街並みが一望できる高台に青年と少女が佇んでいた。
木の柵に手を下ろし、ぼんやりと下界を見る青年と、欠伸を噛み殺しながら空を見上げる少女。
傍から見ると、緊張感など皆無に見えるが、彼らの内面に渦巻く感情はそんな一言で片付けられるものではなかった。
木の柵に手を下ろし、ぼんやりと下界を見る青年と、欠伸を噛み殺しながら空を見上げる少女。
傍から見ると、緊張感など皆無に見えるが、彼らの内面に渦巻く感情はそんな一言で片付けられるものではなかった。
「なぁ、アーチャー。俺さ、譲れない願いがあるんだ」
青年――スタンは誰よりも強くなりたかった。
どうしようもなく弱い自分に嫌気が差して、膝を抱えて俯いて。
それでも、なお――手を伸ばした。
大切な人を、アリーザを護れる強さを掴む為に、スタンは剣を握った。
いつの時か来る危難に立ち向かえるように。
どうしようもなく弱い自分に嫌気が差して、膝を抱えて俯いて。
それでも、なお――手を伸ばした。
大切な人を、アリーザを護れる強さを掴む為に、スタンは剣を握った。
いつの時か来る危難に立ち向かえるように。
「ふーん、それで? そもそも、聖杯戦争に参加してるんだしそんなの当たり前だと思うけど?」
「茶化すなよ。最後までちゃんと話すさ、ゆっくり聞いてくれよ」
「茶化すなよ。最後までちゃんと話すさ、ゆっくり聞いてくれよ」
弱々しい自分と違い武道の才があるのか、アリーザは自分より強い。
きっと、自分の助けなど必要ない程に遥か上の領域にいるだろう。
其処に、スタンがいる意味はあるのか? スタンでなくともいいのではないか?
心の片隅に黒い淀みが生まれ、甘い声で囁かれた一言が耳に響く。
きっと、自分の助けなど必要ない程に遥か上の領域にいるだろう。
其処に、スタンがいる意味はあるのか? スタンでなくともいいのではないか?
心の片隅に黒い淀みが生まれ、甘い声で囁かれた一言が耳に響く。
意味などない、と。
否、否だと叫びたかった。
きっと、自分にできることがあるはずだとスタンは迷いを振り切った。
未熟なれど、彼女の為にスタンが横に仕える意味が、あると信じていた。
いざという時には壁役として彼女を命を懸けてお護りできれば本望だ。
きっと、自分にできることがあるはずだとスタンは迷いを振り切った。
未熟なれど、彼女の為にスタンが横に仕える意味が、あると信じていた。
いざという時には壁役として彼女を命を懸けてお護りできれば本望だ。
「……その口ぶりからすると、護れなかったんだ」
「あぁ。俺は何も出来なかった。星晶獣っつー化物に攫われるお嬢様を前に――俺は何一つできなかった」
「あぁ。俺は何も出来なかった。星晶獣っつー化物に攫われるお嬢様を前に――俺は何一つできなかった」
そんな矢先に、アリーザが星晶獣に連れ去られる事件が発生した。
星晶獣は人間の枠組みからすると、立ち向かえない災害のようで。
スタンにとっては相対するだけでも恐怖心が煽られ、一歩も動けないレベルにまで身体が固まるものだった。
結局、スタンは護れなかった。
剣を取り、戦うことすら敵わず、主である少女を星晶獣に連れ去られてしまう。
星晶獣は人間の枠組みからすると、立ち向かえない災害のようで。
スタンにとっては相対するだけでも恐怖心が煽られ、一歩も動けないレベルにまで身体が固まるものだった。
結局、スタンは護れなかった。
剣を取り、戦うことすら敵わず、主である少女を星晶獣に連れ去られてしまう。
「何が目的かは知らないけど、アリーザはもう……」
残されたスタンにできることなんてなかった。
取り戻す? 自分一人で星晶獣を倒してアリーザを救出するなど無理に決まっている。
諦める? それこそ、論外だ。連れ去られた彼女を忘れ、引き篭もっているなどまっぴらゴメンだ。
取り戻す? 自分一人で星晶獣を倒してアリーザを救出するなど無理に決まっている。
諦める? それこそ、論外だ。連れ去られた彼女を忘れ、引き篭もっているなどまっぴらゴメンだ。
「そんな時だったんだ。俺を呼ぶ声が聞こえてさ。その声に誘われるがままにふらふら前に進んだら――此処にいた」
