説に命令させて貰おう。お前は俺の従順な僕として俺の傍に居ろ。」
「……それが無理なんじゃあないですか。」
「無理ならば力尽くでここに留め置く。」
「もう、また元に戻りますよ?」
彼女から染み出す影が一層濃くなる。
成る程、これが彼女の本体らしい。
「元に戻れば貴方は私に触れることさえ出来ない。
私以外の私は確かにサンジェルマンが殺し尽くしたかもしれないけれど……。
私はこのまま、ここを離れてまた増えて復活しますよ?」
「成る程、俺は触れられないだろうな。」
蜻蛉切を腰から抜き放つ。
「だけどこれならどうだよ。」
俺は蜻蛉切でメルごと自分を貫いた。
「――――――離れられない!?」
「蜻蛉切……村正の名前を持つこいつならば切れない物は無い。
鋼より固い身体も、雲のように消えていく影さえも。」
「この段になって都市伝説を進化させるなんて……。」
「良いね、新必殺技だ。」
「これじゃあまるっきり正義の味方じゃないですか。」
「下らないね、俺は正義の味方なんかじゃないよ。」
蜻蛉切で無理矢理繋がっているせいだろうか?
ハーメルンの笛吹きの中に眠るどす黒い感情が、記憶が流れ込んでくる。
どうあっても人を殺せと嵐のように叫んでいる彼ら。
それの命ずるままにハーメルンの笛吹きとして行動したメル達の記憶。
それが、そんなものが俺の愛する彼女を苦しめていたのか。
そんな理由も意味もない曖昧な感情が俺から大切な女性を奪っていこうとしたのか。
「メル……、一度俺に関わり合っておいて……。
お前の都合とか、そんな下らない物で……、俺から逃げられると思うな!
俺は絶対にお前を逃がさない。
ずっと傍に居ろ。
お前がお前の力に耐えられないならば俺が背負ってやる。
俺がお前の辛いことを幾らでも肩代わりしてやる。
だからここに居ろ!」
「う……………、ああ!やめて下さい、私はそんなこと言われるような……。」
「俺の決めたことに逆らうな!」
祈るように
「――――――ッ!」
彼女に届けと祈るように、彼女の頭部を殴る。
拳は鈍い音を立てて彼女の身体に突き刺さった。
「蜻蛉切……村正の名前を持つこいつならば切れない物は無い。
鋼より固い身体も、雲のように消えていく影さえも。」
「この段になって都市伝説を進化させるなんて……。」
「良いね、新必殺技だ。」
「これじゃあまるっきり正義の味方じゃないですか。」
「下らないね、俺は正義の味方なんかじゃないよ。」
蜻蛉切で無理矢理繋がっているせいだろうか?
ハーメルンの笛吹きの中に眠るどす黒い感情が、記憶が流れ込んでくる。
どうあっても人を殺せと嵐のように叫んでいる彼ら。
それの命ずるままにハーメルンの笛吹きとして行動したメル達の記憶。
それが、そんなものが俺の愛する彼女を苦しめていたのか。
そんな理由も意味もない曖昧な感情が俺から大切な女性を奪っていこうとしたのか。
「メル……、一度俺に関わり合っておいて……。
お前の都合とか、そんな下らない物で……、俺から逃げられると思うな!
俺は絶対にお前を逃がさない。
ずっと傍に居ろ。
お前がお前の力に耐えられないならば俺が背負ってやる。
俺がお前の辛いことを幾らでも肩代わりしてやる。
だからここに居ろ!」
「う……………、ああ!やめて下さい、私はそんなこと言われるような……。」
「俺の決めたことに逆らうな!」
祈るように
「――――――ッ!」
彼女に届けと祈るように、彼女の頭部を殴る。
拳は鈍い音を立てて彼女の身体に突き刺さった。
「お前が苦しんでいた理由も、お前が何をやったのかも今知った。」
流れ出てくる血の代わりに、メルと繋がる蜻蛉切の傷口から真っ黒い影が流れ込んでくる。
だがその程度で、俺の自己は無くならない。
たかだか千年、二千年積み上げられた悪意が俺という唯一の存在を染める事なんてできるだろうか?
いや、出来ない。
俺を変えたいのならばこの三倍は持ってこいというものだ。
「それを俺に渡せ。全部俺が使いこなして、使い潰してやる。」
激痛で顔を歪めているメル。
ああ、なんて可愛らしいんだろう。
「お前は無能で良い、今以上に無能で居ることをこの俺が許可しよう。
だからここに居ろ、俺無しでは何も出来ないくらい弱くて良い。俺は一人で何でも出来るんだから。
役に立たなくて良い。
そんなお前でも俺は大好きだ。どんなお前でも、俺だけがお前の居場所になってやる。」
痛みによってだろうか、いや、きっと違うな、俺の腕の中でメルは大泣きに泣いていた。
最初から俺に頼れば良いのだ、馬鹿野郎。
影が全部俺の身体に入り込んだのを確認すると、俺は蜻蛉切を引き抜いてメルを抱え、神社から離れることにした。
流れ出てくる血の代わりに、メルと繋がる蜻蛉切の傷口から真っ黒い影が流れ込んでくる。
だがその程度で、俺の自己は無くならない。
たかだか千年、二千年積み上げられた悪意が俺という唯一の存在を染める事なんてできるだろうか?
いや、出来ない。
俺を変えたいのならばこの三倍は持ってこいというものだ。
「それを俺に渡せ。全部俺が使いこなして、使い潰してやる。」
激痛で顔を歪めているメル。
ああ、なんて可愛らしいんだろう。
「お前は無能で良い、今以上に無能で居ることをこの俺が許可しよう。
だからここに居ろ、俺無しでは何も出来ないくらい弱くて良い。俺は一人で何でも出来るんだから。
役に立たなくて良い。
そんなお前でも俺は大好きだ。どんなお前でも、俺だけがお前の居場所になってやる。」
痛みによってだろうか、いや、きっと違うな、俺の腕の中でメルは大泣きに泣いていた。
最初から俺に頼れば良いのだ、馬鹿野郎。
影が全部俺の身体に入り込んだのを確認すると、俺は蜻蛉切を引き抜いてメルを抱え、神社から離れることにした。
【上田明也の協奏曲15~極楽鳥が舞う野には~fin】
さて、一方その頃。
「……何時になったら出られるんでしょう。」
サンジェルマン伯爵は地面の中で大分暇していた。
「あ゛ー!もう!Hさん!ちょっとたすけてこれ!!
引き受けさせられたけどこれは俺の仕事じゃねえ!
適材適所って言うだろうがチクショーめえ!!」
明日真は黒服Hに助けを求めていた。
【上田明也の協奏曲 続】
「……何時になったら出られるんでしょう。」
サンジェルマン伯爵は地面の中で大分暇していた。
「あ゛ー!もう!Hさん!ちょっとたすけてこれ!!
引き受けさせられたけどこれは俺の仕事じゃねえ!
適材適所って言うだろうがチクショーめえ!!」
明日真は黒服Hに助けを求めていた。
【上田明也の協奏曲 続】