「随分と大雑把ね」
「仕方ないだろ、俺だってまだ何が何だかわかってないんだ。聖杯戦争、ルールは叩き込まれているけどさ。
俺は自分の願いの為に誰かを蹴落とすつもりなんて、なかった」
「随分と大雑把ね」
「仕方ないだろ、俺だってまだ何が何だかわかってないんだ。聖杯戦争、ルールは叩き込まれているけどさ。
俺は自分の願いの為に誰かを蹴落とすつもりなんて、なかった」
スタンは悲しげに笑い、これから始まる戦いに身震いする。
正真正銘の殺し合い。星晶獣討伐ならまだしも、この聖杯戦争は人の倫理観に大きく食い込んでくる。
正真正銘の殺し合い。星晶獣討伐ならまだしも、この聖杯戦争は人の倫理観に大きく食い込んでくる。
「でもさ、俺は戦うよ」
弱々しげながらもどこか強い決意を秘めた双眸を、此処で初めて少女――アーチャーへと向ける。
数秒間、世界が止まる。互いに何も言わず、ただただ視線を交わし合う。
数秒間、世界が止まる。互いに何も言わず、ただただ視線を交わし合う。
「つまり、マスターさんが願うのは、強くなりたいってこと?」
「…………違う。それは、駄目なんだ。きっと、俺が強くなったとしても……アリーザを護れるとは思えない」
「…………違う。それは、駄目なんだ。きっと、俺が強くなったとしても……アリーザを護れるとは思えない」
訝しげに問いかけるアーチャーに、スタンは表情を変えず淡々と自分の思いを告げる。
「いくら強くなった所で、俺にはその資格が無いよ。どれだけ強くなろうとも、俺の性根は弱いままだと思うから」
「そういうものなのかなぁ」
「そうさ。俺なんかじゃない、もっと強い奴がアリーザの傍にいるべきだった」
「そういうものなのかなぁ」
「そうさ。俺なんかじゃない、もっと強い奴がアリーザの傍にいるべきだった」
御伽話に出てくる勇者様ならば。誰かを思いやれて、迷いなく前へと進める者ならば。
きっと、彼女の道を照らしてくれると思うから。
きっと、彼女の道を照らしてくれると思うから。
「だから、やり直したい。俺ではない誰かが、お嬢様を護れるぐらい強い誰かが、その御身を支えてくれたら、いいなって」
ならば、自分は最後の奉公を勤め上げよう。
その願いが達成されるまで、何度も迷って後悔するかもしれないが、今度こそ前へと進みたい。
その願いが達成されるまで、何度も迷って後悔するかもしれないが、今度こそ前へと進みたい。
「それが――俺にできる最後の役目だ」
「…………んー、マスターさんの願い事はわかったけどさ。一つだけ言いたいこと、言っていいかな?」
「何だよ? 今更後戻りして逃げろとでも言いたいのか」
「…………んー、マスターさんの願い事はわかったけどさ。一つだけ言いたいこと、言っていいかな?」
「何だよ? 今更後戻りして逃げろとでも言いたいのか」
もしも、アーチャーがこの願いを否定するならば、令呪を以ってしてでも従わせる。
スタンは刻まれた令呪に力を込めて、いつでも発動できるように頭を切り替えた。
スタンは刻まれた令呪に力を込めて、いつでも発動できるように頭を切り替えた。
「その願いを遂げた後、マスターさんはどうする訳? 最初から自分のことを諦めてるって感じだけどさ」
しかし、アーチャーの口から飛び出した言葉は予想外にも【終わった後】のことだった。
素っ気ない素振りからして、自分のことを魔力補給の為の肉人形程度にしか思ってないと想定していたスタンにとってその質問は目を丸くせざるを得ない。
素っ気ない素振りからして、自分のことを魔力補給の為の肉人形程度にしか思ってないと想定していたスタンにとってその質問は目を丸くせざるを得ない。
「そういうの、私嫌いなんだよね。やり直したいのは結構。私もその点に関しては同じだから。
過去の戦で喪った総てを今度こそ護る。当時は未熟者だったからさ、護ろうとしたモノ……全部失くして、私も死んでさ」
過去の戦で喪った総てを今度こそ護る。当時は未熟者だったからさ、護ろうとしたモノ……全部失くして、私も死んでさ」
滑った口から吐き出されるのはスタンと同じくやり直しに直結した後悔だ。
世界を二分する大戦にて次々と【轟沈】していく先輩に、姉。
深い海の底へと消えた彼女達の分まで、自分が戦おうと生前の彼女は誓う。
一心不乱の修練を積み、護国を成さんとし、自分もまた沈む瞬間まで戦い続けた。
世界を二分する大戦にて次々と【轟沈】していく先輩に、姉。
深い海の底へと消えた彼女達の分まで、自分が戦おうと生前の彼女は誓う。
一心不乱の修練を積み、護国を成さんとし、自分もまた沈む瞬間まで戦い続けた。
「まぁ、負けちゃったことはどうしようもないし、どんなに後悔しても結果は覆らない。
そんな理屈、絶対に認めてたまるものか」
そんな理屈、絶対に認めてたまるものか」
沈む最中、彼女は――【艦娘】として変遷し、願う。
「奇跡を起こさない限り、世界は揺るがない。ならば、その機会を寄越せってね」
陰鬱な過去をやり直す機会が得れるなら、自分は何にだって尻尾を振ろう。
魂さえも質にかけよう。
されど、この原初の願いだけは誰にも穢させない。
魂さえも質にかけよう。
されど、この原初の願いだけは誰にも穢させない。
「私は奇跡を奪いに往くわ。自らの終わりも含めて、やり直す。当然、自分の幸福も兼ねた願いってことってね」
そして、怨念とも呼べる魂の叫びを、聖なる杯が聞き届けた。
聖杯戦争には、自分を含めて幸せになる願いが現実になる可能性が秘められている。
彼女にとってそれだけで戦うに値する。
聖杯戦争には、自分を含めて幸せになる願いが現実になる可能性が秘められている。
彼女にとってそれだけで戦うに値する。
「だから、マスターさんも最後とか言うのはやめて欲しい。というか、諦めるな!
そういう勝手に手放して諦めるの、すっごいムカつくんだからね!」
そういう勝手に手放して諦めるの、すっごいムカつくんだからね!」
故に、マスターとして充てがわれたスタンが、自分の幸福を度外視していることにすごく腹が立った。
聖杯は万能であり、矮小なものではない。
勝手に自分の願いを狭めて、孤独に消えるクソッタレな態度を彼女は許さない。
どうせ、貫くならどこまでも。
そう、【鶴翼】が羽撃ける遥か彼方まで。
彼女の名は【瑞鶴】。意地とプライドを糧に轟沈する終ぞの時まで咆哮を上げた空母である。
聖杯は万能であり、矮小なものではない。
勝手に自分の願いを狭めて、孤独に消えるクソッタレな態度を彼女は許さない。
どうせ、貫くならどこまでも。
そう、【鶴翼】が羽撃ける遥か彼方まで。
彼女の名は【瑞鶴】。意地とプライドを糧に轟沈する終ぞの時まで咆哮を上げた空母である。
「宣誓する。此度の戦、我が真名において、マスターさんにも幸運を運ぶことを約束するわ」
さぁ。奇跡を以って、軌跡を消しにいこう。
【クラス】
アーチャー
アーチャー
【真名】
瑞鶴@艦隊これくしょん
瑞鶴@艦隊これくしょん
【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力E 幸運A 宝具C
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力E 幸運A 宝具C
【属性】
秩序・中庸
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
神秘度の低い近代の軍艦ゆえ最低限の対魔力しか保有していない。魔除けの護符程度。
対魔力:E
神秘度の低い近代の軍艦ゆえ最低限の対魔力しか保有していない。魔除けの護符程度。
単独行動:B
マスターを失っても数日間は現界可能。
マスターを失っても数日間は現界可能。
【保有スキル】
水上戦闘:B
元が軍艦の英霊のため水上での戦闘にステータスの上方修正が加わる。
水上戦闘:B
元が軍艦の英霊のため水上での戦闘にステータスの上方修正が加わる。
最後の生き残り:C
彼女は真珠湾攻撃に参加した空母の中でも最後の生き残りであり、幾多もの戦を潜り抜けてきた。
その異名から、戦闘続行に関しては高いスキルを持ち、致命傷を負わない限りは戦い続けることができるだろう。
彼女は真珠湾攻撃に参加した空母の中でも最後の生き残りであり、幾多もの戦を潜り抜けてきた。
その異名から、戦闘続行に関しては高いスキルを持ち、致命傷を負わない限りは戦い続けることができるだろう。
幸運:B
常に最前線を転戦し続けながらも、生き残り続けた逸話が由来のスキル。
彼女の幸運は誰かの幸運を吸い取ったものなのか、それとも本来持つものなのか。
常に最前線を転戦し続けながらも、生き残り続けた逸話が由来のスキル。
彼女の幸運は誰かの幸運を吸い取ったものなのか、それとも本来持つものなのか。
【宝具】
『鶴翼の一撃』
ランク:E 種別:対艦宝具 レンジ:1~60 最大捕捉:6
搭載した艦載機でアウトレンジ戦法を取り、敵を討つ。
それは一方的に相手を攻撃できるメリットの代わりに艦載機の消耗が激しくなるデメリットを抱えた諸刃の剣であった。
『鶴翼の一撃』
ランク:E 種別:対艦宝具 レンジ:1~60 最大捕捉:6
搭載した艦載機でアウトレンジ戦法を取り、敵を討つ。
それは一方的に相手を攻撃できるメリットの代わりに艦載機の消耗が激しくなるデメリットを抱えた諸刃の剣であった。
『鶴翼の絆』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
度重なる戦で傷ついた瑞鶴が、更なる飛躍を遂げる為に近代化改修をした姿。
マスターと瑞鶴の想いが重なった時、その真価を発揮する。
迷彩柄により、相手からの認識がされにくくなるスキルが加算され、ステータスも上方修正される。
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
度重なる戦で傷ついた瑞鶴が、更なる飛躍を遂げる為に近代化改修をした姿。
マスターと瑞鶴の想いが重なった時、その真価を発揮する。
迷彩柄により、相手からの認識がされにくくなるスキルが加算され、ステータスも上方修正される。
【weapon】
艦載機
艦載機
【人物背景】
かつて、世界を二分する戦があった。
軍艦であった瑞鶴は、どのような苦境であっても戦い続けた。
その身が朽ち果てる終ぞの時まで。
敗北を知った彼女は願う。
やり直したい。姉や先輩を護れる強さを身に付けた今なら、奇跡を獲れると信じて。
かつて、世界を二分する戦があった。
軍艦であった瑞鶴は、どのような苦境であっても戦い続けた。
その身が朽ち果てる終ぞの時まで。
敗北を知った彼女は願う。
やり直したい。姉や先輩を護れる強さを身に付けた今なら、奇跡を獲れると信じて。
【サーヴァントとしての願い】
過去の敗戦をやり直したい。
過去の敗戦をやり直したい。
マスター】
スタン@グランブルーファンタジー
スタン@グランブルーファンタジー
【マスターとしての願い】
アリーザを護れる強さを持つ誰かが、彼女を幸せにしてくれることを望む。
アリーザを護れる強さを持つ誰かが、彼女を幸せにしてくれることを望む。
【weapon】
剣。
剣。
【能力・技能】
剣技。未熟なれど、伸びしろはある。
剣技。未熟なれど、伸びしろはある。
【人物背景】
バルツ公国のとある良家でアリーザの護衛を務める少年。
大言壮語を吐く割に尻すぼみになる性格であり、優柔不断で決定力に欠けるヘタレ。
感情の振れ幅が大きく、よく半泣きになる。
お家騒動に巻き込まれるアリーザの力になりたいとは思っているが、あくまで使用人の自分は一歩引いた立場でいるべきなのではないかと悩んでいる。
バルツ公国のとある良家でアリーザの護衛を務める少年。
大言壮語を吐く割に尻すぼみになる性格であり、優柔不断で決定力に欠けるヘタレ。
感情の振れ幅が大きく、よく半泣きになる。
お家騒動に巻き込まれるアリーザの力になりたいとは思っているが、あくまで使用人の自分は一歩引いた立場でいるべきなのではないかと悩んでいる。
【方針】
迷いはあるが、負けられない。
一人の幸福の為に、不特定多数の幸福を奪う覚悟。
迷いはあるが、負けられない。
一人の幸福の為に、不特定多数の幸福を奪う覚悟。
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アーチャー(瑞鶴) |